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グラム染色と培養のハナシ...グラム染色と培養のハナシ 〜〜すごいぜ,グラム染色!すごいぜ,グラム染色!〜 ㄤ重大学大学院セミナヸ

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  • グラム染色と培養のハナシグラム染色と培養のハナシグラム染色と培養のハナシグラム染色と培養のハナシ

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    谷崎隆太郎谷崎隆太郎谷崎隆太郎谷崎隆太郎

  • 今日の目標

    • グラム染色に慣れ親しむ

    • 培養検査に慣れ親しむ

    • 結果,実際にグラム染色や培養を

    してみたくなる.

  • 感染症診療の原則

    ① 患者背景

    ② 問題の臓器

    ③ 原因微生物

    ④ 適切な治療

    ⑤ 適切な経過観察

    たったの5つ!

  • 感染症診療の原則

    ① 患者背景

    ② 問題の臓器

    ③ 原因微生物

    ④ 適切な治療

    ⑤ 適切な経過観察

    細菌細菌細菌細菌

    ウイルス

    真菌

    寄生虫

    グラム染色と

    培養が有用

  • 主な培養の種類

    • 細菌培養

    • 真菌培養

    • ウイルス培養• 寄生虫培養

    • 抗酸菌培養

  • 細菌は4つに分類

    球菌 桿菌

    グラム陽性

    グラム陰性

  • • G: Gram(グラム)

    • P: Positive(陽性)

    • C: Cocci(球菌)

    • N: Negative(陰性)

    • R: Rods(桿菌)

    球菌 桿菌

    グラム陽性

    グラム陰性

    GPCGPR

    GNRGNC

  • GPC・GNRはさらに2つに分類

    球菌 桿菌

    グラム陽性

    グラム陰性

    レンサ

    ブドウ

    GPC

    GNC

    GPR

    GNR

  • 白血球

    上皮細胞

    貪食像

  • 多数の白血球の遊走とグラム陽性球菌を認める.

    菌は横向きで連鎖しており,2連鎖がほとんどなので

    肺炎球菌と考えられる.

  • 多数の白血球の遊走とグラム陽性球菌を認める.

    菌は集簇して塊を形成しており,ブドウ球菌と考えられる.

    この時点では黄色ブドウ球菌なのか,コアグラーゼ陰性

    ブドウ球菌なのかは断定できない.

  • グラム陽性球菌

    コアグラーゼ陰性

    (CNS)

    コアグラーゼ陽性

    (黄色ブドウ球菌)

    MSSA MRSA

    表皮ブドウ球菌など

    レンサ球菌 ブドウ球菌

    GPC-chain GPC-cluster

    主にペニシリン

    セファゾリン バンコマイシン

  • 尿グラム染色所見

  • 中型のグラム陰性桿菌を認める。菌は太く先端も

    先細りがない.菌自体は染まっており,よく見ると

    菌周囲が抜けて見える (halo) .

    なんというか,ドッシリしている.

    Klebsiella pneumoniae

    大腸菌

    第2〜3世代セフェム

  • 尿グラム染色所見

  • Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)

    抗緑膿菌作用のある

    ペニシリン or セフェム

    小型のグラム陰性桿菌を認める。菌は細く先端が

    先細っている。菌自体の染まりは薄めで,菌周囲が

    抜けて見える (halo) .

    なんというか,ヒョロヒョロしてしている.

  • 感染症診療の基本として,

    まずは臓器を想定することが重要です.

    そして

    問診と身体診察でほとんどの臓器は

    ある程度推定することができます.

  • 問診問診問診問診 身体診察身体診察身体診察身体診察 感染症病名感染症病名感染症病名感染症病名

    頭痛,嘔気・嘔吐,後頸部痛,羞明感 意識障害,意識変容,髄膜刺激徴候,

    神経学的異常所見

    髄膜炎,脳炎,脳膿瘍

    咽頭痛 咽頭発赤,扁桃腫大 咽頭炎

    耳痛,耳閉塞感,耳漏,聴力低下 鼓膜混濁・発赤・腫脹 中耳炎

    膿性鼻汁,前頭部痛,顔面痛,上顎痛 顔面叩打痛,前傾姿勢で症状増悪 副鼻腔炎

    咳嗽,喀痰,呼吸困難 呼吸回数増加,SPO2低下,肺雑音 肺炎,気管支炎

    腹痛(特に右上腹部痛),胆石の既往 腹部圧痛,Murphy徴候,右季肋部叩

    打痛,黄疸

    胆嚢炎,胆管炎

    下痢,嘔気・嘔吐,腹痛 腹部圧痛,腸蠕動音の異常 腸炎

    腰背部痛,下腹部痛,尿混濁 膿尿,血尿,CVA叩打痛 腎盂腎炎

    頻尿,残尿感,精巣痛 膿尿,血尿,前立腺圧痛,精巣腫大・

    圧痛

    前立腺炎,精巣上体炎

    下腹部痛,異常帯下,不正性器出血,

    排尿困難

    腹部圧痛,子宮頸部の圧痛 骨盤腹膜炎

    皮膚または褥瘡周囲の疼痛,熱感,

    発赤,腫脹

    皮膚の炎症所見,褥瘡からの浸出液

    増加,排膿

    蜂窩織炎,褥瘡感染

    壊死性筋膜炎

    関節痛,関節腫脹 関節可動域制限,関節の可動時痛 化膿性関節炎

    頸部痛,背部痛,腰痛,四肢しびれ,

    筋力低下,尿閉,失禁

    脊椎叩打痛,四肢の筋力低下,

    感覚障害,膀胱直腸障害

    化膿性脊椎炎

  • 横隔膜

    グラム陽性菌

    グラム陰性菌

    皮膚・軟部組織・骨・関節も

    グラム陽性菌(が多い)

    原因菌のイメージ

    感染臓器が横隔膜よりも上か

    下かである程度微生物の推定

    が可能です.

  • 感染症病名感染症病名感染症病名感染症病名 細菌が原因となる場合の主な原因菌細菌が原因となる場合の主な原因菌細菌が原因となる場合の主な原因菌細菌が原因となる場合の主な原因菌

    髄膜炎

    肺炎球菌肺炎球菌肺炎球菌肺炎球菌,髄膜炎菌

    (50歳以上,新生児,免疫不全ではリステリアも)

    咽頭炎 レンサ球菌(A群,C群),Fusobacterium necrophorum,

    中耳炎 肺炎球菌肺炎球菌肺炎球菌肺炎球菌,インフルエンザ菌

    副鼻腔炎 肺炎球菌肺炎球菌肺炎球菌肺炎球菌,インフルエンザ菌

    肺炎 肺炎球菌肺炎球菌肺炎球菌肺炎球菌

    胆嚢炎,胆管炎 大腸菌大腸菌大腸菌大腸菌,Klebsiella pneumoniae,嫌気性菌,腸球菌など

    腸炎 カンピロバクター,サルモネラ,ビブリオ,病原性大腸菌

    腎盂腎炎,前立腺炎,

    精巣上体炎

    大腸菌大腸菌大腸菌大腸菌,Klebsiella pneumoniae,Proteus属

    骨盤腹膜炎 大腸菌大腸菌大腸菌大腸菌,Klebsiella pneumoniae,Proteus属

    蜂窩織炎 黄色ブドウ球菌黄色ブドウ球菌黄色ブドウ球菌黄色ブドウ球菌,レンサ球菌

    化膿性関節炎 黄色ブドウ球菌黄色ブドウ球菌黄色ブドウ球菌黄色ブドウ球菌,レンサ球菌

    化膿性脊椎炎

    黄色ブドウ球菌黄色ブドウ球菌黄色ブドウ球菌黄色ブドウ球菌,大腸菌,レンサ球菌,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌

    など

    青:グラム陽性菌,赤:グラム陰性菌

  • 70歳 男性

    発熱,咳,痰

  • 治療前

    痰グラム染色所見

  • 4時間後治療前

    痰グラム染色所見

  • 4時間後 16時間後治療前

    痰グラム染色所見

  • 4時間後 16時間後治療前

    有効な抗菌薬開始前後のグラム染色所見は

    こんなにダイナミックに変化します.

    解熱するよりも,低酸素血症の改善よりも,

    CRPが下がるよりも早期に動きます.

  • 33歳 男性

    微熱,咳,痰

  • 急性気管支炎

    (ウイルス)

  • 急性気管支炎

    (ウイルス)

    基礎疾患のない人の急性気管支炎はほとんどがウイルスなので,

    見た目は明らかな膿性痰ですが,グラム染色では全く菌を認めません

    でした.(※ちなみに検体は谷崎自身の痰です)

  • 84歳 女性

    発熱,背部痛,尿混濁

  • 尿グラム染色所見

  • 33歳 男性

    発熱,嘔気,下痢

  • 便グラム染色所見

  • Campylobacter Campylobacter Campylobacter Campylobacter jejunijejunijejunijejuni

    カンピロバクターカンピロバクターカンピロバクターカンピロバクター

    便は常在菌だらけなので一般にグラム染色の有用性は低いですが,

    急性下痢症の患者さんでこのカモメ様の Gull Wing GNR を見つけたら

    ほぼ Campylobacter で,便培養の結果を待たずに診断できます.

  • 21歳 男性

    頻尿,排尿時痛

    「てゆーか,尿道から変なの出てきた・・・!」

  • Niserria gonorrhoeae

    (淋菌)

  • グラム陰性球菌感染症

    病原体名病原体名病原体名病原体名 問題の臓器問題の臓器問題の臓器問題の臓器 検体検体検体検体 感染症病名感染症病名感染症病名感染症病名

    モラキセラ・

    カタラーリス

    肺 痰 肺炎

    髄膜炎菌

    髄膜

    血流

    髄液

    血液

    髄膜炎

    血流感染症

    淋菌

    尿道

    咽頭

    血流

    尿道分泌物,尿

    咽頭ぬぐい液

    血液

    尿道炎

    咽頭炎

    血流感染症

  • グラム染色は

    誰でも

    簡単に出来ます

    テキパキ染色する医学部5年生たち

  • 血液培養のハナシ

  • 基本中の基本中の基本中の基本

    血液培養は 2222 セット(以上)

    採取する.

  • Q 2. なぜ血液培養だけ2セットなのか?

    そもそも2セットって??

    好気 嫌気 好気 嫌気

    2222セットセットセットセット

    1111セットセットセットセット

  • 血液培養を取るタイミング

    1. 菌血症を疑ったとき

    菌血症の頻度が高い感染症が頭に浮かんだとき

    (細菌性髄膜炎,感染性心内膜炎,腎盂腎炎など)

    2.悪寒戦慄を伴うとき

    3.原因不明のショックのとき

    4.原因不明の WBC 高値 or 低値,CRP 高値

    5.原因不明の意識障害,低血糖

    6.感染症だと思うが問題の臓器が不明なとき

    熱がなくてもなんだか重症そうな時

  • 菌血症を疑う状況とは?

    LR+LR+LR+LR+ LRLRLRLR––––

    悪寒 1.6 0.84

    悪寒+発熱 2.2 0.56

    悪寒戦慄悪寒戦慄悪寒戦慄悪寒戦慄 (shaking chill)(shaking chill)(shaking chill)(shaking chill) 4.74.74.74.7

    悪寒 (moderate chills) 1.7

    寒気 (mild chills) 0.61

    なし 0.24

    JAMA 2012;308:502-11

  • Shapiro’s prediction rule

    MajorMajorMajorMajor MinorMinorMinorMinor

    感染性心内膜炎の疑い 38.3-39.3 ℃の発熱

    39.4℃の発熱 65歳以上

    血管内カテーテル留置中 悪寒

    嘔吐

    収縮期血圧 < 90 mmHg

    WBC > 18000/μl

    Cre > 2mg/dl

    Emerge Med J 2008;35:255-64

    1 major or 2 minor で

    感度 98%,特異度 29%, LR+ 1.4, LR- 0.07-0.1

  • 2セット採取するのに ①同時に2セット採取,② 10分〜2時間

    あけて2セット目採取,③ 2~24時間あけて採取

    J Clin Microbiol 1994;32:2829-31

    採取した時の体温と陽性率は関連なし.

    J Clin Microbiol 2008;46:1381-5

    その他の情報

    → 2セット目の陽性率は変わらない。

    → 血液培養が必要かも?と

    頭をよぎったときにとりあえず取っておく。

  • Clin Infect Dis 1997;24:584-602

    たとえ初期のエンピリックな治療が外れていても,血液

    培養の結果に基づいた「適切な抗菌薬」に変更されれば,

    患者の死亡率は低下する.

    初期治療

    血液培養

    陽性後

    感受性

    検査後

    死亡率

    (%)

    死亡リスク

    当 当 当 10.5 1

    × 当 当 13.3 1.27

    × × 当 25.8 2.46

    × × × 33.3 3.18

    → もし血液培養が取られてないと,治療が外れていた際の

    リカバーができなくなる(=患者の死亡率が高いまま)

  • 血液培養の陽性率①

    血液培養陽性率血液培養陽性率血液培養陽性率血液培養陽性率

    市中肺炎 7~16%

    人工呼吸器関連肺炎 24%

    髄膜炎 51~66%

    蜂窩織炎

  • 血液培養の陽性率②

    臨床状況臨床状況臨床状況臨床状況

    血液培養血液培養血液培養血液培養

    陽性率陽性率陽性率陽性率

    低リスク

    蜂窩織炎 2%

    外来患者の発熱 2%

    市中肺炎 7%

    入院を必要とする市中発症の発熱 13%

    中リスク 腎盂腎炎 19~25%

    高リスク

    重症敗血症 38%

    細菌性髄膜炎 53%

    敗血症性ショック 69%

    JAMA 2012;308:502-11

  • Q 3. なぜ2セットか??

    ① 検出感度を上げるため

    →セット数が多いほど血液培養の陽性率が高くなる.

    (J Clin Microbiol 2007;45:3546-3548)

  • Q 3. なぜ2セットか??

    ② 真の菌血症かどうか判断するため(特異度を上げる)

    →セット数が多いほど真の菌血症かコンタミネーションかの

    判断が容易になる.

    CNSCNSCNSCNSの場合の場合の場合の場合 真の起炎菌真の起炎菌真の起炎菌真の起炎菌 コンタミコンタミコンタミコンタミ 判定不能判定不能判定不能判定不能

    1/1セット 0 97 3

    1/2セット 2 95 3

    2/2セット 60 3 37

    1/3セット 0 100 0

    2/3セット 75 0 25

    3/3セット 100 0 0

    Clin Infect Dis 1997;24:584-602(単位はすべて%)

  • Q 4. 採取量は・・・?

    • 1セットにつき20ml (1ボトル10ml).

    • 1セットあたり30mlまでは採取量が増えるほど陽性率が増加する.

    • 5ml以上 (92%) vs 5ml未満 (69%)では陽性率が大きく

    異なる.

    Ann Intern Med 1993;119:270

  • 2.培地上の菌の様子に慣れ親しむ

  • Group A streptococcus

    (GAS)

    A群β溶連菌

    溶血しているので,後ろの背景が

    透けて見えている!

  • Staphylococcus aureus

    黄色ブドウ球菌

    なんせ黄色い!

  • グラム陽性球菌

    コアグラーゼ陰性

    (CNS)

    コアグラーゼ陽性

    (黄色ブドウ球菌)

    MSSA MRSA

    表皮ブドウ球菌など

    レンサ球菌 ブドウ球菌

    GPC-chain GPC-cluster

    主にペニシリン

    セファゾリン バンコマイシン

  • MRSA 培地に塗ると

    抗菌薬塗ってない

    MSSAに効くが,

    MRSAに効かない

    抗菌薬が塗ってある

    MSSA MRSA

    抑制 (+) 抑制 (–)

  • CPS 培地

    E. coli

    • 主にGNRの判別に使う.

    • 色がつくので 視覚的 に

    判別しやすい!

    Klebsiella pneumoniae

    Proteus vulgaris

    E. coli

  • 緑膿菌

    このモヤ〜っとした感じがまさに緑膿菌

  • Serratia marcescens

    (セラチア菌)

    なんせ赤い!

    ・・・が,赤くならない株もある.

  • 培地のニオイについて

    • 大腸菌→酸っぱい臭い.

    • 緑膿菌→甘酸っぱい臭い(熱傷の臭いに近い).

    • ノカルジア属 →古紙の臭い.腐った紙.

    • プロテウス属 →無理矢理発酵させたカカオ?

    • インフルエンザ菌 →精子?

    • C. difficile → 便臭?イヌの方が詳しい.

    BMJ 2012;345:e7396.

  • まとめ(今日の目標)

    • グラム染色に慣れ親しむ

    • 培養検査に慣れ親しむ

    • 結果,実際にグラム染色や培養を

    してみたくなる.

    どうですか?ちょっと興味が出てきましたか・・・?