Upload
others
View
0
Download
0
Embed Size (px)
Citation preview
1
資料 1
研究計画書
1.研究の名称
原発性非小細胞肺癌切除例の高位血管内皮細胞新生とその腫瘍免疫における意義の検討
(英語表記:High endothelial venule neogenesis in non-small cell lung cancer)
2.研究組織
研究責任者: 呼吸器外科 教授 中山 光男
研究実施者:
呼吸器外科 准教授 儀賀 理暁
呼吸器外科 講師 羽藤 泰
呼吸器外科 講師 福田 祐樹
呼吸器外科 助教 青木 耕平
呼吸器外科 助教 井上 慶明
呼吸器外科 助教 杉山 亜斗
情報管理者: 血液内科 講師 佐川 森彦
連絡先:
埼玉医科大学総合医療センター 呼吸器外科
埼玉県川越市鴨田 1981 番地
Tel: 049-228-3459 (呼吸器外科医局)
3.研究の背景・意義と目的
抗免疫チェックポイント療法の勃興により、固形癌の免疫療法は新時代に突入した。非小細
胞肺癌についても、抗 PD-1 抗体治療について第 3 相臨床試験が行われ、PD-L1 陽性症例を
選択した場合に最大で 5 年生存率が 30%程度に上ることが報告された(Brahmer J et al.
NEJM 2015)。しかしながら、症例選択をしているにもかかわらず、有効性が 3 割程度にと
どまることから、同治療法をより多くの症例に適応できるように、併用療法の可能性につい
て模索がすすんでいる。プラチナ製剤をふくむ細胞傷害性薬剤(通常の抗がん剤)との併用
2
(KENOTE-189 試験 Gandhi L et al. NEJM 2018)や他の免疫チェックポイント療法との併用
(CHECKMATE-227 試験 Hellmann I et al. NEJM 2018)で無増悪生存期間が延長することが
報告されている。
現在用いられている免疫チェックポイント分子 PD-1 は主に細胞傷害性 T 細胞に発現がみ
られ、免疫細胞が腫瘍を攻撃する最終段階をサポートしているにすぎない。しかしながら、
免疫反応そのものは一連のシステムであって、これを“Cancer-Immunity Cycle”とよぶ
(Chen DS and Mellman I Immunity 2013)。すなわち、腫瘍特異抗原のリリース、それを
抗原提示細胞が補足、二次もしくは三次リンパ装置へのホーミング、細胞傷害性細胞の刺激、
腫瘍細胞の攻撃、という一連のプロセスである。免疫療法が成功するためには、同プロセス
の全貌を改善していく必要がある。
腫瘍組織には通常の臓器にはみられない微小環境の特徴がある(Hanahan D and Weinberg
RA 2011 Cell, Palucka KA and Coussens LM Cancer Cell 2016)。われわれは中でも腫瘍の
血管構造に注目して研究を計画している。腫瘍血管は通常の血管と異なり、内腔が閉塞して
いたり、内皮細胞の連続性がなくなっていたり、漏出しやすく、動静脈の区別がなかったり、
逆流がみられたりといった特徴がみられる。Jain らはこれらの腫瘍血管の異常は、腫瘍の組
織圧が上昇し、低酸素領域が生じた結果過剰な血管新生物質が産生されることにある点に
注目した。抗血管新生治療薬を用いることで、これらの腫瘍血管を“正常化”し、抗腫瘍療法
の効果を高めることを提唱している(Jain RK Cancer Cell 2013)。すくなくとも動物モデル
では血管正常化療法と免疫療法の間には相乗的効果が確認されている(Huang Y et al. PNAS
2013, Hato T et al. in submission)。免疫チェックポイント療法と抗血管新生治療のコンビ
ネーションは相互作用のメカニズム上も有効性が期待されている(Huang Y et al. Nat Rev
Immunol 2017, Hato T et al. 2016 Immunotherapy)
腫瘍細胞に免疫細胞が浸潤するためには、血管からのアクセスが必要である。最近、腫瘍血
管内皮細胞の一部は、リンパ節でみられるような“高位血管内皮細胞 High Endothelial
Venule, HEV”の形態を呈することがあり、腫瘍攻撃へのエントリーになりうると推察され
ている。抗血管新生療法を行うと、動物モデルでは HEV の形成が促進され、抗免疫療法が
促進されることが報告された(Allenn E et al. Sci Transl Med 2017)。
そこで、本研究では、まず HEV 形成がヒトの肺癌切除例においても免疫応答に強く関わる
ことのコンセプトの証明を第一に行う。
腫瘍に対する免疫応答が高まると、腫瘍辺縁にみられる三次リンパ節構造 (Tertiary
Lymphoid Structure, TLS)の形成が促進され、そのような TLS がみられる腫瘍では予後が
良好であることが報告されている(Dieu-Nosjean MC et al. J Clin Oncol 2008, Germain C
et al. Am J Res Crit Care Med 2014)。一方で、動物実験では TLS が形成されていても制御
性 T 細胞や MDSC などの免疫抑制性の細胞浸潤が目立つと抗腫瘍免疫が活性化しないこ
とや、HEV 形成は TLS なしでもみられることが報告されている。
本研究の目的として、HEV 形成が TLS 新生にもたらす意義、それらの相互関連について臨
3
床病理学的に検討することを目的とする。
4.研究方法
(臨床データ)
2012 年 4 月 1 日から 2015 年 3 月 31 日までの診療録から、下記項目について抽出を行う
年齢、性別、検査所見、リスク因子、手術内容、併用治療内容、予後
(標本作製)ホルマリン固定パラフィン包埋ブロックを使用する。腫瘍の辺縁と中央部につ
いて、hematoxylin-eosin(HE)染色と下記分子についての免疫染色を行い、スコアリング
を行う。
血管内皮細胞(CD31, VE-cadherin, CD105)
高位血管内皮細胞 (PNAd, MdCAM-1)
周細胞(αSMA)
リンパ管(LYVE-1, podoplanin)
血管新生関連因子(VEGF, VEGFR1, VEGFR2, Angiopoietin-1, Angiopoietin-2,
Angiopoietin like proteins)
低酸素領域(CAIX)
免疫細胞:
T 細胞(CD3, CD4, CD8)
制御性 T 細胞 (FOXP3)
B 細胞(CD19 CD20)
樹状細胞(CD11c)
MDSC(CD11b, Gr-1, Ly6G)
Macrophage (CD11b, F4/80, CD69)
HEV の有無について、HE 染色切片についても評価を行う。
病理医、血管生物学者による切片の盲検的評価を行い、grade 評価を行う。
また腫瘍の免疫原性にかかわるとされるマイクロサテライト不安定性についても評価する
(定量処理)染色された画像は、主に x200 のデジタルデータ(Tiff 形式)で保存し、RGB
に分解後、Image J を用いて染色陽性率の定量的評価を行う。
(統計学的処理)二群間比較は Mann-Whitney's U test、多群間の比較は one-way ANOVA、
生存にかかわる因子解析は Log-rank 検定および COX 比例ハザードモデルによる回帰分析
で行う。
5.研究期間:倫理委員会承認後~2021 年 3 月 31 日
4
6.予定症例数: 2015 年 1 月 1 日から 2017 年 12 月 31 日までに当院で根治的肺切除を受
けた原発性非小細胞肺癌手術症例約 300 例
研究期間:承認日~西暦 2021 年 3 月 31 日
観察期間:2015 年 1 月 1 日~2017 年 12 月 31 日
(2015 年 1 月 1 日~2017 年 12 月 31 日の診療録を用いる)
7.研究の実施場所
埼玉医科大学総合医療センター 呼吸器外科外来および病棟
8.被験者の選択基準・除外基準
選択基準
2015 年 1 月 1 日から 2017 年 12 月 31 日までに当院で根治的肺切除を受けた原発性非小細
胞肺癌手術症例約 300 例
除外基準
本研究への参加を拒否する場合
非治癒切除手術症例は除く
9.研究の科学的合理性の根拠
本研究は腫瘍微小環境の生物学を解明することを目的としている。前向き試験である必
要性はなく、すでに切除された病理組織標本を用いた観察を行う。人工的モデルでなく、自
然の生命現象で起きていることを観察することが必要であるため、動物モデルではなく、ヒ
ト検体の解析が必要である。他方、発生している現象の記述は可能であるが、因果関係を立
証できないため、その点は将来的な動物実験での検討を計画している。
症例数については、統計学的パワーの観点からは可及的に多いほどよいが、免疫染色を要
する労力および資金的な制限がある。高位血管内皮細胞形成について、高頻度、中頻度、低
頻度の 3 群比較が可能で、かつ 1 群が 100 例前後を予定するため、総症例数としては 300
例を目標として設定した。
10.被験者に理解を求め同意をえる方法
本研究は、すでに切除された病理組織を使う。連絡可能な対象については①文書での同意
あるいは、②口頭での同意+記録の作成を行う。すでに死亡等の連絡不能症例については同
意取得困難であるので、オプトアウトとする。
研究内容と計画書を埼玉医科大学総合医療センターの倫理委員会のウエブサイト上に掲
5
載し、周知を図るとともに、患者からの問い合わせ、協力撤回希望に対応できるようにする。
通知・公開する内容は、以下を含むものとする。
①研究の概要
②研究機関の名称並びに研究責任者名
③研究計画書及び研究の方法に関する資料を入手又は閲覧できる旨(他の研究対象者等
の個人情報及び知的財産の保護等に支障が無い範囲に限られる旨を含む)並びにその入手・
閲覧の方法
④個人情報の利用目的の通知、個人情報の取り扱い方法
⑤相談窓口
11.研究対象者に生命の危機が生じている状態における研究の扱い
該当しない
12.個人情報の扱いについて
患者の臨床情報は、当院単独の研究のため、匿名化不要。臨床データはエクセル形式およ
びファイルメーカー形式のデジタルデータとして外部からアクセスできないハードドライ
ブに、呼吸器外科の鍵のかかる保管庫に収容される。これらの試料・情報は論文化後 10 年
間保管される。
13.当該研究に参加することによって期待される利益および起こりえる危険並びに必然
的に伴う心身に対する不快な状態
該当しない
14.試料の取り扱い
病理組織標本は各症例につき 10 枚程度の免疫組織切片が生じる。これらは埼玉医科大学総
合医療センター病理部および呼吸器外科で鍵のかかる保管庫に収容される。論文化後 10 年
間保管される。
15.病院長への報告内容および方法
①研究責任者は、研究の倫理的妥当性若しくは科学的合理性を損なう事実若しくは情報又
は損なうおそれのある情報であって研究の継続に影響を与えると考えられるものを得た場
6
合には、遅滞なく、病院長に対して文書にて報告し、必要に応じて、研究を停止し、若しく
は中止し、又は研究計画書 を変更する。
②研究責任者は、研究の実施の適正性若しくは研究結果の信頼を損なう事実若しくは情報
又は損なうおそれのある情報を得た場合には、速やかに病院長に文書にて報告し、必要に応
じて、研究を停止し、若しくは中止し、又は研究計画書を変更する。
③研究責任者は、研究計画書に定めるところにより、研究の進捗状況及び研究の実施に伴う
有害事 象の発生状況を病院長に文書にて報告する。
④研究責任者は、研究を終了(中止の場合を含む。)したときは、病院長に必要な事項につ
いて文 書にて報告する。
16.利益相反について
本研究に関わる研究者は、当該研究についての申告すべき COI は存在しない。
17.研究に対する情報の公開
研究結果は国際学会や査読のある英文誌で報告する。
研究の進捗を適宜更新し、研究の終了についても遅延なく報告する。
18.研究対象者および関係者からの相談等への対応
公開文書に以下の連絡先を明記する。
埼玉医科大学総合医療センター 呼吸器外科
埼玉県川越市鴨田 1981 番地
Tel: 049-228-3459 (呼吸器外科医局)
担当者:羽藤 泰
19.費用負担および謝礼について
現在、研究資金獲得のため、競争的資金および各種研究助成金にアプライをしている。本研
究での科研費獲得を計画している。
謝礼は発生しない。
20.健康被害や有害事象への対応
該当しない
7
21.期待される成果、医学上の貢献の予測について
腫瘍の免疫療法が勃興しているが。現時点では、非小細胞肺癌で PD-L1 陽性症例に対象
を絞っても 5 年生存率は 30%にすぎないと報告されている。より多くの患者が免疫療法の
恩恵を受けるためには、より免疫原性を高め、腫瘍の微小環境を宿主側有利に傾ける必要が
ある。本研究は腫瘍の微小血管構造に着目し、抗腫瘍免疫発動のメカニズムを明らかにして、
将来的には免疫療法の強化をはかることを目的としている。
22.知的財産権について
本研究により生じた研究成果および知的財産権は、埼玉医科大学総合医療センター呼吸器
外科に属する。
23.研究の実施に伴い研究対象者の健康や子孫に受け継がれる遺伝的特徴等についての
重要な知見が得られる可能性
該当しない
24.研究業務を一部委託する場合の業務内容および委託先の監督方法
該当しない
25.研究対象者から取得された情報について、研究対象者等から同意を受ける時点では特
定されない将来の研究のために用いられる可能性または他の研究機関に提供する可能性が
ある場合には、その旨と同意を受ける時点において想定される内容
該当しない
26.侵襲に伴うモニタリングについて
侵襲および介入なしの研究のため該当しない
27.教育研修受講状況と研究期間中の受講予定について
研究代表者および研究分担者は研究期間中に年に1回、e-learning を受講済み。