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中学校数学科における対話を重視した問題解決の力の育成に関する研究― 授業実践を通して見えた対話の意義 -
科学文化教育学専攻
数学教育学専修
M130471 生田直子
問題解決の力の現状(H25年度全国学力・学習状況調査より)
2
1.研究の背景と目的
番号 設問の概要 正答率 無回答率
3(2)
与えられた表やグラフを用いて、水温が80℃になるまでにかかる時間を求める方法を説明する
32.60% 33.30%
5(2)
まとめ直したヒストグラムの特徴を基に、学級の生徒が美しいと思う長方形について新たにわかることを説明する
25.50% 42.10%
6(3)碁石全部の個数を、3(n-2)+3という式で求めることができる理由を説明する
25.30% 42.20%
表1 H25 全国学力学習状況調査結果より
数学的に解釈し、問題解決の方法を数学的に説明することや事柄が成り立つ理由を筋道立てて説明することに課題がある。
3
生徒が目的意識を持って主体的に取り組む数学にかかわりのある様々な営みである」
(中学校学習指導要領解説 数学編より)
ア 数や図形の性質などを見出す活動イ 数学を利用する活動ウ 数学的な表現を用いて説明し伝え合う活動
生徒が目的意識を持って主体的に取り組む数学にかかわりのある様々な営みである」
(中学校学習指導要領解説 数学編より)
ア 数や図形の性質などを見出す活動イ 数学を利用する活動ウ 数学的な表現を用いて説明し伝え合う活動
1.研究の背景と目的
数学的活動とは
◎思考や表現の深まりを生みだす場、思考や表現の広がりと集約を生みだす場として適している(永田2012)
対話とは何か
4
2.対話
対話=問題解決の場面で,他者と関わり合う活動◎対話の質に着目
「関係の中で学ぶ」・・・「対話」がキーワード(佐藤2011)「お互いを価値あるものとして認め合い、異質な考えを
すり合わせる活動を組織する」「他者との学び合いの質が認知的発達の変数になる」
「他者の立場の理解が不可欠」 (笠2008)「相手の考えに共感するとは、自ら相手の考えを再現し
得ることであり、なるほどと寄り添えること」
5
対話の質の検証 トゥールミンモデルを使った分析の型
D W1
C1
W2
C2
W1
C1 D
W2
C2
W3
C3 ・・・・
②発表型
③直前反応型
D:データ C:主張
W:論拠
図4 トゥールミンモデルによる基本形
2.対話
6
対話の質の検証 トゥールミンモデルを使った分析の型2.対話
質の高い対話①思考が深まっていく対話②全員が貢献している対話
④統合型
D
W1
C1
W3
C3
W2
C2 ・・・・
7
対話の質の検証 トゥールミンモデルを使った分析の型
D W1
C1
W2
C2
②発表型
W1
C1 D
W2
C2
W3
C3 ・・・・
③直前反応型
D
C3
W3
W1
C1
W2
C2
⑤構造型(ⅰ)
D
C3
W3
W1
C1
W2
C2
⑤構造型(ⅱ)
2.対話
仮説設定
8
3 中学校数学科「図形の性質と証明」の授業
問題を解決できる
基本的な内容の理解 解決の手法
を持っている
○問題集の解答から○友達や先生に聞いて○対話から
試行錯誤視点の広がり見通しの立て方他の問題でも活用
仮説 ①思考過程を共有化②数学的な考え方を意識化
→ 問題を解決していく手法を獲得できるだろう。
対話をどのよう
だろうか
対話をどのように位置付ければ、問解決の力の育成に有効だろうか
①思考過程の共有化→対話
9
3 中学校数学科「図形の性質と証明」の授業
①対話を起こしていくための課題、課題提示の仕方
②自力解決のときの着想、問題を解決する手段、悩んだことを意識
③対話に向けて目的意識を持つ
② 数学的な考え方の意識化
ア 発表者の発表を全体のものにイ 考え方の比較をワークシートへウ 「学び直し」、「問題解決の手段」の価値づけエ 学習したことからどのような発展的な考え方ができるか示す
既習事項を確認で学び直し
問題から対立を作る
対話の流れを板書
問題を解決するときに使った数学的な考え方
問題を解決するときに使う既習事項
10
3 中学校数学科「図形の性質と証明」の授業
11
1 問題解決の力は対話の質と関係があるか
4 分析と考察
グループ 自力解決での解答の様子(対話前、ワークシートより)
対話の様子 確認問題の解答の様子(対話後)
Ⅰ
Ⅱ
A 筋道立てて説明できている。
B 見通しはあるが根拠や結論が抜けている。
C 無回答。
A 筋道立てて説明ができている。
B 根拠を明らかにし、表現力が高まった。
C 筋道立てて説明できている。
D 見通しはあるが根拠や結論が抜けている。
E 根拠が間違っている。証明が途中まで。
F 無回答。
G 見通しはあるが根拠が抜けている。
D 見通しはあるが根拠が抜けている。
E 対話前の時と同じ着想。証明できていない。
F 見通しがないまま書いているが表現が不十分。
G 見通しはなく途中まで書いている。
12
班での対話の様子(グループⅠ)
4 分析と考察
トゥールミンモデルによる分析(グループⅠ)
13
4 分析と考察
D:△DECと△
AECは同じ底辺
で,AD∥EC
C:(生徒B)この(△DEC)
面積とこの(△AEC)面積が
等しくなるじゃん。
W:底辺が共通で高さが等し
い三角形の面積は等しい
C:△AEC=△AEF
C:△DEC=△BEF
C:△DEC=△BEFはま
だ言えていない。
W:(生徒C)じゃけここ(△DEC)
とここ(△AEC)が一緒になって,
ここ(△AEC)とここ(△BEF)
が一緒になるけえ,・・・なるほど。
W:(生徒B)前ふりがいるんじゃ
ない?これを言うときにさ、いきな
りこれができたわけじゃ・・・。
W:△AEC=△B
EFはいきなりい
えない
W:(生徒B):まずさ,
この点(点A)を出すま
での過程がいるんじゃ
けえさ
C:(生徒A)まず、これ(△ABC)
イクオールこれ(△DCA)か。先に
そっちがいるね。
C:(生徒B)(点Aを
指して)ここGくらい
にしとこうや。
視点の違い
D:△DECと△
AECは同じ底辺
で,AD∥EC
W:底辺が共通で高さが等し
い三角形の面積は等しい
対立
W:(生徒C)じゃけ、A
FCとBCFが等しいを
言えばいいんじゃない。
W:(生徒B):まずここ(△BF
C)の面積とここ(△AFC)の面
積が等しくてここ(△ECF)が共
通だから,でここの面積が等しいを
言えばいい。
C:△DEC=△BEF
W:(生徒B):この三角形がこのどっかにある、最初。次
のこの形とこの面積は等しくなるには、AD上にGがあるん
じゃけ、AD上にGがあって、AB上にGがあるんじゃけ、
結局重なるのはAじゃけ、AがGと重なるという・・・。
構造型
グループⅡの対話分析
14
4 分析と考察
単独型
グループⅡの対話の様子
D:△DECと△AECは
同じ底辺で,AD∥EC
W:底辺が共通で高さが等
しい三角形の面積は等しい
C:(生徒D)まずこれ(△DEC)とこれ(△
BEF)が同じのを証明したいって。これ(△D
EC)とこれ(△AEC)が一緒でしょ。
C:(生徒D)じゃけこれ(△
DEC)をこっち(△AEC)
に移動するんよ
C:(生徒D)次にこれ
(△AEC)とこれ(△
BEF)を一緒のこと証
明したいじゃん W:(生徒D)でここ(△
EFC)同じじゃけ
D:(生徒D)この三角形(△AFC)
とこの三角形(△BFC)を見たら高
さが同じじゃん W:(生徒D)平行じゃ
け平行四辺形で,
C:(生徒D)三
角形(△AECと
△BEF)一緒
問題 解答類型 人数(37 人中) 割合
1 問題解決
∠Cの外角の位置を図で明示している。 22 人 59% ∠Cの外角の位置を文章で明示している。 14 人 38% 外角とは何かを文章で明示している。 20 人 54% 凹四角形の外角の和は360°であることを筋道立てて導いている。 14 人 38% 図の中にDCの延長線またはBCの延長線を入れて補助線として使
っている。 28 人 76%
文字を使って一般的に説明しようとしている。 27 人 73% 凹四角形の内角の和は360°であることを根拠として使っている。
(方程式を立てている) 20 人 54%
角の大きさが負の値の可能性があることを書いている。 7 人 19% 相手意識 A君の考えとの違いを文章で表している。 11 人 30%
適切な位置に補助線を引いている(76%)
文字を使って説明しようとしている(73%)
ほとんどの生徒が図や文章で外角の定義を明らかにしようとしている
既習事項を活用して方程式を立てている(54 %)
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4 分析と考察
○検証の方法確認問題の解答の様子から、どれくらいの生徒がどのような問題解決の手段を取得しているか考察
2 対話を重視した授業により,問題を解決する手法の獲得にはどのようなものが見られるか
3 生徒は対話の価値に気付いているか◇ アンケートから見られる考察
4 とてもそうだ 3 まあそうだ 2 そうではない 1 全くそうでない
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4 分析と考察
対話の質と問題解決の力
17
5 対話の質と問題解決の力
対話の質
問題解決の手法を共有よさを味わう
授受の役割が固定的相互の交流がある(疑問、共感、反論)
達成感の乏しさ
思考の道筋が潜在的なまま
他の場面で活用できる 他の場面で活用できない
→問題解決の力の発達
低い高い
成果と課題
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6.本研究の成果と課題
することで、
<成果>(1)他者の考えに絡めて主張していくような質の高い対話が起こ
ることにより,問題を解決するための手法を得ることができ,表現力の向上も期待できる。
(2)自分の考えを持ち、目的を持って対話に臨むことで対話への意欲的な貢献が可能になる。また、対話で他者と関わることで得た問題解決の手法や学び直したことを言語化することで、対話の意義を実感でき、次の対話への意欲につながる。
<課題>(1)対話の質の分析においてはより客観的なものが求められる。(2)質の高い対話を起こすための手立てをさらに充実させる必要
がある。
参考・引用文献磯田正美・笠一生(2008);『思考・判断・表現による「学び直し」を求める数学の授業改善』,
明治図書.
古藤怜(1983);第12回愛知教育大学数学教育学会講演会記録
古藤怜・新潟算数教育研究会(1998);『コミュニケーションで創る新しい算数学習』,東洋館出版社
佐藤雅彰(2011);『中学校における対話と協同「学びの共同体」の実践』,ぎょうせい
永田潤一郎(2012);『数学的活動をつくる』,東洋館出版社
Bettina Pedemonte(2007);How can the relationship between argumentation and proof be analysed?,Educ Stud Math,66:pp23-41
David Bohm(2007);On Dialogue/金井真弓(2007);『ダイアローグ』,英治出版
Stephen Edlston Toulmin(1958);The Uses of Argument/戸田山和久・福澤一吉訳(2011)『議論の技法 トゥールミンモデルの原点』,東京図書.
George Polya(1945);How to Solve It/柿内賢信訳(1954)『いかにして問題をとくか』,丸善出版
OECD(2013);“DRAFT COLLABORATIVE PROBLEM SOLVING FRAMEWORK”http://www.oecd.org/pisa/
文部科学省(2008);『中学校学習指導要領解説 数学編』,pp.14-15,pp.32-33,教育出版.
国立教育政策研究所HP;『平成25年度 全国学力・学習状況調査 報告書・集計結果』.http://www.nier.go.jp/13chousakekkahoukoku/ 19