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Ⅰ 保育園での骨折事故をめぐる紛争 事例 1 Ⅰ 保育園での骨折事故をめぐる紛争 事例1 ① 公立保育園Aにおいて、お昼寝時間後、一歳児クラスの甲ちゃんが鼻血 を出す。 ② 甲ちゃんの保護者が夕刻迎えに来たときに、担当保育士は、次のように 説明して甲ちゃんを保護者に引き渡す。「日中何度か鼻をかんだときに、 鼻血が出たので自宅で様子を見てください。」 ③ 夕食準備時、甲ちゃんの鼻から再度大量の鼻血の塊が出たので、病院に 連れて行く。 ④ 病院でのレントゲン検査の結果、鼻骨骨折(軽微)と診断される *1 ⑤ 甲ちゃんの保護者は、事実関係につき自治体に何度も説明を求める。 ⑥ その後、自治体からは保護者に対しては、事実関係や事故後の対応につ いて十分な説明(資料)は提示されない。 ⑦ 上記膠着・対立状態を打開すべく甲ちゃんの保護者が訴えを提起。 1 原告の立場で考えてみよう みなさんが、甲ちゃんの保護者であると仮定してみてください。自治体側に 対して、どのような主張をしますか。 怪我の程度にもよりますが、自治体に文句を言いたくなる気持ちはわかると 思います。そのような場合、事故(事件)の 5 W 1 Hについて、きちんとした * 1  類似事案において診断をした医師は、医学的に調べれば、骨折したおおよその時間帯 ①年齢 ②活動の特質(危険の有無。例えば砂遊び、鉄棒、組体操、水泳、武道等による相違) ③時(登園中、保育(昼寝中か否か)中、保護者迎え時等による相違) ④場所(園内、園外等による相違) ⑤天気・天候(晴れ・雨・台風等による相違) ⑥参加形式・性質(行事主催が行政か保護者会か又は正規か任意か等) ⑦個別の特殊事情(知能・障害・健康状態等) これら諸般のファクターを考慮することにより、当該事故場面における具 体的な注意義務の内容・程度を確定することができます *17 ⑶ あてはめ・結論 本事例においては、保育時間中の保育園内事故であること、年齢が 1 歳で あり動静把握について高度な注意義務が課されていること、以上の検討か ら、担当保育士らが昼寝時間中部屋を空けるなどして園児の動静を把握する 義務を果たさなかった点に違法・過失が認められ、被告自治体が損害賠償責 任を負うことになりましょう。 4 裁判を契機とした行政実務の改善・反映について *18 とした行政実務の改善・反映(総論) この紛争を契機に自治体は、自らの行政実務の改善にどう取り組むべきで しょうか。 住民の権利・利益を守るために「法の支配の原理」及び「法律による行政の 原理 *19 」が定められており、かかる原理からの思考が出発点となります。言 *17 例えば、さいたま地判平21・12・16判タ1324号107頁では動静把握義務という用語を使 用し具体的な注意義務の内容を検討しています。猪熊弘子『死を招いた保育』ひとなる書房 (2011年)。 東京都港区南青山2‒11‒17 〒107‒8560 http://www.daiichihoki.co.jp Tel. 0120‒203‒694 Fax. 0120‒302‒640 自治体実務の最前線で紛争対応を経験してきた著者によ る、行政救済の“実務”にフォーカスした解説。 理論を実務に役立てるための考え方、改正の経緯を追い かけることの重要性や、判決文の読み方等を提示。 実際の紛争事例を、住民・自治体、裁判所と、視点をかえて 多角的に検討。さらに、行政実務への反映の仕方を紹介。 自治体職員のための 行政救済実務ハンドブ 鈴木秀洋 日本大学准教授 目の前で困っている住民のために、できること 法的な “思考力” を身に着けることが解決のための一手です! 鈴木秀洋 〔著〕 A5判・単行本・256頁  定価 本体2,800円+税 紛争となった際に 法務担当者が とるべき対応とは 住民と直に接する 職務において 心がけるべきこととは 実務に反映するための 実務に反映するための ヒントがつまった一冊! ヒントがつまった一冊! 実務に反映するための ヒントがつまった一冊! 特色 内容見本 紛争においては相手方となる住民ですが、 その権利・利益を十分に理解しながら対応する ための“思考力”を養うことができます。 住民・自治体、双方の視点からの事例検討を 踏まえ、裁判所の判断を確認! いかに行政実務に活かすか? 実務経験のある著者“ならでは”の解説

自治体職員のための 行政救済実務ハンドブⅠ 行政不服審査制度 Ⅱ 住民監査請求 Ⅲ 行政事件訴訟 Ⅳ 国家賠償請求 Ⅴ 住民訴訟 Ⅰ 法的思考・リーガルマインド

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Page 1: 自治体職員のための 行政救済実務ハンドブⅠ 行政不服審査制度 Ⅱ 住民監査請求 Ⅲ 行政事件訴訟 Ⅳ 国家賠償請求 Ⅴ 住民訴訟 Ⅰ 法的思考・リーガルマインド

Ⅰ 保育園での骨折事故をめぐる紛争 事例 1

Ⅰ 保育園での骨折事故をめぐる紛争

事例 1

① 公立保育園Aにおいて、お昼寝時間後、一歳児クラスの甲ちゃんが鼻血

を出す。

② 甲ちゃんの保護者が夕刻迎えに来たときに、担当保育士は、次のように

説明して甲ちゃんを保護者に引き渡す。「日中何度か鼻をかんだときに、

鼻血が出たので自宅で様子を見てください。」

③ 夕食準備時、甲ちゃんの鼻から再度大量の鼻血の塊が出たので、病院に

連れて行く。

④ 病院でのレントゲン検査の結果、鼻骨骨折(軽微)と診断される*1。

⑤ 甲ちゃんの保護者は、事実関係につき自治体に何度も説明を求める。

⑥ その後、自治体からは保護者に対しては、事実関係や事故後の対応につ

いて十分な説明(資料)は提示されない。

⑦ 上記膠着・対立状態を打開すべく甲ちゃんの保護者が訴えを提起。

1  原告の立場で考えてみよう

みなさんが、甲ちゃんの保護者であると仮定してみてください。自治体側に

対して、どのような主張をしますか。

怪我の程度にもよりますが、自治体に文句を言いたくなる気持ちはわかると

思います。そのような場合、事故(事件)の 5W 1Hについて、きちんとした

* 1 類似事案において診断をした医師は、医学的に調べれば、骨折したおおよその時間帯

Ⅰ 保育園での骨折事故をめぐる紛争 事例 1

①年齢②活動の特質(危険の有無。例えば砂遊び、鉄棒、組体操、水泳、武道等による相違)③時(登園中、保育(昼寝中か否か)中、保護者迎え時等による相違)④場所(園内、園外等による相違)⑤天気・天候(晴れ・雨・台風等による相違)⑥参加形式・性質(行事主催が行政か保護者会か又は正規か任意か等)⑦個別の特殊事情(知能・障害・健康状態等)

これら諸般のファクターを考慮することにより、当該事故場面における具

体的な注意義務の内容・程度を確定することができます*17。

⑶ あてはめ・結論

本事例においては、保育時間中の保育園内事故であること、年齢が 1歳で

あり 動静把握について高度な注意義務が課されていること、以上の検討か

ら、担当保育士らが昼寝時間中部屋を空けるなどして園児の動静を把握する

義務を果たさなかった点に違法・過失が認められ、被告自治体が損害賠償責

任を負うことになりましょう。

4  裁判を契機とした行政実務の改善・反映について

*18とした行政実務の改善・反映(総論)

この紛争を契機に自治体は、自らの行政実務の改善にどう取り組むべきで

しょうか。

住民の権利・利益を守るために「 法の支配の原理」及び「 法律による行政の

原理*19」が定められており、かかる原理からの思考が出発点となります。言

*17 例えば、 さいたま地判平21・12・16判タ1324号107頁では動静把握義務という用語を使用し具体的な注意義務の内容を検討しています。猪熊弘子『死を招いた保育』ひとなる書房(2011年)。

東京都港区南青山2‒11‒17 〒107‒8560http: //www.dai ichihok i .co . jp

Tel . 0120‒203‒694Fax. 0120‒302‒640

●自治体実務の最前線で紛争対応を経験してきた著者による、行政救済の“実務”にフォーカスした解説。●理論を実務に役立てるための考え方、改正の経緯を追いかけることの重要性や、判決文の読み方等を提示。●実際の紛争事例を、住民・自治体、裁判所と、視点をかえて多角的に検討。さらに、行政実務への反映の仕方を紹介。

自治体職員のための行政救済実務ハンドブック

Ⅰ 保育園での骨折事故をめぐる紛争 事例 1

鈴木秀洋日本大学准教授

目の前で困っている住民のために、できることー

法的な“思考力”を身に着けることが解決のための一手です!

鈴木秀洋〔著〕  A5判・単行本・256頁  定価 本体2,800円+税

紛争となった際に法務担当者がとるべき対応とは

住民と直に接する職務において

心がけるべきこととは

実務に反映するための実務に反映するためのヒントがつまった一冊!ヒントがつまった一冊!実務に反映するためのヒントがつまった一冊!

特色

内容見本

紛争においては相手方となる住民ですが、その権利・利益を十分に理解しながら対応するための“思考力”を養うことができます。

住民・自治体、双方の視点からの事例検討を踏まえ、裁判所の判断を確認!

いかに行政実務に活かすか?実務経験のある著者“ならでは”の解説

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部申込部数●定価3,024円(本体2,800円) [コード057380]

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自治体職員のための行政救済実務ハンドブック

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平成    年    月    日

目次

第1部

Ⅰ 行政不服審査制度Ⅰ 行政不服審査制度

Ⅱ 住民監査請求 住民監査請求

Ⅲ 行政事件訴訟 行政事件訴訟

Ⅳ 国家賠償請求 国家賠償請求

Ⅴ 住民訴訟 住民訴訟

第2部

Ⅰ 法的思考・リーガルマインドⅠ 法的思考・リーガルマインド

Ⅱ 行政法の基本原理・原則 行政法の基本原理・原則

Ⅲ 行政紛争と裁判手続 行政紛争と裁判手続

Ⅳ 行政紛争と立法改正 行政紛争と立法改正

第3部

Ⅰ 保育園での骨折事故をめぐる紛争Ⅰ 保育園での骨折事故をめぐる紛争

Ⅱ 随意契約をめぐる紛争 随意契約をめぐる紛争

Ⅲ 公園廃止をめぐる紛争 公園廃止をめぐる紛争

Ⅳ 補助金支出をめぐる紛争 補助金支出をめぐる紛争

Ⅴ 生活保護申請却下・廃止等をめぐる紛争 生活保護申請却下・廃止等をめぐる紛争

Ⅵ 民間指定確認検査機関による建築確認をめぐる紛争 民間指定確認検査機関による建築確認をめぐる紛争

Ⅶ 民間指定確認検査機関による建築物完成後の紛争 民間指定確認検査機関による建築物完成後の紛争

Ⅷ 民間施設内での暴行事件をめぐる紛争 民間施設内での暴行事件をめぐる紛争

Ⅸ 児童虐待対応としての一時保護処分をめぐる紛争 児童虐待対応としての一時保護処分をめぐる紛争

Ⅹ 申請拒否等をめぐる四つの紛争事例(福祉・公の施設) 申請拒否等をめぐる四つの紛争事例(福祉・公の施設)

ⅩⅠ 個人の幸福追求権をめぐる憲法上の人権に係る紛争 個人の幸福追求権をめぐる憲法上の人権に係る紛争

ⅩⅡ DV・児童虐待対応のケースワークと個人情報をめぐる紛争DV・児童虐待対応のケースワークと個人情報をめぐる紛争

ⅩⅢ 水泳事故をめぐる二つの紛争事例水泳事故をめぐる二つの紛争事例

ⅩⅣ 公園の標識倒壊による人身事故をめぐる紛争公園の標識倒壊による人身事故をめぐる紛争

ⅩⅤ 政策法務と条例制定をめぐる紛争政策法務と条例制定をめぐる紛争

Ⅰ 行政不服審査制度

Ⅱ 住民監査請求

Ⅲ 行政事件訴訟

Ⅳ 国家賠償請求

Ⅴ 住民訴訟

Ⅰ 法的思考・リーガルマインド

Ⅱ 行政法の基本原理・原則

Ⅲ 行政紛争と裁判手続

Ⅳ 行政紛争と立法改正

Ⅰ 保育園での骨折事故をめぐる紛争

Ⅱ 随意契約をめぐる紛争

Ⅲ 公園廃止をめぐる紛争

Ⅳ 補助金支出をめぐる紛争

Ⅴ 生活保護申請却下・廃止等をめぐる紛争

Ⅵ 民間指定確認検査機関による建築確認をめぐる紛争

Ⅶ 民間指定確認検査機関による建築物完成後の紛争

Ⅷ 民間施設内での暴行事件をめぐる紛争

Ⅸ 児童虐待対応としての一時保護処分をめぐる紛争

Ⅹ 申請拒否等をめぐる四つの紛争事例(福祉・公の施設)

ⅩⅠ 個人の幸福追求権をめぐる憲法上の人権に係る紛争

ⅩⅡ DV・児童虐待対応のケースワークと個人情報をめぐる紛争

ⅩⅢ 水泳事故をめぐる二つの紛争事例

ⅩⅣ 公園の標識倒壊による人身事故をめぐる紛争

ⅩⅤ 政策法務と条例制定をめぐる紛争

行政法制度概略解説編

行政実務基礎構築編

分野別紛争事例編

DH19990309
長方形