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n(> 2) 周期軌道のベキ的軌道不安定性と マルティフラクタル構造の関係 本池 巧、有光 敏彦 A 湘北短期大学 情報メディア学科、 筑波大学大学院 数理物質科学研究科 A 目的 乱流モデルとして、渦のカスケードの考え方を基本に渦のエネル ギー散逸率がどのように分布するかによって様々なモデルが提案さ れている。Arimitsu-Arimitsu モデル [1,2,3] は、渦のエネルギー散逸 率の特異性 α の確率分布 P (n) (α) を、 P (n) (α)= 1 Z (n) α 1 (α α 0 ) 2 α) 2 n/(1q) (1) というマルティフラクタル分布を仮定したものである。この確率分 布を特徴付ける三つのパラメータ α 0 Δα および q は、エネルギー保 存則、間欠性指数 μ とスケーリング則 1 1 q = 1 α 1 α + (2) によって与えられる。ただし、α ± f (α ± )α + を満たす。 マルティフラクタル解析を行う際にレベル n では空間は δ n 個の小 箱に分割されると考えるが、A-A モデルでは、速度構造関数などの 物理量に δ があらわに入るという問題がある(実際には、 δ 依存性は q に押し込めることができるため、分割の仕方による影響はない)。 空間の分割方法の依存性は、(2) 式のスケーリング則と密接に関連 している。本研究は、スケーリング則を再度検証し、空間の分割方 法にうよる依存性がなぜ現れるのか、どのようにすれば依存しない 定式化が可能であるかについて考察する。 1

2) 周期軌道のベキ的軌道不安定性と マルティフラクタル構造の ...liberty.cc.kyushu-u.ac.jp/CoupledAnalysis/mrit/slides/P... · 2008-03-11 · 1Lyraのスケーリング則

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  • n(> 2)∞周期軌道のベキ的軌道不安定性とマルティフラクタル構造の関係

    本池 巧、有光 敏彦A

    湘北短期大学 情報メディア学科、筑波大学大学院 数理物質科学研究科 A

    目的

    乱流モデルとして、渦のカスケードの考え方を基本に渦のエネルギー散逸率がどのように分布するかによって様々なモデルが提案されている。Arimitsu-Arimitsuモデル [1,2,3]は、渦のエネルギー散逸率の特異性αの確率分布P (n)(α)を、

    P (n)(α) =1

    Z(n)α

    ⎡⎣1 − (α − α0)

    2

    (Δα)2

    ⎤⎦n/(1−q) (1)

    というマルティフラクタル分布を仮定したものである。この確率分布を特徴付ける三つのパラメータα0、Δαおよび qは、エネルギー保存則、間欠性指数μとスケーリング則

    1

    1 − q =1

    α−− 1

    α+(2)

    によって与えられる。ただし、α±は f(α±)、α− < α+を満たす。マルティフラクタル解析を行う際にレベルnでは空間は δn 個の小箱に分割されると考えるが、A-Aモデルでは、速度構造関数などの物理量に δ があらわに入るという問題がある(実際には、δ依存性はqに押し込めることができるため、分割の仕方による影響はない)。空間の分割方法の依存性は、(2)式のスケーリング則と密接に関連している。本研究は、スケーリング則を再度検証し、空間の分割方法にうよる依存性がなぜ現れるのか、どのようにすれば依存しない定式化が可能であるかについて考察する。

    1

  • 1 Lyraのスケーリング則1次元力学系の軌道は、時間発展を軌道からのずれ δx(t)の 1次によって dδx(t)

    dt=

    λ1δx(t)と特徴づけられる。この場合、δx(t)は Lyapunov指数 λ1 > 0ならば指数的に増大し、λ1 < 0ならば指数的に減少する。しかし、分岐点のように λ1 = 0 の場合、

    dδx(t)

    dt= λq[δx(t)]

    q (3)

    と時間発展する。この解は

    δx(t) = [1 + (1 − q)λqt]1/(1−q) (4)

    で与えられ、δx(t)はベキ的に増大または減少する。ベキ的な振る舞いを持つ場合、アトラクタはマルティフラクタル的な構造を持つことが多く、Lyraら [4,5]は 1次元写像 f(x) = 1−μ|x|zを用いて、不安定指数 qとアトラクタの特性スペクトルの構造との間に以下の関係式が成立することをしめした:

    1

    1 − q =1

    αmin− 1

    αmax(5)

    ただし、αminおよび αmaxはアトラクタに内在する特異性αの最小値および最大値である。

    Lyraの特異性 αと不安定性指数 qの関係式 (5)は、図に示すように、B個の軌道上の点を考えた時、一番密な領域(間隔 �+∞~B−1/αmin)がB時間ステップかかって、一番疎な領域(間隔 �−∞~B−1/αmax)に至ると仮定して得られた式である。

    B個の軌道上の点

    Bステップ程度の時間発展

    x一番疎な領域 一番密な領域

    + ∞−∞ ~B − 1/ αmin~B − 1/αmax

    いかに、216周期軌道での結果を示す。

    1 10 100 1000 104

    2

    4

    6

    8

    10

    12

    14

    δxn

    =1.31297

    =1.31469

    δx0

    n

    11−q

    1 − 1

    周期軌道近傍の拡大率 特異性スペクトル

    0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.80.0

    0.1

    0.2

    0.3

    0.4

    0.5

    0.6

    α

    =0.378527 =0.752437

    f(α)

    αmin

    αmin

    αmax

    αmax

    一致している

    ln

    2

  • 2 2n周期軌道の構造2n周期軌道な以下に示すフラクタル構造を持つ。

    - 0.4 - 0.2 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0

    2n周期軌道のフラクタル構造

    0.80 0.85 0.90 0.95 1.00

    0.8

    拡大

    0.95 拡大

    0.97 0.98 0.99 1.00

    12

    132 4

    153 72 6 48

    Feigenbaum アトラクタの階層構造と軌道の番号(一番値の大きいものを先頭にする)

    マルティフラクタルレベル 1

    マルティフラクタルレベル 2

    マルティフラクタルレベル 3

    軌道の順番との関係を考えると、マルティフラクタルレベルnでは、xiと xi+2n−1を結ぶ線 si(i = 1, · · ·2n−1)でアトラクタをカバーすることができる。その中で一番長さの長い線分は、x2n−1と x2n を結ぶ s2n−1で、nに関して、

    �nmax = |s2n−1 | ∼ 1/αF n (6)

    とスケールされる。ただし、αF は Feigenbaum普遍スケーリング定数。一番長さの短い線分は、x1と x2n−1+1を結ぶ s1で、nに関して、

    �nmin = |s1| ∼ 1/(αF )zn (7)

    とスケールされる。つまり、一番小さい線分は 2n − 1ステップだけ時間発展すると一番長い線分にたどり着く。各線分には、軌道上の点が二つ含まれるため、

    αmax =ln 2

    ln αF, αmin =

    ln 2

    z ln αF(8)

    となり、したがって、

    1

    1 − q =1

    αmin− 1

    αmax= (z − 1)lnαF

    ln 2(9)

    となる。Lyraらは様々な zについて(9)式が成立していることを確認している。

    3

  • 3 周期n倍分岐カスケード単峰写像では、n > 2の場合でも、n周期、n2周期、n3周期 · · ·という一連の周

    期軌道が存在する。これらの周期軌道は周期倍分岐と違って、分岐によって連なって現れないが、周期倍分岐と同様にn Scale Cantor Set と同様なフラクタル構造を持っている。以下に Logistic写像 (z = 2)での 3k周期軌道の分岐図上の位置を示す。

    0.0 0.5 1.0 1.5 2.0

    −1.0

    −0.5

    0.0

    0.5

    1.0

    1.7858 1.7860 1.7862 1.7864 1.7866−0.15

    −0.10

    −0.05

    0.00

    0.05

    0.10

    0.15

    1.74 1.75 1.76 1.77 1.78 1.79 1.80

    −0.5

    0.0

    0.5

    1.0

    Logistic 写像での 3k 周期軌道3周期サドルノード分岐

    9周期サドルノード分岐

    27 周期サドルノード分岐

    4

  • 4 n Scale Cantor Set

    n∞周期軌道は、以下の図のように、nのベキが一つ増えると枝の数がn倍になる枝分かれをする。

    n 本の枝

    n本の枝n本の枝

    n 周期軌道 n2 周期軌道 n3 周期軌道

    n∞周期軌道はこのような分岐の極限として存在するので、そこにはn、n2, n3,· · ·の枝分かれ構造が内在している。これをみるためには、軌道の先頭から、n、n2, n3,· · ·個の軌道上の点を抽出し

    ていくと、n Scale Cantor Setの構造が見えてくる .

    マルティフラクタルレベル1

    n個の点

    マルティフラクタルレベル 2

    n2 個の点

    マルティフラクタルレベル 3

    n3 個の点

    n Scale Cantor Setは、乱流モデルにおいて、一つの渦が n個の渦に分かれるカスケードのダイナミクスに相当していると考えられる。したがって、n∞周期軌道においてマルティフラクタル構造とベキ的不安定性の関連性は、乱流モデルでのスケーリング則の解析の際に大きな手がかりとなると考えられる。

    5

  • 5 周期3倍分岐カスケード3n周期軌道のフラクタル構造は 3 Scale Cantor Setと同等な構造を持つ。

    132

    1742 3968 5

    3n 周期軌道の階層構造と軌道の番号(一番値の大きいものを先頭にする)

    マルティフラクタルレベル 1

    マルティフラクタルレベル 2

    軌道の順番との関係を考えると、マルティフラクタルレベルnでは、xiと xi+3n−1を結ぶ線 si(i = 1, · · · 3n−1でアトラクタをカバーすることができる。ただし、この場合は siの内部にもう一つの周期軌道の点xi+2·3n−1が含まれる。その中で一番長さの長い線分は、x3n−1 と x3n を結ぶ s3n−1で、nに関して、

    �nmax  = |s3n−1| ∼ 1/(9.277346)n (10)

    とスケールされ、一番長さの短い線分は、x1と x3n−1+1を結ぶ s1で、nに関して、

    �nmin = |s1| ∼ 1/(86.0691)n (11)

    とスケールされる。

    傾き=−9.2773463

    一番間隔の広い線分の幅のスケーリング 一番間隔の狭い線分の幅のスケーリング

    マルティフラクタルレベル n

    傾き=−86.069144

    マルティフラクタルレベル n

    0 2 4 6 8 10 1210−21

    10−17

    10−13

    10−9

    10−5

    0.1

    0 2 4 6 8 10 12

    10−10

    10−8

    10−6

    10−4

    0.01

    1

    各線分には、軌道上の点が三つ含まれるため、

    αmax =ln 3

    ln 9.277346= 0.4931874, αmin =

    ln 3

    ln 86.06914= 0.2465935 (12)

    となる。ここから求めた 1/(1− q) = 2.0273は、実際の軌道の時間発展から求めた値 2.0244とよく一致している。

    1 10 100 1000 104 105

    5

    10

    15

    20

    25

    δxn

    =2.0244

    δx0

    n

    11−q

    周期軌道近傍の拡大率

    ln

    6

  • 6 周期4倍分岐カスケード4n周期軌道のフラクタル構造は 4 Scale Cantor Setと同等な構造を持つ。

    13 42

    19 1353 11 7152 4 816 1214 10 6

    4n 周期軌道の階層構造と軌道の番号(一番値の大きいものを先頭にする)

    マルティフラクタルレベル 1

    マルティフラクタルレベル 2

    軌道の順番との関係を考えると、マルティフラクタルレベルnでは、xiと xi+4n−1を結ぶ線 si(i = 1, · · ·4n−1)でアトラクタをカバーすることができる。ただし、この場合は siの内部にもう一つの周期軌道の点xi+2·3n−1が含まれる。その中で一番長さの長い線分は、x4n−1 と x4n を結ぶ s4n−1で、nに関して、

    �nmax  = |s4n−1| ∼ 1/(38.81907)n (13)

    とスケールされ、一番長さの短い線分は、x1と x4n−1+1を結ぶ s1で、nに関して、

    �nmin = |s1| ∼ 1/(1506.921)n (14)

    とスケールされる。

    2 4 6 8

    10−10

    10−8

    10−6

    10−4

    0.01

    1

    2 4 6 8

    10−20

    10−15

    10−10

    10−5

    1

    傾き=−38.8190741

    一番間隔の広い線分の幅のスケーリング 一番間隔の狭い線分の幅のスケーリング

    マルティフラクタルレベル n

    傾き=−1506.92052

    マルティフラクタルレベル n

    各線分には、軌道上の点が四つ含まれるため、

    αmax =ln 4

    ln 38.81907= 0.378882, αmin =

    ln 4

    ln 1506.921= 0.189441 (15)

    となる。ここから求めた 1/(1− q) = 2.6393は、実際の軌道の時間発展から求めた値 2.6376とよく一致している。

    1 10 100 1000 104 105

    5

    10

    15

    20

    25

    30

    35

    δxn

    =2.6376

    δx0

    11−q

    周期軌道近傍の拡大率

    n

    ln

    7

  • 7 3nおよび4n周期軌道での結果

    • n(> 2)∞周期軌道はn Scale Cantor Setと同等なマルティフラクタル構造を持つ。

    • n(> 2)∞周期軌道の場合でも、Lyraのスケーリングの公式が成立する

    • 今回の解析では、最適の分割方法でαmaxおよびαminを求めたが、均等に 2n分割するなどのそれ以外の分割方法でもだいたい同じ値が得られる。

    • 不安定性のスケーリング指数については、揺らぎが大きいため最適なサンプリング間隔で求めないと正しい値が求まらない . nのベキとずれた間隔でサンプリングした場合、 nのベキ的な振る舞いが全く観測されない。

    10 100 1000 104 105

    5

    10

    15

    20

    25

    2n 周期軌道を 3n の間隔でサンプリングした場合の拡大率

    10 100 1000 104 105

    5

    10

    15

    20

    25

    2n 周期軌道を 2n の間隔でサンプリングした場合の拡大率

    δxnδx0

    δxnδx0

    n n

    ln ln

    8

  • 8 Lyraの公式のA-Aモデルへの適応乱流中の渦を仮想的な粒子のクラスターと見なす。簡単のため 1次元の渦を考え

    ることにする。サイズ �0の渦において、カスケードが n回すすんだ状況での粒子の数をBnとする。この渦を大きさ �n = �0δ−nの小箱(δ > 1)で覆ったとすると、

    Bn =1

    δ−n

    ∫dαP (α)Bn(α) (16)

    で与えられる。ただし、Bn(α) = (δ−n)αBnは、αというスケーリングを持つ小箱の中の粒子数で、P (α)は αの分布。

    0

    n

    Bn個の粒子

    Bn =

    (�n

    �n(α)

    )α(17)

    α小箱内の粒子の平均距離 �n(α)を定義すると、

    1

    Bn=

    (�n(α)

    �0

    )α(18)

    f(α) = 0の解 α±(α− < α+)に対応する �n(α)が粒子の最大・最小の平均距離を与えるので、一番狭い間隔と一番広い間隔の比を求めると、

    �n(α+)

    �n(α−)= B1/α−−1/α+n (19)

    となる。粒子間隔の時間発展は、Bnの増分を時間の増分とみなすと、(18)式をBnについて微分した式で与えられる。

    d

    dBn

    (�0

    �n(α)

    )=

    1

    α

    (�0

    �n(α)

    )1−α(20)

    9

  • �0�n(α)

    の時間発展は長時間では αに依存せず、Bnのみに依存すると考え、�(α) →�(Bn)、α → 1 − qとして (20)式を解くと、

    �0�(Bn)

    = (const. + Bn)1

    1−q (21)

    ここで、n∞周期軌道での状況と対比させて考えると、以下の図のように 粒子数Bnで、各粒子に対サイズ �n(α)のボックスを割り当てることは、n∞周期軌道のスケーリングを観測するための最適な区間分割方法に対応する。 

    n(α ) n(α )−+

    B - ステップΔ

    従って、次のマルティフラクタルレベルでは、新たに発生した粒子はこの箱の中に収まることになる。ΔBステップかけて一番狭い間隔の箱が一番広い間隔の箱に時間発展したと考えると

    ΔB1/(1−q) ∼ B(1/α−−1/α+)n (22)

    ΔBは乱流の速度場で決まるもので、伝統的には 2nとなる。一方、Bnはデータのサンプリング方法によって決まるもので、Bn ∼ δnである。(22)式より、

    1

    1 − q =ln δ

    ln 2

    (1

    α−− 1

    α+

    )(23)

    が成り立つ。通常、δ = 2でサンプリングすることが多いため、この場合は、 Lyraのスケー

    リング則 (5)式と同じ関係式となる。

    10

  • 9 まとめ

    • 乱流の速度場をサンプリング間隔δnで観測する場合、マルティフラクタル解析で使用するスケーリング則は以下のように修正しなければならない。

    1

    1 − q =ln δ

    ln 2

    ⎛⎝ 1α−

    − 1α+

    ⎞⎠

    • 特異性αの確率分布を与える P (n)(α)を求めるには、カスケードのタイミングに併せて物理量を観測しなければならないがそれは不可能である。P (n)(α)の複雑な変化は、マルティフラクタル構造と密接に関連しており、カスケードのタイミングを教えてくれるのが、α±であると見なすことができる。

    参考文献[1] T.Arimitsu and N.Arimitsu, Tsallis statics and fully developed turbulence, J.Phys.As 33, 235-241(2000)[2] T.Arimitsu and N.Arimitsu, Analysis of turbulence by statistics based on general-ized entropies, Physica A 295, 177-194(2001)[3] T.Arimitsu and N.Arimitsu, PDF of velocity fluctuation in turbulence by a statisticsbased on generalized entropies,Physica A 305, 218-226(2002)[4] U.M.S. Costa, M.L. Lyra, A.R. Plastino and C. Tsallis, Power-law sensitivity toinitial conditions with in a logisticlike family of maps: Fractality and nonextensivity,Phys. Rev. E. 56, 245-250(1997)[5] M.L. Lyra and C. Tsallis, Nonextensivity and multifractality in low-dimensionaldissipative systems, Phys. Rev. Lett. 80, 53-56(1998)

    11