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はじめに 「The1 st InternationalSugarandSugarcane Conference(第1回国際糖・甘しゃ会議)」は、 タイ甘しゃ糖技術者会議(ThaiSocietyofSugar Cane Technologists、 以 下「TSSCT」 と い う ) および大手製糖企業ミトポングループの有するサ トウキビ研究所 1) が主催者となり、タイ最大の農 業大学であるカセサート大学やタイ全土の製糖工 場を統括するThaiSugarMillersの協力を受け、 2019年7月31日~8月2日にかけて、チョンブ リ県パタヤシティ(図1)で開催された(写真1~ 3)。パタヤシティはタイ湾に面する首都バンコク 近郊の高級リゾート地であり、日本人を含め毎年 多くの観光客が訪れる。「Noveltechniquesand innovation in cane and sugar industry(サト ウキビ・製糖産業における斬新な技術革新)」とい うテーマの下開催されたこの国際会議に筆者らもメ ンバーの一員として参加し、口頭発表する機会をい ただいたので、その様子について報告する。会議の 概要は以下の通りである。 場所: タイ王国チョンブリ県パタヤシティデゥジッ トターニーホテル 日程: 7月31日 開会式、基調講演(育種および病 害虫防除)、一般口頭発表 8月1日 基調講演(工程管理)、一般口頭発表 8月2日 基調講演(糖および甘味料の動向)、 一般口頭発表、閉会式、展示会 参加費: 300ドル(3万2400円)(タイ人は3000 バーツ〈1万440円〉) (注) (注)1ドル=108円、1バーツ=3.48円(2019年8月1日時点) 発表の内訳は、TSSCTから招待を受けた海外研 究者の発表を含む19課題の基調講演、それ以外の 一般口頭発表20課題、ポスター発表7課題となっ た。タイ、日本のほか、米国、インド、スリランカ、 中国、ベトナム、フィリピン、インドネシア、シン ガポールなど多くのサトウキビ生産国から参加者が 集った。以下に筆者らを含む数題の発表内容につい て紹介する。 62 砂糖類・でん粉情報2020.8 海外情報 【要約】 2019年7~8月にタイ王国で開催された第1回国際糖・甘しゃ会議はタイ甘しゃ糖技術者会議とミトポ ンサトウキビ研究所を中心にタイの企業や大学の協力を得て開催された国際会議である。ゲストスピーカー として著名な海外研究者らを 招 しょう へい し、3日間にも及びサトウキビ・製糖産業における幅広い話題を扱った 会議は大いに盛り上がり、サトウキビ大国であるタイの存在感を今一度アピールする良い機会となっていた。 国立大学法人 琉球大学農学部 渡邉 健太、平良 英三 NPO法人 亜熱帯総合研究センター・琉球大学協力研究員 新里 良章 タイから世界へ発信する サトウキビ・製糖産業における技術革新 ~第1回国際糖・甘しゃ会議参加報告~

タイから世界へ発信する サトウキビ・製糖産業にお …Conference(第1回国際糖・甘しゃ会議)」は、 タイ甘しゃ糖技術者会議(Thai Society

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Page 1: タイから世界へ発信する サトウキビ・製糖産業にお …Conference(第1回国際糖・甘しゃ会議)」は、 タイ甘しゃ糖技術者会議(Thai Society

はじめに「The�1st�International�Sugar�and�Sugarcane�

Conference(第1回国際糖・甘しゃ会議)」は、

タイ甘しゃ糖技術者会議(Thai�Society�of�Sugar�

Cane�Technologists、以下「TSSCT」という)

および大手製糖企業ミトポングループの有するサ

トウキビ研究所1)が主催者となり、タイ最大の農

業大学であるカセサート大学やタイ全土の製糖工

場を統括するThai�Sugar�Millersの協力を受け、

2019年7月31日~8月2日にかけて、チョンブ

リ県パタヤシティ(図1)で開催された(写真1~

3)。パタヤシティはタイ湾に面する首都バンコク

近郊の高級リゾート地であり、日本人を含め毎年

多くの観光客が訪れる。「Novel�techniques�and�

innovation� in�cane�and�sugar� industry(サト

ウキビ・製糖産業における斬新な技術革新)」とい

うテーマの下開催されたこの国際会議に筆者らもメ

ンバーの一員として参加し、口頭発表する機会をい

ただいたので、その様子について報告する。会議の

概要は以下の通りである。

場所:�タイ王国チョンブリ県パタヤシティデゥジッ

トターニーホテル

日程:

 7月31日� �開会式、基調講演(育種および病

害虫防除)、一般口頭発表

 8月1日� �基調講演(工程管理)、一般口頭発表

 8月2日� �基調講演(糖および甘味料の動向)、

一般口頭発表、閉会式、展示会

参加費:�300ドル(3万2400円)(タイ人は3000

バーツ〈1万440円〉)(注)

(注)1ドル=108円、1バーツ=3.48円(2019年8月1日時点)

発表の内訳は、TSSCTから招待を受けた海外研

究者の発表を含む19課題の基調講演、それ以外の

一般口頭発表20課題、ポスター発表7課題となっ

た。タイ、日本のほか、米国、インド、スリランカ、

中国、ベトナム、フィリピン、インドネシア、シン

ガポールなど多くのサトウキビ生産国から参加者が

集った。以下に筆者らを含む数題の発表内容につい

て紹介する。

62 砂糖類・でん粉情報2020.8

海外情報

【要約】 2019年7~8月にタイ王国で開催された第1回国際糖・甘しゃ会議はタイ甘しゃ糖技術者会議とミトポンサトウキビ研究所を中心にタイの企業や大学の協力を得て開催された国際会議である。ゲストスピーカーとして著名な海外研究者らを招

しょう

聘へい

し、3日間にも及びサトウキビ・製糖産業における幅広い話題を扱った会議は大いに盛り上がり、サトウキビ大国であるタイの存在感を今一度アピールする良い機会となっていた。

国立大学法人 琉球大学農学部 渡邉 健太、平良 英三NPO法人 亜熱帯総合研究センター・琉球大学協力研究員 新里 良章

タイから世界へ発信するサトウキビ・製糖産業における技術革新

~第1回国際糖・甘しゃ会議参加報告~

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63砂糖類・でん粉情報2020.8

写真2 研究者による発表の様子写真1 多くの参加者が集った国際会議の会場

写真3 主催者のミトポンサトウキビ研究所のメンバー

図1 国際会議の開催されたパタヤシティの位置

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1.日本人研究者の発表(1)新里良章「Thecharacteristicsofsug-

arcaneharvestersand theeffectiveut i l izat ion of small sugarcaneharvester inOkinawa(沖縄におけるサトウキビ用ハーベスタの特徴および小型ハーベスタの有効利用)」

沖縄県で稼働する小型ハーベスタの性能、ハーベ

スタ収穫後の株出し管理やハーベスタ収穫圃ほ

場じょう

好まれる品種などについての状況を発表した。沖縄

ではハーベスタの稼働日数は降雨によって制限され

るが、重量の小さい小型ハーベスタは重量の大きい

大型ハーベスタより降雨による作業不可日数が縮小

される(図2)。沖縄の収穫時期は圃場の湿度が高

く、圃場によっては小型ハーベスタでも深い轍わだち

が形

成され(図3)、ハーベスタ収穫後の株出し管理では、

株揃そろ

えや心土破砕が必要となる。また、本島南部地

域でハーベスタ収穫を行う農家では、茎径は細めで

あるが茎数が多く、株出し萌ほう

芽が

が良い農林22号が

好まれる。狭小な圃場に加えて、台風の襲来による

サトウキビの乱倒伏や収穫時期に加湿な圃場など、

世界的に見ても不利な条件である沖縄県では、小型

ハーベスタが主流で、そのために重要なのは株出し

管理やハーベスタに適合する品種の選択である。

64 砂糖類・でん粉情報2020.8

図3 小型ハーベスタ(左)と大型ハーベスタ(右)による土壌の硬化と轍の形成(株を中心とした左右150cmの土壌硬度のプロフィール〈上段:色が濃いほど固い〉と轍の深さ〈下段〉。特に大型ハーベスタ〈右〉は畝

うね

間の硬化と轍の形成が著しい)

図2 収穫期間中の降雨量と作業不可日数率の関係(大型ハーベスタは小型ハーベスタの3倍)

0%

10%

20%

30%

40%

50%

100 200 300 400 500 600 700収穫期間1~3月の降雨量 ( mm)

収穫機稼働不可

日数率

(%)

大型・中型車輪

中型クローラ

小型クローラ

大型・中型車輪 : Y = 0.0004 X + 0.045 (R2 = 0.76)中型クローラ : Y = 0.0003X - 0.0098 (R2 = 0.71)小型クローラ : Y= 0.0002 X - 0.0084 (R2 = 0.79)

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(2)平良英三「ApplicationofNear-infra-redspectroscopyforsugarproduc-tion inJapan(日本の製糖業における近赤外分光法の活用)」

日本の品質取引における細裂NIR法(近赤外分光

法)(注)の運用と基本的な考え方と今後の可能性に

ついて発表した(写真4)。近赤外分光法は非破壊

計測であり、そのメリットも多い反面、精度評価や

複数装置の運用に配慮しなければならない。近赤外

分光法の測定は簡便かつ迅速である一方、従来の分

析は労力と時間がかかる。近赤計の精度評価には、

従来法を維持する必要があり、管理センターに労力

が集中する。近赤外分光法の導入に当たっては、サ

ンプルの代表性、前処理(破砕法とその精度)、近

赤外分光法と従来法の測定量、従来法の繰り返し精

度などの確認が必須であることを説明した。また、

実運用に当たってネットワークシステムが強力な

ツールと成り得ること、さらに、技術が高度化する

一方で、実際に運用可能なシステムを選択すべきと

持論を述べた。品質取引以外への応用についても紹

介した。

(注)�かつては、サトウキビの品質は搾汁液を利用して測定されていたが、細裂したサンプルを近赤外分光法(NIR法)により直接分析することにより、迅速かつ低コストで測定できる。

(3)渡邉健太「Potassiummanagementstrategytoimprovesugarcanequal-ity innortheastThailand(東北タイにおけるサトウキビの品質向上を目的としたカリウム管理法)」

肥培管理はサトウキビの収量および品質に大きな

影響を与える要因の一つであるが、その中でもカリ

ウムは肥料の三要素の一つとして知られる一方で過

剰に施用するとサトウキビの糖度を大きく低下させ

ることが報告されている。また、カリウムを多量に

含む原料は製糖工程において糖の回収率を低下させ

ることも知られている。そのため、単位面積当たり

から得られる糖収量を最大化するためには、サトウ

キビの栄養状態を正確に把握し、その結果に基づい

た必要量のカリウムを施用するのが望ましい。ミト

ポンサトウキビ研究所勤務中に、現地東北タイの主

要品種を用いて原料茎中の最適なカリウム含有量を

明らかにするとともに、2年間にわたって近隣の製

糖工場に搬入される原料茎の元素分析を行った。そ

の結果、工場の管轄下にあるサトウキビ圃場の約

60%がカリウム過剰であることが明らかになった

(図4)。日本とタイでは栽培品種の養分吸収特性や

土壌化学性が大きく異なると予想されるため、この

65砂糖類・でん粉情報2020.8

写真4 発表の様子

図4 工場へ搬入された原料の圧搾液中カリウム含有量(2000mg/L以上だとカリウム過剰と判断される)

0

10

20

30

40

割合

(%

)

2017/18年度

(340サンプル) 2018/19年度

(437サンプル)

圧搾液中カリウム含有量 (mg/L)

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研究結果を直接日本に適応することはできないが、

手法そのものは容易に導入可能である。今後、同様

の研究を日本でも進めていきたい。

2.海外研究者の発表

(1)Dr.ThanankornJaiphong(TJ博士)「Effectsof irrigationand fertilizerapplicationdepthon rootdistribu-tion,growthandyieldofsugarcane(灌

かん

水および肥料の施用深度がサトウキビの根の分布、成長および収量に与える影響)」

TJ博士は日本への留学経験があり、鹿児島大学

大学院連合農学研究科(琉球大学所属)で植物栽培

学を専攻し、2017年に博士号を取得した。現在は

カセサート大学カムペーンセーンキャンパスの敷地

内にある国立農業機械センターの研究員として働い

ている。タイ帰国後も筆者らと頻繁に交流を図り、

現地での視察や研究活動を積極的にサポートしてく

ださっている。

タイでは管理機を用いて20~30センチメートル

の深さに肥料を施用するのが一般的だが、この深さ

を推奨する学術的な根拠があるわけではないと言

う。最適な施用深度を明らかにすることで根の発達

を促進し、肥料の利用効率を高めることができるた

め、結果として原料の増収へとつながる。また、根

をより下方まで伸長させることができればタイでは

大きな問題となっている干ばつ時の減収被害も軽減

されると考えられる。TJ博士は灌水条件下と干ば

つ条件下で肥料の施用深度を10、20、30センチ

メートルと変化させた大型のポット試験を行った

(写真5、図5)。施用深度が深くなるにつれ、ポッ

ト深部での根の成長が促進される傾向が見られた

が、地上部の成育には大きな違いは認められなかっ

た。また、干ばつ下では地上部の成育だけでなく根

の成長も大きく阻害されたが、再度水を与えるとそ

の後の根の成長は灌水条件下よりも早かった。以上

より、深度10~30センチメートルの範囲では収量

関連形質に大きな違いが見られなかったことから、

燃料の消費を抑えることができるため肥料の施用位

置が浅い方が好ましいと結論付けている。また、干

ばつ後の再灌水は根の成長を著しく促進するため、

地上部の回復に関与している可能性がある。

66 砂糖類・でん粉情報2020.8

写真5 ポット試験の外観

図5 試験の処理内容(肥料の施用深度を3段階に変化させた)

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(2)Assist.Prof.KhwantriSaengprach-atanarug(クワントリ博士)「FarmmonitoringandmappingplatformforsugarcaneusingUASimagery( ドローン画像を用いたサトウキビのための圃場モニタリングとマッピング基盤システム)」

クワントリ博士も鹿児島大学大学院連合農学研究

科(琉球大学所属)で博士号を取得し、現在はコー

ンケーン大学で教職に就いている。博士はサトウキ

ビの機械化や情報通信技術を活用したスマート農業

の技術開発に関する研究を精力的に行っている。今

回の講演では、�“Field�practice�solutions”とい

う実用サービスの研究開発と実状について紹介して

いた。“Field�practice�solutions”は民間企業と

ともに進めているサービスで、現在は数千ヘクター

ルの規模でデモンストレーションを実施している

とのことであった。このサービスは三つのフェー

ズに区分され、圃場のセンシングと情報整備を行

う“Farm�Mapping�&�Monitoring”、これらの情

報に基づく栽培管理を支援する“Farm�Robotic�

solution”、さらに圃場の生産性評価と経営改善の

可能性を支援する“Farm�Business� Intelligent”

がある。このサービスのアイデアはクワントリ博士

が琉球大学で学んだことをベースとしており、今回

はドローンを利用した最新の研究事例を取り上げ

た。ドローンとマルチスペクトルカメラを利用す

ることで、ブリックス(注)や収量の推定が可能であ

り、その推定に関する数理モデルについて詳しい説

明があった。ドローンセンシングと地理情報システ

ム(GIS)を活用し、ブリックスの変動解析(図6)、

白葉病の被害評価、育種試験への応用などについて

具体例を紹介していた。本サービスを受ける農家は

LINEのようなソーシャルネットワーキングサービ

スを活用して対話的なサービスを受けることも可能

と言う。本サービスの価格は、ドローン1フライト

から得られる単位面積当たりの分析結果を最小単位

として決定されるため、農家が導入しやすく長期利

用が可能となるよう工夫されている。現在は、大規

模生産者や製糖工場がテスト運用およびデモンスト

レーションとして利用しており、本格的なサービス

稼働に向けて準備を進めている。

(注)�搾汁液の中に溶けていて乾燥させると固まる物質(可溶性固形分)の割合。搾汁には、ショ糖、転化糖、その他の成分が溶けており、これをブリックスと表すが、糖分そのものではない。

(3)PisittineeChapanya「Potential ofnear infrared spectroscopy usingquantitativeanalysis of sugars inmolassesandhightestmolasses(近赤外分光法による糖蜜およびHT糖蜜中の糖成分定量の可能性)」

糖蜜中の糖分分析に近赤外分光法を利用する研究

が報告されていた。糖蜜はエタノール生産の原料と

して利用されるため、糖蜜中に存在する発酵可能な

糖分量を迅速に把握する技術が求められている。タ

67砂糖類・でん粉情報2020.8

図6 ドローンとGISを利用したブリックスの変動マップ(六角形のポリゴンでブリックスが評価される。ポリゴンの色は1.5カ月前との差を表現しており、濃色がブリックス上昇率の高い箇所を表現している)

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イの製糖企業ミトポングループでは、計画的なエタ

ノール生産を行うために、圧搾汁を酵素で発酵させ

た糖蜜(high�test�molasses〈以下「HT糖蜜」と

いう〉)を一部で生産している。HT糖蜜の利用は長

期の保存が可能となる一方で発酵に伴って変化する

糖分含量(ショ糖、ブドウ糖、果糖)の把握が重要

である。これらの分析にはHPLC(高速液体クロマ

トグラフィー)法が採用されているが、希釈やろ過

などの前処理が必要であり、1サンプル当たり1時

間程度かかる。そこで、通常プロセスの糖蜜とHT

糖蜜に含まれる糖分を近赤外分光法で測定する技術

を紹介していた。近赤外分光法を利用することで、

いずれの糖蜜でもショ糖、ブドウ糖、果糖の定量分

析が可能であり、迅速な評価が可能であった。この

方法は、異常な測定値を示すことがしばしばあるも

のの、異常値を学習させることにより、測定精度の

改善を図ることができたと報告していた。近赤外分

光法を利用することで、1サンプル当たり約1分で

糖分測定が可能である。

(4)Assist.Prof.PitpornRitthiruangdej「NIRSinsugarmill(製糖工場における近赤外分光法)」

サトウキビ原料の品質を近赤外分光法で評価する

報告であった。タイではグリーン収穫(火入れを行

わない収穫)を推進しているものの、バーン収穫(製

糖に不要な梢しょう

頭とう

部ぶ

や葉などを除去するため火入れ

を行う収穫)原料の割合の方が多いのが現状である。

そこで、グリーン収穫およびバーン収穫原料に対応

する近赤外分光法検量モデル開発を紹介していた。

紹介していた測定は日本で行われている細裂NIR法

と同様な方法であり、破砕した原料をそのまま近赤

外分光法で測定し、糖度を評価するものである(写

真6)。全茎サンプル900点を収集し、その半分の

サンプルをそれぞれ焼いて模擬的なバーン収穫原料

を作成していた。バーン収穫原料の水分は、グリー

ン収穫原料よりも低くなる傾向にあり、逆に糖度は

高くなる傾向を示した。近赤外スペクトルからも同

様の傾向を推察することができた。糖度や水分、繊

維率などの検量モデルを作成した結果、いずれの原

料についても良好な精度で評価することが可能で

あった。さらに、近赤外分光法ではグリーン収穫と

バーン収穫原料の判別も可能であることを報告して

いた。

上で紹介した議題に加え、国際会議の基調講演・一

般口頭発表で用いられたプレゼンテーションファイル

の多くはTSSCTのホームページから入手可能である

(URL : � h t t p : / / t s sc t . o r g / จดหมายข่าว /presentation/)。興味のある方はぜひ活用してほしい。

3.農機具会社の展示会国際会議ではタイの農業機械や先端技術関連会社

のブースがあり、係の社員が熱心に説明を行ってい

た。その中で、サトウキビ用の作業機や収穫機械の

製造販売を行っている会社のブースを訪ねた。

(1)SamartKasetyonLTD.ケーンローダやハーベスタを生産販売しており、

2000年初頭に日本の小型ハーベスタ製造のメー

カーと提携し小型ハーベスタ生産を手掛けたようで

ある。しかし、その後150馬力クラスの中型ハーベ

68 砂糖類・でん粉情報2020.8

写真6 近赤外分光法による破砕サンプル測定の様子

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スタ生産へと移行し、現在では200馬力クラスの

大型ハーベスタを2機種製造販売している(図7)。

大型ハーベスタは、土壌踏圧の軽減を考慮して走

行部はクローラが採用されており、販売のうたい文

句となっていた。すでに、自国内で大型ハーベスタ

を製造するまでに農機具メーカーは進展を遂げてい

る。タブレットのモニタを備え付けるなど、豪州や

ブラジルの大型ハーベスタに匹敵する外観である。

収穫原料はハーベスタ後方に取り付けられたバケッ

トでの搬出で、日本の小型ハーベスタと類似した仕

様である。大型ハーベスタの製造販売は2015年か

らとのことで、まだ新規参入の状況である。大規模

農家では豪州製の大型ハーベスタがよく見られるの

で、国産機種が普及していくのはこれからだと思わ

れる。

(2)ChanTractorケーンローダ、リーフカッタおよびトラクタ装着

型全茎式ハーベスタが主力商品であり、会場に展示

されていた(図8)。リーフカッタは立毛状態で回

転するナイロンカッタによりサトウキビの枯葉を除

去する装置である。15馬力程度の小型トラクタか

ら30馬力程度の中型トラクタに搭載し、収穫前に

畝間に進入して作業を行う。収穫前に枯葉を焼却す

る必要がなくなり、グリーン収穫が可能となる。全

茎式ハーベスタは単軸のベースカッタによりサトウ

キビを刈り取り、ゴムロールで保護された搬送装置

でバケットに積込み、集茎するサトウキビ刈り取り

機である。20メートル程度刈り取ると、バケット

の仕切りを開いて集茎したサトウキビを停止するこ

となく圃場に落下させていく。ビデオ上映では茎長

の短い倒伏キビも収穫しているが、直立に近い立毛

状態のサトウキビが適している。

69砂糖類・でん粉情報2020.8

図7 タイ国産の大型ハーベスタ

図8 リーフカッタ(左)と全茎式ハーベスタ(右)

資料:会場内パンフレットおよびSamart�Kasetyon�LTD.のホームページから抜粋(URL:http://www.samartkasetyon.com/en/index.html)

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日本でも集積バケットを備えた全茎式刈り取り機

が開発された経緯がある。しかし、台風や強風によ

り倒伏し、湾曲している原料茎を集積することは困

難で、刈り取り機と細断・脱葉機(ドラム脱葉機)

および搬出機は別機種として開発され普及した。刈

り取り機は昭和60年代前後に歩行型とトラクタ装

着型(図9)が開発されたが、刈り取り部と搬送部

はタイの国産刈り取り機と同様な機構であった。ド

ラム脱葉機は昭和50年代に開発された脱葉・細断

専用機である。刈り取られて圃場に整列したサトウ

キビは、人力で投入口に投入すると同時に細断され、

複数の脱葉ロールでドラム状になった脱葉部で脱葉

しながら専用の収納袋に排出される。収納袋はトラ

クタや専用搬出機で圃場外へ搬出される。ハーベス

タが本格的に導入される以前の収穫機械化一貫体系

である。

その後、自走式刈り取り機が開発され、現在、一

部離島で利用されている(図10)。特に含蜜糖を生

産する離島地域で夾きょう

雑ざつ

物ぶつ

の混入を避けるために、

ドラム脱葉機と併用して稼働している。

リーフカッタも全茎式ハーベスタもタイの気象条

件では、乱倒伏の少ない圃場で威力を発揮すると思

われるが、台風などの影響で乱倒伏の圃場が多い日

本での利用は困難である。しかし、適正に管理され

た6~8カ月程度の種苗圃では、倒伏も少ないので、

種苗刈り取り集積機として利用できそうである。

フロアでは、その他にもサトウキビの非破壊品質

評価を手掛ける外国メーカーや、ドローンによる空

撮と解析を行う企業、製糖工場内設備の設計・装備

を手掛ける会社など多くのテナントがあった。サト

ウキビ生産が大規模化していく中で、機械化が進む

状況が整いつつあるということを実感させられた。

70 砂糖類・でん粉情報2020.8

図9 歩行型(左)とトラクタ装着型(右)サトウキビ刈り取り機

図10 粟国島で稼働する自走式刈り取り機(左)およびミニドラム脱葉機と搬出機(右)

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4.会議期間中の海外研究者との交流

国際会議ということもあり、会議期間を通して多

くの海外研究者と交流する機会を得た。特に前述

したTJ博士とクワントリ博士は、日本滞在中に長

く研究活動を共にしたこともあり、現在の活動内

容や今後の共同研究などについてさまざまな話を

した(写真7)。例えば、クワントリ博士とは、現

在、生育中の立毛茎に対して糖度や繊維分などの非

破壊分析を行えるよう、畑にも持ち運びできる近赤

外分析計の共同開発を行っている。ドローンとその

情報の利用についても、地域の実態に合わせた応用

法について議論を深めた。TJ博士はタイの経済発

展を目的としたスマート農業の推進活動に携わって

おり、情報交換や実態調査を兼ねて2020年2月に

沖縄を訪問している。誌面の都合上、彼らとの研究

活動を通じた国際交流に関しては別の記事で紹介し

たい。また、会議初日と最終日の夜には、以前より

交流関係のあったミトポンサトウキビ研究所の所長

がプライベートディナーに招待してくださり、他の

海外研究者とともにディスカッションを行う場を設

けていただいた(写真8)。さらに、以前にも別の

国際会議で知り合ったスリランカ研究者とは同国唯

一のサトウキビ研究機関「Sugarcane�Research�

Institute2)」への視察許可をいただくなど、さま

ざまな国の研究者と友好関係を築いた。

おわりに本会議はTSSCTおよびミトポンサトウキビ研究

所の共同主催により開催された初めての国際会議で

ある。以前より会議開催の話は出ていたと思うが、

今回開催に踏み切った背景には、砂糖税の導入や砂

糖の国際価格の下落に伴う国内サトウキビ原料価格

の低迷、干ばつによる2019年期の大幅な減収など

厳しい状況にあるタイの製糖業界を活気づけ、その

存在を他国にアピールする意味もあったのだろう。

これまでISSCT(国際甘しゃ糖技術者会議)3)や

IAPSIT(製糖およびその統合技術に関わる専門家

たちの国際協会)4)など国際組織が主催となってタ

イで開かれた国際会議はあったが、今回このような

大きなイベントをタイの組織が中心となって無事成

功へと導いたことには大きな意義があるように思う。

本稿ではあまり触れられなかったが、各分野の代

表ともいえる著名な海外研究者が多く参加したこと

もあり、サトウキビ生産、工程管理、糖製品の開発

に関わる幅広い内容が本会議では扱われた。一方

で、「サトウキビ・製糖産業における斬新な技術革

新」というかなり大まかなテーマや口頭発表のおよ

そ半分の課題数となった基調講演の多さが示す通

り、全体としてどのようなビジョンを持った会議で

あったのかが不明瞭であったように感じる。今後は、

71砂糖類・でん粉情報2020.8

写真7 クワントリ博士(左下)との再会を喜ぶ筆者ら

写真8 ミトポンサトウキビ研究所メンバーとの意見交換会の様子

Page 11: タイから世界へ発信する サトウキビ・製糖産業にお …Conference(第1回国際糖・甘しゃ会議)」は、 タイ甘しゃ糖技術者会議(Thai Society

その年の研究トレンドを考慮した上で、タイならで

はのアプローチが可能なトピックに焦点を当て、会

議全体にもう少しまとまりをもたせることが望まれ

る。また、国際会議にはつきもののエクスカーショ

ン(研究所や製糖工場など関連施設への訪問を兼ね

た小旅行)や会議主催のディナーパーティーなども

今回は催されなかった。タイは世界的なサトウキビ

生産国というだけでなく、その独特な景観や食文化

にも人々の関心が高いので、次回以降これらの点が

改善されればより満足度の高い会議となるだろう。

現段階では第2回会議の開催に関してはっきりと

決まっているわけではないが、早ければ2021年にも

開催予定だという。この記事を読み、次回の国際会議

参加に興味を持ってくださる方がいれば幸いである。

参考文献1)�渡邉健太(2020)「タイ王国のサトウキビ研究開発を先導するミトポンサトウキビ研究所」『砂糖類・でん粉情報』(2020年4月号)独立行政法人農畜産業振興機構

2)�渡邉健太(2020)「スリランカにおけるサトウキビ・砂糖産業および研究開発の動向 ~ Sugarcane�Research� Institute視察報告~」『砂糖類・でん粉情報』(2020年1月号)独立行政法人農畜産業振興機構

3)�寳川拓生、渡邉健太、城間力、川満芳信(2017)「「足るを知る」タイから学ぶ持続可能なサトウキビ産業の発展 ~第29回国際甘しゃ糖技術者会議プレコングレスツアー参加報告~」『砂糖類・でん粉情報』(2017年5月号)独立行政法人農畜産業振興機構

4)�渡邉健太(2018)「製糖およびその統合技術に関わる専門家たちの国際協会(IAPSIT)から知る世界の糖業界の方向性 ~第6回IAPSIT国際会議参加報告~」『砂糖類・でん粉情報』(2018年9月号)独立行政法人農畜産業振興機構

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