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2015.05改訂版 作成 : 凸版印刷株式会社 HEMSデータによる CO2削減行動の評価マニュアル (環境省 H26年度HEMSを活用したCO2削減ポイント構築推進事業委託業務にて作成)

HEMSデータによる CO2削減行動の評価マニュアル...環境省「HEMS利用の価値向上のための調査事業(以下、本事業)」では、 3年間に渡ってCO2削減努力をHEM

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2015.05改訂版

作成 : 凸版印刷株式会社

HEMSデータによる

CO2削減行動の評価マニュアル (環境省 H26年度HEMSを活用したCO2削減ポイント構築推進事業委託業務にて作成)

はじめに

本マニュアルでは、家庭で行ったCO2削減につながる省エネ努力(以下、CO2削減努力)をHEMS(ホームエネ

ルギーマネジメントシステム)で取得したデータを使い評価する手順や方法について解説をしています。今後HEM

Sを使ったサービスのひとつとして、CO2削減努力に応じたポイント付与やクーポンを発行するといったサービスを

ご検討されている皆様、HEMSを使ってCO2削減努力を促進したい皆様に広くお使いいただけると思います。

環境省「HEMS利用の価値向上のための調査事業(以下、本事業)」では、3年間に渡ってCO2削減努力をHEM

Sデータを使い評価する方法を検討してきました。「どのようなデータを取得すべきなのか?」「取得したデータを使

って、どのような方法で削減努力を評価すればよいのか?」といったことから検討を進めており、本マニュアルは、

その3年間の事業の成果に基づいて作成しています。

本マニュアルはHEMSデータをはじめて取り扱う方が、HEMSを使ったサービスを検討するにあたり、できる限り専

門的な知識を必要とせず、網羅的にまとめられた情報を押さえるべきポイントに絞って効率的に理解できるよう工

夫しました。結果的に本マニュアルが、CO2削減努力をした個人が報われる社会づくりに貢献できることを望んで

います。

2015年3月

1

目次

1章 CO2削減努力の評価手順 P.3

1 CO2削減努力の評価手順 P.3

2章 CO2削減努力の種類と取得すべき情報 P.4

1 評価対象とするCO2削減努力の種類 P.4

2 取得すべき情報① エネルギーデータ(HEMSデータ) P.4

3 取得すべき情報② 家庭のエネルギー消費量に影響を与える要因 P.5

4 情報の取得 P.7

3章 HEMSデータのクレンジング方法 P.9

1 欠損データの補間方法 P.9

2 異常値の排除方法 P.11

4章 CO2削減努力の評価方法の種類と評価手順 P.12

1 4つの評価方法 P.12

2 評価方法の選択 P.13

3 CO2削減努力の評価 P.15

5章 本マニュアルの活用例 P.26

1 活用例の紹介にあたって P.26

2 新たなCO2削減努力の評価例(評価方法1を用いて) P.29

3 継続的なCO2削減努力の評価例(評価方法4を用いて) P.34

6章 おわりに P.40

1 CO2削減努力を評価する際の留意点 P.40

2 情報保護についての留意点 P.41

2

1章 CO2削減努力の評価手順

CO2削減努力の評価手順

家庭でCO2削減努力を行った場合、理想的には、努力した分だけ家庭のエネルギー消費量が削減

でき、それがHEMSデータに表れるはずです。しかし、家庭のエネルギー消費量は居住条件や気温な

どの様々な要因に影響を受けるため、実際に努力をしてもそれが明確に表れるとは限りません。

家庭で行ったCO2削減努力は、このようなケースを事前に想定して評価することが必要であり、本

マニュアルでは、HEMSデータを使って家庭のCO2削減努力を適切に評価するための手順や方法

を解説しています。

1 CO2削減努力の評価手順

ここでは個人や家庭のCO2削減努力を、HEMSを用いて評価するための手順を記載します。以下4つの手順

でCO2削減努力を評価します。

1章

手順1 評価対象を決める

CO2削減努力には「新たなCO2削減努力」、「継続的なCO2削減努力」の2種類があ

り、どちらを評価するのかを決めます。

※まず「新たなCO2削減努力」を評価し、その後、CO2削減努力を定着させるために「継続的なCO

2削減努力」を評価することが望ましいと考えられます。

手順2 データを取得し、クレンジングする

必要なデータを取得し、欠損値や異常値を除去(クレンジング)します。

手順3 評価基準値(ベースライン)を設定する

比較するための評価基準値(ベースライン)を設定します。

手順4 削減努力を評価する

評価対象と、評価基準値(ベースライン)を比較することによって削減努力を評価します。

※削減努力がHEMSデータに表れることが望ましいのですが、実際には気温などの要因によってそれ

がHEMSデータに表れないケースがあるため、取得したHEMSデータを用いて比較条件を統一す

る必要があります。

3

2章 CO2削減努力の種類と取得すべき情報

CO2削減努力の種類と取得すべき情報

評価対象となるCO2削減努力の種類と、評価する際に必要な情報の取得について説明します。

1 評価対象とするCO2削減努力の種類

CO2削減努力の種類は、「新たに行ったCO2削減努力」と「継続的に行っているCO2削減努力」の2種類に分

類することができます。評価対象とするCO2削減努力に応じて、取得すべき情報が異なるため、評価対象を

決めておく必要があります。

新たなCO2削減努力とは

評価対象とする家庭におけるCO2削減努力前(過去)と、CO2削減努力後(現在)との差分です。家庭において新た

に省エネ対策などを実行した場合に、差分が表れます。

継続的なCO2削減努力とは

評価対象とする家庭と他家庭との差分です。他の家庭と比較してCO2削減努力をしている場合に、差分が表れます。

評価対象設定のポイント

「新たなCO2削減努力」を正しく評価し、それを生み出すことが望まれますが、削減余地が少ない家庭について

は、この努力を評価することが困難です。そういった家庭に対しては、「継続的なCO2削減努力」を正しく評価す

ることで、生み出したCO2削減努力を定着させることが可能となります。

2 取得すべき情報① エネルギーデータ(HEMSデータ)

エネルギーデータとはHEMSから得られる情報そのものです。CO2削減努力を評価するためには、評価対象

となる家庭のHEMSデータだけでなく、比較対象とするHEMSデータが必要となります。

CO2削減努力の種類ごとに比較対象とするHEMSデータは以下のとおりです。

【評価対象ごとに比較対象とするHEMSデータ】

評価対象 比較対象とするデータ 説明

新たな

CO2削減努力 自己データ

• 新たなCO2削減努力を評価する際には、評価対象とする家庭から取得し

た過去のHEMSデータが必要となります。

• 過去の自己データを用いて、過去と現在を比較し、差分をCO2削減努力

として評価します。

継続的な

CO2削減努力 第三者データ

• 継続的なCO2削減努力を評価する際には、他家庭(第三者)から取得し

たHEMSデータが必要となります。

• 同期間の第三者データと比較し、差分をCO2削減努力として評価します。

2章

POINT

4

2章 CO2削減努力の種類と取得すべき情報

3 取得すべき情報② 家庭のエネルギー消費量に影響を与える要因

CO2削減努力を正当に評価するためには、家庭の「努力が及ばない要因」がエネルギー消費量の変化に与え

る影響を考慮し、「CO2削減努力による変化」と「努力が及ばない要因による変化」を切り分ける必要がありま

す。

エネルギー消費量に影響を与える2つの要因

エネルギー消費量に影響を与える要因として、大きく分けて、「家庭内部の要因」と「家庭外部の要因」の2つが挙げら

れます。

➊家庭内部の要因

家屋や家庭内で使用している機器(家電など)、家庭や個人に関するプロフィールなどのうち、エネルギー消費量に大

きな影響を与える要因のことを指します。これらの要因は、1日1日では変化しにくい「固定要因」と、日々変化する

「変動要因」に分けることができます。「固定要因」は、家屋の断熱性能、家電機器の保有台数、世帯人数などがあり、

「変動要因」は毎日の行動のことで、外出や旅行といったものが含まれます。

➋家庭外部の要因

家庭では左右できないが、エネルギー消費量に大きな影響を与える要因を指します。代表的なものに外気温があり

ます。また、外気温には、立地による「固定要因」と日々の変化による「変動要因」があります。

【エネルギー消費量に影響を与える要因】

➊家庭内部の要因

家庭が保有する家屋(住居形

態)、機器の情報(保有台数

など)や家庭・個人に属する

情報(世帯人数・構成など)

固定要因 時間経過しても大きく変動しない要因(機器保有台数、世帯人数など)

※単位時間あたりのエネルギー消費量と機器の保有台数に影響

変動要因 時間経過により変動する要因(日常行動/家人の在宅時間、活動時間など)

※機器の使用時間に影響

➋家庭外部の要因

家庭では左右できないが、エ

ネルギー消費量に影響を与

える要因(気候など)

固定要因 立地(国・地域)

変動要因 気候(特に外気温)

※単位時間あたりのエネルギー消費量に影響

5

2章 CO2削減努力の種類と取得すべき情報

各要因がエネルギー消費量に与える影響について、様々な論文からの報告を表にまとめました。

家庭内部の固定要因には、延床面積、世帯人数、戸建・集合の別、エアコンなどの家電機器保有台数がありました。家

庭内部の変動要因には、エアコンなどの使用時間や、それに影響を与える在・不在状況などがありました。家庭外部の

要因としては、地域や、それによって決まる気温や冷暖房度日などがありました。

なお、評価対象とするCO2削減努力の種類や、評価対象とする期間によって、影響の大きい要因が異なることにも留

意が必要です。例えば、東京都内の家庭の8月のCO2削減努力を、東京都内の他の家庭と比較して評価する場合、

家庭間の気温の差は小さいことから、気温よりも、世帯人数や延床面積が相対的に影響の大きい要因となります。一方、

東京都内の家庭の8月のCO2削減努力を、1年前の8月と比較して評価する場合、1年前との気温の違いを考慮するこ

とが重要です。

【エネルギー消費量に影響を与える要因(文献のまとめ)】

電力消費量

合計

冷房用

エネルギー

消費量

暖房用

エネルギー

消費量

給湯用

エネルギー

消費量

➊家庭内部

の要因

固定要因

延床面積 ○ ○ ○

世帯人数 ◎ ○ ○ ○

持ち家/賃貸 ○

戸建/集合 ○

年間収入 ◎ ○ ○

住戸位置 ○

エアコン保有台数 ○ ○

各種家電保有台数 ○

変動要因

エアコン使用時間 ○ ○ ○

入浴・シャワー回数 ○

在宅状況 ○

➋家庭外部

の要因

固定要因 地域 ○

変動要因

冷房度日 ○ ◎

暖房度日 ○ ◎

日照時間 ○ ○

平均気温 ○ ○

◎:多数の文献で使用されている要因、○:一部の文献で使用されている要因

6

2章 CO2削減努力の種類と取得すべき情報

また、一例として、後に5章で示す「省エネ実験」(期間:2014年8月25日~9月7日)で取得したHEMSデータを用いて、

家庭間の夏季のエネルギー消費量の違いに大きな影響を与えていた要因を抽出すると、以下のとおりでした。なお、抽

出においては、「重回帰分析」という手法を用いています。電力消費量合計では延床面積と、電気式給湯器の有無の違

い、冷房用エネルギー消費量では冷房度日の違いの影響が挙げられました。

【家庭間のエネルギー消費量の違いに影響を与える要因(省エネ実験で得られた例)】

要因の候補 電力消費量合計 冷房用エネルギー消費量

世帯人数

延床面積 ○

電気式給湯器の有無 ○

冷房度日 ○

○:家庭間のエネルギー消費量の違いに影響を与えていると99%以上の確率でいえる要因。

4 情報の取得

考慮すべき要因を踏まえ、取得すべき情報を検討します。

エネルギーデータ(HEMSデータ)の取得

エネルギーデータをHEMSから取得する際には、以下の項目について考慮する必要があります。

①取得期間

新たな削減努力を評価する場合:

自己データを使用します。その際には、1年前の同じ季節のデータがあることが望ましいです。

継続的な削減努力を評価する場合:

同一期間における第三者データを使用します。

②時間間隔 時間単位もしくは日単位が望ましいです。

③種類

「電力消費量」のデータが必要です。太陽光発電設備などの発電設備を導入している家庭の

場合は、「発電量」や「購入量」のデータも取得できるため、区別する必要があります。また、「空

調」や「給湯」など種類別のデータを取得できれば、より詳細な評価が可能となります。

④電力消費量以外の

データについて

ガスの消費量データが取得できる場合、暖房・給湯によるガス消費量を把握することができ、よ

り詳細な評価が可能となります。

「家庭外部の要因」情報の取得

「家庭外部の要因」としては、「外気温」が重要な要因であると前述しましたが、「外気温」を毎日計測するのは難しく、

「外気温」を測定できるHEMSも今はそれほどありません。

このような場合、「外気温」情報の取得には気象庁のウェブサイト(※)で公表している過去の気象観測データをダウンロ

ードして利用します。データ取得時には、以下の項目を考慮し、観測地点は居住地域に最も近い地点を選択します。

(※)気象庁ウェブサイト「過去の気象データ・ダウンロード」

URL:http://www.data.jma.go.jp/gmd/risk/obsdl/index.php(2015年3月現在)

7

2章 CO2削減努力の種類と取得すべき情報

① 取得期間 HEMSデータと同じ期間のデータを取得します

② 時間間隔 HEMSデータと同じ時間間隔のデータを取得します

③ 種類 HEMSデータを日単位で取得するときは、日平均気温を取得します

「エネルギー消費量に影響を与える要因」情報の取得

(1)情報取得の難易度

エネルギー消費量に影響を与える要因の情報は、評価する家庭ごとに把握する必要があります。これらを取得する

際には、情報取得の難易度についても考慮する必要があります。情報取得の難易度は「物理的負担」と「心理的負

担」の2つに分けることができます。「物理的負担」とは調査事項の多さや詳細さなどの量的な負担を言い、「心理的

負担」とは積極的な回答をしたくないという負担を言います。

(2)情報の取得方法

HEMSサービスでは、サービス開始時に世帯人数、オール電化か否かといった情報は既に取得されているものもあ

ります。また、ほかの情報についても物理的・心理的負担が低い情報であれば、HEMSサービスを受ける家庭から

取得することも可能です。

「家庭内部の変動要因」情報を取得したい場合、例えば毎日のアンケートで在宅状況などを尋ねる方法があります

が、「物理的負担」は大きくなります。一方で、在宅時間を類推するための情報であっても、「その家庭の休日が何

曜日か」といった質問であれば心理的負担は軽くなります。

【各要因情報の取得難易度】

エネルギー消費量に

影響を与える要因

住居タイプ、オール電化設備の有無

太陽光発電・蓄電池設置有無

延床面積、家電・機器台数、給湯器の種類

在宅状況

エアコン使用時間

日中平均気温、冷房度日、暖房度日

国、地域

代表例物理的

負担

心理的

負担

取得の

難易度

小 小 低

小 小 低

中~大 大 高

大 中 高

小 小 低

- 低

データが必要と

なる比較方法

-

中~大 小 中

➊家庭内部の要因

➋家庭外部の要因

対象世帯が保有する家、機

器の情報や世帯・個人に属

する情報

対象世帯は直接関与してい

ないがエネルギー消費量に

影響を与える要因

固定要因

変動要因

固定要因

変動要因

自己データによる比較

第三者データによる比較

世帯人数、高齢者人数

世帯年収

小~中 小 中

小~中 大 高

調査事項の多さ

や詳細さなどの量的な負担

積極的な回答を

したくないという負担

8

3章 HEMSデータのクレンジング方法

HEMSデータのクレンジング方法

HEMSデータは、そのデータ内に欠損(エネルギー消費データが計測されていないこと)や異常値(計

測されたエネルギー消費量に誤りがあること)が含まれている場合があるため、可能な範囲で欠損を

補間しつつ、異常値を排除する必要があります。

1 欠損データの補間方法

HEMSデータが計測されている時間刻み(時間的粒度)、HEMSデータの分析に必要な時間単位、HEMSに

保存されるデータが差分値か積算値か、欠損があった場合の欠損時間の長さ、分析に必要な時間粒度などに

よって、補間可否や補間方法が異なります。

一般にHEMSデータが取得できる時間刻みは「30分値」や「1時間値」であることが多いですが、「数分値」の場合もあり

ます。一方で分析に必要な時間単位としては、「1時間」や「1日」、「1週間」といった単位が使われます。補間を行う際

はデータの安定性を確認する観点から、仮に分析に必要な時間が1週間やそれ以上の長い期間であったとしても、ひと

まず1日単位で欠損状況を確認して補間を行います。

HEMSデータが差分値か積算値かで見た補間の考え方

差分値と積算値のイメージは下表のとおりです。

【差分値と積算値のイメージ】

0時台 1時台 2時台 3時台

1時間毎の消費量 2kWh 1kWh 1kWh 0.5kWh

差分値 2kWh 1kWh 1kWh 0.5kWh

積算値 (※) 2,326.0kWh 2,327.0kWh 2,328.0kWh 2,328.5kWh

(※)積算値の初期値は仮の数値を入れています。

3章

9

3章 HEMSデータのクレンジング方法

■HEMSデータが差分値の場合

HEMSデータが差分値である場合、前後の値に対して比例しているとみなして、欠損値を線形的に補間します。ただ

し、欠損期間がHEMSの分析に必要な時間的粒度と比べて長い場合には補間が難しく、欠損が含まれている期間

分の消費量を無効扱いとする必要があります。

【差分値の欠損値補間】

■HEMSデータが積算値の場合

HEMSデータが積算値である場合、欠損期間が分析に必要な期間の境界をまたがない限り、補間の必要はありませ

ん。例えば1日単位で分析を行う場合、下図のように欠損期間が0時をまたがない場合は補間の必要なく1日の電力

消費量を把握可能です。

欠損期間が分析に必要な期間の境界をまたいでしまうときは、差分値の補間と同じ考え方に立ち、欠損期間が分析

期間に比べて短い場合は線形補間します。

【積算値の欠損値補間】

電力消費量

時 刻

前後の値に対して比例しているとみなし欠損値を補間する。欠損が多い場合は、補間不可。

kWh

時 刻

始点と終点の差分で算出するため、欠損が多い場合でも補間可能。

電力消費量

kWh

10

3章 HEMSデータのクレンジング方法

2 異常値の排除方法

HEMSデータはそのデータ内に異常値が含まれている場合があるため、可能な範囲で異常値を検出して排除

する必要があります。異常値を検出する方法としては、「平均値と比較する方法」と「度数分布を用いる方法」が

あります。

平均値と比較する方法

ある評価期間中の平均値と比較して著しく大きい数値が含まれている場合、その数値を異常値と判断します。例えば、

平均値から標準偏差の3倍以上乖離している数値が含まれている場合は、異常値と判断して排除します。

【平均値との比較による異常値の検出】

度数分布を用いる方法

ある評価期間中の消費量の度数分布を作成し、ほかのデータと比較して不連続に大きい消費量が存在していた場合、

その消費量を異常値として検出し排除します。

【度数分布による異常値の検出】

時 刻

平均値よりも著しく大きい場合は異常値と判断し除外する。例:「平均値±標準偏差×3倍」を除外する。

力消

費量

kWh

1時間あたりの電力消費量 kWh

不連続に大きい値は、異常値と判断して除外する。

11

4章 CO2削減努力の評価方法の種類と評価手順

CO2削減努力の評価方法の種類と評価手順

これまでに手順1として、評価対象とするCO2削減努力を決める必要があることを説明しました。次に、

手順2として、評価したいCO2削減努力に応じて必要な情報の種類と取得方法について説明しました。

また、手順3ではHEMSデータに欠損や異常値があることを前提とし、それをクレンジングする方法に

ついても説明しました。本章では手順4および5として、HEMSデータを使って家庭のCO2削減努力を

評価する方法とその手順を説明します。

1 4つの評価方法

CO2削減努力を評価する際には、エネルギー消費量が「この値を下回ればCO2削減努力をした」と評価でき

るようなベースラインを設定する必要があります。2章において、「新たなCO2削減努力」を評価する場合は、

自己データを用いてベースラインを設定し、「継続的なCO2削減努力」を評価する際には第三者データを用い

てベースラインを設定することを説明しました。これに加えて、ベースラインとの比較方法について、「消費量

(絶対量)の差分」で比較するか、または「消費量の変化率の差分」で比較するかで、下図のように4つの評価

方法に分類することができます。

4章

自己データ

第三者データ

消費量の差分

消費量の変化率の差分

消費量の差分

消費量の変化率の差分

評価方法1

評価方法2

評価方法3

評価方法4

• 過去の自分と比較して新たに削減努力ができているかを評価する方法。

• 過去の自己データを用いて設定したベースライン(過去の消費量)と、現在の消費量を比較し、その差分を削減努力として評価。

➊比較対象データ

➋ベースラインとの比較方法

• 過去の自分と比較して新たに削減努力ができているかを評価する方法。

• 過去の自己データを用いて設定したベースライン(過去の消費量の変化率)と、現在の消費量の変化率を比較し、その差分を削減努力として評価。

• 他世帯と比較して対象期間からの継続的な削減努力ができているかを評価する方法。

• 第三者を用いて設定したベースライン(同期間・過去の消費量)と、対象家庭の消費量を比較し、その差分を削減努力として評価。

• 他世帯と比較して対象期間からの継続的な削減努力ができているかを相対値として評価する方法。

• 第三者を用いて設定したベースライン(過去の消費量)と、対象家庭の消費量の変化率を比較し、その差分を削減努力として評価。

評価方法の説明

12

4章 CO2削減努力の評価方法の種類と評価手順

2 評価方法の選択

4つの評価方法については、それぞれ評価できるCO2削減努力に特徴があります。ここでは、4つの評価方法

について、それぞれどのような視点で選ぶべきかを説明します。

HEMSデータの取得の際の留意点

HEMSデータを取得する際には、「取得できるデータの期間(どこまでさかのぼれるか)」や「どのくらいの家庭数

のデータを取得できるか」を考慮する必要があります。

留意点は、下記のとおりです。

自己データと比較する場合:家庭外の変動要因をできるだけ等しくするために気象条件が最も似ている前年

同月のデータを取得することをお勧めします。

第三者データとの比較をする場合:評価対象とする家庭と同様(エネルギー消費に影響を与える要因に関す

る条件が類似)の家庭のHEMSデータをできる限り取得しておくことをお勧めします。これによって、第三者デー

タがより客観的な情報として使用できるようになります。

■評価方法1~自己データの消費量の差分と比較し新たなCO2削減努力を評価する方法

自己データによってCO2削減努力を評価する方法であるため、取得すべきデータが少なく、評価も比較的容易です。

また、「消費量の差分」を比較する方法ですが、十分にCO2削減努力を行った家庭でないと適切に評価できないこと

があるため注意が必要です。簡易的に新たなCO2削減努力を評価したい場合に有効です。

■評価方法2~自己データの消費量の変化率の差分と比較し新たなCO2削減努力を評価する方法

自己データによってCO2削減努力を評価する方法であるため、取得すべきデータが少なく、評価も比較的容易です。

「消費量の変化率の差分」を比較する方法は、特に気温に対する消費量の増減割合(単位時間あたりの消費量の削

減割合)を評価することに向いており、エアコンを使用する期間における評価や、エアコンの消費量のデータが取得で

きている場合に有効です。

■評価方法3~第三者データの消費量との差分を比較し継続的なCO2削減努力を評価する方法

第三者データとの「消費量の差分」を比較する方法ですが、十分にCO2削減努力を行った家庭でないと適切に評価

できないことがあるため、評価対象とする家庭と同様(エネルギー消費に影響を与える要因に関する条件が類似)の

家庭の情報が数多く揃っている場合に有効です。

■評価方法4~第三者データの消費量の変化率の差分と比較し継続的なCO2削減努力を評価する方法

第三者データとの「消費量の変化率の差分」を比較する方法であり、評価対象とする家庭と同様の家庭の情報が十

分に揃っていなくとも、特に気温に対する消費量の増減割合(単位時間あたりの消費量の削減割合)について評価す

ることが可能です。評価対象の家庭と同様の家庭の情報が十分に揃わない場合に有効です。

上記のようなデータ取得の条件と評価目的を考慮した上で、最終的に評価方法を選択してください。

POINT

13

4章 CO2削減努力の評価方法の種類と評価手順

自己データ

第三者データ

消費量の差分

消費量の変化率の差分

消費量の差分

消費量の変化率の差分

評価方法1

評価方法2

評価方法3

評価方法4

➊比較対象データ

➋ベースラインとの比較方法

評価可能なCO2削減努力

使用時間の短縮

機器保有台数の削減

単位時間あたりの消費量の削減

14

4章 CO2削減努力の評価方法の種類と評価手順

3 CO2削減努力の評価

CO2削減努力を評価する4つの方法について、ベースラインを設定し(手順3)CO2削減努力を評価する方法

(手順4)を説明します。

評価方法1:自己データの消費量の差分と比較し新たなCO2削減努力を評価する方法

「過去のある時点(または期間)における自己のエネルギー消費量」と、「評価対象とする時点(または期間)の自己のエ

ネルギー消費量」との絶対量の差分からエネルギー削減量を算出する方法です。過去の自己のエネルギー消費量が

ベースラインとなるため、過去の自分と比べ、新たなCO2削減努力を行っているかを評価することができます。一方

評価対象時点における自らのエネルギー消費の絶対値のレベルが他者と比べてどの程度の位置にあるかは評価す

ることはできません。

■ベースラインの設定方法

エネルギー消費量が「この値を下回ればCO2削減努力をした」と評価するための基準となるベースラインは、「代表

値による設定方法」と「回帰分析による設定方法」の2つがあります。「代表値による設定方法」は、平均値といった代

表値を用いてベースラインを設定する方法で、比較的容易に行えるのに対し、「回帰分析による設定方法」は、重回

帰分析などの回帰分析を用いてベースラインを設定する方法であるため、ベースラインのばらつきを抑えることはでき

ますが、難易度は高くなります。ベースラインのばらつきが大きいと、「CO2削減努力をしたのに評価されないケース」

や「CO2削減努力をしていないのに評価されてしまうケース」が発生してしまうため、これらを考慮した上でベースライ

ンの設定方法を選択する必要があります。

(1)代表値による設定方法

代表値によるベースラインの設定方法としては、以下の2つが考えられます。

➊過去の同じ時期の消費量をベースラインとする

「CO2削減努力の評価期間」と同じ時期の過去(例えば、前年同月)のエネルギー消費量の平均値をベースライ

ンとします。

【ベースラインの設定方法イメージ】

エネルギー消費量[

Wh/日]

期 間

2013年

6/1 7/1 8/1 6/1 7/1 8/1

2014年

例えば、前年同月の期間の平均値を

ベースラインとして設定する。

比較対象となる期間

評価したい期間

15

4章 CO2削減努力の評価方法の種類と評価手順

➋同じ気温の日における過去の消費量をベースラインとする

以下 3 つの手順で設定します。

① 比較対象となる期間の日平均気温ごとの平均消費量を算出します。

② 評価したい期間の日平均気温とその日数を確認します。

③ 日平均気温ごとの平均消費量とその日数の積を評価したい期間の日数で割ります。

【ベースラインの設定方法イメージ】

(2)回帰分析による設定方法

回帰分析によってベースラインを設定する際には、あらかじめ専門書などで、重回帰分析に関する理解を深めてお

くことをお勧めします。また、以降の説明は、回帰分析の予備知識があるという前提に基づいた解説となります。

以下2つの手順で設定します。

① 比較対象となる期間のエネルギー消費量を被説明変数に、家庭内部の変動要因(在宅状況、曜日など)や家

庭外部の変動要因(日平均気温など)を説明変数として、回帰式を作成します。家庭外部の変動要因として気

温の要素を用いる場合、日平均気温を用いるケース、冷房度または暖房度を用いるケース、さらにはデグリー

デーを用いるケースの3つがあります。日平均気温を用いるケースでは、シンプルに一日の平均気温を説明変

数のひとつとします。冷房度または暖房度を用いるケースでは、例えば、冷房を使用し始める日の平均気温

(基準温度)を28℃と設定し、その基準温度と対象となる日の平均気温の差分を説明変数とします。対象とな

る日の平均気温が32℃の場合は冷房度は4℃となります。デグリーデーを用いるケースは、月単位や週単位で

の消費量を被説明変数とする場合です。冷房または暖房を使用し始める温度(基準温度)と対象期間におけ

る毎日の平均気温の差分の合計値が、デグリーデーであり、説明変数となります。

※デグリーデーとは、冷房デグリーデーと暖房デグリーデーの2つあり、夏季、冬季のエアコン使用期間中、毎日の平均気温

と基準温度との差を積算した値。

② 作成した回帰式に「CO2削減努力を評価したい期間」における値(変数として設定した家庭内部の変動要因と

家庭外部の変動要因)を代入し、算出できた値がベースラインとなります。説明変数として日平均気温や冷房

度または暖房度を用いた場合、評価したい期間の日別の消費量の平均値をベースラインとします。

エネルギー消費量[

Wh/日]

気温[℃]

平均値 評価したい期間(7日間)の気温

24℃→2日25℃→3日26℃→1日27℃→1日

ベースライン=(24℃の平均値×2+25℃の平均値×3

+26℃の平均値×1+27℃の平均値×1)÷7

BL=A×x1+B×x2+C×x3+・・・+N

被説明変数 説明変数2:曜日(ダミー)

平日=0,休日=1

説明変数 1:

日平均気温[℃/日]

16

4章 CO2削減努力の評価方法の種類と評価手順

【回帰分析によるベースラインの設定方法イメージ】

■CO2削減努力の評価

設定した「ベースライン」と、「評価対象期間のエネルギー消費量」の差分を算出して、CO2削減努力の評価を行い

ます。

【評価基準】

差分の算出結果 CO2削減努力の評価

[ベースラインのエネルギー消費量-

評価対象期間のエネルギー消費量]>0

評価対象期間のエネルギー消費量が自らの過去のエネルギー消費量であるベースラインより

も少なく、ベースラインから新たな削減努力をしていると評価(下図)

[ベースラインのエネルギー消費量-

評価対象期間のエネルギー消費量]<0

評価対象期間のエネルギー消費量が自らの過去のエネルギー消費量であるベースラインより

も多く、ベースラインから新たな削減努力ができていないと評価

【評価方法1においてCO2を削減していると評価される場合のイメージ】

評価方法1での評価例

今年のある1週間におけるエネルギー消費量と、昨年の同じ時期の1週間におけるエネルギー消費量を比較

することで算出されるエネルギー削減量をCO2削減努力とする。

今年のある1日におけるエネルギー消費量と、平均気温が同程度であった昨年の1日のエネルギー消費量の

平均値を比較することで算出されるエネルギー削減量をCO2削減努力とする。

昨年の1ヶ月のエネルギー消費量を被説明変数、気温などを説明変数とした回帰式を作成し、今年の評価対

象とする1ヶ月における気温などからエネルギー消費量の推計を行い、この推計結果と実際のエネルギー消費

量を比較することで算出されるエネルギー削減量をCO2削減努力とする。

ベースライン

比較対象を統一

評価対象

削減努力

時 間

エネルギー消費量

自己データ

POINT

エネルギー消費量[

Wh/日]

期 間

2013年

6/1 7/1 8/1 6/1 7/1 8/1

2014年

比較対象となる期間の値を

用いて回帰式を作成。

比較対象となる期間

評価したい期間

作成した回帰式に評価したい

期間の値を代入。

17

4章 CO2削減努力の評価方法の種類と評価手順

エネルギー消費量[

Wh/日]

期 間

2013年

6/1 7/1 8/1 6/1 7/1 8/1

2014年

例えば、前年同月の期間およびその直前

期間の平均値の変化率をベースラインとし

て設定する。

比較対象となる期間

評価したい期間

評価したい期間の

直前期間

比較対象となる期間の

直前期間

評価方法2:自己データの消費量の変化率と比較し新たなCO2削減努力を評価する方法

「過去のある期間における自らのエネルギー消費量の変化率」と、「評価対象とする期間のエネルギー消費量の変化

率」の差分からエネルギー削減割合を算出する方法です。過去の自らのエネルギー消費量の変化率がベースライン

となるため、過去の自分と比べ、新たなCO2削減努力を行っているかについて評価することができます。エネルギ

ー消費量の絶対量の大小にかかわらず、努力の程度を相対的に評価することができます。

※変化率とは、ある期間の最後のエネルギー消費量/ある期間の最初のエネルギー消費量

■ベースラインの設定方法

エネルギー消費量の変化率が「この値を下回ればCO2削減努力をした」と評価するための基準となるベースラインは、

「代表値による設定方法」と「回帰分析による設定方法」の2つがあります。「代表値による設定方法」は、平均値の変

化率といった代表値を用いてベースラインを設定する方法で、比較的容易に行えますが、「回帰分析による設定方

法」は、重回帰分析などの回帰分析を用いてベースラインを設定する方法であるため、ベースラインのばらつきを抑え

ることはできますが、難易度は高くなります。ベースラインのばらつきが大きいと、「CO2削減努力をしたのに評価され

ないケース」や「CO2削減努力をしていないのに評価されてしまうケース」が発生してしまうため、これらを考慮した上

でベースラインの設定方法を選択する必要があります。

(1)代表値による設定方法

代表値によるベースラインの設定方法としては、以下の2つが考えられます。

➊過去の同じ時期の消費量の変化率をベースラインとする

「CO2削減努力の評価期間」と同じ時期(例えば前年同月)およびその直前期間の過去のエネルギー消費量の

変化率をベースラインとします。

【ベースラインの設定方法イメージ】

➋同じ気温の日における過去の消費量をもとに推計した変化率をベースラインとする

以下5つの手順で設定します。

① 比較対象となる期間の日平均気温ごとの平均消費量を算出します。

② 評価したい期間およびその直前期間の日平均気温とその日数を確認します。

③ 日平均気温ごとの平均消費量とその日数の積を比較対象となる期間およびその直前期間で算出します。

④ ③で計算した数値を評価したい期間およびその直前期間の日数で割ります。

⑤ ④で計算した評価したい期間およびその直前期間の値の変化率をベースラインとします。

18

4章 CO2削減努力の評価方法の種類と評価手順

エネルギー消費量[

Wh/日]

気温[℃]

平均値

評価したい期間(7日間)の気温

24℃→2日25℃→3日26℃→1日27℃→1日

ベースライン={(24℃の平均値×2+25℃の平均値×3

+26℃の平均値×1+27℃の平均値×1)÷7}÷ {(24℃の平均値×3+25℃の平均値×1

+26℃の平均値×2+27℃の平均値×1)÷7}

評価したい期間の直前期間(7日間)の気温

24℃→3日25℃→1日26℃→2日27℃→1日

【ベースラインの設定方法イメージ】

(2)回帰分析による設定方法(難易度高)

回帰分析によってベースラインを設定する際には、あらかじめ専門書等で、重回帰分析に関する理解を深めておく

ことをお勧めします。また、以降の説明は、回帰分析の予備知識があるという前提に基づいた解説となります。

以下2つの手順で設定します。

① 比較対象となる期間のエネルギー消費量を被説明変数に、家庭内部の変動要因(在宅状況、曜日など)や家

庭外部の変動要因(日平均気温など)を説明変数として、回帰式を作成します。家庭外部の変動要因として気

温の要素を用いる場合、日平均気温を用いるケース、冷房度または暖房度を用いるケース、さらにはデグリー

デーを用いるケースの3つがあります。日平均気温を用いるケースでは、シンプルに一日の平均気温を説明変

数のひとつとします。冷房度または暖房度を用いるケースでは、例えば、冷房を使用し始める日の平均気温

(基準温度)を28℃と設定し、その基準温度と対象となる日の平均気温の差分を説明変数とします。対象とな

る日の平均気温が32℃の場合、冷房度は4℃となります。デグリーデーを用いるケースは、月単位や週単位で

の消費量を被説明変数とする場合です。冷房または暖房を使用し始める温度(基準温度)と対象期間におけ

る毎日の平均気温の差分の合計値が、デグリーデーであり、説明変数となります。

② 作成した回帰式に「CO2削減努力を評価したい期間」および「その直前期間」における値(変数として設定した

家庭内部の変動要因と家庭外部の変動要因)を代入し、両期間の値の変化率がベースラインとなります。説

明変数として日平均気温や冷房度または暖房度を用いた場合、評価したい期間およびその直前期間の日別

の消費量の平均値を算出し、両期間の値の変化率をベースラインとします。

BL=A×x1+B×x2+C×x3+・・・+N

被説明変数 説明変数2:曜日(ダミー)

平日=0,休日=1

説明変数 1:

日平均気温[℃/日]

19

4章 CO2削減努力の評価方法の種類と評価手順

エネルギー消費量[

Wh/日]

期 間

2013年

6/1 7/1 8/1 6/1 7/1 8/1

2014年

比較対象となる期間の値を

用いて回帰式を作成。

比較対象となる期間

評価したい期間

作成した回帰式に評価したい期間

およびその直前期間の値を代入。

評価したい期間の

直前期間

【回帰分析によるベースラインの設定方法イメージ】

■CO2削減努力の評価

設定した「ベースライン」と、「評価対象期間のエネルギー消費量」の変化率の差分を算出して、CO2削減努力の評

価を行います。

【評価基準】

差分の算出結果 CO2削減努力の評価

[ベースラインのエネルギー消費量変化率-

評価対象期間のエネルギー消費量変化率]>0

評価対象期間のエネルギー消費量変化率が自らの過去のエネルギー消費量変化

率であるベースラインよりも小さく、ベースラインから新たなCO2削減努力をしている

と評価(下図)

[ベースラインのエネルギー消費量変化率-

評価対象期間のエネルギー消費量変化率]<0

評価対象期間のエネルギー消費量変化率が自らの過去のエネルギー消費量変化

率であるベースラインよりも大きく、ベースラインからの新たなCO2削減努力ができ

ていないと評価

【評価方法2においてCO2削減努力をしていると評価される場合のイメージ】

評価方法2での評価例

今年のある1週間におけるエネルギー消費量の変化率と、昨年の同じ時期の1週間におけるエネルギー消費

量の変化率を比較することで算出されるエネルギー削減割合をCO2削減努力とする。

今年のある1週間におけるエネルギー消費量の変化率と、平均気温が同程度であった昨年のある1週間のエ

ネルギー消費量変化率を比較することで算出されるエネルギー削減割合をCO2削減努力とする。

昨年の1ヶ月のエネルギー消費量を被説明変数、気温などを説明変数とした回帰式を作成し、今年の評価対

象とする1ヶ月における気温などからエネルギー消費量の推計を行い、この推計結果に基づき変化率を算出

する。その結果と実際のエネルギー消費量の変化率を比較することで算出されるエネルギー削減割合をCO2

削減努力とする。

ベースライン

比較対象を統一

評価対象

削減努力

時 間

エネルギー消費量の変化率

自己データ

POINT

20

4章 CO2削減努力の評価方法の種類と評価手順

評価方法3:第三者データの消費量の差分と比較し継続的なCO2削減努力を評価する方法

「評価対象とする時点(または期間)の自己のエネルギー消費量」と、「同一時点(または期間)における第三者のエネル

ギー消費量の平均値」との差分からエネルギー削減量を算出する方法です。同一時点(または期間)の第三者のエネ

ルギー消費量がベースラインとなるため、第三者と比べ、継続的なCO2削減努力を行っているかについて評価する

ことができます。

■ベースラインの設定方法

エネルギー消費量が「この値を下回れば削減努力をした」と評価するための基準となるベースラインは、「代表値によ

る設定方法」と「回帰分析による設定方法」の 2つがあります。「代表値による設定方法」は、平均値といった代表値を

用いてベースラインを設定する方法で、比較的容易に行えますが、「回帰分析による設定方法」は、重回帰分析など

の回帰分析を用いてベースラインを設定する方法であるため、ベースラインのばらつきを抑えることはできますが、難

易度は高くなります。ベースラインのばらつきが大きいと、「CO2削減努力をしたのに評価されないケース」や「CO2削

減努力をしていないのに評価されてしまうケース」が発生してしまうため、これらを考慮した上でベースラインの設定方

法を選択する必要があります。

(1)代表値による設定方法

代表値によるベースラインの設定方法としては、以下の 2 つが考えられます。

➊同一時期における第三者の消費量の平均値をベースラインとする

「CO2削減努力の評価期間」における第三者の消費量を整理して、その平均値をベースラインとします。

➋同じ比較条件(人数、延床面積など)である第三者の同一時期における消費量の平均値をベースラインとする

一般的に、家庭のエネルギー消費量は、第2章で示したように、延床面積、世帯人数、戸建・集合の別、エアコ

ンなどの家電所有台数などの影響を受けます。比較条件を統一する場合には、これらの属性が同一の家庭にお

ける消費量の平均値をベースラインとします。

【ベースラインの設定方法イメージ】

代表値(難易度低) 代表値(難易度高)

比較条件は統一せず、第三者の平均値をベースラインとする 一般的に、家庭のエネルギー消費量は人数、住宅構造、延床

面積、気候区分などで説明される。

評価対象の属性によって、あらかじめ特定の比較条件を統一

し、第三者の平均値をベースラインとする

比較条件を統一比較条件を統一しない

21

4章 CO2削減努力の評価方法の種類と評価手順

(2)回帰分析による設定方法

回帰分析によってベースラインを設定する際には、あらかじめ専門書などで、重回帰分析に関する理解を深めてお

くことをお勧めします。また、以降の説明は、回帰分析の予備知識があるという前提に基づいた解説となります。

以下 2 つの手順で設定します。

① 第三者の比較対象となる期間のエネルギー消費量を被説明変数に、家庭内部の変動要因(人数、延床面積

など)や家庭外部の変動要因(日平均気温など)を説明変数として、回帰式を作成します。家庭外部の変動要

因として気温の要素を用いる場合、日平均気温を用いるケース、冷房度または暖房度を用いるケース、さらに

はデグリーデーを用いるケースの 3 つがあります。日平均気温を用いるケースでは、シンプルに一日の平均気

温を説明変数のひとつとします。冷房度または暖房度を用いるケースでは、例えば、冷房を使用し始める日の

平均気温(基準温度)を28℃と設定し、その基準温度と対象となる日の平均気温の差分を説明変数とします。

対象となる日の平均気温が 32℃の場合は 4℃となります。デグリーデーを用いるケースは、月単位や週単位で

の消費量を被説明変数とする場合です。冷房または暖房を使用し始める温度(基準温度)と対象期間におけ

る毎日の平均気温の差分の合計値が、デグリーデーであり、説明変数となります。

② 作成した回帰式に「CO2削減努力を評価したい期間」における値(変数として設定した家庭内部の変動要因と

家庭外部の変動要因)を代入し、算出できた値がベースラインとなります。説明変数として日平均気温や冷房

度または暖房度を用いた場合、評価したい期間の日別の消費量の平均値をベースラインとします。

※回帰分析を推定した上で重要度の高い説明変数を特定し、その特定された説明変数が評価対象家庭と同一の家庭を抽出

して、その消費量の平均値をベースラインとする方法も挙げられます。

【回帰分析によるベースラインの設定方法イメージ】

エネルギー消費量[

Wh/日]

期 間

2013年

6/1 7/1 8/1 6/1 7/1 8/1

2014年

過去の一定期間の値を

用いて回帰式を作成。

回帰式を作成するための

期間

評価したい期間

作成した回帰式に評価したい期間

の値を代入。

BL=A×x1+B×x2+C×x3+・・・+N

被説明変数 説明変数2:曜日(ダミー)

平日=0,休日=1

説明変数 1:

日平均気温[℃/日]

22

4章 CO2削減努力の評価方法の種類と評価手順

■CO2削減努力の評価

設定した「ベースライン」と、「評価対象期間のエネルギー消費量」の差分を算出して、CO2削減努力の評価を行い

ます。

【評価基準】

差分の算出結果 CO2削減努力の評価

[ベースラインのエネルギー消費量-

評価対象期間のエネルギー消費量]>0

評価対象期間のエネルギー消費量が同一時期の第三者のエネルギー消費量であるベース

ラインよりも少なく、第三者と比べた場合の継続的なCO2削減努力をしていると評価(下図)

[ベースラインのエネルギー消費量-

評価対象期間のエネルギー消費量]<0

評価対象期間のエネルギー消費量が同一期間の第三者のエネルギー消費量であるベース

ラインよりも多く、第三者と比べた場合の継続的なCO2削減努力ができていないと評価

【評価方法3においてCO2削減努力をしていると評価される場合のイメージ】

評価方法3での評価例

今年のある1週間におけるエネルギー消費量と、同一時期における第三者のエネルギー消費量の平均値を比

較し、エネルギー削減量を算出し、それをCO2削減努力とする。

今年のある1日におけるエネルギー消費量と、同一時期における比較条件(人数、延床面積など)が同じ第三

者のエネルギー消費量の平均値を比較し、エネルギー削減量を算出し、それをCO2削減努力とする。

第三者の昨年のある1ヶ月におけるエネルギー消費量を被説明変数、比較条件を説明変数とした回帰式を作

成し、今年の評価対象とする1ヶ月における自らの比較条件からエネルギー消費量の推計を行い、この推計結

果と実際の家庭のエネルギー消費量とを比較し、エネルギー削減量を算出し、それをCO2削減努力とする。

ベースライン

比較対象を統一評価対象

削減努力

時 間

エネルギー消費量

自己データ

第三者データ

POINT

23

4章 CO2削減努力の評価方法の種類と評価手順

評価方法4:第三者データの消費量の変化率と比較し継続的な削減努力を評価する方法

「評価対象とする一定期間の自らのエネルギー消費量の変化率」と、「同一期間における第三者のエネルギー消費量の

変化率の平均値」との差分からエネルギー削減割合を算出する方法です。同一時点(または期間)の第三者のエネル

ギー消費量の変化率がベースラインとなるため、第三者と比べ、継続的なCO2削減努力を行っているかについて

評価することができます。

評価方法4はエネルギー消費量の変化率を説明する回帰式が既往研究にないため、回帰分析によるベースラインの設

定は扱いません。

※変化率とは、「ある期間の最後のエネルギー消費量/ある期間の最初のエネルギー消費量」

■ベースラインの設定方法

エネルギー消費量の変化率が「この値を下回れば削減努力をした」と評価するための基準となるベースラインは、「代

表値による設定方法」があります。「代表値による設定方法」は、平均値といった代表値を用いてベースラインを設定

する方法で、比較的容易に行うことができます。

(1)代表値による設定方法

代表値によるベースラインの設定方法としては、以下の 2 つが考えられます。

➊同一時期における第三者の消費量の変化率の平均値をベースラインとする

「CO2削減努力の評価期間およびその直前期間」における第三者のエネルギー消費量の変化率を算出して、そ

の平均値をベースラインとします。

➋同じ比較条件(人数、延床面積など)である第三者の同一時期における消費量の変化率の平均値をベースラ

インとする

一般的に、家庭のエネルギー消費量は、第2章で示したように、延床面積、世帯人数、戸建・集合の別、エアコ

ンなどの家電所有台数などの影響を受けます。比較条件を統一する場合には、これらの属性が同一の家庭にお

ける、「CO2削減努力の評価期間およびその直前期間」の消費量の変化率を算出して、その平均値をベースラ

インとします。

【ベースラインの設定方法イメージ】

代表値(難易度低) 代表値(難易度高)

比較条件は統一せず、第三者の変化率の平均値をベースライ

ンとする

一般的に、家庭のエネルギー消費量は人数、住宅構造、延床

面積、気候区分などで説明される。

評価対象の属性によって、あらかじめ特定の比較条件を統一

し、第三者の変化率の平均値をベースラインとする

比較条件を統一比較条件を統一しない

24

4章 CO2削減努力の評価方法の種類と評価手順

■CO2削減努力の評価

設定した「ベースライン」と、「評価対象期間およびその直前期間のエネルギー消費量の変化率」の差分を算出して、

CO2削減努力の評価を行います。

【評価基準】

差分の算出結果 CO2削減努力の評価

[ベースラインのエネルギー消費量変化率-

評価対象期間のエネルギー消費量変化率]>0

評価対象期間のエネルギー消費量変化率が同一期間の第三者のエネルギー消費量

変化率であるベースラインよりも小さく、第三者と比べた場合の継続的なCO2削減努

力をしていると評価(下図)

[ベースラインのエネルギー消費量変化率-

評価対象期間のエネルギー消費量変化率]<0

評価対象期間のエネルギー消費量変化率が同一期間の第三者のエネルギー消費量

変化率であるベースラインよりも大きく、第三者と比べた場合の継続的なCO2削減努

力ができていないと評価

【評価方法4においてCO2削減努力をしていると評価される場合のイメージ】

評価方法4での評価例

今年のある1週間におけるエネルギー消費量の変化率と、同一時期における第三者のエネルギー消費量の変

化率の平均値を比較することで算出されるエネルギー削減割合をCO2削減努力とする。

今年のある1日におけるエネルギー消費量の変化率と、同一時期における比較条件(人数、延床面積など)が

同じ第三者のエネルギー消費量の変化率の平均値を比較することで算出されるエネルギー削減量をCO2削

減努力とする。

ベースライン

比較対象を統一

評価対象

削減努力

時 間

エネルギー消費量の変化率自己データ

第三者データ

POINT

25

5章 本マニュアルの活用例

本マニュアルの活用例

ここでは、マニュアルを活用して実際にCO2削減努力を評価した実験例をご紹介します。具体的な

評価の手順や、どの程度正確にCO2削減努力を評価できるのかを知ることができます。

1 活用例の紹介にあたって

活用例における評価手順や、取得した情報については以下のとおりです。

CO2削減努力の評価手順

CO2削減努力の評価は以下の手順で行いました。

手順1 評価対象とするCO2削減努力を決める

手順2 取得する情報を決定する

手順3 HEMSデータを取得し、クレンジングを行う

手順4 ベースラインを設定する

手順5 CO2削減努力を評価する

なお、本実験では「新たなCO2削減努力」を評価するために評価方法1(自己データと比較してエネルギー削減量を算

出する方法)を、「継続的なCO2削減努力」を評価するために評価方法4(第三者データと比較してエネルギー削減割

合を算出する方法)によって評価を行いました。

CO2削減努力を評価するために行った実験の概要

CO2削減努力を評価するにあたり、各モニターに対して情報の提供、および一部モニターにはCO2削減努力の実施を

依頼しています。なお、実験期間は2週間とし、その期間におけるCO2削減努力を評価することとしました。

※ガスに関するCO2削減努力については、今回データの取得ができなかったため、評価の対象外としています。

【実験の概要】

5章

9/72014/8/25

省エネ依頼期間

実験の対象とした家庭(138世帯)

省エネ依頼モニター(92世帯)

データ提供モニター(46世帯)

ベースラインの設定

削減努力の評価

データ取得期間

2013/6/1

8/1

事前アンケート

世帯属性の偏りがないように分類

メールにて省エネを依頼

省エネ促進モニター

通常モニター

26

5章 本マニュアルの活用例

■実験の対象家庭

某住宅メーカーで3年以内に住宅を新築(一戸建)し、HEMSが設置されている138世帯をモニターとしています。

■モニター家庭のグルーピング

モニターを「省エネ促進モニター」と「通常モニター」にグルーピングしました。グループ間に偏りがあると正確な実験が

できないため、世帯人数や延床面積等のエネルギー消費に影響を与える要因が、グループ間で同様になるように配

慮しています。

省エネ促進モニター:ある一部の家庭には「この2週間だけ、いつも以上に省エネ対策を行い、CO2削減努力を行っ

てください」と依頼しています。

通常モニター:上記以外の家庭に対して、普段どおりの生活をしてもらい、情報の提供のみをしてもらいました。

【グルーピングの方法】

モニターNo. ①所在地 ②世帯人数 ③延床面積

④オール電化有無

オール電化:1

非オール電化:2

⑤グルーピング

省エネ促進モニター:A

通常モニター:B

1 北海道 2 120㎡ 1 A

2 北海道 4 100㎡ 2 B

3 青森 3 150㎡ 2 A

4 青森 5 110㎡ 1 B

5 秋田 4 130㎡ 1 A

6 岩手 2 80㎡ 2 A

・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・

138 沖縄 4 90㎡ 1 B

※考え方

まず、各モニターの家庭内部の変動要因を整理し、①所在地が北方のモニターから順番に並べます。次に各モニターを省エネ促

進モニターと通常モニターに割り当て、②世帯人数、③延床面積、④オール電化有無の比率に偏りがないことを確認します(以下

「グルーピング結果の確認」参照)。なお、省エネ依頼を行っても実際にCO2削減努力を実施するとは限らないため、省エネ促進

モニターを多めに設定しておくことが必要です。今回は省エネ促進モニター:通常モニターを2:1となるように設定しました。

【グルーピング結果の確認】

0%

20%

40%

60%

80%

100%

省エネ依頼

モニター

データ提供

モニター

地域7

地域6

地域5

地域4

地域3

地域2

0%

20%

40%

60%

80%

100%

省エネ依頼

モニター

データ提供

モニター

わからない

160㎡以上 ~

150㎡以上 ~ 160㎡未満

140㎡以上 ~ 150㎡未満

130㎡以上 ~ 140㎡未満

120㎡以上 ~ 130㎡未満

110㎡以上 ~ 120㎡未満

100㎡以上 ~ 110㎡未満

90㎡以上 ~ 100㎡未満

90㎡未満

0%

20%

40%

60%

80%

100%

省エネ依頼

モニター

データ提供

モニター

6人

5人

4人

3人

2人

1人

0%

20%

40%

60%

80%

100%

省エネ依頼

モニター

データ提供

モニター

非オール

電化

オール電

省エネ促進 モニター

通常 モニター

省エネ促進 モニター

通常 モニター

省エネ促進 モニター

省エネ促進 モニター

通常 モニター

通常 モニター

27

5章 本マニュアルの活用例

エネルギー消費量に影響を与える要因

世帯人数、住居タイプ、PV・LIB設置有無

延床面積、家電・機器台数、給湯器の種類

世帯年収

エアコン使用時間

在宅状況

日中平均気温、冷房度日、暖房度日

国、地域

代表例物理的負担

心理的負担

取得の難易度

小 小 低

中~大 小 中

大 小 高

中~大 大 高

小 小 低

- -

調査事項の多さや詳細さなどの量的な負担。

積極的な回答をしたくないという負担。

各比較方法で必要となるデータ

-

小 大 高

➊家庭内部の要因

➋家庭外部の要因

対象世帯が保有する家、機

器の情報や世帯・個人に属

する情報

対象世帯は直接関与してい

ないがエネルギー消費量に

影響を与える要因

固定要因

変動要因

固定要因

変動要因

自己データによる比較

第三者データによる比較

取得の難易度については、統計審議会の答申を参考

※参考:総務省統計局、統計行政の中・長期構想の見直しについて

(統計行政の新中・長期構想(諮問第242号の答申))

第3章「報告者負担の軽減と地方統計機構」、平成7年3月10日

実験で取得した情報の概要

本活用例では138世帯のモニターから、エネルギーデータ(HEMSデータ)に加え、エネルギー消費量に影響を与える

要因の情報も取得しています。エネルギー消費量に影響を与える要因は、「家庭内部の要因」と「家庭外部の要因」に

分けられ、それぞれ「固定要因」と「変動要因」に分けることができます。要因ごとに取得すべき情報は、評価方法によっ

て異なります。また、情報の取得難易度もモニターの物理的負担や心理的負担などによって変わってきます。

【取得した情報】

情報の種類 具体的な情報の内容 取得方法

エネルギー

データ

電力消費量

・30分単位での電力消費量(積算値)

・主幹(※)、エアコン、給湯の回路別のデータ

・2013年6月1日~2014年9月29日のデータ

(※)主幹とは、分電盤の主幹回路で計測したデータで、家庭全体の電力消費量

の計測値

HEMS

ガス消費量 本実験では対象外とした -

エネルギー

消費量に影

響を与える

要因の情報

家庭内部

の要因

固定要因

住居タイプ、オール電化、延床面積、太陽光発電の設置、蓄電池設備

の設置、住宅性能評価の取得の有無、保有機器と、その機器の台数

など

アンケート

世帯人数、家族構成、世帯構成員の年齢、高齢者の人数、世帯年収

など アンケート

変動要因 在宅状況、CO2削減努力実施状況 アンケート

家庭外部

の要因

固定要因 地域(住所) アンケート

変動要因 気温(各家庭の県庁所在地の日別平均気温) 気象庁HP

評価方法ごとに必要となる情報、各情報の取得難易度については下表のとおりです。本活用例において実際に取得し

た情報は「手順2」で紹介します。

【エネルギー消費量に影響を与える要因について取得すべき情報】

28

5章 本マニュアルの活用例

2 新たなCO2削減努力の評価例(評価方法1を用いて)

実験の結果を踏まえ、実際に行ったCO2削減努力の評価方法を具体的に説明していきます。

手順1 評価対象とするCO2削減努力を決める

まずは、「新たなCO2削減努力」と「継続的なCO2削減努力」のうち前者を評価していきます。「新たなCO2削減努力」

では自己データを用いて過去と現在の差分を比較します。具体的に必要な情報は「手順2」で紹介します。

手順2 取得するデータを決定する

必要な情報は、エネルギーデータ(電力消費量、ガス消費量のデータ)と、エネルギー消費に影響を与える要因の情報

(気温、在宅状況など)です。本活用例では取得難易度も考慮して、下表にある情報をHEMSやアンケートで取得しまし

た。

【取得した情報の概要】

情報の種類 具体的な情報の内容 取得方法

エネルギーデータ 電力消費量

・30分単位での電力消費量(積算値)

・主幹(※)、エアコン、給湯の回路別のデータ

・2013年6月1日~2014年9月7日のデータ

(※)主幹とは、分電盤の主幹回路で計測したデータで、家庭全体

の電力消費量の計測値

HEMS

ガス消費量 本実験では対象外とした -

エネルギー消費量

に影響を与える要因

の情報

家庭内部の要因 固定要因 世帯人数、延床面積、保有機器とその台数 アンケート

変動要因 在宅状況、CO2削減努力の実施状況 アンケート

家庭外部の要因 固定要因 住所(郵便番号) アンケート

変動要因 気温(各家庭の県庁所在地の日別平均気温) 気象庁HP

※家庭内部の固定要因について

評価方法1では自己データを対象とするため、家庭内部の固定要因はCO2削減努力を行う前後で変わりません。したがって評価

方法1では家庭外部の要因および家庭内部の変動要因を考慮します。「手順4」では代表値を用いた分析例を紹介するため、家

庭内部の変動要因などは出てきませんが、これらは回帰分析を実施する際に必要な変数となります。

29

5章 本マニュアルの活用例

手順3 HEMSデータを取得し、クレンジングを行う

取得したHEMSデータには、欠損データや異常値が含まれているケースがあるため、以下の「➊欠損データの補間」と

「➋異常値の排除」によってクレンジングをしていきます。

➊欠損データの補間

HEMSデータの欠損は補間が可能な場合とそうでない場合があります。

〈補間が困難なケース〉

下図は、あるモニターの2013年9月1日~9月30日の電力消費量(主幹)を示したものです。この場合、9月の約2/3

HEMSデータが欠損しており、このようなケースは補間が困難です。

【あるモニターの2013年9月の電力消費量(主幹)】

〈補間が可能なケース〉

下図のような、ある1日の30分の積算電力消費量を考えます。この場合、1日のうち約1/3のHEMSデータが欠損し

ていますが、積算値であるため1日の終わりと始まりの積算値の差分から1日の電力消費量を計算することが可能で

す。具体的には1日の終わりの1479.5kWhから1日の始まりの1462.2kWhを差し引いた、17.3kWhがこの日の電力消

費量になります。

【ある1日の30分ごとの電力消費量の積算値(イメージ)】

※この電力消費量の積算値はあくまでイメージとして示しているものであり、実際に測定された数値ではありません。

0

5

10

15

20

25

9/1 9/3 9/5 9/7 9/9 9/11 9/13 9/15 9/17 9/19 9/21 9/23 9/25 9/27 9/29

電力

消費

量[kW

h/日

]

欠損期間

電力消費量

[kWh/日]

欠損期間 欠損期間

1450

1455

1460

1465

1470

1475

1480

1485

電力

消費

量[kW

h]

電力消費量

[kWh]

30

5章 本マニュアルの活用例

➋異常値の排除

下図は、あるモニターの2014年8月25日~9月7日の電力消費量を示しています。このモニターの同期間の平均電

力消費量は7.58[kWh/日]、電力消費量のばらつき度合いを表す標準偏差は1.97[kWh/日]です。これに対し、極端

に大きいまたは小さい値となっているHEMSデータがある場合には何らかの基準にしたがって排除します。ここでは、

平均値+標準偏差×3の13.47[kWh/日]を上回っている場合、平均値-標準偏差×3の1.67[kWh/日]を下回って

いる場合にそのHEMSデータを排除することとしました。

9月1日の電力消費量は13.57[kWh/日]であり、他の日に比べて大きな値となっています。また、この値は基準とした

13.47[kWh/日]を上回っていることから、何らかの理由で計測された消費量に異常が発生したと考え、9月1日のHE

MSデータは排除することが考えられます。

【あるモニターの2014年8月25日~9月7日の主幹の電力消費量[kWh/日]】

手順4 ベースラインを設定する

特定の代表的なモニターAの主幹の電力消費量に着目して評価をしていきます。

■モニターAについて

モニターAの世帯情報は下表のとおりです。モニターAは千葉県在住、3人世帯であり延床面積は105m2といった家庭

です。

【モニターAの世帯属性】

エネルギー消費量に影響を与える要因 モニターAの世帯情報

家庭内部の要因 固定要因

世帯人数 3人

延床面積 105m2

給湯器種類 電気式

変動要因 19歳未満の人数 1人

家庭外部の要因 固定要因 所在地 千葉県

0

2

4

6

8

10

12

14

16

25日 26日 27日 28日 29日 30日 31日 1日 2日 3日 4日 5日 6日 7日

8月 9月

電力

消費

量[k

Wh/日

]

平均値

標準偏差×3

電力消費量

[kWh/日]

31

5章 本マニュアルの活用例

■ベースラインの設定手順

上記「モニターA」の情報を使って、「これを下回ればCO2削減努力をした」と評価するための基準であるベースライン

を設定していきます。ベースラインの設定には、4章で説明した、過去の同一気温におけるエネルギーデータの代表

値(平均値)をベースラインとする方法を使いました。

①CO2削減努力を依頼した2週間は2014年8月25日~9月7日であり、ベースラインを設定する際に使用する過去

の自己データは、前年の夏期間として2013年6月30日~8月31日のデータを選びました。

②下図のとおり、2013年6月30日~8月31日において、平均気温を20℃から30℃まで2℃刻みで気温幅を設定しま

した。同期間において日平均気温が各気温幅に該当する際の電力消費量を整理し、その平均値を各気温幅にお

ける平均電力消費量としました(下図の赤い線)。

【各気温幅における平均電力消費量の設定方法のイメージ】

③下図中央列は、モニターAの場合の、各気温幅に対応する平均電力消費量を示しています。これに対して、CO2

削減努力を依頼した2014年8月25日~9月7日の期間の平均気温を見ると、20℃以上22℃未満の日が4日、

22℃以上24℃未満の日が3日、24℃以上26℃未満の日が4日、26℃以上28℃未満の日が3日でした(下図右

列)。

【各気温幅に対応するモニターAの平均電力消費量】

平均気温の幅 各平均気温幅に対応する

平均電力消費量 [kWh/日]

2014年8月25日~9月7日の期間で

各平均気温幅に対応する日

20℃以上22℃未満 13.17 8/27, 8/28, 9/1, 9/7

22℃以上24℃未満 13.14 8/29, 8/30, 8/31,

24℃以上26℃未満 14.20 8/26, 9/2, 9/3, 9/4

26℃以上28℃未満 16.31 8/25, 9/5, 9/6

28℃以上30℃未満 16.23 該当日なし

④以下の式に示すようにモニターAのベースラインは14.13[kWh/日]となりました。

ベースライン = 期間中の日ごとの平均気温に対応する電力消費量の和÷期間中の日数

= (13.17×4+13.14×3 +14.20×4+16.31×3)/14

= 14.13 [kWh/日]

※なお、平均値を算出する際には、表計算ツールを用いることをお勧めします。

20~22℃ 22~24℃ 24~26℃ 26~28℃ 28~30℃

2013年6月1日~8月31日の期間

電力消費量[kWh/日]

← 各平均気温幅における平均電力消費量

平均気温

32

5章 本マニュアルの活用例

手順5 CO2削減努力を評価する

「手順4」で、モニターAのベースラインの値を14.13kWh/日と設定しました。これに対して、ここではCO2削減努力を依

頼した期間の努力の度合いを実際に評価していきます。

■実験期間の平均電力消費量の算出

今回は、代表値(平均値)を用いてCO2削減努力を行うため、評価対象となる値は、CO2削減努力を依頼した実験

期間の平均電力消費量となり、以下の式で算出します。特定の代表的なモニターAの主幹の電力消費量に着目して

評価をしていきます。

CO2削減努力を依頼した期間の平均電力消費量 = 期間中の電力消費量の和 ÷ 期間中の日数

= 13.72 [kWh/日]

■実験期間の平均電力消費量とベースラインの比較

上記のように算出した値と、ベースラインの値の差分を以下の式で比較します。

ベースライン-CO2削減努力を依頼した期間の平均電力消費量 = 14.13 -13.72

= 0.41 [kWh/日]

【CO2削減努力の評価イメージ】

評価方法1における誤差について

今回のモニターAはCO2削減努力が評価される結果となりましたが、ベースラインは過去のデータに基づいて、C

O2削減努力をしなかった場合の電力消費量を推定したものであり、多少の「誤差」が生じます。したがって、評価

を行う際には「CO2削減努力をした」にもかかわらずその努力が評価されなかったり、「CO2削減努力をしなかっ

た」にもかかわらず評価されたりする場合がある点には注意が必要です。このベースラインの「誤差」をできる限り

小さくするために、家庭内部や外部の要因を説明変数とした回帰分析を行うことが有効な場合があります。

POINT

13.5

13.6

13.7

13.8

13.9

14

14.1

14.2

平均

電力

消費

量[kW

h/日

]

ベースライン 評価対象の値

削減努力0.41 [kWh/日]

13.72 [kWh/日]

14.13 [kWh/日]

平均電力消費量

[kWh/日]

33

5章 本マニュアルの活用例

3 継続的なCO2削減努力の評価例(評価方法4を用いて)

評価方法1と同様に、実験の結果を踏まえ、実際にどのようにCO2削減努力を評価したのかについて、具体的

に説明していきます。

手順1 評価対象とするCO2削減努力を決める

「新たなCO2削減努力」と「継続的なCO2削減努力」のうち後者を評価していきます。「継続的なCO2削減努力」では

第三者データとの比較を行います。第三者データとは、対象となる家庭を含まないその他の家庭におけるデータです。

具体的に必要な情報は「手順2」で紹介します。

手順2 取得するデータを決定する

必要な情報は、エネルギーデータ(電力消費量、ガス消費量のデータ)と、エネルギー消費に影響を与える要因の情報

(世帯人数、延床面積など)です。本活用例では取得難易度も考慮して、下表にある情報をHEMSやアンケートで取得

しました。

【取得した情報の概要】

情報の種類 具体的な情報の内容 取得方法

エネルギーデータ 電力消費量

・30分単位での電力消費量(積算値)

・主幹(※)、エアコン、給湯の回路別のデータ

・2014年8月18日~2014年9月7日の3週間のデータ

(※)主幹とは、分電盤の主幹回路で計測したデータで、家庭全体

の電力消費量の計測値

HEMS

ガス消費量 本実験では対象外とした -

エネルギー消費量

に影響を与える要因

の情報

家庭内部の要因 固定要因 世帯人数、延床面積、保有機器とその台数 アンケート

変動要因 在宅状況、20歳未満の人数、CO2削減努力実施状況 アンケート

家庭外部の要因 固定要因 住所(郵便番号) アンケート

変動要因 気温(各家庭の県庁所在地の日別平均気温) 気象庁HP

■比較条件の統一について

評価方法4では第三者データを比較の対象とするため、エネルギー消費量に影響を与える要因を対象とする家庭と

他の家庭で統一することが望ましいと考えられます。しかし、評価方法4ではエネルギー消費量の削減割合(変化率)

を比較することとなるため、「率」とすることで各要因の違いによる影響は取り除かれるとも考えられます。

「手順4」、「手順5」では、まずはエネルギー消費量に影響を与える要因を統一しない場合について説明した後、例と

して気温の影響について統一する場合について説明します。

34

5章 本マニュアルの活用例

手順3 HEMSデータを取得し、クレンジングを行う

取得したHEMSデータには、欠損データや異常値が含まれているケースがあるため、以下の「➊欠損データの補間」と

「➋異常値の排除」によってクレンジングをしていきます。なお、評価方法4における以降の手順では、取得した主幹、エ

アコン、給湯の回路別データの中から、エアコンのデータを用いて説明します。

➊欠損データの補間

下図は、あるモニターの2014年8月25日~9月7日のHEMSデータの有無を示しています。このモニターは2週間の

内、9月7日の1日分のHEMSデータが欠損しています。このような場合に2週間分のHEMSデータとして補間するに

は、取得できている13日分のHEMSデータ×14日/13日とすることが考えられます。

【あるモニターの2014年8月25日~9月7日のHEMSデータ有無】

許容する欠損の割合について

補間を行う際には、使用する期間のデータ数に対して、どの程度の割合の欠損までを許容して補間するかにつ

いて、基準を決めておくことが必要です。ここでは、全体の90%以上のHEMSデータがあることを基準としまし

た。つまり、13日分のHEMSデータがある場合には13/14=92.8%であることから補間を行いますが、12日分

以下のHEMSデータしかない場合には12/14=85.7%であることから補間を行わず、そのモニターは使用しな

いこととしています。

2014/8/25

2014/8/26

2014/8/27

2014/8/28

2014/8/29

2014/8/30

2014/8/31

2014/9/1

2014/9/2

2014/9/3

2014/9/4

2014/9/5

2014/9/6

2014/9/7

あり

なし

2週間の内、9月7日の

1日だけデータがない

2週間の合計電力消費量=13日分の合計電力消費量×14/13

POINT

35

5章 本マニュアルの活用例

➋異常値の排除

下図は、実際に異常値を排除した例です。2014年8月18日~8月24日の1週間における電力消費量に対する2014

年8月25日~9月7日の2週間における1週間あたりの電力消費量の変化率について度数分布を作成し、他のHEMS

データと比較して不連続に大きくなっているモニターを排除しました。

【評価方法4における異常値の排除の例】

手順4 ベースラインを設定する

特定の代表的なモニターBの主幹の電力消費量に着目して評価をしていきます。

■モニターBについて

モニターBの世帯情報は下表のとおりです。モニターBは静岡県在住、3人世帯であり、住宅の延床面積は125m2、給

湯器は電気式ではなく、未成年者が1人います。

【モニターBの世帯属性】

エネルギー消費量に影響を与える要因 モニターBの世帯情報

家庭内部の要因 固定要因

世帯人数 3人

延床面積 125㎡

給湯器種類 電気式以外

変動要因 19歳未満の人数 1人

家庭外部の要因 固定要因 所在地 静岡県

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

0~

5%

10~

15%

20~

25%

30~

35%

40~

45%

50~

55%

60~

65%

70~

75%

80~

85%

90~

95%

100~

105%

110~

115%

120%

以上

世帯

変化率[%]

他のデータと比較し

て不連続に大きい

モニターを排除

世帯数

36

5章 本マニュアルの活用例

■ベースラインの設定手順(比較条件を統一しない場合)

前述「モニターB」と比較する第三者データを使って、「これを下回ればCO2削減努力をした」と評価するための基準

であるベースラインを設定していきます。ベースラインを設定する際には、まずは4章で説明した、比較条件を統一せ

ずに第三者の電力消費量の平均値をベースラインとする方法を使いました。なお、ベースラインを設定するための第

三者データには、普段の生活(CO2削減努力をしていない)を送っている家庭の平均値を用いる必要があることから、

「通常モニター」のみを使用しています。

①CO2削減努力を依頼した2週間は2014年8月25日~9月7日であり、変化率を算出する際の分母となる消費量を

算出する期間は、その直前1週間となる2014年8月18日~8月24日としました。

②第三者(「通常モニター」)データ全体における電力消費量の変化率の平均値がベースラインとなり、以下の式で算

出します。

ベースライン = [第三者データの電力消費量の変化率の合計]/[第三者データのモニター数]

電力消費量の変化率 = [第三者データの2014年8月25日~9月7日における1週間あたりの電力消費量]/[第三者

データの2014年8月18日~8月24日の1週間あたりの電力消費量]

上記の式による計算結果は28.6%であり、これがモニターBに対するベースラインとなります。なお、比較条件を統一

しない場合には、その他の「省エネ促進モニター」のベースラインも同様の値となります。

【比較条件を統一しない場合のベースライン設定の考え方】

■ベースラインの設定手順(比較条件を統一する場合)

統一すべき比較条件を決定する際には、他の変数によって説明される被説明変数を電力消費量の変化率、被説明

変数を「説明する」説明変数を各比較条件とした場合の回帰分析を実施し、得られた説明変数の各係数の有意確

率を表すP値を確認することで、変化率に与える影響が有意となる条件を抽出することが必要です。一般的に、P値が

0.05を下回っている場合に、その説明変数は被説明変数に対して関係性がある、と判断します。

しかし、ここでは回帰分析は実施せず、例として気温について統一した場合のベースラインを設定します。

※回帰分析を実施する場合には、表計算ツールを用いるか、より専門的な統計解析ソフトを用いることをお勧めします。

変化率の平均値をベースラインとする

電力

消費

量の

変化

第三者(データ提供モニター)データ全体

電力消費量の変化率

第三者(通常モニター)データ全体

37

5章 本マニュアルの活用例

各モニターの2014年8月25日~9月7日における平均気温が第三者(「通常モニター」)の全モニターの平均値以上

か平均値未満かで2グループに分け、それぞれのグループにおける電力消費量の変化率の平均値がそのグループの

ベースラインとなります。このベースラインは以下の式で算出します。

グループ①のベースライン = [第三者データの内、平均気温が第三者データ全体の平均値以上となるモニターの

電力消費量の変化率の合計]/[同モニター数]

グループ②のベースライン = [第三者データの内、平均気温が第三者データ全体の平均値未満となるモニターの

電力消費量の変化率の合計]/[同モニター数]

上記の式による計算の結果、下図のグループ①の平均値が36.6%、グループ②の平均値が19.9%となりました。

ここで、モニターBのベースラインとしてグループ①、グループ②のどちらの値を設定すべきかについては、モニターBの

気温について確認する必要があります。モニターBの2014年8月25日~9月7日における平均気温は全モニターの平

均値以上であったため、グループ①の36.6%をモニターBのベースラインとして設定します。その他の「省エネ促進モ

ニター」のベースラインについても同様に各モニターの気温を確認し、グループ①、グループ②のどちらかの値をベー

スラインとして設定します。

【比較条件を統一する場合のベースライン設定の考え方】

②2014年8月25日~9月7日における平均気温が全モニターの平均値未満のグループ

グループ①のモニターにおける変化率の平均値を

ベースラインとする

グループ②のモニターにおける変化率の平均値を

ベースラインとする

電力

消費

量の

変化

①2014年8月25日~9月7日における平均気温が全モニターの平均値以上のグループ

電力消費量の変化率

38

5章 本マニュアルの活用例

手順5 CO2削減努力を評価する

「手順4」で、比較条件を統一しない場合のモニターBのベースラインの値を28.6%、統一する場合のモニターBのベー

スラインの値を36.6%と設定しました。これに対して、ここでは、CO2削減努力を依頼した期間の努力の度合いを実際に

評価していきます。

モニターBの2014年8月18日~8月24日の1週間あたりの電力消費量に対する2014年8月25日~9月7日における1

週間あたりの電力消費量の変化率は17.7%であり、この値とベースラインの値との差分を以下の式で比較します。

〈比較条件を統一しない場合〉

ベースライン-モニターBの変化率 = 28.6 [%] -17.7 [%]

= 10.9 [%]

〈比較条件を統一する場合〉

ベースライン-モニターBの変化率 = 36.6 [%] -17.7 [%]

= 18.9 [%]

【評価方法4におけるCO2削減努力の評価イメージ】

評価方法4における比較条件の統一について

「手順5」で示したように、比較条件を統一する場合と統一しない場合でCO2削減努力が評価される度合いが変

わってくるため、統一すべき比較条件を回帰分析などによって抽出することができる場合には、比較条件を統一

するのが望ましいと考えられます。ただし、前述のとおり、評価方法4においては、必ずしも比較条件を統一する必

要はありません。

POINT

28.6%

17.7%

0%

5%

10%

15%

20%

25%

30%

35%

ベースライン 評価対象の値

変化

率[%

]

削減努力

10.9%

第三者データの変化率の平均値から算出

自己データの変化率

変化率[

%]

39

6章 おわりに

おわりに

1 CO2削減努力を評価する際の留意点

2章で説明したとおり、家庭のエネルギー消費量は、様々な要因の影響を受けて大きく変化します。本マニュア

ルではこのような要因を考慮した上でベースラインを設定し、CO2削減努力を適切に評価できるような方法を

説明しましたが、サービスへの導入にあたっては以下の点に留意する必要があります。

CO2削減努力を評価する際の誤差

適切な方法でベースラインとなるエネルギー消費量を設定しても、その値に対してある程度の誤差は生じ、これによって、

「削減努力をしたのに評価されないケース」や「削減努力をしていないのに評価されてしまうケース」が発生します。例え

ば、ベースラインの誤差が1割であったとすると、エネルギー消費量を1割以上削減するような努力をしなければ「削減し

た」と評価されない可能性があります。また、エネルギー消費量の増加量が1割未満であれば、削減努力をしていなくて

も「削減した」と評価されてしまう可能性もあります。

ユーザーへの配慮

本マニュアルを活用し、HEMSを使ったサービスを行う際には、必ずしも正確にCO2削減努力が評価できないということ

を踏まえ、サービスを利用するユーザーに対して配慮が必要です。例えば、CO2削減努力に応じて家庭に対して金銭

的価値のあるポイントを付与するようなサービスの場合、ユーザーが不公平感や不信感を抱いてしまう可能性がありま

す。

CO2削減努力に関する評価結果をひとつの目安とし、それをユーザーに提供することによって、ユーザーのCO2削減

に関する意識を向上させ、結果的に低炭素ライフスタイルの定着に繋がることを期待します。本マニュアルがそのような

取り組みの一助になれればと考えます。

6章

40

6章 おわりに

2 情報保護についての留意点

エネルギーは、家庭の中の生活状況に応じて使われるため、ご家庭で使われているエネルギーの量が家庭内

の活動量とみなすことができます。家庭に人がおらず留守にしているときや就寝中は、使ったエネルギーの量

にほとんど変化はありません。一方で、家庭内に人がいて、テレビを観たり料理をしたり、活発に活動している

ときは、使ったエネルギーの量が大きく変動します。つまり、HEMSを使って計測したデータは、家庭内の活動

状況(プライバシー)がわかってしまう個人情報になり得るのです。

ここでは、情報保護の観点からHEMSデータを取得する企業の説明責任と管理責任の2点について、その留

意点を説明します。

HEMSデータを取得する際の説明責任

HEMSデータを取得する際には、事前にそのユーザーから同意を得ておくことが必要です。その際には、データを取得す

る目的とその使用範囲を正しく説明し、理解していただくことが重要です。

取得したHEMSデータの管理責任

前述のように、HEMSデータは個人情報またはそれに近い情報とみなされる可能性があります。取得したデータの中身

によって、その判断が異なってくると考えられますが、トラブルを避けるためにも、取得するデータの管理方法について事

前に確認しておくことをお勧めします。

41