108

KagoshimaNature_vol36_lite

Embed Size (px)

DESCRIPTION

Articles Tylototrion andersoni 1 11 2 19 23 29 33 Lecanorchis Blume 37 Bolbometopon muricatum 43 49 Halicampus grayi 57 Dictyurus purpurascens Bory de Saint-Vincent 61 Neosynchiropus moyeri 65 Synodus variegatus 75 Gymnogobius heptacanthus 79 Navigobius dewa 89 Business Reports 2009 99 Nature of Kagoshima Vol.36 2010 目 次

Citation preview

Page 1: KagoshimaNature_vol36_lite
Page 2: KagoshimaNature_vol36_lite

目 次

Articles徳之島におけるイボイモリ Tylototrion andersoniの生態とロード・キルの保全対策 岡崎幹人・中村麻理子・鮫島正道 1

沖永良部島におけるセイタカシギの繁殖生態―九州での初記録― 中村麻理子・鮫島正道 11

希少カニ類 2種の種子島と屋久島における初記録 永江万作・鈴木廣志・藤田喜久・組坂遵治・上床雄史郎 19

鹿児島県の巨木―特に大隅半島高野国有林で新たに発見された巨木群について― 鈴木英治・中園遼平 23

自然保護の新しい展望 田中俊徳 29

映画「砂の道の向こう」で伝えたいこと 柳田一郎 33

鹿児島県本土産ムヨウラン属(Lecanorchis Blume)植物の記録 丸野勝敏 37

鹿児島県笠沙沖から得られたカンムリブダイ Bolbometopon muricatum(ベラ亜目:ブダイ科)の記録 荻原豪太・吉田朋弘・伊東正英・山下真弘・桜井 雄・本村浩之 43

海岸漂着物処理推進法制定と鹿児島県における今後の対策 藤枝 繁 49

鹿児島県初記録のヨウジウオ科ウミヤッコ Halicampus grayi 太田竜平・伊東正英・本村浩之 57

日本初記録から半世紀ぶりに確認されたベニアミゴロモ Dictyurus purpurascens Bory de Saint-Vincent(紅色植物門イギス目) 土屋勇太郎・寺田竜太 61

鹿児島県から得られたミヤケテグリ Neosynchiropus moyeri(ネズッポ科:コウワンテグリ属)および標本に基づく鹿児島県のネズッポ科魚類相 岩坪洸樹・本村浩之 65

鹿児島県九州沿岸から得られたヒメ目エソ科のヒトスジエソ Synodus variegatusの記録 川村信和・伊東正英・本村浩之 75

上甑島汽水湖群の魚類相およびニクハゼ Gymnogobius heptacanthus(スズキ目ハゼ科)の記録 松沼瑞樹・米沢俊彦・本村浩之 79

オオメワラスボ科魚類 Navigobius dewaモモイロカグヤハゼ(新称)の生息状況 出羽慎一・出羽尚子・本村浩之 89

Information鹿児島昆虫同好会(熊谷信晴) 93鹿児島大学総合研究博物館(福元しげ子) 94鹿児島植物同好会の活動(2009年)(細山田三郎) 96鹿児島県地学会(鈴木敏之) 96鹿児島県自然保護課の動き 98

Business Reports鹿児島県自然愛護協会 2009年度会記(本村浩之) 99

【表紙写真】略奪!陸上では桜が散り始めた頃,屋久島の海中ではコブシメの産卵がピークを迎える.20匹くらいのコブシ

メが産卵床となるウスサザナミサンゴの周りに集まり,大産卵を繰り広げている.サンゴ上では数匹のメスが産卵していたかと思うと,そのすぐ近くではオス同士がメスを巡り喧嘩の真っ最中.その間隙を縫って別のオスが産卵中のメスを強引に誘い出し,交接を迫る(写真).屋久島のウスサザナミサンゴの上はこの時期,無法地帯と化す.

(写真・文:原崎 森 屋久島ダイビングサービス「森と海」)

Nature of Kagoshima Vol.36 2010

【裏表紙写真】セイタカシギの子育てチドリ目セイタカシギ科鳥類のセイタカシギは,桃色の細長い脚と黒色の細長い嘴もつことで特徴づけられる.世界中の熱帯から温帯に広く分布し,日本には主に旅鳥として渡来するが,近年絶滅が危惧されている.沖永良部島で撮影されたこの写真は,九州地域において初めて確認されたセイタカシギの繁殖記録である.

(写真・文:中村麻理子 鹿児島県野生生物研究会)

Page 3: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

1

徳之島におけるイボイモリ Tylototrion andersoniの生態とロード・キルの保全対策

岡崎幹人 1・中村麻理子 2・鮫島正道 2

1 〒 891–8293 鹿児島県大島郡伊仙町阿三2 〒 899–4395 鹿児島県霧島市国分中央 1–12–42 第一幼児教育短期大学内鹿児島県野生生物研究会本部

 はじめに

 イボイモリ Tylototrion andersoni (Boulenger, 1892)

は奄美諸島と沖縄諸島の固有種で,一年を通して

湿潤な底質を備えた林床や草地に生息し,林内の

池沼や水溜りを利用して繁殖する両生類である.

 多くの地域で,森林伐採や土地造成にともなっ

て生息地となる環境が縮小し,生息環境は急激に

悪化している.さらに生息地の道路では,ロード・

キルが頻発しているのが現状である.ロード・キ

ル(road kill)とは,道路上で野生動物が自動車

にはねられて死亡する事故をいう.

 本報告では,徳之島に生息するイボイモリの生

息地の現況とその動向をさぐるとともに,存続を

脅かしている大きな原因の一つ,ロード・キルの

問題を抽出・分析し,対象地の道路建設等に対し,

ロード・キル防止のための保全対策を備えた計画・

設計・施工を実施してもらうことを目的とした.

 イボイモリの分類・形態・分布・生活史・生態

等の一般的な記載は,中村・上野(1963),千石

(1979),森田(1989),宇都宮(1998),太田(2003)

の記載がある.著者による徳之島のイボイモリの

観察は 1984 年に始まり,概要を鮫島(1985),

(1993),(1995),(1998),(1999) に 報 告 し た.

また,イボイモリの飼育下繁殖については鮫島

(1996)がある.

 国内における本種の分布状況は,琉球列島中央

部の奄美大島,徳之島,沖縄島,瀬底島,渡嘉敷

島に分布する.徳之島はこれらの島々の中では最

も個体数が多い.

 イボイモリは「生きた化石」ともいわれ,古い

時代の生き残りとしての希少性が高い.また,本

種は生物地理学的・分類学的に高い学術的価値が

認められることから,鹿児島県ならびに沖縄県の

天然記念物に指定されており,採集や飼育は法律

で禁止されている.さらに,本種は絶滅の危機に

瀕していることから「日本の絶滅のおそれのある

野生生物」:レッドデータブックに掲載され,環

境省カテゴリーでは絶滅危惧Ⅱ類,鹿児島県カテ

ゴリーでは絶滅危惧 I 類に位置づけられている重

要種である.

 調査地および調査方法

1.生態学的調査

徳之島のイボイモリの生息環境と生態につい

ては,概査(聞き取り・文献調査・現地踏査)を

行い,さらに現地で直接観察する精査を行った.

その内容は,その分布位置,生息状況,重要さの

内容・程度、生息環境の現況等である.調査の視

点はイボイモリの生活史,ネットワーク,構造物

との関係,種間関係,地域の地勢等であり,期間

は 1984 年から 2009 年までの現地調査で得た知見

である.

2.ロード・キル関係調査

今回の主要テーマであるロード・キル調査は,

ロード・キルの多発している地域での資料収集に

よる.

   Okazaki, M., M. Nakamura and M. Sameshima. 2010. Eco-

logy and conservation measures of Tylototrion andersoni in Tokunoshima Island, Kagoshima Prefecture, Japan. Nature of Kagoshima 36: 1–10.

Kagoshima Wildlife Research Association, Daiichi Junior College for Infant Education, 1–12–42 Kokubu-chuou, Kirishima, Kagoshima 899–4395, Japan (e-mail: MN, [email protected]).

Page 4: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

2

A.調査場所

採集場所は徳之島の伊仙町・徳之島町・天城

町である.字名・地名は伊仙町の検福・中山・面

縄・馬根・阿三・八重竿,徳之島町の亀津・白井・

諸田,天城町の西阿木名の道路上の合計 26 ヶ所

である.いずれも道路上であり多少のズレが生じ

るが,字名よりさらに詳細な位置についての地点

は図 1 にアルファベットの記号で示した.

B.調査時期・調査月日

調査時期は 2006 年 11 月 26 日~ 2007 年 4 月 15

日.期間の毎週土・日曜日のいずれかの日,多発

する時期は随時増やし,延べ日数 31 日である.

C.調査方法

調査方法は昼間に乗用車で走行して轢死体を

確認する目視法をとった.記録は詳細な位置,日

時であり,衝突の集中する区間や箇所を明らかに

することを目的とした.調査項目は衝突個体の確

認,位置,月日等である.

イボイモリの行動と気象との関係性を観察す

るために,伊仙町の 2006 年 11 月~ 2007 年 4 月

までの気象状況について日本気象協会の資料を参

考にした.項目は降水量(mm)・平均気温(℃)・

最多風向・日照時間(h)である.

D.天然記念物の扱い方

イボイモリは鹿児島県指定の天然記念物であ

り,法律により管理されている.生体はもとより

死体の収集についても現状変更届が必要であり,

鹿児島県教育委員会,伊仙町・徳之島町・天城町

の各教育委員会の指導のもとで許可申請し,合法

的な調査を進めた.

 調査結果

1.徳之島のイボイモリの現状

A.生態

イボイモリは,徳之島のほぼ全島の森林内の

広範囲にわたり生息している汎存種(広布種・普

遍種)である.生息密度の高い地域は,南部中央

部であり,特に,シイやカシ類の樹林の林縁部の

湧水周辺であり,春から夏にかけて水溜りで幼生

がみつかる.成体は薄暗い林床の朽木や落ち葉の

堆積物の下に潜り込むようにして潜んでいる.

B.形態

イボイモリの成体を写真 1 に示した.本種の

分類的・形態的特徴は,両生類には珍しく肋骨が

あることである.肋骨は外形的に背骨を示す隆条

の左右から後方に斜行して 8 ~ 10 本の隆条が出

ており,これが肋骨の位置を示す.その先端は体

側に突出して疣状となる.この疣の形状からイボ

イモリの名が付いた.肋骨は怒ると傘のように開

いて体を大きくみせる効果がある.

全長は 13 ~ 17 cm で頭胴長は 6.5 ~ 9.0 cm で

ある.頭部は扁平で大きく,頭長と頭幅はほぼ等

図 1.徳之島の調査位置図.

Page 5: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

3

しく菱形をしている.頭幅の最も広い位置まで口

は開いていて大きい.眼はあまり大きくない.皮

膚は乾いていて一面に小さい顆粒状隆起に覆われ

ている.体色は黒褐色からチョコレート色まで個

体により差がある. 

C.繁殖期・産卵期

本種の生活史・生態は特異で,両生類であり

ながら変態後はほとんど水に入らない.繁殖期以

外は水場から離れた場所で見つかる.精子の授受

も陸上で行われ,繁殖期は 11 月から翌年の 6 月

である.その中で、最盛期は 12 月から翌年の 2

月であった.産卵場所は樹木のよく茂った所で,

小さな水溜まりのある場所である.しかし,卵は

水中ではなく,湿り気のある陸地に産む.孵化後

は水中に入り幼生期を過し,変態後は林床生活に

入る.食性は微小な土壌動物等である.生息地・

産卵地の共通した環境を模式図として図 2 に示し

た.

D.イボイモリの生息環境保全のための空間的視

点での重要性

年間を通しての観察から確認できたことは,両

生類の特性でもある季節により生活場所を変える

ことである.イボイモリの生活史の観察から,①

地点レベル,② 地区レベル,③ 地域レベルの三

つの空間的視点を考える必要がある.各レベルに

ついて図 3 に示した.以下詳細に述べる.

① 産卵地そのものの「地点レベルの視点」図

3— ①: イボイモリの生活史の中で最も重要なも

のは繁殖地(池)である.イボイモリの繁殖習性

を明らかにするためには,現場での自然観察が最

も重要である.しかし,偶然性が高く,タイミン

グ的・技術的に困難である.自然界における特異

な繁殖習性を知るヒントとして,飼育下繁殖によ

る観察をしているので,以下に例示する.

1992 年に長崎鼻パーキングガーデン(博物館

相当施設:動物園)で日本初の飼育下繁殖に成功

し,日本動物園水族館協会の繁殖賞を受賞した鮫

島(1996)の報告がある.

【飼育箱はごく普通の市販されている水槽を使

用.水槽内には陸地と小規模な水溜まりをセット

した.産卵は水際から数 cm の陸地部に一粒,一

写真 1.天然記念物イボイモリの成体.

図 2.イボイモリの産卵地環境の模式図.

図 3.イボイモリの生息環境保全のための空間的視点での重要性.

Page 6: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

4

粒散乱した状態で 7 個の卵が産み落とされた.卵

の径は約 3 ~ 4 mm で,それを径 8 mm のゼリー

層が包むようになっている.ゼリー状の物質が卵

を保護し,このゼリー層と地面との接触部で水分

の吸収が行われ,乾燥を防いでいる.産卵から

13 ~ 18 日で孵化した.偶然にも数個体について

孵化の瞬間を観察できた.ゼリー状の物質から抜

け出した幼生は,陸に上げた小魚がピチピチ跳ね

るのと同じような動きで,水辺にたどり着き水中

に入った.その後、変態するまで水中で過ごし,

孵化後約 40 日で陸地に上陸し変態した.幼生の

餌は乾燥赤虫(市販)を与えた.変態後は水に入

る行動は見られなかった.変態後の幼体の餌は腐

葉土などにいる微小な土壌動物である.】

自然環境での産卵場所の微環境は,A 水際の陸

地(水面より数 cm ~数 m).B 卵の乾燥を防ぐ(卵

と土との接触面での水分補給)ための吸水可能な

環境で,いわゆる池の水が絶えず浸み出している

環境.C 落ち葉などの堆積した環境(乾燥や外敵

から守るために落ち葉などの下に産卵される).

D 孵化した幼生が変態までを過ごす水溜りまで,

少ない労力でたどり着ける距離と環境である.

② 移動経路や精子の授受等を行う空間「地区

レベルの視点」図 3— ②: 奄美諸島の夜間調査は,

乗用車による巡回での目視調査がある.この観察

ではカエルやイモリなどの両生類は裸地や道路上

等の開けた場所に出現し,長時間滞在する習性が

ある.筆者らは地域の潜在的な生物相を知るため

に,乗用車による目視調査を採用し,存否を確認

している.イボイモリの場合も,繁殖期になると,

拓けた草地や道路などの見通しのよい場所に集ま

る習性がある.この習性が仇となってロード・キ

ルが発生しているのである.

③ 複数の隣接する繁殖集団を含む遺伝子交換

の可能な空間「地域レベルの視点」図 3— ③:生

態学において,生物の多様性を考えるとき,ある

地域に生息する同種個体のすべてを含んだ群を個

体群と呼ぶ.個体 ― 個体群 ― 群集 ― 生態系の

レベル概念については図 4 に示した.一般的に,

ある個体群に属していても,各個体は互いに遺伝

子的に異なっている.種内の遺伝子レベルの多様

性の保全は,すべての生物にとって,その繁殖力

や,環境変化に対する適応力を維持していくため

に必要である.徳之島のイボイモリの持続可能な

生存に対しては,理想的な個体 ― 個体群 ― 群集

― 生態系が必要である.現在の徳之島南部中央

部は,生息密度が高く個体群間のネットワークも

密である.

2.ロード・キルの現状

イボイモリの生息環境は,近年大型農地開発,

ダム建設,レジャー施設およびこれに伴う大型道

路建設,また林道及び生活道の整備などによる森

林の伐採,地形の変貌等は本種の生息域に多大な

被害を及ぼしている.徳之島における最大の具体

的な事例として,イボイモリのロード・キルが頻

図 4.個体―個体群―群集―生態系のレベル概念. 写真 2.ロード・キルの犠牲になったイボイモリ ( 合計 124個体 ).

Page 7: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

5

繁に発生している.ロード・キルの犠牲になった

個体を写真 2 に示した.

野生動物の衝突事故(ロード・キル)の調査

方法としての常道は,① 調査項目―衝突種,位置,

日時,時刻等.② 方法と内容 ― 衝突事故の記録

を収集する.衝突の集中する区間や箇所を明らか

にすることである.以下,今回の調査結果を述べ

る.

A.位置(場所)と轢死体数

伊仙町の検福・中山・面縄・馬根・阿三・八

重竿,徳之島町の亀津・白井・諸田,天城町の西

阿木名の道路上の 26 ヶ所である.

今回カウントしたのは 124 個体で,それぞれ

の場所での個体数は図 5 に示した.地域別に見れ

ば白井地域と西阿木名の三京地域が特に多い傾向

を示し,徳之島の南部中央部が,生息密度の高い

地域といえる.

B.日時と轢死体数

調査時期は 2006 年 11 月 26 日~ 2007 年 4 月

15 日であり,表 1 と図 6 に示した.期間の毎週土・

日曜日のいずれかの日,多発する時期は随時増や

し,延べ日数 31 日である.その間に巡回しても

全く轢死体の見つからなかった日は,11 月 26 日,

12 月 3 日,2 月 3 日,3 月 4 日・11 日・17 日・

20 日・26 日,4 月 8 日・15 日の合計 10 日であっ

た.一方,轢死体のあった日は合計 21 日であった.

毎日の確認調査・採集ができないことについて,

自然界におけるスカベンジャー(死体掃除屋)の

存在が問題となるが,数日間の間隔を置いての巡

回で,明らかに死亡日の違う複数の轢死体を収得

している(写真 2 を参照).

今回カウントした轢死体は 124 個体で,一日

に1頭~ 38 頭と日によって轢死体の頭数に差が

あった.12 月中旬から轢死体の確認がはじまり,

急激に轢死体数(38 頭)とピークを迎え,2 月下

旬までかけて徐々に下降現象がみられて少なくな

り,3 月には全く確認されなかった.このことか

ら最盛期は,12 月と 1 月が主な繁殖期といえる.

イボイモリの繁殖行動と気象との関係性を観

察する目的で,期間中の伊仙町の気象状況につい

て,降水量(mm)・平均気温(℃)を項目に掲

げ図 7 で示した.これからは,平均気温の下降

(20℃以下)・1 日の間の急激な気温差・降雨を伴

図 5.地点別の轢死体数の状況.

図 6.調査日と轢死体数.

Page 8: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

6

11 月 12 月 1 月

気象条件轢死体 日

気象条件轢死体 日

気象条件轢死体降水

量平均気温

最多風向

日照時間

降水量

平均気温

最多風向

日照時間

降水量

平均気温

最多風向

日照時間

(mm) (℃ ) (h) ( 頭 ) (mm) (℃ ) (h) ( 頭 ) (mm) (℃ ) (h) ( 頭 )

1 0 23.7 北東 0.0 1 0 18.6 北北東 1.8 1 8 19.6 南東 1.1 15

2 2 23.2 北北東 2.9 2 0 17.7 北北西 4.6 2 36 19.8 北 5.6

3 0 22.6 北北東 3.9 3 0 17.0 北 2.2 0 3 5 18.2 北北東 2.0

4 0 22.2 北北東 0.2 4 0 16.7 北北東 1.4 4 3 17.6 北北西 0.0

5 0 22.5 北北東 9.7 5 0 19.3 東北東 4.9 5 0 17.9 北北東 3.8

6 0 22.7 北北西 9.5 6 0 21.4 東 1.7 6 2 15.3 北西 0.1

7 0 19.7 北 5.6 7 26 21.9 東南東 0.1 7 0 12.3 北西 0.1 13

8 0 20.0 北 9.5 8 0 20.8 北北西 6.8 8 0 13.6 北北西 3.7

9 0 22.2 東北東 9.4 9 0 20.0 北西 1.9 9 0 14.1 北北西 0.6

10 0 24.0 東北東 9.1 10 0 17.2 北北西 1.2 2 10 0 15.2 北北東 0.0 3

11 0 22.1 北西 5.9 11 0 17.0 北 2.4 4 11 0 15.3 北北東 8.1 2

12 0 18.9 北 6.3 12 0 16.6 北 1.3 12 0 17.0 北東 6.8

13 0 19.4 北北西 1.6 13 0 22.3 北 2.1 13 2 15.0 北北東 0.0 1

14 0 22.3 南西 0.9 14 21 19.2 北北東 0.0 14 0 14.9 北 6.7

15 0 19.0 北 9.1 15 2 18.2 北北東 0.1 15 0 14.3 北 7.1

16 0 19.6 北東 6.5 16 5 16.7 北北東 0.0 16 0 17.7 南 7.2

17 0 22.5 東南東 3.4 17 12 13.6 北西 1.5 38 17 2 19.5 北西 0.5

18 54 22.3 東南東 0.0 18 0 13.9 北北東 0.0 18 6 15.3 北 0.0

19 1 22.7 西北西 0.9 19 0 17.3 北北東 3.5 19 23 13.8 北北東 0.0

20 0 22.2 西北西 4.4 20 14 19.5 北北東 3.7 20 0 17.6 北北東 5.8

21 0 21.0 北北西 2.3 21 19 16.9 北北東 0.0 21 28 16.9 北北東 0.1 7

22 30 22.2 東北東 0.0 22 3 16.9 北北東 4.0 5 22 0 16.1 北北東 5.9

23 2 23.3 西南西 3.6 23 0 16.5 北北東 7.6 3 23 0 16.0 北 8.9

24 0 21.8 北北西 2.0 24 0 17.3 東北東 7.0 24 0 14.9 北北西 0.9

25 0 22.1 北北西 9.5 25 39 17.9 東北東 0.0 25 0 14.2 北 8.5

26 4 24.3 南西 5.5 0 26 5 18.7 北北東 8.1 3 26 1 15.4 北北西 5.2

27 25 22.2 西北西 4.6 27 0 18.0 北北西 7.5 27 0 13.7 北北西 1.4 7

28 1 19.1 北北西 0.0 28 0 15.2 北北西 4.2 28 0 12.3 北北西 0.0 4

29 4 18.2 北北東 0.0 29 0 12.7 北 4.2 29 1 12.3 北北西 5.6

30 1 18.8 北北東 1.3 30 0 14.3 北北東 0.5 30 0 13.2 北北西 2.3

31 1 17.7 東北東 0.6 31 0 13.6 北北西 7.2 2

2 月 3 月 4 月

気象条件轢死体 日

気象条件轢死体 日

気象条件轢死体降水

量平均気温

最多風向

日照時間

降水量

平均気温

最多風向

日照時間

降水量

平均気温

最多風向

日照時間

(mm) (℃ ) (h) ( 頭 ) (mm) (℃ ) (h) ( 頭 ) (mm) (℃ ) (h) ( 頭 )

1 0 12.6 北西 3.3 1 0 17.7 東 2.8 1 0 22.4 南西 0.4

2 3 10.3 北北西 0.9 2 0 19.0 東南東 2.5 2 17 19.7 北北東 0.2

3 0 11.6 北北西 1.2 0 3 0 20.4 東南東 5.9 3 0 14.6 北北西 1.8 3

4 0 12.6 北北西 4.8 4 0 20.8 南東 3.7 0 4 0 14.7 北北西 6.8

5 0 14.1 北北西 10.4 5 26 16.5 北北西 0.0 5 0 15.7 北北西 5.6

6 0 15.8 北北西 7.9 6 0 12.8 北北西 0.1 6 0 18.4 東南東 3.8

7 0 17.0 北北西 10.3 7 1 12.6 北北西 3.0 7 1 18.0 北北東 0.0

8 0 18.8 南南西 9.7 8 0 13.5 北 0.6 8 10 16.0 北北東 0.0 0

9 6 19.8 南西 3.3 9 4 14.2 東北東 0.0 9 0 16.6 北 4.8

10 0 16.3 北西 0.7 10 1 18.6 東 0.5 10 0 18.4 南東 1.5

11 0 13.7 北北西 4.7 11 0 14.7 北北西 0.5 0 11 1 17.7 北東 0.0

12 0 14.4 北北西 8.1 2 12 0 13.7 北北西 3.6 12 0 19.8 東 9.9

13 0 17.7 南南東 4.6 13 1 13.9 北北東 0.1 13 0 19.8 東南東 0.6

14 65 18.0 北北西 0.1 14 5 17.8 東 5.8 14 0 20.3 北東 7.3

15 0 14.0 北北西 5.7 2 15 11 20.1 西南西 0.1 15 29 18.4 東北東 0.5 0

16 0 16.4 南南東 1.8 16 0 19.3 西 0.7 16 0 19.3 西北西 6.6

17 9 20.3 南 0.0 17 4 16.6 北北東 0.0 0 17 0 17.6 北西 8.7

18 0 18.5 西北西 0.1 5 18 0 16.2 北東 0.7 18 60 17.5 北北西 0.8

19 0 17.1 北西 4.4 19 18 16.8 北 0.0 19 0 17.3 北北西 11.3

20 0 16.4 北北西 0.3 20 3 16.5 北北東 4.4 0 20 0 19.2 南東 9.9

21 3 17.3 北東 2.0 21 0 17.5 南東 6.4 21 0 20.8 南東 8.1

22 6 18.2 南 0.2 22 0 18.5 東北東 4.6 22 0 22.0 南南西 2.8

23 0 17.2 北北西 8.5 23 0 19.1 東南東 6.7 23 22 21.6 南西 1.0

24 0 14.9 北北東 6.3 1 24 1 20.4 南南西 2.5 24 26 20.3 北東 0.2

25 0 15.1 北北東 0.0 25 24 18.9 北北西 3.6 25 7 18.6 北北西 1.1

26 0 17.2 北北東 9.0 2 26 0 18.1 東 6.4 0 26 0 19.5 東北東 8.0

27 23 17.9 東南東 2.9 27 19 20.0 南南東 0.2 27 2 19.0 東北東 0.0

28 9 17.9 東北東 5.2 28 0 19.4 北北東 10.9 28 4 17.3 東北東 0.1

29 0 20.2 南 3.1 29 0 19.9 東北東 2.4

30 0 22.2 西 3.1 30 0 20.2 東 0.0

31 0 22.0 南西 1.0

表 1.気象条件と轢死体数との状況(伊仙町:日本気象協会資料参照).

Page 9: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

7

う湿度等との因果関係について,ある程度の傾向

は認められるももの,確定できる結果は得られな

かった.

 考察

1.徳之島のイボイモリの生息環境と生態

A.生態の概要

 生息地現場の観察から極めて特異な環境が読み

取れる.特に,止水の水溜まりと水際部の微妙な

湿り具合と落ち葉の積もった林床が決め手となっ

ているようである.この観察結果からも,卵の性

状や幼生の生活場所から水辺を必要とし,孵化後

数秒で水にたどり着ける陸地環境が必要である.

爬虫類のように殻を持った卵まで進化していない

が,これら一連の生態から類推して,体型や皮膚

の状況は爬虫類に近く,両生類と爬虫類の中間型

の生態が認められる.両生類でありながら陸地に

産卵する行動は興味深い.

B.繁殖期

 繁殖期とは,動物が交尾・産卵・出産・育児等

を行う時期をいう.一年のうち,一定の季節と関

係して,周期的に現われるものが多く,あるもの

では繁殖地への季節移動をともなう.繁殖期には

生殖器官およびそれ以外の器官にも,しばしば各

種の変化がおこり,動物によっては婚姻色などの

特別な色彩や体臭などをもつようになるものもあ

る.イボイモリの繁殖行動とは求愛行動・精子の

授受・産卵・孵化・幼生の生育を指す.

 宇都宮(1998)のイボイモリの記載によれば,

繁殖期は 2 ~ 6 月であり,その中で最盛期は 3 ~

4 月となっている.しかし,筆者のこれまでの徳

之島の調査結果からは繁殖期は 11 月頃から始ま

り翌年の 4 月頃まで,最盛期は 12 ~ 2 月となり

時期的な差が認められた.

C.複数のビオトープを利用する生物

 複数のビオトープを利用する生物の諸問題 —

両生類の場合についてヨーゼフ・ブラープ(1997)

によれば,「両生類個体群の季節変動」として,

両生類の個体群の(単純化した)行動モデルがあ

るとしている.イボイモリにも,この理論と類似

するところがあり,繁殖に必要な環境が非繁殖期

の環境と異なっている.繁殖期に池で産卵し,非

繁殖期には森林や草原で生活している.繁殖期に

なると池を目指して移動する行動がみられ,その

一連の行動過程の一時期にロード・キルが集中的

に多発することになる.

D.生息環境保全のための空間的視点での重要性

 イボイモリの生息環境を保全するには,産卵地

そのものの「①地点レベル」,移動経路や精子の

授受等を行う空間「②地区レベル」,複数の隣接

する繁殖集団を含む遺伝子交換の可能な空間「③

地域レベル」の三つの空間的視点を十分考慮した

保全が必要である.すなわち,地点レベルでの生

息空間を保全整備するだけでなく,イボイモリの

生活史に応じた所要の生息空間を確保するととも

に,広域的な種間ネットワークを含む生態系ネッ

図 7.気象変化のグラフ(降水量と平均気温).

Page 10: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

8

トワークを保障することが重要となる.

E.飼育下繁殖と自然繁殖

 自然環境での繁殖習性を知るためのヒントを得

た飼育下繁殖の「実験室での観察結果」から,特

異な繁殖環境は,止水の水溜まりと水際部の微妙

な湿り具合と落ち葉の積もった林床が決め手とな

るようである.

F. 無機的環境と繁殖期との関係

 春夏秋冬の移り変わりがはっきりしている中緯

度地方では,生物は季節の変化に生活史を同調さ

せて生きている.自然環境の下では,単独の環境

要因が直接生物の生活に影響を与える場合は少な

く,多くは複数の要因が組み合わさって生物の生

活に影響することが普通である.陸上では主に無

機的環境(光,温度,水分,土壌,空気)が主要

な要因である.この中の光周(期)性が大きな要

因と思われる.明期または暗期の長さの変化,す

なわち光周期の変化によって引き起こされる生体

の反応性をいう.この現象は動物では各種昆虫,

鳥,魚類などの生殖腺発達・内分泌活動などに光

周性が認められる.

 今回調査期間中の気象条件の項目である降水量

(mm)・平均気温(℃)・最多風向・日照時間(h)

を基にロード・キル(轢死体)との因果関係を探

る予定であったが,ごく一般的な傾向①平均気温

が 20℃以下になってから轢死体が確認される,

②昼夜の急激な気温の変化,③降雨を伴う湿度の

上昇,④南・南東の風向き等,単に漠然と掴めた

程度であり,これらの現象はいずれも諸項目が連

動して起こるもので,単独で考えるには無理があ

り,慎重な判断が必要と思えた.

 生物と環境については,多くは複数の要因が組

み合わさって生物の生活に影響を与えており,ご

く限られた情報だけでの判断は難しい.詳細な判

断は他に譲りたい.

2.ロード・キルの現状と課題

A.スカベンジャーの存在

 自然界では,動物の死体を餌とする昆虫類・鳥

類・哺乳類等のスカベンジャーの存在がある.ス

カベンジャーは昼夜を問わず死体に群がるもので

ある.

 筆者の経験則を述べると,奄美諸島で代表的な

昼間のスカベンジャーはカラスであり,ヘビ類の

死体の捕食は顕著である.しかし,ヘビの中でも

悪臭を放つアカマタの死体は忌避され残されてい

る(鮫島,1999).

 イボイモリの場合はどうであろうか,数日間の

間隔を置いての調査で,轢死体は新鮮なものと数

日経過したものと新旧の区別のつく死体を拾うこ

とがほとんどである.この結果からイボイモリの

轢死体はスカベンジャーには避けられていると推

察される.

 この問題に関連する報告として(小川ほか,

2003)がある.イモリ類の特性として,皮膚には

体を保護するための粘液腺をもち,毒液を出すも

のも多い.皮膚腺からフグ毒と同じテトロドトキ

シンが分泌されている.この毒はイモリの皮膚や

筋肉からも検出されるとのことである.また,イ

モリ類に触れた手で目や口をこすると激しい痛み

を感じる.推察するに,この毒がスカベンジャー

の口や口腔粘膜などに激しい痛みを与えるのでは

ないかと思われる.このことから,スカベンジャー

による捕食や持ち去りの可能性は低いと結論付け

た.

B.ロード・キルの原因

 ロード・キルは,イボイモリの生態,特に繁殖

習性からくるものであり,繁殖池の特殊構造を始

め,複数のビオトープを必要とし,その移動ルー

写真 3.ロード・キル発生地の既存の道路構造.

Page 11: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

9

トに道路が建設されると,道路上で車にはねられ

てロード・キルになる.その対策として,生息地

での新設の道路建設や既存の道路改修において理

想的な構造への計画・設計が必要となる.

C.ロード・キル保全対策のための提案

 ロード・キルの最大の原因は,生息地への道路

の設置と道路の構造にある.既存の道路は簡易な

構造で,両サイドに排水溝など全く無く,生息地

が直接車道に接している(写真 3).小動物の移

動に関しては構造物の無いことは理想的である

が,イボイモリも自由に道路に這い出せる.この

構造が致命傷になるのである.また,特に道路を

水平・直線化するための構造 ( 盛土と切土 ) が,

道路周辺に小規模な止水の水溜まりを多数造って

しまうことになる.繁殖期になると周辺域で生活

する個体が集合し,道路周辺が密度の多い場所に

なってしまうようである.

 ロード・キル回避のための保全対策としては,

防止対策を配慮した 道路の計画と設計が必要に

なる.

D.保全対策のための構造

 (1) 路上にイボイモリが這いだせない構造の道路

 最も重要なことは,まず車道にイボイモリが這

いだせない構造の道路にすることである.それを

効果的に進めるために,道路両サイドはU字溝を

積極的に採用する.一般的にはU字溝は『生態系・

生息地の分断をする』として問題視されている構

造物である.徳之島の生息密度の高い地域に対し

ては,積極的に使用することを勧めたい.

図 8.ミチゲーションを目的とした流水利用道路横断溝の構造.

図 9.側溝には道路面の反対側に這い出し可能な構造物の設置.

Page 12: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

10

 道路の左右の生息地の連続性を得るためのミチ

ゲーション(影響の最小限化)を目的として,図

8 に示すような「流水利用道路横断溝」の設置で

ある.左右の側溝が横断し連結する構造である.

このことにより,左右の個体群間での遺伝子交流

も可能になる.この場合,ある程度の傾斜した道

路での利用がよい.側溝に落ちたイボイモリが物

理的に雨水の流れに乗り移動する.また,横断溝

は暗渠構造が良いと思われる.

 (2) U 字溝からの這い出し構造物

 U 字溝が一種のトラップ(罠)になり,路上へ

の這い出し防止の役目をする.しかし,落下した

個体の長時間の滞在は良くない.左右の U 字溝

には,道路面に対し反対側に数十メートル間隔で,

図 9 のような這い出し可能な構造物をつくる.

 謝辞

 本調査において御指導・御協力を頂いた,前鹿

児島県教育委員会文化財課の江平憲治氏・東京都

大田区役所職員の森住貢一氏・元伊仙町立歴史民

俗資料館長の義憲和氏・現伊仙町立歴史民俗資料

館長の伊藤勝憲氏をはじめ,文化庁,鹿児島県教

育委員会,伊仙町・徳之島町・天城町の各教育委

員会,(株)新和技術コンサルタントの諸氏に対し,

厚くお礼申しあげます.

 引用文献

ヨーゼフ・ブラープ.1997.ビオトープの基礎知識.日本生態系協会.

環境庁(編).1981.日本の重要な両生類・爬虫類 ― 南九州・沖縄版 ―.大蔵省印刷局.

環境庁(編).1991.日本の絶滅のおそれのある野生生物.(財)自然環境研究センター.

森田忠義.1989.鹿児島のすぐれた自然.鹿児島県保健環境部環境管理課(編),190 pp.

中村健児・上野俊一.1963.原色日本両生爬虫類図鑑.保育社.

日本生態系協会.1994.ビオトープネットワークⅠ.ぎょうせい.

日本生態系協会.1994.ビオトープネットワークⅡ.ぎょうせい.

小川賢一・篠永 哲・野口玉雄(監).2003.危険・有毒生物.イボイモリ.学習研究社,東京,139 pp.

太田英利.2003.鹿児島の絶滅のおそれのある野生動植物(動物編).鹿児島県.

鮫島正道.1985.徳之島の動物.鹿児島短期大学付属南日本文化研究所 南日本文化第 17 号。115 - 143pp.

鮫島正道.1993.徳之島の野生動物の現状と保護対策.鹿児島短期大学付属南日本文化研究所 南日本文化第 26号。117 - 128pp.

鮫島正道.1995.東洋のガラパゴス 奄美の自然と生き物たち.南日本新聞社.

鮫島正道.1998.鹿児島の野生生物.芸香草.鹿児島県立図書館.

鮫島正道.1996.奄美の自然.鹿児島の自然調査事業報告書Ⅲ.鹿児島県立博物館.

鮫島正道.1999.鹿児島の動物.春苑堂出版.千石正一.1979.原色両生・爬虫類.家の光協会.宇都宮妙子 . 1998. 日本の希少な野生水生生物に関するデー

タブック.イボイモリ.日本水産資源保護協会.220–221 pp.

Page 13: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

11

沖永良部島におけるセイタカシギの繁殖生態―九州での初記録―

中村麻理子・鮫島正道

〒 899–4395 鹿児島県霧島市国分中央 1–12–42 第一幼児教育短期大学内鹿児島県野生生物研究会本部

 はじめに

 セイタカシギ Himantopus himantopus (Linnaeus,

1758)はチドリ目セイタカシギ科の鳥類で,主に

旅鳥として渡来する.全長が約 40 cm,ピンク色

の細長い脚と黒色の細長い嘴が特徴である.生息

環境は海岸の浅瀬,干潟,ヨシ原,海岸近くの湿

地・湖沼・水田などで,繁殖は湖沼,沼沢の浅瀬

や海岸の岩石地などに営巣する.食性は動物質で

水棲昆虫・甲殻類・貝類・小魚などの小動物であ

る.

 世界中の熱帯から温帯に広く分布し,日本では

1960 年頃まで非常に稀な鳥とされていたが,徐々

に記録が増え越冬例も報告されている.千葉県や

東京都,愛知県で数つがいが繁殖に成功している

が,日本での繁殖についての報告は少ない.セイ

タカシギについての主な論文は,武内ら(1977),

育雛については小澤(2007)などがある.また絶

滅危惧種についての記載では加藤(2003),柳沢

(2004)がある.一般的生態については黒田(1969),

森岡ら(1989),佐藤(1994),山岸ら(2004)が

ある.

 鹿児島県における本種の飛来記録は少なく,出

水干拓,大浦干拓,国分干拓などの農耕地やその

周辺の干潟,トカラ列島中之島,奄美大島,徳之

島等があるが,繁殖についての報告はない.今回,

沖永良部島においてセイタカシギの一連の繁殖生

態を観察した.これまでの報告例からすると九州

地域での繁殖は初記録になる.

 本種は生息環境の減少や悪化により個体数が減

少しており,環境省編「日本の絶滅のおそれのあ

る野生生物」— レッドデータブック — と,鹿児

島県の「鹿児島県の絶滅のおそれのある野生動植

物」— 鹿児島県レッドデータブック — によれば,

絶滅危惧 II 類として掲載されている. 絶滅が危

惧される本種の保護のためには情報の蓄積が必要

であり,特に繁殖についての情報は鳥類の生態で

最も重要である.国内で報告がある繁殖環境は埋

め立て地が多く,琉球列島の一部である沖永良部

島のような島嶼での繁殖事例は貴重である.

 今回繁殖生態に関する興味ある写真を得る事が

出来た.本報告では特徴的な繁殖生態写真を多く

用いた.

 観察地点および方法

観察地点は鹿児島県大島郡和泊町谷山にある

洪水調整池である.観察地点を図 1 に示す.本洪

水調整池は,農地の冠水防止のために水量を調節

する池として,鹿児島県が平成 20 年度に整備を

実施した池であり,整備前は湿地と畑地であった.

面積は 25.240 ha,水深が深い所で約 30 cm 位で

ある.水量は降雨時に増すが,放流口の高さまで

である.洪水調整池はフェンスで囲まれ,進入で

きないようになっている.周辺の環境は畑地が広

がり,外周の農道は車や人の往来がある.洪水調

整池の状況・構造を図 2 に示す(以下,洪水調整

池を観察池とする).

   Nakamura, M. and M. Sameshima. 2010. First reliable record

of reproduction of Himantopus himantopus in Kyushu, with description of reproductive ecology of the species in Okinoerabu-jima Island, Kagoshima Prefecture, Japan. Nature of Kagoshima 36: 11–18.

Kagoshima Wildlife Research Association, Daiichi Junior College for Infant Education, 1–12–42 Kokubu-chuou, Kirishima, Kagoshima 899–4395, Japan (e-mail: MN, [email protected]).

Page 14: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

12

観察は農道からフェンス越しに双眼鏡と望遠

鏡を使い実施した.補助機械としてカメラを使用

し写真による記録を行った.観察日数は,抱卵後

期の平成 21 年 6 月上旬から本種が観察池で確認

された 11 月中旬までの 157 日間である.観察は

親鳥が抱卵・育雛を放棄しないように,また雛の

成長に影響を与えないように注意して行った.

 観察結果

一連の観察結果については卵の確認,抱卵,育

雛,外敵防衛行動,飛翔開始そして家族行動など

であるが,概要を表 1 に示す.

1.抱卵の確認

6 月 9 日,観察池でセイタカシギの抱卵と巣に

3 個の卵を確認した.巣の確認位置と抱卵中の雌

を図 3 に示す.抱卵期の雌雄の分業については,

雌のみ抱卵するのではなく雄の抱卵もみられた.

また常に雌と雄が交互に抱卵するのではなく,巣

を空けている時もあった.雄と雌の一日の抱卵時

間については,卵の確認から孵化までの日数が 3

日間であったため,詳細なデータは取れなかった

が,雌の抱卵時間が長い傾向にあった.巣を空け

ている時は,巣の見える範囲で採餌・休息してお

り,親鳥が観察池を離れる事はなかった.抱卵中

の雌は,巣材をくわえ巣を補強する行動が観察さ

れた(図 4).

図 1.観察地点.

図 2.洪水調整池の状況・構造 a)全景(H21.6.24),b)流入口(H21.7.23),c)放流口(H21.7.3).

雛(幼鳥)の行動 親鳥の行動

~11日 卵・抱卵・外敵防衛行動

12日 孵化・雛の付き添い・外敵防衛行動

13~25日・雛自ら採餌・外敵防衛行動

・雛の付き添い・抱雛・外敵防衛行動

8日・幼鳥の羽ばたき・外敵防衛行動

・幼鳥の付き添い・外敵防衛行動

20日 飛翔開始 -

9月 下旬まで

11月 中旬以降

月 日

家族行動

観察池を離れる

7月

6月

表 1.主な観察結果の概要.

図 3.巣の確認位置と抱卵中の雌(H21.6.9).

Page 15: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

13

2.巣と卵

巣は水中に泥や小石等を積み上げた構造で,卵

座には木の枝や水草を敷いていた.巣材は泥,小

石,木の枝,水辺植物の葉や茎が使われ,巣の高

さは水上から約 10 cm 程度であった.巣は孵化後

の増水の影響で崩れ,詳細な測定が出来なかった.

卵は卵形で,クリーム褐色の地に黒褐色の斑点と

斑紋が散在していた.巣と卵は図 5 に示す.

3.孵化と育雛

雛が確認されたのは,卵の発見(抱卵期後期)

から 3 日後の 6 月 12 日であった(抱卵日数は約

22 ~ 26 日位であるので産卵は 5 月中旬~下旬).

雌が卵座で抱雛していたが,観察者に気付き親鳥

が立ち上がると,雛が 1 羽巣から飛び出し,もう

2 羽は卵座で確認した.翌日には巣から離れた場

所で雛 3 羽と親鳥を確認した.孵化直後の雛は親

鳥からの給餌を受けず,自ら採餌しており,親鳥

は単に雛に付き添っている様子であった.孵化率

は 100% になる.卵座に卵殻は残っていなかった.

孵化直後と翌日の 13 日に確認した雛の様子を図

6 に示す.

孵化後 8 日目以降の雛は単独で行動し,各自

で移動しながら採餌していた.親鳥は雛に付き添

い行動していた.主に雌は雛に付き添い,雄は外

敵に対しての威嚇を行う様子が観察された.雛は

採餌時には単独で行動するが,休息時は群れる傾

向にあった.孵化後 8 日目の雛の様子を図 7 に示

す.

降雨時は親鳥が 3 羽の雛を羽毛に入れ,じっ

としている姿が観察された(図 8).豪雨から雛

を守り保温する事が目的で,この抱雛行動は孵化

後 15 日目までみられた.

図 4.巣を補強する雌と採餌中の雄(H21.6.11).

図 5.巣と卵(H21.6.10).

図 6.孵化直後の雛の様子 a)H21.6.12,b)H21.6.13.

図 7.孵化後 8 日目の雛の様子 a)羽繕いをする雛,b)採餌する雛.

Page 16: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

14

4.外敵防衛行動

(1)抱卵期

抱卵期の防衛行動は雌雄共に確認された.観

察者に対しては,巣の所在をまぎらわしくするた

めに,雄は派手な飛び立ちや近くに寄り注意を引

きつけ,抱卵中の雌は巣を抜け出し巣から離れた

場所に飛翔するなどの行動をとった.観察距離を

縮めると「ケッケッケッ」という警戒の声を発し,

頭上を飛翔する威嚇行動が観察された.他の鳥類

に対しては,休息中のダイサギに対して雄が攻撃

し,池の端に追いやる威嚇行動がみられた.抱卵

期の親鳥は外敵に対して巣と卵を共同で防衛する

姿が確認された.

(2)育雛期

育雛期の防衛行動は雌と雄,雛で確認された.

孵化直後は,外敵(観察者)が近づくと雛から親

鳥が離れ,雄が警戒の声を発し頭上を飛翔する威

嚇行動をとり,雛は伏せる行動や身を隠す行動を

とった.その後,雛が雌の羽毛に入る抱雛行動が

観察された(図 9).また降雨の影響で水位が上

図 8.降雨時に抱雛する親鳥(H21.6.25).

図 9.a) 警戒の声を発する雄,b)伏せる雛,c)抱雛する雌.

図 10.a) 雛を誘導する親鳥,b)身を潜める雛.

図 11.外敵防衛行動(攻撃).a)異種に対して(H21.7.12),b)同種に対して(H21.7.2).

Page 17: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

15

がり観察池の浅瀬や陸地がない状況では,雌が雛

を護岸へ誘導し,雛は護岸ブロックの中で身を伏

せる行動が観察された(図 10).親鳥は外敵に対

して警戒の声を発し頭上を飛翔する威嚇行動を

とった.

孵化後 8 日目以降は,親鳥が頭上を飛ぶ威嚇

行動はみられず,親鳥が警戒の声を発し雛に注意

を促すと,雛たちはその声に反応し,ゆっくり採

餌しながら外敵から遠ざかる行動がみられ,飛翔

能力が備わる頃になると幼鳥は各自で外敵から遠

ざかる行動をとった.

他の鳥類に対しては,観察池で採餌・休息し

ているサギ類(ダイサギ・コサギなど)やシギ類

(キアシシギ・アオアシシギなど)に対して攻撃

する防衛行動が観察されたが,飛翔能力が備わる

頃になると激しい攻撃(池の端に追いやる)はみ

られなくなった.8 月中旬以降になり観察池を利

用する野鳥類が多くなると攻撃はみられなくなっ

た.観察池に飛来した同種に対しては雌が激しく

攻撃し,観察池の外へ追い出す行動が確認され,

その後 8 月中旬まで繁殖した家族以外のセイタカ

シギを観察池で確認することはなかった.異種で

あるキアシシギと,同種であるセイタカシギに対

する防衛行動(攻撃)を図 11 に示す.

5.雛の発育過程

孵化直後の雛の発育状態は全身が幼綿羽でお

おわれ,眼が開いていた.3 羽の雛の発育や形態

に差異はみられなかった.孵化後 2 ~ 49 日目ま

での発育の変化について図 12 に示す.

孵化直後の雛は,体の上面・頸側・体側など

はクリーム色で黒褐色の小斑点が散在していた.

体の下面は白色,眼先からは黒褐色の過眼線が

あった.13 日目までは上面・頸側・体側に黒褐

色の小斑点が散在していたが,18 日目には黒褐

色の小斑点が不明瞭になり,21 日目には幼羽が

図 12.雛の発育過程.

Page 18: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

16

一部みられ始めた.13 ~ 24 日目で幼綿羽が幼羽

に生え変わり大きく変化した. 24 日目には体上

面の各羽の軸班が黒褐色で羽縁が褐色の鱗状模様

となり,幼鳥の特徴である白い羽縁が目立ち始め

た.脚の色も淡いピンク色となった.28 ~ 49 日

目以降は,体上面の各羽の軸班が黒褐色から暗黒

褐色へと変わったが,28 日目以前のような大き

な変化はなかった.しかし嘴と脚については幼綿

羽の時期に比べると著しく発達し,脚の色はより

鮮やかになった.

6.飛翔能力について

孵化後 27 日目に幼鳥の羽ばたきを初めて確認

し,39 日目には観察池を飛翔していた(図 13).

51 日目には観察池を飛び出し飛翔する姿がみら

れたが,主に繁殖した観察池のみを生息の場とし

ていた.

7.飛び立ち後の様子

飛び立ち後の幼鳥は単独で行動するのではな

く,休息時には群れる姿が観察された.繁殖した

家族で行動する姿は 9 月下旬頃までみられた(図

14).

8 月中旬以降は,他の個体や渡りの途中と考え

られる数十羽(最大 27 羽確認)のセイタカシギが,

観察池で採餌や休息をするようになり,個体識別

が困難となった(図 15).観察池でセイタカシが

みられたのは 11 月中旬までであったが,島内の

他の水辺ではセイタカシギを確認している(図

16).観察池で繁殖した個体であるかは不明であ

る.

 考察

A.年周期生活

鳥の生活は年周期を通じてみると,繁殖期と

非繁殖期からなり,その間に渡りを行う移動性の

ものと,周年定着性のものとがある.鳥を移動の

観点からみると,渡り鳥(冬鳥・夏鳥・旅鳥)と

留鳥(漂流・真留鳥・半留鳥)に区分される.本

種は鹿児島県で旅鳥または冬鳥とされていたが,

沖永良部島では 1 年を通して確認され,繁殖も成

功し留鳥の可能性がある.ただしシーズン中,沖

図 13.a)羽ばたきをする幼鳥(H21.7.8),b)飛び立とうとする幼鳥(H21.7.20).

図 14.a)休息中の幼鳥(H21.7.30),b)繁殖した家族(左から雌,幼鳥 3 羽,雄;H21.8.30).

図 15.観察池における渡り途中のセイタカシギ(H21.10.7).

Page 19: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

17

永良部島で確認していたセイタカシギのほとんど

は飛び去り,繁殖事例も 1 例のみである事から継

続して繁殖するか見守る必要がある.今後の情報

の蓄積により判断する事が望ましい.

B.配偶型

鳥類の繁殖には様々な家族制(一夫一妻型・

一夫多妻型・多夫一妻型・集団配偶型)がある.

観察の結果,つがい関係は抱卵から秋の渡りの時

期までみられ,1繁殖期間変わらなかった.よっ

て配偶型は一夫一妻型であると考えられる.

C.雛型(雛の発育状態)

孵化時点での雛の成熟度合いの区分(早成性

雛・半早成性雛・半晩成性雛・晩成性雛)では,

雛は孵化直後から全身に幼綿羽がみられ,巣を離

れ自ら採餌行動をとっており早成性雛であると言

える.

D.繁殖型

鳥類の繁殖行動は様々だが,大きく分けて集

団繁殖型(コロニー制)と単独繁殖型(なわばり

制)がある.抱卵・育雛期に同種のセイタカシギ

に対して威嚇行動がみられ,繁殖型は単独繁殖型

であると考えられる.なわばりの範囲は明確に特

定出来なかったが,同種に対し池の外へ追いやる

行動がみられ,主ななわばりは観察池内であると

考えられる.なわばり主張は,観察池で繁殖した

家族以外のセイタカシギが確認された 8 月中旬以

降になくなったと考えられる(図 15).

E.外敵防衛行動

一般的にシギ・チドリ類は,抱卵・育雛期に

巣と卵,雛の所在を気付かせないようにする行動

(擬傷など)がみられる.本種の外敵防衛行動は

観察の結果,幼鳥の飛翔能力が十分に備わる時期

まで雄と雌が共同で行うと考えられる.

F.抱雛行動

抱雛行動は孵化後 2 週間までの観察とある(小

澤,2007).本観察でも外敵から雛を守るためと

降雨から雛を保護する目的で行っていた.孵化後

15 日頃まで観察され,育雛初期にみられる特徴

的な行動と言える.

G.食性

鳥類がどのように餌を得て(捕らえて),どの

ように食べるか等の摂食方法を食性という.食性

は大きく動物食,植物食,雑食に分けられる.雛

は浅い水辺や陸地部分にできた水溜まりで餌を捕

らえ,幼鳥になると親鳥と同様に長い嘴を使い,

他のシギ・チドリ類が採餌できない深い水辺も利

用していた.本種の食性は動物質でありトンボや

カエルの幼生,小魚等の採餌を確認した(図

17).観察池の底質は砂泥で水生植物が繁茂し,

雛や幼鳥の餌となる生物が豊富に生息していたと

考えられる.

H.繁殖環境

島内の他の水辺と繁殖池を比較し,繁殖適地

の条件を挙げると①採餌可能な浅い水辺や休息可

図 16.観察池以外のセイタカシギ(タイモ畑;H22.2.8). 図 17.トンボを採餌する幼鳥(H21.7.12).

Page 20: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

18

能な陸地がある多様な水辺環境,②人や捕食者で

ある小型哺乳類などの進入がない環境,③水位の

変動が少ない環境,④餌生物の生息に適した水生

植物が生育出来る環境(池の底質が砂泥)などが

挙げられる.

特に③の水位の変動は,抱卵期に最も影響を

与える.観察池の水位が増し巣が水没したが,孵

化した直後であったため繁殖に影響はなかった

が,水位変動が大きい水辺は繁殖に適さないと考

えられる.また④の餌生物の生息に適した水生植

物が繁茂する水辺は,外敵から身を守りやすく,

餌が豊富で休息や子育てに適した環境である.繁

殖池は整備直後で植生もまばらであったが,2 ヶ

月で水生植物が繁茂し,バンの巣も数ヶ所確認さ

れ繁殖適地であったと考えられる.

I.島内の水辺環境

島内の主な水辺はシート張りの溜池で,水生

植物が生育せず餌生物の生息に適さない水辺環境

である.生態系の栄養段階の上位に位置する動物

食の本種は,様々な餌生物を必要とする.水辺を

利用する鳥類にとって,観察池のような水生植物

が生育する環境を積極的に増やす事が望まれる.

J.渡り鳥の中継地

南西諸島の一部である沖永良部島のような海

に点在する島は,渡り鳥にとって重要な移動ルー

トで,中継地や休息場としての機能を有している.

水生植物が繁茂している観察池では,多くの旅鳥

が確認された.世界各地の自然が国境を越えて生

態学的なつながりで相互に結ばれており,ラム

サール条約(水鳥の生息地として国際的に重要な

湿地生態系全体の保存)と国の環境基本法の中で

は,地球全体における環境保全に向けて協力,連

帯が求められている.

K.今後の課題

観察池は島内の越山と大山に挟まれた低地で

あり,島では数少ない湿地帯にある.本種の保護

のためにも餌となる生物や環境を確保することが

重要であり,このような湿地一帯の環境を保全し,

今後も詳細な情報の蓄積に努める必要がある.

 引用文献

清棲幸保(1978)日本鳥類大図鑑 II.講談社.加藤ゆき(2003)セイタカシギ.鹿児島県環境生活部環境

保護課(編),pp. 59.鹿児島県の絶滅のおそれのある野生動植物 動物編.財団法人 鹿児島県環境技術協会.

黒田長久(1969)鳥類の研究 — 生態 —.新思潮社,東京.森岡弘之 ・ 中村登流・樋口広芳(1989)現代の鳥類学.朝

倉書店,東京.小澤尊典(2007)一色町で繁殖したセイタカシギの育雛の

観察.西三河野鳥研究年報 VOL. 10.佐藤正孝(1994)新版 種の生物学.建帛社,東京.武内功他(1977)愛知県の野鳥,pp. 246.愛知県農林部.高美喜男・恵沢岩生・岩元さよ子・斉藤康治(1997)奄美

の野鳥.奄美野鳥の会.山岸哲・森岡弘之・樋口広芳監修(2004)鳥類学辞典.昭

和堂,東京.柳沢紀夫(2004)セイタカシギ . 環境省自然環境局野生生物

課(編),pp. 114.改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物 — レッドデータブック —2 鳥類.財団法人 自然環境研究センター,東京.

Page 21: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

19

 はじめに

近年,南西諸島多良間島の潮上帯転石帯でヤ

エヤマヒメオカガニ Epigrapsus politus,ムラサキ

オカガニ Gecarcoidea lalandii,イワトビベンケイ

ガニ Metasesarma obesum やヤシガニ Birgus latro

の稚ガニなど希少種やその稚ガニの生息が確認さ

れている(藤田・砂川,2008).種子島は鹿児島

県本土からおよそ 40 km 南東に位置し,鹿児島県

内では奄美大島,屋久島に次いで 3 番目に大きい

島である.屋久島は鹿児島県本土からおよそ 60

km 南に位置し,県内では奄美大島に次ぐ規模を

有している.種子島,屋久島の陸水域における甲

殻類相に関する研究は比較的多くなされているが

(Shokita, 1975, 1979; Suzuki et al., 1993; Suzuki et

al., 2000),潮上帯転石帯における調査研究はオカ

ヤドカリ類を対象とした報告のみである(鹿児島

県教育委員会,1987).

著者らは,2009 年夏季に種子島および屋久島

全島の潮上帯転石帯を対象とした甲殻類生息調査

を実施した.その結果,種子島において沖縄県版

レッドデータブック(沖縄県,2005)で準絶滅危

惧種(NT)に指定されているイワトビベンケイ

ガニ Metasesarma obesum および環境省版レッド

データブック(環境省自然環境局野生生物課,

2006)で情報不足(DD),沖縄県版レッドデータ

ブック(沖縄県,2005)で準絶滅危惧種(NT)

に指定されているヒメオカガニ Epigrapsus notatus

の 2 種が採集された.さらに屋久島においてはイ

ワトビベンケイガニ Metasesarma obesum が採集

されたので,ここに報告する.

 材料と方法

調査は,2009 年 8 月 26 日 –30 日に種子島の大

崎漁港(Stn. T-1),大崎漁港奥(Stn. T-2),上古

田下(Stn. T-3),大崎(Stn. T-4),寺之門西部の

漁港(Stn. T-5),大久保(Stn. T-6),浦田海水浴

場左岸(Stn. T-7),浦田海水浴場右岸(Stn. T-8),

久保山(Stn. T-9),白碆から南へ 1.5 km の海岸(Stn.

T-10),浜脇港左岸(Stn. T-11),カガマ瀬左岸(Stn.

T-12),軍場下(Stn. T-13),田之脇(Stn. T-14),

鉄浜海岸(Stn. T-15),犬城海岸(Stn. T-16),中

山海岸(Stn. T-17),竹屋海岸(Stn. T-18),女洲(Stn.

T-19),熊野漁港(Stn. T-20),門倉崎近くの海岸(Stn.

T-21),門倉崎近くの海岸右岸(Stn. T-22),下西

目港右岸(Stn. T-23),下西目港左岸(Stn. T-24),

小田(Stn. T-25),砂坂(Stn. T-26),上之城(Stn.

T-27),牧川(Stn. T-28),深川南(Stn. T-29),箱

崎(Stn. T-30),下石寺養殖場左岸(Stn. T-31),

住吉(Stn. T-32),志和野北部(Stn. T-33),志和

野南部(Stn. T-34)の 34 地点の潮上帯転石帯で行っ

た(図 1).

屋久島においては,2009 年 9 月 1 日 –4 日に田

代海岸(Stn. Y-1),枕状溶岩(Stn. Y-2),安房貯

木場前(Stn. Y-3),春田海岸(Stn. Y-4),中橋下(Stn.

Y-5), 麦 生 港 右 岸(Stn. Y-6), 宮 浦 中 下(Stn.

Y-7),城之川河口(Stn. Y-8),ふれあいパーク下

(Stn. Y-9),女川河口(Stn. Y-10),原漁港(Stn.

希少カニ類 2種の種子島と屋久島における初記録

永江万作 1・鈴木廣志 2・藤田喜久 3・組坂遵治 2・上床雄史郎 2

1 〒 890–0056 鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学水産学研究科2 〒 890–0056 鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学水産学部

3 〒 903–0213 沖縄県中頭郡西原町字千原 1 番地 琉球大学教育センター・NPO 法人海の自然史研究所

   Nagae, M., H. Suzuki, Y. Fujita, J. Kumisaka and Y. Uwatoko.

2010. New records of two rare crabs in Tanegashima Island and Yakushima Island. Nature of Kagoshima 36: 19–22.

HS: Faculty of Fisheries, Kagoshima University, 4–50–20 Shimoarata, Kagoshima 890–0056, Japan (e-mail: [email protected]).

Page 22: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

20

Y-11),平内(Stn. Y-12),深川(Stn. Y-13),大浦

温泉東(Stn. Y-14),中間海水浴場(Stn. Y-15)の

15 地点の潮上帯転石帯で行った(図 1).

調査は,10–20 分の間に転石の間や転石の下を

無作為に探索した.採集はすべて手取りで行った.

なお,本研究で報告したカニ類の標本は,鹿児島

大学総合研究博物館に収蔵した.

 結果と考察

現在,調査結果の解析を継続しているため,本

報告では種子島初記録となる 2 種と屋久島初記録

となる 1 種を記載した.

オカガニ科 Gecarcinidae

ヒメオカガニ Epigrapsus notatus (Heller, 1865)

(図 2.オス;甲長 22.85 mm,甲幅 26.5 mm,標

本登録番号 KAUM–AT–126,採集者:上床雄史郎)

本種は,甲が横に広いまるみのある四角で,額

は甲幅の 1/3 に近くて,広い方である.前側縁に

は,眼窩外歯の後方に,痕跡的な 1 小歯がある.

甲面は,平滑である.頬域は,短い毛でおおわれ

ている.口郭は幅が大きく,外顎脚の外肢は髭を

欠く.ハサミ脚は強大ではなく,歩脚は各節やや

偏圧され,第 2,第 3 対の基部の間には,長い軟

毛の房がある.歩脚の指節は,きわめて細く,先

端は尖っている.2009 年 8 月 28 日と 30 日に種

子島の門倉崎近くの海岸(Stn. T-21,図 3)にて

2 個体採集された.採集場所において,底質の表

面に微量の水の流れが見られた.

国外では台湾,ニコバル,スマトラ北部,サ

モア,およびハルマヘラ島などに分布しており,

国内では石垣島,八丈島から記録されている(酒

井,1976;沖縄県,2005;Ng et al., 2000).近年,

八重山諸島の与那国島と宮古諸島の宮古島でも確

認された(藤田,私信).

ベンケイガニ科 Sesarmidae

イワトビベンケイガニMetasesarma obesum (Dana, 1851)

( 図 4. 種 子 島  オ ス; 甲 長 11.25 mm, 甲 幅 12.9

mm,標本登録番号 KAUM–AT–127,採集者:組坂

遵治)(屋久島 オス;甲長 7.4 mm,甲幅 8.15 mm,

標本登録番号 KAUM–AT–128,採集者:永江万作)

本種は,甲幅 17 mm 未満の小型種で(本研究

では甲幅 5.6 mm から 16.5 mm の個体が採集され

た),甲の前縁は甲幅の 1/2 より大きく,強く下

垂し触覚域を覆う.第 2 触角は眼窩の外に位置し,

図 1.種子島と屋久島における調査地点.

Page 23: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

21

甲の側縁はほぼ平行で歯を有しない.ハサミ脚掌

節の表面はほぼ滑面を呈している.生息場所によ

り色彩変異が見られる.2009 年 8 月 28 日と 29

日に種子島の門倉崎近くの海岸(Stn. T-21),下

石寺養殖場左岸(Stn. T-31),志和野南部(Stn.

T-34)において 4 個体採集された.また 9 月 1 日

に屋久島の麦生港右岸(Stn. Y-6,図 5)において

も 6 個体採集された.

国外では,インド―太平洋に広く分布し,国

内では,奄美大島,沖縄諸島の沖縄島,久米島,

宮古諸島の宮古島,多良間諸島の多良間島,八重

山諸島の石垣島,黒島,西表島,与那国島から報

告されている(Komai et al., 2004; Osawa & Fujita,

2005; 沖縄県,2005; 鈴木ほか,2008).

以上のように,今回報告した 2 種は種子島お

よび屋久島において初記録の種であった.今まで

その生息が確認されなかったのは,これら 2 種が

潮上帯の転石帯に依存して生息しているため,従

来の調査が潮上帯で十分なされなかったことに由

来すると考えられる.また,潮上帯の転石帯が護

岸や海岸道路の建設により消失すれば,これら 2

種が絶滅に瀕する可能性が高くなるので,今後こ

の地域へのかかわり方には十分な配慮が必要と思

われる.

 謝辞

本研究を行うにあたり,採集の協力を頂いた

鹿児島大学水産学部鈴木研究室の学生諸氏に御礼

申し上げる.

図 2.種子島門倉崎近くの海岸で採集されたヒメオカガニ.

図 3.種島島門倉崎近くの海岸におけるヒメオカガニの採集地点.

図 4.種子島門倉崎近くの海岸で採集されたイワトビベンケイガニ.

図 5.屋久島の麦生港右岸におけるイワトビベンケイガニの採集地点.

Page 24: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

22

 引用文献

藤田喜久・砂川博秋,2008.多良間島の洞穴性および陸性十脚甲殻類.宮古島市総合博物館紀要,12: 53–80.

鹿児島県教育委員会,1987.鹿児島県のオカヤドカリ属-生息実態緊急調査報告書-.64 pp.,鹿児島県教育委員会,鹿児島市.

環境省自然環境局野生生物課編,2006.改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物-レッドデータブック- 7 クモ形類・甲殻類等,財団法人自然環境研究センター,86 pp.

Komai, T., Nagai, T., Yogi, A., Naruse, T., Fujita, Y., & Shokita, S., 2004. New records of four grapsoid crabs (Crustacea: Decapoda: Brachyura) from Japan, with notes on four rare species. Natural History Research, 8 (1): 33–63.

Ng, P. K. L., Nakasone, Y., & Kosuge, T., 2000. Presence of the land crab, Epigrapsus politus Heller (Decapoda, Brachyura, Gecarcinidae) in Japan and Christmas Island, with a key to the Japanese Gecarcinidae. Crustaceana, 73: 379–381.

沖縄県編,2005.改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物(動物編)レッドデータおきなわ,沖縄県,561 pp.

Osawa, M., & Fujita, Y., 2005. Epigrapsus politus Heller, 1862 (Crustacea: Decapoda: Brachyura: Gecarcinidae) from Okinawa Island, the Ryukyu Islands, with note on its habitat. Biological Magazine, Okinawa, 43: 59–63.

酒井 恒,1976.日本産蟹類,講談社,東京,461 pp.鈴木廣志・藤田喜久・組坂遵治・永江万作・松岡卓司 ,

2008. 希 少 カ ニ 類 3 種 の 奄 美 大 島 に お け る 初 記 録 . CANCER, 17: 5–7.

Suzuki, H. and Okano, T., 2000. A new freshwater crab of the genus Geothelphusa Stimpson, 1858 (Crustacea: Decapoda: Brachyura: Potamidae) from Yakushima Island, southern Kyushu, Japan, Proceedings of the Biological Society of Washington, 113: 30–38.

Suzuki, H., N. Tanigawa, T. Nagatomo, and E. Tsuda., 1993. Distribution of freshwater caridean shrimps and prawns (Atyidae and Palaemonidae) from southern Kyushu and adjacent islands, Kagoshima Prefecture, Japan. Crustacean Research, 22: 55–64.

諸喜田茂充,1975.琉球列島の陸水エビ類の分布と種分化について- I ,琉球大学理工学部紀要,18: 115–136.

諸喜田茂充,1979.琉球列島の陸水エビ類の分布と種分化について- II ,琉球大学理工学部紀要,28: 193–278.

Page 25: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

23

 はじめに

植物は動物よりはるかに長寿であり,巨大に

なる.寿命では植物が 5000 年に近くなるのに対

し て, 動 物 で は 200 年 に も 満 た な い( 鈴 木,

2002).大きさでも世界最大の植物は,重さでセ

コイアオスギの 1800 トン,高さではセコイアメ

スギの 115.5 m,直径ではメキシコヌマスギの

11.4 m などが知られており,いずれも動物の世界

を大きくしのぐ.このような老木巨木が存在する

ためには,安定した自然環境が長く保たれている

必要があるので,すぐれた自然の指標としても,

巨木や老木の存在は重要である.

鹿児島県の大部分では,本来の自然植生であ

る照葉樹林が伐採されスギやヒノキの針葉樹植林

や二次林に変換された.ただし,同じ照葉樹林地

域でも関東地方などと比較すると温暖な地である

鹿児島では,照葉樹林の構成種が萌芽などにより

再生しやすいので(Itow, 1983),劣化した二次林

でも照葉樹種の若木が数多く発生していることも

珍しくはない.しかし,巨木に育つためには少な

くとも数百年の年月が必要であり,巨木の存在は

そこに豊かな自然が長く保持されていたことを示

す.大隅半島はかつて広大な面積の照葉樹林が

あったとされているが(熊本営林局植生調査係,

1937),現在は稲尾岳と木場岳に比較的まとまっ

た面積であるほかは,各地に小さな林分が点在す

るにすぎない.稲尾岳では,おそらくは太平洋に

近いため強風という自然条件の影響で,巨木がほ

とんどないが,内陸部に残存する小林分で多数の

巨木が最近発見された.その学術上,自然保護上

の価値を本論文では検討する.

 1.大隅半島高野国有林の巨木群

ここ数年,NPO 大隅照葉樹原生林の会などの

有志らが大隅半島の自然の再調査を行ってきてい

たが,肝属郡肝付町の高山川沿いにある高野国有

林の 42 林班ち林小班,通称「金弦の森」で多く

の巨木が発見された.その後,中園らが直径など

の調査を行い鹿児島大学理学部の卒業研究として

報告しているので,その概略を以下に述べる(中

園,2010).なお中園(2010)は高さ 1.3 mでの

胸高直径(DBH)90 cm 以上の個体を調査したが,

環境省では幹周囲 300 cm(DBH = 95.5 cm)以上

を巨木としている.そこで以下には,環境省基準

の巨木だけを取り出して考察する.

この林小班は面積 29 ha であるが,その中に巨

木は 87 本存在した.環境省のデータベースには

対象林小班がある旧高山町からは塚崎と立谷から

合計 5 本が報告されているだけなので,本調査地

域で発見されたものと重複していない.内訳はス

ダジイ 43 本,タブノキ 28 本,イスノキ 14 本,

アカガシ 1 本,ウラジロガシ 1 本であった.最大

胸高直径はスダジイ 169.1 cm,タブノキ 165.0

cm,イスノキ 113.5 cm がアカガシ 108.6 cm,ウ

ラジロガシ 98.9 cm であった.

鹿児島県の巨木―特に大隅半島高野国有林で新たに発見された巨木群について―

鈴木英治 1・中園遼平 2

1 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–35 鹿児島大学理工学研究科地球環境科学専攻2 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–35 鹿児島大学理学部地球環境科学科

   Suzuki, E. and R. Nakazono. 2010. Giant trees in Kagoshima

Prefecture – Especially a stand of giant trees in Takano National Forest, Osumi Peninsular. Nature of Kagoshima 36: 23–27.

ES: Graduate School of Science and Engineering, Kagoshima University, 1–21–35 Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: [email protected]); RN: Faculty of Science, Kagoshima University, 1–21–35 Ko-rimoto, Kagoshima 890–0065, Japan.

Page 26: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

24

 2.鹿児島県の巨木

前節に述べたように高野国有林の巨木群の学

術的価値を考えるために,まず日本や鹿児島県で

報告されている巨木について考えよう.

日本では先に述べたように環境省が中心と

なって,全国の巨樹 ・ 巨木の調査を行い,そのデー

タベースは公開されている <http://www.kyoju.jp/

data/index.html>.1988 年と 2000 年に主な調査が

行われているが,その後の追加もある.幹周囲

300 cm 以上の巨木が,日本全国に 67,518 本ある

とされる.鹿児島県からは 999 本が報告されてい

る.面積比率で考えると日本全国では,0.18 本 /

km2 の密度で巨木があるのに対して,鹿児島は

0.11 本 /km2 なので,鹿児島県は面積の割には平

均すると巨木が少ない.しかし,全国の巨木の中

でも最大直径をもつ木は蒲生の大クスであり,さ

らに上位 20 本のうち,5 本が鹿児島県に産する.

5 本のうち 1 本が縄文杉で,その他 4 本は蒲生の

大クスほかのクスノキである.なお大隅半島では,

その範囲を 2000 年当時の行政区画で曽於郡,肝

属郡,鹿屋市と考えると,154 本の巨木があった.

このように,鹿児島県全体でも 999 本の巨木

しかないが,高野国有林の 1 林班 29 ha だけで 87

本もの巨木が存在し,その密度は県平均の約

3000 倍にもなる.また大隅半島全体の巨木本数

の 56% に相当する.もちろん林しかない 1 林小

班だけの面積当たりの密度と,道路や家まで含ん

だ県面積当たりの密度を単純には比較できない.

そこで環境省生物多様性センターが運営するイン

ターネット自然研究所の統計(自然保護各種デー

タ一覧) <http://www.sizenken.biodic.go.jp/park/info/

datalist/> によれば,国立 ・ 国定 ・ 県立公園など自

然保護地域は,鹿児島県では平成 18 年に県面積

の 9% を占めるので,そのような保護区だけに巨

樹があると考えても,高野国有林の巨木密度は約

300 倍になり,巨木の密度が非常に高いことが分

かる.

 巨木の種類構成

次に種類組成を考えるために,鹿児島県で 10

本以上出現する種の本数と高野国有林で発見され

た本数を表 1 に示す.県全体で発見されたものは,

多い種からクスノキ,スギ,アコウ,タブノキ,

イチョウの順になり,合計 65 種が出現した.全

国ではスギ,ケヤキ,クスノキ,イチョウの順に

なる.クスノキは蒲生町の大クスだけでなく鹿児

島の巨木の 18% を占める.巨木には植栽された

と思われる種類が多いことも特徴である.クスノ

キは日本では本州四国九州の暖地に見られるが野

生かどうかはわからない(佐竹他,1989)とされ

る.実際にはほとんどが植栽と思われる.本数順

位で 7 位のセンダンも同様に自生種であるが植栽

が多いだろう.本数 2 位のスギは,九州本土では

大崩山のごく一部以外では自生していないと言わ

るので(中尾他,1986),屋久島の 58 本を除いた

80 本は植栽されたものであろう.イチョウは中

国原産の植物であるから,すべてが植栽起源であ

樹種 鹿児島県本数 高野国有林

クスノキ * 181

スギ * 138

アコウ 86

タブノキ 60 28

イチョウ * 54

スダジイ 54 43

センダン * 48

デイゴ 40

ガジュマル 38

モミ 27

イチイガシ 25

イスノキ 24 14

ツガ 22

イヌマキ 18

ムクノキ 18

エノキ 16

クロマツ 14

ヤマグルマ 12

ケヤキ 11

その他 46 種 113 2

合計 999 87

表 1.鹿児島県の巨木.10 本以上出現する種について種名を示した.鹿児島県の本数は環境省データベース,高野国有林は中園(2010)による.星印は植栽が多いと考えられる種.

Page 27: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

25

る.それらを合わせると 363 本になるが,他の種

でも植栽されたものが混ざっているので,巨木の

少なくとも 3 割以上(おそらく半数以上)が植栽

されたものといえよう.鈴木(2002)も述べてい

るが,自然林内の巨木が少ないことは,調査が不

十分であることも一因だが,手入れされている植

栽木のほうが老木になっても生き残りやすいこと

も影響しているだろう.

高野国有林のデータと鹿児島県全体のデータ

を比較すると,種組成は大きく異なっていること

がわかる.高野国有林には 5 種しか出現しないが,

タブノキは県全体で 60 本に対して高野 28 本,ス

ダジイは,54 本:43 本,イスノキは 24 本:14

本である.特に,鹿児島県の自然植生である照葉

樹林を代表するスダジイ巨木が,鹿児島県全体で

も 54 本しかないのに対して,その 79% に相当す

る 43 本も見いだされたことは注目に値する.

 地域間の巨木種組成の違い

次に地域ごとの特徴を見るために,市,郡別

に巨木をまとめ,上位の 10 の市郡の本数を示し

たものが表 2 である.なお,調査はほとんどが

2000 年以前に行われているので,近年の市町村

合併以前の地名に基づいている.巨木の最も多い

のが姶良郡の 178 本であり,熊毛郡の 148 本がそ

れに次ぐ.屋久島を含む熊毛郡に巨木が多いのは

理解しやすいが,姶良郡で巨木本数が最多である

ことには奇異な印象を持つかもしれない.しかし

姶良郡には日本一の巨木である蒲生町の大クスが

あるほか霧島山麓に森林が広がるので,本数が多

いのであろう.姶良郡で 10 本以上ある樹種はス

ギ,クスノキ,タブノキ,スダジイ,モミ,イチョ

ウ,センダンが出現している.面積あたりの本数

でも上位 10 の市郡の中で 2 位の値である.屋久

島は姶良郡に次ぐが面積あたりの本数が 5 位であ

り,山深いので発見されていない個体がまだある

のかもしれない.市では鹿児島市と枕崎市が入っ

ているが,そのほとんどが植栽と思われる.鹿児

島市では城山のクスノキが城山の 8 本の他 47%

を占めるほか,植栽と思われるものがほとんどで

あり,枕崎市も神社や小学校の植栽が多い.

さらに,出現する巨木の樹種に地域間の類似

性 が あ る か を 調 べ る た め に,DCA (Detrended

correspondence analysis) という多変量解析の一種

のプログラムで (Hill & Gauch, 1980),地域の関係

を調べたものが図 1 である.ここでは,高野国有

林の巨木群のデータも取り入れた.図中で近い位

置にある地域では,巨木の種類が似ていることに

なる.亜熱帯の奄美大島を含む大島郡は 1 軸のス

コア値が大きく,十島村三島村を含む鹿児島郡が

それに続き,屋久島を含む熊毛郡や種子島の西之

表市も比較的大きい.反対に大口市の 1 軸の値は

小さく,1 軸のスコアはおよそ南北の位置関係に

対応している.2 軸の値スコアが大きい地区は鹿

児島市,指宿市がなど薩摩半島の地域,それも市

が多い.2 軸ゼロ付近には郡が多い.新たに発見

された高野国有林のデータは 2 軸の値が他の地域

から飛び離れて小さい.2 軸は薩摩半島と大隅半

島という東西の違いまたは,自然度が低い地域と

自然度の高い地域を表しているように見える.

以上のように巨木種組成の地域差は,南北に

よる温度条件,自然度の違いなどを反映している

ように思われる.巨木には植栽されたものが多い

が,植栽樹でも巨木に至るまで生き続けるために

はそこの環境に適合している必要があるので,そ

市,郡 本数 密度 ( 本 /km2)

姶良郡 178 0.47

熊毛郡 148 0.19

曽於郡 84 0.10

大島郡 71 0.06

鹿児島市 57 0.20

肝属郡 56 0.07

薩摩郡 51 0.07

揖宿郡 50 0.21

枕崎市 42 0.56

鹿児島郡 35 0.16

その他の地域 227 0.06

合計 999 0.11

表 2.鹿児島県内で巨木が多い上位 10 の市郡.市 ・ 郡の定義は 2000 年当時のもの.

Page 28: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

26

の地の自然環境に適したものが生き残っているの

であろう.

そして高野国有林の巨木群が他の地域とは全

く異なる種群であることを,この解析結果は示し

ている.すなわち高野国有林の 87 本は,鹿児島

県の 999 本の一部ではなく,他に替えがたい集団

である.

樹種の間でも同じような地域に出現しやすい

種と,そうでない種があるはずだが,種に関する

DCA の解析結果を示したものが図 2 である.亜

熱帯に多いデイゴとガジュマルは第1スコアの値

が大きく,同じような所に出現しやすいが,アコ

ウは少し離れている.地域のスコアで,大島郡な

ど南の地域で第一軸スコアが大きいことと対応す

るだろう.それらの左にヤマグルマ,ツガ,スギ

などがあるがこれらは熊毛郡の屋久島と対応す

る.第 2 スコアが非常に小さい種類はイスノキと

スダジイであり,高野国有林の第二スコアが小さ

いことと対応している.自然度が高い地域の指標

としてこれら 2 種の巨木の存在が使えるだろう.

逆に第二スコアが大きいクロマツは植栽が多く,

日置市,揖宿郡など海岸にクロマツが多い地域の

第二スコアが大きいことと対応している.ケヤキ,

エノキ,イチョウ,センダン,ムクノキなどの落

葉樹も,第一スコアがマイナスで比較的近い位置

にある.一般に自然界で見られる種類の組み合わ

せと比較して考えて,納得できるまとまり方をし

ており,巨木はそれぞれの自然条件に合った場所

に生育していることをうかがわせる.

 結論

大隅半島の高野国有林の 29 ha の 1 林小班で幹

周囲 300 cm 以上の巨木が 87 本も発見された.こ

れは鹿児島県全体で今まで発見された巨木の

8.7% にも相当する.

またその種組成は,植栽が多い県全体の巨木

の種組成とは大きく異なり,自然度が高く独自な

ものである.中でも鹿児島の本来の自然を代表す

る樹種であり県全体で 54 本しか発見されていな

いスダジイ巨木が,その 8 割にも相当する 43 本

も見いだされたことは特筆される.国や県の天然

記念物指定などの保護処置が望まれる.

 謝辞

高野国有林の巨木林は,NPO 大隅照葉樹原生

林の会の角田冨士光氏 ・ 米永新人氏・吉井三郎氏

他の会員によって発見されたものである.また直

径などの現地調査も同会員の方のご尽力によって

進めることができた.鹿児島大学理学部岩重佑樹,

川崎昌達,川野勇気各氏には現地調査を手伝って

図 1.巨木の樹種別出現個体数を使い DCA によって地域を比較.似た種組成を持つ地域は,DCA の第 1 第 2 スコアの値が似ており,図中で近くに表示される.10 本以上出現する種と 10 本以上出現する地域の資料により計算.

図 2.樹種ごとの DCA の第 1 第 2 スコア.同じような地域によく出現する種類は,近いスコアを持つ.

Page 29: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

27

いただいた.大隅森林管理署には入林の許可をい

ただいた.環境省生物多様性センター長の水谷知

生氏には,環境省の巨木データの使用を許可して

いただいた.記して感謝の意を表する.

 引用文献

Hill, M.O. and Gauch, H.G. (1980) Detrended correspondence analysis: an improved ordination technique. Vegetatio 42: 47–58.

Itow, S. (1983) Secondary forests and coppices in southwestern Japan. In “Man's impact on vegetation (W. Holzner, M. J. A. Werger and I. Ikushima eds.)” 317–326. Dr. W. Junk Publishers, The Hauge.

熊本営林局植生調査係 (1937) 管内国有天然林植生調査の概要(南隅半島の植生)研修(付録)22 (7): 1–71.

中尾登志雄 ・ 黒木嘉久 ・ 細山田典昭 ・ 遠山三郎 (1986) 九州本土の天然杉-大崩山系鬼ノ目山のスギ群落.森林立地 28 (2): 1–10.

中園遼平 (2010) 鹿児島県肝付町二股の金弦の森における巨木群の生態.鹿児島大学理学部地球環境科学科 卒業論文.

佐竹義輔 ・ 原 寛 ・ 亘理俊次 ・ 冨成忠夫 (1989) 日本の野生植物 木本 I.平凡社.

鈴木英治 (2002) 植物はなぜ 5000 年も生きるのか ― 寿命からみた動物と植物のちがい.講談社.

Page 30: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

28

Page 31: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

29

自然保護の新しい展望

田中俊徳

〒 606–8501 京都市左京区吉田本町 京都大学大学院地球環境学舎

 はじめに

自然保護に関して政治行政や国際関係といっ

たマクロな視点による研究はこれまで希薄であっ

たが,自然保護における問題要因が複雑化,多様

化しつつある昨今において,広い視野を持って課

題の解決にあたる姿勢は不可欠である.筆者は下

記の各種プロジェクトに参加し,政治行政や国際

関係といった視点から自然保護に関する研究をし

ている.得られた知見を紹介することで,自然保

護研究の一助となれば幸いである.

-筆者の参加しているプロジェクト等-

 住友財団環境研究助成(2009 年 11 月終了)「地

域の持続可能な発展に向けた環境政策統合」

 三菱財団人文科学研究助成(継続中)「『自然保

護ガバナンス』の理論化と実証研究」

 文部科学省グローバル COE プログラム(継続

中)「アジア・メガシティの人間安全保障工学拠点」

 大阪大学産学連携推進本部特任研究員(ユネス

コ日本政府代表部 / 2010 年 4 月開始予定)「太平

洋島嶼国における自然・文化保全戦略」

ワールドウォッチ研究所 地球白書 2010/2011 翻

訳「安全保障概念の拡大」(マイケル・レナー)

上記プロジェクトの中には,自然保護に限ら

ず政治学や国際関係学における先進的な議論が散

見される.以下でこれまでの自然保護,これから

の自然保護について端的に述べる.

 「規制行政」としての自然保護-ポリシー ・  ミックスと政策統合

自然保護と言ってもその理念や手法,哲学は

多岐に渡る.本稿では字数の制限もあるので,手

法について簡単に述べたい.一般的に自然保護(保

護区の指定,保全管理)の主体となるのは国家や

地方政府であるが,欧米をベースとした国際

NGO の 中 に は, ナ シ ョ ナ ル ・ ト ラ ス ト(The

National Trust)やネイチャー・コンサーヴァーシー

(The Nature Conservancy)に代表されるように,

対象となる土地を買い上げ自ら地権者となること

で自然保護を担保しようとする手法もある.土地

の買い上げは自然保護を達成する際に最も効率的

な手法だと言える(もっとも大型公共工事など国

家的プロジェクトの際には地権者の意思が金や脅

迫に晒されることが多い).しかし,一般的にそ

れだけの資金力を得ることは容易ではないし,土

地を取得した後の保全管理には一層の困難が伴う

ために,民間による土地取得はピンポイントの保

全手法としては効果的であるが,国レベル,国際

レベルでの自然保護を実現する手法とは言いがた

い.よって,現時点において自然保護の主体となっ

ているのは国や地方政府(州や県,町など)であ

る.具体的には国立公園や州立公園,天然記念物

などがそうであるが,これらも大きく 2 つに分類

される.つまり,国有地を自然保護区に専用する

「営造物制」と国有地や私有地を問わず網掛けが

なされる「地域制」という手法である.アメリカ

やカナダ,オーストラリアなど新大陸国家におい

ては前者が採用され,日本や韓国,ヨーロッパと

いった古くから複雑かつ高密度な土地利用のなさ

れてきた歴史国家では後者が採用されている.営

造物制の場合,地権者の意思をシンプルに反映す

   Tanaka, T. 2010. A new perspective of nature conservation.

Nature of Kagoshima 36: 29–32. Graduate School of Global Environmental Studies, Kyoto

University, Yoshida-Honmachi, Sakyo, Kyoto 606–8501, Japan (e-mail: [email protected]).

Page 32: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

30

ることが可能で国民にとっては「公共サービス」

であるため国民の関心は高く,支持も概して高い.

一方,地域制の場合,私有地や国有林などを含む

ために地域の存在意義は多様であり,自然保護は

地域住民にとっては「規制行政」と映るだろう.

そこで自然保護区の設定,拡張においては外貨獲

得やインフラ整備,マス ・ ツーリズムによる地域

振興といった反対給付が用意されることが多かっ

た.とりわけ日本で 50–60 年代に国立公園が急拡

大した背景にはこうした反対給付があった.しか

し,これらインフラ整備やマス ・ ツーリズムは自

然保護と矛盾した部分があるのも確かである.こ

れらは政策を効率的に実現するためのポリシー ・

ミックスとは呼べない.ポリシー・ミックスとは

政策の効果的実現を図るために経済インセンティ

ブや規制緩和などを組み合わせる手法のことであ

る.例えば,イノシシやシカといった野生鳥獣を

農作物被害や生態系被害の視点から減らす必要が

あれば,有害鳥獣捕獲に対して報奨金が給付され

たり(経済的インセンティブ),狩猟期間の延長

やメスの捕獲解禁などの規制緩和が組み合わされ

るだろう.一方で,野生生物管理という単一の政

策課題内のみで解決できる問題は実は限られてい

る.より広い視点から考えれば,自然保護区内に

おける頭数抑制の必要性や過疎化、少子高齢化が

進んでいる人口動態などより本質的な問題に気が

つくはずである.その際に,自然保護政策や農業

政策,人口政策といった他政策との緊密な連携を

取ることができれば有害鳥獣問題はより抜本的解

決を図ることが出来るだろう.しかし,そのよう

な連携が効果的に実現されることは少ない.行政

におけるセクショナリズムやインクリメンタリズ

ムが影響していることも多い(手垢のついた言葉

で言えば縦割り行政や前例踏襲主義と言える).

そこで政策統合の考え方が必要となる.

 環境政策統合 (Environmental Policy Integration/EPI)

政策統合は端的に言えば,「異なる政策目的と

手段を政策形成の初期の段階から計画的に統合

し,これにより政策間の矛盾を取り除き,共通の

便益を生み出し,相互補強的な効果を期待するも

の」(松下,2010)である.例えば,21 世紀最大

の課題と言われる環境問題に対しては,米オバマ

政権で実施された「グリーン・ニュー・ディール

(Green New Deal)」で見られたように,雇用や福

祉,経済活性化といった各種政策に横断的に環境

に配慮した政策を統合的に組み込むことで効果的

政策パッケージを実現している.EPI は政策研究

の分野でも比較的新しい概念であり,世界レベル

では EU 統合の際に議論されたものである.ポリ

シー ・ ミックスが政策内における効果的手法を目

指したのに対し,政策統合は政策間の矛盾を取り

除き効果的に命題を達成する手法である.もっと

も,その際には各政策の矛盾が露見したり調整困

難な場合もあるが,少なくとも政策の優先順位を

明確にしたり,調整可能な範囲で政策間矛盾を取

り除くことで政策の効率を高めることが可能にな

るだろう.行政の現場における各種弊害を取り除

くために有効な概念だと言える.つまり,問題要

因の多様化,複雑化している自然保護においても,

自然保護政策内で対応可能な問題は限定的になり

つつあり,より広い視野から政策間連携を図る必

要性が増しているのである.筆者が本誌前号

(2009)で自然保護ガバナンスの考え方を述べて

いるが,これは主体間連携や順応的管理といった

基礎的な考え方を提示したに過ぎない(cf. 田中,

2010a).政策の内外を問わず主体間の連携は不可

欠であるが,その際に「自然保護」をどのように

規定し戦略として実行するかが問われていると言

える.次項では自然保護の新しい展望について考

えてみたい.

 自然保護の新しい展望-「自然保護」概念の拡大

自然保護を達成するために政策間の連携が欠

かせないことを政策統合の視点から上述したが,

今後より重要になるのは「自然保護」概念の拡大

を通して,政策優先度を高める作業の必要性であ

る.例えば,地方分権や気候変動,外交や食糧政

策といった政策優先度の高い分野との連携が想定

される.「死膳で飯は食えない」とは開発派の有

名な文句であるが,自然保護を持続可能な形で達

成するには,地域の持続可能な発展との両立が不

Page 33: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

31

可欠となる.つまり,闇雲に公共事業を批判する

だけではなく,自然保護の立場からどのような選

択肢を提供できるかが問われているのである.そ

の方策には,持続可能な観光のような代替的な産

業を創出したり,自然に内在する価値を数値化す

ることで,客観性を提供する作業などが挙げられ

る.自然の価値算出は,これまで直接・間接利用

価値(木材や土砂,観光など)に限定的だったが,

将来世代における価値(オプション価値)や非利

用価値(存在価値,遺産価値)といった部分にま

で視野を広げた研究が活性化している(cf. 栗山・

庄 子,2005,Fauna & Flora International,2008).

国際 NGO がイニシアティブを採る途上国の自然

保護地域では生態系サービスを防災や人間の安全

保障といった高次の問題とリンクさせることで自

然保護の政策優先度を戦略的に高める方策を採ら

れることがある.従来,安全保障概念は軍事や外

交といった「国家」の安全保障に限られていた.

しかし,昨今は安全保障概念を貧困や環境,疾病

といった分野に拡大して考える傾向が見られる.

一つには,元来,戦争や紛争といった問題は貧困

や不平等,社会不安などに起因しており,これら

を予防的に解消することで,安全保障を補完する

ことができるからである.つまり,安全保障概念

の解釈は国家から個人へと拡大されつつある.一

方で,人道的観点からは,貧困や疾病,失業といっ

た社会問題を安全保障とリンクさせることで政策

優先度を高める狙いもある.このように個人レベ

ルでの安全保障を実現することを目指す戦略を

「 人 間 の 安 全 保 障 」(Human Security) と 呼 び,

2000 年に国連で採択されたミレニアム開発目標

(Millennium Development Goals / MDGs)の概念と

も共通する命題である.

同様に自然保護概念も安全保障や外交といっ

た高次の問題とリンクさせることが可能である.

例えば,筆者も翻訳に参加している地球白書

2010/2011( 未 刊 ) で は,Michael Renner が

Broadening the Understanding of Security と い う 論

文の中で平和公園(国際公園)が環境和平に貢献

しうる可能性について提言している.つまり,国

境紛争の生じている地域に二国間,または,多国

間共同の自然保護地域を設置することで,紛争の

解決を図り,両国間の協力関係を築く.そうする

ことで結果的に安全保障が達成されるという論理

である.現在,世界には 188 の国際自然保護地域

が存在するが,大多数が国境紛争の無い地域に存

在している.一方,1995 年に国境紛争の続いて

いたペルーとエクアドルの国境地帯に自然保護回

廊が設置された例があり,知床と国後島における

協力的生態系管理を通じて和平を構築する可能性

などが挙げられる(Renner,2009).事実,北方

四島の返還は日本においても高い政策優先度を

持っており,知床世界遺産区域を北方領土に拡大

する構想が検討されている(衆議院,2008).

また,田中(2010b)は自然保護行政を地方分

権という政治命題とリンクさせることで自然保護

の政策優先度を高める可能性について示唆してい

る.イギリスの国立公園は「自然保護と地域の持

続可能な発展」を命題に掲げて機動的,能率的な

政策を実現している.さらに,海外では,生態系

と気候変動の関連性について多くの研究がなされ

ており,様々な取り組みがなされているが,日本

の自然保護地域において気候変動との連携が十分

に 取 れ て い な い の は 疑 問 で あ る(cf. World

Heritage Centre, 2006).つい先日参加した知床で

の科学委員会(2010/2/15)では知床で初めて気

候変動に関する意見交換を開始する旨の告知が

あったが,客観的に見れば遅すぎる取り組みであ

る.同じ環境省の中に地球環境局と自然環境局が

ありながら,相互の連携が十分に取れていない点

も指摘せざるを得ない.自然保護地域を環境教育

の演習場とするような実践的取り組みが少ないこ

とも残念でならない.

 「太平洋島嶼国における自然・文化保全戦略」

もう一つ例を挙げたい.筆者は 2010 年 4 月か

らユネスコ日本政府代表部において標記の研究を

する予定だが,これも政策間の連携を通して自然

保護の政策優先度を高める実験である.日本の島

嶼 地 域 同 様, 島 嶼 開 発 途 上 国(Small Island

Development States / SIDS)は概して経済的に貧し

く自然保護まで政治的配慮がまわらない.国連や

Page 34: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

32

ユネスコでも SIDS における各種プログラムを立

ち上げ自然・文化保全の戦略を検討しているが,

日本もこれら地域の自然・文化保全といったソフ

ト面で支援することは外交戦略にも合致している

と思われる.例えば,日本が国連の常任理事国入

りを検討した際にアフリカ諸国はじめ各国の同意

を取り付けようと奔走したことがあったように,

外交で優位に立つことは国家の安全保障を考えた

際に極めて重要である.国連の決議はアメリカや

中国のような大国もツバルやキリバスのような小

国も等しく一票を持っている(もっとも五大国に

は拒否権などの特権がある).アフリカや島嶼国

といった地域は諸特徴を共有しており,政治的に

も共通の行動を取りやすい.これまでのように

ODA を中心として自然破壊の公共工事を「輸出」

するだけでは日本の国際的プレゼンスは磐石とい

えない(事実,日本の ODA は様々な批判にさら

されている).そこで,地域の持続可能な発展と

自然・文化保全戦略を両立させるソフト支援は日

本の外交戦略上も有益だと言える.例えば,昨年

12 月にコペンハーゲンで開催された COP15 は実

質的に失敗に終わったわけだが,この中で注目に

値するのは,従来の先進国対途上国という構図に

ツバルなどの島嶼国が一石を投じた点である.気

候変動に伴う海水面上昇によって亡国の危機に晒

されている島嶼国は中国やインドに対して責任あ

る対処を求め先進国と同調姿勢を示している.世

界で約 50 カ国にも上るこれら島嶼国のうち半数

以上が太平洋に集中しており,これら主権国家集

団と友好関係を深めることは外交面から見ても戦

略的である.自然保護研究は今後,このように外

交や安全保障,気候変動といった国際的優先度の

高い政策課題と連携させるなどの巨視的な取組も

重要と考えている.

 まとめ

従来の自然保護研究は生態学や林政に偏り,政

治行政や国際関係といったマクロな接近が少な

かった.問題要因が複雑化,多様化する昨今にお

いて,自然保護はより戦略的にならねばならない.

それは,従来の経済的インセンティブを組み込む

ポリシー ・ ミックスや主体間連携の促進といった

レベルからさらに一歩進み,政策優先度そのもの

を高める野心的姿勢ではないだろうか(もっとも

その初期的戦略すら日本では十分ではない).日

本の自然保護地域は環境教育やエコツーリズム,

ひいては人々の感動や幸福といったレベルにおい

ても極めて高いポテンシャルを秘めている.その

可能性に気づき,旧弊な認識の壁を壊していく作

業こそ現在の日本の自然保護政策に求められてい

るのだろう.日本の美しい自然や文化を守り楽し

むことと,地域の持続可能な発展を両立させるこ

とは可能だと信じている.

 謝辞

屋久島の小原比呂志さん,牧瀬一郎さんはじ

め,日ごろよりお世話になっている皆様に心より

感謝申し上げます.また,毎月南日本新聞の切抜

きを送ってくれる両親に感謝いたします.

 引用文献

栗山浩一,庄子康(2005)「環境と観光の経済評価-国立公園の維持と管理」勁草書房.

鈴木宗男(2008)「知床における世界自然遺産区域を北方領土まで拡張させる構想に対する政府の見解に関する第三回質問主意書」衆議院質問本文情報.http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a169404.htm(2010/2/22)

田中俊徳(2009)「自然保護ガバナンスの考え方」『Nature of Kagoshima』31 pp 31–33.

田中俊徳(2010a)「日本の国立公園における自然保護ガバナンスの必要性」『人間と環境』36(1) pp 2–18.

田中俊徳(2010b)「自然保護行政から考える新しい政治~舵取り、政策統合、ガバナンス」『季刊 政策 ・ 経営研究』三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング 13 pp 103–111.

松下和夫(2010)「持続可能性のための環境政策統合とその今日的政策含意」『環境経済・政策研究』環境経済・政策学会 pp 21–30.

Fauna & Flora International (2008) The Magazine of Fauna & Flora International Issue 11- October 2008.

Renner, Michael (2009) “Broadening the Understanding of Security”, State of the World 2010 Worldwatch Institute pp 127–132.

UNESCO World Heritage Centre (2006) World Heritage NO.42.

Page 35: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

33

 はじめに

平成 21 年度,指宿市の市民グループ「指宿ムー

ビープロジェクト」の自主制作映画は,その前年

夏に「知林ヶ島」を題材にあったシナリオコンテ

ストで,優秀作品賞となった拙著「砂の道の向こ

う」を基にした映画である.

文系・法学部出身の私は,自然について知っ

ていただく方法としての文芸に関心がある.「ネ

イチャー・ライティング」とも言われ,自然観察

会や講演会よりも広範囲の人々に,メッセージを

届けられる方法と考える.

今回の映画は,今年元旦からの IT による映像

公開,指宿市内,伊佐市,鹿児島市での 5 回の公

式上映会,地域のミニ上映会により,既に概算 2

千人を超える人々が観覧された.また,(財)日

本自然保護協会では,「もうひとつの自然保護活

動」として,機関紙記事に取り上げていただいた.

観覧者は,国外にまでいらっしゃるという.

 きっかけと三つの目的

私は,指宿地区のパーク(国立公園)ボランティ

アとして,知林ヶ島の見える国民休暇村周辺で長

く活動している.12 年前の自然観察会の休憩の

散歩の時,指宿市内の小学生の女の子が,「いつ

もおじいちゃんとお参りするお墓がある.あっち

よ」と,休暇村の敷地内にある慰霊碑公園に連れ

て行ってくれた.私は,その場所で初めて,自然

の中を過ぎた厳しい歴史を知り,いつかこのこと

を伝えたいと思った.

(1) 霧島屋久国立公園・指宿地区の豊かな自然

に目を向けて欲しい.…「知林ヶ島」と「砂の道」

の存在を知っていただき,周りの美しい自然を

守っていきたい.

(2) 指宿海軍航空隊の歴史を知って欲しい.…

自然に比べ,ちっぽけな人間の歴史かもしれませ

ん.しかし,いつの時代にも,与えられた人生を

懸命に生きた名も無き人々の歴史があります.昭

和 20 年,海に浮かぶためのフロートをつけた水

上偵察機による特攻隊が発進する日本本土最後の

基地,それが魚見岳の麓にあったのです.当時と

しては世界有数の優秀な飛行機だったとは言え,

戦闘能力の小さい偵察用水上飛行機まで使わなけ

ればならなかった時代の苦しみと悲しみ,そして

ひたむきな人々の生き様を知っていただきたい.

(3) 命の大切さを考え,生き続けて欲しい.…

現代は自殺が増えている.だからこそ,生きたく

ても生きることを許されない世代があったことを

考えて欲しい.戦場で倒れた多くの人々のことも.

現代はこの人々の献身と忍耐によって作りあげら

れたと思う.私達は,そのご苦労に報い,命を大

切に生き続けたい.

 「砂の道のむこう」応募シナリオ案

 原作は,400 字詰め原稿用紙 70 枚の中編小説,

平成 20 年という節目の年に,同じ節目の年となっ

た昭和 20 年を書いた(応募案のまま,名前など

が映画と異なる).

●登場人物

柳瀬良行 指宿海軍航空基地・中尉(24)

新田靖恵 指宿高等女学校音楽教師(21)

柳瀬靖恵 旧姓新田(しんでん)靖恵(83)

内田恭一 環境省・指宿自然保護官(36)

映画「砂の道の向こう」で伝えたいこと

柳田一郎

〒 890–0034 鹿児島市田上 5–16–34 環境カウンセラー・鹿児島県霧島国際音楽ホール

   Yanagita, I. 2009. Implications of the film, "behind a sandy

path". Nature of Kagoshima 36: 33–36. 5–16–34 Tagami, Kagoshima 890–0034, Japan (e-mail:

[email protected]; tel: 099–258–2710). URL: http://www5.synapse.ne.jp/ecoiy/synapse-auto-page/

Page 36: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

34

日高優子 同・指宿自然保護官補佐(24)

中島 稔 国立公園ボランティア(82)

指宿高等女学校生徒二人

小・中・高校生達 指宿田良浜エコクラブ員

その他砂州をわたる観光客など多数

●あらすじ

(現代・田良浜)

 老後の柳瀬靖恵は,かつて海軍航空隊基地が

あった田良岬で過ごすのが日課である.沖には知

林ヶ島が浮かび,干潮の時にできる砂の道を渡る

人々を見るのが楽しみである.しばらく入院して

いたので,この日は久し振りに浜に来ている.今

日も砂の道をたくさんの人が楽しそうに渡って行

く.靖恵が大好きな,豊かで平和な指宿の光景で

ある.

 子供達の賑やかな声がして,近くの田良浜エコ

クラブの子供達と指導の環境省のレンジャーや国

立公園ボランティアの一団が近づいて来る.久し

振りに会った靖恵の姿に,皆が優しく声を掛け,

靖恵も楽しく答える.子供達は,知林ヶ島での貝

の観察会と清掃活動に行くと言う.靖恵が激励す

ると,お土産の約束をして歩いて行く.

 遅れてボランティアで靖恵の同級生の中島が

走って来る.もつれて転びそうになる中島を靖恵

がからかう.靖恵は皆を見送ると,ついうとうと

した.

(昭和 20 年・指宿高等女学校正門前から)

 昭和 20 年初夏,女学校の美しく優しい音楽教

師であった靖恵は,生徒達の憧れであった.今日

も靖恵の帰りを待った 2 人の生徒から,結婚の噂

は本当かと聞かれていた.3 人が正門を出た時,

海軍中尉柳瀬良行が声を掛けてきた.靖恵の婚約

者と気付いた女学生達は,嬉しそうに,しかし大

騒ぎしながら走って逃げていった.

 良行は広島県呉基地の訓練に行く事を告げ,結

婚を延期したいと言った.2 人は人目を避け,田

良浜の松林を歩いた.砂の道の見える浜で靖恵は

良行を叱責した.

 厳しい戦局の中戦うのは男達だけではない事,

女達も覚悟を持って生きている事,そして何より

も大切な人のために生きたい事,時間は無くても

後悔しない事を訴えた.良行が呉に行く前日,2

人の結婚式が質素に,しかし心をこめて執り行わ

れた.

 良行は話さなかったが,呉の訓練は,指宿基地

の水上偵察機を使っての特攻訓練であった.戦局

は終に,海に浮かぶフロートをつけた速度の遅い

水上偵察機による特攻作戦まで必要とした.呉か

ら帰り,短い期間の暮らしを終えると良行は出撃

した.出撃前夜,良行は靖恵に,また砂の道で会

おうと言った.

 指宿海軍航空隊水偵神風特別攻撃隊柳瀬中尉以

下 4 機は,昭和 20 年 7 月 3 日夜明け前,沖縄周

辺海域において敵駆逐艦に遭遇,激烈な対空砲火

の中を突入,消息を絶った.

(現代・田良浜)

 エコクラブの子ども達が知林ヶ島から砂の道を

渡って帰って来る.高校生達は両手にごみ袋を下

げている.しかし,それは中身があまり入っては

いない.小さい子供達は,靖恵にお土産の貝殻と

イカの骨を渡す.みんながいつも大切にしてくれ

るからごみも少ないと靖恵が喜ぶと,子ども達が

知林ヶ島と周りに広がる国立公園の自然を大切に

すると約束する.中島が身体を大事にとねぎらう

と,靖恵はあなたもねと笑って答える.

(夕暮れが迫り,指宿の街に灯がともる)

 靖恵がそろそろ帰ろうと立ち上がった時,消え

ていくはずの砂の道を誰かが歩いて来ることに気

付く.靖恵が驚きの声を上げる.

 良行が,あの日のままの姿で,砂の道を靖恵の

方へ歩いて来る.気がつくと,いつの間にか靖恵

も若い時の姿に返っている.

 決して忘れる事のなかった,愛しい人のりりし

い敬礼が目の前にあった.

 「靖恵,待たせたね」

 「良行さん,あなたはどうして」

 「君との大事な約束だからね.会いに来たよ.

そうだ,ひとつ聞いていいだろうか」

 「ええ,何をですか」

Page 37: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

35

 「私は君達を守れたのだろうか」

 「良行さん,あなた達は立派でした.見て,指

宿の町はこんなにも明るくて,美しくて,平和よ.

子供達も大人達もみんな元気よ.みんなあなた達

を忘れないわ」

 「それを聞いて安心したよ.良い国になったん

だね.さあ行こう.砂の道のむこうで,みんなが

待っているよ」

 柳瀬靖恵は,大好きな浜辺で 83 年の生涯を終

えた.遠くで鈴の音が聞こえていた (完).

Page 38: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

36

 最後に

(1) 原作小説「砂の道の向こう」発刊

鹿児島市での上映会の 2 月 28 日,原作小説を

発刊した.これからのミニ上映会の会場で,直接

手から手へと,お届けするつもりである.

(2) 映画への期待

55 歳の私の書いた「重い」原作が,24 歳の女

性監督の手によって,「可愛く若々しい」映画に

変身した.嬉しいことである.

知林ヶ島の砂州を観光に来る人が増え,21 年

4 月には,環境省の工事により島内の一周遊歩道

が完成した.人々に島の自然に親しんでもらうと

ともに,自然に触れるマナーもお知らせしなけれ

ばならない.

映画「砂の道の向こう」が,そのお役にたて

るなら,さらに嬉しいことである.

なお,今後各地で上映会を計画したい.映画

を見たいというご要望があったら,是非ご連絡い

ただきたい.メッセージをお伝えするため,喜ん

で駆け回りたい.

(参考)映像,ブログなどは,指宿ムービープ

ロ ジ ェ ク ト・ ホ ー ム ペ ー ジ http://www.synapse.

ne.jp/drums/

2010 年 2 月 28 日発行の原作小説

Page 39: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

37

 はじめに

鹿児島県の離島を除く本土産ムヨウラン属植

物には,ウスギムヨウラン Lecanorchis kiusiana

Tuyama,ムヨウラン Lecanorchis japonica Blume,

クロムヨウラン Lecanorchis nigricans Honda の 3

種の報告がある(初島,2004).3 種の生育地は

限られていて,ムヨウランは霧島山と稲尾岳,ク

ロムヨウランは稲尾岳,ウスギムヨウランは大口

である(初島,2004).生育地が少ない原因として,

花は小形で花期が短いことや,茎が落葉の色に似

て気づきにくいことなどが考えられる.また,図

鑑等の記述がまちまちであるのも一因と考えられ

る.例えば,クロムヨウランの記述を見ると,村

田(1979)は 6 月頃咲き唇弁は分裂しない,里見

(1982)は 6 月から 7 月に咲き 3 裂する,橋本(1990)

は 7 月中旬から 9 月中旬に咲き 3 裂しないとして

いる.また,橋本(1990)は,唇弁が 3 裂するム

ヨウラン類をムヨウラン節(Sect. Lecanorchis),

唇弁が 3 裂しないムヨウラン類をクロムヨウラン

節(Sect. Nigricantes)としている.

本報告では鹿児島県本土に産するムヨウラン

属植物 3 種の花の形態,生育環境,分布等につい

ての調査の結果を述べるものである.なお,学名,

和名の取り扱いは芹沢(2005)に従った.

 観察結果

1.ウスギムヨウラン Lecanorchis kiusiana Tuyama

花期は 5 月下旬から 6 月上旬で,花は 3 ~ 5

個付き半開する(図 1).花被片の長さは 12 ~ 14

mm,唇弁は 3 裂し太い紫色の毛が目立つ(図

2–3).花茎は 10 ~ 20 cm,花期の花茎は薄紫色

で(図 4),果実期に黒くなる(図 5).

2.ムヨウラン Lecanorchis japonica Blume

開花期は 5 月中旬から 6 月中旬で,花は 5 ~

10 個付き(図 6),斜開(図 7)または平開(図 8)

する.花被片は 16 ~ 25 mm,唇弁は 3 裂し黄色

の毛がある.花茎は 20 ~ 40 cm,黄みを帯びた

褐色だが,果実期になると黒くなる.根は深い所

あることが多い.

3.クロムヨウラン Lecanorchis nigricans Honda

花期は 7 月下旬~ 8 月上旬で,花は 5 ~ 10 個

上部に集まって付き(図 9),唇弁は 3 裂せず先

端だけに紫色の毛がる(図 10).花茎は黒く 20

~ 30 cm,枝分かれする.果実は花茎に対して広

い角度で付き,花茎・果実ともに黒く光沢がある

(図 11).

 生育環境

3 種の生育地のほとんどが大木のシイ林で,稀

にマテバシイ林で見られ,シイ,マテバシイから

2 m 以内に大方が成育していた(図 12).

ウスギムヨウランの根は毛が多く,腐葉土の

浅い所に水平に広がっていて,観察がしやすかっ

た(図 13–14).一方,ムヨウランの根は深い所

にあって,根を観察することが難しいこが多かっ

た.

 まとめ

3 種の共通した形質として,葉は退化して鱗片

状,果実期は花茎・果実ともに黒色,副萼がある

ということが上げられる.3 種は県本土に広く分

鹿児島県本土産ムヨウラン属(Lecanorchis Blume)植物の記録

丸野勝敏

〒 891–0113 鹿児島市東谷山 1–51–8

   Maruno, K. 2009. Records of species of Lecanorchis from the

mainland Kagoshima, Japan. Nature of Kagoshima 36: 37–41.

1–51–8 Higashi-taniyama, Kagoshima 891–0113, Japan (e-mail: [email protected]).

Page 40: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

38

図 1.ウスギムヨウランの花(正面).金峰山.2007.06.05.

図 2.ウスギムヨウランの唇弁(花弁 1 枚を取り除く).金峰山.2007.06.18.A, 唇弁 ; B, 副萼 ; →, 側裂片.

図 3.ウスギムヨウランの唇弁(花から取り出し広げた).五里国有林.2009.05.30.→, 側裂片.

図 4.ウスギムヨウランの生育個体.金峰山.2007.06.05.

図 5.ウスギムヨウランの果実期.大川原峡.2005.08.27.

Page 41: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

39

図 6.ムヨウランの生育個体.溝辺.2006.05.20.

図 7.ムヨウランの花(斜開).溝辺.2007.05.22.

図 8.ムヨウランの花(平開).鶴田.2007.05.23.

図 9.クロムヨウランの生育個体.串木野金山.2005.08.06.

Page 42: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

40

布し,生育地はウスギムヨウランが最も多く,ク

ロムヨウランが最も少なかった.

開花期は,ウスギムヨウランが 5 月下旬から 6

月上旬,ムヨウランが 5 月中旬から 6 月中旬,ク

ロムヨランが 7 月下旬から 8 月上旬であった.

果実の付き方は,ウスギムヨウランは花茎と

狭い角度で上向き,クロムヨウランは花茎と広い

角度で横向きであった.

発生環境は,シイ林を中心に稀にマテバシイ

林で,3 種ともやや乾燥した場所に多く見られた.

また,2 種が混在している所(鎌塚国有林ではク

ロムヨウランとウスギムヨウラン,栗野岳ではム

ヨウランとウスギムヨウラン)があった.

ムヨウランは花の大きさ・色,の花茎の長さ・

色等の変異が大きく,今後更に詳しく種内変異を

調べることが必要である.

 証拠標本

ウスギムヨウラン

伊佐市山野五女木 500 m alt.(丸野勝敏 29976,

Jun. 10, 2005, fls.);さつま町五里国有林 250 m alt.

図 10.クロムヨウランの花(斜め上から).串木野金山.2005.08.06.

図 11.クロムヨウランの花茎と果実.県民の森.2009. 11.29.

図 12.クロムヨウランの生育環境.鎌塚国有林.2005. 07.29.→, スダジイの幹.

Page 43: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

41

(丸野勝敏 29991, May 30, 2009, fls.);日置市下神

殿 160 m alt.( 丸 野 勝 敏 29988, Jul. 22, 2008,

fruits);さつま川内市入来鷹ノ子岳 300 m alt.(西

 志隆 s.n., Jun. 1, 2008, fls.);鹿児島市八重山 650

m alt.(丸野勝敏 29981, Nov. 16, 2005, fruits);南

さつま市金峰山 600 m alt.(丸野勝敏 29984, Jun. 5,

2007, fls.);南九州市熊ヶ岳 580 m alt.(丸野勝敏

29980, Nov. 12, 2005, fruits);南さつま市野間岳

550 m alt.(丸野勝敏 29970, May 28, 2005, fls.);鹿

児島市烏帽子岳 520 m alt.(丸野勝敏 29971, May

31, 2005, fls.);南九州市鎌塚国有林 440 m alt.(丸

野勝敏 29972, May 31, 2005, fls.);霧島市霧島 500

m alt.(丸野勝敏 29982, Jun. 6, 2006, fls.);湧水町

栗 野 岳 560 m alt.( 丸 野 勝 敏 29973, Jun. 1, 2005,

fls.);曽於市財部町大川原峡 300 m alt.(丸野勝敏

29979, Aug. 27, 2005, fruits);鹿屋市高隈山白滝

600 m alt.(丸野勝敏 29992, Aug. 8, 2009, fruits).

ムヨウラン

さ つ ま 町 紫 尾 山 600 m alt.( 丸 野 勝 敏 29975,

Jun. 10, 2005, fls.);霧島市溝辺町宮川内 360 m alt.

(丸野勝敏 29969, May 20, 2005, fls.);さつま町五

里 国 有 林 200 m alt.( 丸 野 勝 敏 29983, May 23,

2007, fls.);湧水町栗野岳 550 m alt.(丸野勝敏

29974, Jun. 1, 2005, fls.);南大隅町木場岳 700 m

alt.(丸野勝敏 29985, Jun. 11, 2007, fls.);錦江町

田 代 川 原 380 m alt.( 丸 野 勝 敏 29990, May 31,

2008, fls.);南大隅町辺塚 620 m alt.(丸野勝敏

29989, May 31, 2008, fls.).

クロムヨウラン

いちき串木野市芹ヶ野 180 m alt.(丸野勝敏

29978, Aug. 6, 2005, fls.); 南 九 州 市 鎌 塚 国 有 林

440 m alt.(丸野勝敏 29977, Jul. 29, 2005, fls.);肝

付町高山二又 400 m alt.(丸野勝敏 29987, Jun.1,

2008, fruits);霧島市溝辺町牟 500 m alt.(西 志隆

s.n., Nov. 29, 2009, fruits).

 謝辞

この報告にあたり,貴重なご意見をいただく

とともに,写真撮影用機器の利用を許されました

鹿児島大学農学部馬田英隆先生に感謝いたしま

す.

 引用文献

橋本 保.1990.A Taxonomic Review of the Japanese Lecanorchis.筑波実験植物園研報,9: 1–40.

初島住彦.2004.九州植物目録.鹿児島大学総合研究博物館研究報告,(11): 1–343.

村田 源.1979.ラン科,p. 28.北村四郎 ・ 村田源 ・ 小山鐵夫(編).原色日本植物図鑑木本編 [II].保育社,大阪.

里見信生.1999.ラン科,pp. 205–206.佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・亘理俊次・富成忠夫(編),日本の野生植物,草本 I.平凡社,東京.

芹沢俊介.2005.愛知県のムヨウラン類.分類,5: 33–38.

図 13.ウスギムヨウランの根.五里国有林.2009.05.30.

図 14.ウスギムヨウランの根の一部拡大.日置下神殿.2008.07.22.

Page 44: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

42

Page 45: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

43

鹿児島県笠沙沖から得られたカンムリブダイ Bolbometopon muricatum(ベラ亜目:ブダイ科)の記録

荻原豪太 1・吉田朋弘 2・伊東正英 3・山下真弘 2・桜井 雄 4・本村浩之 5

1 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館(水産学研究科)2 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館(水産学部)

3 〒 879–1301 鹿児島県南さつま市笠沙町片浦 7184 〒 900–0003 沖縄県那覇市安謝 2–6–19 沖縄環境調査株式会社

5 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

 はじめに

ブダイ科 Bolbometopon 属は,従来 Scarus muri-

catus Valenciennes in Cuvier and Valenciennes, 1839

と Scarus bicolor Rüppell, 1829 の 2 名義種が帰属

すると考えられていたが,Bellwood (1994) によ

りブダイ科の属の再定義が行われ,両種はそれぞ

れ Bolbometopon と Cetoscarus の 2 属に分類され

た.Bolbometopon 属には和名としてイロブダイ

属が使用されていたが,イロブダイ Cetoscarus

bicolor の属名が変更されたことにより,島田

(2000)は Cetoscarus 属にイロブダイ属の和名を

適用した.これに伴い Bolbometopon に当たる和

名が失われたため,島田(2000)は,吉野・荒賀

(1975)が提唱したカンムリブダイ属を適用した.

現在,カンムリブダイ属は,世界でカンムリブダ

イ Bolbometopon muricatum (Valenciennes in Cuvier

and Valenciennes, 1839) の 1 種のみが知られている

( 吉 野・ 荒 賀,1975;Shao and Chen, 1993; Bell-

wood, 1994).

Bolbometopon muricatum は,インドネシア・ジャ

ワ島から採集された 1 標本に基づき 1839 年に

Scarus muricatus として新種記載された.その後,

靑柳(1941)はパラオ・マラカル島産の本種 2 標

本(標準体長 210.5–272.1 mm)に基づき新標準

和名カンムリブダイを提唱した.

現在,カンムリブダイは八重山諸島以南のイ

ンド・太平洋に広く分布し(島田,2000;Shi-

mada, 2002;岸本,2006),主にサンゴ礁域に生

息していることが知られている(島田,2000,

Shimada, 2002).

2009 年 12 月 29 日に鹿児島県薩摩半島の南西

に位置する笠沙沖の定置網において,カンムリブ

ダイと同定される標本が 1 個体採集された.この

標本は,本種の鹿児島県における標本に基づいた

初記録であり,同時に分布の北限更新になるため

ここに報告する.

 材料と方法

計数・計測方法は Hubbs and Lagler (1949) に従

い,上頬部鱗列数は Schultz (1958) に従った.計

測はノギスとディバイダーを用いて 0.1 mm 単位

まで行った.鰓耙数は,右側体側の第 1 鰓弓を計

数した.カンムリブダイの生鮮時の体色の記載は,

固定前に撮影されたカラー写真に基づく.本報告

で 用 い た 標 本 は 鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館

(KAUM: Kagoshima University Museum)に所蔵さ

れており,そのカラー写真は同館の画像データ

ベースに登録されている.

   Ogihara, G., T. Yoshida, M. Ito, M. Yamashita, Y. Sakurai and

H. Motomura. 2010. Record of Bolbometopon muricatum (Labroidei: Scaridae) from Kasasa, Kagoshima, southern Kyushu, Japan. Nature of Kagoshima 36: 43–47.

GO: Kagoshima University Museum (Graduate School of Fisheries), 1–21–30 Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: [email protected])

Page 46: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

44

 結果と考察

Bolbometopon muricatum

(Valenciennes in Cuvier and Valenciennes, 1839)

カンムリブダイ(Figs. 1–2; Table 1)

Scarus muricatus Valenciennes in Cuvier and Valen-

ciennes, 1839: 208 (type locality: Java, Indonesia).

Callyodon muricatus; Aoyagi, 1941: 59 (Palau).

Callyodon shimoniensis Smith, 1953: 622, pls. 15–16

(type locality: Shimoni, Kenya).

Bolbometopon muricatus; Schultz, 1969: 3 (Indo-

Pacific); Gushiken, 1973: 20, fig. 75 (locality not

stated); Yoshino et al., 1975: 102 (Ryukyu Islands);

Yoshino and Araga, 1975: 307, fig. C (Yaeyama

Islands and Indo-Pacific).

Bolbometopon muricatum; Kishimoto, 1984: 211, pl.

211, fig. G (Yaeyama Islands and Indo-Pacific);

Choat and Randall, 1986: 197, pl. 1, fig. F, pl. 6, fig.

A (Great Barrier Reef); Bellwood and Choat, 1989:

14, fig. 5 (Philippines, Palau, Micronesia, Great

Barrier Reef); Shao and Chen, 1993: 471, pl. 157,

fig. 3 (Taiwan); Bellwood, 1994: 65 (Palau, Solo-

mon Island, Indonesia, Great Barrier Reef): Mena-

chem and Menachem, 1994: 56 (Red Sea); Masuda

and Kobayashi, 1996: 291, fig. 1–3 (Yaeyama Is-

lands and Sipadan Island, Malaysia); Mohsin and

Ambak, 1996: 488, fig. 376 (Malaysia); Randall et

al., 1997: 343, unnumbered fig. (Coral Sea); Bell-

wood, 2000: 630 (South China Sea); Allen et al.,

2003: 187, unnumbered fig. (Indo-West Pacific);

Parenti and Randall, 2000: 51 (Indo-Pacific); Myers

and Donaldson, 2003: 633 (Mariana Islands); Adrim

et al., 2004: 125 (Anambas Islands, Indonesia);

Lobel and Lobel, 2004: 74 (Wake Atoll, USA); Liao

et al., 2004: 529, fig. 8 (Taiwan); Randall et al.,

2004: 23 (Tonga); Randall, 2005; 445, unnumbered

fig. (Sabah, Malaysia, and Bali and Seribu Islands,

Indonesia).

標本 KAUM–I. 25448, 標 準 体 長 953.1 mm,

鹿 児 島 県 南 さ つ ま 市 笠 沙 町 桟 敷 島 東 側(31°

24′55″N, 130°12′12″E),水深 6 m,定置網,2009

年 12 月 29 日,上村一郎.

記載 計数値と体各部の標準体長に対する割

合を Table 1 に示す.

体はやや長く,体高が高い.両顎歯板の外面

は小粒状を呈し,両顎歯は癒合し,嘴状.上顎歯

板は唇でほとんど被われない.後鼻孔は前鼻孔よ

り大きい.吻部の傾斜が強くほぼ垂直で,顕著に

前頭部の外縁が著しく突出する.背鰭始部の直前

が大きく窪む.背鰭前方鱗が体の正中線上に 1 列

に並ぶ.体側に側線が 2 本あり,上方側線列は不

完全で背鰭第 3 軟条直下付近で終わり,下尾骨ま

で達しない.下方側線列は背鰭第 4 軟条直下付近

から始まり,下尾骨後端まで伸びる.胸鰭の後端

は臀鰭始部に達しない.折りたたんだ時の腹鰭後

端は胸鰭後端直下にある.背鰭は 1 基で臀鰭基底

より長い.臀鰭始部は背鰭第 1 軟条直下付近に位

置する.肛門は臀鰭始部の直前に位置する.尾鰭

後端は二重湾入形で,上・下葉先端はわずかに伸

長する.

体色 生鮮時の体色―体全体の地色は青緑色

で,頭部の後方と体側背側がやや濃い青緑色.頭

部の前方は桃色.背鰭,臀鰭,尾鰭は,体側に比

べ青みが強い青緑色.歯板は白色.

固定後の体色―体全体が灰色みがかった濃い

赤紫色で,下顎が灰色.背鰭,胸鰭,臀鰭,尾鰭

は,灰色みが強い青緑色.

分布 本種は,インド・太平洋に広く分布し(シ

ノニムリスト参照),日本国内では,八重山諸島

以南(島田,2000;Shimada, 2002;岸本,2006),

宮古島(本研究),沖縄島(本研究)および鹿児

島県(本研究)から記録されている.

備考 本標本は,胸鰭が 15 軟条である,上頬

部鱗列数が 3 である,鰓耙数が約 20 である,背

鰭前方鱗が体の正中線上に 1 列に並ぶ,体高が高

い,成魚の前頭部の外縁が著しく突出することな

どの形質から,Bellwood and Choat (1989),Bell-

wood (1994),および Shimada (2002) の記載によ

く一致し,Bolbometopon muricatum と同定された.

Page 47: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

45

カンムリブダイは,ダイバーによる水中観察

により宮古島周辺で全長約 50 cm の個体が確認さ

れおり(大橋秀一氏,私信),さらに沖縄島恩納

村瀬良垣周辺でも本種が確認されている(岩瀬晃

啓氏,私信).したがって,本種は個体数が少な

いものの,八重山諸島周辺以外の琉球列島にも生

息している.八重山諸島近海でも近年,本種の水

中観察例が減少しており,現在本種は沖縄県の絶

滅危惧種 II 類(VU)に指定されている(吉野,

2005).本種は生きたサンゴを摂餌することが知

られていること(岸本,2006)から,八重山諸島

近海のサンゴ類に対するオニヒトデによる食害や

海水温の上昇などによるサンゴ被度の低下が,本

種の生息個体数に大きな影響を与えている可能性

がある.

カンムリブダイは,群泳することが知られて

いるが(吉野・荒賀,1975;益田・小林,1996:

291,fig. 1;岸本,2006:532,unnumbered fig.),

Fig. 1. Fresh specimen of Bolbometopon muricatum. KAUM–I. 25448, 953.1 mm SL, off east of Sashiki-jima Island, Kasasa, Minamisatsuma, Kagoshima, Japan.

Fig. 2. Preserved specimen of Bolbometopon muricatum (same specimen as Fig. 1). Fig. 3. Fresh specimen of Bolbometopon muricatum. KAUM–I.

22153, 517.6 mm SL, off Kota Kinabalu, Sabah, Malaysia.

Fig. 4. Bolbometopon muricatum at fish landing port in Kota Kinabalu, Malaysia.

Page 48: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

46

本研究では 1 個体のみが採集されたにすぎない.

本標本は台湾周辺の個体群に由来し,黒潮によっ

て偶発的に鹿児島に来遊してきた可能性が高い.

さらに,本標本は成熟サイズに達しているにも関

わらず,生殖線が未発達であったことから鹿児島

本土近海で再生産している可能性も極めて低い.

本種の分布は,これまで八重山諸島以南とされて

いたが(Shimada,2002;岸本,2006),本研究に

よって鹿児島県本土から記録された.したがって,

カンムリブダイの分布は約 1000 km 北限を更新し

たことになる.

Mohsin and Ambak (1996) は,マレーシアでは

本種を有用魚として扱われておらず,市場で確認

したことがないと記述している.しかし,第 1 著

者による 2008–2009 年のマレーシア魚類調査で,

成熟したカンムリブダイが数十個体まとまって日

常的に市場で水揚げされており,本種は少なくと

もサバ州では有用魚種として扱われていることが

確認された(Figs. 3–4).

比較標本 カンムリブダイ:KAUM–I. 22153,

517.6 mm SL, マレーシア・サバ州コタキナバル沖

(06°03′N, 116°10′E),2009 年 8 月 25 日,荻原豪太.

 謝辞

本研究を行うに当たり,標本を寄贈して下さっ

た笠沙町漁協大黒水産の上村一郎氏に深謝する.

沖縄県那覇市の大橋秀一氏ならびに,いであ株式

会社の岩瀬晃啓氏に有益な情報を頂いた.文献情

報を提供してくださった高知大学大学院理学研究

科応用理学専攻の片山英里女氏に心より感謝す

る.標本の作製や登録を手伝って下さった鹿児島

大学総合研究博物館ボランティアの高山真由美女

史と原口百合子女史に厚くお礼申し上げる.本原

稿に対し適切な助言を下さった鹿児島大学総合研

究博物館魚類分類学研究室の松沼瑞樹氏と目黒昌

利氏に感謝する.比較標本は日本学術振興会の「若

手研究者インターナショナル・トレーニング・プ

ログラム」によるサバ州の魚類相調査の過程で採

集された.本研究は , 鹿児島大学総合研究博物館

の「鹿児島県産魚類の多様性調査プロジェクト」

と国立科学博物館の「黒潮プロジェクト(浅海性

生物の時空間分布と巨大海流の関係を探る)」の

一環として行われた.

Table 1. Counts and measurements, expressed as percentages of standard length, of specimens of Bolbometopon muricatum.

Bolbometopon muricatumKAUM–I. 25448 KAUM–I. 22153Kagoshima, Japan Sabah, Malaysia

Standard L (mm) 953.1 517.6Counts

D rays IX, 10 IX, 10A rays III, 9 III, 9P1 rays (left / right) 15 / 15 15 / 15P2 rays I, 5 I, 5Pored lateral line

scales 17 + 9 18 + 8

Scale rows in longitu-dinal series 21 21

Scales lateral line(above/below) 3 / 6 2 / 7

Predorsal scales 2 4Gill rakers 17 18Cheek scale rows 3 3

Cheek scales(upper/middle/lower) 6 / 4 / 1 6 / 6 /2

MeasurementsBody depth 52.2 40.4Body width 21.5 17.2Head L 35.8 35.2Snout L 20.9 20.0Orbit diameter 3.6 4.4Postorbital L 18.5 17.6Interorbital width 13.9 11.3Pre-D L 41.2 38.0Pre-A L 63.9 60.7Pre-P1 L 29.7 30.9Pre-P2 L 33.2 32.3D base L 62.4 61.3A base L 27.7 26.2P1 base L 8.5 6.9P2 base L 4.8 4.2P1 L 24.2 22.6P2 L 19.3 18.01st D spine L — 12.02nd D spine L — 11.33rd D spine L — 12.64th D spine L — 12.85th D spine L — 12.26th D spine L — 13.07th D spine L — 12.18th D spine L — 11.09th D spine L — 12.1Longest D soft ray L 14.4 13.21st A spine L 3.6 2.82nd A spine L 9.9 9.03rd A spine L 9.6 9.3Longest A soft ray L 15.1 12.2C peduncle depth 14.8 13.3C peduncle L 17.6 16.5C fin L 22.9 23.6

D: dorsal fin; A: anal fin; P1: pectoral fin; P2: pelvic fin; C: caudal; L: length.

Page 49: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

47

 引用文献

Adrim, M., I.-S. Chen, Z.-P. Chen, K. K. P. Lim, H. H. Tan, Y. Yusof and Z. Jaafar. 2004. Marine fishes recorded from the Anambas and Natuna Islands, South China Sea. The Raffles Bulletin of Zoology Supplement, (11): 117–130.

Allen, G., R. C. Steene, P. Humann and N. Deloach. 2003. Reef fish identification tropical Pacific. New World Publications Inc., Jacksonville. 480 pp.

靑 柳 兵 司.1941. 南 洋 パ ラ オ の 魚 類. 科 學 南 洋,4 (2): 53–62.

Bellwood, D. R. 1994. A phylogenetic study of the parrotfishes family Scaridae (Pisces: Scaridae). Journal of Natural His-tory, 22: 1677–1682.

Bellwood, D. R. 2000. Scaridae, p. 630. In J. E. Randall and K. K. P. Lim (eds.). A checklist of the fishes of the South China Sea. The Raffles Bulletin of Zoology Supplement, No. 8, Sin-gapore.

Bellwood, D. R. and J. H. Choat. 1989. A description of the ju-venile phase colour patterns of 24 parrotfish species (family Scaridae) from the Great Barrier Reef, Australia. Records of the Australian Museum, 41 (1): 1–41.

Choat, J. H. and J. E. Randall. 1986. A revision of the parrotfishes (family Scaridae) of the Great Barrier Reef of Australia with description of a new species. Records of the Australian Mu-seum, 38 (4): 175–239, pls. 1–11.

Cuvier, G. and A. Valenciennes. 1839. Histoire naturelle des pois-sons. Vol. 14. Levrault, Paris. xx + 344 pp.

具志堅宗弘.1973.原色 沖縄の魚.タイガー印刷,浦添.251 pp.

Hubbs, C. L. and K. F. Lagler. 1949. Fishes of the Great Lakes region. Cranbrook Institute of Science Bulletin, (26): i–xi + 1–186.

岸本浩和.1984. ブダイ科,pp. 206–213, pls. 211–216. 益田 一・尼岡邦夫・荒賀忠一・上野輝彌・吉野哲夫(編).日本産魚類大図鑑.東海大学出版会,東京.

岸本浩和.2006.ブダイ科,カンムリブダイ,pp. 532–533.岡村 収・尼岡邦夫(編).日本の海水魚.第 3 版.山と渓谷社,東京.

Liao, Y.-C., L.-S. Chen, K.-T. Shao and I.-S. Chen. 2004. A re-view of parrotfishes (Perciformes: Scaridae) of Taiwan with descriptions of four new records and one doubtful species. Zoological Studies, 43 (3): 519–536.

Lobel, P. S. and L. K. Lobel. 2004. Annotated checklist of the fishes of Wake Atoll. Pacific Science, 58 (1): 65–90.

益田 一・小林安雅.1996.日本産魚類生態大図鑑.東海大学出版会,東京.xlviii + 467 pp.

Menachem, G. and D. Menachem. 1994. An updated checklist of the fishes of the Red Sea. CLOFRES II. The Israel Academy of Sciences and Humanities, Jerusalem. xii + 122 pp.

Mohsin, A. K. M. and M. A. Ambak. 1996. Marine fishes and fisheries of Malaysia and neighbouring countries. Universiti Pertanian Press, Serdang. iv–xxxvi + 744 pp.

Myers, R. F. and T. J. Donaldson. 2003. The fishes of the Mariana Islands. Micronesica, 35/36: 594–648.

Parenti, P. and J. E. Randall. 2000. An annotated checklist of the species of the labroid fish families Labridae and Scaridae. Ichtyological Bulletin of the J. L. B. Smith Institute of Ich-thyology, (68): 1–97.

Randall, J. E. 2005. Reef and shore fishes of the South Pacific New Caledonia to Tahiti and the Pitcairn Islands. University of Hawai‘i Press, Honolulu. xii + 707 pp.

Randall, J. E., G. R. Allen and R. C. Steene. 1997. Fishes of the Great Barrier Reef and Coral Sea. Revised and expanded edi-tion. (2nd ed.). University of Hawai‘i Press, Honolulu. xx + 557 pp. + 7 pls.

Randall, J. E., J. T. Williams, D. G. Smith, M. Kulbicki, G. Mou Tham, P. Labrosse, M. Kronen, E. Clua and B. S. Mann. 2004. Checklist of the shore and epipelagic fishes of Tonga. Atoll Research Bulletin, (502): i–ii + 1–35.

Schultz, L. P. 1958. Review of the parrotfishes family Scaridae. Bulletin of the United States National Museum, 214: i–v + 1–143, pls. 1–27.

Schultz, L. P. 1969. The taxonomic status of the controversial gen-era and species of parrotfishes with a descriptive list (family Scaridae). Smithsonian Contributions to Zoology, (17): i–v + 1–49, pls. 1–8.

Shao, K.-T. and L.-W. Chen. 1993. Scaridae, pp. 470–478. In S.-C. Shen (ed.). Fishes of Taiwan. Department of Zoology, National Taiwan University, Taipei (in Chinese).

島田和彦.2000. ブダイ科,pp.1014–1026, 1588–1590.中坊徹次(編).日本産魚類検索 全種の同定 第 2 版.東海大学出版会,東京.

Shimada, K. 2002. Scaridae, pp. 1014–1026, 1579–1581. In T. Na-kabo (ed.). Fishes of Japan with pictorial keys to the species, English ed. Tokai University Press, Tokyo.

Smith, J. L. B. 1953. The Giant Cushionhead Parrotfish of Kenya, Callyodon muricatus (Valenciennes), and its growth stadia. Annals and Magazine of Natural History (Series 12), 6 (68): 620–622, 1–2 pls.

吉野哲夫.2005.カンムリブダイ,pp. 179–180.沖縄県環境保健部自然保護課(編).改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物(動物編)レッドデータおきなわ.沖縄県環境保健部自然保護課,那覇.

吉野哲夫・荒賀忠一.1975.ブダイ科,pp. 307–312.益田 一・荒賀忠一・吉野哲夫(編).魚類図鑑 南日本の沿岸魚.東海大学出版会,東京.

吉野哲夫・西島信昇・篠原士郎.1975.琉球列島産魚類目録.琉球大学理工学部紀要(理学部編),20: 61–118.

Page 50: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

48

Page 51: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

49

海岸漂着物処理推進法制定と鹿児島県における今後の対策

藤枝 繁

〒 890–0056 鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学水産学部・クリーンアップかごしま事務局

 1.はじめに

これまで海岸の清潔の保持は,廃棄物の処理

及び清掃に関する法律(以下,廃掃法という)第

五条に従い,土地の占有者,管理者の義務とされ

てきた.一方,海岸の管理者は,海岸法により国

の各省庁から地方公共団体まで多岐にわたる.排

出者が不明であり,離島や遠隔地等の過疎地を中

心に,河川流域からまたは海を渡って遠方から大

量にかつ不定期に漂着する海洋ごみは,排出者責

任を原則とした廃掃法では問題が顕在化するにつ

れ,発生抑制の推進主体や回収処理の責任体制が

不明確なため,対応に問題が出てきた.

JEAN /クリーンアップ全国事務局では,1990

年より全国一斉に行ってきた国際海岸クリーン

ア ッ プ(ICC ; International coastal cleanup)1) を 基

礎に,海ごみ問題に悩む市町村・関係者と問題解

決に向けての議論の場として 2003 年から毎年「海

ごみサミット」を開催してきた.一方で,前述し

た法的行政的課題は一向に解決の気配がないこと

から,海ごみサミットや ICC で得られた知見を

もとに関係省庁の担当課や国会議員へ資料提供や

課題提起を続けてきた.2006 年には自民党の勉

強会を経て,特別委員会が設置され,被害甚大地

域からの報告,JEAN からの提案,省庁の取り組

み等の報告を踏まえ,2009 年 2 月,ようやく法

律制定に向けた動きが始まった.同年 7 月 15 日,

海洋ごみの問題提起から 20 年を経て,超党派に

よる議員立法として「海岸漂着物処理推進法」が

交付された.

ここでは JEAN 理事およびクリーンアップかご

しま事務局代表として,また海洋ごみの研究者の

一人として立法化にあたっての議論に関わってき

身として,今後,本法で規定された漂着物対策の

地域計画が鹿児島県でも策定されることから,本

県における海洋ごみの現状について紹介し,その

具体的対策を提言したい.

 2.鹿児島県における海岸漂着物問題

2–1.鹿児島湾海岸における漂着散乱ごみ

「かごしまクリーンアップキャンペーン」とは,

1990 年に日本でも開始された世界規模の海洋環

境保全活動である ICC1) の地域版で,水辺・水中

に漂着散乱するごみを回収するだけでなく,回収

したごみを一つ一つ品目に分けて個数を記録し,

それを集計分析して改善に向けた提言を行う市民

活動である.鹿児島湾では,2007 年度までの 9

年間に 9,954 名のボランティアが参加し,のべ

144 海岸から 354,708 個の漂着散乱ごみが回収さ

れた.特に鹿児島湾では,2000 年から毎年,錦

江湾みらい総合戦略推進協議会が中心となって海

洋ごみのデータを積み上げてきた.ここではまず,

2007 年度の同キャンペーンの結果より 2),鹿児島

湾海岸における漂着散乱ごみの特徴について述べ

る.2007 年の漂着散乱ごみ個数第 1 位はプラス

チックシートや袋の破片(12.1%),第 2 位はタ

バコの吸殻・フィルタ(11.0%),第 3 位は硬質

プラスチック破片(9.6%)であった.漂着散乱

ごみ全体の 46.4% が破片・かけら類であり,そ

の回収量は,全国的にも近年顕著な増加傾向を示

し,2003 年には全体の 48% にまで達している 3).

これら破片・かけら類は,破片として海に流出し

たものだけではなく,製品として海岸に漂着後,

紫外線による劣化や波浪による衝撃などによって

   Fujieda, S. 2010. Enactment of act for the promotion of ma-

rine litter processing and future measures in Kagoshima Prefecture. Nature of Kagoshima 36: 49–56.

Faculty of Fisheries, Kagoshima University, 4–50–20 Shimoarata, Kagoshima 890–0056, Japan (e-mail: [email protected]).

Page 52: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

50

破片化したものも多い.プラスチックは,微小な

破片となっても自然界では容易に分解されず,海

岸やその背後地に高密度に堆積し,または海上を

浮遊して世界の海に拡散していくため,海岸にお

けるプラスチックごみの放置は,海洋ごみ問題を

さらに深刻化させる一因となっている.

一方,鹿児島湾の周辺には 91 万人が生活して

おり,全体の 4 割を占めた陸上起源ごみは,喫煙,

飲料・食品,生活・レクリエーションなど,我々

の日常生活に起因するものが 9 割以上を占めた.

2002 年から 2007 年までの鹿児島湾におけるワー

スト 10 品目の 6 年間の順位と構成割合の推移を

図 1 に示す.ワースト 10 内の順位は毎年変動し

ているが,登場する品目には大きな変化はない.

近年の傾向は,プラスチックシートや袋の破片が

順位を上げており,2006 年度にはワースト 1 と

なった.また 1996 年に 500 ml 以下の生産自主規

制が解除されたペットボトル(「飲料用プラボト

ル」に含まれる)と「ふたキャップ」は,1997

年以降全国的にも増加しており 3),鹿児島湾にお

いても両者の割合は増加傾向にある.一方,2002

年から 2004 年までワースト 1 であったタバコの

吸殻・フィルタは,2005 年から順位を下げ,割

合も低下傾向にある.また 2002 年ワースト 3 で

あった花火は,2004 年以降ワースト 10 の圏外と

なっている.

これまでの調査の結果,鹿児島湾における海

岸,海面,海底のごみの密度を比較すると,海底

2,517 個 /km2 4),海面(船上から目視によって確

認されたもの)448.6 個 /km2,海面(ニュースト

ンネットによって採集された 10 mm 未満の微小

プラスチック)56.5×103 個 /km2 5),海岸(微小プ

ラスチックの最大密度)14,520 個 /m2 であり,海

岸に最も高密度に集積していた.海底に堆積する

ごみは,最も密度が低いが,海底地形や漁業権に

よる制約,回収器具の能力および海底面積の広さ

などの諸条件により,回収が非常に困難である.

またプラスチックは一度海底に堆積してしまうと

自然界でほとんど分解されないため,流入が続け

ば堆積量も増加し続けることになる.実際に鹿児

島湾における海底堆積ごみは微増傾向にある.

よって我々は,フィルム状プラスチックのような

ある程度の距離を漂流後に沈下するごみが,実際

に目にすることや回収することができない鹿児島

湾の中央部の海底に堆積し続けているという問題

を海上だけでなく多くの陸域で活動している人々

にも理解してもらい,海洋ごみ発生の抑制に努め

なければならない.

2–2.発泡スチロール破片の漂着散乱

「かごしまクリーンアッップキャンペーン」を

開始した 1999 年,鹿児島湾に大量の発泡スチロー

ル破片が漂着散乱していることがわかった.そこ

でまず筆者らは,鹿児島県海岸において発泡スチ

ロール破片の漂着埋没実態の詳細調査を行った 6).

その結果,発泡スチロール破片は,内湾域,外洋

域,離島を問わず鹿児島県内 65 海岸 74 点で確認

され(図 2),その 91.0% が 0.3–4.0 mm の微小物

であることがわかった.特に鹿児島湾では,湾中

央部東海岸および湾奥部海岸で漂着埋没密度が高

く,この分布は海面養殖海域と一致した.湾内で

は,海面養殖生簀の浮力体として発泡スチロール

製フロートが広く使用されており,これら破片の

発生に関係しているのではないかと考え,次に同

フロートの海岸漂着と再利用の実態について調査

を実施した 7).その結果,鹿児島湾内には 3,043

図 1.鹿児島湾におけるワースト 10 品目の 6 年間の順位と構成割合の推移(2002–2007 年).

Page 53: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

51

個のフロートがほぼ全域に漂着したまま放置され

ていることがわかった.また港内等においては,

小型船舶の防舷物や係留用ブイに 4,856 個が,そ

の陸上部では船舶等の敷物等に 1,344 個が使用さ

れていた.これらフロートは,養殖施設で使用済

みとなった廃フロートの再利用品であり,カバー

等による防護処置がなされていないため,擦れや

衝撃によって常に表面のビーズが剥離する.よっ

て発泡スチロール破片の発生を防止するために

は,海面魚類養殖生簀の浮力体として使用される

発泡スチロール製フロートの管理を徹底して流出

を防止し,漂着フロートは放置をせずすぐに回収

し,さらには港内等で不適切な再利用をさせない

ことが必要であろう.

2001 年,JEAN/ クリーンアップ全国事務局と

クリーンアップかごしま事務局は,この発泡スチ

ロール破片の発生防止のため,研究者,水産庁,

日本プラスチック工業連盟,発泡スチロールリサ

イクル協会,全漁連等,発泡スチロール製フロー

トに関わる関係者を集め,発泡スチロール製フ

ロートの適切利用と回収処理についての勉強会を

開催した.その後,各方面のご協力により,2003

年度から水産庁による「発泡スチロール製漁業資

材のリサイクルシステム開発事業」として改善活

動が開始された 8).鹿児島湾では,2003 年から

2006 年までの 4 年間の事業で計 6,424 本のフロー

トが RPF(Refuse Paper and Plastic Fuel)にリサイ

クルされ,現在は海面養殖業が盛んな九州 , 四国

でこのシステムは広く利用されている.

またこのリサイクルと同時に,鹿児島湾では,

フロートメーカーや利用者(漁業者)が積極的に

硬質プラスチック製フロートへの転換を進めてお

り,発生源となる発泡スチロール製フロート自体

の本数を削減している.鹿児島湾における ICC

の結果(図 1),発泡スチロール破片(大小)の

割合は 2004 年の 24.5% をピークに減少しており,

2007 年には 14.4% となった.これは海洋ごみ問

題改善のための鹿児島発の先進事例であり,フ

ロートを大量に使用している瀬戸内海や九州西岸

域に広がることを期待したい.

図 2.鹿児島県海岸における発泡スチロール破片の漂着密度と分布.

Page 54: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

52

2–3.海外起因のごみの漂着

近年,海外起因のごみの大量漂着が全国でも

話題となっているが,鹿児島県海岸でも 1998 年

8 月に中国華南・華東沿岸域から流出したとされ

るプラスチックごみが大量に漂着する事件があっ

た 9).当時,ディスポーザブルライターのタンク

表面に印刷された情報からこれらごみの流出地を

推定した結果,中国華南・華東地方(香港~上海),

台湾および国内(鹿児島県)であった.筆者はそ

の事件後,吹上浜(日置市)で毎月流出地が明ら

かな指標漂着物を採取する定期モニタリングを実

施している(図 3).1998 年の大量漂着以降,海

外起因物の年間漂着量は減少したが,2005 年は

国内起源物,2006 年は中国起源物の漂着が顕著

になった.その後 2009 年末現在,吹上浜は再び

静穏な状態に戻っている.海外起因ごみの大量漂

着は台風や水害等のイベントによる「発生」と,

その後の海流や風などの「漂流」の条件が整う必

要があり,増加の傾向にあるわけではない.海外

からの漂着物はその文字からどうしても目立って

しまうが,この 10 年実際には国内起因のものの

方が多い.鹿児島県は黒潮上流域に位置するため,

本県よりも上流部の海外を起因地とするごみが多

く漂着するものの,本県から流出したものは全国

に漂着することが予想されることから,十分な発

生抑制が必要である.

 3.「瀬戸内海における海洋ごみ収支」から  見た海洋ごみ問題の現状とその対策

筆者は,2006 年から 3 年間,瀬戸内海全域を

対象に海洋ごみの実態把握調査を行い,同海には

常時 3,400 トンのごみが存在し(現存量),毎年

4,500 トンのごみが流入し,そのうち 1/3 はボラ

ンティア等によって回収されているが,1/2 は外

洋に流出しているという海洋ごみの収支 10)(図 4)

をまとめた.ここではこれを使って今後の対策に

ついて述べる.

まず海域へのごみの流入量が一定でごみの密

度が均一とした場合,現存量と回収努力量は反比

例の関係にあることから,回収努力量を現状の 1.5

倍に増加させても,現存量は現在の 9 割にしか減

少しないことがわかった.また海上交通や機材等

による制約により海上での現状以上の回収活動は

望めないことから,海岸での回収のみによって現

存量を半減させるようとすると,回収量を現状の

3.1 倍に増やさなければならず,その場合の回収

努力量は 6.6 倍にも跳ね上がる.一方で,回収努

力量を現状以下に低下させると,反比例の関係か

ら現存量は急激に増大し,回収を完全にあきらめ

た場合,現存量は現在の 1.5 倍にまで増加する.

よって現状は,常に流入があるため,回収努力量

を多少増加してその場,その時を美しくしても,

海域全体を年間通じて考えれば,劇的な効果(現

存量の減少)は望めず,また逆に回収をあきらめ

てしまうと,急激に事態が悪化することから,最

低でも現在の回収活動を維持する必要があり,真

に美しい海岸を得るには,相当量の回収努力が必

要であると言える.

一方でごみ現存量と流入量は,比例関係にあ

るため,発生抑制による流入量の削減は現存量の

削減に直線的効果をもつ.しかし陸からの流入量

3,000 t/ 年は,瀬戸内海の流域人口(3,176 万人)

一人あたりに換算すると,一日あたり 0.3 g/ 人 /

日となる.この量は国民一人一日あたりの一般廃

棄物の排出量 1.1 kg/ 人 / 日(2003 年度)11) と比

図 3.吹上浜に漂着したディスポーザブルライターの流出地(配布地)分布.

Page 55: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

53

べて極めてわずかな量であることから,一律の発

生抑制目標をたてて流入量を削減することも,現

状ではかなり難しいと言わざるを得ない.

では,海洋ごみ現存量の低減には,どのよう

な方策をとれば良いのだろうか?そのヒントは,

海洋ごみの問題点の一つである偏在にある.例え

ば,瀬戸内海では,漂着量が多い上位 2 割の海岸

に,8 割 の ご み が 存 在 し て い た( 図 2). ま た

2006 年に実施された国土交通省他 12) による全国

調査(606 市町村実施)においても,同様な結果

が指摘されている.さらに陸域からごみを集め海

洋へ運ぶ河川でも,海との接点である河口部にご

みが集積している.よって効果的な海洋ごみ現存

量の低減には,従来の回収活動に加え,海洋ごみ

の集積地点を明らかにし,高密度漂着地から優先

的に回収する重点回収の実施(効果的回収の促進)

と,日常生活におけるごみ発生量の削減に加え,

陸域ごみの海域への接続部にあたる河口での継続

的回収の実施(効率的な流出(発生)抑制)が必

要であると言える.

 4.地域計画策定に対する課題

4–1.地域計画

最後に新しく制定された「海岸漂着物処理推

進法」における鹿児島県の地域計画への提言につ

いて,本県の漂着ごみの現状を参考に議論したい.

海洋ごみ問題は,九州北部から山陰地方,沖縄県

八重山地方,青森県津軽海峡沿岸など,離島や都

市部から離れた一部の地域に偏在し,その地域で

は,回収費用の負担や処分場の狭隘化の進行,漁

獲物への混入による現場作業負荷の増大等の問題

が深刻化している.海洋ごみは,スギ花粉や黄砂,

光化学オキシダントのように直接我々の健康に被

害を与えるものではないため,市民は無関心にな

りやすく,また発生源と被害地が遠く離れている

ことから,都市部で生活する市民にとっては理解

されにくい問題でもある.さらに一部の地域にお

ける海外からの影響が甚大であるとの報道等によ

り,我々は一方的な被害者であるという認識を持

つ人も多い.このように国民は,加害者としての

認識が低く,責任を海外や他人に転嫁しているた

め,解決への相互協力を生むことも難しくなって

図 4.瀬戸内海における海洋ごみ収支.

Page 56: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

54

いる.しかし実際は,陸域から流出したものが水

の流れに乗って一定方向に流下し,海に流出後,

漂流拡散して広域に影響を与えていることから,

被害地も下流側から見れば加害地となっている.

よってこれからの海洋ごみ問題の解決には,生活

圏や漂着地といったミクロな視点ではなく,すべ

ての人々が「海岸を有する地域のみならずすべて

の地域において共通の課題(第五条)」,「我が国

及び周辺国にとって共通の課題(第八条)」とい

うマクロな視点でこの問題を捉えることができる

ようにならねばならない.また地域計画では,「重

点的に推進する区域」について定めることになっ

ている.観光やマリンレジャー,港湾といった利

用目的や地域からの要望,回収のしやすさといっ

た地域の基準で重点地域を選定することは,前述

したような海洋ごみ現存量の削減には効果が薄

い.ミクロな視点での選定をすべて否定するわけ

ではないが,黒潮上流域に位置する本県は,特に

マクロな視点を忘れずに本計画が策定されること

を望む.

また海洋ごみの 7 割は陸域から主に河川を通

じて海域に流出していることから,地域計画にお

ける発生抑制では,ごみの減量や不法投棄の防止

はもちろんのこと,まずは陸域にあるごみを河川

に流出させない対策(市街地の美化,側溝・道路

の美化)を徹底し,併せて河川に流出してしまっ

たごみが最終的に海洋に流出するのを極力防ぐ対

策(例えば,河口部に集積堆積したごみの定期的

な回収など)も実行することが必要であろう.そ

のためには,陸域を含めた市民,河川管理者,道

路管理者も地域計画作成に参画し,この問題につ

いて議論してもらう必要がある.

4–2.責任の明確化

海岸漂着物等の処理については,第十七条第

一項に海岸管理者の責任が明記され,第三項にお

いて市町村はその処理に協力することとなった.

一方第十八条では,漂着物等に起因して住民の生

活または経済活動に支障が生じていると認める時

は,市町村は海岸管理者に処理のための必要な処

置をとるよう要請できるとなっている.しかしこ

の場合でも,最終的には回収されたごみの処理は,

市町村の協力という形で市町村に戻ってくる.こ

のように本法では,役割分担が明確化されたもの

の,これまで最前線で対応に苦慮してきた市町村

の負担軽減には至っていない.よってこの処理の

責任については,関係者間(県と市町村,地方公

共団体の部署間)において国の基本方針について

の認識を共有した上で,十分に議論して協力関係

を構築しておく必要がある.また近年,台風や水

害の大規模化に伴い,大量のごみの漂着問題が頻

発している.よって地域計画作成段階では,平時

の対応と併せて,大量漂着時や危険物の対応につ

いても関係者で議論し,役割分担や費用の負担の

明確化だけでなく,相互の連携についても確認し

ておく必要があろう.

4–3.市民セクターの役割

専門業者が実施する公共事業としての回収や

研究者による調査研究は,海洋ごみの発生者であ

る市民に対する行動変化を促すツールではないた

め,海洋ごみの回収や実態把握ができても,発生

抑制にはつながらない.海洋ごみの発生抑制には,

ごみの発生を抑制し,回収活動に参加するという

ごみを生み出す市民の自発的な行動の変化によっ

て,美しい海という社会的便益を得るしくみを社

会に浸透させる必要がある.そのためには,行動

する準備ができている市民に経験を伴った非金銭

的インセンティブを持つツールを供給する必要が

ある.またその行動の変化を継続させるためには,

成果を目に見える形で提供し続ける必要もある.

このような役割は,市民セクターに負うところが

大きいことから,県はその活動を支援していく体

制を確立することも必要である.

4–4.モニタリング

海洋ごみ発生の継続性から考えると,時間軸

での解決には,回収活動前にごみの分布と量を把

握して回収の目標値を設定し,効果的な回収計画

を立案することも必要である.回収目標を設定す

ることは,回収結果と比較することで回収努力の

効果を評価することができ,その評価結果を活動

Page 57: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

55

後すぐに実行者に提供することが,改善活動の継

続エネルギーにもなる.またこの目標の設定と効

果の評価を全国統一の手法で地域内だけではな

く,国内外と比較することにより,自らの活動や

役割の貢献(大量漂着物を回収する,美しい状態

を維持する,発生を抑制する)を知ることができ

る.これも活動継続のための重要なエネルギーと

なろう.さらに継続したモニタリングは,不法投

棄の監視活動や高密度漂着地点の新たな発見だけ

でなく,関係者の輪を広げることにもなるだろう.

4–5.公共事業とボランティア活動

これまでの海岸清掃活動は,主に地域住民や

教育機関,さらにはこの問題を改善したいという

思いを持った有志による無償の回収活動と,市町

村の処理の協力といった形で行われてきた.しか

し地域グリーンニューディール基金による漂着ご

みの有償回収事業が,今後 3 年間,各地で実施さ

れるようになると,同じ回収活動でありながら,

主催者により有償無償の差が生じる.これは,こ

れまで無償で実施してきた有志の活動継続のエネ

ルギーを削ぐことにもなり,現にこの問題は昨年

暮から全国各地から聞こえてきている.また有償

による回収事業の実施は,海洋ごみの発生者であ

る市民や事業者に排出者が特定できないごみの回

収処理の責任を海岸管理者等に負わし,自らは第

十一条に掲げられている事業者及び国民の責務を

忘れ,無関心化,無責任化していくといったリバ

ウンドを招く恐れがある.地域計画では,眼前の

ごみ対策だけではなく,これを機会に今後も発生

が継続する海洋ごみに対し,継続的な取り組みが

できる体制を構築することが長い目で見て有効で

あろう.

4–6.地域グリーンニューディール基金

本法律の成立と平行して,環境省は海岸漂着

物地域対策推進事業のための基金 60 億円を平成

21 年度の補正予算で組んだ.本県はこのうち 3.7

億円の配分を受けたが,この基金は,あくまでも

海岸管理者がその事業を行うためのものであり,

県から補助金を交付された市町村が,県が管理す

る海岸で実施する回収活動の費用には使えない.

この基金は,法や国の基本方針ができていない時

期に短期間で募集されたこともあって,漂着ごみ

はあっても見積もりを提出しなかった市町村もあ

る.一方,交付を受けた都道府県は,実施する海

岸は重点地域に限定されるため,漂着ごみの量に

かかわらず申請してきた市町村の海岸を重点地域

としなければならない.国の基本方針に沿った形

で実施される本来の対策と,経済対策的色合いが

濃く,地域からの費用の積み上げによって申請さ

れた基金による事業は,真逆の関係にあり,基金

をもとに事業を進めようとする都道府県にこれま

で述べてきた全国,東アジアを視野に入れたマク

ロな視点での対策を要求することはかなり難し

い.しかし本県には,あえてこの視点をもって地

域計画が立案されることを期待する.

4–7.漂流ごみ・海底堆積ごみ対策

海面漂流ごみや海底堆積ごみについては,本

法の範疇外である.しかし特に大型流木等は,い

ずれ海岸に漂着するだけでなく,船舶への航行阻

害を引き起こし,陸上構造物へ損傷を与える場合

もある.よってこれらが沿岸域に接近した場合,

海岸に漂着する前に海上で回収する必要性も出て

くる.したがって,沿岸域における漂流物の回収

の協力体制およびその処分方法と費用負担につい

ても,地域計画作成の際に作業の流れを含めて地

域で確認しておくべきである.

一方,海底堆積ごみは,地形や制度,機材な

どの制約が大きく,これを専門に回収することは

困難である.海底堆積ごみの最も密度が高い場所

は,底曳網の中である.ここにごみが集まること

を一つのチャンスとし,それを確実に回収して処

分するルートを確立することができれば,回収活

動の継続性が担保され,海底環境の保全改善が進

む.

よって本県における地域計画作成の際には,海

岸漂着ごみと併せて,海面漂流ごみや海底堆積ご

みの対応についても議論し,明記するべきだろう.

Page 58: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

56

 5.まとめ

海洋ごみ問題が市民活動で取り上げられてか

ら 20 年が経過した.法成立までの年月は,原因

が我々の生活の中にありながら,海という生活環

境から離れた世界で起きている問題であったた

め,問題が顕在化し,認知されるまでに要した時

間でもある.本法は,問題解決の一つの仕組みで

あり,過去のつけの拡散と現代の漏れが今後も続

く限り,真の問題解決はない.良好な海洋環境の

保全が豊かで潤いのある人類生活に不可欠である

とこを今一度,鹿児島県の自然愛護に関わる皆さ

んと確認し,地域での取り組みの推進が海洋全体

への貢献であることを胸に刻み,私も一研究者と

してまた一市民として活動していきたい.鹿児島

県では 10 年以上のモニタリングの結果を有し,

発生抑制に関する先進的事例も有する.今後海洋

ごみ対策の先駆県としてリードしていくことを期

待したい.

 引用文献

1) The Ocean Conservancy:2004 ICC cleanup results. Interna- tional coastal cleanup 2004,The Ocean Conservancy,Washington DC, 2005,pp. 1–14.

2) クリーンアップかごしま事務局編:かごしまクリーンアップキャンペーン結果,かごしまクリーンアップキャンペーン 2007 報告書,クリーンアップかごしま事務局,鹿児島,2008,pp. 5–8.

3) 藤枝 繁,小島あずさ,大倉よし子:日本における国際海岸クリーンアップ(ICC)の現状とその結果,沿岸域学会誌,20:33–46,2007.

4) 藤枝 繁,大富 潤,東 政能,幅野明正:鹿児島湾における海底堆積ごみの分布と実態,日本水産学会誌,75:19–27,2009.

5) 藤枝 繁:鹿児島湾海面に浮遊するプラスチックゴミ,自然愛護,29:9–12,2003.

6) 藤枝 繁,池田治郎,牧野文洋:鹿児島県の海岸における発泡プラスチック破片の漂着状況,日本水産学会誌,68:652–658,2002.

7) 藤枝 繁,藤 秀人,濱田芳暢:鹿児島湾海岸における発泡プラスチック製漁業資材の漂着状態,日本水産学会誌,66:236–242,2000.

8) Fujieda,S.:Expanded Polystyrene debris along the Japanese coastline and development of recycling system for waste EPS floats. The 2nd NOWPAP workshop on marine litter, Toyama, Japan, 2007, pp. 93–96.

9) 藤枝 繁:1998 年 8 月鹿児島県薩摩半島沿岸に漂着した大量ゴミの実態,水産海洋研究,63:68–76,1999.

10) 藤枝 繁・星加 章・橋本英資・佐々倉 諭・清水孝則・奥村誠崇:瀬戸内海における海洋ごみの収支,沿岸域学会誌,22 (4), 2010.(印刷中)

11) 環境省:一般廃棄物の排出及び処理状況等(平成 15 年度実績)について(平成 17 年 11 月 4 日,報道発表資料より),(http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=6512)

12) 農林水産省農村振興局・農林水産省水産庁・国土交通省河川局・国土交通省港湾局:全国海岸の漂着ゴミの実態調査,平成 18 年度社会資本整備事業調整費/海岸における一体的漂着ゴミ対策検討調査報告書,pp. 1–25. 2007.

Page 59: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

57

鹿児島県初記録のヨウジウオ科ウミヤッコ Halicampus grayi

太田竜平 1・伊東正英 2・本村浩之 3

1 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館(水産学部)2 〒 879–1301 鹿児島県南さつま市笠沙町片浦 718

3 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

 はじめに

ヨウジウオ科(Gasterosteiformes: Syngnathidae)

は世界で 51 属約 196 種が知られており(Nelson,

2006),日本近海には 21 属 54 種が分布する(瀬能,

2000;鈴木ほか,2002, 2003;高田ほか,2008).

ウミヤッコ属 Halicampus はインド・太平洋域で

12 種が有効種として認められており(Dawson,

1985),そのうち,日本からはホソウミヤッコ H.

bootthae (Whitley, 1964),ヒメホソウミヤッコ H.

dunckeri (Chabanaud, 1929),トラフウミヤッコ H.

nitidus (Günther, 1901),ノコギリウミヤッコ H.

brocki (Herald, 1953), ウ ミ ヤ ッ コ H. grayi Kaup,

1856,ホシヨウジ H. punctatus (Kamohara, 1952),

およびタツウミヤッコ H. macrorhynchus Bamber,

1940 の 7 種が知られている(瀬能,2000).ウミ

ヤッコはインド・西部太平洋域に分布し,国内か

らはこれまでに駿河湾,長崎県および琉球列島か

ら 報 告 さ れ て い る( 吉 野 ほ か,1975; 瀬 能,

2000;多紀ほか,2005).

2007 年 3 月 17 日に鹿児島県南さつま市笠沙町

貝浜で,ウミヤッコと同定される標本が 1 個体採

集された.この標本は鹿児島県における本種の初

記録となるため,ここに報告する.

 材料と方法

計数・計測方法は Dawson (1985) に従った.標

準体長は体長と表記した.計測はデジタルノギス

を用いて 0.1 mm 単位まで行った.ウミヤッコの

生鮮時の体色の記載は,固定前に撮影されたカ

ラー写真に基づく.本報告に用いた標本は,鹿児

島大学総合研究博物館(KAUM: Kagoshima Uni-

versity Museum)に保管されており,そのカラー

写真は同館の画像データベースに登録されてい

る.

 結果と考察

Halicampus grayi Kaup, 1856

ウミヤッコ(図 1)

標 本 KAUM–I. 3244, 体 長 67.4 mm( 全 長

69.7 mm),鹿児島県南さつま市笠沙町貝浜(31°

24′37″N, 130°11′32″E), 水 深 0.5 m,2007 年 3 月

17 日,タモ網,伊東正英.

記載 背鰭軟条数 19;胸鰭軟条数 18;臀鰭軟

条数 5;尾鰭軟条数 10;体輪数 18 + 35 = 53;背

鰭基底下の体輪数 2.5 + 1 = 3.5.体長に対する各

部位の相対比(%)を以下に示す.全長 103.4%,

頭長 11.4%,吻長 5.6%,吻高 1.2%,躯幹高 2.4%.

体は細長く,吻は短い.躯幹部と尾部の上隆

起線・下隆起線はともに不連続.躯幹部上隆起線

は背鰭基底下の体輪上で隆起する.躯幹部の下隆

起線は最終躯幹輪で上方へ曲がる.躯幹部中央隆

起線は最終躯幹輪の1つ前より下方へ曲がる.各

隆起線は強い鋸歯状.鰓蓋中央よりやや上方を鰓

   Ohta, R., M. Ito and H. Motomura. 2010. First record of Hali-

campus grayi (Perciformes: Syngnathidae) from Kago-shima Prefecture, southern Japan. Nature of Kagoshima 36: 57–59.

HM: Kagoshima University Museum, 1–21–30 Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: [email protected]).

Page 60: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

58

蓋下縁に平行して強い 1 隆起線が走り,その隆起

線から 10 本の弱い隆起線が放射状に等間隔で鰓

蓋下縁に向かって伸びる.

生鮮時の色彩(図 1)— 体に茶褐色と白色の

横帯が多数あり,各横帯は体を環状に囲むが,1

本目の白色横帯は体上方から体側中央までであ

る.白色横帯は,躯幹部に 4 本,尾部に 10 本の

合計 14 本.1 本目の白色横帯と鰓蓋の間の体側

上方には白色斑がある.背鰭と臀鰭は透明.胸鰭

は茶褐色がかった透明.尾鰭は黄色がかった褐色.

吻は暗褐色で,先端が白色.背鰭基底部前方は白

色で,躯幹部 4 本目の白色横帯と連続する.

固定後の色彩 — 吻の先端,体側の横帯,体前

方の斑紋は淡黄色.その他は生鮮時と同様.

分布 アフリカのアデン湾,スリランカ沿岸,

タイ,オーストラリアから日本にかけてのインド・

西部太平洋の広域に分布する(Dawson, 1985).

国内では駿河湾(瀬能,2000),長崎県(塩垣・

道津,1973;Shinohara et al., 1998),琉球列島(吉

野ほか,1975;多紀ほか,2005)および鹿児島県

本土に分布する(本研究).

備考 本標本は尾鰭と臀鰭があること,尾鰭

が大きくないこと,胸鰭が半円形であること,躯

幹部と尾部の上下隆起線がともに不連続であるこ

と,背鰭基底下の体輪が盛り上がること,尾鰭を

除く尾部が躯幹部よりも長いこと,吻が眼の後縁

と胸鰭基底中央間の距離より短いこと,吻背面の

中央隆起線が凹状でないこと,尾鰭が 10 軟条で

あること,躯幹輪数が 18 であることなどの特徴

から,Dawson (1985) や瀬能(2000)の記載に一

致し,ウミヤッコ H. grayi と同定された.

日本国内でウミヤッコはこれまでに駿河湾,長

崎県,琉球列島からのみ報告されていた(吉野ほ

か,1975;瀬能,2000;多紀ほか,2005).

駿河湾からの報告は水中写真のみに基づいた

ものであり(瀬能,2000),駿河湾における本種

および本種と考えられる個体の水中写真が,神奈

川県立生命の星・地球博物館の魚類写真資料デー

タベース(KPM-NR)に登録されている(KPM-NR

26790, 40659–40660, 40676, 60777).これらの画像

のうち,KPM-NR 40659–40660(静岡県沼津市西

浦大瀬,1999 年 10 月 25 日,内山博之氏撮影)

は背鰭基底下の体輪が盛り上がること,吻が眼の

後縁と胸鰭基底中央間の距離より短いこと,頭部

後方の鰓蓋上方が盛り上がることなどの特徴がよ

く確認でき,本研究でもウミヤッコ H. grayi と同

定された.

Bleeker (1858) は,長崎県から採集された 2 標

本に基づき Syngnathus koilomatodon を新種として

記載し(Eschmeyer, 1998),松原(1955)や塩垣・

道津(1973)はウミヤッコを H. koilomatodon と

して報告したが,現在 S. koilomatodon は H. grayi

の新参シノニムとされている(Dawson, 1985).

吉野ほか(1975)は琉球列島から本種を報告

したが,標本番号や標準体長など標本の詳細は記

載されておらず,吉野ほか(1975)により琉球列

島から報告された標本の所在は不明である.

現在,Bleeker (1858) により報告された長崎県

産の本種の標本はロンドン自然史博物館(BMNH

1867.11.28.353)とライデン自然史博物館(RMNH

7226)に保管されている.しかし,本研究ではこ

れら 2 標本以外の日本産ウミヤッコ標本の所在を

確認することが出来なかった.したがって,鹿児

島県産の標本(KAUM–I. 3244)は長崎県から採

集された 2 標本に次ぐ,日本で 3 個体目の標本で

ある可能性が高い.

 謝辞

本報告を取りまとめるにあたり,標本の作製

や登録などを手伝って下さった鹿児島大学総合研

図 1.鹿児島県から採集されたウミヤッコ Halicampus grayi の生鮮標本写真.KAUM–I. 3244,標準体長 67.4 mm,南さつま市笠沙町貝浜.

Page 61: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

59

究博物館ボランティアの原口百合子女史と高山真

由美女史に厚くお礼申し上げる.本原稿に対し適

切な助言を下さった鹿児島大学総合研究博物館魚

類分類学研究室の松沼瑞樹氏,荻原豪太氏,目黒

昌利氏,山下真弘氏,吉田朋弘氏に心より感謝す

る.本研究は,鹿児島大学総合研究博物館の「鹿

児島県産魚類の多様性調査プロジェクト」と国立

科学博物館の「黒潮プロジェクト(浅海性生物の

時空間分布と巨大海流の関係を探る)」の一環と

して行われた.

 引用文献

Dawson, C. E. 1985. Indo-Pacific pipefishes (Red Sea to the Americas). The Gulf Coast Res. Lab., Ocean Springs. 230 pp.

Eschmeyer, W. N., ed. 1998. Catalog of fishes. Vol. 1. Introductory materials, species of fishes A–L. Calif. Acad. Sci., San Fran-cisco. 958 pp.

松原喜代松.1955.魚類の形態と検索 I–III.石崎書店,東京.xi + v + 1605 pp., 135 pls.

Nelson, J. S. 2006. Fishes of the world. 4th ed. John Wiley & Sons, Inc., New Jersey. xix + 601 pp.

瀬能 宏.2000.ヨウジウオ科.中坊徹次(編),pp. 520–536,1509–1515.日本魚類検索.全種の同定.第 2 版.東海大学出版会,東京.

Shinohara, G., K. Matsuura and S. Shirai. 1998. Fishes of Tachi-bana Bay, Nagasaki, Japan. Mem. Natn. Sci. Mus., Tokyo, (30): 105–138.

塩垣 優・道津喜衛.1973.長崎県野母崎町沿岸の魚類.長崎大学水産学部研究報告書,(35): 11–39.

鈴木寿之・瀬能 宏・細川正富.2002.西表島で採集された日本初記録のカブトヨウジ(新称).I. O. P. Diving News, 13 (10): 4–6.

鈴木寿之・矢野維幾・瀬能 宏・吉野哲夫.2003.西表島から採集された日本初記録のヨウジウオ科の稀種チンヨウジウオ.I. O. P. Diving News, 14 (1): 2–5.

高田陽子・渋川浩一・篠原現人.2008.ヨウジウオ科カスミオイランヨウジ(新称)Dunckerocampus naia の日本からの記録.魚類学雑誌,55 (2): 135–138.

多紀保彦・河野 博・坂本一男・細谷和海.2005.新訂原色魚類大圖鑑(圖鑑編).北隆館,東京.46 + 971 pp.

吉野哲夫・西島信昇・篠原士郎.1975.琉球列島産魚類目録.琉球大学理工学部紀要(理学部編),(20): 61–118.

Page 62: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

60

Page 63: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

61

 はじめに

ベニアミゴロモ Dictyurus purpurascens Bory de

Saint-Vincent(紅色植物門,イギス目ダジア科)

はインド南東部 Tamil Nadu 州の Cape Comorin で

採集された標本に基づいて原記載された(Bory,

1834; Silva et al., 1996; 吉田 , 1998).本種はイン

ドやスリランカ,タンザニアなどのインド洋熱帯

域に広く分布すると共に,ミクロネシアやフィ

ジー,ニュージーランド,中国(南沙諸島,西沙

諸島)などの太平洋西部からも報告されている

(Børgesen, 1945; Chang and Xia, 1978; Lewis, 1984;

Silva et al., 1996; Phillips, 1997, 2002; Zheng, et al.,

2001; Oliveira et al., 2005; Coppejans et al., 2009).

日本では,Tanaka (1963) が鹿児島県大島郡龍

郷町(奄美大島)の水深 40 m で採集された標本

を日本新産種として報告した.しかし,日本産種

に関するその後の報告はなく,国立科学博物館

(TNS)や北海道大学総合研究博物館(SAP),九

州大学農学部海藻標本庫などの国内主要海藻標本

庫にも標本は収蔵されていなかった.

筆者らのグループは,九州南部および南西諸

島の海藻相調査を 2001 年以降実施しており,ホ

ソカバノリ Gracilaria yamamotoi Zhang et Xia やヒ

メ ク ビ レ オ ゴ ノ リ Gracilaria articulata Chang et

Xia などの日本新産種を報告すると共に,原記載・

初記録以降に報告のない実体不明種の生育を確認

してきた(Terada and Ueno, 2004; Terada and Shi-

mada, 2005).今回,徳之島でベニアミゴロモを

2008 年 12 月に採取し,本邦における生育を 48

年ぶりに確認したことから,ここに報告する.

 材料および方法

調査は,2008 年 12 月 13 日に鹿児島県大島郡

天城町(徳之島)与名間で実施した.採集は

SCUBA でおこない,与名間漁港(27°53.110′N,

128°53.055′E)の沖合約 300 m の水深 10 m 前後に

おいて,他の海藻類と共に採集した.材料は冷凍

保存の上で鹿児島大学水産学部水産植物学研究室

に持ち帰り,観察をおこなった.なお,観察標本

は同研究室標本庫に収蔵した.

 結果および考察

Dictyurus purpurascens Bory de Saint-Vincent in

Bélanger and Bory de Saint-Vincent, 1834: 170–

171, pl. 15: fig. 2.

ベニアミゴロモ(Figs. 1–3)

Tanaka, 1963; Chang and Xia, 1978; Zheng, et al.,

2001; Coppejans et al., 2009.

Specimen examined: Yonama, Amagi Town (Toku-

noshima Island), Kagoshima Prefecture, Japan, Dec.

13, 2008 (Terada 4577).

体は直立して叢生し,高さ約 3 cm までになる.

主軸は円柱状で,互生または不規則に分岐し,側

生の枝と末端枝を規則的な列に生じる.末端枝は

1 列の細胞列で,それぞれが連絡して網状の構造

を形成する.主軸は中軸細胞と 4 個の周心細胞か

らなり,皮層で覆われる.

日本初記録から半世紀ぶりに確認されたベニアミゴロモDictyurus purpurascens Bory de Saint-Vincent(紅色植物門イギス目)

土屋勇太郎・寺田竜太

〒 890–0056 鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学水産学部

   Tsuchiya, Y. and R. Terada. 2010. Reconfirmation of Dictyu-

rus purpurascens Bory de Saint-Vincent from Japanese waters. Nature of Kagoshima 36: 61–63.

RT: Faculty of Fisheries, Kagoshima University, 4–50–20 Shimoarata, Kagoshima 890–0056, Japan (e-mail: [email protected]).

Page 64: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

62

ベニアミゴロモ属 Dictyurus は,現在のところ D.

fenestratus Dickinson,D. gymnopus J. Agardh,D.

maldivensis Hackett et Aregood,D. occidentalis J.

Agardh,ベニアミゴロモ D. purpurascens の 5 種

が知られている.このうち D. fenestratus は大西

洋に面したガーナやセネガル沿岸,D. maldivensis

はモルジブ,D. occidentalis はカリブ海に分布し,

これまで太平洋西部からの報告はない.日本では

ベニアミゴロモ 1 種のみが報告されている.

徳之島産の材料は,Bory(1834)の原記載や

Tanaka(1963),Zhang et al.(2001) の 記 載 と 一

致し,ベニアミゴロモ D. purpurascens と同定した.

本種は 1 列細胞の末端枝が網目状に連絡し,円柱

状の主軸を囲むように形成する点で他種と区別で

きる.日本産の個体は中国産の個体よりやや小型

で,Tanaka(1963)とほぼ同じ大きさだった.本

種 の 生 殖 器 官 の 構 造 に つ い て は Svedelius and

Nygren(1946)が報告しているが,採集された材

料はいずれも未成熟体だったことから確認できな

かった.

Fig. 1. Herbarium specimen of Dictyurus purpurascens Bory de Saint-Vincent from Tokunoshima Island, Kagoshima Prefecture (Terada 4577).

Fig. 2. Habits of branch and branchlet.

Fig. 3. Close up of branchlet, showing net-like structure of the surface of the frond.

Page 65: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

63

採集地は沖合に向かって緩やかに傾斜してお

り,基質は岩盤または岩塊だった.Tanaka(1963)

は水深 40 m のサンゴ礁より採集されたと報告し

ているが,本研究で採集された場所は水深 10 m

前後だったことから,漸深帯に広く生育している

ことが考えられた.また,本種はインド洋から太

平洋に至る広範囲に生育するが,奄美群島が分布

の北限に位置することが示唆された.

環境省のレッドリスト(環境庁 2000;環境省

2007)は,南西諸島に分布する海藻類として,絶

滅 危 惧 I 類(CR+EN)6 種 と II 類(VU)12 種,

準絶滅危惧(NT)30 種を報告すると共に,情報

不足として 23 種を掲載している.絶滅危惧種と

しての記載は希少性の評価が重要であり,分布や

生育状況等の知見が十分でない種類は情報不足と

して掲載される.しかし,初記録以降に報告のな

かったベニアミゴロモは,生育の実体そのものが

未確認だったことから,情報不足のカテゴリーに

も掲載されていなかった.今後は,本種の分布や

生育環境について詳細に研究をおこない,希少性

を評価することが求められる.

 引用文献

Bélanger, C. and Bory de Saint-Vincent, J. B. G. M. 1834. Voyage aux Indes-Orientales. Botanique 2. Cryptogamie. Paris.

Børgesen, F. 1945. Some marine algae from Mauritius. III. Rhodo-phyceae. Part 4. Ceramiales. Kongelige Danske Videnskab-ernes Selskab, Biologiske Meddelelser 19: 1–68.

Chang, J. and Xia, B. 1978. Studies on some marine red algae of the Xisha Islands, Guangdong Province, China. I. Studia Ma-rina Sinica 12: 39–49.

Coppejans, E., Leliaert, F., Dargent, O., Gunasekara, R., and De Clerck, O. 2009. Sri Lankan Seaweeds. Methodologies and field guide to the dominant species. ABC Taxa 6: 1–265.

Dickinson, C. J. 1951. Marine Algae from the Gold Coast: III. Kew Bulletin 6: 293–297.

環境庁自然保護局野生生物課(編)2000.改訂・日本の絶滅のおそれのある野生動物.− レッドデータブック − 9, 植物 II(維管束植物以外).pp. 1–429. 財団法人自然環境研究センター.

環境省 2007.哺乳類,汽水・淡水魚類,昆虫類,貝類,植物 I 及び植物 II のレッドリストの見直しについて.資料 6,pp. 7–11.環境省自然環境局野生生物課.

Lewis, J.A. (1984). Checklist and bibliography of benthic marine macroalgae recorded from northern Australia I. Rhodophyta. pp. 1–98. Department of Defense. Defense Science and Technology Organization. Materials Research Laboratories, Melbourne, Victoria, Report MRL-R-912.

Oliveira, E., Österlund, K. and Mtolera, M.S.P. 2005. Marine Plants of Tanzania. A field guide to the seaweeds and sea-grasses. pp. 1–267, Botany Department, Stockholm Univer-sity.

Phillips, J. A. 1997. Algae. In: Queensland Plants: Names and Dis-tribution. (Henderson, R. J. F. Eds), pp. 223–240. Queensland Herbarium, Department of Environment.

Phillips, J. A. 2002. Algae. In: Names and distribution of Queen-sland plants, algae and lichens. (Henderson, R.J.F. Eds), pp. 228–244. Queensland Government Environmental Protection Agency.

Silva, P.C., Basson, P.W. and Moe, R.L. 1996. Catalogue of the benthic marine algae of the Indian Ocean. University of Cali-fornia Publications in Botany 79: 1–1259.

Svedelius, N. and Nygren, A. 1946. On the structure and reproduc-tion of Dictyurus purpurascens. Symb. Bot. Upsal. 9: 1–32.

Tanaka, T. 1963. Studies on some marine algae from southern Ja-pan V. Mem. Fac. Fish. Kagoshima Univ. 12: 75–91.

Terada, R. and Ueno, J. 2004. New record of Gracilaria yama-motoi Zhang et Xia (Rhodophyta) from Japan. Tax. Econ. Seaweeds 9: 243–248.

Terada, R. and Shimada, S. 2005. Taxonomic note on Gracilaria articulata Chang et Xia (Gracilariales, Rhodophyta) from Okinawa, Japan. Crypt. Algol. 26: 77–89.

吉田忠生.1998.新日本海藻誌.pp. 1–1222. 内田老鶴圃.

Zheng, B., Liu, J. and Chen, Z. 2001. Flora algarum marinarum sinicarum Tomus II Rhodophyta No. VI Ceramiales (I). pp. 1–159, Beijing: Science Press.

Page 66: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

64

Page 67: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

65

鹿児島県から得られたミヤケテグリ Neosynchiropus moyeri(ネズッポ科:コウワンテグリ属)および標本に基づく鹿児島県のネズッポ科魚類相

岩坪洸樹 1・本村浩之 2

1 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館(水産学部)2 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

 はじめに

ネ ズ ッ ポ 科(Callionymidae) は 世 界 で 20 属

183 種,日本国内からは 14 属 34 有効種および 1

未記載種が知られている(Nakabo, 1982;中坊,

2000;Fricke, 2002;Motomura and Mukai, 2006:

岡 村,2009). こ の う ち, コ ウ ワ ン テ グ リ 属

(Neosynchiropus) は, ヤ マ ド リ Neosynchiropus

ijimai (Jordan and Thompson, 1914),セソコテグリ

N. morrisoni (Schultz, 1960), ミ ヤ ケ テ グ リ N.

moyeri (Zaiser and Fricke, 1985),コウワンテグリ N.

ocellatus (Pallas, 1770) の 4 有効種,およびアカオ

ビコテグリ Neosynchiropus sp. の 1 未記載種が日

本から知られている(中坊,2000;岡村,2009).

Neosynchiropus moyeri は Zaiser and Fricke (1985)

により,伊豆諸島三宅島から採集された 24 標本

(標準体長 22.0–60.8 mm)に基づいて Synchiropus

moyeri として記載され,同時に標準和名ミヤケテ

グリが提唱された.日本国内において,本種はこ

れまでに伊豆諸島,高知県柏島,沖縄諸島,およ

び八重山諸島から報告されている(Zaiser and

Fricke, 1985;平田ほか,1996;中坊,2000;岡村,

2009).

2009 年 10 月 4 日に鹿児島県南さつま市坊津町

丸木浜から,ミヤケテグリと同定される 1 個体が

採集された.これまで鹿児島県から本種は記録さ

れていないため,鹿児島県から得られたミヤケテ

グリを記載し報告する.また,鹿児島大学総合研

究博物館(KAUM)に所蔵されている鹿児島県

産のネズッポ科魚類標本をあわせて報告する.

 材料と方法

標本の計数・計測方法は Nakabo (1982) に従っ

た.標準体長は体長と表記した.計測はデジタル

ノギスを用いて 0.1 mm まで行い,計測値は体長

に対する百分率で示した.胸鰭条数は左体側のも

のを計数した.脊椎骨数は軟 X 線写真を用いて

計数した.本報告で用いた学名は中坊(2000)に

従った.ミヤケテグリの体色の記載は,KAUM–I.

22535 の生鮮時のカラー写真に基づいて行い,色

彩の名称は財団法人日本色彩研究所(2007)に従っ

た.

 結果と考察

Neosynchiropus moyeri (Zaiser and Fricke, 1985)

ミヤケテグリ(Fig. 1)

標本 KAUM–I. 22535,雄,体長 42.3 mm,鹿

児 島 県 南 さ つ ま 市 坊 津 町 丸 木 浜(31°17′05″N,

130°12′36″E),水深 0.5 m,2009 年 10 月 4 日,タ

モ網,岩坪洸樹.

記載 背鰭条数は IV-8;臀鰭条数は 7;胸鰭条

数は 23;腹鰭条数は I, 5;尾鰭条数は i + 7 + ii;

脊椎骨数は 6 + 12 = 18.体各部測定値の体長に対

する割合(%):背鰭起部での体幅 20.1%;背鰭

起 部 で の 体 高 19.1%; 尾 柄 高 9.2%; 背 鰭 前 長

25.5%;尾鰭長 35.2%;頭長 29.3%;眼径 6.6%;

吻長 9.9%;上顎長 9.9%;両眼間隔幅 8.3%;背鰭

   Iwatsubo, H. and H. Motomura. 2010. A first record of Neo-

synchiropus moyeri (Perciformes: Callionymidae) from Kagoshima Prefecture, southern Japan and a synopsis of dragonets in Kagoshima. Nature of Kagoshima 36: 65–73.

HM: Kagoshima University Museum, 1–21–30 Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: [email protected])

Page 68: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

66

第 1 棘長 35.0%;背鰭第 2 棘長 45.2%;背鰭第 3 棘

長 48.9%;背鰭第 4 棘長 38.1%;背鰭第 1 軟条長

17.7%;背鰭最終軟条長 22.5%;臀鰭第 1 軟条長

9.0%;臀鰭最終軟条長 19.4%;胸鰭長 24.6%;腹

鰭長 19.4%;前鰓蓋骨棘長 9.2%;肛門小突起長 2.1%.

体は細長く縦扁し,無鱗で粘液質におおわれ

る.尾柄は細長く,後方に向かってより細くなる.

眼は体背面に位置する.吻は突出し,吻端は尖る.

口は小さく,主上顎骨後端は眼の中央を超えない.

前鰓蓋骨に強い 1 棘がある.鰓孔は丸く,背鰭起

Fig. 1. Preserved male specimen of Neosynchiropus moyeri from Kagoshima Prefecture, Japan (KAUM–I. 22535, 42.3 mm SL).

Fig. 2. Fresh male specimen of Neosynchiropus ocellatus from Kagoshima Prefecture, Japan (KAUM–I. 17467, 61.7 mm SL).

Page 69: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

67

部の下方に位置する.側線は体背側寄りを走る.

背鰭は 2 基ある.雄の背鰭棘はすべて糸状に伸長

する.第 2 背鰭のすべての軟条および第 1 軟条を

除く臀鰭軟条は,先端が 2 分岐する.

色彩 体背面から体側面にかけて紅色の大理

石模様で,体腹面は白.雄の第 1 背鰭は帯状模様

で,眼鏡状模様を含む上部の帯状模様はオリーブ

色,下部の帯状模様は明るい赤,上部下部ともに

帯状模様の縁は白であり,帯状模様の間はこい緑

みの黄.第 2 背鰭の地色は黄みの白で,不規則な

紅色斜帯がある.臀鰭は灰みの白.胸鰭は透明で

オレンジ色帯が 2 本ある.腹鰭は暗いグレイ.尾

鰭の地色は白で紅色の斑点が散在する.

ホルマリン固定後は,紅色,オリーブ色,明

るい赤,および暗いグレイは明るいグレイ,こい

緑みの黄は黄みの白となる.胸鰭のオレンジ色帯

は消失し透明となる.

分布 本種は,日本国外ではインドネシア

(Kuiter and Tonozuka, 2004;本研究:備考参照),

パラオ,オーストラリア(Fricke, 2002),国内で

は伊豆諸島三宅島(Zaiser and Fricke, 1985;平田

ほか,1996;中坊,2000),高知県柏島(平田ほか,

1996;中坊,2000),鹿児島県南さつま市(本研究),

沖縄諸島(中坊,2000),および八重山諸島西表

島(岡村,2009)に生息することが確認されてい

る.

備考 本標本は,尾鰭中央部の軟条の先端が

分岐すること,前鰓蓋棘の後端が鉤状ではないこ

と,下唇上縁に肉質突起がないこと,体側下部に

皮褶がないこと,鰓蓋部は皮弁状でないこと,腹

鰭には遊離軟条がないこと,第 2 背鰭軟条の先端

は 2 分岐であること,臀鰭軟条(第 1 軟条を除く)

の先端が分岐すること,雄の第 1 背鰭の第 2 鰭膜

に 2 個の眼状模様が連続して眼鏡状となった斑紋

があること,および生鮮時の体色が紅色の大理石

模様であることなどによりミヤケテグリと同定さ

れた(Zaiser and Fricke, 1985;中坊,2000).また,

N. ocellatus として報告されていた Randall(2005:

509, 下 2 図,インドネシア)は,雄の第 1 背鰭の

第 2 鰭膜に 2 個の眼状模様が連続して眼鏡状と

なった斑紋があることと,生鮮時の体色が紅色の

大理石模様であることから,本研究によってミヤ

ケテグリと同定された.

本種の鹿児島県での採集記録は,これまでの

分布の空白域を埋めるものであり,本種が南日本

の太平洋沿岸から沖縄にかけて広く分布すること

を示唆する.

ミヤケテグリとコウワンテグリは,雄の第 1

背鰭の模様が異なる.ミヤケテグリは眼状模様が

2–3 個(通常 2 個)あり,連続し眼鏡状となる(Zaiser

and Fricke, 1985; 中 坊,2000;Table 1). 一 方,

コウワンテグリは眼状模様が 2–6 個(通常 4 個)

である(Kamohara, 1957;Zaiser and Fricke, 1985;

中坊,2000;Table 1).さらに,ミヤケテグリの

第 1 背鰭上の帯状模様は,すべて背鰭棘に対し垂

直であるが(Fig. 1),コウワンテグリの帯状模様

は,眼状模様より上部では背鰭棘に対し平行であ

る(下部では背鰭棘に対し垂直となる;Fig. 2).

ミヤケテグリは通常,藻類被度の高い転石地

に生息しており(Zaiser and Fricke, 1985),本報告

での採集場所も同様の環境であった.

 鹿児島県のネズッポ科魚類相

鹿児島大学総合研究博物館(KAUM)に所蔵

されている,鹿児島県で採集されたネズッポ科魚

類 7 属 12 種(1 未同定種を含む)を以下に示す.

Bathycallionymus kaianus (Günther, 1880)

トンガリヌメリ(Fig. 3)

標本 KAUM–I. 1245,体長 88.3 mm,東シナ

海(30°47′07″–59′07″N, 127°25′03″–27′06″E),水深

123 m,2006 年 11 月 4 日,底曳網,鹿児島大学

附属練習船かごしま丸.

記載 背鰭条数は IV-9;臀鰭条数は 9;胸鰭条

数は ii + 18;腹鰭条数は I, 5;尾鰭条数は i + 3 +

2 3 4 5N. moyeri (n = 1) 1 — — —N. ocellatus (n = 4) 1 — 2 1

Table 1. Number of ocelli at first dorsal fin in males of Neosynchi-ropus moyeri and N. ocellatus, both from Kagoshima Prefec-ture, Japan.

Page 70: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

68

ii + 2 + ii.背鰭第 1 棘が伸長する.背鰭第 9 軟条

の前方枝先端が分岐する.尾鰭中央部の軟条が不

分岐である.臀鰭が雄では顕著な斑紋がなく,雌

では外縁がわずかに暗色となる(Nakabo, 1988;

中坊,2000).

分布 日本国外では,台湾,インドネシア,お

よびニューギニアから報告されている(Shen,

1984;益田ほか,1988;Fricke, 2002).国内では,

静岡県,和歌山県,長崎県,および鹿児島県など

の南日本と東シナ海から報告されている(Nakabo,

1983;益田ほか,1988;中坊,1988, 2000;本研究).

Calliurichthys japonicus (Houttuyn, 1782)

ヨメゴチ(Fig. 4)

標本 KAUM–I. 785,体長 157.0 mm,雄,鹿

児 島 県 南 大 隅 町 佐 多 の 伊 座 敷 港 北 1 km 沖

(31°05′N, 130°41′E),水深 30–40 m,2006 年 9 月

25 日, 定 置 網, 築 地 新 光 子;KAUM–I. 11892,

体長 73.8 mm,鹿児島県南さつま市笠沙町片浦崎

ノ山東側(31°25′44″N, 130°11′49″E),水深 27 m,

2008 年 3 月 5 日,定置網,伊東正英;KAUM–I.

26493,体長 90.0 mm,鹿児島県南さつま市笠沙

町片浦崎ノ山東側,水深 27 m,2010 年 1 月 8 日,

定置網,伊東正英.

記載 背鰭条数は IV-9;臀鰭条数は 8;胸鰭条

数は ii–iii + 17;腹鰭条数は I, 5;尾鰭条数は i + 7

+ ii.後頭部に 1 対の骨質隆起がある.前鰓蓋骨

棘はまっすぐで,内側に 5–13 の突起があり,鋸

歯状である.雄の背鰭第 1 棘と第 2 棘は糸状に伸

長する.第 1 背鰭の第 3 棘と第 4 棘の間に 1 黒色

斑がある.尾鰭は長く,雄では体長と概ね同長.

分布 日本国外では,インド,韓国,中国,台

湾,ベトナム,タイ,インドネシア,フィリピン,

およびオーストラリアなどのインドから西部太平

洋域に分布する(Nakabo, 1983;Shen, 1984;益

田ほか,1988;Fricke, 2001, 2002).国内では,和

歌山県,高知県,長崎県,および鹿児島県などの

本州中部以南から報告されている(Kamohara,

1952a;Nakabo, 1983;益田ほか,1988;平田ほか,

1996;中坊,2000;本研究).

Dactylopus dactylopus

(Valenciennes in Cuvier and Valenciennes, 1837)

イッポンテグリ(Fig. 5)

標本 KAUM–I. 17780,体長 96.1 mm,鹿児島

県;KAUM–I. 17806,体長 87.0 mm,鹿児島県;

KAUM–I. 17807,体長 52.9 mm,鹿児島県.

記載 背鰭条数は IV-8;臀鰭条数は 7;胸鰭条

数は ii + 17;腹鰭条数は I, 1-4;尾鰭条数は i + 7

+ ii.臀鰭の最終軟条が先端で分岐する.腹鰭の

棘と第 1 軟条が付着し,他軟条から遊離する.

分布 日本国外では,タイ,台湾,中国,ベ

トナム,マレーシア,シンガポール,インドネシ

ア,フィリピン,パラオ,およびオーストラリア

などの西部太平洋域に分布する(Nakabo, 1983;

Shen, 1984; Fricke, 2001, 2002).国内では,琉球

列島から報告がある(Nakabo, 1983;中坊,1988,

2000).

備考 本研究で用いたイッポンテグリは,鹿

児島大学水産学部から移管されたものであり,詳

細な採集データが不明である.また,本種の日本

国内での報告は琉球列島からのみであるため,本

標本は鹿児島県本土から得られたものではない可

能性が高い.

Fig. 3. Fresh specimen of Bathycallionymus kaianus from Ka-goshima Prefecture, Japan (KAUM–I. 1245, 88.3 mm SL).

Fig. 4. Fresh specimen of Calliurichthys japonicus from Kagoshi-ma Prefecture, Japan (KAUM–I. 11892, 73.8 mm SL).

Page 71: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

69

Diplogrammus xenicus (Jordan and Thompson, 1914)

コブヌメリ(Fig. 6)

標本 KAUM–I. 20379,体長 82.0 mm,雄,鹿

児島県熊毛郡屋久島町一湊一湊海岸(30°27′22″N,

130°29′47″E),水深 1.0–4.0 m,2008 年 10 月 31 日,

タモ網,KAUM 魚類チーム.

記載 背鰭条数は IV-8;臀鰭条数は 7;胸鰭条

数は ii + 15;腹鰭条数は I, 5;尾鰭条数は i + 7 +

ii.上顎骨の後端にコブ状の突起がある.前鰓蓋

骨棘は長く,後端は内側に強く曲がり,内側に

3–9 本の突起がある.眼下感覚管の先端が分岐す

る.鰓蓋部が皮弁状になる.体側下部に体軸方向

の 1 皮褶がある.雄成魚の臀鰭鰭膜に八の字状の

暗色斑がある.

分布 日本国外では,台湾とオーストラリア

から報告がある(平田ほか,1996;Fricke, 2002).

国内では,愛知県,静岡県,高知県,鹿児島県,

および沖縄諸島などの南日本太平洋岸から琉球列

島に分布する(Nakabo, 1983;益田ほか,1988;

中坊,1988, 2000;平田ほか,1996;本研究).

Neosynchiropus moyeri (Zaiser and Fricke, 1985)

ミヤケテグリ(Fig. 1)

標本 KAUM–I. 22535,雄,体長 42.3 mm,鹿

児 島 県 南 さ つ ま 市 坊 津 町 丸 木 浜(31°17′05″N,

130°12′36″E),水深 0.5 m,2009 年 10 月 4 日,タ

モ網,岩坪洸樹.

Neosynchiropus ocellatus (Pallas, 1770)

コウワンテグリ(Figs. 2, 7)

標本 KAUM–I. 59,体長 47.1 mm,雄,鹿児

島県奄美市笠利町土浜タイドプール(28°24′34″N,

129°40′31″E),水深 0.5–1.0 m,2009 年 3 月 27 日,

タモ網,目黒昌利・吉田朋弘;KAUM–I. 5107,

体長 49.2 mm,雌,鹿児島県大島郡奄美大島,

1975 年 6 月 9 日;KAUM–I. 13247, 体 長 56.1

mm,雌,鹿児島県南さつま市笠沙町黒瀬海岸

(31°22′29″N, 130°10′09″E), 水 深 5 m,2009 年 8

月 9 日,タモ網,伊東正英;KAUM–I. 17455,体

長 35.5 mm,雌,鹿児島県奄美市笠利町土浜タイ

ドプール(28°24′34″N, 129°40′31″E),水深 0.5–1.0

m,2009 年 3 月 26 日,タモ網,目黒昌利・吉田

朋弘;KAUM–I. 17467,体長 61.7 mm,雄,デー

タ は KAUM–I. 17455 と 同 じ;KAUM–I. 21503,

体長 66.7 mm,雄,データは KAUM–I. 17455 と

同じ;KAUM–I. 21504,体長 62.4 mm,雄,デー

タ は KAUM–I. 17455 と 同 じ;KAUM–I. 21505,

体長 37.5 mm,雌,データは KAUM–I. 17455 と

同じ;KAUM–I. 21506,体長 47.3 mm,雌,デー

タ は KAUM–I. 17455 と 同 じ;KAUM–I. 21769,

体長 32.6 mm,雌,鹿児島県熊毛郡屋久島町栗生

カマゼノ鼻西側(30°16′03″N, 130°24′48″E),水深

0–4 m,2009 年 7 月 30 日,タモ網,KAUM 魚類チー

ム.

記載 背鰭条数は IV-8;臀鰭条数は 7;胸鰭条

数は ii + 17–18;腹鰭条数は I, 5;尾鰭条数は i +

7 + ii.臀鰭軟条が第 1 軟条を除き,すべて先端

で分岐する.雄成魚の第 1 背鰭には 2–6 個(通常

4 個)の眼状模様がある.雄の前鰓蓋骨の表面に

1 本の黒褐色帯がある.雌の臀鰭には 4 本の幅広

い褐色斜帯がある.生鮮時,体は茶褐色の大理石

模様で,固定後は濃褐色となる.

分布 日本国外では台湾,ベトナム,インド

ネシア,フィリピン,パラオ,ミクロネシア,マー

シャル諸島,ニューギニア,オーストラリア,

Fig. 5. Preserved specimen of Dactylopus dactylopus from Ka-goshima Prefecture, Japan (KAUM–I. 17780, 96.1 mm SL).

Fig. 6. Fresh male specimen of Diplogrammus xenicus from Ka-goshima Prefecture, Japan (KAUM–I. 20379, 82.0 mm SL).

Page 72: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

70

ニューカレドニア,ロイヤルティ諸島,ソロモン

諸島,バヌアツ,フィージー,トンガ,サモア,

マルキーズ諸島,およびピトケアン諸島などのイ

ン ド か ら 西 太 平 洋 域 に 分 布 す る(Kamohara,

1957;中坊,2000;Fricke, 2002).国内では,和

歌山県,高知県,鹿児島県,および沖縄諸島など

の 南 日 本 太 平 洋 岸 か ら 琉 球 列 島 に 分 布 す る

(Kamohara, 1952a;Nakabo, 1983;中坊,1988, 2000;

平田ほか,1996;本研究).

Pseudocalliurichthys variegatus (Temminck and Schlegel, 1845)

イトヒキヌメリ(Fig. 8)

標本 KAUM–I. 1295,体長 125.0 mm,雌,東

シナ海(31°05′02″–56′00″N, 127°28′02″–29′03″E),

水深 123 m,2006 年 11 月 4 日,底曳網,鹿児島

大学附属練習船かごしま丸.

記載 背鰭条数は IV-8;臀鰭条数は 7;胸鰭条

数は i + 17;腹鰭条数は I, 5;尾鰭条数は i + 7 +

ii.後頭部は微小な骨質突起が多数ある.前鰓蓋

骨棘はまっすぐで,内側に 4–6 本の突起がある.

雄は背鰭第 1 棘と第 2 棘が糸状に伸長する.

分布 日本国外では,台湾から報告されてい

る(Fricke, 2002).国内では,静岡県,和歌山県,

長崎県,および鹿児島県などの南日本沿岸と東シ

ナ 海 に 分 布 す る(Nakabo, 1983; 中 坊,1988,

2000;平田ほか,1996;本研究).

Repomucenus curvicornis

(Valenciennes in Cuvier and Valenciennes, 1837)

ネズミゴチ(Figs. 9–10)

標本 KAUM–I. 90,体長 100.5 mm,雌,鹿児

島 県 南 さ つ ま 市 笠 沙 町 片 浦 崎 ノ 山 東 側

(31°25′44″N, 130°11′49″E),水深 27 m,2006 年 5

月 17 日,定置網,伊東正英;KAUM–I. 3131,体

長 105.9 mm,雌,2006 年 2 月 28 日,採集日以

外 の デ ー タ は KAUM–I. 90 と 同 じ;KAUM–I.

5905,体長 100.4 mm,雄,鹿児島県鹿児島市七ッ

島(31°29′00″N, 130°31′00″E),水深 7 m,2007 年

7 月 28 日,釣り,原口百合子;KAUM–I. 9382,

体長 103.9 mm,雄,鹿児島県指宿市知林ヶ島沖

(31°16′38″N, 130°40′18″E),水深 25 m,2008 年 4

月 23 日,定置網,折田水産;KAUM–I. 9898,体

長 85.9 mm,雌,2008 年 5 月 14 日,採集日以外

の デ ー タ は KAUM–I. 9382 と 同 じ;KAUM–I.

9899,体長 92.7 mm,雌,2008 年 5 月 14 日,採

集 日 以 外 の デ ー タ は KAUM–I. 9382 と 同 じ;

KAUM–I. 9900,体長 94.0 mm,雄,2008 年 5 月

14 日,採集日以外のデータは KAUM–I. 9382 と

同 じ;KAUM–I. 9901, 体 長 97.9 mm, 雄,2008

年 5 月 14 日,採集日以外のデータは KAUM–I.

9382 と 同 じ;KAUM–I. 10221, 体 長 115.8 mm,

2008 年 6 月 4 日, 採 集 日 以 外 の デ ー タ は

KAUM–I. 9382 と 同 じ;KAUM–I. 10359, 体 長

98.7 mm,雌,2008 年 6 月 18 日,採集日以外のデー

タは KAUM–I. 9382 と同じ;KAUM–I.10592,体

長 62.7 mm,雌,2008 年 3 月 8 日,採集日以外

の デ ー タ は KAUM–I. 90 と 同 じ;KAUM–I.

14746,体長 100.5 mm,雌,鹿児島県指宿市知林ヶ

島 沖(31°16′38″N, 130°40′18″E), 水 深 25 m,

2009 年 3 月 4 日,定置網,目黒利昌・山下真弘;

KAUM–I. 17642,体長 97.5 mm,雌,2009 年 3 月

25 日,採集日以外のデータは KAUM–I. 14746 と

同じ;KAUM–I. 20995,体長 83.8 mm,雌,鹿児

島県鹿児島市浜町稲荷川河口南側(31°36′07″N,

130°34′12″E),水深 0.5 m,2009 年 5 月 9 日,投網,

KAUM 魚類チーム;KAUM–I. 20996,体長 73.1

mm,雌,採集日以外のデータは KAUM–I. 20995

Fig. 7. Fresh female specimen of Neosynchiropus ocellatus from Kagoshima Prefecture, Japan (KAUM–I. 17455, 35.5 mm SL).

Fig. 8. Fresh female specimen of Pseudocalliurichthys variegatus from Kagoshima Prefecture, Japan (KAUM–I. 1295, 125.0 mm SL).

Page 73: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

71

と同じ;KAUM–I. 20997,体長 71.3 mm,雌,採

集日以外のデータは KAUM–I. 20995 と同じ.

記載 背鰭条数は IV-9;臀鰭条数は 9;胸鰭条

数は i + 17–19;腹鰭条数は I, 5;尾鰭条数は i + 7

+ ii.前鰓蓋骨棘は強大で,後端が内側に曲がり,

内側の突起数は 2–4 本である.眼下感覚管には外

側に向かう分岐がある.第 1 背鰭は雄では縁辺が

黒色,雌では白く縁取られた黒色斑がある.

分布 日本国外では韓国,中国,台湾,およ

びフィリピンから報告されている(Nakabo, 1983;

Fricke, 2002).国内では,鳥取県,高知県,長崎県,

宮崎県,および鹿児島県などの函館以南の各地の

沿岸と東シナ海に分布する(Nakabo, 1983;中坊,

1988, 2000;尼岡ほか,1995;平田ほか,1996;

本研究).

Repomucenus cf. curvicornis

(Fig. 11)

 標本 KAUM–I. 26353,体長 149.9 mm,鹿児

島県薩摩川内市上甑町瀬上海鼠池(31°51′42″N,

129°52′33″E), 水 深 0.5–1 m,2008 年 6 月 30 日,

タモ網,米沢俊彦.

 記載 背鰭条数は IV-9;臀鰭条数は 8;胸鰭条

数は i + 18;腹鰭条数は I, 5;尾鰭条数は i + 7 +

ii.前鰓蓋骨棘は強大で,後端が内側に強く曲が

る.また,内側の突起数は 2 本で,後方の突起が

前方の突起より大きい.尾柄部背面に左右の体側

の側線を結ぶ連結枝がある.第 2 背鰭の先端は最

終軟条のみ分岐する.第 2 背鰭には黒色点が 2 列

並び,さまざまな大きさや形をした白色斑がある.

臀鰭は白色.

 備考 松沼ほか(2010)は本標本を Repomuce-

nus cf. curvicornis として報告した.本標本は R.

curvicornis によく似るが,前鰓蓋骨棘の後端が内

側に強く曲がること(R. curvicornis では弱く曲が

る),第 2 背鰭の白色斑の大きさや形が変異に富

むこと(vs. 白色斑は円形)などで異なる.今後,

鹿児島県薩摩川内市上甑町瀬上海鼠池からのさら

なる標本採集調査が必要である.

Repomucenus huguenini (Bleeker, 1858–1859)

ヤリヌメリ(Figs. 12–13)

標本 KAUM–I. 786,体長 113.8 mm,雌,鹿

児島県大隅町佐多の伊座敷港北 1 km 沖(31°05′N,

130°41′E),水深 30–40 m,2006 年 9 月 25 日,定

置 網, 築 地 新 光 子;KAUM–I. 787, 体 長 112.6

mm, 雄, デ ー タ は KAUM–I. 786 と 同 じ;

KAUM–I. 1008,体長 71.1 mm,雄,鹿児島県南

さ つ ま 市 笠 沙 町 片 浦 崎 ノ 山 東 側(31°25′44″N,

130°11′49″E),水深 27 m,2006 年 1 月 26 日,定

置 網, 伊 東 正 英;KAUM–I. 3373, 体 長 109.0

mm,雄,鹿児島県高山町,2006 年 5 月 25 日,

定 置 網, 中 畑 勝 見;KAUM–I. 9383, 体 長 92.2

mm, 雄, 鹿 児 島 県 指 宿 市 知 林 ヶ 島 沖

(31°16′38″N, 130°40′18″E),水深 25 m,2008 年 4

月 23 日,定置網,折田水産;KAUM–I. 10924,

体長 126.5 mm,雌,鹿児島県日置市東市来町江

口漁港(31°36′–38′N, 130°16′–17′E),水深 20–40 m,

2008 年 6 月 20 日,底曳網,目黒利昌・荻原豪太;

KAUM–I. 10925,体長 141.7 mm,雌,データは

KAUM–I. 10924 と 同 じ;KAUM–I. 10812, 体 長

146.7 mm,雄,データは KAUM–I. 10924 と同じ;

Fig. 9. Fresh male specimen of Repomucenus curvicornis from Kagoshima Prefecture, Japan (KAUM–I. 9382, 103.9 mm SL).

Fig. 10. Fresh female specimen of Repomucenus curvicornis from Kagoshima Prefecture, Japan (KAUM–I. 3131, 105.9 mm SL).

Fig. 11. Preserved specimen of Repomucenus cf. curvicornis, Ka-goshima Prefecture, Japan (KAUM–I. 26353, 149.9 mm SL).

Page 74: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

72

KAUM–I. 10817,体長 146.6 mm,雄,データは

KAUM–I. 10924 と 同 じ;KAUM–I. 10821, 体 長

151.0 mm,雄,データは KAUM–I. 10924 と同じ;

KAUM–I. 10854,体長 128.8 mm,雌,データは

KAUM–I. 10924 と同じ.

記載 背鰭条数は IV-9;臀鰭条数は 9;胸鰭条

数は i + 17–18;腹鰭条数は I, 5;尾鰭条数は i + 7

+ ii.前鰓蓋骨棘はまっすぐで,内側が鋸歯状で

ある.眼下感覚管は,内側に向かう短い分岐をも

つのみで,先端は分岐しない.第 1 背鰭の第 1–3

棘が伸長する.第 2 背鰭に多数の小黒色斑がある.

臀鰭下縁は黒色.

分布 日本国外では,韓国,中国,台湾,ベ

トナム,およびタイから報告されている(Fricke,

2002).国内では,鳥取県,高知県,長崎県,お

よび鹿児島県などの函館以南の各地の沿岸と東シ

ナ 海 に 分 布 す る(Nakabo, 1983; 中 坊,1988,

2000;尼岡ほか,1995;平田ほか,1996;本研究).

Repomucenus valenciennei (Temminck and Schlegel, 1845)

ハタタテヌメリ(Figs. 14–15)

標本 KAUM–I. 595,体長 70.4 mm,雄,鹿児

島 県 鹿 児 島 湾 竜 ヶ 水 沖(31°37′69–88″N,

130°37′23–52″E), 水 深 128.5–130.9 m,2006 年 9

月 11 日,底曳網,鹿児島大学附属練習船南星丸;

KAUM–I. 596, 体 長 52.4 mm, 雌, デ ー タ は

KAUM–I. 595 と同じ;KAUM–I. 4495,体長 68.3

mm,雌,鹿児島県,KAUM 魚類チーム,鹿児島

魚類市場拾得物.

記載 背鰭条数は IV-9;臀鰭条数は 9;胸鰭条

数は i + 16;腹鰭条数は I,5;尾鰭条数は i + 7 +

ii.前鰓蓋骨棘は短く,後端が内側に曲がり,突

起数は内側が 2–4 本,外側が 1 本である.眼下感

覚管には内側に向かう短い分岐と,外側に向かう

3 本の分岐がある.雄の第 1 背鰭棘と尾鰭軟条は

糸状に伸長する.尾鰭に多数の小黒色斑が散在す

る.

分布 日本国外では,朝鮮半島,中国,およ

び台湾から報告されている(中坊,1988, 2000;

尼岡ほか,1995;Fricke, 2002).国内では,福井県,

神奈川県,京都府,長崎県,および鹿児島県など

の石狩湾以南の各地の沿岸に分布する(中坊,

1988, 2000;尼岡ほか,1995;本研究).

Repomucenus virgis (Jordan and Fowler, 1903)

ホロヌメリ(Fig. 16)

標本 KAUM–I. 22584,体長 60.5 mm,東シナ

海(30°52′–56′N, 127°24′–30′E),水深 123–124 m,

2009 年 11 月 7 日,底曳網,鹿児島大学附属練習

船かごしま丸.

記載 背鰭条数は IV-9;臀鰭条数は 9;胸鰭条

数は i + 18;腹鰭条数は I, 5;尾鰭条数は i + 7 +

ii.前鰓蓋骨棘は短く,後端は内側に曲がり,2–4

本の突起がある.雄成魚の第 1 背鰭は著しく大き

く,すべての棘が糸状に伸長する.

Fig. 14. Fresh male specimen of Repomucenus valenciennei from Kagoshima Prefecture, Japan (KAUM–I. 595, 70.4 mm SL).

Fig. 15. Fresh female specimen of Repomucenus valenciennei from Kagoshima Prefecture, Japan (KAUM–I. 596, 52.4 mm SL).

Fig. 12. Fresh male specimen of Repomucenus huguenini from Kagoshima Prefecture, Japan (KAUM–I. 9383, 92.2 mm SL).

Fig. 13. Fresh female specimen of Repomucenus huguenini from Kagoshima Prefecture, Japan (KAUM–I. 786, 113.8 mm SL).

Page 75: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

73

分布 日本国外では中国と台湾から報告され

ている(Fricke, 2002).国内では,若狭湾から長崎,

小 名 浜 か ら 高 知 県, 東 シ ナ 海 に 分 布 す る

(Kamohara, 1952b;Nakabo, 1983; 中 坊,1988,

2000;本研究).

 謝辞

本報告を取りまとめるにあたり,標本採集に

協力して下さった江口漁業協同組合の西田良一

氏,折田水産の関係者のみなさま,鹿児島水族館

公社展示課の職員のみなさま,鹿児島大学附属練

習船かごしま丸と南星丸の乗組員のみなさま,軟

X 線写真の撮影にご協力下さった同大総合研究博

物館の橋本達也氏,KAUM–I. 22584 の採集データ

をくださった同大水産学部の小針統氏に深く感謝

の意を表する.また,標本の処理・登録作業など

を手伝って下さった同大水産学研究科の荻原豪太

氏,松沼瑞樹氏,および目黒昌利氏,同大水産学

部の山下真弘氏と吉田朋弘氏,同大総合研究博物

館ボランティアの伊東正英氏,高山真由美女史な

らびに原口百合子女史に厚くお礼を申し上げる.

本研究は , 鹿児島大学総合研究博物館の「鹿児島

県産魚類の多様性調査プロジェクト」と国立科学

博物館の「黒潮プロジェクト(浅海性生物の時空

間分布と巨大海流の関係を探る)」の一環として

行われた.

 引用文献

尼岡邦夫・仲谷一宏・矢部 衛.1995.北日本魚類大図鑑.北日本海洋センター,札幌.390 pp.

Fricke, R. 2001. Families Callionymidae, Draconettidae, pp. 3549–3573. In K. Carpenter and V. Niem (eds.). FAO species identification guide for fishery purposes. The living marine resources of the western central Pacific. Volume 6. Bony fishes part 4. FAO, Rome.

Fricke, R. 2002. Annotated checklist of the dragonet families Cal-lionymidae and Draconettidae (Teleostei: Callionymoidei), with comments on callionymid fish classification. Stuttgarter Beiträge zur Naturkunde, Serie A (Biologie), 645: 1–103.

平田智法・山川 武・岩田明久・真鍋三郎・平松 亘・大西信弘.1996.高知県柏島の魚類相.行動と生態に関する記述を中心として.高知大学海洋生物教育研究センター研究報告,(16): 1–177.

Kamohara, T. 1952a. Additions to the fish fauna of Prov. Tosa, Japan. Reports of the Kochi University Natural Science, (2): 1–10.

Kamohara, T. 1952b. Revised descriptions of the offshore bottom-fishes of Prov. Tosa, Japan. Reports of the Kochi University Natural Science, (3): 1–122

Kamohara, T. 1957. List of fishes from Amami-oshima and adja-cent regions, Kagoshima Prefecture, Japan. Reports of the Usa Marine Biological Station, 4 (1): 1–65.

Kuiter R. H. and T. Tonozuka. 2004. Pictorial guide to: Indonesian reef fishes, part 2. i–v + pp. 304–622. PT Dive & Dive′s, Bali.

益田 一・荒賀忠一・吉野哲夫.1988.魚類図鑑.南日本の沿岸魚.改訂版第 2 刷.東海大学出版会,東京.382 pp.

松沼瑞樹・米沢俊彦・本村浩之.2010.上甑島汽水湖群の魚類相およびニクハゼ Gymnogobius heptacanthus(スズキ目ハゼ科)の記録.Nature of Kagoshima, 36: 79–87.

Motomura, H. and T. Mukai. 2006. Tonlesapia tsukawakii, a new genus and species of freshwater dragonet (Perciformes: Cal-lionymidae) from Lake Tonle Sap, Cambodia. Ichthyological Exploration of Freshwaters, 17 (1): 43–52.

Nakabo, T. 1982. Revision of the dragonets (Pisces: Callionymi-dae). Publications of Seto Marine Biological Laboratory, 27 (1/3): 1–131.

Nakabo, T. 1983. Revision of the dragonets (Pisces: Callionymi-dae) found in the waters of Japan. Publications of Seto Ma-rine Biological Laboratory, 27 (4/6): 193–259.

中坊徹次.1988.ネズッポ科,pp. 328–331.益田 一・尼岡邦夫・荒賀忠一・上野輝彌・吉野哲夫(編),日本産魚類大図鑑.第 2 版.東海大学出版会,東京.

中坊徹次.2000.ネズッポ科,pp. 1418–1431,1604–1605.中坊徹次(編).日本産魚類検索.全種の同定.第 2 版.東海大学出版会,東京.

岡村 収.2009.ネズッポ科,pp. 574–581.岡村 収・尼岡邦夫(編),日本の海水魚.第 3 版.山と渓谷社,東京.

Randall, J. E. 2005. Reef and shore fishes of the South Pacific: New Caledonia to Tahiti and the Pitcairn Islands. University of Hawai`i Press, Honolulu. xii + 707 pp.

Shen, S.-C. 1984. Coastal fishes of Taiwan. National Taiwan Mu-seum, Taipei. 190 pp., 152 pls.

財団法人日本色彩研究所(監修).2007.改訂版色名小辞典.第 18 刷.日本色研事業株式会社,東京.90 pp.

Zaiser, M. J. and R. Fricke. 1985. Synchiropus moyeri, a new spe-cies of dragonet (Callionymidae) from Miyake-jima, Japan. Japanese Journal of Ichthyology, 31 (4): 389–397.

Fig. 16. Fresh specimen of Repomucenus virgis from Kagoshima Prefecture, Japan (KAUM–I. 22584, 60.5 mm SL).

Page 76: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

74

Page 77: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

75

鹿児島県九州沿岸から得られたヒメ目エソ科ヒトスジエソ Synodus variegatusの記録

川村信和 1・伊東正英 2・本村浩之 3

1 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館(水産学部)2 〒 879–1301 鹿児島県南さつま市笠沙町片浦 718

3 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

 はじめに

ヒメ目エソ科(Aulopiformes: Synodontidae)は

世界で 4 属約 57 種(Nelson, 2006),日本近海か

ら 4 属 25 有効種が知られている(山田,2000;

宮原ほか,2002;Randall and Pyle, 2008).アカエ

ソ属 Synodus は世界で 38 種が有効種として認め

られており(Chen et al., 2007; Randall and Pyle, 2008;

Randall, 2009),そのうち,日本に分布するアカ

エ ソ 属 は ア オ ス ジ エ ソ S. orientalis Randall and

Pyle, 2008,アカエソ S. ulae Schultz, 1953,イレズ

ミオオメエソ S. oculeus Cressey, 1981,ウシエソ S.

usitatus Cressey, 1981,オグロエソ S. jaculum Ru-

ssel and Cressey, 1979,スナエソ S. fuscus Tanaka,

1917,チョウチョウエソ S. macrops Tanaka, 1917,

ドキエソ S. doaki Russel and Cressey, 1979,ニテン

エソ S. binotatus Schultz, 1953,ハナトゴエソ S.

kaianus (Günther, 1880), ヒ ト ス ジ エ ソ S. varie-

gatus (Lacepède, 1803), ホ シ ノ エ ソ S. hoshinonis

Tanaka, 1917, ミ ナ ミ ア カ エ ソ S. dermatogenys

Fowler, 1912,および S. lobeli Waples and Randall,

1989 の 14 種 が 知 ら れ て い る( 山 田,2000;

Randall and Pyle, 2008).

岡村(1984: pl. 62, fig. c)は Synodus englemani

Schultz, 1953 を日本初記録種として報告し,本種

に対して新標準和名ヒトスジエソを提唱した.そ

の後 Randall et al. (1997a) は S. englemani を S. va-

riegatus の新参シノニムとした.

現 在, 本 種 は モ ー リ シ ャ ス 諸 島(Randall,

2005), イ ン ド ネ シ ア(Allen and Adrim, 2003),

台湾(Shen, 1984),オーストラリア(Randall et

al., 1997a),マーシャル諸島(山田,2000)など

のインド・西部太平洋に広く分布し,日本国内か

らは宮古島(Senou et al., 2007),伊江島(Senou

et al., 2006a)などの琉球列島,屋久島(国安,

1999),相模灘(Senou et al., 2006b),および小笠

原諸島(Randall et al, 1997b;山田,2000)から

報告されている.

鹿児島県南さつま市笠沙町沖において,2007

年 11 月 10 日と 2009 年 12 月 11 日にそれぞれ 1

個体のアカエソ属魚類が採集された.これら 2 標

本は,鹿児島県九州沿岸から記録されていないヒ

トスジエソと同定されたため,ここに報告する.

 材料と方法

計数・計測方法は Randall (2009) に従った.計

測はデジタルノギスを用いて 0.1 mm 単位まで

行った.ヒトスジエソの生鮮時の体色の記載は,

固定前に撮影されたカラー写真に基づく.本報告

で用いた標本は,鹿児島大学総合研究博物館

(KAUM: Kagoshima University Museum) に所蔵さ

れており,そのカラー写真は同館の画像データ

ベースに登録されている. また,本研究で参照

した水中写真は,神奈川県立生命の星・地球博物

館の魚類写真資料データベース(KPM–NR)に

登録されている.

   Kawamura, N., M. Ito and H. Motomura. 2010. First reliable

records of Synodus variegatus (Aulopiformes: Syno-dontidae) from the mainland of Kagoshima Prefecture, southern Japan. Nature of Kagoshima 36: 75–78.

HM: Kagoshima University Museum, 1–21–30 Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: [email protected]).

Page 78: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

76

 結果と考察

Synodus variegatus (Lacepède, 1803)

ヒトスジエソ(Figs. 1–2)

標本 KAUM–I. 9302,標準体長 102.3 mm,鹿

児 島 県 南 さ つ ま 市 笠 沙 町 黒 瀬 港(31˚22′29″N,

130˚10′06″E), 水 深 2–5 m,2007 年 11 月 10 日,

タモ網,伊東正英;KAUM–I. 25476,標準体長

133.8 mm,鹿児島県南さつま市笠沙町片浦埼ノ

山 東 側 (31˚ 25′44″N, 130˚11′49″E), 水 深 27 m,

2009 年 12 月 11 日,定置網,伊東正英.

記載 背鰭鰭条数 13; 臀鰭条数 9;胸鰭条数

13; 腹鰭条数 8; 尾鰭条数 16;有孔側線鱗数 60;

側線上方横列鱗数 5.5; 側線下方横列鱗数 6.5;尾

柄周囲鱗数 16.標準体長に対する体各部位の計

測値の比率(%)は以下の通り.体高 16.2–16.3,

体幅 15.5–16.1,頭長 28.0–28.3,吻長 6.7–6.8,眼

径 5.0 –5.8, 両 眼 間 隔 幅 4.1–4.3, 上 顎 長 17.6–

18.6, 尾 柄 高 5.7, 尾 柄 長 10.7–11.1, 背 鰭 前 長

41.0–42.6, 臀 鰭 前 長 78.5–79.4, 脂 鰭 前 長 82.4,

腹鰭前長 35.5–36.1,背鰭基底長 16.1 –16.5,臀鰭

基底長 9.3,最長背鰭条長 15.1–16.0,最長臀鰭条

長 8.3–8.4,胸鰭長 12.2–12.6,腹鰭長 24.2–24.6,

尾鰭長 14.1–14.4,尾鰭湾入部長 7.3–8.3.

体は円筒形で延長し,わずかに縦偏する.両

顎の先端は同程度に突出する.口蓋骨歯は 1 列で

前方歯が後方歯より長い.吻がやや長く,吻端は

丸い.鰓耙は短く,針状.躯幹部全体は鱗に覆わ

れ,吻,両眼間,下顎腹面および各鰭の基底は鱗

を欠く.背鰭起部は腹鰭起部よりやや後方に位置

する.背鰭第 1–2 軟条のみ不分岐で残りは分岐し,

第 3 軟条が最長.臀鰭基底は短い.臀鰭起部は第

45 有孔側線鱗の直下に位置する.腹鰭起部は胸

鰭先端の直下に位置する.腹鰭外側の軟条が内側

の軟条より短い.

生鮮時の体色(Fig. 1)― 頭部および体側背部

は赤褐色で,腹部は白色.体側には,側線上に 1

本の褐色縦帯,および体側下部に達する約 5 本の

褐色横帯がある.臀鰭は一様に白色.背鰭,腹鰭,

尾鰭の地色は白色で,褐色の小斑点の斜列からな

る多数の褐色帯がある.脂鰭は地色が白色で 1 つ

の褐色斑がある.

固定後の体色 ― 頭部および体側背側は黒褐色.

体側中央の縦帯と横帯は頭部や体背部よりも濃い

黒褐色.その他の色彩は生鮮時と同様.

備考 本標本は,躯幹部全体が鱗に覆われる

こと,背鰭軟条が 13 本であること,胸鰭軟条が

13 本であること,臀鰭軟条が 9 本であること,

有孔側線鱗が 60 枚であること,側線上方横列鱗

が 5.5 枚であること,口蓋骨歯が 1 列で先端付近

の歯が後方歯より長いこと,吻がやや長いこと(吻

長は体長の 6.7–6.8%),吻端が丸いこと,腹鰭外

側の軟条が内側の軟条より短いこと,臀鰭基底が

短いこと(臀鰭基底長は体長の 9.3%),尾柄部後

端に明瞭な斑紋がないこと,側線上に 1 褐色縦帯

があることなどの特徴をもつことから,山田

(2000)や Randall et al. (1997a) の記載によく一致

Fig. 1. Fresh specimen of Synodus variegatus. KAUM –I. 25476, 133.8 mm SL, off Kataura, Kasasa, Minamisatsuma, Kagoshima, Japan.

Page 79: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

77

し,ヒトスジエソ Synodus variegatus と同定され

た.

日本国内でヒトスジエソはこれまで宮古島

(Senou et al., 2007),伊江島(Senou et al., 2006a)

などの琉球列島,屋久島(国安,1999;Moto-

mura et al., 2010;本研究:Fig. 2),駿河湾(下記

水中写真参照),相模灘(Senou et al., 2006b),お

よ び 小 笠 原 諸 島(Randall et al., 1997b; 山 田,

2000)から記録されている.したがって,本報告

は鹿児島県九州沿岸における標本に基づく本種の

初記録となる.

国内におけるヒトスジエソの分布パターンは,

黒潮の流路(Motomura et al., 2010)とよく一致し

ており,本研究で鹿児島県本土沿岸から採集され

た本種の標本や Senou et al. (2006b) により相模灘

で記録された個体は,黒潮の影響によって台湾な

どのより南方海域から運ばれてきたものと推察さ

れる.

また,静岡県沿岸における本種の水中写真が,

神奈川県立生命の星・地球博物館の魚類写真資料

データベースに登録されている[KPM-NR 8785

(静岡県沼津市西浦大瀬崎門下,水深 10 m,1995

年 3 月 23 日,松沢陽士氏撮影),KPM-NR 19564(静

岡県伊豆半島東岸,水深 14 m,1999 年 1 月 17 日,

浅野勤氏撮影)].KPM-NR 8785, 19564 は吻がや

や長く,吻端が丸いこと,尾柄部に斑紋がないこ

と,側線上に 1 褐色縦帯があることなどの特徴が

確認できたため本研究でもヒトスジエソ S. varie-

gatus と同定された.これらの水中写真が撮影さ

れた時期は水温の低い冬季であることから,少な

くとも静岡県沿岸に生息する個体は同海域におい

て越冬しており,死滅回遊ではないと考えられる.

九州や本州の沿岸海域から本種の稚仔魚が確認さ

れていないため,無効分散であるか繁殖可能な個

体群を維持しているかは不明であり,今後の調査

研究に期待する.

 謝辞

本報告を取りまとめるにあたり,標本の作製

や登録などを手伝って下さった鹿児島大学総合研

究博物館ボランティアの原口百合子女史に厚くお

礼申し上げる.また,ヒトスジエソの屋久島にお

ける生息情報を提供して下さった屋久島ダイビン

グサービス「森と海」代表の原崎 森氏,本原稿

に対し適切な助言を下さった鹿児島大学総合研究

博物館魚類分類学研究室の荻原豪太氏,松沼瑞樹

氏,目黒昌利氏,山下真弘氏,吉田朋弘氏に心よ

り感謝する.本研究は鹿児島大学総合研究博物館

の「鹿児島県産魚類の多様性調査プロジェクト」

と国立科学博物館の「黒潮プロジェクト(浅海性

生物の時空間分布と巨大海流の関係を探る)」の

一環として行われた.

 引用文献

Allen, G. R. and M. Adrim. 2003. Coral reef fishes of Indonesia. Zool. Stud., 42 (1): 1–72.

Chen J.-P., H.-C. Ho and K.-T. Shao. 2007. A new lizardfish (Au-lopiformes: Synodontidae) from Taiwan with descriptions of three records. Zool. Stud., 46 (2): 148–154.

国安俊夫(編).1999.生態系多様性地域調査(屋久島沿岸海域)報告書.環境庁自然保護局・鹿児島県自然愛護協会.64 pp.

宮原 一・崔 允・矢部 衞・仲谷一宏.2002.沖縄県で採集された日本初記録のエソ科魚類コソデエソ(新称)Saurida micropectoralis.魚類学雑誌,49 (2): 127–131.

Motomura, H., K. Kuriiwa, E. Katayama, H. Senou, G. Ogihara, M. Megurom, M. Matsunuma, Y. Takata, Y. Yoshida, M. Yamashita, S. Kimura, H. Endo, A. Murase, Y. Iwatsuki, Y. Sakurai, S. Harazaki, K. Hidaka, H. Izumi and K. Matsuura. 2010. Annotated checklist of marine and estuarine fishes of Yaku-shima Island, Kagoshima, southern Japan, pp. 65–247. In H. Motomura and K. Matsuura (eds.). Fishes of Yaku-shima Island – A World Heritage island in the Osumi Group, Kagoshima Prefecture, southern Japan. Natn. Mus. Nat. Sci., Tokyo.

Nelson, J. S. 2006. Fishes of the World. 4th ed. John Wiley & Sons, Inc., New Jersey. xix + 601 pp.

Fig. 2. Underwater photograph of Synodus variegatus. Off Isso, Yaku-shima Island, 15 m depth, 15 Apr. 2010 (photo by S. Harazaki).

Page 80: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

78

岡村 収.1984.エソ科,pp. 61–62, pls. 61–62, 339. 益田 一・尼岡邦夫・荒賀忠一・上野輝彌・吉野哲夫(編).日本産魚類大図鑑.東海大学出版会,東京.

Randall, J. E. 2005. Reef and shore fishes of the South Pacific. New Caledonia to Thaiti and the Pitcairn Islands. Univ. of Hawai‘i Press, Honolulu. xii + 707 pp.

Randall, J. E. 2009. Five new Indo-Pacific lizardfishes of the ge-nus Synodus (Aulopiformes: Synondontidae). Zool. Stud., 48 (3): 402–417.

Randall, J. E., G. R. Allen and R. C. Steene. 1997a. Fishes of the Great Barrier Reef and Coral Sea. 2nd ed. Univ. of Hawai‘i Press, Honolulu. xx + 557 pp. + 7 pls.

Randall, J. E., H. Ida, K. Kato, R. L. Pyle and J. E. Earle. 1997b. Annotated checklist of the inshore fishes of the Ogasawara Islands. Natn. Sci. Mus. Monogr., (11): 20–74.

Randall, J. E. and R. L. Pyle. 2008. Synodus orientalis, a new liz-erdfish (Aulopiformes: Synodontidae) from Taiwan and Japan with correction of the records of S. lobeli. Zool. Stud., 47 (5): 657–662.

Senou, H., Y. Kobayashi and N. Kobayashi. 2007. Coastal fishes of the Miyako Group, the Ryukyu Islands, Japan. Bull. Kana-gawa Prefect. Mus. (Nat. Sci.), (36): 47–74.

Senou, H., H. Kodato, T. Nomura and K. Yunokawa. 2006a. Coastal fishes of Ie-jima Island, the Ryukyu Islands, Oki-nawa, Japan. Bull. Kanagawa Prefect. Mus. (Nat. Sci.), (35): 67–92.

Senou, H., K. Matsuura and G. Shinohara. 2006b. Checklist of fishes in the Sagami Sea with zoogeographical comments on shallow water fishes occurring along the coastlines under the influence of the Kuroshio Current. Mem. Natn. Sci. Mus., (41): 389–542.

Shen S.-C. 1984. Coastal fishes of Taiwan. Natn. Taiwan Univ., Taipei. xi + 190 pp. + 152 pls.

山田梅芳.2000.エソ科,pp. 351–358, 1485–1486.中坊徹次(編),日本産魚類検索.全種の同定.第 2 版.東海大学出版会,東京.

Page 81: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

79

上甑島汽水湖群の魚類相およびニクハゼ Gymnogobius heptacanthus(スズキ目ハゼ科)の記録

松沼瑞樹 1・米沢俊彦 2・本村浩之 3

1 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館(水産学研究科)2 〒 891–0132 鹿児島市七ツ島 1–1–5 財団法人鹿児島県環境技術協会

3 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

 はじめに

甑島列島は九州南部の薩摩半島西岸沖に位置

し,上甑島,中甑島および下甑島の 3 つの主島と

その周辺の属島からなる全長約 40 km の列島であ

り,上甑島の北東海岸には海鼠池,貝池,鍬崎池

および須口池の 4 つの汽水湖が密集しており特異

な潟湖群を形成している(荒巻ほか,1976;Fig. 1).

甑島列島の陸水域の魚類相について,鹿児島

県の淡水魚類相を報告した小川(1937)は 5 種の

淡水魚類を甑島列島から記録したが,具体的な島

名や河川名などは記載されなかった.平田(1974)

は上甑島の汽水湖群の景観を述べ,魚類相につい

ても若干の報告をした.林(1976)は上甑島の陸

水域から 13 種の淡水魚類を報告し,海鼠池でみ

られる魚類についても若干の記述をした.柿本

(1979)は上甑島および下甑島の淡水魚類相を報

告し,須口池から “ ボラ ” および “ チチブ ”(と

もに学名の記載なし)を記録した.近年では,池

(1995)により上甑島の河川から 32 種の淡水魚類

が記録された.以上のとおり,上甑島の河川域の

魚類相は比較的よく知られているが,同島の汽水

湖群の魚類相に関する報告は少ない.

また,ハゼ科ウキゴリ属(Gobiidae: Gymnogo-

bius)魚類は 13 種が有効種と認められ,日本に

は そ の 全 て と 複 数 の 学 名 未 詳 種 が 分 布 す る

(Akihito et al., 2002;Stevenson, 2002;鈴木・渋川,

2004). そ の う ち, ニ ク ハ ゼ G. heptacanthus

(Hilgendorf, 1879) は日本,朝鮮半島から黄海沿岸

にのみ分布する東アジアの固有種で(Stevenson,

2002),国内では北海道から九州までの日本海・

太平洋側,瀬戸内海,および対馬列島に分布する

(Akihito et al., 2002;鈴木・渋川,2004).しかし,

鹿児島県におけるニクハゼの分布は不明であり文

献上で確実な記録は無く,これまでの第 2 著者に

よる鹿児島県の九州沿岸における汽水魚類相の調

査でも本種の採集記録はなかった(米沢,未発表).

2008 年 6 月に行われた野外調査,および鹿児

島県立博物館の所蔵標本の調査から上甑島の 4 つ

の汽水湖から 10 科 17 種の魚類が確認された.ま

た,これまでに甑島列島から記録のなかったニク

ハゼが海鼠池と貝池から記録され,上甑島が国内

における本種の分布南限にあたる可能性が高い.

そのため,分布情報の蓄積を目的としてニクハゼ

の記録を含む上甑島の汽水湖群の魚類相調査の結

果を報告する.

 材料と方法

野外調査で採集された魚類は現場にて 10% ホ

ルマリンで固定した後,研究室に持ち帰り種同定

を行った.一部の魚類は,現場にて同定を行った

後,放流した.種同定,標準和名,および学名と

命名者・年は原則として Nakabo (2002) に従い,

   Matsunuma, M., T. Yonezawa and H. Motomura. 2010. Ich-

thyofauna of brackish lagoons on Kamikoshiki-jima Island, Kagoshima Prefecture, southern Japan, with records of the Asian Goby, Gymnogobius heptacanthus (Perciformes: Gobiidae). Nature of Kagoshima 36: 79–87.

MM: Kagoshima University Museum (Graduate School of Fisheries), 1–21–30 Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: [email protected]).

Page 82: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

80

ニクハゼは Stevenson (2002),クロメバルは Kai

and Nakabo (2008) にそれぞれ従った.標本の計数・

計測方法は Hubbs and Lagler (1947) に従い,デジ

タルノギスを用いて 0.1 mm までの精度で計測し

た.標準体長(Standard length)は体長あるいは

SL と表記した.頭部感覚管各開孔の名称は明仁

親王(1984)に従った.背鰭と臀鰭の最後の 2 軟

条は 1 本と計数した.胸鰭条数は左側のものを計

数した.本研究で用いた標本は鹿児島大学総合研

究博物館(KAUM)と鹿児島県立博物館に所蔵

されており,その採集データは下記の通り.鹿児

島大学総合研究博物館所蔵標本:鹿児島県薩摩川

内市上甑町瀬上,須口池(採集日:2008 年 6 月

28 日);鍬崎池(同年同月 29 日);海鼠池(同年

同月 30 日);貝池(同年同月 31 日),手網あるい

は投網,米沢俊彦採集.鹿児島県立博物館所蔵標

本:海鼠池,1980 年 5 月 29 日,四宮明彦採集.

上甑島の汽水湖群の魚類相リストでは,本研究に

おいて標本を観察できた魚種,および野外調査に

て記録された魚種のみをあげた.

 結果と考察 — ニクハゼの記録

Gymnogobius heptacanthus (Hilgendorf, 1879)

ニクハゼ(Figs. 2, 3)

スズキ目ハゼ科ウキゴリ属

標本 10 個体(体長 25.0–52.6 mm):KAUM–I.

26415, 体 長 31.2 mm,KAUM–I. 26416, 体 長

26.7 mm,KAUM–I. 26417, 体 長 25.0 mm,KAU

M–I. 26418,体長 40.6 mm,KAUM–I. 26419,体

長 48.0 mm,KAUM–I. 26420,体長 49.5 mm,KA

UM–I. 26421, 体 長 51.5 mm,KAUM–I. 26422,

体長 52.6 mm,鹿児島県薩摩川内市上甑町瀬上・

海鼠池(31°51′N, 129°52′E),水深 0.5–1 m,2008

年 6 月 30 日,手網,米沢俊彦採集;鹿児島県立

博物館魚類資料 FI 98000007,2 個体,体長 41.6–

41.9 mm,鹿児島県薩摩川内市上甑町瀬上・海鼠池,

1980 年 5 月 29 日,四宮明彦採集.

記載  背 鰭 条 数 は VII–VIII-I, 11–12( 最 頻 値

VII-I, 12),臀鰭条数は I, 11–13(I, 12),胸鰭条数

は 17–21.体各部測定値の体長に対する割合(%):

胸鰭基部での体高 13.1–15.8 (平均値 14.3);頭長

25.8–28.2(26.9);眼径 6.9–8.2(7.5);吻長 6.3–7.2

(6.5);両眼間隔 4.0–5.3(4.5);上顎長 11.2–17.9

(15.5);尾柄長 17.4–22.0(19.4);尾柄高 7.4–9.1

(8.1).

体は細長い円筒形で,頭部はよく縦偏する.眼

は頭部側面に位置する.口はきわめて大きく,主

上顎骨後端は眼の後縁をはるかに超える.舌の先

端は二叉する.前眼肩胛管は開孔 G をもつ.眼

の下方に 3 本の感覚孔器列が縦列する.背鰭は 2

基,成長に伴い第 1 背鰭条の鰭膜はやや肥大化し,

先端はわずかに伸長する.第 2 背鰭と臀鰭の基底

は同程度に長く,臀鰭基部は第 2 背鰭の第 2 軟条

Fig. 1. Map of Koshiki-jima Islands, off west of Satsuma Penin-sula, Kagoshima Prefecture, southern Japan. 1, Lake Namako; 2, Lake Kai; 3, Lake Kuwazaki; 4, Lake Suguchi.

Fig. 2. Underwater photograph of Gymnogobius heptacanthus, ca. 50 mm SL, from Lake Namako, Kamikoshiki-jima Island, Kagoshima Prefecture, southern Japan, 0.5–1 m depth. Photo-graphed individuals not obtained. Photo by T. Yonezawa.

Page 83: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

81

基部下に位置する.胸鰭はやや大きく,その先端

は第 1 背鰭基底中央下に達するかやや超える.腹

鰭は完全な吸盤形.

雌の生鮮時の色彩は(Fig. 2),頭と体の地色は

薄茶色,腹部は乳白色.体側に,褐色の斑模様が

ある.眼の前端から主上顎骨にかけてやや太く不

鮮明な 1 本の黒色帯がある.光彩は薄い黄色で瞳

孔は黒色.背鰭の地色は透明で,各鰭条の地色は

褐色で 3–4 本の不定形の白色点列がある.第 1 背

鰭の後方,第 6–7 軟条付近に前方を幅広く白色に

縁取られた 1 黒色斑がある.臀鰭,胸鰭および腹

鰭は透明で斑紋は無い.尾鰭の地色は透明で,約

7 本の不定形の白色点列がある.

ホルマリン固定後,70% エチルアルコールで

保存した標本では(Fig. 3),頭と体の地色は乳白

色で,体側中央に輪郭が不鮮明な 1 褐色縦帯があ

り,頭と体の背面,主鰓蓋の上方,吻,および下

顎先端に褐色の細かな斑模様がある.光彩は青み

がかった乳白色.各鰭膜は半透明に,雌の第 1 背

鰭の斑紋はやや不鮮明になる.その他の色彩は生

鮮時とほぼ同様.

生息状況 2008 年 6 月 30 日の野外調査で採集

されたニクハゼの標本は,海鼠池の水深 0.5–1 m

の転石が散在する砂泥底から得られた.同池で本

種は繁茂する水草の間に隠れるように群泳してい

た.また,標本は得られていないが貝池でも同様

の環境下で本種が目視観察された.本種の生息が

確認された海鼠池と貝池では,潮汐の影響から頻

繁に湖水と海水が交換しており,湖群のうちでは

汽水性が高い(荒巻ほか,1976).

分布 ニクハゼは日本から朝鮮半島,黄海沿

岸までに分布する東アジアの固有種で,国内では

北海道から九州までの日本海・太平洋側の沿岸,

瀬戸内海,対馬列島,および上甑島の海鼠池と貝

池に分布する(Akihito et al., 2002;鈴木・渋川,

2004;本研究).

備考 調査標本は,口が大きく主上顎骨後端

が眼の後縁をはるかに越えること,前眼肩胛管は

開孔 G をもつこと,頭部がよく縦偏して頭高は

頭幅よりもやや大きいこと,第 2 背鰭と臀鰭条数

がともに通常 I, 12 であること,眼の下方に 3 本

の感覚孔器列があること,雌の第 1 背鰭後方に黒

色 斑 が あ る こ と な ど で Akihito et al. (2002) や

Stevenson (2002) が示した G. heptacanthus の特徴

と一致したため,本種と同定した.

Akihito et al. (2002) や鈴木・渋川(2004)は国

内におけるニクハゼの分布南限を九州としたが,

文献上で鹿児島県からの本種の確実な記録はな

く,これまでの第 2 著者による鹿児島県の九州沿

岸における汽水魚類相の調査においても採集記録

はなかったため,本報告が本種の標本に基づく鹿

児島県および上甑島からの初記録となる.

 結果と考察 — 上甑島の汽水湖群の魚類相

ウナギ科 Anguillidae

Anguilla marmorata Quoy and Gaimard, 1824

オオウナギ

 備考 標本は得られていないが,本種は 2008

年 6 月 29 日に鍬崎池で第 2 著者により目視観察

された.平田(1974)は鍬崎池から本種を目録的

に記録した.

Fig. 3. Preserved specimen of Gymnogobius heptacanthus, KAUM–I. 26419, 48.0 mm SL, Lake Namako, Kamikoshiki-jima Island, Kagoshi-ma Prefecture, southern Japan.

Page 84: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

82

カタクチイワシ科 Engraulidae

Engraulis japonicus (Houttuyn, 1782)

カタクチイワシ(Fig. 4)

 標本 海鼠池:KAUM–I. 26352,体長 89.5 mm.

貝池:KAUM–I. 26350,体長 78.1 mm;KAUM–I.

26351,体長 86.5 mm.

コイ科 Cyprinidae

Carassius langsdorfii (Temminck and Schlegel, 1846)

ギンブナ

 備考 標本として保存されていないが,2008

年 6 月 29 日に第 2 著者により複数個体の本種が

鍬崎池で採集された.平田(1974)は本種を “ フ

ナ ” として鍬崎池から目録的に記録した.林

(1976)は聞き込み調査により,鍬崎池に生息す

る本種は島外から導入されたという情報を得た.

Cyprinus carpio Linnaeus, 1758

コイ

 備考 標本として保存されていないが,2008

年 6 月 29 日に第 2 著者により 1 個体の本種が鍬

崎池で採集された.平田(1974)は本種を “ コイ ”

として鍬崎池から目録的に記録した.林(1976)

は聞き込み調査により,鍬崎池に生息する本種は

島外から導入されたという情報を得た.

ボラ科 Mugilidae

Mugil cephalus cephalus Linnaeus, 1758

ボラ(Fig. 5)

 標本 鍬崎池:KAUM–I. 26374,体長 137.8 mm;

KAUM–I. 26375,体長 138.6 mm.

 備考 平田(1974)は海鼠池と須口池から,柿

本(1979)は須口池から本種を目録的に記録した.

メダカ科 Adrianichthyidae

Oryzias latipes (Temminck and Shlegel, 1846)

メダカ(Fig. 6)

 標本 海鼠池:KAUM–I. 26347,31.0 mm.貝池:

KAUM–I. 26408,体長 21.5 mm;KAUM–I. 26409,

体長 8.5 mm;KAUM–I. 26423,体長 21.5 mm.鍬

崎 池:KAUM–I. 26406, 体 長 19.0 mm SL;KAU

M–I. 26407, 体 長 18.6 mm. 須 口 池:KAUM–I.

26403, 体 長 21.4 mm;KAUM–I. 26404, 体 長

23.7 mm;KAUM–I. 26405,体長 24.2 mm.

 備考 林(1976)は鍬崎池に流入する灌漑用水

路から本種を採集した.アロザイム分析によるメ

ダカの集団構造の解析によれば,国内に分布する

メダカは複数の地域個体群に細分化され,上甑島

のメダカは九州南部に分布する薩摩型に含まれる

(酒泉,2000).甑島列島におけるメダカ個体群の

規模は上甑島では比較的安定していると考えられ

るが(本研究),下甑島では 2001 年に採集されて

以降,その個体数は減少している(米沢,2002).

フサカサゴ科 Scorpaenidae

Sebastes ventricosus Temminck and Schlegel, 1843

クロメバル(Fig. 7)

 標本 海鼠池:KAUM–I. 26354,体長 209.1 mm.

Fig. 4. Preserved specimen of Engraulis japonicus, KAUM–I. 26352, 89.5 mm SL, Lake Namako, Kamikoshiki-jima Island, Kagoshima Prefecture, southern Japan.

Fig. 5. Preserved specimen of Mugil cephalus cephalus, KAUM–I. 26374, 137.8 mm SL, Lake Kuwazaki, Kamikoshiki-jima Island, Kagoshima Prefecture, southern Japan.

Fig. 6. Preserved specimen of Oryzias latipes, KAUM–I. 26403, 21.4 mm SL, Lake Suguchi, Kamikoshiki-jima Island, Ka-goshima Prefecture, southern Japan.

Page 85: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

83

キス科 Sillaginidae

Sillago japonica Temminck and Schlegel, 1843

シロギス(Fig. 8)

 標本 海鼠池:KAUM–I. 26348,体長 80.5 mm;

鹿児島県立博物館魚類資料 FI 98000001,4 個体,

体長 102.3–169.7 mm.貝池:KAUM–I. 26349,体

長 78.1 mm.

 備考 平田(1974)は海鼠池から学名を付さず

に “ キス ” を目録的に記録したが,おそらく本種

と考えられる.

シマイサキ科 Terapontidae

Rhynchopelates oxyrhynchus

(Temminck and Schlegel, 1842)

シマイサキ(Fig. 9)

 標本 海鼠池:KAUM–I. 26355,体長 136.6 mm;

KAUM–I. 26356,体長 126.1 mm;鹿児島県立博

物 館 魚 類 資 料 FI 98000003,3 個 体, 体 長 86.5–

120.6 mm. 貝 池:KAUM–I. 26357, 体 長 175.9

mm;KAUM–I. 26358,体長 122.5 mm.

 備考 Senou(2002)は本種の属名を Rhynco-

pelates としたが,Rhynchopelates が正しい(Fowler,

1931).

ネズッポ科 Callionymidae

Repomucenus cf. curvicornis

(Valenciennes in Cuvier and Valenciennes, 1837)

(Fig. 10)

 標本 海鼠池:KAUM–I. 26353,体長 149.9 mm.

 備考 本種はネズミゴチ R. curvicornis と最も

よく似るが前鰓蓋骨棘の形状などが異なる(岩坪・

本村,2010).

ハゼ科 Gobiidae

Acentrogobius sp. A

スジハゼ A(キララハゼ属の 1 種 A)(Fig. 11)

 標本 海鼠池:KAUM–I. 26402,体長 52.7 mm.

貝池:KAUM–I. 26401,体長 49.1 mm.須口池:

KAUM–I. 26400,体長 45.6 mm.

 備考 日 本 国 内 で “ ス ジ ハ ゼ Acentrogobius

pflaumii (Bleeker, 1853)” とされているキララハゼ

属魚類には色彩などで識別される 3 種が混同され

ている(鈴木・渋川,2004).調査標本は頭部背

面が無鱗であること,腹鰭先端に幅広い黒色の縁

取りがあること,および第 1 背鰭に黒色斑が無い

ことで鈴木・渋川(2004)の “ スジハゼ A(キラ

ラハゼ属の 1 種 A)Acentrogobius sp. A” と同定さ

れた.林(1976)は標本(YCM-P 2107;横須賀

市自然・人文博物館所蔵)に基づき海鼠池から “ ス

Fig. 7. Preserved specimen of Sebastes ventricosus, KAUM–I. 26354, 209.1 mm SL, Lake Namako, Kamikoshiki-jima Island, Kagoshima Prefecture, southern Japan.

Fig. 8. Preserved specimen of Sillago japonica, KAUM–I. 26349, 78.1 mm SL, Lake Kai, Kamikoshiki-jima Island, Kagoshima Prefecture, southern Japan.

Fig. 9. Preserved specimen of Rhynchopelates oxyrhynchus, KAUM–I. 26358, 122.5 mm SL, Lake Kai, Kamikoshiki-jima Island, Kagoshima Prefecture, southern Japan.

Fig. 10. Preserved specimen of Repomucenus cf. cuvicornis, KAUM–I. 26353, 149.9 mm SL, Lake Namako, Kamikoshiki-jima Island, Kagoshima Prefecture, southern Japan.

Page 86: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

84

ジハゼ ” を記録しているが,鈴木・渋川(2004)

のキララハゼ属 3 種のいずれに該当するかは不明

である.

Chaenogobius gulosus (Sauvage, 1882)

ドロメ(Fig. 12)

 標本 海鼠池:KAUM–I. 26410,体長 19.6 mm;

KAUM–I. 26411,体長 17.4 mm;KAUM–I. 26412,

体 長 20.5 mm;KAUM–I. 26413, 体 長 26.7 mm;

KAUM–I. 26414,体長 24.6 mm.

Gymnogobius heptacanthus (Hilgendorf, 1879)

ニクハゼ(Figs. 2, 3)

 前項を参照.

Luciobgobius guttatus Gill, 1859

ミミズハゼ(Fig. 13)

 標本 鍬崎池:KAUM–I. 26373,体長 20.9 mm.

Mugilogobius sp. 1

イズミハゼ(Fig. 14)

 標本 海鼠池:KAUM–I. 26394,体長 25.1 mm;

KAUM–I. 26395,体長 27.2 mm;KAUM–I. 26396,体

長 26.4 mm;KAUM–I. 26397, 体 長 28.8 mm;KAU

M–I. 26398, 体 長 28.7 mm;KAUM–I. 26399, 体 長

30.7 mm. 貝 池:KAUM–I. 26390, 体 長 29.2 mm;

KAUM–I. 26391,体長 23.1 mm;KAUM–I. 26392,体

長 28.3 mm;KAUM–I. 26393,体長 25.9 mm.鍬崎池:

KAUM–I. 26367,体長 19.3 mm;KAUM–I. 26368,体

長 20.8 mm;KAUM–I. 26369, 体 長 21.8 mm;KAU

M–I. 26370, 体 長 19.6 mm;KAUM–I. 26371, 体 長

20.9 mm;KAU M–I. 26372,体長 19.2 mm.須口池:

KAUM–I. 26384,体長 26.5 mm;KAUM–I. 26385,体

長 32.9 mm;KAUM–I. 26386, 体 長 28.1 mm;KAU

M–I. 26387, 体 長 30.6 mm;KAUM–I. 26388, 体 長

33.5 mm;KAUM–I. 26389,体長 28.4 mm.

 備考 本種は,近縁のアベハゼ M. abei (Jordan

and Snyder, 1901) とは色彩の差異により識別され

(Akihito et al., 2002;鈴木・渋川,2004),両種に

は遺伝的に分化が認められる(Mukai et al., 2000;

向井,2010).一方で,Larson (2001) はアベハゼ

属の分類学的再検討を行い,イズミハゼ(琉球列

島の個体群として)をアベハゼの色彩変異型と位

置付けた.また,上甑島や種子島にはイズミハゼ

とアベハゼの色彩的特徴を併せもつ個体が分布し

ており,それら地域における個体群は両種の雑種

に 起 源 す る 可 能 性 が 示 唆 さ れ て い る( 向 井,

2001, 2010).本研究での調査標本も向井(2001)

の示したような両種の中間的な色彩をもつため,

向井(2001)に従い便宜的にイズミハゼとした.

Fig. 11. Preserved specimen of Acentrogobius sp. A, KAUM–I. 26402, 52.7 mm SL, Lake Namako, Kamikoshiki-jima Island, Kagoshima Prefecture, southern Japan.

Fig. 12. Preserved specimen of Chaenogobius gulosus, KAUM–I. 26413, 26.7 mm SL, Lake Namako, Kamikoshiki-jima Island, Kagoshima Prefecture, southern Japan.

Fig. 13. Preserved specimen of Luciobgobius guttatus, KAUM–I. 26373, 20.9 mm SL, Lake Kuwazaki, Kamikoshiki-jima Island, Kagoshima Prefecture, southern Japan.

Fig. 14. Preserved specimens of Mugilogobius sp. 1. A, KAUM–I. 26372, 19.2 mm SL, Lake Kuwazaki and B, KAUM–I. 26387, 30.6 mm SL, Lake Suguchi, Kamikoshiki-jima Island, Ka-goshima Prefecture, southern Japan.

Page 87: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

85

Rhinogobius giurinus (Rutter, 1897)

ゴクラクハゼ(Fig. 15)

 標本 鍬崎池:KAUM–I. 26359,体長 39.2 mm;

KAUM–I. 26360,体長 39.4 mm.

Tridentiger obscurus (Temminck and Schlegel, 1845)

チチブ(Fig. 16)

 標本 鍬崎池:KAUM–I. 26361,体長 92.2 mm;

KAUM–I. 26362,体長 59.1 mm;KAUM–I. 26363,

体 長 59.8 mm;KAUM–I. 26364, 体 長 50.9 mm;

KAUM–I. 26365,体長 49.3 mm;KAUM–I. 26366,

体 長 26.3 mm;KAUM–I. 26376, 体 長 65.7 mm;

KAUM–I. 26377,体長 27.4 mm;KAUM–I. 26378,

体 長 27.3 mm;KAUM–I. 26379, 体 長 24.6 mm;

KAUM–I. 26380,体長 20.7 mm;KAUM–I. 26381,

体 長 17.6 mm;KAUM–I. 26382, 体 長 41.8 mm;

KAUM–I. 26383,体長 29.0 mm.

 備考 柿本(1979)は須口池から本種を目録的

に記録した.

 上甑島の汽水湖群のうち海鼠池,貝池,および

鍬崎池は長目の浜とよばれる磯洲の背後に位置し

ている.長目の浜の北西から南東へ海鼠池,貝池,

鍬崎池の順に位置し,須口池は長目の浜の南東に

位置する須口浜に面する(Fig. 1).なお,海鼠池

と貝池は両湖の接点に設けられた堰に造られた水

路によって交流している.いずれの湖にも流入河

川は無く,磯洲を介してあるいは超えて海水と湖

水が交換することが知られている(荒巻ほか,

1976).

 本研究の結果,上甑島の汽水湖群から 10 科 17

種の魚類が確認された(Table 1).このうち,カ

タクチイワシ,クロメバル,およびニクハゼなど

海域や汽水域への依存度が高い魚種は海鼠池と貝

池からのみ記録された.林 (1976) は海鼠池で地

元漁師によりブダイ Calotomus japonicus (Cuvier

and Valenciennes, 1840) が漁獲されたことを,平田

(1974)は同池にメジナやカサゴ(いずれも学名

の記載なし)などの海産魚類が生息することを報

告した.海鼠池と貝池では磯洲内部を通じてある

いは暴浪時に磯洲を超えて通常的に海水と湖水が

交換しており(荒巻ほか,1976),貝池の底生動

物相は全て海産種で占められることが知られてい

ることから(山室,1987),海鼠池と貝池では海

産魚類も生息が可能であると考えられる.また,

1965 年以降に少なくとも 2 回にわたり,台風が

甑島列島を通過した際の波浪によって海鼠池と海

域を隔てる磯洲が決壊して湖と海域が接続した時

期があった(柳幸次郎氏,私信).本研究や既往

の報告で記録されたような海産魚類が磯洲内部を

介して海域と湖内を移動しているとは考えにくい

ことから,これらの魚類は満潮時に海域が暴浪し

た際に磯洲を超えて,あるいは過去に天災により

磯洲が決壊して湖と海域が接続した際に,偶発的

に湖内に侵入したものと推測される.海産魚類が

湖内で再生産するのは困難であるため,海域から

新たな加入個体が無い限り湖内で個体群を維持す

るのは不可能であると考えられる.現に,磯洲が

決 壊 し た 後 の 数 年 間 は 海 鼠 池 で ア オ リ イ カ

Sepioteuthis lessoniana Lesson, 1830 や ク ロ ダ イ

Fig. 15. Preserved specimen of Rhinogobius giurinus, KAUM–I. 26360, 39.4 mm SL, Lake Kuwazaki, Kamikoshiki-jima Island, Kagoshima Prefecture, southern Japan.

Fig. 16. Preserved specimens of Tridentiger obscurus. A, KAUM–I. 26361, male, 92.2 mm SL and B, KAUM–I. 26362, female, 59.1 mm SL, Lake Kuwazaki, Kamikoshiki-jima Island, Ka-goshima Prefecture, southern Japan.

Page 88: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

86

Acanthopagrus schlegelii (Bleeker, 1854) などが漁獲

され,それらを対象とした漁業が盛んに行われて

いたが,近年ではそれらの海産生物は漁獲されて

いない(柳幸次郎氏,私信).

 一方,純淡水魚であるギンブナやコイは鍬崎池

からのみ記録された.鍬崎池の底生動物相は淡水

種が主体をなすことが知られおり(山室,1987),

本研究の結果も鍬崎池の魚類相は淡水性の傾向が

強いことが示された.約 2 万年前の最終氷河期に

おける海水面高の低下によって,その時期には甑

島列島は九州本土と陸続きであったと考えられて

おり(荒巻ほか,1976),甑島列島に分布する淡

水魚類の一部は九州本土に由来すると考えられ

る.上甑島のメダカが九州南部に分布する薩摩型

に帰属することも(酒泉,2000),この仮説を裏

付ける.しかし,上甑島のギンブナやコイは九州

本土から導入された可能性が指摘されているため

(林,1976;柿本,1979),湖群の個体群が在来の

ものであるかを判断することは困難である.以上

のとおり,上甑島の汽水湖群の魚類相は,海産魚

類については海域から湖内への偶発的な侵入,お

よび淡水魚類については地史的な要因あるいは人

為的な導入により成立していると考えられる.

 謝辞

本報告を取りまとめるにあたり,種子島高等

学校の池 俊人氏ならびに横須賀市自然・人文博

物館の萩原清司氏には貴重な文献を提供して頂い

た.鹿児島県立博物館の山田島崇文氏には標本を

調査する機会を頂いた.薩摩川内市上甑支所の職

員の皆様,同市上甑町瀬上地区自治会長の柳幸次

郎氏には汽水湖群の歴史に関する情報を提供して

頂いた.財団法人鹿児島県環境技術協会の安藤恵

美子女史ならびにアクアリサーチラボの生森佳治

氏には,現地調査を手伝って頂いた.高山真由美

女史ならびに原口百合子女史をはじめとする鹿児

島大学総合研究博物館ボランティアの皆様,鹿児

島大学大学院水産学研究科の荻原豪太氏をはじめ

とする魚類分類学研究室の皆様には,標本の登録

作業などを手伝って頂いた.同大学大学院水産学

研究科の目黒昌利氏には標本写真の加工を手伝っ

て頂いた.以上の諸氏に対して謹んでお礼を申し

上げる.本研究は,薩摩川内市の「平成 20 年度

薩摩川内市長目の浜調査業務委託」事業および,

鹿児島大学総合研究博物館の「鹿児島県産魚類の

多様性調査プロジェクト」の一環として行われた.

Lagoons on Kamikoshiki-jima IslandSpecies Japanese name L. Namako L. Kai L. Kuwazaki L. Suguchi

AnguillidaeAnguilla marmorata Ounagi +*

EngraulidaeEngraulis japonicus Katakuchiiwashi + +

CyprinidaeCarassius langsdorfii Gimbuna +*

Cyprinus carpio Koi +*

MugilidaeMugil cephalus cephalus Bora +

AdrianichthyidaeOryzias latipes Medaka + + + +

ScorpaenidaeSebastes ventricosus Kuromebaru +

SillaginidaeSillago japonica Shirogisu + +

TerapontidaeRhynchopelates oxyrhynchus Shimaisaki + +

CallionymidaeRepomucenus cf. cuvicornis +

GobiidaeAcentrogobius sp. A Sujihaze A + + +Chaenogobius gulosus Dorome +Gymnogobius heptacanthus Nikuhaze + +*

Luciobgobius guttatus Mimizuhaze +Mugilogobius sp. 1 Izumihaze + + + +Rhinogobius giurinus Gokurakuhaze +Tridentiger obscurus Chichibu +

Table 1. List of fishes confirmed from lagoons on Kamikoshiki-jima Island, Kagoshima Prefecture, southern Japan.

*based on field observations (specimens not retained); other records were based on specimens deposited at Kagoshima University Museum and Kagoshima Prefectural Museum.

Page 89: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

87

 引用文献

明仁親王.1984.ハゼ亜目,pp. 236–238.益田 一・尼岡邦夫・荒賀忠一・上野輝彌・吉野哲夫(編),日本産魚類大図鑑(解説).東海大学出版会,東京.

Akihito, K. Sakamoto, Y. Ikeda and K. Sugiyama. 2002. Gobioi-dei, pp. 1139–1310, 1596–1619. In T. Nakabo (ed.), Fishes of Japan with pictorial keys to the species, English ed. Tokai University Press, Tokyo.

荒巻 孚・山口雅功・田中好國.1976.鹿児島県,上甑島における甑四湖の水文地形学的研究.専修自然科学紀要,(9): 1–80.

Fowler, H. W. 1931. Contributions to the biology of the Philippine Archipelago and adjacent regions. The fishes of the families Pseudochromidae, Lobotidae, Pempheridae, Pricanthidae, Lutjanidae, Pomadasyidae, and Teraponidae, collected by the United States Bureau of Fisheries steamer “Albatoross”, chiefly in Philippine Seas and adjacent waters. Bulletin of the United States National Museum, 11 (100): i–xi + 1–388.

林 公義.1976.上甑島と種子島の魚類について.横須賀市立博物館報,(22): 32–36.

平田国雄.1974.海中景観,pp. 102–147.財団法人国立公園協会(編),甑島自然公園候補地学術調査報告書.財団法人国立公園協会,東京.

Hubbs, C. L. and K. F. Lagler. 1947. Fishes of the Great Lakes region. Bulletin of Cranbrook Institute of Science, (26): i–xi+1–186.

池 俊人.1995.上甑島の淡水魚類.武岡台高校研究紀要,(7): 1–7.

岩坪洸樹・本村浩之.2010.鹿児島県から得られたミヤケテグリ Neosynchiropus moyeri(ネズッポ科:コウワンテグリ属)および標本に基づく鹿児島県のネズッポ科魚類相.Nature of Kagoshima, 36: 65–73.

Kai, Y. and T. Nakabo. 2008. Taxonomic review of the Sebastes inermis species complex (Scorpaeniformes: Scorpaenidae). Ichthyological Research, 55 (3): 238–259.

柿本修一.1979.甑(こしき)島列島の魚類,貝類及びエビ類.淡水魚,(5): 158–160.

Larson, H. K. 2001. A revision of the gobiid fish genus Mugilogo-bius (Teleostei: Gobioidei), and its systematic placement. Records of the Western Australian Museum Supplement, (62): 1–233.

向井貴彦.2001.鹿児島県上甑島産イズミハゼの色斑多型.南紀生物,43 (2): 143–146.

向井貴彦.2010.比較系統地理学からみた琉球列島の淡水魚類相の成立,pp. 169–183.渡辺勝敏・髙橋 洋(編),淡水魚類地理の自然史 — 多様性と分化をめぐって.北海道大学出版会,札幌.

Mukai, T., M. Kajimura and K. Iwata. 2000. Evolution of a ure-agenic ability of Japanese Mugilogobius species (Pisces: Gobiidae). Zoological Sciences, 17 (4): 549–557.

Nakabo, T. (ed.). 2002. Fishes of Japan with pictorial keys to the species, English ed. Tokai University Press, Tokyo. 1749 pp.

小川一男.1937.地理的分布から観た鹿児島県の淡水魚.広島文理科大学・高等師範学校博物学会誌,(5): 11–27.

酒泉 満.2000.メダカの系統と種内構造.蛋白質核酸酵素,45 (17): 2909–2917.

Senou, H. 2002. Terapontidae, pp. 951–953, 1568–1569. In T. Na-kabo (ed.), Fishes of Japan with pictorial keys to the species, English ed. Tokai University Press, Tokyo.

Stevenson, D. E. 2002. Systematics and distribution of fishes of the Asian goby genera Chaenogobius and Gymnogobius (Os-teichthyes: Perciformes: Gobiidae), with the description of a new species. Species Diversity, 7 (3): 251–312.

鈴木寿之・渋川浩一.2004.決定版日本のハゼ.瀬能 宏(監).平凡社,東京.534 pp.

山室真澄.1987.鹿児島県上甑島の,塩分が異なる 2 つの汽水湖における大型底生動物相.陸水学雑誌,48 (3): 177–186.

米沢俊彦.2002.メダカ,p. 144.鹿児島県環境生活部環境保護課(編),鹿児島県の絶滅のおそれのある野生動植物 動物編 ― 鹿児島県レッドデータブック ―.財団法人鹿児島県環境技術協会,鹿児島.

Page 90: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

88

Page 91: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

89

オオメワラスボ科魚類 Navigobius dewaモモイロカグヤハゼ(新称)の生息状況

出羽慎一 1・出羽尚子 2・本村浩之 3

1 〒 890–0067 鹿児島市真砂本町 7–7 ダイビングサービス海案内2 〒 891–0132 鹿児島市本港新町 3–1 いおワールドかごしま水族館

3 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

 はじめに

Navigobius dewa Hoese and Motomura(図 1)は

2009 年に鹿児島湾から採集された 3 標本(標準

体長 37.5–45.2 mm)に基づき,オオメワラスボ

科クロユリハゼ亜科の新属新種として記載され

た.Navigobius 属はクロユリハゼ属 Ptereleotris と

ハタタテハゼ属 Nemateleotris に近縁だが,前者

は両眼間隔側線管(interorbital canal)が眼間で完

全に連続していないことなどで特徴付けられる

(Hoese and Motomura, 2009).

Hoese and Motomura (2009) は,Navigobius dewa

の分布域として,鹿児島湾(タイプ産地)と奄美

大島(水中観察)を報告したが,その後,本種が

伊豆半島(本報告)にも生息することが確認され

た.したがって,本種は南日本に広く分布してい

る可能性が高い.

Navigobius dewa と Navigobius 属に適用すべき

標準和名が原記載で記載されていなかったため,

本報告で両和名を提唱する.また,鹿児島湾と伊

豆半島を中心に本種の生息状況を報告するととも

に,本種の飼育記録を紹介する.なお,本研究で

用いた標本はオーストラリア博物館(AMS)と

鹿児島大学総合研究博物館(KAUM)に保管さ

れている.

 名前

オオメワラスボ科 Microdesmidae

クロユリハゼ亜科 Ptereleotrinae

カグヤハゼ属(新称)

  Navigobius Hoese and Motomura, 2009

モモイロカグヤハゼ(新称)

  Navigobius dewa Hoese and Motomura, 2009

Navigobius はラテン語で泳ぐ(Navi)ハゼ(go-

bius)を意味し,泳ぎ回っている本種の生態に基

づく.種小名の dewa は,採集者(本報告の第 1

著者)に献名された.なお,クロユリハゼ亜科は

研究者によってクロユリハゼ科として扱われてい

るが,本報告では原記載にしたがって亜科とする.

本種は桃色の美しい体色を呈していることか

ら,本報告では鹿児島湾産の 3 標本 [ ホロタイプ

AMS I. 44800-001(図 2)とパラタイプ KAUM–I.

5516–5517] に基づき,Navigobius dewa に対して

新標準和名モモイロカグヤハゼを提唱する.また,

Navigobius 属の和名としてカグヤハゼ属(新称)

を提唱する.鈴木・渋川(2004: 512)のクロユリ

ハゼ科の 1 種 -1(Ptereleotridae, indet. gen. and sp. 1)

は,カグヤハゼ属の 2 番目の種(現在未記載種)

であると考えられる.

Motomura et al. (2010: fig. 570) は,屋久島永田

沖の水深 45 m で撮影された写真個体を Navi-

gobius dewa として報告したが,その個体は上述

のカグヤハゼ属の 2 番目の種(Navigobius sp.)の

成魚である [ 鈴木・渋川(2004)のクロユリハゼ

科の 1 種 -1 は幼魚の写真 ].

   Dewa, S., N. Dewa and H. Motomura. 2010. Ecological notes

on a recently described microdesmid fish, Navigobius dewa, from Japanese waters, with a proposed new standard Japanese name for the species. Nature of Kagoshima 36: 89–92.

HM: Kagoshima University Museum, 1–21–30 Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: [email protected]).

Page 92: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

90

 鹿児島での生息状況

 下記の生息状況は第 1 著者の水中観察に基づ

く.鹿児島湾では,モモイロカグヤハゼの群れが

11 月中旬から 5 月まで水深 75–85 m 付近,6 月か

ら 11 月上旬までは 45–60 m 付近で観察された.

図 2.Navigobius dewa のホロタイプ.AMS I.44800–001,標準体長 37.5 mm,鹿児島市東桜島町沖,水深 70 m,2007年 7 月 25 日,出羽慎一採集.

図 1.モモイロカグヤハゼの成魚.鹿児島市東桜島町沖,水深 62 m,2009 年 6 月 8 日,出羽慎一撮影.

図 3.モモイロカグヤハゼの幼魚.鹿児島市東桜島町沖,水深 45 m,2008 年 10 月 30 日,古宮 豊撮影.

図 5.モモイロカグヤハゼの成魚.靜岡県伊東市富戸伊豆海洋公園,高瀬 歩撮影.上図:水深 72 m,2009 年 7 月 16 日.下図:水深 68 m,2009 年 7 月 28 日.

図 4.モモイロカグヤハゼの群れ.鹿児島市東桜島町沖,水深 59 m,2010 年 4 月 15 日,出羽慎一撮影.

Page 93: KagoshimaNature_vol36_lite

ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

91

冬から春にかけて 1 つの群れは 10–30 個体ほどで

構成され,夏になると 1 つの群れが 200–300 個体,

多い時には 1 ダイブで 15 個の群れが確認された.

また,10 月下旬から 11 月にかけて,全長 2 cm

ほどの幼魚が 10 個体ほどで群れを構成している

のが観察された(図 3).2004 年から現在にかけて,

鹿児島湾では年々本種の個体数が増えており,

2009 年秋から 2010 年 4 月現在までは,水深 55–

70 m に数千個体からなる 1 群が留まっている(図

4).

 本種は,岩礁が散在する砂泥底の急斜面で観察

され,概ね岩礁のまわりで底から約 30 cm 浮かん

だ状態で群れている.観察のため接近すると,砂

中や岩陰に逃げ込むのではなく,泳いで逃げ回る.

また,本種は,透明度が低く水中が暗いときには

やや浅いところへ,透明度が高く明るいときには

深いところへ移動する傾向がみられる.

 奄美大島では,2007 年 5 月に本種の生息が確

認された(Hoese and Motomura, 2009).観察場所

は,奄美市龍郷町秋名付近の岬先端沖のリーフ外

縁で,約 30 個体が水深 60 m の礫まじりの砂底に

生息することが観察された.

 伊豆半島での生息状況

 下記の生息状況はさかなや潜水サービス(静岡

県伊東市)の高瀬 歩氏の水中観察に基づく.伊

豆半島東岸の伊豆海洋公園では,緩やかな斜面の

転石混じりの砂地で本種が周年観察される(図

5).特に水深 70 m 付近で成魚 10 個体前後が群れ

を形成しており,2 月の最低水温(12°C)時にも

活発に泳ぎ回っている.水深 70 m 付近で稀に全

長 3–4 cm の若魚も確認された.水深 55 m 付近で

も 4–5 個体で群れている幼魚が確認されている

(2006 年 11 月).このことから,本種は鹿児島湾

や伊豆半島では,初秋に産卵していると考えられ

る.また,生息地が砂地の斜面というのも伊豆半

島,鹿児島湾,奄美大島で確認された共通の生息

環境である.

 飼育記録

 鹿児島湾産のモモイロカグヤハゼ 16 個体がい

おワールドかごしま水族館で飼育展示されている

(2010 年 3 月現在).これらは 2009 年 11 月 17 日に,

鹿児島湾の水深 64 m から第 1 著者とかごしま水

族館職員によって採集された個体で,同館の特別

企画展「集まれごもんちゃん~小さなハゼの大き

な世界」の展示生物のひとつとして,12 月 19 日

より一般公開された.

 採集時の全長はおよそ 3–5 cm.展示は幅 93

cm,奥行 63 cm,深さ 70 cm,水量約 1 t のユニッ

ト水槽を半開放式にして行なった.展示期間中の

水温は 14–19°C,ph は 7.9 前後,塩分濃度は 33–

34‰,溶存酸素濃度は 98% 前後であった.照明

は高演色性波長の 18W 蛍光灯 2 灯を 9–19 時まで

10 時間点灯した.水槽内には粒径 1 mm 前後の

パウダー状のソイル(焼成底床)を約 5 cm 厚に

敷き,レイアウト用に溶岩塊とヤギ類の骨格を配

置した.

 ほぼ毎日,概ね 1–2 回アルテミアのノープリウ

ス幼生や冷凍コペポーダなどを与えた.給餌時,

飼育している全てのモモイロカグヤハゼは,水槽

全体に広がるように遊泳し,水流に乗って流れて

くる上記の餌を活発に摂餌した.これらの給餌に

よって,モモイロカグヤハゼは飼育期間中もわず

かではあるが成長し続けている.

 モモイロカグヤハゼは,展示開始時から 3 週間

経っても人影や物音に怯えて溶岩塊の下の底砂に

穴を掘り,潜り込んで出てこない状態が続いた.

そこで,水槽内の入り込めるような障害物を取り

除いたところ,展示期間を通して照明が点灯して

いる間は,多くの個体が水槽内を遊泳するように

なった.照明が消えた後は全個体が 1 箇所に集ま

り,配管の横に掘ったくぼみに隠れてじっとして

いることが多かった.大型個体は小型個体に比べ

て警戒心が強く,照明点灯時もくぼみに身を隠す

ことがあった.

 本種は警戒心が強いものの,飼育はさほど難し

くないようである.今後,産卵生態などの観察が

できれば報告したい.

Page 94: KagoshimaNature_vol36_lite

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 ARTICLES

92

 謝辞

 伊豆海洋公園での本種の生息状況と写真を提供

してくださった Dive Company さかなや潜水サー

ビスの高瀬 歩氏と幼魚の写真を提供してくだ

さった鹿児島市桜島町在住の古宮 豊氏に感謝す

る.

 引用文献

Hoese, D. F. and H. Motomura. 2009. Descriptions of two new genera and species of ptereleotrine fishes from Australia and Japan (Pisces: Gobioidei) with discussion of possible rela-tionships. Zootaxa, 2312: 49–59.

Motomura, H., K. Kuriiwa, E. Katayama, H. Senou, G. Ogihara, M. Megurom, M. Matsunuma, Y. Takata, Y. Yoshida, M. Yamashita, S. Kimura, H. Endo, A. Murase, Y. Iwatsuki, Y. Sakurai, S. Harazaki, K. Hidaka, H. Izumi and K. Matsuura. 2010. Annotated checklist of marine and estuarine fishes of Yaku-shima Island, Kagoshima, southern Japan. Pp. 65–247 in H. Motomura and K. Matsuura (eds.). Fishes of Yaku-shima Island – A World Heritage island in the Osumi Group, Kagoshima Prefecture, southern Japan. National Museum of Nature and Science, Tokyo.

鈴木寿之・渋川浩一.2004.決定版 日本のハゼ.平凡社,東京.534 pp.

Page 95: KagoshimaNature_vol36_lite

93

INFORMATION Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

本会の活動概要について,報告します.

2009 年は,寒い春に続き,6 月の少雨の後,7

月以降,乾燥が続き,昆虫には厳しい年でした.

蝶では,モルフォチョウのように美しく輝く

ルリウラナミシジミが大発生しました.記録があ

る限り,過去,最大の発生で,九州全域のみなら

ず,四国,本州でも記録されました.また,クロ

マダラソテツシジミも 3 年連続で発生がみられま

した.最初,発見されたときは大変驚きましたが,

すっかり常連になった感じです.ちなみに,南九

州以外でも,北九州,中国,関西,更には,中部

地方・関東方面まで分布を拡げました.

このように,南方系の蝶の分布が一時的では

あれ,大幅に分布を拡げる種がある一方,北方系

のヒョウモンなどの草原性の蝶は,平地では殆ど

見られなくなり,霧島などの高地においても,減

少しつつあるように思われます.多様な環境を保

全し,これらの昆虫が将来もみられることを期待

したいと思います.

また,2009 年 7 月,栗野岳で多くの会員が参

加して,かつて九州でここだけで見られたウスイ

ロオナガシジミの調査を行いましたが,全くその

姿が見られませんでした.ここ数年,目撃記録も

ないことから,絶滅する(した)可能性が否定で

きない状況です.カシワの管理や植栽など抜本的

な保護対策をすべき時期がきたように思われま

す.

国内希少野生動植物種に指定されて捕獲が原

則として禁止されているベッコウトンボは,薩摩

川内市の藺牟田池に生息しています.市役所や地

元のボランティア,本会の会員など多くの方の努

力もあり,全国でもわずかに残された安定した生

息地となっていましたが,2009 年の記録的な少

雨で,池の水位が極端に下がり,その生存が危ぶ

まれています.水位が回復し,2010 年以降もベッ

コウトンボの姿がみられることを期待したいと思

います.

このように様々な昆虫の記録を積み重なって

いくことで,人間を含む自然や環境のより深い理

解につながっていくものと思います.

本会の大会(総会)ですが,2009 年 11 月 22

日(日)に会員約 45 人の参加のもと,武・田上

公民館で,盛大に開催され,1 年間の成果が披露

されました.「皆既日食でセミは鳴きやむか?」,

「分布南限地 屋久島におけるウラナミジャノメ

の消長」など興味深い話の連続でした.また,「情

けは人のためならず」と題した心にしみる講演や

はじめての試みとして「温暖化と鹿児島の分布南

限の昆虫たち」と題したシンポジウムも開催され,

充実した大会となりました.夜は楽しく懇親会が

開かれました.以上,2009 年の活動概要でした.

Nature of Kagoshima 36: 93–94

鹿児島昆虫同好会

ルリウラナミシジミ クロマダラソテツシジミ

Page 96: KagoshimaNature_vol36_lite

94

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 INFORMATION

2010 年も,以下のような活動を計画していま

す.まず,調査会ですが,霧島の昆虫を調べるた

めの栗野岳調査会,アサギマダラのマーキング会

などを計画しています.また,会員専用の ML が

あり,会員間でホットな情報交換を行っています.

次に,例会ですが,原則,2 月から 10 月まで,

第 1 土曜日,鹿児島市の伊敷公民館で開催します.

例外もありますので,詳細は担当までご連絡くだ

さい.内容は,海外での採集記,国内昆虫の調査

報告など多彩なものとなっています.卵や幼虫,

様々なグッズのオマケがあることもあります.会

員外の参加も大歓迎ですので,虫に興味のある方

もしくはその関係者はふるってご参加ください.

また,例年どおり,11 月には,大会を開催する

予定です.

鹿 児 島 の 昆 虫 の 現 在 を 記 録 す る 会 誌

「SATSUMA」を年 2 回発行し,会員の最新情報

や会務連絡,書評などを掲載している連絡誌「ア

ルボ」は年 4 回発行することとしています.

鹿児島昆虫同好会のプロフィール 

昆虫との触れ合いを大切にしようとする者の

集まりである.「身近な昆虫の記録を残す」と言

うモットーで 1952 年より活動している.会員数

約 230 名(うち県外会員 60 名弱を含む).小学生

からその家族,一般さらには大学の先生までと多

彩である.

入会方法:申込書をお送りしますので,事務

局までご連絡下さい.

事務局:〒 890−0024 鹿児島市明和 4−5−32 

福 田 晴 夫 方 E-mail: [email protected];

tel・fax: 099−281−1771

(熊谷信晴 〒 891−0103 鹿児島市皇徳寺台

5−32−2 E-mail: [email protected]

総合研究博物館は,学内の貴重な学術資料を

一元的に整理・管理・展示公開して,研究や教育

に効果的に利用し,さらに広く一般社会へ情報を

発信しております.

常設展示室の建物は,平成 18 年に国の登録有

形文化財に登録されました.昭和 3 年(1928 年)

に建てられた展示室には,600 点ほどの標本・資

料を展示し,市民に公開するとともに,学内の教

育にも利用されています.

毎年,秋には特別展を開催し,年に数回市民

講座・研究交流会などを行っています.そのほか,

「News Letter」の発行など学外に向けた活動を行っ

ています.学術標本・資料は,これまでに学内外

から多数の利用があり,その一部は学術論文とし

て報告されているほか学生の論文にも活用されて

います.

2009年の活動報告

■大学博物館等協議会 2009 年度大会・第 4 回博

物科学会 5 月 21 日~ 22 日 鹿児島大学におい

て開催されました.博物科学会の口答発表とポス

ターセッションが行われました.

■第 9 回公開講座「アジアの中の日本 — 稲作文

化から考えるー」 5 月 30 日 田中耕司氏(京都

大学地域研究統合情報センター)が,現代のグロー

バル化社会のなかで,今後,稲作や米食の価値を

どのように高めていけばよいのかについて,熱帯

農業の専門家が東南アジアでのフィールドワーク

をもとに,稲作の技術や文化を論じました.

■第 9 回自然体験ツアー「わたしも今日からアリ

博士」 7 月 18 日 城山公園(日置市伊集院町)

という自然豊かな公園で,山根正気氏(鹿児島大

Nature of Kagoshima 36: 94–95

鹿児島大学総合研究博物館

鹿児島大学総合研究博物館第 9 回自然体験ツアー.城山公園にてアリの観察をしているところ.

Page 97: KagoshimaNature_vol36_lite

95

INFORMATION Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

学)・原田豊氏(池田学園池田港等学校)を講師に,

さまざまな環境ごとにアリを採集しました.同時

にアリと関係を持つ動植物も観察し,生態系の一

部としてのアリを体感しました.

■第 14 回研究交流会「世界ジオパークとフィー

ルドミュージアム」 10 月 3 日 8 月に洞爺湖有

珠山,糸魚川,島原半島の 3 施設が世界ジオパー

クネットワーク加盟のジオパークとして認定され

ました.福島大輔氏(NPO 法人桜島ミュージア

ム)・大木公彦氏(総合研究博物館)を講師に日

本でも本格的に動きだしたジオパークについて,

また鹿児島大学博物館が進めているフィールド

ミュージアム・プロジェクトとの連携について参

加者全員で考えました.

■第 17 回市民講座「小さい生命を撮る」 11 月

14 日 世界的に活躍する昆虫写真家・栗林慧氏

を講師に昆虫の生態シーンについて,アリを中心

として映像に説明をまじえながらアリの世界の魅

力をお話いただきました.

■第 5 回学内コンサート 11 月 15 日 ヴァイオ

リン・チェロ・ピアノの調べ 久保吹音氏(Violin)・

有村航平(Cello)・植村富士子(Piano)を奏者に,

ミニコンサートを開催しました.大学祭期間中の

ミニコンサートとして,定着しつつあるようです.

■第 9 回特別展「小さなアリの大きな世界」 11

月 4 日~ 12 月 8 日 生きたアリ,アリの精密な

写真アリの標本を展示し,奥の深いアリの世界を

さまざまな角度から紹介しました.実際に標本を

顕微鏡で観察できるコーナーも設けました.アリ

グッズ,鹿児島県・桜島・鹿児島大学キャンパス

のアリの標本,アリ塚,アリ擬態・アリグモ,食

用としてのアリ,外来種のアリ(アルゼンチンア

リとヒアリ),世界最大のアリ,絵本にみるアリ

の形態,ビデオで見るアフリカのアリの生態,ア

リのプラスチックケース入り標本などを展示しま

した.

( 福 元 し げ 子  〒 890–0065  鹿 児 島 市 郡 元

1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館 Tel: 099–

285–7257; fax: 099–285–7267)

鹿児島大学総合研究博物館第 5 回学内コンサート. 鹿児島大学総合研究博物館第 8 回特別展「小さなアリの大きな世界」ポスター.

Page 98: KagoshimaNature_vol36_lite

96

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 INFORMATION

 2009 年(平成 21 年)は本会当番で第 40 回九

州合同植物観察会を「県民の森,霧島中岳」中心

に 147 名参加者があり開催した.また,夏の観察

旅行は伊吹山と葦毛湿原(滋賀県,愛知県)で行っ

た.各月の主な活動は次の通りである.

 1 月総会:1)平成 20 年度会務及び会計報告,2)

平成 21 年度観察会予定の審議,3)九州合同大会

の審議,4)研究発表(川原,平田).

 2 月:竹山~フラワ-パ-クでタマシダ,ヒト

ツバ,イワヒバ,ソテツ,クスドイゲ,ハマビワ,

サツマサンキライ,ハマサルトリイバラ,ハマヒ

サカキ,ハマキイチゴ,ウスベニニガナ,アツバ

スミレ,キキョウラン,ソナレノギク.

 3 月:亀ヶ丘でコゴメイワガサ,アラゲサクラ

ツツジ,コツクバネウツギ,マルバアオダモ,ア

カガシ.

 4 月;県民の森「自然薬草の森」,霧島中岳九

州合同大会事前調査.

 5 月:霧島中岳で事前調査ミズナラ,シロモジ,

ノリウツギ,カマツカ,ツクシイヌツゲ,イヌツ

ゲ,アオハダ,キリシマグミ,ネジキ,ヤマボウ

シ,コバノクロズル,イソノキ,リョウブ,タン

ナサワフタギ,ミヤマキリシマ,フクオウソウ,

ツリバナ,マイズルソウ,ツクシコウモリ,キリ

シマヒゴタイ.

 5 月:16 ~ 17 日第 40 回九州合同植物観察会鹿

児島大会(県民の森,霧島中岳)に会員 19 名参加.

 6 月:諸正岳でナガバハエドクソウ,シンミズ

ヒキ,モチノキ(実),サカキ(花),ヒメビシ(池

の中),サツマスゲ,(帰路)帆ノ港海岸でハマヒ

ルガオ,コウベギク,ハマゴウ,ネコノシタ,コ

ウボウムギ,ケカモノハシ,マユミ,コクテンギ,

テリハノイバラ,オオバウマノスズクサ,テリハ

ツルウメモドキ.

 7 月:24 ~ 26 日 2 泊 3 日伊吹山観察旅行 14 名

参加.

 8 月:六郎館岳でヤワラシダ,フユノハナワラ

ビ,ミヤマノコギリシダ,シラガシダ,イワヒメ

ワラビ,ナチシダ,ツタウルシ,ツルマサキ,ナ

タオレノキ,モチノキ,ヒメシャラ,ウラジロガ

シ,ミヤマトベラ,スズコウジュ,ナベワリ.

 9 月:矢岳でオオマルバノテンニンソウ,ツク

シコウモリ,ツルリンドウ,ヤマボウシ,イタヤ

ヤエデ,ヒメノキシノブ,シノブ.

 10 月:間根ヶ平でホオノキ,ウリハダカエデ,

キガンピ,アオハダ,ヨグソミネバリ,アカマツ,

アスナロ(植栽),ウラギンツルグミ,シコクマ

マコナ,ツルリンドウ,チャボホトトギス.

 11 月:混岳でフユノハナワラビ,ベニシダ,

オオカグマ,カギカズラ,ヤマモガシ,カンコノ

キ,チシャノキ,クマノミズキ,クマノミズキ,

イチヤクソウ,フデリンドウ,キッコウハグマ,

ナギラン,コクラン,ナキリスゲ,シラスゲ,

 12 月:日笠山でリュウビンタイ(大群落),オ

ニトウゲシバ,フユノハナワラビ,フユザンショ

ウ,ヤッコソウ,ウラジロガシ,バクチノキ,ボ

ロボロノキ,オカウコギ,ナギラン,コクラン等

が主な観察植物であった.

当会に入会ご希望の方は下記の事務局まで問

い合わせ下さい.

(細山田三郎 〒 890–0052 鹿児島市上之園町

10–2 Tel: 099–254–1605)

鹿児島県地学会は地学に興味・関心があった

り,地学をテーマに研究したりする者の集まりと

鹿児島県地学会

Nature of Kagoshima 36: 96–97

鹿児島植物同好会の活動(2009年)

Nature of Kagoshima 36: 96

図 1.オオヤグルマシダ.湯之(桜島).2007 年 12 月 16 日,細山田三郎撮影.

Page 99: KagoshimaNature_vol36_lite

97

INFORMATION Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

して昭和 28 年に創立しました.現在 150 名ほど

の会員を擁し,年 2 回の講演会及び例会,そして

春と秋の地質見学会を開催しています.また,会

誌を発行し,会員相互の地学情報の交換を行うな

ど,地学の普及活動に努めています.

今年度より鹿児島県地学会の Web サイトを試

験的に開設しました.是非ご覧下さい.

鹿児島県地学会 http://kagosimatigakukai.web.fc2.com/

〈2009年の活動状況〉

■〔講演会・総会〕

日時:6 月 20 日(土)

場所:鹿児島大学教育学部

講演会

 1「7 月 22 日の日食で見られる地学現象」― 前

田利久(鹿児島県立博物館)

 2「種子島中部に分布する増田層の層序学的研

究・古環境学的研究」― 久保田亮(鹿児島大学

理工学研究科大学院生)

■〔地質見学会〕悪天候のため中止

■〔秋の例会〕

日時:11 月 28 日(土)

場所:鹿児島大学教育学部

講演会

 1「鹿児島湾の堆積環境と最近の環境変化」―

大木公彦(鹿児島大学総合博物館) 

 2「日本列島とその周辺の長頚竜化石~長島町

獅子島の長頚竜化石の意義」― 仲谷英夫(鹿児

島大学理工学部研究科)

学習会

 ・ジオパークの取組について ― 岩松 暉

■ 〔地質見学会〕

日時:11 月 29 日(日)

場所:鹿児島市郡山町周辺の地質

案内:内村公大(鹿児島大学理学部研究生),鈴

木敏之(鹿児島県立博物館)

 鹿児島市郡山地区の地形・地質,特に約 250 万

年前の湖成層(郡山層)の観察,茄子田安山岩類,

熱水変質した郡山層(黄鉄鉱,粘土鉱物(スメク

タイト),沸石等の観察を行いました.

■〔会誌第 95 号〕

 ・鹿児島県赤石鉱山の漣痕化石 ― 浦嶋幸世・

大木公彦・山﨑辰男・根建心具・内村公大

 ・種子島西之表市に分布する形之山層の化石と

堆積環境 ― 八板舞子 ・ 濱尾歩美 ・ 若松斉昭

 ・地下壕内のクラスティックダイクと露頭の活

用 ― 大木公彦・中島一誠・内村公大

 ・鹿児島県の地震と活断層 ― 井村隆介

 ・地学現象を身近に感じることができる教材集

について(提案)― 山下 覚

 ・天然記念物に指定された鹿児島市西佐多町の

吉田貝層 ― 大木公彦

■〔会誌第 96 号〕

 ・元鹿児島県地学会々長故石川秀雄先生のご逝

去を悼む ― 乙須 稔

 ・早坂祥三先生を偲ぶ ― 大塚裕之

 ・桜島の火山地形および活動史-石川秀雄先生

を偲んで ― 泊 芳英

 ・高等学校教育における地学 I・II の選択者数

の現状と今後の課題 ― 坂本昌弥

 ・開聞岳山麓の花瀬という地名 ― 成尾英仁

 ・(旅行記)新緑の神々の山里を訪ねる旅 ― 中

村眞人

 ・(露頭紹介)伊佐市大口平出水の加久藤火砕

流堆積物 ― 成尾英仁

 鹿児島県地学会事務局:鈴木・前田

            (鹿児島県立博物館内)

(鈴木敏之 〒 892–0853 鹿児島市城山町 1–1

鹿児島県立博物館 Tel: 099–223–6050; fax: 099–

223–6080)

郡山層の露頭観察を行う参加者.

Page 100: KagoshimaNature_vol36_lite

98

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 INFORMATION

1.組織改編

平成 22 年度より,環境部より環境林務部とな

ります.

2.H22 年度の主な動き

○自然公園ふれあい全国大会の開催

11 月 13 日及び 14 日に同大会を実施します.

自然に対する理解を深め自然を大切にする心を育

む「自然に親しむ運動」の趣旨に則り,霧島屋久

国立公園の公園内及びその周辺地域を会場に,環

境省,県,関係市町及び(財)国立公園協会等に

より大会実行委員会を組織して開催します.

13 日(土)

式典,レセプション,パネル展示等を霧島国

際音楽ホールを中心に実施.

14 日(日)

関係 7 市町の小中学生によるこども自然環境

学習発表会,ワークショップ,シンポジウム等を

県民交流センター等で実施.

また,地域イベントや関連するイベントを適

宜開催する予定.詳しくは県の HP をご覧下さい

(近々,専用の HP も開設予定).

○鹿児島県の環境白書の刊行

H22 年は 11 月に名古屋で生物多様性条約国会

議が開催されることもあり,巻頭カラーは鹿児島

の生物多様性特集です.

○絶滅のおそれのある野生動植物関連

今年から 3 カ年の計画で,絶滅のおそれのあ

る野生動植物に係る簡単なワークショップやパン

フ作成等普及啓発事業を NPO と共同で実施しま

す(提案公募型).

今年度は奄美ですが,順次,県内全地域で実

施する予定としています.

○奄美群島自然共生事業

世界自然遺産の早期登録に向けた取組を継続

します.

・希少野生植物盗掘対策,ノイヌ・ノネコ対策

・エコツーリズム推進人材育成事業

 公開講座の開催,推進会議開催,パンフレット

の作成など

・ヤギ被害防除対策事業

捕獲目標頭数 190 頭です.

・自然への配慮ガイドライン

H21 年度に作成した自然への配慮ガイドライン

について,ハンドブックを作成し配布します.

○ツル類とウミガメ類

例年同様,個体数モニタリングその他の事業

を実施します.

○県本土のマングース対策

 分布調査を継続するとともに,これまでの捕獲

実績を基に,罠設置の密度を変える等により防除

作業の効率化と強化を図る予定です.

 目撃情報等あれば,引き続きご提供願います.

○屋久島環境文化財団からの調査支援

今年度より,同財団で屋久島での研究・調査

費用について助成を開始します.詳しくは財団の

HP を参照下さい.

(曽宮和夫 〒 890–8577 鹿児島市鴨池新町

10–1 鹿児島県自然保護課 Tel: 099–286–2610;

fax: 099–286–5546)

鹿児島県自然保護課の動き

Nature of Kagoshima 36: 98

Page 101: KagoshimaNature_vol36_lite

99

BUSINESS REPORTS Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

■会誌「Nature of Kagoshima」

 1962 年に発足した鹿児島県自然愛護協会は,

1975 年から年会誌「自然愛護」を発行してきま

した.2007 年 3 月に発行された「自然愛護 33」

が最終号となり,2007 年度から「自然愛護」を

引き継ぐかたちで「Nature of Kagoshima(別名:

カゴシマネイチャー)」を発行しています.

 「Nature of Kagoshima」は,「自然愛護」と同様

に白黒印刷で冊子体が発行されます.しかし前者

ではフルカラーのオンラインバージョン(PDF)

も同時に発行しています.本協会のホームページ

から会誌を閲覧あるいはダウンロードすることが

できます.

 協会 HP:http://www.kagoshima-nature.org/

■会誌バックナンバーの購入

 会誌「自然愛護」のバックナンバーは,鹿児島

市都通り電停近くの「あづさ書店西駅店」にて販

売しております.各号 520 ~ 730 円.21 号以前

は品切れのため,複写となります.これまでのタ

イトルは下記の「あづさ書店西駅店」HP(http://

www4.synapse.ne.jp/nishiekiten/)に掲載されてい

ます.

 会誌「Nature of Kagoshima」のバックナンバー

は,鹿児島大学郡元キャンパス生協と事務局にて

販売しております.最新号は 1,000 円,バックナ

ンバーは 500 円で購入可能です.

■電子メールアドレス登録のお願い

 当協会からの助成金や原稿募集,その他自然に

関する情報の案内は,通常電子メールで行います.

会員のみなさまは電子メールアドレスの登録をお

願いします.事務局に「氏名」を書いたメールを

送って下されば登録致します.

事務局 E-mail: [email protected]

■会費の納入方法

 同封のゆうちょ銀行振込用紙通信欄に必要事項

を記入の上,会費を納入して下さい.また,ゆう

ちょ銀行にて下記の口座に直接入金されても結構

です.

 個人会員―会費 1,000 円.会誌 1 冊を受け取れ

ます.また,会誌に投稿することができます.

 団体会員― 会費 4,000 円.会誌 4 冊を受け取

れます.また,会誌に活動記録や宣伝を投稿する

ことができます.

 賛助会員―会費 10,000 円(個人),100,000 円(団

体・企業等).本協会の活動趣旨に賛同する個人

および団体.会誌に論文や活動報告を投稿するこ

とができます.団体の会員はさらに,会誌に 1 頁

の宣伝を掲載することもできます.

 ゆうちょ銀行振替口座:01790–0–89973

 加入者名:鹿児島県自然愛護協会

 昨年度から会費は前納制になりました.本誌に

同封されている振込み用紙に記載されている金額

をご入金下さい.当協会の運営は皆様の会費によ

り成り立っております.会費の納入をよろしくお

願い致します.

■入会案内

 当協会に入会を希望する方は,協会ホームペー

ジ(http://www.kagoshima-nature.org/)で入会登録

を行って下さい.インターネットにアクセスでき

ない方は,以下の情報を記入したハガキあるいは

ファックスを事務局にお送り下さい.

①氏名 ②住所

③所属 ④電話番号

⑤ファックス番号 ⑥会員区分(個人・団体・賛助)

⑦専門または関心のある分野

            ※① , ② , ④ , ⑥は必修記入事項

事務局:

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30

鹿児島大学総合研究博物館内

鹿児島県自然愛護協会事務局

鹿児島県自然愛護協会 2009年度会記

Nature of Kagoshima 36: 99–101

Page 102: KagoshimaNature_vol36_lite

100

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 BUSINESS REPORTS

■会員名簿(2010 年 3 月 31 日現在)

個人会員(116 名)

 2009 年度の退会会員 2 名:金城ひろ子・児島

正憲(敬称略)

 2009 年度の新規会員 14 名:今吉 努・岩坪洸樹・

太田竜平・大橋祐太・川村信和・曽宮和夫・寺田

仁志・中島俊郎・藤井俊介・藤田宏之・松山みち

子・山下真弘・山田島崇文・山本敏博(敬称略)

 継続個人会員 104 名の名簿は「Nature of Kago-

shima, vol. 35」に掲載されています.会員名簿へ

お名前の掲載を希望しない会員の方は,事務局へ

ご連絡下さい.

団体会員(22 団体)

大隅の照葉樹林を世界遺産にする会・鹿児島県環

境技術協会・鹿児島県地学会・鹿児島県天文協会・

鹿児島県ホタルを育てる会・鹿児島県野生生物研

究会・鹿児島昆虫同好会・かごしま市民環境会議・

鹿児島植物同好会・鹿児島大学総合研究博物館・

鹿児島渚を愛する会・環境教育 NPO 法人くすの

木自然館・環境省屋久島自然保護官事務所・クリー

ンアップかごしま事務局・斯文堂(株)・住友金

属㈱菱刈鉱山・ダイビングサービス海案内・南方

新社・メダカの学校・屋久島自然案内「森と海」・

屋久島野外活動総合センター(有)・屋久島ヤク

タネゴヨウ調査隊(五十音順)

賛助団体会員(2 団体)

 新和技術コンサルタント 株式会社

 株式会社 丸建技術       (五十音順)

■鹿児島県自然愛護協会 2009 年度役員

 会長:浦嶋幸世

 理事:鮫島正道(組織担当)

 理事:船越公威(行事担当)

 理事:本村浩之(編集担当)

 理事:原崎 森(web 担当)

 理事:日高正康(会計担当)

 理事:藤枝 繁(事務局長)

 監査:曽根晃一・東 政能

■原稿募集のお知らせ

 「Nature of Kagoshima, vol. 37」の原稿を募集い

たします.下記の投稿規定にしたがって原稿を作

成し,編集部にメールか CD でお送り下さい.締

切りは 2011 年 3 月 1 日(必着)です.団体会員

のみなさまも 2010 年度の活動報告などを積極的

にご投稿下さい.

■表紙・裏表紙写真の募集

 Nature of Kagoshima は,毎年会誌の表紙写真が

替わります.鹿児島の自然や生物の写真で,表紙

を飾るにふさわしいカラー写真を募集致します.

また,裏表紙には,掲載された研究論文・総説に

関わる写真が掲載されます.論文を投稿される著

者で,裏表紙の候補となる写真をお持ちの方は,

投稿時に写真もお送り下さい.表紙・裏表紙用の

写真は,JPEG か TIF 形式で保存した高解像度の

デジタル写真に,400 字程度の解説を付けて,

2011 年 3 月 31 日までに事務局にお送り下さい.

複数の応募があった場合,事務局で掲載の可否を

決定致します.

■投稿規定

 本文や引用文献の体裁は自由ですが,Nature of

Kagoshima の最新巻を参考に,以下の点に留意し

て原稿の作成・投稿を行って下さい.

①数字や英語はすべて半角で入力して下さい.

②文章は MS Word あるいは一太郎で作成し,表

は別ファイルで上記ソフトを使用して作製して下

さい.

③図や写真は高解像度の JPEG か TIF(最低でも

300 dpi,幅 10 cm 程度)で保存し,文章ファイル

には組み込まずに,個別に送付して下さい.

④本文は原則日本語です.著者の氏名,住所・所

属,論文タイトルは,日本語と英語の両方を記入

して下さい.英語のタイトルは,依頼により編集

部で作成します.

⑤原稿,図,表はすべてデジタルで投稿願います.

スキャンする必要がある図については,編集部で

デジタル化を代行しますので,ご連絡下さい.

⑥個人投稿の場合,1 論文あたりの頁数に制限は

Page 103: KagoshimaNature_vol36_lite

101

BUSINESS REPORTS Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

ありません.印刷で 4 頁までが無料で,5 頁目か

らは 1 頁ごとに 3000 円の超過頁掲載料が必要で

す(会員 2 名が共著で論文を発表する場合でも 5

頁目から超過頁掲載料が掛かります).団体会員

による投稿の場合は,1 頁が無料です.

⑦各論文の PDF はフルカラーですが,印刷は原

則白黒です.しかし,著者負担でカラー印刷もで

きますので,投稿時にカラー印刷を希望する図や

写真をご指示下さい.カラー印刷 1 ページで 3 万

円,隣接する 2 ページで 5 万円です.

■別刷り

 研究論文や総説を投稿した個人会員には,各論

文の PDF 別刷り(カラー)を無料でお送りします.

紙に印刷された別刷り(白黒印刷・カラー印刷)

は論文の頁数に関わらず,50 部単位で以下の金

額で購入することが可能です.印刷別刷りは 1 部

毎に論文タイトルと著者名が印刷された表紙が付

きます.購入希望者は,原稿の投稿時に編集部へ

ご連絡下さい.なお,会誌出版後の別刷りの注文

(追加注文を含む)はできません.

 別刷りは,私費,公費のどちらでも購入が可能

です.別刷りは,会誌出版後に斯文堂株式会社よ

り直接著者に郵送されます.支払い方法の案内(例

えば,公費で注文した場合は,見積り・請求・納

品書)が同封されていますので,案内にしたがっ

て,入金をお願い致します.

 印刷別刷り金額表

 050 部  5000 円

 100 部  6000 円

 150 部  7000 円

 200 部  8000 円

 (200 部以上も 50 部追加ごとに 1000 円追加)

(本村浩之)

Page 104: KagoshimaNature_vol36_lite

102

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010 BUSINESS REPORTS

Nature of Kagoshima Vol. 36カゴシマネイチャー 36 巻

 2010 年(平成 22 年)3 月 31 日 発行

 編集者 本村浩之(鹿児島大学総合研究博物館)

 発行者 鹿児島県自然愛護協会

     〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30

     鹿児島大学総合研究博物館内

     鹿児島県自然愛護協会事務局

     TEL: 099–286–4252 FAX: 099–286–4255

 印刷所 斯文堂株式会社

     〒 892–0838 鹿児島市南栄 2–12–6

     TEL: 099–268–8211 FAX: 099–269–5198

 © 鹿児島県自然愛護協会 2010  ISSN 1882–7551

編集後記

 「自然愛護」から引き継いだ新会誌「Nature of Kagoshima」の 3 回目の発行になります.

今年度も鹿児島県の企業 2 社が賛助団体会員として協会の支援をして下さり,また,個人会

員の積極的な寄稿のおかげで今回は 104 頁の質・量ともに充実した会誌を発行することがで

きました.協会ホームページから掲載論文が無料で閲覧できることもあり,本誌の知名度は

年々高くなっています.来年度も会員のみなさまの自然に関する貴重な調査結果やご意見の

投稿をお待ちしております.

 今年度からの新しい試みとして,著者負担ですが,カラー印刷も行えることになりました

(詳しくは本誌 p. 101 をご覧下さい).投稿者のみなさま,是非カラー印刷をお試しください.

(編集担当理事 本村浩之)

Page 105: KagoshimaNature_vol36_lite

103

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

株 式 会 社 丸 建 技 術本   社 〒893-0031 鹿児島県鹿屋市川東町8021-4

TEL 0994-42-7030 FAX 0994-42-7031高山営業所 〒893-1207 鹿児島県肝属郡肝付町新富1293-1

TEL 0994-65-0510 FAX 0994-65-1200

土木工事調査測量設計・工事費積算及び積算資料販売測   量   業 登 録 第(6)12326号建設コンサルタント 登 録 建19第7678号http://www.osumi.or.jp/maruken/[email protected]

  好評発売中!  丸建積算システム 標準単価表 早見表

ふるさとの自然をみつめよう

ISO9001認証登録

植物調査(水田) 鳥類調査

魚類調査

小動物調査

トノサマガエル

肝属川河口部

カヤネズミ

  ジョウビタキ

ギンヤンマコガタノゲンゴロウ

ウナギ

メダカ

アオアシシギ

ススキ群落

サデ網

はえなわ投 網

底生動物調査

定量採集

定性採集

植物調査(ワンド)

ホテイアオイ

コサギ

ノスリ

ミサゴ

ホオジロ

Page 106: KagoshimaNature_vol36_lite

104

Nature of Kagoshima Vol. 36, Mar. 2010

Page 107: KagoshimaNature_vol36_lite

目 次

Articles徳之島におけるイボイモリ Tylototrion andersoniの生態とロード・キルの保全対策 岡崎幹人・中村麻理子・鮫島正道 1

沖永良部島におけるセイタカシギの繁殖生態―九州での初記録― 中村麻理子・鮫島正道 11

希少カニ類 2種の種子島と屋久島における初記録 永江万作・鈴木廣志・藤田喜久・組坂遵治・上床雄史郎 19

鹿児島県の巨木―特に大隅半島高野国有林で新たに発見された巨木群について― 鈴木英治・中園遼平 23

自然保護の新しい展望 田中俊徳 29

映画「砂の道の向こう」で伝えたいこと 柳田一郎 33

鹿児島県本土産ムヨウラン属(Lecanorchis Blume)植物の記録 丸野勝敏 37

鹿児島県笠沙沖から得られたカンムリブダイ Bolbometopon muricatum(ベラ亜目:ブダイ科)の記録 荻原豪太・吉田朋弘・伊東正英・山下真弘・桜井 雄・本村浩之 43

海岸漂着物処理推進法制定と鹿児島県における今後の対策 藤枝 繁 49

鹿児島県初記録のヨウジウオ科ウミヤッコ Halicampus grayi 太田竜平・伊東正英・本村浩之 57

日本初記録から半世紀ぶりに確認されたベニアミゴロモ Dictyurus purpurascens Bory de Saint-Vincent(紅色植物門イギス目) 土屋勇太郎・寺田竜太 61

鹿児島県から得られたミヤケテグリ Neosynchiropus moyeri(ネズッポ科:コウワンテグリ属)および標本に基づく鹿児島県のネズッポ科魚類相 岩坪洸樹・本村浩之 65

鹿児島県九州沿岸から得られたヒメ目エソ科のヒトスジエソ Synodus variegatusの記録 川村信和・伊東正英・本村浩之 75

上甑島汽水湖群の魚類相およびニクハゼ Gymnogobius heptacanthus(スズキ目ハゼ科)の記録 松沼瑞樹・米沢俊彦・本村浩之 79

オオメワラスボ科魚類 Navigobius dewaモモイロカグヤハゼ(新称)の生息状況 出羽慎一・出羽尚子・本村浩之 89

Information鹿児島昆虫同好会(熊谷信晴) 93鹿児島大学総合研究博物館(福元しげ子) 94鹿児島植物同好会の活動(2009年)(細山田三郎) 96鹿児島県地学会(鈴木敏之) 96鹿児島県自然保護課の動き 98

Business Reports鹿児島県自然愛護協会 2009年度会記(本村浩之) 99

【表紙写真】略奪!陸上では桜が散り始めた頃,屋久島の海中ではコブシメの産卵がピークを迎える.20匹くらいのコブシメが産卵床となるウスサザナミサンゴの周りに集まり,大産卵を繰り広げている.サンゴ上では数匹のメスが産卵していたかと思うと,そのすぐ近くではオス同士がメスを巡り喧嘩の真っ最中.その間隙を縫って別のオスが産卵中のメスを強引に誘い出し,交接を迫る(写真).屋久島のウスサザナミサンゴの上はこの時期,無法地帯と化す.

(写真・文:原崎 森 屋久島ダイビングサービス「森と海」)

Nature of Kagoshima Vol.36 2010

【裏表紙写真】セイタカシギの子育てチドリ目セイタカシギ科鳥類のセイタカシギは,桃色の細長い脚と黒色の細長い嘴もつことで特徴づけられる.世界中の熱帯から温帯に広く分布し,日本には主に旅鳥として渡来するが,近年絶滅が危惧されている.沖永良部島で撮影されたこの写真は,九州地域において初めて確認されたセイタカシギの繁殖記録である.

(写真・文:中村麻理子 鹿児島県野生生物研究会)

Page 108: KagoshimaNature_vol36_lite