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- 1 - Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 更新日:2014/8/7 ワシントン事務所:佐藤陽介 カナダ:先住民の権利と石油・天然ガス開発 AANDCCEPA NEB CAPP ①エネルギー一般、⑤基礎情報 2014 6 26 日、カナダ最高裁はカナダの先住民の一つである Tsilhqot’in が主張する土地所有権 を認め、ブリティッシュコロンビア州が同権利を制限するにあたり Tsilhqot’in に対して事前協議を行う 義務に違反したとの判決を下した( Tsilhqot’in v. British Columbia, 2014 SCC 44)。 ・ブリティシュコロンビア州においては、石油パイプライン計画として Enbridge 社の Northern Gateway Kinder Morgan 社の Trans Mountain 拡張、天然ガスパイプライン計画として TransCanada 社の Coastal Gaslink Prince Rupert Gas TransmissionSpectra Energy 社の Natural Gas Transportation13 LNG プロジェクトが計画あるいは進行中である。 ブリティッシュコロンビア州は、過去の歴史において先住民との間で土地の権利関係に関する条約が 締結されていない場合が多いため、今回の判決は当地においてより重要性を有する。 1.はじめに 2014 6 26 日、カナダ最高裁判所はカナダの先住民の一つであるTsilhqot’inが主張する土地所 有権を認め、ブリティッシュコロンビア州が同権利を制限するにあたりTsilhqot’inに対して事前協議を行う 義務に違反したとの判決を下した( Tsilhqot’in v. British Columbia, 2014 SCC 441 。同判決の中では、土 地の専有が認められるのは特定の領域のみに限られるというブリティッシュコロンビア州の主張は退けら れ、特定の占有地以外でも狩猟や漁獲、その他資源の採取のために規則的に用いられ排他的な利用 がなされている領域においても土地所有権が認められた。さらにこのような先住民の土地に対する権利 が確立された場合には、政府がその権利を制限するにあたっては影響を受ける先住民の同意か正当な 理由が必要になることも判じた。 ブリティッシュコロンビア州があるカナダ太平洋岸は、アルバータ州産の原油のアジア・米太平洋岸に 向けた積出し地、あるいは LNG ターミナルの建設地として見込まれており、特にパイプラインは先住民 が土地に関する権利を主張する複数の地域を通過することになるため今回の判決によって何らかの影 響を受ける可能性がある。またブリティッシュコロンビア州は、過去の歴史において先住民との間で土地 の権利関係に関する条約が締結されていない場合が多いため、今回の判決は当地においてより重要性 1 Supreme Court, “Tsilhqot’in Nation v. British Columbia, 2014 SCC 44”, Jun 26, 2014, http://scc-csc.lexum.com/scc-csc/scc-csc/en/item/14246/index.do

カナダ:先住民の権利と石油・天然ガス開発...British Columbia, 2014 SCC 44)。 ・ブリティシュコロンビア州においては、石油パイプライン計画としてEnbridge社のNorthern

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- 1 - Global Disclaimer(免責事項)

本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま

れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの

投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責

任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

更新日:2014/8/7

ワシントン事務所:佐藤陽介

カナダ:先住民の権利と石油・天然ガス開発

(AANDC、CEPA、NEB、CAPP)

①エネルギー一般、⑤基礎情報

・2014年6月26日、カナダ最高裁はカナダの先住民の一つであるTsilhqot’inが主張する土地所有権

を認め、ブリティッシュコロンビア州が同権利を制限するにあたり Tsilhqot’in に対して事前協議を行う

義務に違反したとの判決を下した(Tsilhqot’in v. British Columbia, 2014 SCC 44)。

・ブリティシュコロンビア州においては、石油パイプライン計画として Enbridge 社の Northern Gateway と

Kinder Morgan社のTrans Mountain拡張、天然ガスパイプライン計画としてTransCanada社のCoastal

GaslinkとPrince Rupert Gas Transmission、Spectra Energy社のNatural Gas Transportation、13のLNG

プロジェクトが計画あるいは進行中である。

・ブリティッシュコロンビア州は、過去の歴史において先住民との間で土地の権利関係に関する条約が

締結されていない場合が多いため、今回の判決は当地においてより重要性を有する。

1.はじめに

2014 年 6 月 26 日、カナダ最高裁判所はカナダの先住民の一つであるTsilhqot’inが主張する土地所

有権を認め、ブリティッシュコロンビア州が同権利を制限するにあたりTsilhqot’inに対して事前協議を行う

義務に違反したとの判決を下した(Tsilhqot’in v. British Columbia, 2014 SCC 44)1。同判決の中では、土

地の専有が認められるのは特定の領域のみに限られるというブリティッシュコロンビア州の主張は退けら

れ、特定の占有地以外でも狩猟や漁獲、その他資源の採取のために規則的に用いられ排他的な利用

がなされている領域においても土地所有権が認められた。さらにこのような先住民の土地に対する権利

が確立された場合には、政府がその権利を制限するにあたっては影響を受ける先住民の同意か正当な

理由が必要になることも判じた。

ブリティッシュコロンビア州があるカナダ太平洋岸は、アルバータ州産の原油のアジア・米太平洋岸に

向けた積出し地、あるいは LNG ターミナルの建設地として見込まれており、特にパイプラインは先住民

が土地に関する権利を主張する複数の地域を通過することになるため今回の判決によって何らかの影

響を受ける可能性がある。またブリティッシュコロンビア州は、過去の歴史において先住民との間で土地

の権利関係に関する条約が締結されていない場合が多いため、今回の判決は当地においてより重要性

1 Supreme Court, “Tsilhqot’in Nation v. British Columbia, 2014 SCC 44”, Jun 26, 2014,

http://scc-csc.lexum.com/scc-csc/scc-csc/en/item/14246/index.do

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任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

を有する。

2.カナダの先住民の人々2

(1)カナダの先住民の人々

カナダ先住民関係・北方開発省(AANDC: Aboriginal Affairs and Northern Development Canada)によれ

ば、カナダには 617のファーストネーション(First Nations)の共同体が存在している。うち石油・天然ガス

開発が盛んなブリティッシュコロンビア州には198の共同体が、アルバータ州には45のファーストネーシ

ョンの共同体が存在している。

2011年の統計によれば、カナダ全人口の 4%の 140万人が自らを先住民として識別している。先住民

とは、ヨーロッパ人が北米大陸に到着する前から当地に定住していた人々であり、ファーストネーション、

イヌイット(Inuit)、メティス(Metis)に分類される。ファーストネーションは、かつては「インディアン」と呼ば

れた人々であり、イヌイットは北米沿岸(ヌナブト準州、ノール・ドュ・ケベック地域など)に居住していた

人々、メティスはこれらの人々とヨーロッパ人の混血の人々である(「インディアン」という言葉が法律に残

っているため行政や法的文脈で用いられるが「ファーストネーション」という呼称の方が望ましいとされる)。

これらの人々は主に居住地の環境に基づく異なる文化、言語、習慣を有している。

図1:カナダのファーストネーション共同体の分布

出典:AANDC3

2 カナダの先住民の人々の歴史や文化についてはAboriginal Affairs and Northern Development Canadaのホームページに詳しい。

http://www.aadnc-aandc.gc.ca/eng/1307460755710/1307460872523 3 Aboriginal Affairs and Northern Development Canada, “Welcome to the First Nations Profiles Interactive Map”,

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(2)概略史

先住民の人々とヨーロッパ人との接触が盛んになるのは15世紀のことである。その関係は毛皮の交易

に始まり、ヨーロッパ人が入植を開始するとカナダの先住民の人々は英国や仏国の入植者達と同盟を組

むようになった。ヨーロッパでの七年戦争(1756-1763 年)と北米を舞台にした「フレンチ・インディアン戦

争」によって仏国の入植者が北米からほぼ駆逐された結果、英国人が支配的な地位を得る。

1763 年の英王室令は、カナダの先住民の人々と入植者達との土地権利関係の確定のための最初の

枠組みとなる。英王室令は入植地の管理方法を定めたものだが、特に入植地の境界を定めるものであ

った。すなわち入植地の境界から西方は全て「インディアンの領域」となり、インディアン省の許可無くし

ては入植することも取引することもできなくなった。そして英王室のみが先住民の人々から土地を購入す

ることができ、英王室によるもの以外は全て違法とされた。

アメリカ独立戦争などを経て平和が訪れると新たな移民や入植者達が増える。この頃には入植者の人

口が先住民人口を上回るようになり、カナダにおける英王室と先住民の人々との土地明け渡し条約の締

結が進められる。1850 年台に交渉された Robinson-Huron 条約及び Robinson-Superior 条約は、その後

西部において締結される条約の雛形となった。この 2 つの条約の下では、先住民の人々は一定の居留

地(reserve)や年金、専有されていない王領地における狩猟・採集の権利と引き換えに土地や土地に関

する権利を英王室に割譲するという内容であった。

1860 年にインディアン土地・財産管理法(インディアン土地法)が成立すると、先住民関係の事柄に関

する権限が王室から植民地へと移転され、英王室の先住民の人々に対する責任が免除された。その後

1867 年に英領北アメリカ法によりカナダが成立するとこの権限はカナダ政府へと移転された。カナダは

1871 年から 1921 年にかけて新たな領域についての土地明け渡し条約の締結を進める。11 の条約が締

結されたが Robinson条約と沿う内容であった。

カナダ西部においても当初土地明け渡し条約の締結が進められたが、1859 年にブリティッシュコロン

ビア入植地が成立すると方針を転換し、先住民の人々の土地に関する権利を認めない方針を採用した。

この方針はブリティッシュコロンビアがカナダ連邦制度に加入した後も継続し他の地域とは異なる経過を

辿るようになる。

先住民の人々は 2 度の世界大戦や朝鮮戦争に参加し、戦後先住民の人々の新しい時代とも言うべき

社会的政治的変化が生じ始めた。先住民の共同体からは指導者が現れ、戦争に多くの先住民の人々が

参加したことに注意を向けさせた。カナダはそれまで先住民の人々の同化政策や彼らの権利を制限す

る数々の法制を成立させこれらの人々は苦しい時代を過ごしてきたが、戦後先住民の人々の地域的な

組織が作られるようになりその他のカナダ人との平等や固有の文化や遺産の維持、あるいは固有の権利

http://fnpim-cippn.aandc-aadnc.gc.ca/index-eng.asp

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としての土地の権利を求めて活動するようになる。

2.最高裁判決Tsilhqot’in v. British Columbiaの背景

(1)事実背景

Tsilhqot’in は、ブリティッシュコロンビア州中央の河川及び山地に囲まれた地域に居住し、共通の文化

と歴史を有する6つの集団からなる先住民である。Tsilhqot’inは、ブリティッシュコロンビア州内に存在す

る土地所有権利関係が確定していない数百の集団の一つでもある。1983 年にブリティッシュコロンビア

州は、Tsilqot’in が伝統的領有権を主張する領域における材木の商業伐採のライセンスを発効した。

Tsilhqot’in はこのライセンスの発効に反対し、当該土地における商業伐採ライセンスの発効を禁止する

宣言を求めた。ブリティッシュコロンビア州との協議は行き詰り、この間 Tsilhqot’in の主張は当初の請求

から変更され、部族としての土地権の主張へと変わったが、カナダ政府及び州政府はこの主張に反対し

た。

(2)法的背景

カナダのほとんどの領域においては、先住民が土地に関する権利を英王室(カナダ政府)に割譲する

代わりに部族の居留地の認定その他補償を受け取ることを内容とする条約を英王室との間で締結してき

た。明け渡された土地は王領地(カナダ国有地)となりカナダ連邦法が適用される。しかしブリティッシュ

コロンビア州では僅かな事例を除いてこのような慣行は行われてこなかった。一般的に州政府は、憲法

法の下で王領地、部族の土地、私人の土地を含む全ての土地を規制し、法を執行する権限を有する。

問題となった Tsilhqot’in の土地は、ブリティッシュコロンビア州の商業伐採ライセンスの発効前に条約

が締結されておらず、権利関係が確定していない土地であった。また、ブリティッシュコロンビア州がライ

センスを発効した法権原である森林法は連邦法であり、国有地に対して適用されるものであった。この点、

Tsilhqot’in の土地所有権の有無、森林法の適用の可否が問題となった(判決では訴えを解決するには

前者の問題にのみ対処すれば足りるが、主席判事は今後の道標として後者の問題にも取り組んだ)。

3.カナダ先住民の土地の権利に関する判決で確立された法理

カナダ最高裁は、今回の判決に臨んで以下のとおり過去の判例を確認した。

(1)1973年:Calder v. Attorney General of British Columbia, S.C.R.313

・条約その他の方法によって失効させられない限り先住民の土地に関する権利は有効である。(本判決

を受けカナダ政府は特にブリティッシュコロンビア州において先住民との条約交渉を開始する。)

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(2)1982年:憲法法(Constitution Act)4§35の施行

・先住民の既存の権利を認識、確認した。(本判決が具体化されるのは後になってから)

※1982年の憲法法§355

(1)カナダの先住民の人々の現存する先住民の権利と条約上の権利はここに承認され確定される。

(2)この法律における「カナダの先住民の人々」には、カナダのインディアン、イヌイット、メティスの

人々が含まれる。

(3)より明確には、サブセクション(1)に言う「条約上の権利」には、土地請求協定によって今現に存在

する権利又はそのようにして獲得される権利が含まれる。

(4)この法律の他の条項に関わらず、サブセクション(1)に言うこの先住民の権利及び条約上の権利

は、男性と女性に対して平等に保証される。

(3)1984年:Guerin v. The Queen, 2 S.C.R. 335

・先祖代々の土地に対する先住民の潜在的土地所有権を確認した。同意意見においてDickson判事は、

先住民の土地権利に取り組んだ。同意意見では、英王はカナダの主権を得た時にブリティッシュコロ

ンビア州の全ての土地に対する基礎的土地所有権をも獲得したが、当該権利は主権確立に先立つ先

住民の人々の土地の使用及び専有に基づく、先に存在していた法的権利によって制限を受ける。こ

の先住民の利益は独立した法的利益であり、英王に対して特有の信任義務を課す。

(4)1990年:R. v. Sparrow, 1 S.C.R. 1075

・1982年の憲法法§35が 1982年4月17日以前に失効させられていない全ての先住民の権利を合法

的に保護し、これらの権利に関して英王に信任義務を課すと判じた。同法廷はまた、同憲法法§35 の

下では、同セクションが保護の対象とする権利は、2つのテストをパスすることによってのみ制限するこ

とができる。1)“説得力のある、または実質的な”目的を実現する法律によらなければならない。 2)王

に対して課される信任義務の下で、当該法制が侵害される先住民の利益に優先することを説明しなけ

ればならない。

4 カナダ憲法は我が国憲法のように1つの法典で成立しておらず、英領北アメリカ法(後の1867年憲法法)、1982年の憲法法、1867年憲法法

を修正する複数の憲法法、マニトバ法をはじめとする植民地の連邦加盟時に制定された諸法令、自治権を付与したウェストミンスター法等の複

数の制定法から構成される。その他判例や慣習など成文法以外のものも憲法を構成する。本稿ではこの点を踏まえ、「1982年の憲法法」又は

「同憲法法」として 1982年の憲法法を指すこととする。

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(5)1997年:Delgamuukw v. British Columbia, 3 S.C.R. 1010

・Calder 判決、Guerin 判決、Sparrow 判決で打ち立てられた原則を統合し、先住民の土地所有権という

文脈において適用した判例。同法廷は英王と先住民との関係における権利と義務の独特な性質を確

認し、また、先住民の土地所有権を独特なものとしている要因が英国の主権宣言に先立つ専有から生

じており、主権宣言以降の無条件財産相続権とは区別されると述べた。そして先住民の土地所有権の

主張を評価するにあたり慣習法と先住民が同等に重視されると述べた。

・同判決はまた、先住民の土地所有権の内容について正と負の面から要約した。1)先住民の土地所有

権は、その態様によらず様々な目的にために排他的に使用・専有する権利を含む。2)集団としての土

地所有権であり、将来世代の土地をコントロールし利益を得る権利を奪ってはならない。

・同判決はまた、先住民の土地所有権に対する制限は、1982 年の憲法法§35 の下で Sparrow 判決に

従って正当化されることを確認し、同正当化行為を“先住民の社会を、それが所属するより広範な政治

的コミュニティに和解させる必要な部分”として説明した。

(6)2004年:Haida Nation v. British Columbia, 2004 SCC 73, 3 S.C.R. 511

・影響を受ける先住民の共同体をその土地に関する決定に関与させるという Delgamuukw の論理を、先

住民が所有権を有すると主張する土地で、未だその権利が確立されていない土地に対する開発計画

に適用した。同判決では広範囲にわたる協議が必要であることを確認した。

・協議と主張されている先住民の利益に対応する王の義務は、権利又は土地所有権の存在を支える事

実の強度に関する当初の評価と、当該権利または土地所有権に対する潜在的な悪影響の深刻さに比

例する。最高裁は、Delgamuukw 判決に内在していたこの比例均衡原則が、この Haida 判決において

再度出現したと述べる。

・同法廷はまた、土地所有権を巡る問題を解決するために、英王は道徳的義務のみならず誠意をもって

交渉する法的義務を有すると宣言した。

(7)Tsilhqot’in判決の基礎

カナダ最高裁は、上記の判例を受け今回のケースにも関係する判決の基礎として以下を確認する。

・基礎となるあるいは根本となる英王(政府)の権利は、確立されている先住民の土地に対する利益に服

する。

・先住民の土地に対する権利は、当該先住民のグループにその土地を利用しコントロールする権利を付

5 Government of Canada, “Justice Laws Website”, http://laws-lois.justice.gc.ca/eng/CONST/page-16.html#h-52

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与し、そしてその利益を享受する権利を付与する。

・政府は先住民の土地に対する権利に由来する先住民の権利を制限することができるが、その制限が説

得力のある実質的な目的を有し、先住民に対する政府の信任義務に一致しているということに基いて

のみ正当化できる。

・先住民の土地に対する権利が確立されていない場合、それが主張されている土地において資源の開

発を行う場合には、政府は当該主張を行っている先住民の人々と協議することが求められる。

・政府は、先祖代々の土地に対する主張を解決するために誠意をもって交渉する法的義務を負う。

4.Tsilhqot’in判決の論旨

・Tsilhqot’in の土地所有権を基礎付けるために十分性、継続性、排他性の 3 つのテストを設けた上で、

当該土地権利がこれら全てをパスしたとして Tsilhqot’in の土地所有権を認めた。特に十分性テストに

関しては、本訴訟の核心となるものとして先住民の文化や慣行を考慮に入れ、占有地のみならず狩猟

や漁獲、その他資源の採取のために規則的に用いられ排他的な支配がなされている領域における土

地所有権をも認める。

・先住民の土地所有権は、集団の利益の性質と将来世代の享受という制約の下で、それを保持する集団

に排他的土地使用権及びそれから利益を得る権利を付与するという性質を有する。先住民の土地所

有権の確立に先立ち、英王は土地所有権を主張する集団と土地使用の計画に関して協議することや、

適切であればその集団の利益に対応することを求められる。協議や対応の程度は比例原則に応じ

る。

・先住民の土地所有権が確立された場合には、英王は手続的義務に従うだけではなく、当該権利を侵害

する際に当該行為が1982年の憲法法§35の要求事項に一致することを確保し、正当化しなければな

らない。このことは政府に 1)当該政府の目的が説得力を有し実質的なものであること、2)当該政府の

行為は英王が先住民に負っている信任義務に一致するものであることを証明することを求める。このこ

とは先住民の土地所有権が現在及び将来世代に内在する集団利益であるという事実を尊重する仕方

で政府は行為をなさなければならないこと、正当化プロセスに比例原則を持ち込むことを意味する※。

この比例原則は、1)当該権利の侵害は政府の目標を達成するのに必要であること(合理的関係)、2)

政府はそれを達成するのに必要以上をしてはならないこと(最小限の損害)、3)その目標から得られる

利益は先住民の利益が被る悪影響以上のものであること(影響の比例)、を求める。権利侵害の申立

や十分な協議をし損ねることは利害関係を有する先住民の合意を得ることによって避けることができ

る。

・違反の申立は、土地所有権の宣言の前になされたブリティッシュコロンビア州による 1983 年及びそれ

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以降に係るライセンスの発効により生じた。ブリティッシュコロンビア州は土地使用に関して Tsilhqot’in

と協議し、彼らの利益に対応することを求められる。ブリティッシュコロンビア州はいずれも行っておら

ず、従って Tsilhqot’inに負っている義務に違反している。

・当該請求の処分には不必要であるが、森林法の先住民が土地所有権を有する土地に対する適用可能

性の問題は緊急の重要性を有する。同憲法法§35、憲法法における権力の分割に従って、州法の一

般的用法規は、先住民が土地所有権を有する土地にも適用される。ライセンスが発行された時点で森

林法は当該土地に適用される。ブリティッシュコロンビア州議会は、少なくとも先住民の土地所有権が

認識されるまで、権利が主張されていた土地が森林法を適用するための王領地のままであるというこ

とを基礎に明確に意図し進めていた。今や当該土地権利は確立され、当該土地上に存在する材木は

“王の材木”としては定義されず、森林法ももはや適用されない。

・このことは、先住民の土地権利が確立された土地に適用されると主張される森林法といった森林関係

法が、同憲法法§35 の枠組みまたは憲法法の下での州の権限への制限に取って代わられるのかと

いう疑問を提起する。同憲法法§35 の下では、権利は、合理的で、過度の苦難を課さず、あるいは権

利保持者の権利を彼らが望む権利の行使という形によって拒否する場合には法制によって制限を課

すことができる。害虫の侵入への対応や山火事を防ぐことを目的とした一般的な法制はしばしばこの

テストをパスし、如何なる権利の侵害も生じさせない。しかし、先住民が土地の権利を有する土地上の

材木の伐採を許可するライセンスの発効は、先住民の財産権を第三者に直接移転するものであり、こ

れら先住民の人々の財産権の減少を意味し、先住民の同意なくしてなされた事案において正当化し

なければならない権利の侵害に至る。

※判決では、Delgamuukw 判決から以下のとおり引用し、正当化事由として農業、森林、鉱業、水力発

電、ブリティッシュコロンビア州内陸の一般的な経済開発、環境・絶滅危惧種の保護、インフラの建設、

外国人との調停を挙げている。

“the development of agriculture, forestry, mining, and hydroelectric power, the general economic

development of the interior British Columbia, protection of the environment or endangered species,

the building of infrastructure and the settlement of foreign populations to support those aims, are the

kinds of objectives that are consistent with this purpose and, in principle, can justify the infringement

of Aboriginal title.”

Page 9: カナダ:先住民の権利と石油・天然ガス開発...British Columbia, 2014 SCC 44)。 ・ブリティシュコロンビア州においては、石油パイプライン計画としてEnbridge社のNorthern

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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま

れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの

投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責

任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

最高裁の判決の論旨は上記のとおりであるが、同法廷は結論の基礎として以下のとおり整理してい

る。

・先住民の土地に対する権利は当該土地の規則的で排他的な土地の利用という意味における専有に根

拠を有する。

・本件の場合、先住民の土地に対する権利は事実審によって特定された地域(※占有地のみならず規

則的排他的な利用がなされていた土地)に対しても確立される。

・先住民の土地に対する権利は、当該土地を利用しコントロールする権利を付与し、当該土地から得ら

れる利益を収める権利を付与する。

・土地に対する権利が確立されてはいないが、そのような権利が主張されている場合には、1982年の憲

法法§35 は政府に対して土地に対する権利を主張しているグループと協議し、必要であれば侵害を

受ける利益の補償をすることを求めている。

・先住民の土地に対する権利が確立された場合には、同憲法法§35は、当該先住民グループの同意を

得た場合、又は、説得力のある実質的な公共の目的のために正当化され先住民グループに対する王

(政府)の信任義務に一致する場合のみ権利の侵害を許可する。

5.ブリティッシュコロンビア州のパイプライン、LNGターミナル建設計画

(1)石油パイプライン

今回のカナダ最高裁の判決は、特にブリティッシュコロンビア州を通過する石油パイプラインプロジェ

クトに何らかの影響を与えると言われている。他方、天然ガスパイプラインや LNG ターミナル建設プロジ

ェクトに関しては、ファーストネーションが事業に参加しているケースもあり石油パイプラインとはやや状

況が異なる。そもそも概して石油パイプラインに対しては、それが運ぶことになるオイルサンドから採取さ

れた重質油の漏洩や温室効果ガス排出に対する懸念から環境面での反対がある。

アルバータ州からブリティッシュコロンビア州湾岸に至る主なパイプライン計画は 2 つ、Enbridge 社の

Northern Gateway と Kinder Morgan 社の Trans Mountain 拡張である。Northern Gateway は 52 万

5,000bbl/dの石油パイプラインであり、今年6月17日にカナダ政府から建設承認を得ている。操業開始

2018年第3四半期と言われている。Trans Mountainは現在操業中の 30万bbl/dのパイプラインを拡張

し59万bbl/dの追加輸送量を加える計画である。こちらはカナダ政府の規制当局である国家エネルギー

委員会(NEB: National Energy Board)に建設承認を申請中であり、拡張後の操業開始は 2017 年第4四

半期と言われている。

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任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

図2:計画中又は建設中の主な石油パイプライン計画

出典:カナダエネルギーパイプライン連盟(CEPA: Canadian Energy Pipeline Association)6

(2)天然ガスパイプライン

ブリティッシュコロンビア州を横断する計画中の天然ガスパイプラインでは、TransCanada 社の Coastal

Gaslink(1.7Bcf/d、操業開始未定)と Prince Rupert Gas Transmission(2.0Bcf/d、2018 年末稼働開始予

定)、Spectra Energy社のNatural Gas Transportation(4.2Bcf/d、2019年稼働開始予定)が挙げられる。こ

れら天然ガスパイプラインはいずれも提案されている LNG輸出プロジェクトに天然ガスを供給することを

目的としている。

6 Canadian Energy Pipeline Association, “Interactive Map”, http://www.cepa.com/map/index-en.html

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図3:計画中又は建設中の主な天然ガスパイプライン計画

出典:CEPA

(3)LNGターミナル

ブリティッシュコロンビア州を起点とするLNG輸出ターミナルの計画は、2014年7月時点で 13プロジェ

クトがNEBの輸出許可を申請し、うち9プロジェクトが輸出許可を取得している。しかし、いずれも最終投

資決定をしていない。いくつかのプロジェクトは買い手や投資家を模索している最中であるか、プロジェ

クトの立地を検討している最中である。ブリティッシュコロンビア州は今年 2 月に予算要求の一環として

LNGプロジェクトに対する課税を発表したところであるが 7、この最終的な帰結を待っているプロジェクトも

ある。この新税制の詳細は今年秋と来年春の 2部に分かれて明らかになる。

7 2月の提案では投資回収を行うまでの間LNGの輸出に1.5%を課税し以後7%の課税を行うというもの。

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投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責

任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

表1:NEBの輸出許可を申請している LNGプロジェクト(ブリティッシュコロンビア州)

# ターミナル 立地 参加企業 輸出量 ステータス 輸出開始

1 Kitimat

LNG

Kitimat,

BC

Chevron Canada, /

Apache*

当初:500万トン/年

最終:1000万トン/年

・2011.10:NEB輸出許可

・FEED(基本設計)、初期現場作業進行中

・2014年末FID(最終投資決定)の見込み

2018年

2 Douglas

Channel

Energy

Partnership

(BC LNG)

Kitimat,

BC

BC LNG (Tatham’s

LNG Partners LLC /

Haisla First Nation) /

Golar LNG

180万トン/年まで ・2012.2:NEB輸出許可

・FEED完了。しかしBC LNGは 2013年に

支払不能を宣言。

2015 年か

ら延期

3 LNG

Canada

Kitimat,

BC

Shell / Mitsubishi /

KOGAS / CNPC

当初:1,200万トン/年

拡張:2,400 万トン/年

まで

・2013.2:NEB輸出許可

・設計、環境評価進行中

・2015年FIDの見込みか

2019年

4 Pacific

Northwest

LNG

Lelu Island

(Prince

Rupert, BC

近郊)

Petronas /

Progress Energy /

JAPEX / Indian Oil

Corp / Petroleum

Brunei

当初:1,200万トン/年

拡張:1,800万トン/年

・2013.12:NEB輸出許可

・実現可能性調査完了、Pre-FEED進行中

・2014年末FIDの見込み

2018年

5 WCC LNG Prince

Rupert 又

は Kitimat,

BC

ExxonMobil / Imperial

Oil

当初:1,000~1,500 万

トン/年

拡張:3,000 万トン/年

まで

・2013.12:NEB輸出許可

・プロジェクト評価及び計画の初期段階

2021-2023

6 Prince

Rupert

LNG

Ridley

Island

(Prince

Rupert, BC

近郊)

BG Group / Spectra

Energy

当初:1,400万トン/年

拡張:2,100万トン/年

・2013.12:NEB輸出許可

・実現可能性調査進行中

・2017年FIDの見込みか

2022年頃

7 Woodfibre

LNG

Squamish,

BC近郊

Woodfibre Natural

Gas Ltd.

210万トン/年 ・2013.12:NEB輸出許可

・BC州による環境評価進行中

2017-2018

8 Triton

LNG

Kitimat 又

は Prince

Rupert, BC

AltaGas, Ltd. /

Idemitsu

230万トン/年 ・2014.4:NEB輸出許可 2017-2027

年の間の

いずれか

9 Aurora

LNG

Grassy

Point, BC

CNOOC / Nexen /

INPEX / JGC

当初:1,200万トン/年

拡張:2,400万トン/年

・2014.5:NEB輸出許可

・ファーストネーション 2 グループと収入配

分協定を締結、環境評価実施中

2021-2023

10 Stewart

Energy

LNG

Stewart,

BC近郊

Canada Stewart

Energy Group

当初:500万トン/年

拡張:3,000 万トン/年

まで

・2014.3:NEB輸出許可申請

2017年

11 Kitsault

LNG

Kitsault,

BC

Kitsault Energy Ltd. 2,000万トン/年 ・2014.4:NEB輸出許可申請

・2014年末最終投資決定予定

・既存インフラを活用

2018年

12 WesPac

Marine

LNG

(Tilbury

LNG)

Tilbury

Island, BC

及びその

近郊

Wespac Midstream

Vancouver LLC /

FortisBC Energy, Inc.

300万トン/年 ・2014.6:ENB輸出許可申請

・既存の Tilbury ターミナルを利用、また新

規のWesPac Marinターミナルを建設予定

既存のタ

ーミナル

からの輸

出は許可

次第

13 Steelhead

LNG

TBD, BC

湾岸

Steelhead LNG Corp

/ KERN Partners

600万トン/年 ・2014.7:NEB輸出許可申請 2019年

*Kitimat LNGに参加のApache社は 7月末プロジェクトからの撤退の意向を発表した。 *本表には含めていないが、米国の Jordan CoveとOregon LNG(共にオレゴン州)がNEB輸出許可を取得している。 *またカナダ東海岸における LNGプロジェクトとして、Goldboro LNG(Pieridae Energy Ltd)がNEB輸出許可を申請している。 出典:NEB、各種資料から作成

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れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの

投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責

任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

6.むすびに

今回の最高裁の判決では、先住民の土地権利が確立されていない地域において、先住民の占有地

のみならず狩猟や採集など規則的排他的に利用されてきた土地に対してもその権利が認められ得るこ

とを示した。さらに先住民の土地に対する権利が認められている場合には、政府はその先住民の同意を

得るか、公共の目的や合理性などによって正当化されない限り、当該土地権利を制限することができな

いと判じた。

LNG ターミナル建設プロジェクトや、特にパイプラインプロジェクトは広大な土地に広がるために必然

先住民に影響を及ぼす機会もより多くなる。従来から先住民の権利が確立されている場合や条約上の権

利が確立されている場合には、法律や判例に基づき政府は権利の侵害を受ける先住民と協議を行う義

務を負っていた。今回の判例に従えば、政府は、土地に対する権利が確立された土地のみならず、権

利が確立されていない土地に対してもまずは十分な評価を下さなければならない。そして土地の権利に

関する状況を把握した後には、それに応じた対応、すなわち土地に対する権利が確立されている場合

には当該権利を有する先住民からの同意を得ること、そうでない場合には協議を行うよう努めなければ

ならないということになる。これらの協議は通常政府単一ではなされずプロジェクト提案している企業も参

加する。

提案中のプロジェクトとそれによって何らかの影響を受ける先住民の部族数に関するある推計によれ

ばブリティッシュコロンビア州において提案されているプロジェクトでは、Prince Rupert LNGに関して影

響を受ける先住民部族数は 6,Northern Gatewayでは 36にも上ると見積もっている 8。他方、アルバータ

州政府によれば、石油開発、パイプライン施設、森林その他資源開発に関して行われた協議集会は

2010年と 2011の合計で 1,550回に上るという。

今回の判決で恐らく特に影響を受けるのはブリティッシュコロンビア州のプロジェクトではないかと思わ

れる。アルバータ州では条約によって先住民の人々の権利が確立されている場合がほとんどであり、協

議も条約で認められた権利の調停を主眼とするのに対し、ブリティッシュコロンビア州ではそうした条約

がほとんど不在である。さらに今回の判決は、土地に関する権利が確立されていない場合には、先住民

の人々の占有地のみならず利用していた土地にも権利が及ぶことを示した。そのため協議において不

確実性を持ち込むことになったと言える。土地所有の権利が確立された場合には、当該権利を制限する

ためには先住民の人々の同意が必要になることも交渉の難易度を上げたと言える。しかしこの場合にも、

正当化できる理由があれば制限も可能であり、全般的に資源採取プロジェクトを後押ししているカナダ政

府または州政府は、正当な自由を説明するために大きな労力をつぎ込むことになるだろう。 (了)

8 Fraser Institute, “Opportunities of First nations Prosperity through Oil and Gas Development”, Nov, 2013,

http://www.fraserinstitute.org/uploadedFiles/fraser-ca/Content/research-news/research/publications/opportunities-for-first-nation-prosperity-through-oil-and-gas

-development.pdf