15
99 (2)設備投資の決定要因 高度な生産基盤を維持・強化するためには、積極的な 設備投資に取り組むことが重要である。その際、どの地 点に投資するかという判断は、企業の競争力を左右しう る重要な要素といえる。リーマンショック後に国内へ工 場新設・増設を実施・計画した企業の工場立地地点選定 に当たっては、「工場労働力の確保」、「補助金や行政支援」 のほか、「十分な用地面積」、「顧客との近接性」、「物流条 件」など、インフラ面も重要な要素となっていることが 分かる(図232-5)。 0 5 10 15 20 25 30 35 大学・研究機関の集積 賃金 サプライヤーの集積 技術者の確保 工場立地手続きの容易さ 交通アクセス 地価 補助金や行政支援 物流条件 顧客との近接性 十分な用地面積 工場労働力の確保 (%) 32.4 32.1 31.2 25.3 24.2 19.2 16.5 16.5 13.6 5.7 5.4 1.3 備考:経済産業省調べ(11年1月) (n=558) 図232-5 国内における工場立地地点の選定要素 コラム 中核のある産業集積 今般のアンケートにおいては、国内の工場立地地点の選定に関して、「十分な用地面積」、「顧客との近接性」、「物 流条件」などのインフラ面・ハード面の条件が工場立地に際して重要であることが確認された。 経済産業省においては、地理的に集中した機関間のネットワークを形成するとともに、各種支援策を総合的・ 効果的に投入し、世界に通用する新事業を創出するべく、「産業クラスター計画」を推し進め、産業の集積・ネッ トワーク化を促してきた。 産業クラスターの1つである中部地方航空機産業クラスターにおいても、これまで、産学連携による研究開発や 人材育成の支援に取り組んできた。 今後、国産民間航空機開発・事業化が進展する中、機体メーカーや素材メーカーが立地する利点を活かし、川上・川 中・川下をパッケージ化した次世代航空機イノベーション拠点へと進化させるべく取組みを進めることが重要である。 中部経済産業局においては、クラスターの「核」を創出し求心力を高める観点からも、①現在、海外の設備を 利用している、大型風洞、大型共同試験機等の型式証明取得に必要な試験設備、②自動車や航空機等に波及する CFRP(複合材)について、設計技術・加工技術・補修サービスまでをパッケージ化した研究開発拠点(ナショナ ルコンポジットセンター)、といったハード面において、集積の中核となる最新鋭の設備整備を進め、更なる高度 な集積を推進することが望まれる。 3 2 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望

(2)設備投資の決定要因...99 (2)設備投資の決定要因 高度な生産基盤を維持・強化するためには、積極的な 設備投資に取り組むことが重要である。その際、どの地

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Page 1: (2)設備投資の決定要因...99 (2)設備投資の決定要因 高度な生産基盤を維持・強化するためには、積極的な 設備投資に取り組むことが重要である。その際、どの地

99

(2)設備投資の決定要因高度な生産基盤を維持・強化するためには、積極的な

設備投資に取り組むことが重要である。その際、どの地点に投資するかという判断は、企業の競争力を左右しうる重要な要素といえる。リーマンショック後に国内へ工

場新設・増設を実施・計画した企業の工場立地地点選定に当たっては、「工場労働力の確保」、「補助金や行政支援」のほか、「十分な用地面積」、「顧客との近接性」、「物流条件」など、インフラ面も重要な要素となっていることが分かる(図232-5)。

0 5 10 15 20 25 30 35

大学・研究機関の集積

賃金

サプライヤーの集積

技術者の確保

工場立地手続きの容易さ

交通アクセス

地価

補助金や行政支援

物流条件

顧客との近接性

十分な用地面積

工場労働力の確保

(%)

32.4

32.1

31.2

25.3

24.2

19.2

16.5

16.5

13.6

5.7

5.4

1.3

備考:経済産業省調べ(11年1月)

(n=558)

図232-5 国内における工場立地地点の選定要素

コラム

中核のある産業集積今般のアンケートにおいては、国内の工場立地地点の選定に関して、「十分な用地面積」、「顧客との近接性」、「物

流条件」などのインフラ面・ハード面の条件が工場立地に際して重要であることが確認された。経済産業省においては、地理的に集中した機関間のネットワークを形成するとともに、各種支援策を総合的・

効果的に投入し、世界に通用する新事業を創出するべく、「産業クラスター計画」を推し進め、産業の集積・ネットワーク化を促してきた。

産業クラスターの1つである中部地方航空機産業クラスターにおいても、これまで、産学連携による研究開発や人材育成の支援に取り組んできた。

今後、国産民間航空機開発・事業化が進展する中、機体メーカーや素材メーカーが立地する利点を活かし、川上・川中・川下をパッケージ化した次世代航空機イノベーション拠点へと進化させるべく取組みを進めることが重要である。

中部経済産業局においては、クラスターの「核」を創出し求心力を高める観点からも、①現在、海外の設備を利用している、大型風洞、大型共同試験機等の型式証明取得に必要な試験設備、②自動車や航空機等に波及するCFRP(複合材)について、設計技術・加工技術・補修サービスまでをパッケージ化した研究開発拠点(ナショナルコンポジットセンター)、といったハード面において、集積の中核となる最新鋭の設備整備を進め、更なる高度な集積を推進することが望まれる。

第3節

我が国ものづくり基盤の維持・強化

第2章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望

Page 2: (2)設備投資の決定要因...99 (2)設備投資の決定要因 高度な生産基盤を維持・強化するためには、積極的な 設備投資に取り組むことが重要である。その際、どの地

100

また、国際分業が急速に進展する今日においては、国内への設備投資と海外への設備投資で重視する条件が異なる。今後、国内で生産を維持するうえで重視する条件は「技術者の確保」という回答が最も多くなっており、海外で生産を行う上で重視する条件としては「人件費」や「工場労働力の確保」の割合が高い(図232-6)。これは、国内拠点において重視する役割の高度化の傾向と対応しているものと考えられる。

加えて、それぞれの条件について、国内で重視するという回答比率と海外で重視するという回答比率を比較すると、海外では国内に比べ「為替リスク」や「EPA、FTAなどによる関税の減免」を重視する度合いが高い一方、国内では海外に比べ「大学や研究機関の集積や近接性」、

「労働力の弾力的運用」、「CO2排出規制等の環境制約」、「補助金等の優遇政策」、「技術者の確保」等を重視する傾向がうかがえる(図232-7)。ここからは、先述した国内拠点の高度化に加え、グローバルに事業展開をする企業の国内事業環境整備に対する期待が示唆される。つまり、為替、EPA・FTA などの経済連携は海外立地を決定する重要な要素であり、CO2排出規制等の環境制約、労働規制などの動向は、今後国内生産を維持するかどうかの決

定に大きく関わるものと考えられる。なお、業種別に設備投資を行う際に重視する要素をみ

ると、国内では化学工業が「行政の規制・許認可手続き」、一般機械工業が「技術者の確保」を、海外では輸送用機械工業が「取引先の集積や近接性」、輸送用機械工業および電気機械工業が「為替リスク」を回答する割合が高いなど、業種ごとに重要視する条件に相違があることが分かる(図232-8)。政府においては、設備投資に当たって企業が重視する諸条件に留意しつつ、国内外に求められる機能・役割を見極めながら、我が国の事業環境を整備していく必要がある。

(3)次世代産業への取組2010年6月に閣議決定された新成長戦略では、環境、

健康など7つの戦略分野と21の国家戦略プロジェクトにより、新たな需要と雇用の創造を目指している。我が国製造業においては、近年の資源環境問題の高まりや少子高齢化の急速な進展を踏まえ、市場ニーズの変化に伴い生まれる次世代産業群の需要を確実に捉えることが重要である。そのためには、我が国の強みである高い技術を、事業としての成功に結びつける取組が必要となる。

0 20 40 60 80(%)

その他

EPA、FTAなどによる関税の減免

行政の規制・許認可手続き

CO2排出規制等の環境制約

為替リスク

協力企業の集積や近接性

取引先の集積や近接性

社会保障費の負担

法人税率

補助金等の優遇政策

労働力の弾力的運用

物流条件

大学や研究機関の集積や近接性

技術者の確保

工場労働力の確保

人件費

備考:母数は海外生産拠点のある企業。資料:経済産業省調べ(11年1月)

48.776.0

32.646.8

58.331.6

11.9

35.040.4

32.613.1

29.714.8

28.824.6

15.912.0

30.332.6

25.421.7

17.946.2

12.35.9

12.723.0

11.927.9

3.01.7

2.6

国内生産での重視条件海外生産での重視条件

図232-6 今後、国内・海外で生産を行う上で重視する要素

0 1 2 3 4 5

その他

EPA、FTAなどによる関税の減免

行政の規制・許認可手続き

CO2排出規制等の環境制約

為替リスク

協力企業の集積や近接性

取引先の集積や近接性

社会保障費の負担

法人税率

補助金等の優遇政策

労働力の弾力的運用

物流条件

大学や研究機関の集積や近接性

技術者の確保

工場労働力の確保

人件費

資料:経済産業省調べ(11年1月)

1.8

4.5

2.5

2.0

1.2

1.3

1.2

0.4

2.1

0.4

1.8

0.6

0.7

0.9

0.9

0.6

図232-7 今後、国内生産を行う上で重視する度合い  (国内回答比率/ 海外回答比率)

Page 3: (2)設備投資の決定要因...99 (2)設備投資の決定要因 高度な生産基盤を維持・強化するためには、積極的な 設備投資に取り組むことが重要である。その際、どの地

101

(%)(%)

0 10 20 30 40 500 10 20 30 40 50 60 70 80

<国内>輸送用機械(n=248)電気機械(n=252)一般機械(n=272)化学(n=123)

<海外>輸送用機械(n=144)電気機械(n=144)一般機械(n=174)化学(n=81)

資料:経済産業省調べ(11年1月)

グラフベースの線 0.1mmグラフの文字の級数 9Q凡例の級数 8Q備考欄の文字 7Q

人件費

工場労働力の確保

技術者の確保

大学や研究機関の集積や近接性

物流条件

労働力の弾力的運用

補助金等の優遇政策

法人税率

社会保障費の負担

取引先の集積や近接性

協力企業の集積や近接性

為替リスク

CO2排出規制等の環境制約

行政の規制・許認可手続き

EPA、FTAなどによる関税の減免

その他

0 20 40 60 8080 60 40 20 0

66.9

49.6

26.4

27.128.5

28.439.8

29.3

図232-8 今後、国内・海外で生産を行う上で重視する要素(業種別)

7mm空ける

コラム

低炭素型雇用創出産業立地推進事業費補助金の活用� (株)田中化学研究所(株)田中化学研究所は、低炭素型雇用創出産業立地推進事業費補助金を活用し、福井市にある本社工場の敷地

内に、車載用リチウムイオン電池の正極材生産工場を建設している。同社は、民生用リチウムイオン電池の正極材料分野では国内有数のメーカーである。大手企業と共同した二次電

池用正極材の開発をすすめており、電気自動車などの市場拡大に伴うリチウムイオン電池の需要増加をにらんで、車載用リチウムイオン電池の正極材の量産体制を準備していた。

市場創生期の同分野では、先行的に設備投資し、早期に量産体制を整えた企業が競争優位を持ちやすいといわれる。しかし、設備投資に巨額の費用が必要であったことから、同社単独の取組では設備投資のタイミングが遅れかねなかった。また、今後需要拡大が見込まれる先端技術であったことから、他国の熱心な誘致を受けたこともあった。 同社は、同補助金を活用することで、好機を逃すことなく、国内の設備投資に踏み切ることができた。新工場は、2012年以降に本格稼働する予定である。

写真:リチウムイオン電池正極材原料

第3節

我が国ものづくり基盤の維持・強化

第2章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望

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102

ハイブリッド自動車や電気自動車、太陽電池などの次世代産業への参入状況をみると、ハイブリッド自動車分野に参入あるいは部材の供給等で関わっている企業は、アンケート回答企業のうち24.2%となっており最も多い。その他、医療機器や水処理システム、航空機など、幅広い分野において、一定程度の企業の参入が進んでいることが分かる(図232-9)。

また、次世代産業において重視すべき普及戦略は産業毎にばらつきがあり、ハイブリッド自動車では「低価格化・コストダウン」、医療機器では「安全性・信頼性の確立」、電気自動車では「量産技術・生産技術の確立」、「新たなインフラの整備」、太陽光発電システムや原子力発電プラントでは「政府と一体となった政策的支援」が特に求められている(図232-10)。次世代産業における今後5年の技術優位性と事業優位性は、技術優位性・事業優位性ともに「優位性は向上」するという回答が多いが、両者を比較した場合、事業優位性の向上を見込む割合は技術優位性の向上を見込む割合より相対的に小さく、今後、

(%)

資料:経済産業省調べ(11年1月)

(n=3,003)

ハイブリット自動車

電気自動車

医療機器

太陽光発電システム

リチウムイオン二次電池

高効率照明

省エネ・エコ住宅

水処理システム

パワー半導体

介護・福祉機器

原子力発電プラント

航空機

火力発電プラント

スマートグリッド

炭素繊維

植物工場

高温超電導体

24.2

18.8

17.0

16.5

13.3

12.8

11.9

11.7

11.4

11.2

11.1

10.4

9.6

9.4

9.3

8.9

8.1

00 2010 30

図232-9 次世代産業への参入状況

(%)

0 10 20 30 40 50 60 70 80

ハイブリッド自動車(n=600)電気自動車(n=455)太陽光発電システム(n=391)医療機器(n=387)原子力発電プラント(n=238)

資料:経済産業省調べ(11年1月)

グラフベースの線 0.1mmグラフの文字の級数 9Q凡例の級数 8Q備考欄の文字 7Q

低価格化・コストダウン

安全性・信頼性の確立

量産技術・生産技術の確立

評価方法・試験方法の確立

世界標準・国際標準への対応

新たなインフラの整備

レアアース等の資源制約への対応

同業他社との連携

産業の垣根を越えた異業種連携

海外メーカーも巻き込んだ仲間づくり

アフターサービスの強化

政府と一体となった政策的支援

71.553.6

57.830.0

25.418.519.312.5

43.222.8

19.529.2

21.714.5

8.30.51.11.8

5.44.16.07.9

5.69.6

6.2

2.312.5

3.31.8

5.24.75.3

0.80.50.01.72.03.33.4

6.21.72.4

5.48.0

3.12.51.51.33.64.1

2.01.83.83.13.66.39.0

17.411.1

28.0

0 2010 4030 6050 8070

図232-10 次世代産業において重視すべき普及戦略

7mm空ける

Page 5: (2)設備投資の決定要因...99 (2)設備投資の決定要因 高度な生産基盤を維持・強化するためには、積極的な 設備投資に取り組むことが重要である。その際、どの地

103

備考:アンケートにおいて、今後5年以内の「優位性は向上」を3点、「ほぼ同じ」を2点、「優位性は低下」を1点に置き換え、得点化したものの平均点をとった。資料:経済産業省調べ(11年1月)

スマートグリッド

1.91.9

2.0

2.1

2.2

事業優位性

2.3

2.4

2.5

2.12.0 2.32.2技術優位性

2.52.4

火力発電プラント

原子力発電プラント ハイブリッド自動車

太陽光発電システム

電気自動車

水処理システム

リチウムイオン二次電池

パワー半導体

炭素繊維

省エネ・エコ住宅

高効率照明

高温超電導体

医療機器

介護・福祉機器

航空機

植物工場

図232-11 次世代産業における技術優位性と事業優位性の関係

資料:経済産業省調べ(11年1月)

(n=1,383)

重要で国内に一定の集積が必要47.6%

どちらともいえない20.3%

あまり重要ではない9.2%

重要であるが国内集積にはこだわらない22.9%

図232-12 次世代産業における      サポーティングインダストリーの重要性

0 10 20 30 40 50

その他

スポット発注への対応

量産への対応

革新的な生産技術の提案

短納期への対応

革新的な製造技術の提案

試作開発への対応

多品種少量生産への対応

(%)

備考:「革新的な製造技術」とは製品を製造する方法や技術(例:加工方法や   加工手順、工程設計等の検討)、「革新的な生産技術」とは開発された製   品を、いかに効率的に生産するかという方法や技術(例:生産工程や生産   設備の検討)と定義している。資料:経済産業省調べ(11年1月)

(n=959)

41.6

40.7

39.5

36.8

30.2

25.3

14.0

1.9

図232-13 次世代産業において      サポーティングインダストリーに期待する役割

第3節

我が国ものづくり基盤の維持・強化

第2章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望

Page 6: (2)設備投資の決定要因...99 (2)設備投資の決定要因 高度な生産基盤を維持・強化するためには、積極的な 設備投資に取り組むことが重要である。その際、どの地

104

それぞれの産業の普及戦略を推し進め、事業優位性を高める取組が必要である(図232-11)。

次世代産業への対応が求められるのは、一部の大企業だけではない。市場の成長に伴い、自動車や情報家電など日本経済を牽引する産業を支えるサポーティングインダストリー(金型、鍛造、鋳造、めっき等のものづくり基盤技術を有するものづくり中小企業群)にも、新しい事業形態への適応が求められる。アンケート回答企業に次世代産業におけるサポーティングインダストリーの存在について尋ねたところ、引き続き「重要で国内に一定の

集積が必要」という回答が47.6%と最も多い(図232-12)。しかし、サポーティングインダストリーに求められる役割は、「量産への対応」にとどまることなく、「多品種少量生産への対応」、「試作開発への対応」、「革新的な製造技術の提案」など、高度化している様子がうかがえる(図232-13)。

我が国が次世代産業における主導権を握り、日本経済が持続的な発展を続けていくためには、このようなサポーティングインダストリーが、市場ニーズや顧客から求められる役割を踏まえながら、より高度な技術開発、顧客

資料:経済産業省調べ(11年1月)

(n=267)

32.2%

25.1%

24.7%

7.5%

6.0%3.0%

1.5%

求める資質の人材が思うように採用できないため従来の事業・技術と異分野への参入となるため社内で思うように人材が育っていないため産業技術背景が大きく変化しているため新卒採用の抑制やリストラを行ってきたため成長産業・次世代技術事業を急速に拡大させているためその他

図232-16 研究開発部門における人材不足の理由

アフターサービス

調達

販売・流通

設計

企画・マーケティング

製造・生産

研究開発

資料:経済産業省調べ(11年1月)

(n=2,497)

研究開発35.2%

製造・生産30.4%

企画・マーケティング16.3%

設計10.5%

販売・流通5.6%

調達1.4%

アフターサービス0.6%

図232-14 次世代産業において最も重視する部門

資料:経済産業省調べ(11年1月)

(n=863)

どちらかといえば充足している23.8%

どちらかといえば不足している38.6%

不足している30.2%

充足している7.4%

図232-15 研究開発部門における人材の過不足感

Page 7: (2)設備投資の決定要因...99 (2)設備投資の決定要因 高度な生産基盤を維持・強化するためには、積極的な 設備投資に取り組むことが重要である。その際、どの地

105

への提案などに果敢に挑戦していくことが必要である。また、次世代産業においては、従来とは異なる高度な

知識・技術が必要とされる。次世代産業で最も重視する部門として、35.2%の企業が研究開発部門を挙げている

(図232-14)ことは象徴的である。一方、研究開発部門における人材の過不足感は、7割近くの企業が「不足している」、「どちらかといえば不足している」と答えており、市場の拡大に合わせた人材の確保が急務である(図232-15)。なお、研究開発部門における人材が不足しているのは、「求める資質の人材が思うように採用できないため」や「従来の事業・技術と異分野への参入になるため」という理由が多く、次世代産業への参入に当たっては、従来の分野を超え、高度人材の争奪が始まっていることがうかがえる(図232-16)。

(4)国内ものづくりの抱える課題①ものづくり人材の確保・育成

我が国製造業が強い製造基盤を維持するためには、ものづくりに係る人材の確保・育成が重要である。しかし、国際分業が進展し、国内でのものづくりが高度化するにつれて、人材の確保、従事者の職能レベル等、様々な課題が浮上してきている。人材の確保が困難な職種として

は、研究開発部門の回答割合が32.3%と他の部門に比して圧倒的に高い(図232-17)。これは、先述した次世代産業における研究開発部門の人材不足と整合的である。また、現在職能レベルに課題があると捉えられている部門は、製造部門という回答の割合が最も高い結果となった(図232-18)。

研究開発、製造部門の両部門において、「即戦力となる人材確保(採用)が困難」という問題は共通して大きい。一方、両部門の問題点を比較すると、研究開発部門は「一人あたりの業務量が増加」や「業務範囲が専門化し、幅広い経験を積むことができない」という個人の負担増を問題点として挙げる割合が高い。それに対して製造部門は、「優秀な人材の(定年などによる)離職」、「若年層の離職率が高い」という要員の定着に関する課題とともに、

「ベテラン層から若年層への技術・技能伝承が進まない」、「業務内研修(OJT)の不足」、「若年層の基礎教育の不足」など、組織内での技術・技能伝承の進捗を問題と捉えていることが分かる(図232-19)。

人材確保の問題を解決する方策としては、高度な知識・技能を持った海外の人材の採用なども視野に入れて検討する必要がある。また、技術・技能伝承については、若年層の離職率低下を目指す各企業の取組や、地域におけるもの

資料:経済産業省調べ(11年2月)

(n=1,843)

研究・開発32.3%

設計14.1%製造

14.5%

工程管理・品質管理14.2%

特に課題を感じていない24.9%

図232-17 人材の確保が困難な職種

資料:経済産業省調べ(11年2月)

(n=1,821)

研究・開発20.6%

設計10.1%

製造24.5%

工程管理・品質管理24.0%

特に課題を感じていない20.8%

図232-18 職能レベルに課題がある職種

第3節

我が国ものづくり基盤の維持・強化

第2章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望

Page 8: (2)設備投資の決定要因...99 (2)設備投資の決定要因 高度な生産基盤を維持・強化するためには、積極的な 設備投資に取り組むことが重要である。その際、どの地

106

コラム

国内ものづくりの特長と課題企業は、我が国ものづくりの生かすべき特長と解決すべき課題を、どのようなものと認識しているのか。本コ

ラムでは、今般実施したアンケートの結果をもとに、その点について考察してみる。まず、今後も特長として生かすべきと企業が認識しているのは、「高品質・高機能の単品製品作り込みが得意」、

「日本の厳しい顧客・消費者ニーズに応えた製品作りが得意」という項目であった(図1)。一方、早急に対処・強化すべきとの項目として最も回答が多かったのは、「世界標準、国際標準を狙ったグロ-バル市場で通用する製品作り」である。グローバル化が進展する中、日本の消費者ニーズに高品質・高機能で応えることを強みとしながらも、いわゆるガラパゴス化にとどまることなく、世界に通用する製品作りが必要とのジレンマが、企業の間に意識として共有されているものと推察される。

また、研究開発関連の項目に着目すると、「外部連携によるオープンイノベーション」よりも、「自社系列内での研究開発」を強化すべき対象とする傾向が強い。「経営上重要な研究開発テーマに取り組む際の姿勢」について尋ねた設問においても7割以上の企業が「自社内・グループ企業内でクローズして取り組む」と回答しており(図2)、特に競争力の源泉となるコアなテーマについて、自社系列内での研究開発を強化しようとする企業が依然として多数派だと考えられる。

(%)

若手人材の確保 ( 採用 )が困難

即戦力となる人材確保 ( 採用 )が困難

優秀な人材の ( 定年などによる) 離職

若年層の離職率が高い

ベテラン層から若年層への技術・技能伝承が進まない

技術・技能やノウハウ等をマニュアル化できていない

若年層に対するキャリアアップのための教育訓練

中堅層に対するキャリアアップのための教育訓練

ベテラン層に対するキャリアアップのための教育訓練

業務内研修(OJT)の不足

業務外研修(off-JT)の不足

若年層の基礎教育不足

一人あたりの業務量の増加

顧客から求められる技術レベルが高まっている

業務範囲が専門化し、幅広い経験を積むことができない

その他

20100 4030 706050

資料:経済産業省調べ(11年2月)

30.3

64.4

13.2

4.4

26.7

20.3

16.1

12.0

4.4

9.4

8.4

15.6

12.1

27.0

10.1

1.0

33.7

68.6

17.6

10.1

30.3

19.3

14.4

13.3

5.2

12.4

6.6

19.3

9.2

26.8

6.3

2.0

研究・開発(n=585)製造(n=347)

図232-19 研究開発、製造部門における問題点

Page 9: (2)設備投資の決定要因...99 (2)設備投資の決定要因 高度な生産基盤を維持・強化するためには、積極的な 設備投資に取り組むことが重要である。その際、どの地

107

そして、特徴的なのは、技術や教育などの人材面を課題と捉える企業が非常に多いことである。「匠の技や暗黙知に基づくものづくり」、「IT を駆使し技能に依存しないものづくり」、「OJT をベースにした人材育成」、「off-JT のカリキュラムによる人材育成」は、早急に対処・強化すべきとの割合が高く、かつ、強み・特長として生かすべきという回答との差が非常に大きくなっている。我が国製造業にとって、技術の継承や IT による標準化、OJT・off-JT を問わず人材育成そのものが、深刻な課題として顕在化していることを表しているといえる。

1.2

1.0

1.4

1.6

1.8

2.0

2.2

2.4Off-JTのカリキュラムによる人材育成に強み

垂直統合による摺り合わせ型統合力強い

水平分業やモジュール型への適応力に優れている

世界標準、国際標準を狙ったグローバル市場で通用する

製品作りが得意

複数の部品を統合したシステム化、ユニット化が得意

匠の技や暗黙知に基づくものづくりが得意

高品質・高機能の単品製品の作り込みが得意

ITを駆使し技能に依存しないものづくりが得意

外部連携によるオープンイノベーション得意

OJTをベースにした人材育成に強み

自社系列内での研究開発に強み

日本の厳しい顧客・消費者ニーズに応えた製品作りが得意

今後も強み・特長として生かすべきもの   早急に対処・強化すべきと考えられるもの

備考:アンケートにおいて、「今後も強み・特長として生かしていくべきと考えるもの」および「早急に対処・強化すべきと考えられるもの」のそれぞれにつき、優先度の高い順番に3つの項目を回答。1位を3点、2位を2点、3位を1点に置き換え、得点化したものの平均点をとった。

資料:経済産業省調べ(11年1月)

図1 国内ものづくりの特長と課題

(n=3,036)

(n=2,608)

資料:経済産業省調べ(11年1月)

自社内グループ企業でクローズして取り組む

71.9%

外部との連携を探りオープンイノベーションを重視

28.1%

図2 経営上重要な研究開発テーマに取り組む際の姿勢

第3節

我が国ものづくり基盤の維持・強化

第2章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望

Page 10: (2)設備投資の決定要因...99 (2)設備投資の決定要因 高度な生産基盤を維持・強化するためには、積極的な 設備投資に取り組むことが重要である。その際、どの地

108

コラム

コラム

顧客目線のものづくり技術伝承� (株)浜野製作所(株)浜野製作所は、金型・プレス加工の量産事業者としてスタートしたが、競争力向上のために試作開発や顧

客ニーズに応じたカスタマイズ品製作にも進出し、今では売上の7割を同分野で稼いでいる。試作品の開発やカスタマイズ品の製作には、卓越した技術力や経験が不可欠である。そのため、同社もかつて

は即戦力として経験豊富な技術者を中途採用していたが、近年は未経験者も積極的に採用するようになった。その背景には、個人の技術のみに頼らない、同社の技術伝承の方針がある。

同社は「常に顧客に対して最高の精度を提供・保証する」ことを第一に考え、「特定の人にしかできない技術は事業のリスク」と捉えなおし、熟練技術者の作業工程の見える化、手順のマニュアル化などを推進した。

また、新規採用者の教育に当たっては、OJT のみではなく、上述したマニュアル等による座学、外部の教育訓練機会なども活用している。その際、本人による目標設定と経営者による達成度評価を徹底し、自分の技術が会社にとってどのように役立っているか、会社の経営がどのような方向を向いているかを常に意識させている。そうすることで、仕事に対するやりがいが生まれるとともに、顧客に対する目線も育まれ、結果としてものづくり技術の向上・伝承につながっている。

ものづくり指導者養成支援事業ものづくり現場では、高度経済成長を支えた団塊世代の一斉退職等が始まり、若年層の指導にあたる人材や時

間が不足することによる技術力の低下が大きな課題となっている。他方では、OB 人材などが海外へ技術指導に行くことにより発生する技術流出も問題視されており、我が国がものづくり技術やノウハウで優位性を保ち、国際競争力を維持・向上していくためには、これらの課題を克服しなければならない。

経済産業省では、こうした課題に対応するため、「ものづくり指導者養成支援事業」を実施している。この事業の特色は、受講者として参加する中小企業の OB 人材などに、指導者となるためのスキルを身につける場を提供することである。事業を通じて指導者となる人材を増やせれば、ものづくり現場での技術移転を促進することが可能だ。プログラムの中では、工場長や現場リーダーの経験者など現場経験の豊富な人材を講師として、受講者に対し、生産管理や経営学、現場カイゼン実習などの講義を実施する。

本事業は、2010年12月から指導者養成プログラム運営主体の公募を開始し、全国の団体が受託した。そのうち、岐阜県の各務原商工会議所では、製造現場に20年以上従事する技術者や技能者を対象とする「中部ものづくりベテラン指導者養成塾」を2011年7月13日に開講。カリキュラムはものづくり概論、トヨタ生産方式による業務改善等全18回の講義、実習と工場見学が1回で構成される。大学の教授陣や中小企業診断士が講師を担当し、参加者の個別の課題を現場で直接解決する演習も受講できる。

ものづくり現場における技術伝承は、官民が一体となって、粘り強く対策に取組むことが重要である。

写真:技術指導の様子

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109

コラム

ものづくり学習を支援する企業OBの活躍優れたものづくりの伝統を受け継ぎ、日本のものづくりをリードする先端産業が集積している街、京都。京都では、産学公市民の連携強化により、ものづくりの DNA を次世代に引き継ぐユニークな実践教育が始まっ

ている。その実践のための施設が、中学校の統合跡地を活用した「京都まなびの街生き方探究館」(京都市教育委員会のキャリア教育施設)だ。

ここでは、企業創業者のあゆみやものづくりへの情熱等を、パネルや製品見本・映像により展示する「京都モノづくりの殿堂」(16ブース17社)を2009年2月に開設。創業者が子どもたちにわかりやすく語りかける映像を映し出していたり、クイズ形式で進めることで子どもたちの興味を引きやすくしたりと、各社が個性あふれる演出により、ものづくりの魅力をアピールしている。

この殿堂で子どもたちの学習をサポートするのが、京都の企業 OB で結成された京都シニアベンチャークラブ連合会の中から自ら応募し組織した「モノづくり学習支援員『京(みやこ)モノレンジャー』」。現在85名を超える “ 京モノレンジャー” が、現役時代に培った知識や経験を生かして、展示されている製品の開発の裏話など、ものづくりの魅力を分かりやすく丁寧に伝えている。

29

5 10 15

20 * * * * * *

********************************

**************************************

【コラム】ものづくり学習を支援する企業 OB の活躍 25 優れたものづくりの伝統を受け継ぎ、日本のものづくりをリードする先端産業が集

積している街、京都。

京都では、産学公市民の連携強化により、ものづくりの DNA を次世代に引き継ぐユ

ニークな実践教育が始まっている。その実践のための施設が、中学校の統合跡地を活

用した「京都まなびの街生き方探究館」(京都市教育委員会のキャリア教育施設)だ。 30 ここでは、企業創業者のあゆみやモノづくりへの情熱等を、パネルや製品見本・映

像により展示する「京都モノづくりの殿堂」( 16 ブース 17 社)を平成 21 年2月に開設。

創業者が子どもたちにわかりやすく語りかける映像を映し出していたり、クイズ形式

で進めることで子どもたちの興味を引きやすくしたりと、各社が個性あふれる演出に

より、ものづくりの魅力をアピールしている。 35 この殿堂で子どもたちの学習をサポートするのが、京都の企業 OB で結成された京都

シニアベンチャークラブ連合会の中から自ら応募し組織した「モノづくり学習支援員

『京(みやこ)モノレンジャー』」。現在 85 名を超える“京モノレンジャー”が、現役

時代に培った知識や経験を生かして、展示されている製品の開発の裏話など、ものづ

図1 ものづくり指導者養成支援事業の事業イメージ

中小企業ものづくり現場等における指導者を輩出

経済産業省

指導者養成運営主体

・商工会議所

・地方自治体・NPO 等

補助

プログラム受講者

・中小企業OB人材等

講師

・工場長経験者等

受講者の募集

講座への参加

協力要請講師として参加

指導者養成プログラムを実施

全国中小企業団体中央会

基金

資料:経済産業省作成

図1 ものづくり指導者養成支援事業の事業イメージ

資料:経済産業省作成

第3節

我が国ものづくり基盤の維持・強化

第2章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望

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づくり教育、政府も参画するものづくり指導者養成などを通じ、粘り強く対策を進めていくことが重要である。

②製品安全への対応製品事故発生件数やリコール件数は、(独)製品評価

技術基盤機構(NITE)の調べによると、それぞれ2007、2008年度よりも件数は減少しているが、いまだ高水準で推移している(図232-20・21)。製品事故の原因をみると「専ら設計上、製造上又は表示に問題があったと考えられるもの」の割合が最も多く(図232-22)、設計・開発段階から製品の使用環境まで考慮したものづくりが求

また、地下には本格的なものづくり作業をするための道具・工具等が揃った「モノづくり工房」も設置(2010年8月)。ここでも、京モノレンジャーが、企業・行政との共同開発による工房学習テーマに基づき、モノを作り上げる楽しさ・難しさ・重要さ・完成した時の達成感等を自らの経験をもとに伝え、子どもたちのものづくりへの興味・関心を引き出している。

小学校高学年を対象とし、学校教育活動の一環として系統的に行われているこの取組に、2010年度は延べ52校、3,100人強が参加した。体験教材費は企業等から協賛を得るとともに、京モノレンジャーの活動費は、広く企業や市民の募金でまかなっている。

子どもたちがものづくり企業創業者の生き方やものづくりに携わる人の情熱に触れることで、子どもたち一人ひとりが自分の夢の実現に向けて頑張れるようになればと、京モノレンジャーは願っている。

【工房学習テーマ例】電子オルゴール、半導体の光 “LED”、モノを運ぶカラクリ、センサー実験、オリジナル電池

写真:モノレンジャーの活躍の様子

められている。また、製品事故発生の背景には、ものづくりの高度化・

複雑化という要因も挙げられる。我が国の輸出に占める組み込みソフトウェア関連製品は自動車や家電・AV、工作機械など5割を超えており、ソフトウェアが生活の中で重要な役割を占めているとともに、我が国製造業の競争力にも影響を与えていると考えられる(図232-23)。一方、製品の不具合原因に占めるソフトウェアの不具合の割合は約6割にものぼっており、製品の高度化に合わせ、ソフトウェアの国際標準化等を通じ、製品の安全性をより高めていく取組が重要である(図232-24)。

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(件)

1,4431,5271,7121,592

2,1152,402

3,007

5,939

4,555

3,844

4,276

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

(年度)00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10

資料:(独)製品評価技術基盤機構(NITE)調べ

図232-20 製品事故発生件数の推移

(件)

家庭用電気製品 台所・食卓用品 燃焼器具家具・住宅用品 乗物・乗物用品 身のまわり品保健衛生用品 レジャー用品 乳幼児用品繊維製品 その他

(年度)00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10

43

資料:(独)製品評価技術基盤機構(NITE)調べ

0

50

100

150

200

250

4653

68

108 104

191201

208

155146

図232-21 リコール件数の推移

資料:経済産業省作成

計2,483 件

専ら設計上、製造上又は表示に問題があったと

考えられるもの1,323

製品に起因する事故1,724

製品に起因しない事故458

製品自体に問題があり、使い方も事故発生に影響したと

考えられるもの60

製造後長期間経過したり、長期間の使用により性能が劣化したと

考えられるもの79

業者による工事、修理、又は輸送中の取扱い等に問題があったと考えられるもの

33その他製品に起因しないか、

又は使用者の感受性に関係すると考えられるもの

98

原因不明のもの301

専ら誤使用や不注意な使い方と考えられるもの

327

製品起因であるが、その原因が不明のもの

262

図232-22 製品事故の原因(2010年度)

資料:財務省「貿易統計」より経済産業省作成

組み込みソフトウエア関連製品 52.2%

食料品0.7%

一般機械(ベアリング及び同部分品)

0.5%

電気機器(電子部品、電池)

6.9%

その他12.8%

原料品1.5%

鉱物性燃料1.8%

化学製品10.7%

原料別製品13.0%

輸送用機器21.9%

電気機器(電子部品、電池を除く)

13.0%

一般機械(ベアリング及び同部分品を除く)

17.4%

図232-23 平成20年のわが国の輸出に占める組込みソフトウェア関連製品

図232-23 平成20年のわが国の輸出に占める      組込みソフトウェア関連製品

第3節

我が国ものづくり基盤の維持・強化

第2章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望

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コラム

ソフトウェアの標準化による安全性の確保自動車、携帯電話、情報家電などに内蔵され、これらの機器固有の機能を実現している組込みソフトウェアは、

我が国の輸出製品のうち関連製品が2009年で52.2%を占めており、製品開発費に占める組込みソフトウェア開発費が約半分を占め、産業全体を支える重要な役割を担っている。

その一方で、組込みソフトウェアに対する要求も、近年、厳しくなっている。つまり、新興国の台頭による国際競争の激化を背景として、製品の多機能化、開発納期の短縮、開発コストの削減等が求められ、組込みソフトウェアの開発現場の負担が増大している。そうした中で、組込みソフトウェアの品質への悪影響が懸念されており、社会全体の安全・安心に対する意識が強まる中、いかに関連製品の安全性・信頼性を確保するかが業界全体の課題となっている。

組込みソフトウェアの品質確保に向けた動きは、国内外で活発化している。国外では、機能安全(※)の国際規格化が各分野で進み、自動車分野の機能安全規格 ISO26262も2011年に発行される見込みである。これにより、直ちにその対応が強制されるわけではないが、特に ISO 対応に熱心な欧州では、近い将来、法制化される可能性は否定できない。一方、国内では、ソフトウェアの品質を、開発者でもユーザでもない第三者が評価する「ソフトウェア品質監査(第三者検証)」の枠組み構築に向けた議論が、(独)情報処理推進機構(IPA)を中心に開始されている。

両者の共通点は、組込みソフトウェアの品質の根拠を外部にも分かりやすい形で体系的に説明することが要請される点にある。元々、我が国のソフトウェア開発は他国と比べて不具合が少ないと言われているものの、その品質が一部の優秀な技術者に支えられてきた実態があり、こうした要請への対応は十分に想定されてこなかった。これを契機に、IPA において研究されてきたソフトウェア工学に関する知見の活用や、開発ツールの導入も積極的に進めながら、トレーサビリティを確保した形で開発に関する情報を管理する体制を構築することが重要である。

日本の製造業の特徴として「すり合わせ型」であることがよく指摘されるが、組込みソフトウェア開発も例外ではない。「すり合わせ型」開発の強みを残しつつ、いかにして外部に対する品質の「説明能力」を備えるか。この組込みソフトウェア産業の挑戦は、日本の製造業全体の方向性を先導するものであり、今後の取り組みが期待される。

※機械等が人間や環境に危害を及ぼすリスクを機能的な工夫(安全機能)を導入して許容できるレベルに逓減することにより安全を確保する設計思想。多くの産業で安全機能を実行するために電子制御が用いられているため、電子制御系の安全指針としての側面が強い。

資料:経済産業省「2010年版組込みソフトウェア産業実態調査報告書-事業責任者向け調査」

58.8%

11.7%

7.7%

5.7%

3.8%

1.3%

0.2%

0.6%

10.3%

製品企画・仕様の不具合

ソフトウェアの不具合

ハードウェア設計の不具合

製造上の不具合

運用・保守の不具合

取扱説明書・表示等の不具合

他製品・他システムとの接続に起因する不具合

操作・仕様環境等使用者に起因する不具合

その他

図232-24 不具合の原因の割合

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現状の把握に努め、対応を急いでいる様子がうかがえる(図232-25)。

また、低炭素社会に向けた各種制約が個々の企業の競争力に与える影響は、製造業全体ではプラスに働く企業とマイナスに働く企業がおおよそ半数で分かれているが、工程別にみた場合、素材に、「どちらかといえばマイナスに働く」、「マイナスに働く」と回答している割合が高いことが分かる(図232-26)。各企業の事業内容によって環境制約が与える影響は異なるが、現状を十分に把握し、制約への対応を進めることが必要となる。

③環境制約への対応地球温暖化問題への対応は、我が国製造業にとっても

喫緊かつ最重要の課題の一つとなっている。社会的な環境意識の高まりに伴い、企業は温室効果ガス排出量の抑制などの対応を進めている。

2009年12月と2011年1月の調査について環境制約への対応状況を比較すると、大企業、中小企業ともに環境制約への対応が進んでいることが分かる。特に中小企業では、「環境制約の現状を十分把握していない」という回答の割合が43.7%から32.1%へ減少するなど、各企業が

(%)

09年12月(n=292)

11年1月(n=317)

09年12月(n=3,055)

11年1月(n=2,494)

200 40 60 80 100

備考:1.中小企業は、資本金3億円以下の企業。大企業は中小企業以外の企業。   2.構成比の各欄の数値の合計は、四捨五入の関係で100にならない場合がある。 資料:経済産業省調べ(09年12月、および11年1月)

30.8                60.6           8.6

13.8         42.6               43.7

25.2           42.7             32.1

42.0                51.4          6.6

対応済みである対応を進めている環境制約の現状を充分把握していない

大企業

中小企業

図232-25 環境制約への対応状況

(%)

製造業合計(n=1,809)

素材(n=191)

部品(n=607)

最終製品(n=669)

200 40 60 80 100

資料:経済産業省調べ(11年1月)

19.0        36.2           30.0      14.8

14.1     24.6         34.6          26.7

17.0         40.2            29.7      13.2

23.2 35.4 29.7 11.7

プラスに働くどちらかといえばマイナスに働く

どちらかといえばプラスに働くマイナスに働く

図232-26 低炭素社会に向けた各種制約が競争力に与える影響(工程別)

第3節

我が国ものづくり基盤の維持・強化

第2章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望