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73 石油・天然ガスレビュー じめに フローティングLNG(Floating Liquefied Natural Gas:FLNG)とは、 LNG版FPSO(Floating Production, Storage and Offloading)の通称であり、 洋上で天然ガスを精製・液化・貯蔵・積 み出しを行う浮体式の生産設備である。 開発の歴史は意外と古く、1980年代か らそのコンセプトが提案されてきてお り、これまで実用化に向けた課題につい て多くの検討がなされてきた。しかし、 実際の建造はなされておらず、オペレー ションの実績はまだない。 技術的な面での机上検討がほぼ成熟期 フローティングLNGへの期待 と最近の動向 浮体式洋上天然ガス液化設備(Floating LNG、以下FLNG)に注目が集まっている。 Shellが世界初のFLNG(オーストラリアPreludeプロジェクト)に投資決定をして以来2年、競合他社 もFLNGを適用するプロジェクトを続々と立ち上げようとしており、2 0 1 3年4月にはついに ExxonMobilが同国Scarboroughガス田の開発プロジェクトにおいて世界最大のFLNGを計画してい ることを発表した。 FLNGは、まだ操業の実績はないものの、「洋上で採掘・液化・出荷が可能」 「現地建設作業がほぼ不要」 「他地点への転用が可能」といった特性から、これまで開発の手をつけにくかったさまざまな案件で ブレークスルーになり得るスキームと考えられている。 一方、一体型の洋上構造物であるため、万が一の際の損害額が膨大になるリスクも内包している。 このようなFLNGの特性について述べるとともに、さまざまな背景からFLNGを開発スキームとして 計画・検討しているプロジェクトの動向について紹介する。 FLNG本体イメージ 図1 FLNG採掘イメージ 図2 出所:Technipホームページ 出所:Technipホームページ

フローティングLNGへの期待 と最近の動向...LNG版FPSO(Floating Production, Storage and Offloading)の通称であり、 洋上で天然ガスを精製・液化・貯蔵・積

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73 石油・天然ガスレビュー

JOGMEC

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はじめに

  フ ロ ー テ ィ ン グ L N G ( F l o a t i n g Liquefied Natural Gas:FLNG)とは、LNG版FPSO(Floating Production,

Storage and Offloading)の通称であり、洋上で天然ガスを精製・液化・貯蔵・積み出しを行う浮体式の生産設備である。 開発の歴史は意外と古く、1980年代からそのコンセプトが提案されてきてお

り、これまで実用化に向けた課題について多くの検討がなされてきた。しかし、実際の建造はなされておらず、オペレーションの実績はまだない。 技術的な面での机上検討がほぼ成熟期

フローティングLNGへの期待と最近の動向・浮体式洋上天然ガス液化設備(Floating LNG、以下FLNG)に注目が集まっている。・Shellが世界初のFLNG(オーストラリアPreludeプロジェクト)に投資決定をして以来2年、競合他社

もFLNGを適用するプロジェクトを続々と立ち上げようとしており、2 0 1 3年4月にはついにExxonMobilが同国Scarboroughガス田の開発プロジェクトにおいて世界最大のFLNGを計画していることを発表した。

・FLNGは、まだ操業の実績はないものの、「洋上で採掘・液化・出荷が可能」「現地建設作業がほぼ不要」「他地点への転用が可能」といった特性から、これまで開発の手をつけにくかったさまざまな案件でブレークスルーになり得るスキームと考えられている。

・一方、一体型の洋上構造物であるため、万が一の際の損害額が膨大になるリスクも内包している。・このようなFLNGの特性について述べるとともに、さまざまな背景からFLNGを開発スキームとして

計画・検討しているプロジェクトの動向について紹介する。

FLNG本体イメージ図1 FLNG採掘イメージ図2

出所:Technipホームページ 出所:Technipホームページ

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を迎え、ようやく2011年5月にShellが世界初のFLNGとなる Preludeプロジェクトの最終投資決定をした。本件については現在各モジュールの建造に入っていると思われるが、その後他社からもFLNGプロジェクトが相次いで発表され、現在では世界で1 0を超えるプロジェクトがFLNGをメーンスキームとして計画・検討している。 米国のシェールガス革命とこれに伴う非在来型ガス由来のLNGプロジェクトに注目が集まる昨今であるが、FLNGについても、これまでストランデッドガス田(Stranded Gas Field:既発見であるが投資採算性などの面から開発が行われていないガス田)とされてきた陸地からの距離が遠い沖合や、大水深の洋上ガス田の開発スキームとして非常に大きな期待を集めている。また、開発コストや環境影響の面でも、陸上プラントと比較して遜色はないとされ、地域的な特性とのマッチングによっては大きな優位性を持つと考えられている。

1.FLNG設備概要と特性

(1)FLNGの構造

 FLNGは船体構造の躯体で、洋上のサイトに係留(固定)される。 陸上の液化プラントと同様のプロセスから成り、基本的には図3のような構成を取る。本体の上部(topside)に前処理設備および液化設備が配置され、コンデンセートの分離、天然ガスの前処理と液化が行われる。液化トレインは複数系列配置される場合もある。生産物は、本体内部にあるLNG、LPG、コンデンセートタンクに一時的に貯蔵された後、各運搬船(LNG船、LPG船、油槽船)に適宜積み込まれ、出荷される。ただし、原料ガスの性状によっては、コンデンセート処理設備が縮小可能で、LPGタンクも設置されない(ガス田からのガスがリーンな場合やパイプラインガスを液化する場合など)。コンデンセート処理設備が縮小できれば、デッキ上の設備構成は非常にシ

ンプルなものとなり、デッキスペースの拡大により安全性の向上ないしスペースの有効活用も見込める。 原料ガスは海底ガス田から引き込むことが基本となるが、Excelerate社が北米メキシコ湾で計画しているFLNGのように、陸上パイプラインガスを原料ガスとして引き込むものもある。FLNGは主に洋上ガス田を開発する場合のソリューションと想定されるが、このように陸上プラントの代替として採用するケースでも後述するFLNGの特性により、有利なスキームになり得る。

(2)液化プロセス

 FLNGでは、洋上、しかも限られたスペースのなかで全てのプロセスを構築するため、液化方式の選定にも考慮すべき点がいくつかある。 ①�波浪による揺

れが液化プロセスに与える影響

FLNG概略図図3

出所:JOGMEC資料

海底生産システム

コンデンセート タンク

LPG タンク 海面

海底

ユーティリティー (発電・蒸気)

ガス処理 液化設備 タレット係留

マニホールド 井戸

井戸

コントロール室 居住区

出荷設備

LNG タンク

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タンデム方式による積み出し図5

出所:TechnipLNG17発表資料

タンデム方式による積み出し図6

出所:TechnipLNG17発表資料

サイドバイサイド方式による積み出し図4

出所:Shellホームページ

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 ②�火災発生時の被害拡大のリスク ③�生産物・冷媒等のプロセス流体が漏

えいした際の外部環境への影響 結論から言うと、各プロジェクトの特性

(規模、気象、設備全体のバランスなど)に合わせて最適な液化方式を採用することになる(実際、FLNGの計画を持つ各社ごとに採用する液化プロセスは多様である)が、液化プロセスの違いによるFLNGとの兼ね合いは以下のようなものとなる。 冷媒の安全性から言うと、不燃性の窒素を用いるN2エキスパンダー方式が最も安全性が高いとされる。また、冷媒がガス体で、気液二相流を形成しないため、波浪による揺れにも強いとされている。ただし、液化効率は悪い。この液化効率を向上させるために、窒素冷媒に臭化リチウム水溶液を用いた吸収式冷凍機を組み合わせたプロセスも開発されている。 Shel lは、FLNGにDMR(Double Mixed Refrigerant)方式を採用すると見られている。これは混合冷媒方式の特徴である運転効率のよさを保ちながら、C3-MR(propane pre-cooled mixed refrigerant)方式よりも可燃性流体であるプロパンの保有量が少なくて済むため、安全性を高めている。  他 に は 、 S M R ( S i n g l e M i x e d Refrigerant)方式の採用を検討しているプロジェクトもあり、それらは設置機器が少なくプロセスもシンプルであるので、スペースの有効活用やトレインを複数設置することで生産能力を高めることができる。

(3)FLNGにおけるLNGの積み出し

 FLNGからLNG船へLNGの積み出し(ローディング:loading)を行う場合の接続方法は、サイドバイサイド(横付け)方式とタンデム(直列付け)方式が想定されている。LNGの移送には、ローディングアームもしくはフレキシブルホースが用いられる。 サイドバイサイド方式においては、陸上ターミナルの岸壁に係留する場合と同様、係留索を用いてLNG船をFLNGの船体に密着して係留する。 気象海象条件が厳しい場合は、タンデ

ム方式のほうが安全性が高いとされている。タンデム方式の積み出しは、原油生産におけるFPSOで既に実績がある。既存のLNG船がタンデム方式でのLNG移送に適合できるかどうかは今後の課題であるが、船尾にマニフォールドを持たないLNG船

(側面にマニフォールドを持つ一般的なLNG船)でもフレキシブルホースを接続できる方法が検討されている。しかし、300m以上の長さのフレキシブルホースが必要となるなど、これにも課題がある。

2.�プロジェクト開発スキームとしてのFLNG

(1)FLNGの特性

 FLNGは、陸上プラントと比較して以下のような特性を持ち、開発案件とのマッチングによって非常に有効なスキームとして期待される理由となっている。半面、デメリットやリスクも大きいので、十分考慮する必要がある。 ・ 洋上ガス田近傍でLNGを生産でき

るため、原料ガス輸送用のパイプラインコストを低減できる。

 ・ 船体を造船所等で製造し、ほぼ完成した状態で移動・運搬することができるため、現地建設作業をほとんど必要としない。

 ・ 洋上浮体式なので、陸上プラントを建設する場合に比して設置環境への影響が極めて少ない(ガス田近傍の沿岸がサンゴ礁等の自然保護区域等であっても、洋上であれば液化プラントを設置できる可能性がある)。環境アセスメントに係る時間も少なく、建設許可が下りるまでのリードタイムの短縮が期待できる。

 ・ コンデンセート・LPGの抽出が期待できないリーンなガス田でも、逆に船体上のプロセス・設備がシンプルになり、投資採算性の向上を見込める場合がある。

 ・ ガス田が枯渇し生産が終了しても、他のガス田・プロジェクトに移動させてそのまま液化プラントとして転用することが可能。

 ・ 洋上浮体式であるため、気象海象の

地域特性を考慮する必要がある。ただし、大型になればなるほど浮体が安定し波浪への耐性が高くなるため、気象海象が厳しい地域ではあえて船体を大型化するという考え方もある。

 ・ 政情リスクや気象海象のリスクが高まった場合、プラントごと撤退・避難することが可能(ただし、以下に示すように損害を受けた場合の損失が大きいため、そもそも政情が不安定な地域での設置は望ましくないかもしれないが)。

 ・ 全ての関連設備が一つの構造物(船体)になっているので、災害等で損壊し沈没した場合、全設備を一度に失うリスクがある。また、損害額が高額となることから、保険が適用されない可能性が高い。

 ・ 液化能力を100万~200万トン/年レベル と す る 場合 、 船 体 プラットホームはLNG船と同じものを使用することが可能。したがって、LNG船をFLNGに改造・転用することもできる。

(2)FLNGの適用が効果的な開発案件

 以上に述べたような特性から、FLNGを適用することが効果的と思われるプロジェクト案件の例を以下に述べる。 ①�陸上からの距離が遠い洋上ガス田   陸上に液化プラントを建設する場

合、ガス田からプラントサイトまでのパイプラインが必要だが、この距離が遠くなるとパイプラインコストが大きくなるためFLNGにコストメリットが生まれる。

 ②大水深の洋上ガス田   ①の場合と同じく海底パイプライン

コストが増加するため、FLNGにコストメリットが生まれる。

 ③中小のガス田   中小のガス田の場合、生産期間がそ

れほど長くなく、液化プラント建設費用の回収が難しくなるが、FLNG

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の場合は生産終了後に他地点への移動・転用が可能となる。

 ④現地コストが高額な地域のガス田   建設面の現地作業が少なくなるた

め、陸上プラント建設用の現地コスト(人件費、税金)が高額な地域では、FLNGにコストメリットが生まれる。

3.�最近のFLNGプロジェクト動向

(1)�FLNGを計画中または検討中の主

なプロジェクト一覧

 表1を参照。

(2)注目すべきFLNG案件

 ①Preludeプロジェクト    FLNGを世界で初めて採用したプ

ロジェクトであり、2011年5月に最終投資決定がなされている。Shellがオペレータであり、パートナーにはINPEX、Kogas、台湾のCPC Corpが参画している。

表1 FLNGを計画中または検討中の主なプロジェクト一覧

(注)*:陸上プラントを想定していた時の液化能力。出所:各種報道を基にJOGMEC作成

プロジェクト 国・地域 オペレータ 液化能力(Mtpa) 状況

Prelude オーストラリア Shell/INPEX 3.6 2011.5 FID完了2017 スタートアップ

Scarborough オーストラリア Exxon/BHP 6.0~7.0 2014~2015 FID

Browse オーストラリア Woodside/Shell 12* 2014 FID

Sunrise オーストラリア/Timor Leste Woodside/Shell NA 協議中

Bonaparte オーストラリア GDF/Santos 2.0~3.0 2014 FID

Cash Maple/他 ガス田 オーストラリア PTTEP 2.0 FEED 検討中

サラワク州Bintulu沖 マレーシア Petronas 1.2 2012.6 FID完了2015 スタートアップ

サバ州沖 マレーシア Petronas 1.5 2013 FEED完了予定

Abadi インドネシア INPEX/Shell 2.5 2013 FID

Lavaca Bay アメリカ/テキサス Excelerate 4.4 2018 スタートアップ

Tamar/他 東地中海ガス田 イスラエル Noble Energy NA キプロスとのLNG基地共

同開発を含め検討中

Gulf LNG パプアニューギニア InterOil NA 協議中

Shtokman ロシア Gazprom NA 開発オプションの一つとして検討中

タンザニア タンザニア BG NA 開発オプションの一つとして検討中

La Crecienteガス田 コロンビア Pacific Rubiales Energy 0.5 2015 スタートアップ

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    FLNGはTechn i p /Samsung Heavy Industries連合が受注しており、現在各モジュールごとに韓国、マレーシアなどで製造中である。最

終的には韓国で組み立てられた後、現 地 に 曳

えいこう

航 さ れ る 予 定 で あ る 。LNG船は同プロジェクトの全期間25年間にわたって使用される見込み

だが、50年間の使用に耐え得る設計で、他のフィールドへの転用も検討されているという。

    世界初のFLNGということで注目

表2 Prelude�LNGプロジェクトの概要

設備概要 長さ488m×幅74m/約60万排水トン

液化設備設置場所 Browse Basin(オーストラリア北西部)西豪州Broomeの北北東約475km(最も近い陸地から約200km)

油ガス田 Prelude油ガス田、Concerto油ガス田(合計可採埋蔵量:3Tcf)

生産能力 LNG:360万トン/年、LPG:40万トン/年、コンデンデート:130万トン/年

FID(最終投資決定) 2011年5月20日

操業開始予定 2017年

出所:各種報道を基にJOGMEC作成

表3 Scarborough�LNGプロジェクトの概要

出所:各種報道を基にJOGMEC作成

設備概要 長さ495m×幅75m(現状世界最大)

液化設備設置場所 Carnarvon Basin(水深900~970m)  Exmouthの北西220km

油ガス田 Scarboroughガス田(可採埋蔵量:8Tcf~10Tcf)

生産能力 LNG:700万トン/年

FID(最終投資決定) 2014~2015年

操業開始予定 2020年

WesternAustralia

NorthernTeritory

2,000m2,000m

1,000m1,000m

200m200m

CruxCrux

ArgusArgus

Ichthys(INPEX)Ichthys(INPEX)

Prelude(Shell)

Prelude(Shell)

Echuca ShoalsEchuca ShoalsTorosaTorosa

BrecknockBrecknock

CallianceCalliance

Shell

FLNGFLNG

Browse(Woodside)Browse

(Woodside)FLNG?FLNG?

Indian Ocean

KimberleyKimberley

BurrupBurrup

DarwinDarwin

BroomeBroomeJames Price PointJames Price Point

CapeLondonderryCapeLondonderry

A U S T R A L I AA U S T R A L I A

Gas FieldLNG Plant

A U S T R A L I AA U S T R A L I A

図7 オーストラリア北西部(PreludeプロジェクトとBrowseプロジェクト周辺図)

出所:JOGMEC作成

図8 Scarboroughプロジェクト周辺図

出所:JOGMEC作成

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を集めており、本プロジェクトの成否が今後のFLNG開発に影響を与える可能性もあり、引き続き動向を注視したい。

 ②Scarboroughプロジェクト    ExxonMobilが50%の権益を持ち

オペレータを務めるプロジェクトである(パートナーはBHP Billitonで、同社も50%を保有)。

    2013年4月に、ExxonMobilは世界最大となるFLNG計画を発表した。生産能力は5トレインで700万トン/年を予定。なお、原料ガス組成がリーンであるためコンデンセートの生産はないとしている。生産期間は25~35年。生産終了後は他ガス田への転用を見込んでいる。

    Preludeプロジェクトも同様だが、オーストラリア北西部はサイクロンが発生する地域であり、浮体の大型化は洋上挙動安定性の向上にも寄与している。

 ③Browseプロジェクト    Woodside(権益保有率31.3%)が

オペレータを務める。パートナーは、BP:1 8%、Shell:2 7%、MiMi:14.7%、PetroChina:9%。原料ガス田は、オーストラリア北西洋上のBrecknock field、Torosa field、Calliance fieldである。当初はJames Price Pointに1,200万トン/年の生産能力を持つ陸上液化プラントを建設する予定で検討を進めていたが、投資額が4 5 0億ドル以上とも言われ、Woodsideはこれを断念した。しかし、Shellからの提案により、FLNGを代替案として再検討することになっている。当初計画ではLNGの生産開始は201 7年を予定していたが、このような状況であるため現状は未定となっている。

    オーストラリアでは現地人件費の高騰が騒がれているが、これが陸上

プラントの建設コストを押し上げる要因にもなっている。しかし、FLNGスキームの採用によって現地建設コストを削減することが期待できる。もちろん、海底パイプラインコストを削減できるという効果もあるが、FLNGにすることによる投資額の削減効果は100億ドルとも言われている。

    本プロジェクトについても、今後の動向を注視していきたい。

 ④�マレーシア・サラワク州沖FLNGプロジェクト

    Petronasが主導するFLNGプロジェクト。2012年6月に最終投資決定がなされ、操業開始はPreludeより早く2015年を予定している。

    原料ガス田はSarawak州Bintulu沖のKanowit、Kumang等の小規模ガス田群で、それぞれの埋蔵量は0.1Tcf~0.3Tcfといったものである。この

ような小規模のガス田では、BintuluのMLNG液化プラント向けのパイプライン網に接続しようとした場合、事業採算性が取れない。したがって、FLNGというスキームを用いて、小規模ガス田群を順次移動しながら生産していくという手法での開発になると見られる。FLNGの生産能力は、120万トン/年が計画されている。

    東南アジア地域沖合には、このような小規模ガス田が複数存在し、FLNGはこれらの開発に有効なスキームとなる。

 ⑤Lavaca�Bayプロジェクト    Excelerate Energy が進める米国

パイプラインガスの液化プロジェクトである。

    本プロジェクトは、 アメリカでの最初のFLNGとなるが、陸上バースに係留固定され、原料ガスはアメ

図9 マレーシアSarawak州沖合周辺図

出所:各種資料を基にJOGMEC作成

GumusutGumusut

BLOCK K

BLOCK J

BLOCK CA2BLOCK 2C BLOCK 2D

SK-306

BLOCK CA1

MURPHY

TOTAL DEEP

PETROLEUMBRUNEI

MURPHYBLOCK H

BLOCK G

LabuanMathanol PlantLabuanMathanol Plant

Sabah

Sarawak

MALAYSIAMALAYSIA

INDONESIA

BRUNEIMiri

KotaKinabaru

2,000m2,000m

1,000m1,000m

200m200m

Bintulu

St.Joseph

Erb WestKinarutKinarut

SamarangKikehKikeh

Kinabalu

MLNGⅠMLNGⅠ

MⅡMⅡ

MLNGⅠ,ⅡMLNGⅠ,Ⅱ

SK-316

KasawariKasawari

KumangKumang

KanawitKanawit

DolfinDolfin

RotanRotan

BuluhBuluhMALAYSIAMALAYSIA

INDONESIAINDONESIA

Gas FieldOil Field FLNGFLNG

FLNGFLNG

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リカ国内の天然ガスパイプライングリッドから供給される。

    Excelerateは船舶型生産設備をFLSO(Float ing L ique f ac t i on S t o rage Offloading vessel)として提唱、本プロジェクトでは操業開始時は船舶1隻を陸上に固定、将来的には2隻目を追加し生産能力を増強するとしている。また、このFLSOの生産能力は汎用型では300万トン/年/隻としているが、本プロジェクトのようにパイプラインガスを原料とする場合、原料ガス前処理設備が不要となるので、液化トレインを追加し400万トン/年の生産能力になるとしている。

    本プロジェクトは、アメリカ国内のシェールガスを海外に輸出するという意味でも非常に興味深いもので、2017年から諸外国に向けて出荷が開始される計画となっている。

    同社は既に米国エネルギー省からFTA諸国向けに1,000万トン/年で20年間のLNG輸出許可を得ている。

表4 Lavaca�Bayプロジェクトの概要

出所:各種報道を基にJOGMEC作成

設備概要 Excelerateが提唱するFLSO長さ330m×幅62m(操業開始時は1隻、将来的には2隻に増強)

液化設備設置場所 Port Lavaca, Texas

原料ガス 南テキサスの天然ガスパイプライン

生産能力 440万トン/年(増強後は800万トン/年)

操業開始予定 2018年

図10 Lavaca�Bay周辺図

出所:JOGMEC作成

図11 Lavaca�Bayプロジェクトイメージ

出所:Excelerate LNG17発表資料

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 ⑥Shtokmanプロジェクト    Gazpromがオペレータを務めるプ

ロジェクトであるが、パートナーのStatoilは当初陸上設備スキームで検討していた本プロジェクトを一度は断念している。しかし、Statoilは、本年4月にFLNGのスキームを代替案としてプロジェクト開発検討に再着手する意向があると発表した。

    Shtokmanのガス田はMurmanskの北東550kmの位置にあり、周辺海域の水深は340mである。また、北極圏という気象海象条件の厳しさとも相まって、1988年にガス田が発見されたにもかかわらず、その地理的条件の制約からまだ開発されていない。しかし、その埋蔵量は、天然ガス約1 4 0Tcf

(3.9Tcm)、コンデンセート5,600万トンと見られ、世界最大級を誇る。

    Statoilは、FLNGの採用によって投資コストを削減できるとともに、550kmという離岸距離と海底地形が引き起こすコンデンセートの移送に関する問題(気液二相流)を解決できると考えている。また、自社の北極圏での基地操業の経験も生かしつつ、このガス田の開発に活路を見出そうとしている。

 ⑦Gulf�LNGプロジェクト    In te rO i l社が主導するパプア

ニューギニアのガス開発プロジェクトである。なお、パプアニューギニア の L N G プ ロ ジ ェ ク ト は 他 にExxonMobilが主導するPNG LNGプロジェクトがある。

    現状、Gulf LNGプロジェクトは事実上暗礁に乗り上げている状況であるが、当初計画どおり進行していれば、世界初のFLNGビジネスとなっていただろう。

    しかし、ここで着目したいのはそのビジネスモデルである。

    Gulf LNG projectは、陸上にある

図12 Shtokman�field周辺図

図13 StatoilのFLNGコンセプト

出所:JOGMEC作成

出所:Statoil LNG17発表資料

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Elk and Antelope 油ガス田の段階的開発のうちの一つの事業として位置づけられており、Flex LNG社/Samsung重工業 がFLNGを用意し、LNG販売の利益の一部を受け取るというビジネススキームであった。FLNGは桟橋に係留固定されて使用され、陸上プラントの建設コストが

不要であり、またガス田生産終了後は他地点への転用も可能である。

    中小ガス田の開発とLNG市場への新たなプレーヤー参入につながるとも思われたプロジェクトであったが、LNGに関する実績のなさが仇

あだ

となり、現在はほとんど進捗が見られていない状況となっている。

まとめ

 ・ これまで投資採算性・技術的困難性から開発されてこなかったガス田

(ストランデッドガス田)を含め、洋上ガス田の開発スキームとしてFLNGに大きな期待が集まっている。FLNGを開発オプションとして検討しているものも含めると、現在10以上ものプロジェクトで計画・検討がなされている。

 ・ また、その特性から、洋上ガス田ではない案件であっても、陸上ターミナルよりも商業的に有利な開発スキームとして考えられているケースもある。

 ・ 一方、設備が損壊(沈没)した場合の損失が膨大になるというリスクも併せ持っており、現状、保険の適用は困難となっている。

 ・ 近年、超大型のFLNGが発表されているが、中小型のFLNG利用によるビジネスモデルにも着目したい。転用可能という特性を発揮させ、石油メジャーが手を付けない中小規模のガス田開発(洋上とは限らない)が進めば、LNGの供給源の多様化が進展し、価格の低減につながる可能性を秘めている。

 ・ まだ操業の実績はないものの、技術的な面でもさまざまな検討がなされており、より具体的な絵姿として描かれつつある。ただし、FLNGからの積み込みを行うLNG船側の対応については、設備、運用両面での改善とノウハウの蓄積が期待されるところである。

 ・ 今後の天然ガス開発、また、これに関連する産業(造船・プラント建設等)の流れを変える可能性もあり、その動向は引き続き注視していく必要がある。

            (永井 一聡)

図14 パプアニューギニア鉱区と周辺図

図15 Gulf�LNGのイメージ図

出所:JOGMEC作成

出所:Flex LNGホームページ