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学生のニーズ調査に基づく産学連携リーダーシップ研修の実践 中嶋 克成(徳山大学) Keyword: リーダーシップ キャリア教育 地域企業 【背景】 本学徳山大学は「地域に輝く大学」を標榜している。2014 年度から文部科学省大学再生加速プログラム ( Acceleration Program for University Education Rebuilding、以下AP)事業に採択され、アクティブ・ラー ニング(以下 AL)を中心とした大学教育の質改善に取り組 んでいる(図 1)。翌 2015 年度には「地(知)の拠点大学に よる地方創生推進事業(COC+事業)」(文部科学省)におい て、 徳山大学が新たな COC に認定され、2019 年度までの 5 年間、COC として「地域人材循環」構造の確立をめざし、 教育改革を推進することになった。こうした取り組みの結 実である「特色ある教育カリキュラム」や本学が有するさ まざまな知的資源を活かして、地域を支える人材の育成、 地域産業の振興、市民生活や地域活動への貢献など、地域 課題の解決のために「地域との連携」をさらに深め、地域 再生の拠点となる大学づくりに取り組んでいる。 図 1.徳山大学 AP の概要 AP 事業採択より、地元企業や自治体とは継続的に連携事 業を展開しており、地域ぐるみで大学のAL 向上に取り組む 環境を整えつつある。2018 年度は、産学連携科目である地 域ゼミ ※1 で、地元若手企業人の団体である周南青年会議所 (周南 JC)とともに授業を展開することとなった。 当該「地域ゼミ」においては、一部授業回で周南JC のメ ンバーが講師となり、(1)周南地域の企業経営者や社員と の関りから、社会人に必要とされる「リーダーシップ」の 醸成をすること、また(2)地域の企業(行政含む)の若 手経営者、社員と交流を持つことで、各業種への理解を深 め、就職活動・就業に必要な知識を得ると同時に、地域で 働く意義・魅力を実感することを目的とした。 本報告では、「地域ゼミ」実践の様子を概観し、JC周南、 メンバー授業回の中で実施したアンケートから抽出された 学生の課題と、その課題解決のための「リーダーシップ研 修」の実施について発表する。

学生のニーズ調査に基づく産学連携リーダーシップ …に後期地域ゼミでは「山口県の地域課題解決」に取り組 んだ。その構造について地域ゼミ「コモンルーブリック」

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Page 1: 学生のニーズ調査に基づく産学連携リーダーシップ …に後期地域ゼミでは「山口県の地域課題解決」に取り組 んだ。その構造について地域ゼミ「コモンルーブリック」

学生のニーズ調査に基づく産学連携リーダーシップ研修の実践

中嶋 克成(徳山大学)

Keyword: リーダーシップ キャリア教育 地域企業

【背景】

本学徳山大学は「地域に輝く大学」を標榜している。2014

年度から文部科学省大学再生加速プログラム

( Acceleration Program for University Education

Rebuilding、以下AP)事業に採択され、アクティブ・ラー

ニング(以下 AL)を中心とした大学教育の質改善に取り組

んでいる(図 1)。翌2015年度には「地(知)の拠点大学に

よる地方創生推進事業(COC+事業)」(文部科学省)におい

て、 徳山大学が新たなCOCに認定され、2019年度までの5

年間、COC として「地域人材循環」構造の確立をめざし、

教育改革を推進することになった。こうした取り組みの結

実である「特色ある教育カリキュラム」や本学が有するさ

まざまな知的資源を活かして、地域を支える人材の育成、

地域産業の振興、市民生活や地域活動への貢献など、地域

課題の解決のために「地域との連携」をさらに深め、地域

再生の拠点となる大学づくりに取り組んでいる。

図 1.徳山大学APの概要

AP事業採択より、地元企業や自治体とは継続的に連携事

業を展開しており、地域ぐるみで大学のAL向上に取り組む

環境を整えつつある。2018年度は、産学連携科目である地

域ゼミ※1で、地元若手企業人の団体である周南青年会議所

(周南JC)とともに授業を展開することとなった。

当該「地域ゼミ」においては、一部授業回で周南JCのメ

ンバーが講師となり、(1)周南地域の企業経営者や社員と

の関りから、社会人に必要とされる「リーダーシップ」の

醸成をすること、また(2)地域の企業(行政含む)の若

手経営者、社員と交流を持つことで、各業種への理解を深

め、就職活動・就業に必要な知識を得ると同時に、地域で

働く意義・魅力を実感することを目的とした。

本報告では、「地域ゼミ」実践の様子を概観し、JC周南、

メンバー授業回の中で実施したアンケートから抽出された

学生の課題と、その課題解決のための「リーダーシップ研

修」の実施について発表する。

Page 2: 学生のニーズ調査に基づく産学連携リーダーシップ …に後期地域ゼミでは「山口県の地域課題解決」に取り組 んだ。その構造について地域ゼミ「コモンルーブリック」

【内容】

2018年前期・後期地域ゼミ(中嶋ゼミ)では周南 JC

青少年育成員会委員長川岡氏とともに、大学生をはじめ

とする地域の青年が抱えるニーズを解決するセミナー企

画に取り組んだ。本ゼミは学生の抱えている課題や将来

のキャリア像を、地元企業人と学生が対話を通じて共有

し、ともに成長、課題解決することを目指すことを企図

して設定された。もちろん、地域ゼミ(前期・後期)で

はそれぞれ解決すべき「地域課題」を有しているが、そ

の解決策を計画・実行するのに必要な「社会人力」とで

もいうべきものを地元企業人と学生の対話及びその後企

画するセミナーを通じて育成するものである。

前期地域ゼミで「社会人力」の一つとして必要なリー

ダーシップについての理解度や学生自身のキャリアにつ

いて調査するためのアンケートが行われた(表1)。前期

地域ゼミの学生は当該アンケートの実施により自らの課

題として明らかになった「リーダーシップ」や「社会人

基礎力」を身に付けるため、地元企業のPBIに参加し地

域課題解決を図った(紙面の都合上PBIの内容は省略す

る。なお中嶋(2019)「地域課題解決を企図した地域ゼミ

『西京銀行PBI』の実践と教育効果―徳山大学コモンル

ーブリックを基に-」『地域活性研究』Vol.10に詳しい)。

前期地域ゼミで課題として抽出された「リーダーシッ

プ」について、後期地域ゼミ学生を含む周南地域の青年

(15~25歳)を対象に周南JC主催の「リーダーシップ

研修」を実施した。ここで得た「リーダーシップ」を基

に後期地域ゼミでは「山口県の地域課題解決」に取り組

んだ。その構造について地域ゼミ「コモンルーブリック」

(スライド)を基に整理したのが図2である。

次に、リーダーシップ研修実施までの流れを確認して

おきたい。

図2.リーダーシップ研修及び地域ゼミの構造

① 地元企業人とのランチ茶話会の実施

まず、現在の青年のニーズを把握するため、周南JC青

少年育成員会・委員長の川岡氏と若手経営者・重高氏を

お呼びし、本学学食で大学生(2018年前期中嶋ゼミ学生

15名)とともにランチ茶話会を実施した(写真1)。

写真1.ランチ茶話会の様子. 上:川岡氏、下:重高氏

(若手経営者による自身のキャリア紹介)

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ランチ茶話会では両名のキャリアの紹介、周南JCの活

動の紹介の後、学生のニーズ調査のためのインタビュー

が実施された。また、リーダーシップについての理解度

や学生自身のキャリアについて調査するためのアンケー

トが行われた(表1)。

なお、本アンケート実施前には周南JC川岡氏・重高氏

にゲストティーチャーとしてお越しいただき、キャリア

教育やリーダーシップに関連する基礎知識についてグル

ープワークなどを通して事前学習も行っている。

②アンケートの結果

本アンケートはランチ茶話会中嶋ゼミ学生(2 年生 15

名)に実施した。代表的な結果の抜粋は下表 1 の通りで

ある。「将来の夢」は半数の学生しか持てておらず、希望

する就職先がある学生も4名(26.7%)と少なかった。また

県内就職希望者も4名(26.7%)と少なかった。

リーダーシップについては無いと答える学生が多い

(10 名 66.7%)、一方、社会人として必要な能力として

リーダーシップをあげる学生は多く、14名(93.3%)の

学生が必要と考えていることが分かった。

③事前学習「キャリア関連基礎講座」における「リーダ

ーシップ」

前節でも述べたようにアンケート回答の前提知識とし

て、事前に周南JCの川岡氏・重高氏には「キャリア関連

基礎講座」として「リーダーシップ」や「ビジョン」、「ミ

ッション」などについてご講義いただいている(写真2)。

本発表において「リーダーシップ」をどう規定するかは

極めて重要な問題であるためここで整理しておきたい。

表1.アンケートの結果(抜粋)

本講座でいう「リーダーシップ」は、日向野(2015)の

定義を参照している。日向野は「いわば組織のトップや

上位階層だけのリーダーシップでは環境の激変に対応で

きないばかりか、変化を作り出すこと(イノベーション)

もできないことが徐々にはっきりしてきた。そのため、

一部の企業では最近、権限者だけがリーダーシップを発

揮すべきであるという考え方から、徐々に全員がリーダ

ーシップを発揮すべしという方針に転換しつつある」と

している。すなわち「リーダー」と「リーダーシップ」

とを分けて考え、「リーダーシップ」は一部の上位階層の

者だけでなく全員が発揮することで、より円滑に組織運

営が行えるとしている。「キャリア関連基礎講座」講師の

両名は、本定義に従って「リーダーシップ」を企業での

具体的場面を紹介しながら説明された(写真2)。

写真2.キャリア関連基礎講座の様子

将来の夢・

目標の有無

就職希望 県内志向

(山口)

リーダーシ

ップの有無

リーダーシッ

プの必要性

ある 8 名

(53.3%)

4 名

(26.7%)

4 名

(26.7%)

4 名

(26.7%)

14 名

(93.3%)

ない 5 名

(33.3%)

10 名

(66.7%)

2 名

(13.3%)

10 名

(66.7%)

0 名

(0.0%)

その他 2 名

(13.3%)

1 名

(6.7%)

9 名

(60.0%)

1 名

(6.7%)

1 名

(6.7%)

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④リーダーシップ研修の実施

先述した通り、「リーダーシップ」については無いと答

える学生が多い(10 名 66.7%)。一方、社会人として必

要な能力として「リーダーシップ」をあげる学生が(14

名 93.3%)多いことが分かった。以上の結果から、周南

地域の青年にとって「リーダーシップ」育成は喫緊の課

題であると考えられた。また、青年の「リーダーシップ」

を育成していくことは、青年自身の望ましいキャリアに

資するだけでなく、「地域社会全般を維持発展していくた

めには、常に変わり続ける社会の中においては、誰もが

リーダーシップを発揮することが重要である」(川岡氏)

と考え、次世代を担う若者に対してリーダーシップを学

ぶ機会を設けるためにリーダーシップ研修を企画するこ

とになった。

2018年10月28日周南JC主催で地元青年向けリーダ

ーシップ研修「ゼロから始めるリーダーシップ~マン

ガ・ラノベの困難な場面を本気で考えてみた~」を実施

した(写真3)。本学学生50名を含む地元青年計67名が

参加した(写真4)。

写真3.リーダーシップ研修の様子

写真4.リーダーシップ研修参加者集合写真

(大学生・社会人のほか地元高校生も参加)

【むすびにかえて】

むすびにかえて、「ゼロから始めるリーダーシップ~マ

ンガ・ラノベの困難な場面を本気で考えてみた~」の内

容の整理、及び本研修の成果と課題について論じておく。

本研修は、講義とグループワークとで構成された第 1

部と、人材マネジメントの専門家である目黒勝道氏によ

るご講演の2部構成で実施された。

第1部では、「リーダーシップ」についての講義ととも

に、マンガやライトノベルの紛争場面や困難場面を基に

どうすればより良い解決を望めるかを、グループで話し

合いながら自身の考えを共有するという構成であった。

マンガやライトノベルを事例にしたことで青年たちの興

味・関心を引くことができていた。第 2 部では、第 1 部

で学んだ「リーダーシップ」が企業の中ではどのように

活用されているのかを大手コーヒーメーカーでマネジメ

ントを行った目黒氏の体験を基にご講演があった。これ

らの活動を通して地元青年らは「リーダーシップ」につ

いての理解が深まったことが、終了後に実施したインタ

ビューから分かった。

一方でいくつかの課題もあった。今回は属性(学年・

学校等)が同じ者を中心にグループを形成していたため、

グループディスカッションにおける意見は出やすかった

が、その多様性が一部乏しい場面が見られた。次年度以

降、同様の研修を企画する際は、所属を分散させ意見の

多様性を担保する等の改善を行っていく予定である。

【脚注】

※1地域ゼミ:学生主体で地域の身近な問題を見つけ、

その解決に向け調査・分析から解決策の提示までを行う

【謝辞】

「地域ゼミ」内で講師を務めていただいた川岡様・重

孝様、本学学生にリーダーシップ研修という学びの機会

を与えていただいた周南青年会議所様に感謝申し上げま

す。また、川岡様には本発表原稿執筆にあたって資料及

び写真をご提供いただくなど多大なご協力いただきまし

た。感謝いたします。

【参考文献】

中嶋(2019):地域課題解決を企図した地域ゼミ「西京

銀行PBI」の実践と教育効果―徳山大学コモンルーブ

リックを基に-.地域活性研究Vol.10.

日向野幹也(2015):新しいリーダーシップ教育とディ

ープ・アクティブラーニング.ディープ・アクティブラ

ーニング,第9章.勁草書房.