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『犬の組織球増殖性疾患』
埼玉動物医療センター 腫瘍科 林宝謙治
組織球とは⚫マクロファージ
(血液中の単球が組織に定着したもの)
貪食作用,外来抗原の細胞内消化作用に関与
⚫樹状細胞⚫ 表皮樹状細胞(ランゲルハンス細胞)
⚫ 間質樹状細胞(真皮樹状細胞)
貪食作用は殆どなし
抗原提示
組織球増殖性疾患とは⚫組織球増殖性疾患とは,組織球が異常に増殖した疾患の総称
⚫腫瘍性と反応性(腫瘍ではない)に分けられる
Moore P.F, et al. Vet Pathol 2014
犬の組織球増殖性疾患の分類
分類反応性□/腫瘍性○
由来細胞
皮膚組織球腫 ● ランゲルハンス細胞(LC)
皮膚ランゲルハンス細胞組織球症(LCH)
■腫瘍と境界的
皮膚組織球症 ■間質
樹状細胞(iDC)
全身性組織球症 ■
組織球性肉腫(HS) ●
樹状細胞白血病 ●
血球貪食性組織球性肉腫 ●浸潤マクロファージ
■:反応性 ●:良性腫瘍 ●:悪性腫瘍
犬の皮膚組織球腫
⚫ 猫にはない
⚫ 由来:表皮樹状細胞(ランゲルハンス細胞の良性増殖)
⚫ 若齢犬(<3歳)に多い皮膚の腫瘤
⚫ 通常は,単発性
⚫ 1-4週間で急速に大きくなり,1ー2ヵ月で自然退縮が多い
犬の皮膚組織球腫
⚫まれに転移病変を作るものがある
⚫ 局所のリンパ節に転移
または浸潤(自然退縮するものは転移ではない?)
⚫ 3-4週で退縮するものも持続するものもある
⚫ 肺に転移するものもある
1 2
3 4
5 6
2
犬の皮膚組織球腫 犬の皮膚組織球腫
犬の皮膚組織球腫 Langerhans cell histiocytosisランゲルハンス細胞組織球症
⚫ 8ヵ月齢,雌,ミニチュアダックス
⚫ 2ヵ月前に耳介皮膚組織球腫の診断,1ヵ月で再発
⚫ その後,腫瘤が多発,ステロイド,グリセオフルビンに反応
⚫ グリセオフルビン中止後死亡
⚫ CD1a, CD1c, CD11c, CD18, CD45 MHC class II 陽性
⚫ 電顕でLangerhans cellの特徴
Nagata M , Vet Dermatol ,2000
症例:F・ブルドック,10カ月齢,雌
写真提供:柴田久美子先生
臨床経過⚫4カ月前に皮膚の病変を見つけて近医を受診
⚫抗生剤などで治療するも悪化したため,皮膚科専門医を受診
7 8
9 10
11 12
3
細胞診
診断:ランゲルハンス細胞組織球症
病理組織検査治療と経過
⚫塩酸ドキシサイクリン
⚫プレドニゾロン
⚫診断から2週間後に死亡
Langerhans cell histiocytosisランゲルハンス細胞組織球症
Langerhans cell histiocytosisランゲルハンス細胞組織球症
Langerhans cell histiocytosisランゲルハンス細胞組織球症
Langerhans cell histiocytosisランゲルハンス細胞組織球症
13 14
15 16
17 18
4
Langerhans cell histiocytosisランゲルハンス細胞組織球症
Langerhans cell histiocytosisランゲルハンス細胞組織球症
犬の反応性組織球増殖症(皮膚組織球症・全身性組織球症)
⚫由来:間質樹状細胞
⚫反応性あるいは免疫異常(腫瘍ではない)
⚫皮膚の多発性腫瘤
⚫頭部,耳介,頸部,会陰部,陰嚢,四肢に多く発生
⚫鼻鏡,鼻粘膜にも発生する事あり
⚫病変は退行と再発を繰り返す
犬の反応性組織球増殖症
犬の皮膚組織球症
⚫ 好発犬種なし
⚫ ある研究では2ー11歳の範囲で発生
⚫ 皮膚,皮下に限局した多発性腫瘤(<4cm)
⚫ 通常はリンパ節を越えない
⚫ 通常はリンパ節腫大なし
犬の反応性組織球増殖症
犬の皮膚組織球症
• 一般的には免疫抑制療法に良好に反応
• 退行と再発を繰り返す事が多い
• 自然退縮も報告
• 7頭犬の報告:ステロイドで大部分が部分的な反応
1頭で寛解
• 13頭の犬の報告:2頭が自然退縮,
1頭が外科切除で治癒
犬の皮膚組織球症
19 20
21 22
23 24
5
犬の反応性組織球増殖症犬の全身性組織球症
⚫病変は多臓器に波及
⚫皮膚(特に陰嚢,鼻,眼瞼)皮下,リンパ節,
肺,肝臓,脾臓,骨髄,鼻腔内,眼瞼
⚫好発犬種なし?バーニーズM・Dで家族性?
⚫発症年齢3-9歳
⚫バーニーズ・マウンテンドック,
ロッドワイラー,ゴールデン・レトリバー,
ラブラドール・レトリバーなどで報告
犬の反応性組織球増殖症
⚫ 食欲減退,体重減少(顕著),リンパ節腫大,呼吸困難
⚫ ある報告では26頭中2頭で高カルシウム血症あり
⚫ 貧血,単球増加症,リンパ球減少症は一般的
⚫ 人のランゲルハンス細胞組織球症と類似?
⚫ 退行と再発を繰り返す
⚫ 激しいものでは持続性でステロイドに反応せず
犬の全身性組織球症
犬の反応性組織球増殖症治療
⚫自然退縮をまず期待する
⚫外科治療
⚫免疫抑制療法
⚫ ステロイド(10–50%反応)
⚫ アザチオプリン
⚫ シクロスポリン
⚫ レフルノミド
⚫ ニコチン酸アミド
⚫ テトラサイクリ,ドキシサイクリン
※T細胞の活性を押さえる
⚫バーニーズ・マウンテンドック
⚫1歳2カ月齢
⚫雄
症 例
病理診断⚫皮膚組織球腫→経過観察
4カ月後
※結膜にも腫脹が認められた
25 26
27 28
29 30
6
2回目の生検病理診断:組織球症
最終診断全身性組織球症(皮膚,粘膜移行部,結膜に病変あり)
治 療
⚫免疫抑制治療
⚫プレドニゾロン
⚫ドキシサイクリン
⚫レフルノミド
治療開始1.5カ月後
10カ月後に悪化ニコチン酸アミドとテトラサイクリンに変更
31 32
33 34
35 36
7
鑑別診断⚫(化膿性)肉芽腫性炎症
⚫細菌感染
⚫皮膚型リンパ腫
⚫異型性の低い組織球性肉腫
組織球性肉腫⚫1970年代後半に犬で最初に報告
⚫犬にも猫にも発生
⚫好発犬種:フラットコーテット・レトリーバー,
ロッドワイラー,
バーニーズ・マウンテンドック
ウエルシュ・コーギー(日本)
組織球性肉腫⚫バーニーズマ・ウンテンドックで家族性が報告(1986年)
⚫ 雄に多い(11頭中10頭が雄)
⚫ 大多数に肺転移
⚫以前滑膜肉腫と診断された35例の腫瘍を免疫染色(CD18)で再検索→18例が組織球肉腫
⚫ 18例中11例がロッドワイラーだった
組織球性肉腫⚫由来:間質樹状細胞
⚫ 単発性で遠隔転移が遅いもの
→(孤立性)組織球性肉腫
⚫ 多発性または転移性(急速に広がるもの)
→播種性組織球性肉腫(悪性組織球症)
⚫由来:マクロファージ
⚫ より攻撃的な挙動をとり極めて予後が悪い
→血球貪食性組織球性肉腫
組織球性肉腫⚫臨床兆候は非特異的
⚫元気消失
⚫食欲の低下
⚫体重減少
⚫呼吸困難
⚫下痢,嘔吐
⚫発熱
⚫リンパ節腫脹
37 38
39 40
41 42
8
組織球性肉腫診断
⚫ 腫瘍組織の細胞診や病理組織学的検査を行う
⚫ 大きな核小体を持ち,核は円形,楕円形,または腎臓形
⚫ 細胞質はやや広く,軽度の好塩基性で空胞がある
⚫ 血球貪食または多核巨細胞が認められる場合がある
⚫ 他の肉腫,癌または円形細胞腫瘍と形態学的特徴が類似
するため確定が困難なことあ.
骨髄検査
CASE1
肝臓細胞診
⚫ 正常な肝臓の細胞構築は全く見られない
⚫ 由来不明の非上皮性細胞が多数採取
診断:非上皮性悪性腫瘍が考えられる
CASE2 肝臓細胞診
組織球性肉腫の鑑別診断
⚫肥満細胞腫
⚫リンパ腫
⚫形質細胞腫
⚫悪性黒色腫
⚫未分化な肉腫
⚫未分化な癌
43 44
45 46
47 48
9
組織球性肉腫の治療⚫孤立性(単発性)組織球性肉腫
⚫外科的摘出+抗がん治療
⚫放射線治療+抗がん治療
⚫平均的な延命期間6ヶ月前後
⚫播種性組織球性肉腫
⚫ 抗がん治療(反応率:50-70%)
⚫ 平均的な延命期間2-6ヶ月
⚫血球貪食性組織球性肉腫
⚫抗がん治療
⚫平均余命数週間〜2ヶ月
症例19歳齢 バーニーズ・マウンテンドック 雄体重減少を主訴に来院
49 50
51 52
53 54
10
病理組織検査所見
診断:組織球性肉腫
⚫ご家族の意向で化学療法は行わず経過観察
⚫術後約1年で肺転移所見
⚫その後徐々に発咳が見られるようになる
⚫初診から約1年10ヵ月後に死亡
剖検
経過
⇩
55 56
57 58
59 60
11
症例2:9歳齢 ビーグル 避妊雌
⚫ 他院にてIMHAと診断され,ステロイドで治療するも状態が悪化.精査のために紹介受診.
⚫ PCV 15%,Plate 133(×103/μl)
肝臓細胞診
脾臓細胞診 骨髄検査
診断:血球貪食性組織球性肉腫
61 62
63 64
65 66
12
症例33歳8ヵ月齢 ウエルシュコーギー 避妊雌
RBC(×106/μl) 2.30 WBC(/l) 9 200
Hb(g/dl) 6.0 Band-N 92
PCV(%) 18 Seg-N 7 360
MCV(fl) 73 Lym 414
MCHC(%) 35.5 Mono 414
Plat(×103/μl) 46 Eos 0
TP(g/dl) 5.0 Baso 0
NRBC(%) 10
※他院にてIMHAと診断され,内科治療を受けていたが改善が見られず当施設を紹介受診
血液塗抹所見
再生性貧血及び血小板減少症
脾臓 肝臓
左副腎:1.7×1.6cm
肺転移の疑いあり
67 68
69 70
71 72
13
副腎:腫瘍の疑いあり
肝臓細胞診
⚫ 正常な肝臓の細胞構築は全く見られない
⚫ 由来不明の非上皮性細胞が多数採取
診断:非上皮性悪性腫瘍が考えられる
脾臓細胞診
肝臓同様の非上皮性細胞が少数採取
剖 検
肝 臓
肉眼所見(肝臓:腫大・硬結・白色の斑状病変
肝 臓
肉眼所見(肝臓):割面は膿瘍様
73 74
75 76
77 78
14
肝 臓
肉眼所見(肝臓):内側左葉尾側部白色部分が自壊
脾 臓
肉眼所見(脾臓):尾側の辺縁が白色に変色
副 腎
左:1.2×1.0×0.7cm 右:1.5×1.3×1.0cm
左
右
肺
左肺尾側の葉間裂にmass(1.5×1.1×0.7cm)
組織球性肉腫 の化学療法
⚫ロムスチン(CCNU)
⚫ニムスチン(ACNU)
⚫リポソーム封入型ドキソルビシン
⚫パクリタキセル
CCNUの報告(2007)⚫ 進行した大きな肉的眼病変疾患を持つ56頭の犬の多施設研究
⚫ 顕微鏡学的病変3頭
⚫ 46%の反応率,中央寛解期間は84日,MSTは106日
⚫ このグループにおいて,血小板減少(100,000/μl以下)と低
アルブミン血症は予後不良因子
⚫ 顕微鏡学的病変での治療,多くの治療を施した犬において,
長期生存が見られた.
Skorupski KA, JVIM, 2007
79 80
81 82
83 84
15
フラットコーテッド・レトリーバー2006年の文献
⚫年齢の中央値:8.2歳齢(5-12)
⚫発生部位
⚫ 34頭:筋肉,関節に腫脹,腫瘤
⚫ 3頭:肋骨,皮膚,脾臓
J.Fidel, Vet Comp Oncol, 2006
フラットコーテッド・レトリーバー2006年の文献
放射線治療:18例で実施
⚫ 16頭:3×8Gyまたは5×6Gy
⚫ 2頭:12×4Gyまたは14×3.5Gy
⚫ CR 13頭 PR 2頭 PD 1頭
⚫ 放射線治療を受けた犬では生存期間が有意に延長
⚫ 182日 VS 60日(p=0.0282)
⚫ 外科単独では生存期間を延長せず
⚫ 緩和治療のみでは中央生存期間17日
J.Fidel, Vet Comp Oncol, 2006
フラットコーテッド・レトリーバー2006年の文献
化学療法:23例で実施
⚫ 16頭がCCNU(60mg/m2/3-4weeks)
その他ドキソルビシン(30mg/m2/3weeks)
⚫ 23頭中15頭で治療効果あり
(CR 5 PR 3 SD 2 PD 2)
⚫ 12/15がCCNUの投与を受けていた
⚫ 化学療法を受けた犬では生存期間が有意に延長
185日 VS 34日(p=0.0008)
J.Fidel, Vet Comp Oncol, 2006
フラットコーテッド・レトリーバー2006年の文献
考察
⚫組織球性肉腫は早期発見で四肢の病変のみであ
れば長期生存するものもいる
⚫外科療法だけでは効果は僅か
⚫放射線療法,化学療法を併用する事で充分局所
コントロールが得られる
J.Fidel, Vet Comp Oncol, 2006
85 86
87 88
89 90
16
症 例⚫フラットコーテッド・レトリバー
⚫6歳7ヵ月齢
⚫未避妊雌
⚫右後肢跛行,排尿,排便困難
⚫紹介受診
X線検査
CT検査
91 92
93 94
95 96
17
CT検査
病理検査(ツルーカット生検)
大腿骨,大腿骨周囲Mass:いずれも組織球性肉腫
97 98
99 100
101 102
18
術後の経過
⚫術後ロムスチンによる抗がん治療を実施
⚫約半年後に全身に播種し,永眠
症 例⚫ 10歳齢 フラットコーテット・レトリーバー 避妊雌
⚫ 2ヵ月左前肢跛行し,近医受診
⚫ 上腕部の腫瘤を指摘され,精査のため紹介
103 104
105 106
107 108
19
CT検査
CT検査
109 110
111 112
113 114
20
治療と経過⚫パンチ生検にて組織球性肉腫と診断
⚫播種,遠隔転位はないが,腋窩,浅頸リンパ節に
転位あり
⚫左前肢,左腋窩,浅頸リンパ節を一括切除
⚫2週間後からCCNU開始
⚫術後約6ヵ月で脾臓の血管肉腫を発症
⚫初診から約8ヶ月で永眠
猫の組織球性肉腫⚫ 組織球腫は犬よりも猫ではより稀
⚫ 多くの猫は多病巣性または播種性のHS
⚫ 中枢神経,脾臓,肝臓,リンパ節,肺,縦隔,腎臓,膀胱,骨髄への
播種が報告
⚫ 重度の再生性もしくは非再生性の貧血と血小板減少が一般的
⚫ 剖検を行った3頭の猫全てにおいて骨髄浸潤
⚫ 進行は攻撃的でHSの猫における治療の報告は殆どない
組織球増殖性疾患まとめ
◆皮膚組織球腫:良性腫瘍で自然治癒が期待
◆ 但し,稀に再発し全身播種することがある
(ランゲルハンス細胞組織球症)
◆組織球性肉腫は組織球の悪性腫瘍
◆ 孤立性,播種性,血球貪食性
◆ 予後は厳しい
◆反応性組織球症(腫瘍ではない):免疫異常?
◆ 皮膚に限局したもの:皮膚組織球症
◆ 全身性のもの:全身性組織球症
115 116
117