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法政大学大学院 情報科学研究科 ○小泉 悠馬, 伊藤 克亘 意図表現における 非周期擦弦振動を考慮した楽音合成手法の検討 2012/09/20 日本音響学会 2012年秋季研究発表会

意図表現における 非周期擦弦振動を考慮した楽音合成手法の …...2012/09/20 日本音響学会 2012年秋季研究発表会 擦弦楽器の表現のバリエーション

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  • 法政大学大学院 情報科学研究科 ○小泉 悠馬, 伊藤 克亘

    意図表現における 非周期擦弦振動を考慮した楽音合成手法の検討

    2012/09/20

    日本音響学会 2012年秋季研究発表会

  • 擦弦楽器の表現のバリエーション 音色変化による多彩な表現

    奏法の変化により音色をコントロールし意図表現を実現

    (はっきりと) (やわらかく) (荒々しく) (軽やかに) (情熱的に)

    ・弦を擦る位置 ・弦を擦る速度 ・弦にかける重さ

    発想記号と対応した 独特な特殊奏法 ・スピッカート : leggiero ・マルテラート: marcato ・フラウタート : dolce, etc.. など…

    意図表現による音色の変化を合成音に反映させたい

    擦弦振動を制御する楽音合成手法 物理モデルによる楽音合成 [Young, 2003], [Demoucron, 2008]. 他多数. . .

    調波成分に関する奏法のスペクトルモデル(分析合成) [Koizumi, et.al., 2012]

    奏法パラメータの制御

  • 固定端から擦弦位置までの位置の比で頂点が決定する三角波

    奏法により調波構造が変化

    カオス性に起因する非周期的な波形の伸縮 [K.pop, et.al., 1990]

    発音時の不安定なslip現象による不規則な弦振動 [Guettler, 2002]

    擦弦振動

    時間

    振幅

    時間

    振幅

    時間

    振幅

    Dolce(やわらかく) Feroce(荒々しく)

    時間

    振幅

  • 非周期擦弦振動と意図表現 音色に迫力やアクセントを付与する際に用いられる [Guettler, 1997]

    Dolce(やわらかく) Feroce(荒々しく)

    発音時の非周期擦弦振動:弓圧と加速度の不釣り合いにより発生

    擦弦楽器の発音区間における非調波成分の分析合成法を検討

    非周期成分を含まないferoceの合成音

  • 発音時の非周期振動の発生原因

    弓圧と加速度の変化による弦振動の 微分値(slip運動)の変化[Guettler, 2002]

    feroceなどの、非周期擦弦振動

    ① Slip位置のずれ ② 二重周期性

    dolceなどの、周期擦弦振動

    0 10 20 30 40

    -0.4

    -0.2

    0

    0 10 20 30 40

    -0.4

    -0.2

    0

    Time (ms)

    0 10 20 30 40-1

    -0.5

    0

    0.5

    1

    0 10 20 30 40-1

    -0.5

    0

    0.5

    1

    Time (ms)

    弦振動の微分値 弦振動 周期が 伸縮した 三角波

    周期的な 三角波

    0 1 2 3 4

    -20

    0

    20

    0 1 2 3 4

    -40

    -20

    0

    20

    Frequency (kHz)

    スペクトル

    周期の伸縮により スペクトルピークが混在する

  • 非周期擦弦振動スペクトルモデル

    𝜙𝑗 =1

    2𝜋𝜎𝑗exp −

    𝑓 − 𝜇𝑗2

    2𝜎𝑗2

    周波数

    パ ワ |

    周波数

    尤 度

    周波数

    パ ワ |

    周波数

    パ ワ |

    調波ガウス分布群

    𝜇𝑗 , 𝜎𝑗を

    更新

    観測スペクトルから ピークを検出

    周波数

    尤 度

    奏法によって変化した ガウス分布群

    周波数

    パ ワ |

    周波数

    パ ワ |

    Analysis

    Synthesis 合成スペクトル 窓関数の畳み込み

    非周期なし 非周期あり

  • 非調波擦弦振動スペクトルモデルの問題点 聴覚的には、演奏音とほぼ等価な非周期擦弦振動が合成可能

    問題点 周波数ビンのずれが、ガウス分布に従うという保証はない

    𝐹0付近のスペクトルピークを細かく観測できない (STFTの周波数分解能の問題)

    ⇒低域のパワーが弱くなる

    カオス時系列解析に基づく非周期擦弦振動の分析合成実験

  • 決定論的カオス

    系は決定論的な規則に従うが、出力は確率系と等価に複雑

    擦弦振動との関係性

    Stick-slip運動の二重周期性やslip位置のずれと関係

    信号の予測不能性を示す指標:最大リアプノフ指数

    発音部: 0.3352, 持続部: 0.3 × 10−5, 周期的な三角波: 0

    発音部の時間波形から力学系(奏法)の特徴を推定し、

    時系列信号を非線形予測(合成)

    0 200 400 600 800 10000

    0.2

    0.4

    0.6

    0.8

    1

    0 200 400 600 800 10000

    0.2

    0.4

    0.6

    0.8

    1𝑥𝑡 = 4𝑥𝑡−1(1 − 𝑥𝑡−1) 白色雑音

    𝑡 𝑡

    𝑥 𝑡 𝑥 𝑡

  • 観測座標系から、時間遅れ座標へ変換し、アトラクタを再構成

    時間遅れ座標系への変換

    𝒗 𝑡 = 𝑦 𝑡 , 𝑦 𝑡 + 𝜏 , 𝑦 𝑡 + 2𝜏 ,… , 𝑦 𝑡 + 𝑚 − 1 𝜏𝑇

    アトラクタは、擦弦振動の場合、奏法(意図表現)と関係

    奏法の特徴と信号の非線形予測

    𝑡

    𝑦(𝑡)

    𝑦(𝑡) 𝑦(𝑡 + 𝜏)

    𝑦(𝑡 + 2𝜏)

    時間波形 時間遅れ空間

  • 発音区間の非周期成分の分析合成

    200 400 600 800 1000 1200-0.4

    -0.2

    0

    0.2

    0.4

    200 400 600 800 1000 1200-0.4

    -0.2

    0

    0.2

    0.4

    1024点 分析あり予測

    振 幅

    時間 (離散時間点) 時間 (離散時間点)

    1024点を用いてアトラクタを再構成し、軌道の特徴を分析

    分析した軌道の特徴を用いて分析合成(非線形予測)

    アトラクタ軌道を分析した区間では、再合成可能

    アトラクタ軌道を分析していない区間は、不安定な軌道

    分析なし予測

    非周期成分を考慮していない合成音 非周期成分を考慮した合成音

    演奏音 合成音

  • まとめと今後の課題

    発音区間の非周期擦弦振動の分析合成方式を検討

    スパース化した発音スペクトルから、非調波スペクトルモデル生成

    聴覚的には、演奏音とほぼ等価な非周期擦弦振動が合成可能

    決定論的カオスの立場から、アトラクタ軌道特徴を用いて非線形合成

    奏法を分析した区間では、実音声と遜色ない合成が可能

    今後の課題

    アトラクタ軌道と奏法パラメータの関係が不明瞭

    アトラクタから、奏法パラメータを推定

    奏法パラメータから、アトラクタ軌道を合成

    調波モデルとの統一的な分析合成法の検討

    調波制御モデルと組み合わせたパラメータ推定

  • 予備スライド

  • アトラクタ軌道特徴を用いた楽音の合成

    時間遅れ座標系への変換

    𝒗 𝑡 = 𝑦 𝑡 , 𝑦 𝑡 + 𝜏 , 𝑦 𝑡 + 2𝜏 ,… , 𝑦 𝑡 + 𝑚 − 1 𝜏𝑇

    ⇒適切な時間遅れ値 𝜏 と再構成次元 𝑚 の設定が必要

    時間遅れ値:正規化自己相関関数が最初に1/𝑒となる時刻

    再構成次元:誤り近傍法(FNN)による推定

    𝒗(𝑡)の軌道の特徴(奏法による波形変化の特徴)の推定

    ⇒アトラクタ軌道のヤコビ行列を推定

    ヤコビ行列推定法[Farmer, et.al., 1987]による楽音再合成

    ⇒ヤコビ行列から、別のアトラクタ軌道を合成

    ⇒合成されたアトラクタの1次元目の成分が時間波形

    アトラクタ軌道上の一点

  • 𝒗(𝑡)

    ヤコビ行列推定法による楽音の非線形再合成

    𝒗(𝑡 + 𝑠)

    𝒗(𝑘𝑖 + 𝑠)

    時間の経過

    𝒗(𝑘𝑖)

    時間の経過により 近傍点までの距離が変化

    𝒂𝑖 𝒃𝑖

    𝒗 𝑡 を 中心とする超球

    𝒃𝑖 = 𝑱 𝑡 𝒂𝑖 (𝑖 = 1,2, … , 𝑁) 力学系における𝑦 𝑡 の ヤコビ行列の近似となる

    ⇒奏法によるアトラクタ軌道の特徴

    𝒗 (𝑡) 𝒗 (𝑡 + 𝑠)

    𝒗(𝑘 + 𝑠)

    時間の経過

    𝒗(𝑘)

    𝒗 𝑘 の𝑠点先とヤコビ行列から𝒗 (𝑡 + 𝑠)を推定

    𝒂𝒌 𝒃𝑘

    初期値𝒗 𝑡 の 最近傍点𝒗(𝑘𝑖)の探索

    𝒃𝑘 = 𝑱 𝑘 𝒂𝑘 𝒗 𝑡 + 𝑠 = 𝒗 𝑘 + 𝑠 + 𝒃𝑘

    ⇒繰り返しにより 合成アトラクタの軌道を推定

    Analysis

    Synthesis

  • 𝒗(𝑡)

    ヤコビ行列推定法による楽音の非線形再合成

    𝒗(𝑡 + 𝑠)

    𝒗(𝑘𝑖 + 𝑠)

    時間の経過

    𝒗(𝑘𝑖)

    時間の経過により 近傍点までの距離が変化

    𝒂𝑖 𝒃𝑖

    𝒗 𝑡 を 中心とする超球

    𝒃𝑖 = 𝑱 𝑡 𝒂𝑖 (𝑖 = 1,2, … , 𝑁) 力学系における𝑦 𝑡 の ヤコビ行列の近似となる

    ⇒奏法によるアトラクタ軌道の特徴

    𝒗 (𝑡) 𝒗 (𝑡 + 𝑠)

    𝒗(𝑘 + 𝑠)

    時間の経過

    𝒗(𝑘)

    𝒗 𝑘 の𝑠点先とヤコビ行列から𝒗 (𝑡 + 𝑠)を推定

    𝒂𝒌 𝒃𝑘

    初期値𝒗 𝑡 の 最近傍点𝒗(𝑘𝑖)の探索

    𝒃𝑘 = 𝑱 𝑘 𝒂𝑘 𝒗 𝑡 + 𝑠 = 𝒗 𝑘 + 𝑠 + 𝒃𝑘

    ⇒繰り返しにより 合成アトラクタの軌道を推定

    Analysis

    Synthesis

    𝒗 3(𝑡)

    𝒗 2(𝑡) 𝒗 1(𝑡)

    𝒗 1(𝑡)

  • 評価実験

    観測波形と、予測された波形の実相関係数

    アトラクタ軌道の特徴を分析している区間では、十分な性能

    分析を行っていない区間では、時間の経過により相関がなくなる

    ⇒奏法(力学系)自体の変化は予測不可能

    ⇒セグメント分割し、奏法自体の変化を考慮する必要

    1100 1200 1300 1400 1500 1600 1700-0.2

    0

    0.2

    0.4

    0.6

    0.8

    1

    200 400 600 800 1000-0.2

    0

    0.2

    0.4

    0.6

    0.8

    1

    相関係数

    時間 (離散時間点) 時間 (離散時間点)

    分析あり予測区間 分析なし予測区間

  • 擦弦楽器の楽音生成過程とそのモデル化

    演奏音 楽器共鳴 擦弦振動 奏者の イメージ

    楽譜を翻訳し、 イメージを奏法に変換

  • 擦弦楽器の楽音生成過程とそのモデル化 演奏音 楽器共鳴 擦弦振動 奏者の イメージ

    楽譜を翻訳し、 イメージを奏法に変換

    周波数

    振幅

    周波数

    振幅

    調波成分

    理想状態の弦振動 奏法モデル(伝達特性)

    周波数

    振幅

    擦弦振動スペクトル

    分解