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熱力学の基礎: ・「全体と流れと重要な結果」を頭に入れることを意識して、学習してください。特に、「熱 平衡」と「状態量」という二つの概念を意識しつつ、また、「エントロピー」という状態量 がどのように導入されるのかその物理的な意味はなにかを着目しつつ、学習してみてくだ さい。(*)の部分は、最初は読み飛ばしても構いません。 ・授業では、全部は説明できないので、全体と流れと後半の水循環や地球環境の講義に必 要な部分に焦点をあてて説明します(3 回の予定)。わかりにくいところは遠慮せず、質問 してください。 全体の流れと重要な結果: ・熱平衡状態とは、巨視的に見て系内で熱的・物質的に一定不変な状態。ただし、微視的 には、原子・分子は動き回っている。熱力学は熱平衡状態でのみ成り立つ。熱平衡状態と は、巨視的に見て、区別がつかない状態とも言える。 状態量とは、温度、体積、圧力、物質量(原子や分子の個数)など系の巨視的な状態だ けで決まる物理量。内部エネルギーは状態量であるが、熱や仕事は状態量ではない。状態 量が定義できることとその量の積分が経路に寄らないこととその量が全微分で表せること は同じことである。 ・経験的に、熱平衡状態にある物体(系)の熱力学的な性質は常に温度、体積、圧力の三 つの状態量で記述できる。これらの三つの量はお互いに勝手に変化できるような独立な量 ではなくてある関数関係(状態方程式:f(T,V,p)=0)を満たす。つまり、自由に変わること のできる独立な状態量は二つだけである。 ・熱力学の第一法則:系に、外から熱量ΔQ と仕事ΔW を加えると、系の内部エネルギーE は増加し、その増分 dE は、ΔQ とΔW の和に等しい(dE=ΔW+ΔQ)。熱力学の第一法 則は、エネルギーが保存するということに加えて、状態量でない熱と仕事の和が状態量で ある内部エネルギーになることを示している。 ・仕事はΔW=-pdV として定義される。これは状態量でない仕事が状態量である圧力と体 積で表されたことを意味している。 どの過程でも、系(作業物質)と熱源の間に温度差がつくようなことは、まったくなく、 系の状態変化は準静的になされ、系内での非平衡状態による無駄な熱の発生もないので、 効率がよい熱機関としてカルノーサイクルが導入される。効率のよいカルノーサイクルで も低温熱源に熱を捨てることは避けられない。 ・熱力学の第二法則:熱機関で低温熱源に熱を捨てることは避けられないこと(トムソン の原理)と熱は低温物体から高温物体には自然には流れないこと(不可逆性=クラジウス の原理)は同じことである。 ・カルノーサイクルの効率が高温熱源と低温熱源の温度だけから決まることにより、エン トロピーS という状態量が導入される。エントロピーは dS=ΔQ/T として定義される。こ

れは、状態量でない熱Δmizu.bosai.go.jp/wiki/wiki.cgi?action=ATTACH&page=%C7%EE... · れは、状態量でない熱Δq が状態量である温度とエントロピーで表されたことも意味して

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熱力学の基礎:

・「全体と流れと重要な結果」を頭に入れることを意識して、学習してください。特に、「熱

平衡」と「状態量」という二つの概念を意識しつつ、また、「エントロピー」という状態量

がどのように導入されるのかその物理的な意味はなにかを着目しつつ、学習してみてくだ

さい。(*)の部分は、最初は読み飛ばしても構いません。

・授業では、全部は説明できないので、全体と流れと後半の水循環や地球環境の講義に必

要な部分に焦点をあてて説明します(3 回の予定)。わかりにくいところは遠慮せず、質問

してください。

全体の流れと重要な結果:

・熱平衡状態とは、巨視的に見て系内で熱的・物質的に一定不変な状態。ただし、微視的

には、原子・分子は動き回っている。熱力学は熱平衡状態でのみ成り立つ。熱平衡状態と

は、巨視的に見て、区別がつかない状態とも言える。

・状態量とは、温度、体積、圧力、物質量(原子や分子の個数)など系の巨視的な状態だ

けで決まる物理量。内部エネルギーは状態量であるが、熱や仕事は状態量ではない。状態

量が定義できることとその量の積分が経路に寄らないこととその量が全微分で表せること

は同じことである。

・経験的に、熱平衡状態にある物体(系)の熱力学的な性質は常に温度、体積、圧力の三

つの状態量で記述できる。これらの三つの量はお互いに勝手に変化できるような独立な量

ではなくてある関数関係(状態方程式:f(T,V,p)=0)を満たす。つまり、自由に変わること

のできる独立な状態量は二つだけである。

・熱力学の第一法則:系に、外から熱量ΔQと仕事ΔWを加えると、系の内部エネルギーE

は増加し、その増分 dE は、ΔQ とΔW の和に等しい(dE=ΔW+ΔQ)。熱力学の第一法

則は、エネルギーが保存するということに加えて、状態量でない熱と仕事の和が状態量で

ある内部エネルギーになることを示している。

・仕事はΔW=-pdV として定義される。これは状態量でない仕事が状態量である圧力と体

積で表されたことを意味している。

・どの過程でも、系(作業物質)と熱源の間に温度差がつくようなことは、まったくなく、

系の状態変化は準静的になされ、系内での非平衡状態による無駄な熱の発生もないので、

効率がよい熱機関としてカルノーサイクルが導入される。効率のよいカルノーサイクルで

も低温熱源に熱を捨てることは避けられない。

・熱力学の第二法則:熱機関で低温熱源に熱を捨てることは避けられないこと(トムソン

の原理)と熱は低温物体から高温物体には自然には流れないこと(不可逆性=クラジウス

の原理)は同じことである。

・カルノーサイクルの効率が高温熱源と低温熱源の温度だけから決まることにより、エン

トロピーS という状態量が導入される。エントロピーは dS=ΔQ/T として定義される。こ

れは、状態量でない熱ΔQ が状態量である温度とエントロピーで表されたことも意味して

いる。これにより、熱力学の第一法則が、状態量だけで表されたことになる。つまり、

dE=TdS+pdVとなる。

・エントロピーの違いとは、物質を構成する多数の原子・分子の乱雑さの度合いを表す。

水の相変化、理想気体の自由膨張、理想気体の混合などにおいて具体例を見ることができ

る。

・不可逆過程を含む一般の熱機関の効率は、可逆過程からなるカルノーサイクルの効率よ

りも小さいことから、孤立系のエントロピーは不可逆過程により常に増大することが示さ

れる(エントロピー増大の法則)。

・可逆過程では、ΔQ=TdS、不可逆過程では、ΔQ<TdS。つまり、エントロピーは、可逆

過程と不可逆過程を判別する指標ともなる。

・いろいろな熱力学過程で、系の外にとりだすことができる有用な仕事として、いろいろ

な熱力学関数を定義することができる。そのような熱力学関数として、断熱過程ではエン

トロピーS、等温過程ではヘルムホルツの自由エネルギーF=E-TS、等圧過程ではエンタル

ピーH=E+pV、等温等圧過程ではギブスの自由エネルギーG=E-TS+pVが定義できる。

・これらの熱力学関数に対して、自然な独立変数が定義できる。それによりマクスウェル

の関係などのさまざまな熱力学的な関係式が導かれる。

・これらの熱力学関数は、それぞれの過程における安定性の指標となる。孤立系(断熱過

程)では、エントロピーは増大し、最大(熱平衡状態)で安定する。等温等積過程では、

ヘルムホルツの自由エネルギーFは減少し、最小(熱平衡状態)で安定する。等温等圧過程

では、ギブスの自由エネルギーGは減少し、最小(熱平衡状態)で安定する。

・外界とエネルギーや物質のやりとりのある系を開いた系を非平衡開放系という。生命や

地球は典型的な非平衡開放系である。

巨視的と微視的:

・巨視的とは、肉眼で見える程度の大きさ。微視的とは、肉眼で見えない程度の大きさ。

特に、自然科学では、原子分子レベルを考えるときは、微視的という。

・微視的な立場での学問分野としては、統計力学や量子力学。巨視的な立場での学問分野

としては、古典力学、電磁気学、熱力学。

力学と熱力学:

・力学では、日常的に出会う巨視的な物体を、質点として抽象化する。熱力学では、その

ままで系とみなし、系全体としての平均的な状態やその変化を扱う。そのため、非常に多

数の原子・分子を直接扱うのではなく、系全体としての平均的な性質である温度・圧力・

体積・密度などの相互関係を考察する。

・熱も温度も非常に多くの原子・分子が集まった系でしか意味をなさず、力学ではそれに

相当する概念はない。非常に多数とは、アボガドロ数:6×1023個程度のことをいう。

熱平衡状態:

・熱平衡状態とは、巨視的に見て系内で熱的・物質的に均一な状態。そのとき、熱や物質

の正味の流れがなく相転移も起こっていない。非平衡状態とは、巨視的に見て系内で熱的・

物質的に不均一な状態。そのとき、熱や物質の正味の流れがあるか相転移が起こっている。

・どちらの状態でも、微視的には、原子・分子は動き回っていることに注意する。つまり、

ある巨視的な熱平衡状態を、実現しうる微視的な状態(原子や分子の位置や速度の組み合

わせ)は、通常ひとつではなく、多数存在する。その数の指標となるのが、エントロピー

である(後述)。

・熱平衡状態とは、巨視的に見て、区別がつかない状態とも言える。巨視的に見て、区別

がつかないから、逆に、せいぜい3つくらいの変数で表現できるとも言える。もし区別が

つくならば、アボガドロ数程度の変数が必要ということになる。そうなると、そもそも人

間は「同じ種類の気体」というような概念を認識できるのか、さらにはそれらに関する「物

理の法則」というものが発達させうるのかということにもなる。

・熱力学は熱平衡状態でのみ成り立つ。熱力学は、熱平衡状態から熱平衡状態への変化は

扱うことができるが、その途中の非平衡状態については、扱えない。その意味で、熱力学

は、平衡熱力学または古典熱力学と呼ばれることもある。非平衡状態のある部分は、(現時

点で未完成の)非平衡熱力学で扱うことができる。

・熱力学には運動方程式が出てこない。つまり、時間発展が出てこない。これは、熱力学

が平衡状態を扱うためである。しかし、平衡状態間の変化に対してその変化の方向を扱う

ことはできる。それが熱力学の第二法則(後述)である。

熱力学の第 0法則:(*)

A~Bかつ B~Cならば、A~C(A~Bは系 Aと系 Bが熱平衡状態にあることを示す)

(当たり前と言えば当たり前のように思えるが、)これは温度 Tという状態量が存在するこ

とを示している。つまり、A~B⇔TA=TB。

経験温度:(*)

摂氏温度(℃):1気圧で氷と水の熱平衡系の温度を 0度、水と水蒸気の熱平衡系の温度を

100度として等間隔に目盛った温度 t

理想気体温度(K):ボイルシャルルの法則 pV=nR(t+273.5)が成立する理想気体における温

度 T=t+273.5

熱力学的絶対温度:(*)

熱力学第二法則から導かれる(科学的根拠のはっきりした)温度(後述)。実は、理想気体

温度と一致するので、実用上は経験温度を使えばよい。

状態量:

・状態量とは、系の巨視的な状態だけで一意的に決まる物理量。つまり状態量は、その状

態に至る経路によらない。具体的には、温度、体積、圧力、物質量(原子や分子の個数)

など。

・状態量が定義できることとその量の積分が経路に寄らないこととその量が全微分で表せ

ることは同じことである(後述)。

・氷から水への状態変化を考えると、熱を加えても温度は変わらずしかし明らかに状態変

化が起こっている、ということは、熱に関係する系の状態量は温度だけでは不十分である。

そこで、エントロピーという状態量が導入される(後述)。

内部エネルギー:

・内部エネルギーとは、系を構成する分子間の位置エネルギーと分子の乱雑な熱運動の運

動エネルギーの和のことである。内部エネルギーは状態量である。

・内部エネルギーと、系全体がもっている位置エネルギーや運動エネルギーとは別である

ことに注意する。例えば、コップに入れた水を扱うとき、そのコップが移動する際の位置

エネルギーや運動エネルギーと内部エネルギーは別のものである。

・理想気体では、内部エネルギーは、分子の運動エネルギーのみの和となる(後述)。

熱と仕事:

・ビーカーの水(1L、15℃)を、ヒーターなどで加熱しても(=熱を与えても)温度は上

がる(1L、20℃)。同じビーカーの水を、棒などでかき混ぜても(=仕事を与えても)温度

は上がる(1L、20℃)。どちらの操作も原子・分子の乱雑な運動を激しくさせ、温度を上

げるが、この2つの操作で得られる1L、20℃の水は、同じ状態にあり、区別がつかない。

この水に、熱はどれだけ加えられたか、仕事はどれだけ加えられたかはわからない。熱や

仕事は、系の内部に入ってしまえば、内部エネルギーとなり、熱や仕事としてのアイデン

ティティを失う。

・つまり、熱や仕事は状態量ではない。熱や仕事は(状態量ではなく)系の状態を変える

ときに必要な作業や過程に関係する量である。それを区別するため、状態量 E の微小変化

を dE、熱と仕事の微小変化をΔQ及びΔWと表す。

熱量と温度:(*)

・原子・分子の乱雑な運動の強い(熱い)ものから弱い(冷たい)ものへのエネルギーの

流れの量的な表現が熱量であり、原子・分子の乱雑な運動の強さ・弱さの程度(状態)の

質的な表現が温度である。熱は状態量ではないが、温度は状態量である。

・熱量は一般に保存しない。熱が移動するだけで他の形のエネルギー(仕事など)に変わ

らない場合のみ保存する。

状態方程式:

・経験的に、熱平衡状態にある物体(系)の熱力学的な性質は常に温度、体積、圧力の三

つの状態量で記述できることがわかっている。これらの三つの量はお互いに勝手に変化で

きるような独立な量ではなくてある関数関係(状態方程式:f(T,V,p)=0)を満たす。

・つまり、自由に変わることのできる独立な状態量は二つだけである。熱力学的な状態量

として温度、力学的な状態量として体積または圧力が代表していると考えることができる。

・状態方程式の形は、実験的または統計力学から理論的に決まる(熱力学だけでは決まら

ない)。また、状態方程式は熱平衡状態においてのみ成り立つ。

理想気体とその状態方程式:

・理想気体とは、分子の体積、分子間力などの分子間の相互作用(つまり、位置エネルギ

ー)がない仮想的な気体のことである。理想気体では、内部エネルギーは分子の運動エネ

ルギーの和になる。

・実在気体も、低圧で高温の状態では理想気体に近いふるまいをする。多くの実在気体は、

標準状態(温度 25°C (298.15 K)、気圧 1bar(105Pa)の状態)では、理想気体とみなしてよ

いことが多い。

・理想気体の状態方程式は以下の通り:

pV = nRT

p:圧力、V:体積、n:モル数、T:温度、R:比例定数=気体定数=8.3145(J/mol・K)

準静的過程と可逆過程:

・系と外との間に熱や仕事を出入りさせて、その前後の系の状態の変化を調べるような場

合には、熱平衡状態を保つ必要がある。そのような熱平衡状態を保ちつつゆっくり操作す

る過程を準静的過程という。準静的過程は可逆(逆行できる=系の外になんの影響も残さ

ないで元の状態に戻れる)過程である。

・準静的過程は可逆過程であるが、単に可逆過程というときには、別のコースをたどって

系の外になんの影響も残さないで、元の状態に戻る場合もありうることに注意する。

・準静的過程、つまり、平衡状態が持続するような過程の結果として現実的な熱力学過程

が実現されるというのは、無限に小さい量を足して有限になるようで、奇妙に思えるかも

しれないが、それは現実的に可能である(つまり、現実的に巨視的な流れを起こさないで

状態を変化させうる)ことから保証される。

・熱や物質の流れが生じる状態は非平衡状態であり、その変化は不可逆過程である。

物質の相変化:

・物質が固相(固体)、液相(液体)、気相(気体)と相(状態)が変化する際に必要な熱

量を潜熱という。その相変化の際に温度は変わらず、与えられた潜熱は相変化のためだけ

に使われる。

・固相から液相の変化の際に外から吸収する熱量を融解熱、その温度を融点、液相から固

相の変化の際に外に放出する熱量を凝固熱、その温度を凝固点、液相から気相に変化する

際に外から吸収する熱量を気化熱、その温度を沸点という。

・状態量(例えば、温度と圧力)がどのような値のときにある物質でどのような相が実現

されるかを示した図を相図という。状態量の変化によってある相(例えば、液相)が別の

相(例えば、気相)に変化するときを相転移、2つの相(例えば、液相と気相)が共存す

るときを相平衡という。

・固相、液相、気相の差は、物質を構成する原子・分子の配列の規則性の定性的な違いで

ある。先に述べた潜熱は、相転移の際に、その配列を壊すために使われる。しかし、液相

と気相の差は、分子間の大雑把な距離の差を言っているだけで、固相と液相の際ほど明確

ではない。実際、高温・高圧になるとその区別がつかなくなる。その点を臨界点という。

・また、低温・低圧では、固相、液相、気相の 3 つの相が共存する状態が存在する。その

点を 3重点という。3重点の温度は、温度の定点(基準点)としてしばしば使われる。

そのほかの重要な概念 1:(*)(余裕があったら自分で調べてみよう)

示量性状態量、示強性状態量

いくつかの数学的補足:

和と積分:

関数 y=f(x)と x軸(x0<x<x1)の間の面積 Sを求めるために、x軸の x0 から x1までを n

等分(間隔Δx)し、縦長の長方形の面積の和 Snとして近似すると、

𝑆𝑛 = ∑ 𝑓(𝑥0 + 𝑖𝛥𝑥) 𝛥𝑥

𝑛−1

𝑖=0

Δx→0とすると、和は積分になり、

S = ∫ f(x)dxx1

x0

1変数関数の微小変化(全微分):

関数 y=f(x)の微小変化は、

df = f(x + dx) − f(x) =df

dx Δx

Δx→0とすると、

df =df

dx dx

2変数関数の微小変化(全微分):

関数 z=f(x,y)の微小変化は、

df = f(x + dx, y + dy) − f(x, y) = {f(x + dx, y) − f(x, y)} + {f(x + dx, y + dy) − f(x + dx, y)}

= (∂f

∂x )

yΔx + (

∂f

∂y )

x

Δy

Δx→0, Δy→0とすると、

df = (∂f

∂x )

ydx + (

∂f

∂y )

x

dy

状態量と全微分:

状態量は、状態だけで決まるので、その状態に至る経路によらない。これは、状態量 A の

任意の閉曲線 Cに沿った積分、

∮ 𝐴・dr = 0

が 0と同じである。これは、微小な状態量 dAが、全微分(独立変数が 2つの場合)

dA = (∂A

∂x )

y dx + (

∂A

∂y )

x

dy

で表すことができることと同じである。(証明略)。

・先に述べたように、微小な熱や仕事は、全微分で表すことができない。それを区別する

ため、微小な状態量 Aを dA、微小な熱と仕事をΔQ及びΔWと表す。

熱量と仕事量の関係:

熱と仕事はエネルギーという量の別の形の表現。その変換率が熱の仕事当量。

熱の仕事当量:J=4.186(J/cal)、つまり、仕事 1J=熱 4.186cal。

熱力学の第一法則(エネルギー保存則):

・系に、外から熱量ΔQ と仕事ΔW を加えると、系の内部エネルギーE は増加し、その増

分 dEは、ΔQとΔWの和に等しい。すなわち、

dE =ΔQ +ΔW

これを熱力学の第一法則という。

・先に述べたように、Eは状態量であり QとWは状態量でない。熱力学の第一法則は、エ

ネルギーが保存するということだけでなく、状態量でないものの和が状態量になっている

ことを示している。⇒QとWを状態量で表すことが次の目標。

仕事:

・微小な仕事は、圧力一定の下で準静的に系の体積を微小変化させるのに必要なエネルギ

ーとして定義される。すわなち、

ΔW = −F dl = pS dl − pdV

体積を V0から V1まで変化させるとすると、積分して、仕事Wは

W = ∫ pdV

V1

V0

・これは、仕事の定義を表しているだけでなく、状態量でない仕事Wが状態量である圧力

pと体積 Vで表されたことを意味する。⇒Qを状態量で表すことが次の目標。

熱容量:

熱容量:その物質の温度を 1K上げるのに必要な熱量ΔQ

比熱:その物質 1gあたりの熱容量 C

まず数学的な関係式として、

dE = (∂E

∂T )

V dT + (

∂E

∂V )

T dV

dV = (∂V

∂T )

p dT + (

∂V

∂p )

T

dp

また、定積比熱は、V一定(dV=0、つまり、ΔQ=dE+pdV=dE)なので、

CV =ΔQ

dT=

dE

dT= (

∂E

∂T )

V

と表せる。従って、

ΔQ = dE + pdV = (∂E

∂T )

V dT + {p + (

∂E

∂V )

T} dV

= CVdT + {p + (∂E

∂V )

T} {(

∂V

∂T )

p dT + (

∂V

∂p )

T

dp}

= [CV + {p + (∂E

∂V )

T} (

∂V

∂T )

pdT + {p + (

∂E

∂V )

T} (

∂V

∂p )

p

dp

ここで、定圧比熱は、p一定(dp=0)なので、

Cp = CV + {p + (∂E

∂V )

T} (

∂V

∂T )

p

ここで、体膨張率

𝛽 =1

𝑉(

𝜕𝑉

𝜕𝑇 )

𝑝

を使うと

Cp = CV +βV {p + (∂E

∂V )

T}

と表すこともできる。

・実験的には Vを一定にするより pを一定(例:大気圧下の実験)にする方が簡単。そし

て、上式より、Cpがわかれば CV がわかる。

・Cpは、エンタルピーH=E+pV(後述)を使うと、p一定ならばΔQ=dE+pdV=d(E+pV)=dH

なので、CVにおける内部エネルギーEを使った

CV = (∂E

∂T )

V

という表現と同様に、

Cp = (∂H

∂T )

p

と表すことができる。

理想気体に関する法則や関係式:

ジュールの法則:

等温過程(dT=0)では、気体の体積が増減しても気体の内部エネルギーは変化しない。

(∂E

∂V )

T= 0

(証明はマクスウェルの関係式を学んだあとで→演習問題)

マイヤーの関係式:

ジュールの法則を使うと、

Cp − CV = p (∂V

∂T )

p= nR

このことからも、定圧比熱 Cpは、エンタルピーH=E+pV(後述)を使うと、CV=(∂E/∂T)

Vの表現と同様に、

Cp = (∂H

∂T )

p

と表すことができる。

ルニョーの法則:(*)

理想気体の定積熱容量は温度 Tによらない定数となる(熱力学の範囲では示されない)。

ここで、数学的な関係式:

dE = (𝜕E

𝜕T )

V dT + (

𝜕E

𝜕V )

T dV

に、定積熱容量の内部エネルギーによる表現とジュールの法則

CV = (𝜕E

𝜕T )

V , (

𝜕E

𝜕V )

T= 0

を代入すると、

dE = CVdT

と表せる。従って、ルニョーの法則より、E0を定数として、

E = CVT + E0

と表すことができる。

ポアッソンの法則:

断熱変化(ΔQ=0)では、γ=Cp/CVとして、

TVγ−1 = const.

pVγ = const.

γ>1 なので、p-V 図において、等温曲線(pV=一定)よりも断熱曲線の方が、傾きが大き

くなる。

演習問題 1:マイヤーの関係式と理想気体の状態方程式からポアッソンの法則を導け。

(ヒント:断熱変化(ΔQ=0)では、dE=-pdV。従って、理想気体では、CvdT+pdV=0。

これに理想気体の状態方程式 pV=nRTを代入して、マイヤーの関係式Cp-Cv=nRを使う。)

演習問題 2:理想気体が等温過程で(外に)する仕事を求めよ。

(ヒント:理想気体のカルノーサイクルの項参照)

⇒理想気体は、等温過程では外から熱を吸収することによって外に仕事をすることができ

る。この結果は、温度差がなくても体積を変えることによって熱を移動させることが可能

なことを示している。

演習問題 3:理想気体が断熱過程で(外に)する仕事を求めよ。

(ヒント:理想気体のカルノーサイクルの項参照、ポアッソンの法則を使う)

⇒理想気体は、断熱過程では自身の温度を下げることによって外に仕事をすることができ

る。

そのほかの重要な概念 2:(*)(余裕があったら自分で調べてみよう)

理想気体が等圧過程で外にする仕事

熱機関:

・系がある状態からスタートして再び元に戻る過程を繰り返す時これを循環過程(サイク

ル)という。

・熱機関とは、高温の熱源と低温の熱源の間で動作し、この温度差を使って有用な仕事を

循環過程(サイクル)で取り出そうとする機関(例:火力発電所、蒸気機関車)。

・冷蔵庫やエアコンは、熱機関に外から仕事(電気)を加えて、それを逆向きに運転士周

囲との温度差をつけている。

熱機関の効率と永久機関:(*)

・熱機関の効率(外から吸収した熱に対するその熱を使って外にした仕事の割合)には上

限がある。熱力学の第一法則から 1 よりは大きくはならないことはわかる。しかしさらに

制限が加わる(熱力学の第二法則:後述)。

・熱力学の第一法則に反する(外から加えられた熱量以上の仕事をすることのできる)熱

機関を第一種永久機関という。

・現実には、外から加える熱量をすべて仕事に変換することさえできない(熱力学の第二

法則:後述)。熱力学の第二法則に反する熱機関を第二種永久機関という。

水位差と温度差の違い:(*)

・水力発電では、水の落差という位置エネルギーを、水の流れという運動エネルギーに変

え、それでタービンを回し、それに連動した発電機から電力として有用な仕事を外に取り

出している。自転車の回転式のライトは、人間の足が直接ペダルを回し、それでタイヤを

回し、それに連動した発電機から電力として有用な仕事(光)を外に取り出している。

・しかし、温度差がある物体を単にくっつけると、熱エネルギーが熱流として単純に高温

側から低温側に流れるだけで有用な仕事を外に取り出すことはできない。このような熱エ

ネルギーの散逸は、温度差があって熱流が生じるような状態(つまり、非平衡状態)では

いつでも起きる。熱流では、水流とは異なり、ものが流れているわけではないので、熱流

そのもので直接タービンを回すことはできない。温度差から有用な仕事を外に取り出すに

はなんらかの工夫が必要である。

効率がよい熱機関とは?:(*)

・熱機関にとって無駄な熱エネルギーの散逸は、接触している物体の間の温度差によって

起こる。それならば、熱機関をその作動サイクルの途中で温度差を限りなく小さくして準

静的に運転すればもっとも効率がよいはずである(しかも準静的なので可逆的でもある)。

・(先の演習問題で示したように)理想気体は、断熱過程では自身の温度を下げることによ

って、等温過程では外から熱を吸収することによって、外に仕事をすることができる。特

に、等温過程では、温度差がなくても体積を変えることによって熱を移動させることが可

能なことを示している。

・実は、このこと自体は、作業物質が理想気体に限らない(ただし、外にする仕事の量は、

作業物質により異なる)。この 2つの過程をうまく組み合わせて、効率がよい熱機関として

考えられたのが、次のカルノーサイクルである。

カルノーサイクル:

・次のような循環過程(A→B→C→D→A):

A→B:等温膨張: B→C:断熱膨張: C→D:等温圧縮: D→A:断熱圧縮:

をカルノーサイクルという。つまり、カルノーサイクルでは、循環的に系(作業物質)の

体積を変えることによって、高温熱源の熱を、作業物質を介して、低温熱源に、準静的に

ゆっくりと移動させるとともに、外に仕事を取り出す。

・ここで重要なことは、この循環過程の中で、等温過程では高温熱源か低温熱源のどちら

かとしか接触していないので温度差はないし、断熱過程ではそもそも温度差の原因となる

熱源との接触がないので温度差はない。従って、カルノーサイクルでは、どの過程でも、

系(作業物質)と熱源の間に温度差がつくようなことは、まったくなく、系の状態変化は

準静的になされ、系内での非平衡状態による無駄な熱の発生もない(ので、効率がよい)。

カルノーサイクルで外にする仕事:

1 サイクルで、系(作業物質)が実質的に外から得た熱をΔQ、外からされた仕事をΔW、

内部エネルギーの変化を dEとすると、

1サイクルで、系(作業物質)の状態は元に戻っているので、

dE = 0

高温熱源から受け取る熱を Q1、低温熱源に放出する熱を Q2とすると、

ΔQ = Q2 − Q1

従って、熱力学の第一法則より、

ΔW = −ΔQ = Q1 − Q2

ここで、以下の記述を簡単にするために、系が外にする仕事を改めてWとおくと、W=Q1-Q2

理想気体のカルノーサイクル:(*)

・A→B:等温膨張:高温熱源 T1と接触させ熱 Q1を吸収しつつ等温 T1のままで膨張(外

へ仕事W1:W1は正)させる。

理想気体の内部エネルギーは等温過程で一定(ΔE=0)。従って、

W1 = Q1 = ∫ pdV

VB

VA

= nRT1 ∫dV

V= nRT1 ln (

VB

VA)

VB

VA

・B→C:断熱膨張:断熱体と接触させ膨張(外へ仕事 W2:W2 は正)させる。このとき

熱の出入はない(Q3=0)。温度は T2まで下がる。

理想気体の断熱過程ではポアッソンの法則より

pBVBγ = pCVC

γ = const. = k

従って、

W2 = ∫ pdV

VC

VB

= k ∫ 1/VγdV

VC

VB

= k/(1 −γ)[V1−γ]VBVC =

k (VB1−γ − VC

1−γ)

γ− 1=

pBVB−pCVC

γ− 1

=nR(T1 − T2)

γ− 1= CV(T1 − T2)

・C→D:等温圧縮:低温熱源 T2と接触させ熱 Q2を放出しつつ等温 T2のままで圧縮(外

へ仕事W3:W3は負)する。

理想気体の内部エネルギーは等温過程で一定(ΔE=0)。従って、

W3 = Q3 = ∫ 𝑝𝑑𝑉

𝑉𝐷

𝑉𝐶

= nRT2 ∫ 𝑑𝑉/𝑉

𝑉𝐷

𝑉𝐶

= nRT2 ln (VD

VC) = −nRT2 ln (

VC

VD)

・D→A:断熱圧縮:断熱体と接触させ圧縮(外へ仕事 W4:W4 は負)する。このとき熱

の出入はない(Q4=0)。温度は T1まで上がる。

理想気体の断熱過程ではポアッソンの法則より

pDVDγ = pAVA

γ = const. = k

従って、

W4 = ∫ pdV

VA

VD

= k ∫ 1/VγdV

VA

VD

= k/(1 −γ)[V1−γ]VDVA =

k (VD1−γ − VA

1−γ)

γ− 1=

pDVD−pAVA

γ− 1

=nR(T2 − T1)

γ− 1= CV(T2 − T1) = −W2

理想気体のカルノーサイクルが(外に)する仕事:(*)

1サイクルでする仕事は、W=W1+W2+W3+W4であるが、上記より、W4=-W2なので、

W = W1 + W3 = nRT1 ln (VB

VA) − nRT2 ln (

VC

VD)

ここで、ポアッソンの法則より、

T1 VBγ−1 = T2 VC

γ−1 かつ T2 VDγ−1 = T1 VA

γ−1

∴ VC = (T1

T2)

1

γ−1VB かつ VD = (

T1

T2)

1

γ−1VA

∴VC

VD=

VB

VA

従って、

W = nR(T1 − T2) ln (VB

VA)

熱機関の効率:

熱機関で問題となるのは、その熱機関で外から吸収した熱 Q を使って、その熱機関が外に

どれだけの仕事Wをすることができるかということである。つまり、熱機関の効率を

η =W

Q

で定義できる。

カルノーサイクルの効率:

・カルノーサイクルの場合、

ηC

=W

Q=

Q1 − Q2

Q1

である。ここで、Q2=0ならばηC=1。しかし、これは A→B:等温膨張のみを意味し、サ

イクルにならない。つまり、有効な仕事を取り出すことはできない。つまり、Q2を 0にで

きないので、ηC<1である。

・カルノーサイクルでは、高温の等温膨張過程では系は外から大きな熱を吸収して外に大

きな仕事(大きな膨張)をし、低温の等温圧縮では系は外から小さな仕事(小さな圧縮)

をされて外へ小さな熱を排出(Q2>0)して仕事量の差をつくる。そして、これらの両過程

を断熱過程で温度を上げ下げしてつなぎ、サイクルにしている。

Q2を 0にできないことについて:

・経験的に、Q2を 0にできない、つまり、どのような熱機関でも低温熱源に熱を捨てるこ

とは避けられない。従って、温度差があるような非平衡状態を排し無駄な熱の発生を避け

たカルノーサイクルでも、その効率ηCは 1より小さい。

・実は、熱機関で低温熱源に熱を捨てることは避けられないこと(Q2≠0:トムソンの原理:

後述)と熱は低温物体から高温物体には自然には流れないこと(不可逆性=クラジウスの

原理:後述)は同じことである(後述)。

・ここに熱力学的現象と力学的(あるいは電磁気学的)現象の本質的な違いがある。力学

(や電磁気学)現象では、ある現象が可能ならばその逆向きの減少も可能である。ところ

が、熱力学的現象では、熱は高温物体から低温物体には流れるが、その逆は自然には起き

ないのである。

・しかし、熱機関で低温熱源に熱を捨てないとしてもあるいは熱は低温物体から高温物体

には自然には流れるとしても熱力学の第一法則(エネルギー保存則)に矛盾するわけでは

ない。つまり、熱力学的現象には、熱力学の第一法則以外には Q2≠0または不可逆性を表

す別の法則が必要となる。それが熱力学の第二法則(後述)である。

・そして、熱力学の第一法則おいて状態量としての内部エネルギーが導入されたように、

熱力学の第二法則において別の状態量としてのエントロピー(後述)が導入される。

熱力学の第二法則:

・トムソンの原理:一つだけの熱源を利用して、その熱源から熱を吸収し、それを全部仕

事に変えるような熱機関はあり得ない。

・クラジウスの原理:他に何の変化を残すこともなく、熱を低温の物体から高温の物体に

移すことはできない。

・トムソンの原理とラジウスの原理は等価である(証明略)。

・もしトムソンの原理を破る熱機関が可能ならば、例えば、この熱機関を船舶(飛行機)

に積めば一つだけの熱源である海(大気)から事実上無限の熱を取り出して航行できる。

このような熱機関を第二種永久機関と呼ぶ。

カルノーの第一定理:(*)

・与えられた温度をもつ高温熱源と低温熱源の間ではたらくどのようなカルノーサイクル

でも、その効率はすべて等しく作業物質によらない(証明略)。

・熱源は温度だけで指定されるので、この定理は、カルノーサイクルの効率は高温熱源の

温度 T1と低温熱源の温度 T2だけで決まることを意味する。つまり、ηC=ηC(T1,T2)。

理想気体のカルノーサイクルの効率:

理想気体のカルノーサイクルのする仕事は、

W = nR(T1 − T2) ln (VB

VA)

高温熱源から受け取る熱 Q1は、

Q1 = nRT1 ln (VB

VA)

従って、理想気体のカルノーサイクルの効率は、

ηC

=W

Q=

T1 − T2

T1= 1 −

T2

T1

となり、高温熱源の温度 T1と低温熱源の温度 T2だけの関数である。

熱力学的絶対温度:(*)

カルノーの第一定理は、カルノーサイクルの効率から決められる作業物質に無関係な普遍

的な温度スケールが決められることも意味する。それは、作業物質に無関係なはずだから

作業物質として理想気体を選べばよい。つまり、経験的な理想気体温度と熱力学的な絶対

温度は一致する。

カルノーサイクルでの保存量:

カルノーサイクルには熱力学の第一法則による内部エネルギー以外にどのような保存量が

ありうるであろうか。カルノーサイクルの効率から

ηC

= 1 −Q2

Q1= 1 −

T2

T1

従って、

Q1

T1=

Q2

T2

そこで、S=Q/Tと定義すると、1サイクルで、Sは元の値に戻る(つまり、保存する)。こ

の状態量 Sをエントロピーと呼ぶ。

・ここで、左辺は高温熱源からサイクルに入る量で、右辺はサイクルから低温熱源に出る

量であり、このとき等温過程である。従って、dS=ΔQ/T。

・これはエントロピーの定義を表しているだけでなく、状態量でないΔQを Tと Sという

状態量で表したことになる。こうして、ΔW=-pdV と併せて、系の熱力学的な性質をその

系の状態量だけで表すことができたことになる。

・例えば、定積熱容量 CVと定圧熱容量 Cpは、それぞれ、

CV = T (∂S

∂T )

V

Cp = T (∂S

∂T )

p

と表すことができる。

クラジウスの関係式:(*)

・エントロピーS は、任意の作業物質に対する一般の準静的サイクル C に対しても、保存

する(証明略)。つまり、

∮ dSC

= ∮ΔQ

T= 0

C

エントロピーの物理的意味:

・代表的な状態量として、温度、圧力、体積があり、実際、状態方程式は、それらの間の

関係を示している。ここで、圧力と体積は力学的な状態を代表しており、温度は熱力学的

な状態を代表していると考えることができる。熱力学的状態を表すのに温度だけで十分で

あろうか?

・(相変化のような)等温過程では、温度 Tは変化しないが、外から与えれた熱量 Qに対し

て、dS=Q/T。従って、エントロピーは変化する。これは、熱に関する状態量として、温度

だけでは不十分で、エントロピーが必要なことを示しているとも言える。理想気体では、

等温過程では内部エネルギーは変化しないが、エントロピーは変化する。その意味で、エ

ントロピーの物理的意味を考える上では、等温過程を考えるとわかりやすい。

・実際、第一法則:dE=ΔQ+ΔWにおいて、ΔW=-pdV として、力学的な状態に関係するが

状態量でないWが、状態量 p, Vで表された。熱力学的な状態に関係するが状態量でない ΔQ

を、状態量 Tと結びつけるものとして、導入された状態量がエントロピーである。

・断熱過程では、ΔQ=0なので、dS=0。従って、エントロピーは保存される。

・水の相変化(等温過程): 0℃、1 気圧で氷が水に変化する場合を考える。その際に外か

ら潜熱 Q が与えられる。このとき温度は変わらない。しかし、エントロピーは変わる。つ

まり、このとき同じ質量の氷と水でも、水は氷よりエントロピーが大きい。これは、氷は

水分子が整列して結晶状態であるのに対して、水は水分子が乱雑に動き回る状態にあるこ

とに対応している。つまり、エントロピーの違いとは、物質を構成する多数の原子・分子

の乱雑さの度合いを表す。これらの原子・分子の状態が乱雑であるほどエントロピーが大

きいと考えられる。

・理想気体の自由膨張(等温過程):理想気体が真空中で膨張し体積が大きくなると、原子・

分子の運動エネルギーは変わらないので温度は変化せず、従って、内部エネルギーも変化

しないが、乱雑さは増しているので、エントロピーは増加する。

・理想気体の混合(等温過程):

左右に分離している 2 種類の分子が混合する場合、圧力も温度も変わらない。この場合、

分子の位置は両方とも同じように乱雑であるが、分離している場合よりも混合している場

合の方がより乱雑であって、後者の方がエントロピーは大きくなる。

・以上のことは、統計力学から導かれるボルツマンの式(k:ボルツマン定数)

S = k lnW

でWがその系がとりうる微視的状態の数、つまり、系の乱雑さの度合いを表すことからも

正当化される。また、このことからエントロピーは多数の原子・分子から成る系の純粋に

統計的な性質から生じる量であることがわかる。

・このことは、はじめに説明した熱平衡の概念からもわかる。

そのほかの重要な概念 3:(*)(余裕があったら自分で調べてみよう)

ゴム弾性

演習問題 4:理想気体のエントロピーを求めよ。

(ヒント:dE=TdS+pdVに dE=CvdT及び pV=nRTを代入すると、TdS=CvdT+(nRT/V)

dV∴dS=CvdT/T+nRdV/V∴S(T, V)=Cvln(T)+nRln(V)+S0、ただし S0は定数)

演習問題 5:理想気体の自由膨張(等温過程)で、実際にエントロピーが増加していること

を確かめよ。

(ヒント:体積Vが2倍になったとすると、dS=nR ln(2V)-nR ln(V)=nR ln(2V/V)=nR ln(2)

>0)

演習問題 6:理想気体の混合(等温過程)で、実際にエントロピーが増加していることを確

かめよ。

(ヒント:モル数を n1 と n2、(n= n1+n2)それぞれが最初に占めている体積を V1 と V2

(V=V1+V2)とすると、dS=n1R ln(V/V1)+n2R ln(V/V2)=n1R ln(n/n1)+n2R ln(n/n2)=nR{x

ln(1/x)+(1-x) ln(1/(1-x)}>0、ここで x=n1/n、1-x=n2/n。)

熱力学の第一法則再び:

ΔQ=TdSかつΔW=-pdVゆえ

dE = TdS − pdV

従って、これで、熱力学の第一法則が、系の状態量だけで表されたことになる。

仕事を熱に変えることは簡単である。しかし熱を仕事に変えるには、常に制限がつきまと

う。しかしこのことから逆に、いろいろな熱力学過程で、系の外にとりだすことができる

有用な仕事として、いろいろな熱力学関数を定義することができる。そのための基礎が上

の表式の熱力学の第一法則になる。

化学ポテンシャル:

物質の量により系が潜在的に持つエネルギーの大きさの尺度を化学ポテンシャルという。

例えば、濃度差が溶液(食塩水)を半透膜で仕切ると、濃度差に応じて浸透圧が生じ、溶

媒(水)が移動する。つまり、溶媒(食塩)の物質量の差により、仕事をすることができ

る。

拡張された熱力学の第一法則:

等温等圧過程では粒子数Nを一定とすると変化がない。そこで粒子の系への出入りを許す。

系に粒子 1 個をつけくわえるための仕事(必要なエネルギー)を化学ポテンシャルμとい

う。このとき、熱力学の第一法則は、

dE = TdS − pdV +μdN

と拡張される。

断熱過程(エントロピーS一定):

断熱過程(ΔQ=0、従って、dS=0)では、系が外にする仕事

ΔW′ = −ΔW = pdV = −dE

従って、断熱過程では、系が外に仕事をする際のエネルギー源は、系の内部エネルギーEそ

のものである(これが、また、内部エネルギーの熱力学的な意味でもある)。

等温過程(温度 T一定):

等温過程では、

ΔW′ = −ΔW = pdV = −dE + TdS = −d(E − TS)

従って、等温過程では、系が外に仕事をする際のエネルギー源は、系の内部エネルギーEそ

のものではなく、それから無秩序な熱エネルギーTS を差し引いた E-TS である。F=E-TS

をヘルムホルツの自由エネルギーという。

等圧過程(圧力 p一定):

等圧過程では、

ΔQ = TdS = dE + pdV = d(E + pV)

従って、等圧過程では、系に外から入った熱量は、Eや Fではなく、E+pVの増加となる。

H=E+pV をエンタルピーという。化学反応では発熱と吸熱が重要で、圧力を一定に保つこ

とは実験的に比較的容易(例えば、大気圧下での化学反応)なので、エンタルピーは化学

分野でよく使われる。

等温等圧過程(温度 Tと圧力 p一定):

等温等圧過程では、

ΔW′ = −μdN = −dE + TdS − pdV = −d(E − TS + pV)

従って、等温等圧過程では、系が外に仕事をする際のエネルギー源は、系の内部エネルギ

ーE から熱エネルギーTS と力学的エネルギー-pV を差し引いた E-TS+pV である。

G=E-TS+pV=F+pVをギブスの自由エネルギーという。

内部エネルギーの自然な独立変数:

・熱力学の第一法則

dE = TdS − pdV (1)

より、内部エネルギーの自然な独立変数は、S と V である。ここで、「自然な」の意味は、

「形が複雑でない表現となる」という意味である。

・(1)と、Eの Sと Vによる全微分表現(これは単なる数学的な関係式である):

dE = (∂E

∂S )

V dS + (

∂E

∂V )

S dV (2)

より、

T = (∂E

∂S )

V (3)

p = − (∂E

∂V )

S (4)

従って、(1)より、独立変数 Sと Vから Eが得られ、(3)と(4)より、Tと pが得られる。つ

まり、独立変数 Sと Vからすべての変数を導くことができる。そして、(3)と(4)から Sを消

去すれば、状態方程式 p=p(T, V)が得られる。

・(3)の両辺を、Sを一定にして Vで微分し、右辺の微分の順序を入れ替え、その結果に(4)

を代入すると、

(∂T

∂V )

S= − (

∂p

∂S )

V (5)

これは、右辺の直感的にわかりにくいエントロピーSによる微分を、左辺の直観的にわかり

やすい体積 Vによる微分に置き換えている。さらに、左辺の S一定は断熱変化を表してお

り、実験的には比較的容易(断熱材などを使って熱の出入りを注意深く避ければよい)で

ある。これは、マクスウェルの関係式と呼ばれる関係式のひとつである。

演習問題 7:内部エネルギーE を別の独立変数、例えば、温度 Tと体積 V で表してみよ。

そしてそれが複雑(不自然)な形をしていることを確かめよ。(第一法則 dE=TdS-pdVに S

の Vと Tによる全微分表現を代入する。)

演習問題 8:マクスウェルの関係式(∂T/∂V)S=-(∂p/∂S)V (5)を求めよ。((3)の両辺を、

Sを一定にして Vで微分し、右辺の微分の順序を入れ替える。)

ヘルムホルツの自由エネルギーの自然な独立変数:

・ヘルムホルツの自由エネルギーの定義式 F=E-TSより、

dF = d(E − TS) = dE − TdS − SdT = −SdT − pdV (6) (∵ (1))

従って、ヘルムホルツの自由エネルギーの自然な独立変数は、Tと Vである。

・(6)と、Fの Tと Vによる全微分表現(これは単なる数学的な関係式である):

dF = (∂F

∂T )

V dT + (

∂F

∂V )

T dV (7)

より、

S = − (∂F

∂T )

V (8)

p = − (∂F

∂V )

T (9)

・Fが有用なのは、直感的にわかりにくいエントロピーSが(8)より、状態方程式 p=p(T, V)

が(9)より直接的に求まることにある。実際、統計力学では、そのように計算する。

・(8)の両辺を、Tを一定にして Vで微分し、右辺の微分の順序を入れ替え、その結果に(8)

を代入すると、

(∂S

∂V )

T= (

∂p

∂T )

V (10)

これは、左辺の Sの入っている微分を右辺の Sの入っていない微分に置き換えている。こ

れは、マクスウェルの関係式のひとつである。

演習問題 9:ジュールの法則:「理想気体では、温度一定下で気体の体積が増減しても気体

の内部エネルギーは変化しない」をヘルムホルツの自由エネルギーの定義式 F=E-TS と理

想気体の状態方程式 pV=nRTを(9)に代入することから求めよ。

エンタルピーの自然な独立変数:

・エンタルピーの定義式H=E+pVより、

dH = d(E + pV) = dE+pdV+Vdp = TdS + Vdp (11) (∵ (1))

従って、エンタルピーの自然な独立変数は、Sと pである。

・(11)と、Hの Sと pによる全微分表現(これは単なる数学的な関係式である):

dH = (∂H

∂S )

p dS + (

∂H

∂p )

S

dp (12)

より、

T = − (∂H

∂S )

p (13)

V = (∂H

∂p )

S

(14)

・(13)と(14)から Sを消去すれば、状態方程式 V=V(T, p)が求まる。

・(13)の両辺を、Sを一定にして pで微分し、右辺の微分の順序を入れ替え、その結果に(14)

を代入すると、

(∂T

∂p )

S

= (∂V

∂S )

p (15)

これは、右辺の Sの入っている微分を左辺の Sの入っていない微分に置き換えている。こ

れは、マクスウェルの関係式のひとつである。

ギブスの自由エネルギーの自然な独立変数:

・ギブスの自由エネルギーの定義式 G=E-TS+pVより、

dG = d(E − TS + pV) = dE − TdS − SdT + pdV + Vdp = −SdT + Vdp (16) (∵ (1))

従って、ギブスの自然な独立変数は、Tと pである。

・(16)と、Gの Tと pによる全微分表現(これは単なる数学的な関係式である):

dG = (∂G

∂T )

p dT + (

∂G

∂p )

T

dT (17)

より、

S = − (∂G

∂T )

p (18)

V = (∂G

∂p )

T

(19)

・(19)は状態方程式 V=V(T, p)そのものである。

・(18)の両辺を、Tを一定にして pで微分し、右辺の微分の順序を入れ替え、その結果に(14)

を代入すると、

(∂S

∂p )

T

= − (∂V

∂T )

p (20)

これは、左辺の Sの入っている微分を右辺の Sの入っていない微分に置き換えている。こ

れは、マクスウェルの関係式のひとつである。

ギブス-デュエムの関係式:(*)

・ギブスの自由エネルギーの定義式 G=E-TS+pVより

dG = d(E − TS + pV) = dE − TdS − SdT + pdV + Vdp

これに系への粒子の出入りを考慮した熱力学の第一法則

dE = TdS − pdV +μdN

を代入すると、

dG = SdT + Vdp −μdN (21)

従って、Gの Tと pと Nによる全微分表現より、

(∂G

∂N )

T,p=μ (22)

一方、Gはエネルギーの一種なので、粒子数 Nに比例する(この性質を示量性という)。

従って、

G(T, p, xN) = xG(T, p, N)

両辺を xで微分すると、

(∂G(T, p, xN)

∂(xN) )

T,p

(∂(xN)

∂x) = G(T, p, N)

∴ N (∂G(T, p, xN)

∂(xN) )

T,p

= G(T, p, N)

ここで x→1とすると、

N ∂G

∂N= G (23)

(22)と(23)から、

G =μN (24)

(21)と(24)から、

SdT − Vdp + Ndμ = 0 (25)

これを、ギブス-デュエムの関係式という。これは、水文学や気象学でも重要な次のクラジ

ウス-クライペロンの式を導く際に使われる。

クラジウス-クライペロンの式:

二つの相 Aと B(例えば、液相と気相)の共存曲線上にある点 Pにおいて、温度 T、圧力

p、化学ポテンシャルμは、相 A と B で等しい値をもつ。同じ共存曲線上の別の点 P’にお

いて、温度 T+dT、圧力 p+dp、化学ポテンシャルμ+dμは、相 Aと Bで等しい値をもつ。

このとき、ギブス-デュエムの関係式を 1mol(N個)の物質の A相と B相に適用すると、

SmAdT − VmAdp + Ndμ = 0

SmBdT − VmBdp + Ndμ = 0

が成立する。Smと Vmは、それぞれ 1molあたりのエントロピーと体積で、一般に A相と B

相で値が異なる。μNを消去すると、

dp

dT=

SmB − SmA

VmB − VmA

A相から B相への相転移の際の 1molあたりの潜熱を Lmとすると、

Lm = T(SmB − SmA)

従って、

dp

dT=

Lm

T ΔVm

これをクラジウス-クライペロンの式という。ここで、ΔVm=(VmB-VmA)は相転移の際の 1mol

あたりの体積変化を表す。

・物質の共存曲線について熱力学で言えるのは、クラジウス-クライペロンの式までである。

熱力学では、相図が存在することは言えるが、その形は求めることができない。しかし、

実験的に得られた熱力学的な測定量は、厳密に、種々の熱力学的な関係式に従う。例えば、

実験的に共存曲線の傾きと体積変化が求まれば、クラジウス-クライペロンの関係式から、

潜熱を求めることができる。

・クラジウス-クライペロンの式は、飽和水蒸気圧の温度による変化率を表す式として、水

文学や気象学でよく用いられる。水文学や気象学の教科書では、与えられた式として導入

されることが多いが、きちんと証明しようとすると、上記のように結構面倒である。

熱力学関数のまとめ:

内部エネルギー:E=E(S, V)

dE = TdS − pdV

ヘルムホルツの自由エネルギー:F=E-TS=F(T, V)

dF = −SdT − pdV

エンタルピー:H=E+pV=H(S, p)

dH = TdS + 𝑉dp

ギブスの自由エネルギー:G=E-TS+pV=F+pV=G(T, p)

dG = −SdT + 𝑉dp

例えば、F=E-TS は、E の独立変数のひとつである S を T に変える変数変換の手続きとも

見なすことができる。この手続きをルジャンドル変換という。

マクスウェルの関係式のまとめ:

(𝜕p

𝜕S )

V= − (

∂T

∂V )

S(

∂S

∂V )

T= (

∂p

∂T )

V(

𝜕V

𝜕S )

p= (

∂T

∂p )

S

(∂S

∂p )

T

= − (∂V

∂T )

p

これらの関係式は、エントロピーSを含んでいて測定困難な左辺の量を、測定が比較的容易

な右辺の量に関係づけている。実際、右辺の S 一定の条件は、断熱過程を意味しており、

実験的には、熱の出入りを避ければよいだけである。

そのほかの重要な概念 4:(*)(余裕があったら自分で調べてみよう)

ジュール-トムソン効果、ギブスの相律

不可逆過程と非平衡現象:

・高温から低温への熱の移動(熱伝導)、高密度から低密度への物質の拡散(拡散)、摩擦

や粘性抵抗による熱エネルギーの発生(散逸)など、ひとりでに元に戻らないような過程

を不可逆過程という。

・現実の日常的な巨視的な世界で起きる過程は、ほとんどの場合不可逆である。そのよう

な不可逆過程を伴う現象を非平衡現象という。

・熱平衡状態にある箱の中の N=1023個(約 1 モル)の粒子が、箱の左半分に自然に集ま

る確率は、

P = (1

2)𝑁 = 10−

𝑙𝑛2𝑙𝑛10

𝑁~10−3×1022

これは、この逆数(分母の数)の回数だけ観測すると、1回観測できうるということである。

1秒に 1回観測するとするならば、約 100億年(だいたい宇宙の年齢)で 3×1017回程度し

か観測できないので、事実上観測できる確率は(数学的には 0ではないが、物理的には)0

と考えてよい。

カルノーの第 2定理:

・(同じ高温熱源 T1と低温熱源 T2の間で働く)不可逆機関 Iと可逆なカルノー機関 Cで

は、前者の効率ηIは後者の効率ηCよりも低い(証明略)。すなわち、ηI<ηC

・熱機関で、不可逆過程が起こると効率が悪くなる。そのため、カルノーサイクルでは、

温度差による無駄な熱の発生、つまり、不可逆過程を起きないように工夫したのであった。

その意味から、上記は自然に理解できる。

可逆機関のエントロピー変化:

可逆なカルノー機関 Cの効率ηCは、

ηC

= 1 −Q2

Q1= 1 −

T2

T1

つまり、

Q1

T1=

Q2

T2

これは、可逆なカルノー機関では、高温熱源から受け取ったエントロピーS1=Q1/T1 をそ

のまま S2=Q2/T2=S1として低温熱源に排出することを意味する。

可逆機関のエントロピー変化:

不可逆機関 Iの効率ηIは、

ηI

= 1 −Q2′

Q1′

これらの式をカルノーの第二定理ηI<ηCに代入すると、

Q1′

T1<

Q2′

T2

これは、不可逆機関では、高温熱源から受け取ったエントロピーS1’=Q1’/T1よりも低温熱

源に排出したエントロピーS2’=Q2’/T2 の方が大きいことを意味している。これを不可逆過

程のエントロピー生成という。つまり、不可逆機関では、系の中で不可逆過程により生成

されるエントロピーを外部に排出することにより、元の状態に戻ることができて、サイク

ルになる。

クラジウスの不等式:

Q2’を外部に排出する熱量ではなく、Q1’と同様に内部に流入する熱量(ただし、負の符号

を持つ)と捉えると、

Q1′

T1+

Q2′

T2< 0

より一般に不可逆過程を含む熱力学的なサイクル CIに関して、

∑ΔQi′

Ti< 0

i

あるいは、

∮ΔQ

T< 0

CI

エントロピー増大の原理:

不可逆過程を含む熱力学的なサイクル CI上に 2点 Aと Bをとり、

Ⅰ:A→B(不可逆過程)

Ⅱ:B→A(可逆過程)

とする。不可逆過程が含まれているので、

∫ΔQ

T+ ∫

ΔQ

T

A

II,B

B

I,A

< 0

可逆過程は、その値は経路によらず、状態量としてのエントロピーで表せるので、

∫ΔQ

T= S(A) − S(B)

A

II,B

従って、

∫ΔQ

T<

B

I,A

S(B) − S(A) (26)

左辺は、不可逆過程であるので、その値は経路により、状態量で表せない。

ここで、孤立系(外界とエネルギーや物質のやりとりのない系)を考えると、ΔQ=0 なの

で、左辺は 0、従って、S(A)<S(B)、すなわち、孤立系のエントロピーは不可逆過程により

常に増大する。

熱力学的な安定性:

不可逆過程を含む一般的な過程において、(26)で微小な経路を考えると、左辺はΔQ/T、右

辺は dSで近似できる。従って、

ΔQ < TdS

可逆過程では、

ΔQ = TdS

つまり、エントロピーは、可逆過程と不可逆過程を判別する指標ともなる。

一般に、

ΔQ ≦ TdS

また、孤立系(断熱過程:ΔQ=0)では、

dS ≧ 0

従って、孤立系(断熱過程)では、エントロピーは増大し、最大(熱平衡状態)で安定す

る。

同様に、不可逆過程を含む一般的な過程において、

dE =ΔQ − pdV ≦ TdS − pdV

dF =ΔQ − pdV − TdS − SdT ≦ −SdT − pdV

dG =ΔQ − pdV − TdS − SdT + pdV + Vdp ≦ −SdT + Vdp

従って、ある状態からスタートして、熱の出入りがあるとき(ΔQ≠0)、等温等積過程では、

dF ≦ 0

なので、ヘルムホルツの自由エネルギーFは減少し、最小(熱平衡状態)で安定する。

また、等温等圧過程では、

dG ≦ 0

なので、ギブスの自由エネルギーGは減少し、最小(熱平衡状態)で安定する。

(実は、内部エネルギーE については、このようなことは言えない。断熱等積過程では、

dE≦0であるが、このときΔQ=ΔW=0なので、dE=0となり、Eは変化しない。)

開いた系の熱力学:

・これまでの話は、基本的に平衡状態を取り扱っていた。安定性の問題では非平衡状態を

扱っているが、それはあくまで平衡に近づく過程としての非平衡であった。

・外界とエネルギーや物質のやりとりのある系を開いた系(非平衡開放系)という。生命

や地球は典型的な非平衡開放系である。

・人間(生命)は、外界から水(これは物質)や食物(これは物質であるとともにエネル

ギーでもある)を取り入れて、生命活動と共に体内で無数の不可逆過程(さまざまな化学

反応など)を繰り返し、外界に不要物を排出している。人間がほぼ定常を維持していると

いうことは、エネルギー的な収支は 0 のはずである。しかし、エントロピー的に見ると、

人間は、外界から低エントロピー(秩序ある水や食物)を取り入れ、多量のエントロピー

を生成し、外界に高エントロピー(無秩序な排泄物)を排出することにより、自分自身の

低エントロピー(高秩序)を維持しているということもできる。

・地球は、外界から高温(約 6000K)の短波放射(太陽光)エネルギーを受け取り、気象

海洋水文現象などと共に地球内で無数の不可逆過程(空気や水などの大規模な移動など)

を繰り返し、外界に低温(約 300K)の長波放射エネルギーを排出している。地球がほぼ定

常を維持しているということは、エネルギー的な収支は 0 のはずである。しかし、エント

ロピー的に見ると、地球は外界から低エントロピー(ΔQ/6000K)を取り入れ、多量のエ

ントロピーを生成し、外界に高エントロピー(ΔQ/300K)を排出することにより、自分自

身の低エントロピー(高秩序)を維持しているということもできる。

・このような非平衡開放系の安定性に関する確立された一般論は現在のところ存在しない。

⇒後半の水循環や地球環境の講義では、これらのことを具体的な現象を引用しながら詳し

く議論したい。

参考文献:

物理学講義 熱力学(松下貢、2009、裳華房)

作成変更履歴:

2013年 7月 16日作成

2013年 7月 19日改訂

2013年 7月 29日改訂

2014年 7月 10日改訂