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1 of total 44H. Ishikuro System LSI Design 2018/12/21
フラクショナルNシンセサイザ(第11章)
システムLSI設計
2018 12/21
石黒
本講義スライドは、会津大学の束原恒夫先生(テキスト11章翻訳者)の
昨年度の講義スライドをもとに作成したものです。
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概要と簡単な復習
基本概念
分周比のランダム化とノイズシェーピング
実装の例(CQ出版 RFワールドから)
本日の目次
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チャネル間隔:システム・スペックに明記
周波数精度:システム・スペックに明記
位相雑音:システムにより制限
サイドバンド(スプリアス成分):システムにより制限
ロックアップ時間(セットリング時間):システムにより制限
消費電力
周波数シンセサイザの要件
4 of total 44H. Ishikuro System LSI Design 2018/12/21
送信機、受信機において信号品質(変調精度)を劣化させる。
変調精度の劣化=EVM (Error Vector Magnitude)の増加
位相雑音の影響①
図8.53 位相雑音により変調精度が劣化したQPSK信号
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受信機の周波数変換で、隣接チャネルに強い妨害波があり、LOの位相雑音が大きい場合は、希望波に妨害波成分が被ってくる。
(b)は理想状態、(c)が位相雑音が存在する場合。
位相雑音の影響②
図8.50 (c) 位相雑音により妨害が起こる(レシプロカルミキシング)
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基準信号周波数に基づくサイドバンドがスプリアスとして発生し易い
𝜔0 −𝜔𝐿𝑂 = 𝜔𝑖𝑛𝑡 −𝜔𝑠のとき、妨害波が同じIF周波数で重なる
サイドバンド成分の影響
図10.4 サイドバンドによるレシプロカルミキシング
60-70=-10 dB
これよりは小さくしたい
7 of total 44H. Ishikuro System LSI Design 2018/12/21
PN符号に従って、搬送波の周波数を変更(ホッピング)していく。
➔スペクトルを観察すると広帯域に広がっている。
Hedy Lamarrの発明:Bluetoothで採用。高速切替のシンセサイザが必要
CDMAの一種、周波数ホッピング(FH)方式
http://www.circuitdesign.jp/jp/technical/modulation/modulation_SS.asp
➔セットリング時間:259μs以下
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周波数ホッピング方式の生みの"母"
軍需技術(魚雷通信保護)"Secret Communications System",1942年に特許成立。ピアノの鍵盤がヒント。
Hedy Lamarrの本職はハリウッド女優(1914年、ウィーン生まれ)夫が軍需産業王。
周波数ホッピング(FH)方式は現在、Bluetoothで脚光を浴びる。
発明者,Hedy Lamarr写真の出典:ハリウッドビューティー/1940年代のアメリカ女優
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スペクトルアナライザによる電波の観測
会津大、束原研究内の電波環境(2.4GHz帯)
2.4GHz 2.5GHz2.45GHz 2.4GHz 2.5GHz2.45GHz
無線LAN(IEEE802.11b/g)がメイン?➔ほぼ常時見える線状のスペクトル
ワイヤレスマウス(Bluetooth)を操作➔周波数ホッピングの強いスペクトルが複数本追加される
10 of total 44H. Ishikuro System LSI Design 2018/12/21
出力周波数のチャネル間隔=基準(レファレンス)周波数
➔水晶発振器
チャネル間隔が狭いと周波数のセットリング時間が大きくなる
∵ループフィルタの帯域が狭いと過渡応答に時間がかかる
基準信号の位相雑音が周波数逓倍によって増幅される
∵基準周波数がn倍されるとき位相雑音もn倍される
➔2逓倍では20log2=6dBのアップ
INTRGER-N周波数シンセサイザの欠点
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出力周波数のチャネル間隔<基準(レファレンス)周波数
分周比をNとN+1の間で周期的に切替え、平均的にはN+αの分周比を得る。しかし、この周期的な切替えがサイドバンドを発生させる。
NとN+1をランダムに切替えることで、サイドバンドの線スペクトルを雑音状に変換する。
この雑音レベルはまだ高いので、ノイズシェーピング技術により、中心周波数より離れたところに雑音エネルギーを移動する。
PLLのループフィルタでこの高い雑音レベルを減衰させる。
フラクショナルNシンセサイザの考え方
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第11章のアウトライン
分周比のランダム化とノイズシェーピング(基本的な内容)
量子化雑音の低減手法(やや専門的)
13 of total 44H. Ishikuro System LSI Design 2018/12/21
出力周波数(チャネル)間隔が基準周波数の分数値に(fractional)
ループフィルタ帯域の増加が可能
• 高速セットリングが可能
• VCO位相雑音の低減、基準信号位相雑音の増幅率の低減
フラクショナルループの例
図11.1
9x10+11=101
➔平均の分周比:10.1
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10分周を9回、11分周を1回
基準信号が10個ごとに繰返す➔VCOを0.1MHzの周波数で変調
VCOは10.1MHzの周りに、±0.1MHz・nの位置にサイドバンドであるスプリアス成分を発生:フラクショナルスプリアス成分
フラクショナルNループの動作①
図11.2
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別の見方(例題11.1):xFB1をフーリエ変換
フラクショナルNループの動作②
図11.4
図11.3
10μsごとの繰返し波形孤立波形
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分周比をランダムに10または11に設定、平均値は10.1とする。
線スペクトルのスプリアスが、雑音状に広がる➔ランダムな位相変調特性
瞬時出力周波数
スプリアスから雑音への変換:ランダム化
図11.5
17 of total 44H. Ishikuro System LSI Design 2018/12/21
b(t)の平均値はα
b(t)はバイナリな値 (0, 1)なので、量子化雑音 q(t)を持つ
q(t)<<N+αのとき
量子化雑音の発生①
図11.6
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位相は周波数の時間積分であるので帰還信号は
周波数はfout/N+α、位相雑音は
量子化雑音の発生②
図11.7
位相への影響
19 of total 44H. Ishikuro System LSI Design 2018/12/21
ある関数の時間積分は周波数時軸上で1/sであるので、
平均的な分周比N+αの2乗を掛けることで、出力のスペクトトルは、
量子化雑音のスペクトル密度
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b(t)が幅Tbで1/Tbのレートでランダムに繰返す方形波のとき
量子化雑音スペクトルの例
図11.8
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今まで見てきたように、プリスケーラ設定の分解能は1bit
大きな量子化雑音に“ハイパス特性”を掛けることを考える:ノイズシェーピングの導入➔オーバーサンプリングA/D, D/A変換器で研究開発された考え方!
次のステップはノイズシェーピング
図11.9
具体的にはどうするか?
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ノイズシェーピングの基本:連続時間
図11.10
まずは連続時間の帰還システムから
X(s)=0とおいて
H(s)が理想積分器 1/sのとき ➔ハイパス特性
23 of total 44H. Ishikuro System LSI Design 2018/12/21
ノイズシェーピングの基本:離散時間
図11.11
積分器 (a), (b)
(c)が離散時間での負帰還回路で、Q=0とすると
X=0のとき ➔ハイパス特性(微分器の応答)
簡略したブロック:Q→Y
+
24 of total 44H. Ishikuro System LSI Design 2018/12/21
mビット入力(分周比設定)、1ビット出力を持つ形態
m+2ビットから1ビットへの量子化により、かなり大きな量の雑音を発生するが、前頁、1-z-1の特性により、雑音が整形される。
mの値はシンセサイザの周波数設定精度に応じて決定され、10ppmを要求される場合は、mはおよそ17ビット必要である。
積分器が1個なので、“1次の1ビットΣΔ変調器”と呼ばれる。
ΣΔ変調器の例:1ビット出力ノイズシェーパ
図11.14
積分器
25 of total 44H. Ishikuro System LSI Design 2018/12/21
グラフからの考察
f=0で0から始まり、f=1/2TCKで4になるまで増加
➔f=0近傍に集中していた量子化雑音スペクトルが、下記の特性で整形される。
シェーピング特性の考察②
図11.15
26 of total 44H. Ishikuro System LSI Design 2018/12/21
量子化雑音の式を代入して、ハイパス特性との乗算結果が得られる。
fCKは基準周波数fREFで、PLLの帯域はfREFより小さい:注目する周波数範囲で、雑音レベルはほぼフラット
シェーピング特性の考察③
図11.16
27 of total 44H. Ishikuro System LSI Design 2018/12/21
分周比のランダム化にΣΔ変調器を適用した基本的な構成
フラクショナルNシンセサイザの構成
図11.17
mビット 1ビット
クロックとして
位相・周波数比較
28 of total 44H. Ishikuro System LSI Design 2018/12/21
今までのノイズシェーピング回路は、f<<(πTCK)-1のとき、2次のロール
オフ特性に変形できる。
より高い次数のロールオフ特性を得るのが次の目的
前準備として、“遅延なしの積分器”を導入。
2次のΣΔ変調器①
図11.19
29 of total 44H. Ishikuro System LSI Design 2018/12/21
1ビット量子化器(フリップフロップ)をΣΔ変調器に置き換え、量子化器の分解能を高める。
2次のΣΔ変調器②
図11.20
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X=0のとき以下の式が成り立つ。
これより、伝達特性は、
分子はよりシャープなシェーピング特性を示すが、分母に2個の極を持つので、全体特性に影響する。
2次のΣΔ変調器③
31 of total 44H. Ishikuro System LSI Design 2018/12/21
そこで、遅延なしの積分器を初段に適用すると
X=0のとき が成立ち、
伝達関数は
2次のΣΔ変調器④
図11.20
32 of total 44H. Ishikuro System LSI Design 2018/12/21
したがって、f<<(πTCK)-1のとき、4次のロールオフ特性が得られる。
この構成は、“2次の1ビットΣΔ変調器”と呼ばれる。
2次のΣΔ変調器⑤
図11.21 シェーピング特性の比較
f=1/6TCKまで2次が有利
33 of total 44H. Ishikuro System LSI Design 2018/12/21
帰還ループ内に2個以上の積分器を持つと系が不安定になり易い。(積分器1個で-90°の位相シフトあり)
したがって、より高次のΣΔ変調の実現には、(a)の1次の1ビットループを用いて、“従属接続ループ”を導入する。
従属接続ループによる高次化手法①
図11.22
34 of total 44H. Ishikuro System LSI Design 2018/12/21
減算器は量子化器入力と出力の差 U=Y1-W=Qを与える:量子化誤差
Uはより小さい量子化雑音を含み、第2のループを駆動。
第2のループの出力Y2はノイズシェーピングされ、Uの良い近似波形。
第1ループの量子化誤差Q(z)をキャンセルし、シェーピングされた第2ループの量子化誤差Q’(z)が残る。➔2次ΣΔ変調器と同じ特性
各ループが1次ループであることを強調し、“1-1従属接続”と呼ぶ。
従属接続ループによる高次化手法②
2段目で積分しているので(1-z-1)を掛け微分する
35 of total 44H. Ishikuro System LSI Design 2018/12/21
量子化誤差を明示したブロック図
結合器の構成例
この構成は、MASH(Multi-stAge noise SHaping)とも呼ばれる。
命名はNTT研究所のADC, DACに始まる。(1980年代後半)
従属接続ループによる高次化手法③
マルチモデュラス分周器が必要:
N-1, N, N+1, N+2
図11.23
図11.24
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私も在籍していたNTTの研究室からMASHが生まれました。
1980年代の中盤から後半のことです。
場所は、NTT厚木研究所、電子回路研究室(当時)。
当時の研究室長は、元広島大 教授の岩田先生
• オリジナルの発案者は内村氏(故人):アナログの職人
• オーディオ帯の実用化は、現青山学院大の松谷先生の功績
• 伝達関数を用いて高次のノイズシェーピング特性を、理論的に証明したのは、小林氏
参考文献:フラクショナルNシンセサイザと関連が深い
Y. Matsuya, K. Uchimura, A. Iwata, and T. Kaneko, “ A 17-bit Oversampling D-to-
A Conversion Technology Using Multistage Noise Shaping,” IEEE J. Solid-State Circuits, Vol. 24, No. 4, pp. 969-975, August 1989.
MASH誕生の秘話
37 of total 44H. Ishikuro System LSI Design 2018/12/21
帯域内雑音は下記の特性でノイズシェーピングされるが、帯域外で増加した雑音にはPLLの2次のローパスフィルタが掛かるだけ。
位相雑音φ(z)は周波数軸上の雑音の時間積分なので、
位相雑音スペクトルは
帯域外雑音の問題①
∵ Φ 𝑧 =𝑌 𝑧
1 − 𝑧−1
38 of total 44H. Ishikuro System LSI Design 2018/12/21
したがって、最終的にはPLLのローパスフィルタの特性が乗算され、
周波数が小さい領域:ノイズシェーピングは4π2f2T2CK、PLL伝達関数はN2
周波数が大きい領域:一度フラットになった後、PLLのロールオフが支配的に
帯域外雑音の問題②
図11.25
(Nは分周比)
39 of total 44H. Ishikuro System LSI Design 2018/12/21
PLL特性により成形されたVCOの位相雑音とΣΔ変調器の位相雑音が同レベルのとき、後者のピーク特性は問題になる。
帯域外雑音の問題③
図11.26
ピーク特性
40 of total 44H. Ishikuro System LSI Design 2018/12/21
1.3GHzシンセサイザIC,2.5GHz VCO,1/2分周器により2GHz帯を実現
実装例:2GHz帯シンセサイザ
RFワールド No.20より
41 of total 44H. Ishikuro System LSI Design 2018/12/21
実装例:2GHz帯シンセサイザ(続き①)
旭化成エレクトロニクス1.3GHz帯シンセサイザ AK1543のデータシートより
高速ロックアップが特徴
RFワールドより
42 of total 44H. Ishikuro System LSI Design 2018/12/21
実装例: 2GHz帯シンセサイザ(続き②)
RFワールドより
43 of total 44H. Ishikuro System LSI Design 2018/12/21
実装例: 2GHz帯シンセサイザ(続き③)
0.8msで高速ロックアップを解除 RFワールドより
44 of total 44H. Ishikuro System LSI Design 2018/12/21
RF回路の解析・設計に必要な周辺知識
• フーリエ級数、フーリエ変換、ラプラス変換(s関数)
• 離散時間解析:z関数による解析
ΣΔ-ADC/DACの考え方のシンセサイザへの展開は新しい切口を提示。
• 通信システムの概要:システムの構成、変調・復調、リンクバジェット、妨害波・雑音の影響など
まとめ