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症  例 症 例:41 歳 女性 主婦横須賀市在住主 訴:食欲低下 家族歴:肝癌 母妊娠中毒症 既往歴:特記事項なし 生活歴:飲酒歴日本酒 2 / 日 喫煙歴10 / 日 輸血歴:なし アレルギー:なし 海外渡航歴10 数年前ハワイ。 現病歴:1996 検診にて小球性低色素性 貧血Ht 29.3%), コレステロール(118mg/dl血症尿潜血2+)を指摘1998 年検診にて尿蛋白指摘2001 には炎症反応高値CRP 12.9mg/dl), 貧血進行Ht 24.2%)も近医受診ローン性高γグロブリン血症IgG 5670mg/dlIgA 708mg/dlIgM 482mg/dl),肝脾腫め, 骨髄穿刺にて(形質細胞 5% とやや増加異型 めず,外来にて経過観察となっていた。 2002 12 26 肉眼的血尿 自覚 して 近医受診IVP にて異常めなかったが, 2003 1 4 腎機能障害BUN 32mg/dlCre 2.7mg/dl)をめ,他院入院となるが,機能増悪BUN 33mg/dlCre 5.1mg/dlめ, 2003 1 16 当院紹介転院となった。 入院時身体所見 身長:160cm 体重:49kg 血圧:108/58mmHg 体温:36.4 表在リンパ節:触知せず 胸部: 心・肺雑音なし 腹部:平坦圧痛なし。 右季肋部3 横指触知左季肋部4 指触知腎触知せず,正常腸雑音 四肢:異常所見なし 神経学的所見:異常所 なし 入院後経過 入院時著明小球性貧血Hb3.9g/dl), クローン 性高 γ グロブリン 血症腎不全 Cre6.17mg/dlBUN38mg/dl)をめた。CT 両側腎腫大肝脾腫め,アミロイドーシス 直腸生検施行したが陰性前医より Castleman 診断にて転院となっ たこと,また骨髄腫否定すべく再度骨髄生検 施行hypercellular bone-marrowplasma 7%hypoerythroid 所見骨髄腫否定的であった。 腎不全増悪 し(Cre13.19mg/dlBUN93mg/dl2/5 よりカテーテル挿入血液透析導入となっ た。臨床診断苦慮肝生検腎生検施行2/7 開放腎生検施行半月体形成性糸球体 腎炎間質単核球浸潤認めた。 アミロイド沈着めず。2/12 腹腔鏡下生検施行類洞門脈周囲に,異形性はない成熟したさなリンパ浸潤めたが,らかな形質 細胞増生めなかった。 腎不全原因として腎前性腎後性要因なく, 血管炎 ANCA 関連腎炎Wegener 肉芽腫Goodpasture 症候群SLE)も否定的であった。 多クローン性高グロブリン血症、貧血、肝脾腫を認め急性腎不全を呈し ステロイド治療により腎機能改善を認めた一症例 太 田 哲 人   草 浦 貴 史   氏 家 一 知 田 村 禎 一   福 留 裕一郎   木 嶋 祥 麿 東海林 隆 男   赤 羽 久 昌 1 中 本   安 2 重 松 秀 一 3 横須賀共済病院腎センター,同病理 1 吉祥寺あさひ病院 2 信州大学医学部病理学 3 Key Wordクローン性高ガンマグロブリン血症急性腎不 ,ステロイド治療 - 113 - 第 40 回神奈川腎炎研究会

多クローン性高グロブリン血症、貧血、肝脾腫を認め急性腎 …腎不全の原因として腎前性・腎後性の要因は なく,血管炎(ANCA関連腎炎,Wegener肉芽腫,

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症  例症 例:41歳 女性 主婦(横須賀市在住)主 訴:食欲低下家族歴:父:肝癌 母:妊娠中毒症既往歴:特記事項なし生活歴:飲酒歴:日本酒2合 /日 喫煙歴:

10本 /日 輸血歴:なし アレルギー:なし 海外渡航歴:10数年前ハワイ。現病歴:1996年の検診にて小球性低色素性

貧血(Ht 29.3%),低コレステロール(118mg/dl)血症,尿潜血(2+)を指摘。

1998年検診にて尿蛋白も指摘。2001年には炎症反応高値(CRP 12.9mg/dl),

貧血の進行(Ht 24.2%)も認め近医受診。多クローン性高γグロブリン血症(IgG 5670mg/dl,IgA 708mg/dl,IgM 482mg/dl),肝脾腫を認め,骨髄穿刺にて(形質細胞5%とやや増加)異型性は認めず,外来にて経過観察となっていた。

2002年12月26日に肉眼的血尿を自覚して近医を受診。IVPにて異常を認めなかったが,2003年1月4日に腎機能障害(BUN 32mg/dl,Cre 2.7mg/dl)を認め,他院入院となるが,腎機能増悪(BUN 33mg/dl,Cre 5.1mg/dl)認め,2003年1月16日に当院紹介転院となった。

入院時身体所見身長:160cm 体重:49kg 血圧:108/58mmHg

体温:36.4℃ 表在リンパ節:触知せず 胸部:

心・肺雑音なし 腹部:平坦,軟,圧痛なし。右季肋部で肝3横指触知,左季肋部で脾4横

指触知,腎触知せず,正常腸雑音四肢:異常所見なし 神経学的所見:異常所

見なし

入院後経過入院時,著明な小球性の貧血(Hb3.9g/dl),

多クローン性高γグロブリン血症,腎不全(Cre6.17mg/dl,BUN38mg/dl)を認めた。CT上両側腎腫大,肝脾腫を認め,アミロイドーシスも考え直腸生検を施行したが陰性。前医よりCastleman病の診断にて転院となっ

たこと,また骨髄腫も否定すべく再度骨髄生検を施行。hypercellular bone-marrow,plasma 7%,hypoerythroidの所見。骨髄腫は否定的であった。腎不全増悪し(Cre13.19mg/dl,BUN93mg/dl) 2/5よりカテーテル挿入し血液透析導入となった。臨床診断に苦慮し肝生検・腎生検を施行。

2/7開放腎生検を施行。半月体形成性糸球体腎炎,間質に単核球浸潤認めた。アミロイド沈着は認めず。2/12腹腔鏡下に肝

生検施行。類洞,門脈周囲に,異形性はない成熟した小

さなリンパ球の浸潤を認めたが,明らかな形質細胞の増生は認めなかった。腎不全の原因として腎前性・腎後性の要因は

なく,血管炎(ANCA関連腎炎,Wegener肉芽腫,Goodpasture症候群,SLE)も否定的であった。

多クローン性高グロブリン血症、貧血、肝脾腫を認め急性腎不全を呈しステロイド治療により腎機能改善を認めた一症例

太 田 哲 人   草 浦 貴 史   氏 家 一 知田 村 禎 一   福 留 裕一郎   木 嶋 祥 麿東海林 隆 男   赤 羽 久 昌 1  中 本   安 2

重 松 秀 一 3                  

横須賀共済病院腎センター,同病理 1,吉祥寺あさひ病院 2,信州大学医学部病理学 3

Key Word:多クローン性高ガンマグロブリン血症,急性腎不全,ステロイド治療

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第40回神奈川腎炎研究会

腎生検の所見よりステロイド適応と考え,2/17より steroid pulse(mPSL500mg・3days)後PSL40mg内服開始し,その後徐々に腎機能改善傾向にあり,治療効果を認め,3/21HD離脱となった。4/19退院となり外来にて通院治療中ある。(4/8 Cre 1.13mg/dl, BUN 18mg/dl,CRP

2.5mg/dl , Ccr 30.9ml/min)

考  察本症例は,ARFを呈し,一時的に血液透析

導入となった。ARFの原因となった臨床診断に苦慮したが,ステロイド治療が奏効しARF

を離脱した症例である。原因として慢性EBウイルス感染又は

Castleman病なども推測されたが,EBウイルスDNA量,抗体価などと併せても確定診断となる明らかなものは考えにくい。 Castleman病による腎障害とも考えられたが,明らかなリンパ

節腫脹もなく確定診断には至っていない。本症例では,何らかのウイルス等による刺激

によるリンパ球増殖により腎障害を来たしていると推察される。

結  語1)今回我々は,臨床診断に苦慮しARFを呈し,一時的に血液透析導入となるもステロイド治療が奏効し,離脱した症例を経験した。

問 題 点1)この症例で,腎障害を惹起している原因は何であるのか?

入院時検査所見(1)

[尿定性]SG 1.011

pH 6.0

Pro (2+)Glu (-)Ket (-)OB (3+)WBC (+)

[尿沈査]RBC 無数 /HPF

WBC 1~ 4/HPF

顆粒円柱 20~ 29/WF

[尿生化・蓄尿検査]Ccr 6.7ml/分尿蛋白 2.7g/日

Alb 16.5%

α1-Gl 2.1%

α2-Gl 37.0%

β・γ -Gl 44.4%

[血算]WBC 7000/μ l

St 0%

Seg 75%

Eo 0%

Ba 1%

Mo 5%

Lym 20%

RBC 194×104/μ l(連銭形成)Hb 3.9g/dl

Ht 13.6%

Ret 13‰Plt 26.8×104/μ l

[凝固]PT 15.6sec

APTT 41.7sec

FBG 558mg/dl

HpT 77.0%

[生化]TP 8.6g/dl

Alb 22.6%

α1-Gl 3.9%

α2-Gl 8.9%

β -Gl 7.7%

γ -Gl 56.9%

UA 8.4mg/dl

BUN 38mg/dl

Cre 6.17mg/dl

Na 135mEq/l

K 4.0mEq/l

Cl 103mEq/l

Ca 6.8mg/dl

P 7.0mg/dl

LDH 151U/l

AST 12U/l

ALT 14U/l

γ -GTP 27U/l

ALP 339U/l

ChE 3254U/l

T-Bil 0.2mg/dl

TTT 13.7U

ZTT 38.0U

T-AMY 30U/l

Glu 81mg/dl

T-Chol 68mg/dl

TG 60mg/dl

CK 31U/l

Fe 6μg/dl

TIBC 135μg/dl

フェリチン 104.8ng/ml

CRP 9.2mg/dl

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第40回神奈川腎炎研究会

入院時検査成績(2)

RA (-)ANA (-)C3 106.4mg/dl

C4 19.0mg/dl

CH50 40.9U/ml

PR3-ANCA<10EU

MPO-ANCA<10EU

抗糸球体基底膜抗体 (-)抗 ss-A抗体 (-)抗 ss-B抗体 (-)クリオグロブリン (-)IgG 4490mg/dl

IgA 624mg/dl

IgM 313mg/dl

IL-6 62.9pg/ml

[感染症関連]HBs-Ag (-)HCV-Ab (-)RPR (-)TPLA (-)HIV抗体 (-)EB-VCA IgG 320倍EB-EA IgG<10倍EB-VCA IgM<10倍EB-EBNA(EIA) (-)EB DNA PCR定量 2×10copy未満 (-)トキソプラズマ抗体 IgM(ELISA) (-) 0.13(<0.7)サイトメガロ IgM(FA)10倍未満(<10)

サイトメガロ IgG(FA)320倍(<10)

CMVアンチゲネミア陰性HHV-8 DNA (-)[各種培養検査]血液・便 (-)胸水;結核菌塗沫 (-)結核PCR (-)

【血清・尿免疫電気泳動】polyclonalな増加。

肝・脾腫大認める

両腎腫大認める

Gaシンチ:肝・腎・骨への取り込み

検査成績(3)腹部エコー:肝脾腫大(脾:13.0×5.9cm)

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腎生検(治療前)

HE染色

HE染色

PAS染色

腎生検(治療開始後)

HE染色

PAS染色

PAS染色

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入院後経過 討  論

小林(修) はい,どうもありがとうございました。まず臨床について,経過やデータ,その他のご質問をお願いします。どうぞ。小板橋 聖マリアンナ医大小児科の小板橋でございます。ありがとうございました。EBウイルスのviral capsid antigenの IgG抗体が320倍,EBNA抗体が陰性ということですね。これは私ども小児科では,これはまさにこのときが急性感染と考えるのですが。それでお聞きしたいのですが,末血のヘモグラムで異型リンパがどの程度出たかということ,もう1つはポールバンネル反応です。出ないこともけっこうあるのですが,これがどうであったか。それから,肝機能障害がどの程度だったのか。私はフォローできなかったものですから,教えていただければと思います。よろしくお願いします。太田 まず末血ですが,異型リンパは認めておりません。ポールバンネル反応は行っておりません。肝腫大がこれだけあるにもかかわらず,肝機能は全然動きませんでした。正直なところ,肝生検をしてもあまり所見がなかったので,EBがはたして今回,関連しているかどうかもわからなかったというところです。小板橋 そうすると,この所見が今の inflec-

tion,急性の感染であることについては,先生も考慮なさっておられなかったということですか。太田 私のほうでは,今のデータでEBのMとか,そのあたりが陰性であって,そのあと経過的に何度かスポットをとっているのですが,それはずっと陰性であるので。小板橋 急性感染で IgMはなかなか上がりません。もちろん上がるのは原則ですが,出すと上がらない。ただ,IgGが高いのにEBNA抗体が陰性であることが,初感染を意味するわけです。もし既感染ですと,陽性になるわけですね。小児科的には,いつもそのように私どもは考えております。

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小林(修) どうも小板橋先生,ありがとうございます。非常に参考になりました。どうぞ。佐藤 帝京大の佐藤といいます。γグロブリンのことでお聞きしたいのですが,私は今,小板橋先生の話を聞いていまして,SLEの患者でしたが,EB感染をきっかけにしてものすごくγグロブリンが増えて,IgGが8,000ぐらい。もともとは1,000,2,000ぐらいでしたが,もちろんpolyclonalに増えてきたという症例を経験しました。今回,先生の症例も IgGが6,000でしたか。太田 4,000できて,透析導入直前には5,500程度まで上がって。佐藤 上がっていますよね。ですから,EBの感染症とpolyclonal gammopathyがもともとあったのでしょうけれど,それが誘発されて急激に増えたような経過はあったのでしょうか。太田 こちらに来た時点で IgGが4,400程度で,その後,腎不全になる直前が5,400ぐらい。ステロイド治療を始めてからは3,000台に収まっております。ただ,この頃はステロイドを少しずつ外来テーパしているのですが,徐々にまたIgGが増え始めているので,また病勢が,今,クレアチニンは全然動いていないのですが,また盛り返してくるのではないかということも含めて,もしそれがEBの感染だとした場合,なかなか治療としても確立されたものがないと思いますので。佐藤 ステロイドを使ってからどうなったかをお聞きしたかったのですが。そうすると, hy-

perviscosityはどうだったのですか。太田 特に眼底とか,そのあたりを見たのですが,そういったものは認めておりません。この方はTBでいうと9ぐらいまで最大で上がりましたが,特にhyperviscosityな眼底所見,その他は認めておりません。佐藤 ありがとうございます。小林(修) ほかにどなたか。これはマルク等での所見とか,ラボのデータはあまりここにないし,見過ごしているのですが,どうですか。

太田 特にそれは所見としてもなかったですね。小林(修) これはminus inflectionがアクティブであるこの時期に,そういった変化が出てきて,バースといわれるような類の増悪という意味でおたずねしたのですが。太田 経過としてはplasma cellが7%程度,エリスロイド系が低形成の所見があったぐらいで。小林(修) ほかにどなたか,いかがですか。病理を含めた質問でもけっこうです。これはまたあとでコメントに出てくるかもしれませんが,先生の抄録で半月体形成性腎炎,間質性腎炎の所見を認めたとお書きになっていますが,これは付随する間質の変化を認めたということでお書きになったのか,tubulointerstitial nephri-

tisも別にあるということですか。太田 すみません。これは書き方の誤りですね。付随して間質に単球系の浸潤を認めただけなので,そういう書き方で。小林(修) 先生はcrescentic glomerulonephritis

な像だと理解なさったということですね。太田 はい。小林(修) 例えばacute tubulointerstitial nephri-

tis(AIN)という所見ではないですね。eosino-

philia,eosino,IgEの増多,あるいは間質の細胞浸潤にeosinoと,そういった所見はなかったし,臨床的にもないということですね。太田 はい。小林(修) はい。それでは,ないですか。いかがですか。では,病理のほうを。これは重松先生が共同演者になっておりますが,どちらですか。重松先生,よろしくお願いします。重松 臨床がこの症例提示をされたのは私のコンサルテーションの見解に納得できないということなのだと思います。私はEBウイルスと関係づけて考えたいと思うのです。1例ですが,似たような症例をあとでお見せしますが,まずこの症例について見えたところをご紹介したいと思います。

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【スライド01】約37%の糸球体にcrescent for-

mationがあります。それから,間質に細胞浸潤があります。これもEBウイルスの感染があるので問題になると思いますが,この細胞に異型性があるかということです。それから,こういう半月体性の組織変化がEBウイルスと関係して起こってくるかどうかも問題だと思います。普通,腎炎を起こすようなウイルスはサイトメガロなど数が限られています。EBはあまり直接,糸球体炎を起こす報告はないものですから,そういう点で問題になるわけです。【スライド02】ご覧のように立派な半月体形成がありますが,管内細胞増生もありますね。それに半月体がありますが,少し普通の半月体と一味違う感じが私にはするのです。こういうところに何かすごく腫大した細胞があって,壁側に炎症細胞と混じってparietall cellの増生がある。こういうgranulo matous glomerulonephritis

とは少し言いすぎかもしれませんが,変り種の半月体形成性腎炎があります。【スライド03】ここも管内細胞増生と,ここはリンパ球のようなものが入っていますが,それからかなり大型のepithelioid cellと言いたいのですが,そのような細胞を交えた半月体形成のある管外増殖性腎炎の像があります。【スライド04】ここなども,足細胞側が形質転換でも起こしたのではないかという感じのする管外細胞増生があります。【スライド05】これなどもそうですね。marker

studyをやっておりませんので,詳しい細胞の分析ができないのが残念ですが,見た感じは普通のcrescentic GNの増生細胞にしては少し大きすぎる感じがします。【スライド06】この辺は管外性増殖性腎炎でも非定型的です。最近,半月体とは別にcellar

lesionという形でFGSなどに出てくる形質転換を起こした足細胞が増殖したのではないかという,上皮増殖で起こってくるextra capillaryの細胞増生があります。何かそういうものにかなり似たような増生の仕方をしています。

【スライド07】この辺になると,これは普通のcrescentic GNと一見して区別がうまくできません。【スライド08】これは間質の細胞を見たものです。とにかく骨髄を見ても,末血を見ても,異型リンパ球は見られません。ここもリンパ球様の細胞があったり,plasma cell様の細胞がありますが,たしかにpolyclonalに増えていまして,異型リンパ球,Bリンパ球あるいは,Tリンパ球のモノクロナールの浸潤で間質の病変が起こっているとは言いにくいところです。【スライド09】これは2回目のbiopsyです。見事に治療が成功して,間質の浸潤も弱くなっています。【スライド10】糸球体にあった変化も,だめになった糸球体はこのように硬化しているし,助かった糸球体はあまり問題がありません。【スライド11】このように完全にfibrousなcres-

centになっています。【スライド12】参考までに別の症例です。8歳の男の子ですが,ある小児科でT細胞感染性のactive EB virus感染症という診断を受けて,かなりの腎不全があり,14%のcrescenticのGNがありました。主治医は,かなり腎不全が進行しているので,骨髄移植を考慮しておりました。これはCD3です。T細胞が入ってきて,かなりT細胞優位の細胞浸潤がありました。 小児科領域ではカクテル療法をよくおやりになりますが,これにカクテル療法をしたところ一時的に浸潤もとれて,腎機能もよく改善した症例があります。この症例は14%がcrescent

のGNです。これは核の断片などがありますから,かなりフレッシュな病変と見なければいけません。こちらは少し線維性になっていますが。そういうことで,小児の症例はT細胞感染型のEBウイルス感染症で,どちらかというと少しT細胞がdysplasticになって,細胞が間質に浸潤している。そういうところにcrescenticなGNが起ったと見られる症例でした。 今回の症例もまだリンパ球自体は,IgGなど

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が増えていますから,B細胞性の感染を受けているだろうと思いますが,dysplasticになっていないけれども,腎病変としてはcrescenticな病態を出しており,しかもちょっと変わり種の,上皮細胞に形質転換を起こすような,何かサイトカインを出すような性質を持ったpolyclonal

の細胞増生があってhyperglobulinemiaの状態です。そういうときに,あのような管外性の病変ができた。治療をするとまだ反応性があって,細胞浸潤は引いてきたということでしょうか。 お話を聞くと,また少しぶりかえしているということですが,この症例もEBウイルスの感染のあと,これは移植などでもそうですが,いろいろな経過をとるわけです。dysplasticの時期,それからまだ回復し得るような lymphoma

とか,いろいろな感染がありますので,EBウイルス感染症にともなう腎病変も,これから見ていくとかなりあるのではないかという気がします。これについては,山口先生が,EBウイルスの感染と移植腎でやられている病変などの関連をお話しくださると思いますので,そちらにバトンタッチをしたいと思います。山口 【スライド】重松先生は,EBウイルス感染を主体にアプローチしたのですが,私はCas-

tleman diseaseを主体に考えていろいろ文献をあさったりしたのですが,どちらがetiologicalに本当に,Castlemanでもあまりcrescenticになる報告は非常に稀で,IL-6がからんでmesangial

proliferation,あるいは thrombotic microangiopa-

thyとか,いろいろな病態をとってくるわけですが,なかなかこういうcrescenticなものの報告はないですね。比較的稀のような気がします。もしCastlemanのようなものがベースにあったと考えてもですね。 弱拡で見ますと,たしかに full moonに近いcrescentの形成がありますが,タフトのほうにendocapillary proriferativeな変化が明らかにあるわけです。IFでは IgAがdominantでしたか。IgMと IgGとpolyclonalなmesangial patternか らperipheral patternの IFの沈着症があるというこ

とで,基本的には immune complex型の腎炎で, crescenticになってきたと考えるべきだろうと思います。 それから,間質性は非常に派手で,massive

なplasma cell,リンパ球,ところどころeosino

をともなってくるような形で,こういうヘマチュリーンの所見と,尿細管は非常にATNを思わせるような上皮のatrophyが前景に出ているので,透析中の生検に合致する組織像だろうと思います。【スライド】ただ,少しfibrousになっているところと,endocapillary proliferation顕著な糸球体,それからcellularな全周性のcrescent formation,いろいろ新旧が混ざっているわけです。今,重松先生が言われたように,この辺の細胞の特徴が私としてはあまり感じませんでしたが,通常,我々が見ているnecrotizingなタイプのものですと,どこかに ruptureがあってfibrinあるいはfibrinoid materialなボウマン嚢腔に出てくるわけですが,どうもあまりはっきりした rupture

の像がないのです。たしかにこういう糸球体側のendocapillary,あるいはこちら側にMPGN様の病変があって,二次的にcrescentができる場合は,必ずしもあまり基底膜の ruptureが目立たないことがあります。おそらくそういうタイプのcrescentic formationなのかなという印象です。【スライド】crescentのない糸球体ですと,たしかに時によってはおとなしいところもありますが,このように尿細管上皮障害が比較的広範に見られております。【スライド】炎症ですが,移植などでEBのときに lymphoproliferative disordersがときどき出てくるわけです。その場合には,だいたいB cell

系主体で,稀にT cellということがありますが,大部分はB cell主体で,plasma cellから少し幼若な細胞が出てくるわけですが,間質に出ている細胞はたしかにplasma cell,リンパ球が多いのですが,あまり幼若で異型のあるという印象は受けませんでした。たしかに少し間質性の細

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胞浸潤の程度が強いように思います。【スライド】このようなきれいなcellular cres-

centですが,やはりendocapillaryで浸潤細胞とmesangial proliferationが明らかです。この辺はruptureしたあとだろうと思うのですが。fibrous

に置き換わっています。ただ,あまりボウマン嚢の基底膜の破壊は目立たないので,やはり間質炎は非常に強いように思います。このまわりはあまり炎症性の細胞浸潤はありません。【スライド】このようにポゾサイトのhigher in

dropped degenerationですね。上皮細胞の硝子的変性がcrescent formationにやや目立っている。以前にHIV陽性の方の腎炎にも,非常に上皮細胞の硝子的変性が強かった症例に出合ったことがあるのですが,EBと関係があるかどうかわかりませんが。どうでしょうか,ここに出ている細胞で少し核腫大はありますが,通常のcel-

lular crescentとそれほど大きな違いはないように思います。【スライド】明らかなendocapillary proliferative

な変化がほぼ,少し強弱はありますが,明らかにあるわけです。こういうタイプのものは,非常にステロイドに反応して,crescentもよくなることが言われています。【スライド】ギーが厚かったので,あまりいいところがとれなかったのですが。peripheralのdepositはよくわかりませんでした。【スライド】ステロイドが奏効したということで,私の勘定では100個中65個のcrescentがあって,7割弱あったわけですが,それがずいぶん rebiopsyのときには40個中crescentが残っているのが11個,グローバルにつぶれたのが11個ということで,半分ぐらいは involveされてしまって。こういう形でつぶれざるを得ないものがいくつかあるわけですが,一部はおそらくcrescentがあってもよくなった糸球体もあるのではないか,と思います。【スライド】こういう不完全な,これもおそらく早晩につぶれてしまうわけで,まだfibro-

cellular crescent のようなところが残っているわ

けですが,間質炎も非常にきれいになっています。【スライド】似たようなものですが,一部タフトが巻き込まれています。こういうときにcrescentがどのように治っていくか。これはつぶれてしまうと思うのですが,endocapillary

proliferativeな変化はほとんど弱くなっております。【スライド】このような形で,よくボウマン嚢の基底膜がこちらにあるわけですが,こちら側にボウマン嚢の基底膜様のものができて,これはシュードトゥブラールにルーメンが出来て,最終的に癒着がありますが,ボウマン嚢の修復というか,そういう形でcrescentが治っていく過程を見ることがあります。【スライド】このような形ですね。尿細管極が残っていますと,引きつれて,一部癒着が残りますが,最終的にはcrescentの部分が消失していくのだろうと思います。ですから,私はこのetiologyに関して,はっきり断定的なものは,この材料だけでは何も言えないと思います。基本的にはベースに immune

complex型の腎炎があって,crescent formation

をともなってきたと考えて,そういう場合には非常に治療に奏効しやすいわけで,比較的よく治ったケースだろうと思います。以上です。小林(修) どうもありがとうございました。ご質問をどなたか,どうぞ。高市 虎の門病院の高市ですけれど,ぜひこの機会に病理の先生に教えていただきたいのですが,重松先生が勘定したところでは37%のcrescentがあって,山口先生が65%と。いずれにしても40~ 70%ぐらいの範囲だと思って,この人は特にもう透析に入ったときですね,腎生検をしたのは。たしか相当,腎機能が悪いときですから。太田 透析に入って回復してきたあたりですので。高市 回復してからですか。太田 はい,離脱したときです。クレアチニン

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が1ぐらいに収まったときで,2回目の腎生検です。高市 いや,最初の。太田 最初は同時ぐらいです。一番悪いときです。高市 きわめて腎機能が悪いときで,たぶんGFRでいうと10以下ぐらいで,おそらく intact

nephronだとおそらく10%を切っているような状態だと思うのですが。そうすると,病理から見るよりも臨床所見がもっとひどいように思われるのですが,こういうときはどのように考えたらよいか,前から悩んでいるのですが。例えば,糸球体は丸くて大きいですから,2μm,3μmで切っていると病変のある部位にあたることも,あるいは一見 intactの部位にあたることがあって,かなり変化があっても intactに見えるような。そのように考えるべきなのか,悩むことがあるのですが,教えていただけないかと思います。山口 やはり急性期ですと,どちらかというと糸球体の病変より尿細管間質病変が腎機能に直接影響をしやすいと思います。この症例の場合は非常に強い間質炎があるのと,もう1つは尿細管上皮障害がだいぶ広範にありますので,その影響が出ているのだろうと思います。ですから,crescenticなものだけで,それほど腎機能障害がすぐにはこないわけで,どうしても尿細管間質病変が腎機能には直接的には影響しやすい,と私は思います。重松 crescentの数が2人で違うではないかということですが,私が勘定したのは54個の糸球体のうち19個,35.2%がcrescenticで,scle-

rosingになったのが24%です。この中にはcres-

centのあとになったものもあるわけです。intact

というように一見,管内増生だけだというのが35.2%あるわけです。治療によく奏効したのは間質病変がすっと引いてくれたことが一番大きいと思いますが,crescentの内容が申しあげたように本当のparietallのepithelが増えてくるより,急性炎症細胞を交えた,あるいはポトサイ

トの形質転換を思わせるような急性期の形質転換を主とした,crescenticな内容であるために,非常に治療によく反応したのではないか。管内増生ももちろんよく効いたことがあるのだろうと思います。ということで,crescentの数だけで腎機能低下とイコールにはなかなかならない,と私は思っています。小林(修) ありがとうございます。どうぞ。佐藤 帝京大の佐藤ですが,重松先生に教えてもらいたいのですが,確定診断をするためにアンチEBを染めるとか,EBの in situ hybridiza-

tionをすることで診断は可能でしょうか。重松 問題は腎臓に本当にEBウイルスのコピーがあるという保証はないわけです。ですから,むしろ私は脾臓とか,肝臓にリンパ球が増えているところを中心に検索をするべきではないかと思います。腎臓ももちろんやって,出ればいいのですが,マイナスのときにnegative

dateとできないと思うのです。小林(修) Viremiaにassociatedなサイトカインその他ということの炎症反応と解釈することもできるということで,直接,証明ができればいいけれどということでしょうか。でも,今,肝臓ということが出たのですが,これはCastle-

man disease,あるいはEB virus associatedな腎症,肝腫大ということで肝臓はどうだったか。今ちょうど肝のリンパ球浸潤があった。そこの解釈をどうされるか,最後に聞きたいのですが。太田 今回,肝臓の。小林(修) 脾腫の場合は慢性感染,感染脾ですが,肝腫大はどう解釈しますか。太田 肝臓は特に腎臓ほどリンパ球もあまり浸潤がなくて,それがなぜそこまで腫大しているのかというのは,正直なところ組織学的に見ただけでは私はわかりませんでした。この方が急性増悪したので,昔からγグロブリンが高かったことが,今回の急性増悪と一致しないところがあったので,昔からγグロブリンが高いというのがあって,今回急に起きたのが,臨床的な診断で何によるものかということでは理解に苦

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しんだところです。小林(修) ありがとうございます。非常に興味のある症例をありがとうございました。また,たぶんこのようなEBウイルスの,先ほどの提案もありましたが,おそらくウイルス等の関連にともなう腎症は集積されて,ここでディスカッションできれば,もっと明らかになるのではないかと思います。とても興味のある症例をありがとうございました。

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