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編集・発行 大阪府羽曳野市はびきの3丁目7−1 TEL : 072 - 957 - 2121 FAX : 072 - 958 - 3291 E-mail : [email protected] はびきの ター 平成31年4月 238 ホームページ 人は息が止まってからどれだけの時間、生きていられるでしょうか? 世界中で、これまで数人のダイバーが呼吸停止の訓練を集中的に行い、高濃度の酸素を吸入して 20分以上水中で無呼吸状態を保ち無事に回復した記録が残っています(2016年、スペイン 人、セグラ氏ら)。 そのような訓練と酸素の準備がなければ、通常呼吸が止まり酸素を吸収できなくなってから5分 を超えると救命率は25%以下になり(ドリンカーの救命曲線)、助かっても脳に障害が残ると いわれています。突然の窒息では障害を残さずに回復するには息が止まってから2、3分の猶予 しかありません。 ところが、昨年2017年に驚く様な報告がサイエンス誌に載りました。 ハダカデバネズミというネズミは、特別な訓練も、予備的な酸素吸入もなく、酸素濃度5%(圧 力換算では約高度1万mに相当)では5時間、無酸素の環境では18分間障害を残さずに耐える ことができた、というものです。無酸素では脈拍が通常の1/4に低下し、意識を失いますが死に ませんでした。同時に、比較に用いられた通常のマウスは、可哀想なことに全て死んでしまいま した。 詳細な研究によると、哺乳類は通常、エネルギー源にブドウ糖を代謝していますが、このネズ ミでは無酸素状態になるとその代謝を切り替えて、果物の糖分の果糖の代謝でエネルギーを維持 しているとわかりました。この能力は今のところ他の動物にはみられない適応です。 この様な代謝の切り替えは、低酸素脳症による致命的な障害を初めとして窒息したときの生存期 酸素がなくても18分間生きています 院長 太田 三徳 間を延長する鍵になるかもしれません。 更に、このネズミ(ハダカデバネズミ)3000匹の30年間 の観察により、長寿命、年齢で低下しない生殖能力、年齢に 関連する癌のような疾患に罹らないなど、驚異的な結果が、 2018年1月に学術誌に報告されました (eLife 2018;7: e34427)。 次回は、呼吸から少し離れてこの報告をみてみましょう。 乳腺の病気について 乳腺外科 安積 達也 乳腺の病気には、乳腺炎や乳腺症などの非腫瘍性疾患と腫瘍性病変があります。 乳腺炎は、乳汁のうっ滞や細菌感染による乳腺の炎症で、乳汁分泌の多い授乳期に多く起こりま す。多くは抗生物質で改善しますが、時に外科的処置が必要になることがあります。 乳腺症は女性ホルモンのバランスの乱れにより、乳房痛や乳房の硬結など種々の症状を示し、 20歳代から50歳代でよく見られる乳腺症があります。 乳房の腫瘍性病変には、乳癌、線維腺腫や葉状腫瘍があります。 線維腺腫は、乳腺の良性腫瘍で若い女性に多く、多くは手術を行わずに経過観察を行います。そ

編集・発行 かわらばん · 2019. 4. 2. · ハダカデバネズミというネズミは、特別な訓練も、予備的な酸素吸入もなく、酸素濃度5%(圧

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Page 1: 編集・発行 かわらばん · 2019. 4. 2. · ハダカデバネズミというネズミは、特別な訓練も、予備的な酸素吸入もなく、酸素濃度5%(圧

かわらばん編集・発行

大阪府羽曳野市はびきの3丁目7−1TEL : 072-957-2121 FAX : 072-958-3291E-mail : [email protected]

大阪はびきの医療センター

平成31年4月    第238 号 

ホームページ

 人は息が止まってからどれだけの時間、生きていられるでしょうか?

世界中で、これまで数人のダイバーが呼吸停止の訓練を集中的に行い、高濃度の酸素を吸入して

20分以上水中で無呼吸状態を保ち無事に回復した記録が残っています(2016年、スペイン

人、セグラ氏ら)。

そのような訓練と酸素の準備がなければ、通常呼吸が止まり酸素を吸収できなくなってから5分

を超えると救命率は25%以下になり(ドリンカーの救命曲線)、助かっても脳に障害が残ると

いわれています。突然の窒息では障害を残さずに回復するには息が止まってから2、3分の猶予

しかありません。

 ところが、昨年2017年に驚く様な報告がサイエンス誌に載りました。

ハダカデバネズミというネズミは、特別な訓練も、予備的な酸素吸入もなく、酸素濃度5%(圧

力換算では約高度1万mに相当)では5時間、無酸素の環境では18分間障害を残さずに耐える

ことができた、というものです。無酸素では脈拍が通常の1/4に低下し、意識を失いますが死に

ませんでした。同時に、比較に用いられた通常のマウスは、可哀想なことに全て死んでしまいま

した。

 詳細な研究によると、哺乳類は通常、エネルギー源にブドウ糖を代謝していますが、このネズ

ミでは無酸素状態になるとその代謝を切り替えて、果物の糖分の果糖の代謝でエネルギーを維持

しているとわかりました。この能力は今のところ他の動物にはみられない適応です。

この様な代謝の切り替えは、低酸素脳症による致命的な障害を初めとして窒息したときの生存期

酸素がなくても18分間生きています                    院長 太田 三徳

間を延長する鍵になるかもしれません。

 更に、このネズミ(ハダカデバネズミ)3000匹の30年間

の観察により、長寿命、年齢で低下しない生殖能力、年齢に

関連する癌のような疾患に罹らないなど、驚異的な結果が、

2018年1月に学術誌に報告されました

(eLife 2018;7:e34427)。

次回は、呼吸から少し離れてこの報告をみてみましょう。

乳腺の病気について                        乳腺外科 安積 達也

 乳腺の病気には、乳腺炎や乳腺症などの非腫瘍性疾患と腫瘍性病変があります。

乳腺炎は、乳汁のうっ滞や細菌感染による乳腺の炎症で、乳汁分泌の多い授乳期に多く起こりま

す。多くは抗生物質で改善しますが、時に外科的処置が必要になることがあります。

乳腺症は女性ホルモンのバランスの乱れにより、乳房痛や乳房の硬結など種々の症状を示し、

20歳代から50歳代でよく見られる乳腺症があります。

 乳房の腫瘍性病変には、乳癌、線維腺腫や葉状腫瘍があります。

線維腺腫は、乳腺の良性腫瘍で若い女性に多く、多くは手術を行わずに経過観察を行います。そ

Page 2: 編集・発行 かわらばん · 2019. 4. 2. · ハダカデバネズミというネズミは、特別な訓練も、予備的な酸素吸入もなく、酸素濃度5%(圧

◆カンガルー教室      4月 10・17・24日    午後1時30分~   第1会議室◆アトピーカレッジ     4月 5・12・19日  午前10時~11時  第 1 会議室◆アトピー教室       4月 5・12・19・26日     午後2時~3時    第 2会議室

◆◆◆4月の教室案内◆◆◆

の類似の腫瘍性病変の葉状腫瘍は、悪性の場合もあるので、基本的には手術を行います。

乳がんは年々増加傾向であり、女性のがんで一番多く、年間4万人が新たに乳癌に罹っていま

す。乳がんは悪性疾患ですが、すべての方が不幸な転帰をとるのではなく、早期発見で治る可

能性が高いので、早期発見・早期診断・早期治療は非常に重要です。早期発見のためにも、乳

がん検診を受けていただき、精密検査が必要となった際は、必ず精密検査をうけてください。

 当科では、乳房に症状を認める方はもちろん、乳がん検診にて要精査となった

方に対して、より早く・確実に診断するよう心掛けています。

当科では乳がんの診断から治療(手術、放射線療法、抗ガン剤や

ホルモン療法などの薬物療法)まで一貫して行うことができる

乳がん学会認定施設です。

 乳房に関することで気にかかることがあれば、

お気軽に乳腺外科までお越しください。

「胸部レントゲン撮影について」                 放射線科  森田 雅士

 今回は放射線科で最も検査数が多い胸部のレントゲン撮影についてのお話です。胸部のレント

ゲンを撮る際、「大きく息を吸って、止めてください。」というお声がけをしています。大きく

息を吸うことで肺に空気が充満して肺を観察できる範囲が広がります。一方、腹部のレントゲン

では息を吐いたところで止めます。息を吐き出すことで肺が小さくなり腹部を観察できる範囲が

広くなります。

 息を止める理由は、動いてしまうと写真がブレてしまうからです。普通の写真と同じで、綺麗

な写真を撮るためには体を動かさないことが重要になります。レントゲン撮影の時はできるだけ

動かないようにして、息をしっかりと止めてもらうようにお願いしてい

ます。医療機器の発達により撮影時間はかなり短くなっています。息を

止める時間も短くなってきていますので、「もう撮影終わったの?」と

思われる方もいるのではないでしょうか。

 呼吸状態が極度に悪い方や小さいお子さんなど、息を止められない患

者さんの撮影では息を吸ったタイミングを見計らい、少しでも肺を観察

できる範囲を広く撮影することを心がけています。レントゲン撮影が初

めての方やうまく息を止める自信のない方でもタイミングを見て撮影し

ていますのでご安心ください。

検査時間が数分の検査でありながら一枚の胸部レントゲンから得られる

情報はとても多いです。一人ひとりの患者さんの胸部レントゲン写真か

ら少しでも多くの情報を得られるよう努力していきますので、ご理解と

ご協力をお願いします。