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基礎実験Ⅲ テキスト 実験3:一対の平歯車の振動レベルの測定実験 1. 目的 (1) 歯車装置の振動測定方法を学ぶ (2) 歯車装置の振動信号処理の方法を学ぶ (3) モータ、加速度センサー、振動測定関連機器の基本知識及びその使い方を学ぶ (4) 動力循環式歯車試験装置の原理を学ぶ (5) 機械振動実験の技能を身に付ける 2. 歯車試験装置について 2.1 動力循環式歯車試験装置の紹介 動力循環式歯車試験装置は図1に示すように主に次に示す部分から構成されている. ①:三相交流モータ(SF-JR:160M);②:継手;③:動力循環用ギアボックス;④:負荷 カップリング;⑤:振動試験用ギアボックス;⑥:スリップリング;⑦:振動信号記録計 (小野測器 Dr-7100). 図1 動力循環式歯車試験装置の写真 モータは実験装置に回転運動と動力を提供し、実験装置を回すために利用されている. 歯車の振動実験が実験装置の回転状態で行われている。モータの速度制御にインバーター を用いる。実際に実験を行う時には、モータの回転数を変えながら、歯車振動測定は多数 の回転数で行われている.

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Page 1: 実験3:一対の平歯車の振動レベルの測定実験shutingli/Experiement33.pdfSolidWorks というCAD ソフトを用いて、アームの自重と重心位置を求めた。その

基礎実験Ⅲ テキスト

実験3:一対の平歯車の振動レベルの測定実験

1. 目的

(1) 歯車装置の振動測定方法を学ぶ

(2) 歯車装置の振動信号処理の方法を学ぶ

(3) モータ、加速度センサー、振動測定関連機器の基本知識及びその使い方を学ぶ

(4) 動力循環式歯車試験装置の原理を学ぶ

(5) 機械振動実験の技能を身に付ける

2. 歯車試験装置について

2.1 動力循環式歯車試験装置の紹介

動力循環式歯車試験装置は図1に示すように主に次に示す部分から構成されている.

①:三相交流モータ(SF-JR:160M);②:継手;③:動力循環用ギアボックス;④:負荷

カップリング;⑤:振動試験用ギアボックス;⑥:スリップリング;⑦:振動信号記録計

(小野測器 Dr-7100).

図1 動力循環式歯車試験装置の写真

モータは実験装置に回転運動と動力を提供し、実験装置を回すために利用されている.

歯車の振動実験が実験装置の回転状態で行われている。モータの速度制御にインバーター

を用いる。実際に実験を行う時には、モータの回転数を変えながら、歯車振動測定は多数

の回転数で行われている.

① ④

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動力循環用ギアボックスの役割は、モータから提供されている動力を、振動試験用ギア

ボックスを介して循環させることである。動力をうまく循環させるために、動力循環用ギ

アボックスに取り付けられている一対の高精度平歯車の諸元は一対の試験歯車の諸元と全

く同じようにしている。

振動試験用ギアボックスの役割は歯車の振動測定を行うことである.このギアボックス

に一対の実験用平歯車が取り付けられている。本実験では、図3に示す大歯車1の振動の

みを測定する。歯車を潤滑させるために、二つのギアボックスに潤滑油が注入されている.

図2はギアボックスの内部構造図である。

図2 ギアボックスの内部構造図

図3 実験装置の動力循環原理図

図3は実験装置の動力循環原理である。図3に示すようにモータから提供された動力が

矢印方向に沿って循環させられている。具体的に言えば、モータからの動力を、小歯車2

を介して小歯車1に伝え、そして小歯車1と大歯車1の歯のかみあい運動により、その動

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力を大歯車1に伝えている。大歯車1と大歯車2の軸が継手により一体化されているので、

モータの動力が大歯車1の軸から大歯車2に伝え、また大歯車2が小歯車2との歯のかみ

あい運動を通して、小歯車2に戻ってきている。このようにモータの動力が小歯車2から

出発し、小歯車1、大歯車1及び大歯車2などを通してまた小歯車2に戻ってくることが

動力循環と呼ばれている。

動力循環式歯車試験装置を用いて歯車振動測定実験を行う場合には、モータからの動力

が無駄にならないので、試験歯車に大きな負荷を加えても、小動力のモータで実験できる。

2.2 実験歯車の設計諸元と構造寸法

実験歯車の設計諸元を表 1 に示す.歯車の構造寸法を図4に示している。

表 1 実験歯車の設計諸元

Gear type Standard involute spur gear

Driving Driven(test gear)

Number of teeth 20 30

Module[mm] 4

Pressure angle α[°] 20

Standard pitch circle[mm] 80 120

Center distance[mm] 100

Contact ratio ε 1.61

Shifting coefficient 0

Face width[mm] 40

Material and Heat-treatment SCM415 + Carburizing

Accuracy(JIS) JIS N4

Cutting method Ground

(a) 小歯車 (b) 大歯車

図4 実験歯車の部品概略図

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2.3 加速度センサーの取付け

振動測定に使用する加速度センサーは共和電業の圧電型加速度変換機 ASPB-A-200(使

用加速度±2.200[ m 𝑠2⁄ ],電圧感度 1.0[mV 𝑚 ∙ 𝑠−2⁄ ])を使用し,円周方向振動加速度を測

定する.加速度センサーと歯車は一辺の長さが 12[mm]の金属ブロックを用いて,直径

85[mm]の測定円に対してボルトで取り付けられている.センサーの自重による不釣り合い

の強制振動の影響を無くすために,歯車には二つの加速度センサーが軸に対称に取り付け

られている.図5に加速度センサー取り付け図と写真を示す.取り付けられたセンサーは

区別のため図5に示すように CH1,CH2 のように区別する.

図5 加速度センサー取り付け図と写真

2.4 信号の取り出し方法

図6 加速度センサーの信号の取り出し図

CH1 CH2

測定円

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加速度センサーにより測定された歯車の振動加速度信号は図6に示す出力軸にあけられ

た中空穴からギアボックス外部に取り出され,その際には、図6に示す株式会社東測製の

スリップリング(S4)を介して記録装置に記録される.

2.5 負荷荷重の掛け方

図1に示す負荷カップリングにより、歯車に負荷を掛ける.即ち,図 7 に示すように

負荷カップリング、アーム、ストッパと重りを用いて、歯車に負荷を掛ける.

負荷を掛ける前に、モータが完全に停止している状態を確認しなければならない。モ

ータが回転している状態で負荷を掛ける作業をすると、大きな事故に繋がるので,くれ

ぐれもこの点について注意し、モータが完全に停止した状態で作業することを厳守する。

負荷を掛ける手順を次に示す。

負荷掛ける手順:

① :モータが完全に停止しているかを確認し、また実験装置周囲の安全を確認する.

② :負荷カップリングの 8 本のボルト(図7)を完全に緩める.

③ :ストッパで負荷カップリングの左側半分を固定する(図7参照)(ストッパの下

側を試験機ベースに接触させ、上側を負荷カップリング左側半分の L 字溝面に接

触させる).

④ :アームを負荷カップリング右側半分の U 字溝に挿入する(図7参照).

⑤ :アームが安定した状態でアームの先端に重りを掛ける(図7参照).

⑥ :アーム先端に重りを掛けた状態で、負荷カップリングのボルトを締める.ボル

トを締めると、アームと重りによって負荷されている荷重がアームと重りが外さ

れても歯車の歯面に印加される。

⑦ :周囲安全を確認しながら、重り、アームとストッパの順に負荷装置関連部品を

それぞれ取り外していく。

⑧ :歯車に負荷作業を終了し、実験開始前の安全チェックをよく行う.

図7 負荷装置のコンセプト面

ストッパ

アーム 負荷カップリング

試験機ベース

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図8は歯車に負荷を掛ける時の様子を示す写真である.図8に示すように負荷カップ

リング、ストッパ、アーム、金具、円板などにより歯車に負荷を掛けている。円板一枚

の重さが 20 [kg]であり、一枚の円板で掛けられたトルクが約 110 [Nm]である.

図8 トルク負荷装置の写真

2.6 重りと負荷トルクの関係

図8に示すアームを用いて、負荷を掛ける場合には、アーム先端に吊るしている重り

M [kg](ステンレススクエアーキャッチ、アイナット、ねじよM20のナットを含む)

と軸に掛かる負荷トルク T [N・m]は式(1)に示す関係がある。

𝑇 = 𝑇𝑊𝑒𝑖𝑔ℎ𝑡 + 𝑇𝑎𝑟𝑚 = M𝑔 ∙ 𝑥1 + 𝑚𝑔 ∙ 𝑥2 (1)

但し、𝑇𝑤𝑒𝑖𝑔ℎ𝑡:重りによるトルク[Nm]

𝑇𝑎𝑟𝑚:アームの自重によるトルク [Nm]

𝑥1:アーム先端部穴の中心から軸中心までの距離 [m]

𝑥2:アームの重心から軸中心までの距離 [m]

𝑔:重力加速度 𝑔=9.80665 [m/s2]

SolidWorks という CAD ソフトを用いて、アームの自重と重心位置を求めた。その

時、まず SolidWorks でアームの3D 図面を作成し、そして SolidWorks の「評価機能」

を利用すれば、アームの自重(m =5.316[kg])とアームの重心位置( 𝑥2 = 0.236[𝑚])

が求まる。また設計図面より、𝑥1 = 0.5[𝑚]であるので,負荷トルク𝑇 [𝑁 ∙ 𝑚]と重りM[kg]

の関係式を表す式(2)が得られる。計算の手間を省けるために、式(2)を表2のよ

うに改めて表す。

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𝑇 = 4.903𝑀 + 12.303 (2)

表2 重りとトルクの関係

重り

(kg)

トルク

(N・M)

重り

(kg)

トルク

(N・M)

重り

(kg)

トルク

(N・M)

重り

(kg)

トルク

(N・M)

0 12.32 6 41.74 12 71.16 18 100.56

1 17.22 7 46.64 13 76.06 19 105.46

2 22.13 8 51.55 14 80.97 20 110.36

3 27.03 9 56.45 15 85.87 21 115.27

4 31.93 10 61.35 16 90.77 22 120.17

5 36.84 11 66.26 17 95.68 23 125.07

2.7 モータ回転数の設定と変更

図9 モータのインバーター

モータの回転数は図9に示すインバーターにより制御されている。モータ回転数を設

定・変更する場合には、次に示すように行われている。

(1) インバーターの𝑃𝑈

𝐸𝑋𝑇キーを押して、PU モードにする

(2) モータ回転数(rpm)を表す周波数(Hz)を入力し、“SET”キーを押して、入力し

た周波数を記録する。

(3) “REV”か“FWD”を押せば、モータが正回転か逆回転する

モータ回転中の電流値を見る場合には、SET キーを押せば、インバーターの表

示は Hz→A→V→Hz のように変わる。A 表示の場合はモータの電流値を示して

いることを意味する。

モータの回転数(rpm)を周波数(Hz)の関係を式(3)で示し、また表3に数値化し

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ている。モータ回転数を設定・変更したい場合には、表3に示す周波数(Hz)を入力

して下さい。

モータ周波数(Hz)=モータ回転数(rpm)/60 (3)

表3 モータの周波数(Hz)と回転数(rpm)の関係

周波数(Hz) 回転数(rpm) 周波数(Hz) 回転数(rpm) 周波数(Hz) 回転数(rpm)

1.67 100 18.33 1100 35.00 2100

3.33 200 20.00 1200 36.67 2200

5.00 300 21.67 1300 38.33 2300

6.67 400 23.33 1400 40.00 2400

8.33 500 25.00 1500 41.67 2500

10.00 600 26.67 1600 43.33 2600

11.67 700 28.33 1700 45.00 2700

13.33 800 30.00 1800 46.67 2800

15.00 900 31.67 1900 48.33 2900

16.67 1000 33.33 2000 50.00 3000

2.8 振動波形の記録について

歯車の振動信号を図10に示す DR-7100(小野測器製)という記録計で記録(サン

プリング)する。この記録計の記録キーを押せば、振動信号が自動にサンプリングされ、

また記録計の側面に挿入された SD カードに保存される。そして、記録計の電源が完全

に切られた状態で SD カードを記録計から取り出し、Oscope というソフトをインスト

ールした他のパソコンに挿入すれば、Oscope ソフトで記録された振動波形が見えるよ

うになる。詳細について、実験中、担当教員により詳しく説明がある。

図10 振動波形の記録装置(ONO SOKKI DR-7100)

2.9 振動波形の処理

図11と図12はそれぞれ記録された CH1 と CH2 の振動波形の一例である。歯車

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のねじり振動信号は(CH1+CH2)/2 により算出され、その結果は図13に示されている。

図14は歯車のねじり振動信号の周波数分析結果である。図14より、歯車のねじり振

動信号の周波数成分は歯車のかみあい周波数とその整数倍成分であることが分かる。歯

車のかみあい周波数は式(4)より算出できる。

歯車のかみあい周波数𝑓𝑍(Hz)=歯車の回転数(rpm)×歯数/60 (4)

図11 CH1 の振動信号

図12 CH2の振動信号

図13 歯車のねじり振動信号

0.020 0.025 0.030 0.035 0.040-400

-300

-200

-100

0

100

200

300

400Speed=2643rpm CH1

Gea

r acc

eler

ation

m/s

2

Time t Sec.

0.020 0.025 0.030 0.035 0.040-400

-300

-200

-100

0

100

200

300

400 Speed=2643rpm

Time t Sec.

Gea

r acc

eler

ation

m/s

2 CH2

0.020 0.025 0.030 0.035 0.040-400

-300

-200

-100

0

100

200

300

400Speed=2643rpm

Time t Sec.

Gea

r acc

eler

ation

m/s

2 ( CH1+CH2) /2

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図14 歯車のねじり振動信号の周波数分析結果

3. 歯車振動測定実験について

歯車の振動測定実験は次に示す手順で行われる。

(1) 負荷カップリングのボルトを緩めて、円板を使って歯車に負荷を掛ける。

(2) 負荷カップリングのボルトを締めて、負荷装置(円板、ねじ、アーム、ストッ

パの順に)を撤去する。特ストッパを安全な場所へ移動したかを確認する。

(3) 実験前の安全チェックを行ってから、インバーターにモータを回転させるため

の周波数を入力し、モータを回転させる。

(4) モータが回転している状態で、Dr-7100 で歯車の振動加速度信号を記録する。

(5) Dr-7100 装置の電源を OFF にしてから、SD カードを取り出し、また他のパソ

コンに挿入してから、Oscope ソフトで SD カードに保存された振動波形を解読

する。またOscopeソフトで記録された振動波形データをExcelで読める*.CSV

式で保存させる。

(6) *.CSV 式で保存された歯車振動信号を用いて、歯車のねじり振動信号を算出し、

図13のようにその振動波形をグラフにするとともに、図14に示すように高

速フーリエ変換(FFT)を行い、歯車振動信号の周波数解析を行う。

表1:実験内容

実験1(一人目) 実験2(二人目) 実験3(三人目) 実験4(四人目)

回転数

[rpm]

トルク

[N.m]

回転数

[rpm]

トルク

[N.m]

回転数

[rpm]

トルク

[N.m]

回転数

[rpm]

トルク

[N.m]

500 110 1100 110 1700 110 2300 110

800 110 1400 110 2000 110 2600 110

4. 発表会資料及びレポート

発表会資料を PPT で作成し、発表会の後に、レポートとして提出する。また次に示す

0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000 8000 9000 100000

5

10

15

20

25

Frequency ( Hz)

Amplitu

de (

m/s

2 )

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ような内容を含むように資料を作成せよ。

(1) 自分で測定した CH1 と CH2 の振動加速波形を図示せよ。

(2) CH1 と CH2 の振動加速波形により、歯車のねじり振動信号を算出し、そのね

じり振動信号を図示せよ。また各回転数における振動加速度信号振幅の最大値

を求めよ。

(3) 歯車のねじり振動信号に対して、FFT 解析を行い、歯車のねじり振動信号の周

波数成分を分析せよ。

(4) グループで各回転数における振動信号の最大振幅値を集め、最大振幅値とモー

タ回転数(rpm)の関係を図示せよ。