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経済産業省 平成25年度産業金融システムの構築及び整備調査委託事業 買収後の統合作業を見据えたM&A業務プロセスの調査・研究と M&A疑似体験研修プログラムの作成 報告書 平成26年2月 受託者:株式会社マーバルパートナーズ

買収後の統合作業を見据えたM&A業務プロセスの … I. 本事業の概要 1. 本事業の背景 我が国産業の競争力強化や国際展開に向けた成長戦略の具現化と推進は、喫緊の課

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経済産業省 平成25年度産業金融システムの構築及び整備調査委託事業

買収後の統合作業を見据えたM&A業務プロセスの調査・研究と

M&A疑似体験研修プログラムの作成

報告書

平成26年2月

受託者:株式会社マーバルパートナーズ

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目次

I. 本事業の概要 ...................................................................................................................... 3 1. 本事業の背景 ............................................................................................................... 3 2. 本事業の目的 ............................................................................................................... 4

II. In-Out 型M&A事例における実態の把握と課題の整理 .................................................. 6

1. 本研究のアプローチ .................................................................................................... 6 2. 日本企業による In-Out 型 M&A の動向 ..................................................................... 6 3. 課題の抽出1(アンケート調査の結果から) ............................................................ 9 4. 課題の抽出2(平成24年度高度金融人材産学協議会 中間報告での議論から) .. 13 5. 課題の抽出3(JTによる買収案件に係るインタビュー調査から) ...................... 17 6. 課題の整理を踏まえた研修プログラムにおけるフォーカス .................................... 21

III. M&A疑似体験研修プログラムの作成・実施 ............................................................. 24

1. 本研修プログラムの趣旨(問題意識)と特徴 .......................................................... 24 2. JTを題材としたことの狙い/特別ゲストの意義 ................................................... 25 3. プログラム実施の概要 ............................................................................................... 25 4. 研修プログラムを通じたキー・クエスチョンと狙い ............................................... 25 5. 特別ゲストからの体験談及び受講者へのメッセージ ............................................... 29

IV. M&A疑似体験研修プログラムの結果総括 .................................................................. 32

1. 受講者アンケート ...................................................................................................... 32 2. 受託者として得られた示唆(実施後の個別企業ヒアリング等も踏まえて) ........... 35

V. 今後の In-Out 型M&Aのあり方に係る示唆 ................................................................. 37 別紙1 M&A疑似体験研修プログラム(本編) 別紙2 M&A疑似体験研修プログラム 実施後アンケート項目

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I. 本事業の概要

1. 本事業の背景 我が国産業の競争力強化や国際展開に向けた成長戦略の具現化と推進は、喫緊の課

題であるところ、M&Aは、日本企業が需要減の見込まれる国内市場から需要増の見

込まれる海外市場等へ進出する効率的な手段として、我が国産業の成長戦略にとって

欠かすことのできないものと位置付けられる。近年、潤沢な手元資金や良好な資金調

達環境も加わり、日本企業による In-Out 型M&Aの件数は顕著に伸びている。(図表

I-1) 図表 I-1:

しかしながら、In-Out 型M&Aの成功例は多くはないといわれることもあり、特に、

ポストM&Aフェーズにおける統合作業(PMI)等に課題があるとの声が強い。他

方で、統合作業での苦労ないし失敗がそれ以前の段階の検討作業・買収作業に起因す

ると考えられる例もあるとされ、買収目的の明確化、対象企業の絞込み、デューディ

リジェンス、バリュエーションといった作業の段階から統合作業を見据えておくこと

の重要性も指摘されている。 一般的に、M&Aは、迅速な対応を求められる複雑な取引で、経験・ノウハウが重

要な意味を持つにも関わらず、巨額の取引であるがゆえに案件機会は相対的に少なく、

投資の意思決定に関わる取締役等が個人として多くの案件を経験し、ノウハウを組織

的に蓄積することが難しい。特に、プレM&Aフェーズ及びポストM&Aフェーズで

は、外部の専門家から得られる助力にも限界がある。 以上に鑑み、我が国産業の競争力強化や国際展開に向け、日本企業の In-Out 型M

&AのプレM&Aフェーズ及びポストM&Aフェーズの業務プロセス及び意思決定プ

ロセスの質を高める必要がある。

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2. 本事業の目的 前述の背景を踏まえ、本事業では、 ① In-Out 型M&Aの業務プロセス・意思決定プロセスにおける日本企業の課題に

ついて実態を把握し、プロセス毎に課題を整理した上で、日本企業のM&A担

当者等(※)を対象に、In-Out 型M&Aの一連の業務プロセス・意思決定プロ

セスを擬似的に体験できるようなプログラムを作成・実施すること ② 前項を通じて整理された課題、研修プログラムを実施した結果を踏まえ、今度

の日本企業の In-Out 型M&Aのあり方について見解をまとめること を目的として、以下の3点について、調査・研究等を実施した。

(※)本事業において「M&A担当者等」とは、現在又は今後、買手側企業でM&A

の検討作業、買収作業、統合作業といった業務プロセスでの意思決定を担当す

る可能性のある者を指し、一般的には大企業であれば部課長級~執行役員級を

想定している。以下同じ。 (a) In-Out 型M&A事例における実態の把握と課題の整理(⇒第Ⅱ章にて詳述)

In-Out 型M&Aの経験を有する日本企業として、特に、日本たばこ産業株式

会社(JT)の買収事例ほかを対象として、その取り組み状況、実際に直面し

た課題や克服のための留意点について、調査・研究を行い、実態を把握した。

(b) M&A疑似体験研修プログラムの作成・実施(⇒第Ⅲ章にて詳述) 上記(a)で整理された課題を踏まえ、M&A担当者等を対象とした研修プログ

ラム(本プログラム)を作成した。本プログラムの作成に当たっては、JTの

買収案件、とりわけ Gallaher 社の買収事例(2007年公表)を題材に戦略か

ら統合までのM&Aの一連のプロセスを擬似的に体験することを目的とし、プ

レM&AからポストM&Aまでの一連の業務プロセスを網羅しつつ、買い手側

企業の視点から、特にポストM&Aフェーズに、次いでプレM&Aに重きを置

いた内容とした。 本プログラムを用いた研修会(4時間コース)を、主に大企業の部課長級~

執行役員級18名(5チーム)を対象として、2013年12月に実施した。

(c) M&A疑似体験研修プログラムの結果総括(⇒第Ⅳ章にて詳述) 本プログラムの実施後、受講者からのアンケートの回収・分析、及び一部受

講者に対しては個別ヒアリングを実施し、意見交換・情報収集を行った。 次章以降、上記の(a)~(c)の順に、調査検討結果の詳細を説明していき、第Ⅴ章にて、

今後の In-Out 型M&Aのあり方(社内における体制整備、外部の専門家の関与、M&

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A能力開発のあり方、等)について、受託者としての見解をまとめた。 なお、本事業の実施(実態の把握と課題の整理、研修の作成、試行実施)に当たっ

ては、高度金融人材産学協議会(事務局:経済産業省 経済産業政策局 産業資金課)

の会員企業の皆様より、本試行実施への受講者をご推薦頂くと共に、昨年11月の平

成25年度同協議会(第1回研究会)での検討に加え、個別にも意見を頂戴した上、

メリルリンチ日本証券株式会社からは課題作成の材料として当時のアナリストレポー

トをご提供いただいた。 また、一橋大学大学院の伊藤友則教授には、JT を題材としたビジネス・ケースの本

事業の利用に便宜を図って頂くとともに、研修プログラムへも貴重なアドバイスを頂

戴した。JT新貝副社長には研修プログラム作成に際しての多数回のインタビューに

応じて頂くとともに、特別ゲストとしてご登壇いただき、本事業に極めて重要なご協

力をいただいた。そのほか、各方面からも多大なご助力を賜り、御礼申し上げる。

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II. In-Out 型M&A事例における実態の把握と課題の整理

1. 本研究のアプローチ 本研究においては、定量的な情報によるアプローチとして、受託者が過去に日本C

FO協会と共同で実施した、上場企業CFO層に対するアンケート結果(※詳細後記)

に基づいた。この調査では、海外M&Aについて「経験が浅い層」と「経験が豊かな

層」とに分けて、今後対処すべき課題等を抽出している。 加えて、定性的な情報によるアプローチとして、受託者がその検討・とりまとめに

際して賛助させて頂いた平成24年度高度金融人材産学協議会(事務局:経済産業省

経済産業政策局 産業資金課)による「海外M&A(PMI等)研究・中間報告」の

内容を基礎とさせて頂いた。その上で、In-Out 型M&Aの経験を有する日本企業とし

て、特に、日本たばこ産業株式会社(JT)の買収事例ほかを対象として、その取り

組み状況、実際に直面した課題や克服のための留意点について、JTの代表取締役副

社長である新貝康司氏に対するインタビュー調査・研究を行い、実態を把握した。 なお、当該インタビューに際して、JTによる公開情報(新貝氏による過去の講演・

対談記事の内容等を含む)、JTに関するビジネス・ケース2件(「日本たばこ産業株

式会社:巨大国内企業のグローバル化(A)・(B)」一橋大学大学院国際企業戦略研究

科 伊藤友則教授 作成)などを、前提情報として活用した。

【参考】 アンケート実施概要及び調査対象群プロファイル

≪調査概要≫

・実施: 日本 CFO 協会 (調査企画・分析:株式会社マーバルパートナーズ)

・調査対象: 上場企業の CFO

・調査方法: 無作為に抽出した上場企業 CFO500 人に調査票を送付

・回答者数: 94 社(回答率 18.8%)

・調査期間: 2012 年 10 月 26 日~2012 年 11 月 8 日

≪調査企業の基礎的プロファイル≫

・業種: 製造業 70%、卸売業 9%、サービス業 8%、小売業 7%、金融業 2%、その他 4%

・グループ売上高: 1 兆円以上 13%、1 兆円未満 19%、5,000 億円未満 39%、1,000 億円未満 26%、その他 3%

・海外売上比率: 50%以上=23%、20%以上 50%未満=40%、10%以上 20%未満=14%、10%未満=18%、0%=5%

・グループ従業員数: 1 万人以上 39%、1 万人未満 20%、5,000 人未満 27%、1,000 人以下 14%

・グループ社数: 300 社以上 3%、300 社未満 16%、100 社未満 21%、50 社未満 39%、10 社未満 14%、5 社未満 7%

2. 日本企業による In-Out 型 M&A の動向

日本企業は、海外市場の顧客獲得やグローバルで戦える事業基盤を構築するために、

海外企業の買収に積極的になってきている。特に近年では、これまで蓄積してきた キ

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ャッシュの有効な活用先として、円高メリットを生かし、アジアを中心とした海外 企業に対する M&A を加速させた。取引金額ベースでも、2010 年以降 In-Out の M&A(日

本企業による海外企業の M&A)が、In-In(日本企業同士の M&A)を上回っている。

(図表Ⅱ-1)

図表Ⅱ-1:日本企業によるクロスボーダーM&A(In-Out)の動向

注1:取引金額とは普通株式、優先株式、負債の引継ぎ額、新株引受権等を含む 出所:Thomson Reuters

グローバル競争が激化し、ビジネス環境の変化スピードがますます速くなっている

ことに加え、日本企業が欧米企業と比較しても M&A を活用しきれていないことを鑑

みると、今後、日本企業による海外 M&A がさらに加速することは間違いない。 次に、日本企業がクロスボーダーM&A(In-Out)に対して、どのような認識で臨

んでいるか、上場企業の CFO 層に対して実施した前述のアンケート結果を紹介する。 なお、回答企業のプロファイルは、製造業が約7割、グループ売上高が 1,000 億円

以上の企業が約7割と大企業中心であり、M&A 件数(国内外問わず)についても5割

近くが3年前に比べ増加と回答するなど、海外 M&A の主役となるであろう層からの

回答が中心である。 まず、今後の海外 M&A に対する姿勢を質問したところ、8割以上が、優先的ある

いは比較的重要な課題として、取り組みに積極姿勢を示しており(図表Ⅱ-2:左図参照)、

今後3年以内に自社が新規に海外 M&A を行う可能性については、3分の2が具体的

な案件を探索中(または検討中)と回答している(図表Ⅱ-2:右図参照)。

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図表Ⅱ-2:日本企業による海外 M&A に対する姿勢

一方で、自社の海外 M&A への取り組み状況(経験)についての質問には「既に十

分な経験がある(5件超)」または「それなりに経験がある(3~5件)」と回答した

企業は半数に満たず、半数以上が未だ「あまり経験がない(1、2件)」または「全く

経験がない」等に留まっている現状にあることがわかる(図表Ⅱ-3 参照)。 本調査では、海外 M&A 経験を3件以上有している回答者群を「経験豊かな層」と

し、残りの、海外 M&A の「全く経験がない」または「あまり経験がない(1、2件)」

との回答者群を「経験浅い層」として定義し、以下「経験豊かな層」と、「経験浅い層」

の回答差異に着目しながら、日本企業が海外 M&A に際して直面している構造的課題

の抽出を試みた。

図表Ⅱ-3:自社の海外 M&A への取り組み状況(経験)

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次に、過去に実施した海外M&Aの成果認識に目を向けると、「期待どおりの成果を

挙げた」が事業戦略面で4%、財務指標面で4%、「期待以下だがそれなりの成果を挙

げた」が事業戦略面で19%、財務指標面で15%とあり、過去に実施した海外M&

Aが期待どおりの成果を挙げていないという傾向を読み取ることができる。(図表Ⅱ-4)

図表Ⅱ-4:過去に実施した海外 M&A についての成否認識 (海外 M&A 経験のない企業を除く)

もっとも、本項目については、無回答が53%を占めており、この無回答について

は、複数案件について一括して回答するのが難しかったことによるという見方もでき

るが、成果を検証する指標が十分に定義されていなかったことによる(少なくとも一

定程度含まれている。)という見方も成り立ち、その評価は分かれ得る。仮に、無回答

の理由が後者であるとすれば、後記Ⅱ-4 節「課題の抽出2(平成24年度高度金融人

材産学協議会 中間報告での議論から)」でも課題として挙げられる、「海外M&Aに係

るノウハウの蓄積・承継(形式知化)」に関連するものとも考えられる。

3. 課題の抽出1(アンケート調査の結果から) 本アンケート調査においては、前述のとおり、海外M&Aの経験が2件以下の回答

者群を「経験浅い層」、3件以上の回答者群を「経験豊かな層」として定義した上で、

海外M&A・PMIでの苦労、失敗、その要因及び重点課題について、各層の回答の

差異に着目して課題認識を分析した。 その結果の概要は、以下のとおりである。

(1) 苦労・失敗及びその要因について

過去に実施した海外M&A・PMIでの苦労・失敗及びその要因についての回答で

は、経験浅い層と経験豊富な層とでは傾向に一定の差異がみられる。すなわち、経験

浅い層では、回答が一般にPMIについてしばしば指摘される論点に広く分散してい

るが、経験豊富な層では、回答に一定の傾向が見られる。

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まず、①経験浅い層では挙がるものの、経験豊かな層では挙がらない傾向のものと

して、 (苦労・失敗)

・ 「会計基準の統一・差異の取扱い」

・ 「現地規制・税務・司法当局等からの法令違反摘発・指止措置」

・ 「対象企業従業員層のモチベーション低下」

・ 「報酬水準や評価制度等への不満による従業員流出」

・ 「想定外のディスシナジー(顧客離反、重要人材流出等) 発生」

(苦労・失敗の要因)

・ 「買収前の該当国特有の法制等への対処が不十分」

・ 「現地文化・慣習との相違への配慮に欠ける施策導入」

・ 「現地政府や財界と円滑な対話ができる人脈が不足」

・ 「海外M&A、PMIの知見を有するエース級人材投入が不十分」

・ 「買収前の事業DDの精度が不十分(値付けが甘い) 」

がある。これらの多くは、国外の制度や環境への対応、自社の制度の設計に係るも

ので、外部専門家の利用や経験の蓄積で一定程度解消し得る類いの課題として理解す

ることができ、少なくとも、日本企業が抱える構造的な課題ではないとみることがで

きる。 次に、②経験浅い層でも経験豊かな層でも挙がるものとして、

(苦労・失敗)

・ 「シナジー創出(売上増、コスト合理化等) 目標未達」

・ 「想定外の業績悪化の発生」

・ 「対象企業業績悪化時の対処能力の不足」

・ 「対象企業業績悪化時の原因把握の困難さ」

(苦労・失敗の要因)

・ 「買収後の現場オペレーション・組織把握の詳細度が不十分」

・ 「自社戦略を浸透させるコミュニケーション能力の不足」

・ 「自社戦略を浸透させるコミュニケーション機会の不足」

・ 「当該海外M&Aの戦略上の位置づけ明確化が不十分」

また、③経験浅い層では挙がらないものの、経験豊かな層では挙がる傾向のものと

して、 (苦労・失敗)

・ 「キーパーソンとの経営方針衝突」

(苦労・失敗の要因)

・ 「自社リソース投入方針が曖昧」

がある。

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これら(上記②③)の多くは、事業の業績に直接的に関わる事項であるか又は自社

の戦略・方針やコミュニケーションといった自社の経営姿勢を顧みるものといってよ

く、ガバナンスを機能させ、業績を維持・改善することが課題として強く認識されて

いる。ここでは、いかに当該海外M&A案件を位置付けるかという自社の海外M&A

戦略の問題と、いかに対象企業を経営するかという対象企業のガバナンスの問題とし

て理解しておきたい。(図表Ⅱ-5、Ⅱ-6) 図表Ⅱ-5:海外 PMI に際しての苦労・失敗(懸念・不安点)(複数回答)

図表Ⅱ-6:海海外PMIに際しての苦労・失敗の要因(複数回答)

22%

20%

42%

38%

44%

49%

44%

60%

40%

36%

51%

67%

62%

53%

64%

56%

16%

22%

9%

11%

13%

13%

18%

9%

27%

36%

22%

11%

16%

24%

16%

27%

7%

7%

7%

7%

7%

7%

7%

7%

7%

4%

4%

4%

4%

4%

4%

4%

100%

無回答

0%

重要な関連はない

40%

関連がある

27%

33%自社戦略を浸透させるコミュニケーション機会の不足 27%

買収前の該当国特有の法制等への対処が不十分

33%

買収後組織の管理・評価基準体系の設計が不十分 38%

フォーカス領域・運営体制等を含むPMIプラン準備不足 44%

買収後の現場オペレーション・組織把握の詳細度が不十分

自社戦略を浸透させるコミュニケーション能力の不足

買収前の事業DDの精度が不十分(値付けが甘い) 53%

M&A,PMIの知見を有するエース級人材投入が不十分 56%

対象会社事業運営に対する権限移譲が不十分

44%

80%60%

強い関連がある

20%

13%

16%

当該M&Aの戦略上の位置づけ明確化が不十分

現地政府や財界と円滑な対話ができる人脈が不足

22%

20%

人材リテンションに資するインセンティブや権限責任設計が不足

本社サイドでの意思決定の迅速性が不十分

16%

現地文化・慣習との相違への配慮に欠ける施策導入

16%キーマン退職等の非常事態に対する対処策検討が不十分

対象会社の成長を促す自社リソース投入方針が曖昧

13%

40%

45%

55%

45%

40%

40%

40%

55%

52%

29%

29%

17%

14%

29%

21%

50%

24%

31%

60%

31%

43%

43%

45%

24%

45%

38%

38%

45%

48%

29%

36%

43%

2%

2%

2%

2%

2%

2%

2%

2%

5%

2%

2%

2%

2%

2%

2%

7%

20%

14%

40%

関連がある

10%

7%

無回答 強い関連がある

60%80%

26%

29%

36%

26%

12%

17%

12%

7%

33%

24%

0%

29%

29%

100%

21%

重要な関連はない

経験浅い(海外M&A経験:なし又は2件以下)経験豊か(海外M&A経験:3件以上)

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(2) 海外PMIに取り組むうえで重点的に対処すべき課題

海外PMIに取り組むうえで重点的に対処すべき課題についての回答でも、経験浅

い層と経験豊富な層とでは一定の差異がみられ、同様の傾向が指摘できる。 すなわち、①経験浅い層では挙がるものの、経験豊かな層では挙がらない傾向のも

のとして、 (重点課題)

・ 「社内海外M&Aチームの機能強化」

・ 「本社・現地マネジメント間での責任権限所在の明確化、権限委譲の強化」

・ 「グローバルでの会計基準統一」

・ 「グローバル人材評価・登用制度の強化」

がある。 これらの多くも、自社の制度設計に関するもので、外部専門家の利用や経験の蓄積

で一定程度解消し得る類いの課題として理解することができる。 これに対し、②経験浅い層でも経験豊かな層でも挙がるものとして、

(重点課題)

・ 「自社戦略と海外M&A活用位置付け明確化」

また③経験浅い層では挙がらないものの経験豊かな層では挙がる傾向のものとして、

(重点課題)

・ 「本社トップマネジメントによる現地マネジメントとの対話」

・ 「グループ従業員間のグローバルコミュニケーション強化」

・ 「自社が提供可能な強い経営資源の明確化」

・ 「海外PMIプラン策定機能の強化」

・ 「自社の過去M&A経験の形式知化」

がある。 コミュニケーションに係る課題認識は、苦労・失敗及びその要因と同様であり、「自

社が提供可能な強い経営資源の明確化」、「海外PMIプラン策定機能の強化」は自社

の経営姿勢を顧みるもので、これらも苦労・失敗及びその要因と同様である。このほ

か、「自社の過去M&A経験の形式知化」は、経験豊富な層であるが故の課題と理解で

きる。(図表Ⅱ-7)

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図表Ⅱ-7:海外PMIに取り組む上で重点的に対処すべき課題(複数回答)

(3) 小括

以上をまとめるに、一般的な傾向として、日本企業の海外M&A・PMIに係る課

題認識は、①自社の海外M&A戦略、②対象企業のガバナンス(コミュニケーション

を含む。)に向いているといってよいように思われる。

4. 課題の抽出2(平成24年度高度金融人材産学協議会 中間報告での議論から) 本研究において基礎とさせて頂いた、平成24年度高度金融人材産学協議会による

「海外M&A(PMI等)研究・中間報告」において抽出された In-out 型M&A・P

MIに関する課題認識に係る定性的情報は、概ね前述のアンケート調査の結果による

定量的情報とも整合的であり、日本企業の In-out 型M&A・PMIの課題として、①

自社の海外M&A戦略、②対象企業のガバナンス(コミュニケーションを含む。)が挙

げられたほか、特に、③ノウハウの蓄積・承継(形式知化等)、④対象企業の経営者人

材の不足を挙げる声が目立った。このうち、④の対象企業の経営者人材の不足の問題

は、自社から派遣した経営者人材が対象企業をガバナンスできるかという②対象企業

のガバナンスの問題の一つと理解できよう。

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一般に、M&Aの業務プロセスは、①プレM&Aフェーズとして、M&A戦略・買

収目的の明確化、対象企業の選択肢の絞込み、コンタクト、②M&A(execution)フ

ェーズとして、基本合意書(秘密保持契約)、DD(Due Diligence)、バリュエーショ

ン、クロージング、③ポストM&Aフェーズとして、PMIに分解できる。 当該中間報告にて言及された、各段階(フェーズ)における主要な課題として挙げ

られたものとして、これを総括したものが以下の図表Ⅱ-8 であり、これらの課題こそ

が、本事業における In-Out型M&A事例における課題の整理となりうるものと考える。

図表Ⅱ-8:

以下に、各項目において、議論・把握された日本企業の実態とともに概観する。

(1) プレM&Aフェーズ(M&A戦略・買収目的の明確化)

プレM&AフェーズのM&A戦略策定の段階における課題として挙げられたものと

して、

・ 買収・統合後の事業のイメージに具体性がない

・ M&A案件についての投資銀行等からの情報を鵜呑みにしてしまう

といったものがある。

日本企業には、総論で海外M&Aを実施するという方針が定められ、資金が積み上

げられていても、各論で具体的な戦略が定められていない例が多く見られる。

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M&A戦略策定の段階における検討の不足、その結果としての買収・統合後の事業

のイメージの具体性の欠如は、ポストM&Aフェーズでの戦略・計画の不存在そのも

のであるばかりか、DDにおける焦点をぼやけさせ、重要事項を見落とすことにもつ

ながるもので、ポストM&Aフェーズに至って予期せぬ問題を現出させ得る。

M&A案件についての投資銀行等のFA(Financial Adviser)からの情報を鵜呑み

にしてしまうとの声も、その一態様と整理できる。一般論として、投資銀行の多くは、

その提案に係る対象企業の事業を必ずしも事業会社と同じ水準では理解しておらず、

買手の事業会社としては、自社の経営戦略・M&A戦略の観点から検討することが必

要不可欠である。

したがって、自社のM&A戦略・買収目的の明確化が重要な課題となるのである。

(2) M&A(execution)フェーズ

a.DD

前記(1)のとおり、DDにおける重要事項の見落としは、ポストM&Aフェーズで

予期せぬ問題を現出させることになるが、このようなDDでの見落としを避けるため、

DDにおける焦点を絞るには、自社のM&A戦略・買収目的が明確になっていること

を要する。

したがって、DDの課題は、自社のM&A戦略・買収目的の明確化の問題とも関連

するものとして理解することができる。

b.バリュエーション

対象企業のバリュエーションはM&Aにおける重要事項の一つであり、高値掴みは

M&Aにおける典型的な失敗といえる。

ところで、PMIの成否は、企図したシナジーを実現したかを示すKPI(Key

Performance Indicator)により評価されることになろうが、評価の前提には対象企業

のバリュエーションと、それに基づくプライシングがあるものと思われる。シナジー

の試算等、バリュエーションでの失敗による高値掴みが、買収・統合後の事業のイメ

ージの具体性の欠如に起因するとみられる例も多いといわれるところであり、適切な

バリュエーションを行うためにも、M&A戦略・買収目的の明確化が重要となるので

ある。

したがって、このようなバリュエーションの課題も、自社のM&A戦略・買収目的

の明確化の問題とも関連するものと理解することができる。

なお、この点に関して、投資の意思決定を担うべきCFO等が、当該事業に十分に

通じていないと、事業部門から持ち込まれた案件を精査しきれず、組織としての意思

決定プロセスが十分に機能しない。この点は、CFOがM&Aにどのように関与すべ

きか、どのような資質・能力を求められるか、そのような資質・能力を備えた人材を

どのようにして育成・調達すべきかといった問題にもつながる。

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(3) ポストM&Aフェーズ

a.経営理念・経営戦略の浸透

ポストM&Aフェーズにおいて、買手側の経営者としては、対象企業の側に速やか

に自社の経営理念・経営戦略を浸透させる必要がある。

M&Aの対象企業の従業員は、最重要利害関係人の一人であるにもかかわらず、M

&Aが守秘性の高い取引であることから、対外的な公表時までその告知・説明を受け

ることができないなど、従業員の動揺や士気の低下は避け難い部分もある。このため、

買手側の経営者としては、速やかに対象企業の側に取引の意義を説明し、自社の経営

理念・経営戦略を浸透させなければ、対象企業の事業価値を毀損することとなる。

経営理念・経営戦略を対象企業に浸透させるためには、コミュニケーションの機会

及び能力が重要となり、経営理念・経営戦略の浸透は、コミュニケーション、対象企

業のガバナンスの問題そのものといえる。

b.組織体制の確立

ポストM&Aフェーズにおいて、対象企業のガバナンスを機能させるための組織体

制を確立する必要がある。

日本企業本社から派遣された日本人従業員(又は役員)が、レポーティングライン

の外側から対象企業の担当者等に意見を言うことが、結果として、権限と責任の所在

を不明確なものとし、対象企業の業務に混乱を招くなどしてM&A人材の流出を招い

たとか、微に入り細に入り対象企業をモニタリングすることが、対象企業のマネジメ

ントの側から見て、収益機会の逸失の原因と映っているなどの反省の声も聞かれた。

これらは、買手側として対象企業のガバナンスを機能させるために最低限押さえるべ

き部分を見極めることの難しさを示しているものともいえ、日本企業の多くは、「押付

け」でも「放任」でもない「第三の道」を模索しているものと思われる。

このような組織体制の確立は、対象企業のガバナンスの問題そのものといえる。

c.経営者人材の派遣

海外M&Aにおいてしばしば問題となるのが、誰が対象企業を経営するのかという

経営者人材の問題であるが、日本企業には対象企業を経営できる経営者人材が不足し

ており、そのような経営者人材の不足が日本企業の海外M&Aの現実的な制約要因に

なっているという。過去の海外M&Aについても、自社の人材が対象企業の事業を遂

行することができるかの見極めが甘かったという声も聞かれた。

対象企業の既存の経営者を継続して配置することもあろうし、自社からCEOある

いはCFOを派遣することもあろうが、日本企業本社から既存の経営者を通じて対象

企業をガバンスし切れるか、あるいは自社から派遣した経営者人材が対象企業をガバ

ナンスし切れるかということは、日本的経営が直面する対象企業のガバナンスの問題

そのものといえる。

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d.モニタリングの徹底

M&A当初企図したとおりにM&Aによるシナジーを実現しているかを継続的にモ

ニタリングしてゆく必要があるが、シナジーの定量化は容易ではない。特に、業績悪

化時には対象企業の情報を得にくくなり、業績悪化の原因究明も困難になる。

このようなモニタリングの徹底は、組織体制の確立、経営者人材の投入といった、

対象企業のガバナンスの問題にもつながるものということができる。

5. 課題の抽出3(JTによる買収案件に係るインタビュー調査から) JTの新貝副社長に対するインタビュー調査・研究を通じては、前述のアンケート

調査結果や、平成24年度高度金融人材産学協議会による「海外M&A(PMI等)

研究・中間報告」での議論に加えて、JTによる個別の買収案件のリアルな取り組み・

経験談を通じて、JTが自身の In-Out 型M&Aにおいて実際に直面した課題や克服の

ための留意点を伺った。 また、本インタビューの過程で、JTによる R.J.レイノルズ・インターナショナル

(RJRI)及び Gallaher の買収を題材としたケース教材(「日本たばこ産業株式会社:

巨大国内企業のグローバル化(A)」及び「日本たばこ産業株式会社:巨大国内企業の

グローバル化(B)」一橋大学大学院国際企業戦略研究科、伊藤友則教授著。以下「J

Tケース教材」という)を、事前に受講者に読ませた上で参加してもらうアイデアが

出され、本事業において採用した。

【JTによるGallaher買収案件の概要 1】

2006 年 12 月 15 日、JTは、Gallaherの買収を発表した。Gallaherは、英国に本

社を置く当時世界第 5 位のたばこ会社であり、ロンドン証券取引所に上場していた。

買収条件は、現金で 1 株あたり 11.40 ポンドで全株を買収するという内容で、案件総

額は株式価値ベースで 75 億ポンド(1 兆 7,330 億円 2)となった。2,230 億ポンドの有

利子負債を含めると企業価値は 9,730 億ポンド(2 兆 2,500 億円)となり、2005 年 12月末期EBITDAの 13.0 倍の倍率評価であった。

買収提示価格は、Gallaher が買収提案を検討中であると発表した 2006 年 12 月 6日以前の過去 3 ヶ月間の平均株価に対して約 27.1%のプレミアムが付与されたもので

あり、同日の終値 9.79 ポンドに対しては約 16.4%のプレミアムであった。 Gallaher の取締役会は、全会一致で本件に賛同する旨の発表を行った。買収は公開

買付け(TOB)ではなく、スキーム・オブ・アレンジメントによって実現した。当

該スキームは、友好的な公開企業の買収に際して使われる英国独自のスキームであり、

株主総会において買収対象企業の株主の少なくとも 75%以上の承認を獲得する必要が

1 日本たばこ産業株式会社:巨大国内企業のグローバル化(A)(B)を基に maval 編集 2 2006 年 12 月 14 日の為替レート(1 ポンド 231.12 円)換算。

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あった。2007 年 3 月 9 日に、Gallaher の株主総会が開催され、買収の提案は 98.48%の支持率で承認され、2007 年 4 月 18 日に買収は完了(クロージング)した。

JTは Gallaher 買収により、1999 年に実施した RJR Nabisco からの RJRI 買収に

よって大幅に拡大した海外事業の販売数量に基づく、世界第3位のたばこ会社として

の地位をさらに固めることができ(図表Ⅱ-9)、アジアでの強い事業基盤に加え、ヨー

ロッパおよびCIS地域での存在感も強めることとなった。 Gallaherの買収に際しては、2006 年 6 月にJTの社長兼CEOに就任した木村氏 3の

もと、RJRIとの統合を成し遂げJTの海外たばこ事業を担うJTI(Japan Tobacco International)から、当時JTIの副社長であった新貝氏がJT側のチーフネゴシエ

ーターとして買収の指揮を執り、また、JTIの社長兼CEOでありJTによる買収前

はRJRIのCEO兼社長を務めていたPierre de Labouchere(ピエール・ドゥ・ラボシエ

ール)氏と共に、ジュネーブに本社を置くJTIが主体となってGallaher統合の現場

を指揮した。

図表Ⅱ-9:JT海外たばこ事業 事業量成長とグローバルM&Aの軌跡 4

本インタビューにおいて、広く日本企業のために抽出・一般化が可能な、(本事業に

おける研修プログラムに盛り込むべき)メッセージ要素の候補として、以下のような

3 木村氏は 2006 年 6 月の就任前まで、RJRI の買収以来、ジュネーブで 7 年間、JTIの

副社長を務めた 4 「JT 海外たばこ事業のグローバル M&A と統合」CFO フォーラム・ジャパン 2012 特別

講演資料 日本たばこ産業代表取締役副社長 新貝康司, 2012 年 12 月 4 日より抜粋

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項目が議論された。

・ In-Out 型のM&Aの場合、多様な人々が集まる海外企業をどのようにマネジメント

するか、組織論や人事といった領域にも及ぶ問題であること

・ 一連の買収プロセスの先にあるものとして、買収した後にどう経営したいのかとい

うことが、まずビジョナリーに明確化されていないと、統合もうまくいかないこと

・ 日本企業の場合、日本のオペレーションに固執してこれを押し付けるのではなく、

欧米企業のようにビジョンや戦略・KPI・報酬体系などを共有し、適切なガバナ

ンスのもと、大きな権限委譲を行う経営も選択肢のひとつであり、両者のバランス、

アウフヘーベンを考えていくべきこと

・ 買収後の組織については、組織図を定めるだけでは意味がなく、その組織をどう運

営するか(例えば、JTからJTIへどう責任権限を委譲するか、JTIの中でど

う運営するか、マトリクス組織を息づかせるためにどのようなサブコミッティーを

作るか、リーダーに何を求めるか、等)が重要であること

・ M&Aというのは有事である。有事においては集中の原則に則りトップダウンでの

統合管理体制が必要。これに基づき100日プランの前のトランジションの部分、

統合作業を行うための管理体制(含むタスクフォース)を設計し、強固な当事者意

識を醸成することが重要

・ 買収案件の公表時点において、特に統合の主体となる組織(Gallaher 買収では、J

TIがその主体)に対する速やかなコミュニケーション(発表当日に全社員に伝わ

るスピード感)が必要であり、そのために事前の綿密なコミュニケーションプラン

の設計が重要であること(具体的には、買収目的、どういうことがこれから起きる

のか、何を大事にしなければならないのかということなど)

・ ポストM&Aにおいて、買収前の従業員は、①買収直後に辞めてもらう人、②統合

作業が終わるまでは留まるが統合作業が終わったら辞めてもらう人、③買収後も留

まってもらう人、の3分類に分かれ、それぞれ分類に属する社員に対してどのよう

に対応するかをクロージングまでに考えておくことが重要であること

・ クロージング前にやっておくべき最重要事項は、①主要人事を決めて、②責任権限

を決め意思決定ルールとルートを明確化し、③キャッシュの流れを確保すること、

の三つであること。加えて、これら三点の周知と、それ以上に実際に稼動するよう

訓練することが必要であること

・ クロージングコンディションの交渉の際、各国の独禁法のクリアの如何が争点とな

るケースがあり、企業価値への影響も踏まえて、どこの国でクリアランスを得られ

ればクロージングしてしまってよいか、ある国でクリアランスを得られないときに

どうすべきかを、常に頭に入れて交渉する必要があること

・ 対象企業の取締役会にとって、ディール成就の蓋然性の観点からどこまでの範囲・

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深さのDDを受ける必要があるかは一大関心事であり、DD項目の検討は、入り口

で拒否されないよう担当者任せにせず、また、買収目的としてどう経営したいかを

反映したものとすべきこと

・ 実際に買収してみて後で驚くという事態はどうしても避けられず、一方で思わぬ損

をすることもあるが、他方でこれはという資産や機会が眠っていることもあり、統

合作業の中でしっかりと対処していくことが重要であること

その上で、ポストM&Aパートにおける受講者への設問として、「JTの Gallaher

買収の成功要因は何だったとあなたは考えるか?」や「あなたが新貝氏であったら、

新生 Gallaher 社のマネジメント体制をどう設計しますか?」などを、候補に上げなが

ら、研修プログラム草案の作成にあたった。 また、上記の新貝氏へのインタビューを踏まえて、作成した研修プログラム草案を

基に、平成25年度高度金融人材産学協議会の研究会(11月実施)にても議論頂き、

以下のような、意見を拝受した。 ・ 検討させるべき要素としてシナジーの点を強調すべきである

・ 受講者がどのような視点で参加すべきかを明確に意識させるべきである

・ 一気通貫にJTのケースに焦点を当てて、プレM&AからJTの経営陣の立場で

考えさせるべきである

一点目については、「シナジーは最初からターゲットにする必要があり、買収してか

ら検討するようだとだと上手くいかないが、RJRIのケースにおいても、ギャラハ

ーのケースにおいても、JTは、シナジーの創出を非常にうまくやっており、どうい

う点にシナジーがあるのかということを考えさせることが重要である」との指摘があ

った。 また、「手続的な問題や技術的な事項は優秀な専門家をうまく使えばこなしていける

が、シナジーは自社でしか考えられない。DDの実施前や、公開情報しかない段階で

は非常に難しいが、あくまで自社の戦略に適合する目的で仮説を立て、その仮説の実

現可能性等を、DDやマネージメントプレゼンテーションのところで検討することを

重視している」との、自社の経験を事業会社より披露頂いた。 二点目については、「多様な会社から、経験の程度も多様な人材が4時間という短時

間で受講することを考えると、自社の事情にこだわってしまうと着眼点の相違から議

論になりにくいことから、JTの社員ないしは経営陣の立場で、本プログラムに参加

してもらうべき」、との意見を頂いた。 また、受講者の属性(業種、職能、M&A 経験など)が多岐にわたる点についても

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「本研修はM&A等に関わる人材の裾野を広げるための教材と認識しており、1回目

の段階でいろいろな経験年数の方がいるというのは望ましいこと。1回やってみて多

様な意見を集め、それを踏まえてブラッシュアップすべき」、「コアビジネスの買収と

ポートフォリオの拡大、新規事業では少し議論の焦点が変わってくる。受講者につい

ていえば、事業会社、商社、金融では事情がかなり違うので、工夫を要するのでは」

といったご指摘を頂いた。

三点目については、「新貝副社長にご登壇いただくのであれば、一気通貫にJTのケ

ースに焦点を当てて、プレM&AからJTの経営陣の立場で、選択肢が幾つかあった

中でどうやって絞り込みをしたのか、そのときの考え方はどうだったのか、エグゼキ

ューション、ポストマージャーでの苦労等を取り上げ、深掘りしてもよいのではない

か。その結果として、当然、自社にそぐわないこともあれば、学ぶこともあるだろう」

との、ご助言を頂いた。 この点に関連して、新貝副社長に対して、受講者が有効な質問をするための準備体

操となるように、またどのようなシナジーが意図され、そして実際に出た/出なかっ

たのか、引き出せるように、プログラム前半の設計を工夫すべきとのご指摘を頂いた。

その他、本事業の4時間の研修プログラム(試行実施)に留まらず、今後の人材育

成に当たっての課題を洗い出し、本格的な研修プログラムの作成に役立てるべきとの

観点から、「クロスボーダーということになると、やはり注目すべきはむしろアジアで

あり、そのような視点もあると良いのではないか」、「製造業は製品や技術といったも

のが財産としてあるが、サービス業は、基本的には人材が財産になるので人材のマネ

ジメントが中心になる。そこは大きな違いになるので分けたほうがよいと思われる」

といった意見も頂戴した。

6. 課題の整理を踏まえた研修プログラムにおけるフォーカス 以上を踏まえ、また、本事業において最重要の趣旨である、「①戦略から統合(PMI)

までの M&A の一連のプロセスに関する検討を疑似的に体験する機会となること」及び「②(個

別実務の担当者視点ではなく)経営者の視点からM&Aを俯瞰的に捉え、対象企業をどのよう

に経営したいのかを自身の問題として捉え直す切り口を得ること」の2点を、制約条件(今回試

行実施においては、4時間程度の研修プログラムとすること)の中で、最大限満たすべく、特に

以下の4点に考慮し、M&A疑似体験研修プログラムを作成することとした。

参加者に本プログラムを受講する上での位置づけを明確に意識させること

研修実施冒頭に委託者(産業資金課)より事業趣旨(問題意識)をリマインドすると共に、

講師役より、JT経営陣である新貝氏の立場で、本プログラムに参加し、自ら考えて

もらうことを強調

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M&A の性格により、検討すべき内容は変わるはずであり、経営上どのような位置づけの案

件であったか明確にすること

JT における RJRI 買収と Gallaher 買収の位置づけ・性格の違いをクリアにした上で、本研

修は Gallaher 買収に焦点(図表Ⅱ-10)

図表Ⅱ-10:

ポストだけでなく、プレ及び execution におけるグループディスカッションの設問についても

(特別ゲストへのGood Questionをする準備体操となるよう)JTのGallaher買収事例に沿っ

たものとすること

新貝副社長にもご助言を頂戴しつつ、いずれもGallaher買収を題材とした設問とし、参加

者には、事前(研修当日約1週前)に通知し、ケース資料を効果的に読み解けるよう配慮

【設問項目(プレM&A)】

『あなたが JTの経営陣だったら、ABC社のうち、どの会社を RJRIの次の買収候補とします

か。決め手は、何ですか?』

【設問項目(エグゼキューション)】

『DDの結果、ERPシステムについて、Gallaherが以前買収した会社との統合を進めていな

いことがわかりました。

あなたが買収担当者であれば、クロージングに向けて、さらに何を実施しますか?』

【設問項目(ポストM&A)】

『JT は Gallaher 買収に伴い、旧 JTI、旧 Gallaher 社の社員に、足元の事業、業務をおろそ

かにすることなく、統合に邁進してもらえるよう、社内コミュニケーションを行う方針です。

あなたが JT の新貝氏だったら、買収後の社員の心理状態を考慮し、どの要素(コンテンツ)

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をどのタイミングで、どのような手段を用いてコミュニケーションしますか?また、その為に、

どのような注意を払いますか。』

Gallaher 買収の事例において、どのようなシナジーが意図され、そして実際に出た/出な

かったのか、受講者がより具体的なイメージを持つことができること

新貝副社長より、「早期に確実に効果が出たのはコストシナジー」、「トップラインシナジー

は中長期視点」、「アップサイド:ダウンサイド=10:1程度」等の具体的なコメントを拝聴

(図表Ⅱ―11)

図表Ⅱ-11:

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III. M&A疑似体験研修プログラムの作成・実施

以下においては、本事業で作成・試行実施した、研修プログラムの特徴や、実施に

際しての要点等について、概観する。 なお、研修プログラム実施に際して使用した、配布スライド等の詳細については「別

紙1 M&A疑似体験研修プログラム(本編)」をご参照頂きたい。

1. 本研修プログラムの趣旨(問題意識)と特徴 本事業におけるM&A疑似体験研修プログラムの位置づけ

図表Ⅲ-1:産業資金課(委託者)よりの説明

カリキュラム基本構成

図表Ⅲ-2:

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少人数のチーム制によるディスカッションスタイル

コース全体を通じて、JTの Gallaher 買収案件を題材とすると共に、終盤のポストM&Aパ

ートに際して、特別ゲスト(JT新貝副社長)からのフィードバック、体験談を盛り込み

2. JTを題材としたことの狙い/特別ゲストの意義 日本企業で数少ない「短期間で成果が示された」In-Out 型 M&A の成功案件

2つの M&A 案件(RJRI、Gallaher)の比較対照性(その上で Gallaher 買収にフォーカス)

ポストM&A(特にコミュニケーションとモニタリング)に学ぶべき点が多い

当時の案件推進責任者である、新貝副社長より、特別ゲストとしてのご協力が得られ、

本プログラムにリアルな説得力をもたらすことが可能

なお、前述の、平成24年度高度金融人材産学協議会による中間報告のとりまとめ時

にも、新貝副社長からは貴重なアドバイスを頂いており、本事業趣旨への理解が深い

3. プログラム実施の概要 日時: 平成25年12月12日(木) 午後2時から午後6時まで

場所: 経済産業省 本館17階 第2特別会議室

講師: 株式会社マーバルパートナーズ 代表取締役社長 岡 俊子 氏

特別ゲスト: 日本たばこ産業株式会社 代表取締役社長 新貝 康司 氏

受講者: 18名(5チーム)

業種:メーカー9社、商社3社、保険3社、その他3社

部署:財務・経理、M&A、海外業務

役職:執行役員から部課長級

JT ケース教材配布、キー・クエスチョンを事前(約1週間前)に提示

受講者(参加企業)の M&A 力に係る事前アンケートを実施

4. 研修プログラムを通じたキー・クエスチョンと狙い

<プレM&A> 【キー・クエスチョン①】 『××事業を強化できるまたとない案件」と言い、社長がある M&A 案件をもってきました。

周囲には、M&A の目的が不明確で、シナジー効果が期待できない案件にみえます。

「買収目的が曖昧な M&A」は、失敗し易いと言われていますが、具体的になぜ失敗すると

考えますか?』

【狙い】

社長が案件を持ってきて、M&Aの実施とその価格ありきという話は現実にもあり、シナ

ジーは決まっている価格を正当化するために積み上げているだけというような不毛な事例

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も散見される点を意識し、曖昧な買収目的の危険性を自ら考えさせる設題。

また、新貝副社長によれば、JTによるGallaher買収のケースでも、買収目的に回帰すべ

き場面、すなわち、DDを進める中で重要と思われる発見事項(案件を進める上でのハー

ドル)が出てきた局面が3度ほどあったとのことであるが、このハードルを超えて良いのかの

難しい判断を迫られた際に、都度、買収目的に立ち返って熟慮を重ねたとのことである。

【受講者の議論】

適切な価格がわからない(どのくらいの価値まで出せるのかわからない)

目的が曖昧だと買収後の戦略が立案できない。目的が曖昧だと被対象会社も困る

社長が持ってきた案件は、やらなければならないが、目的が曖昧だと高値掴みをし

てしまう可能性がある。また事業計画がうまく立案できない

(社長案件だと)失敗してしまっても、なかなかイグジットできない 等

【キー・クエスチョン②】 『あなたが JTの経営陣だったら、ABC社のうち、どの会社を RJRIの次の買収候補とします

か。決め手は、何ですか?』

【狙い】

当時買収対象として理論的にはGallaher以外にも選択肢が幾つかあった中で、どのよう

な観点、優先順位から絞り込みをしたのか、そのときの考え方はどうだったのかを、当時の

定量・定性情報や背景事情に立脚しながら、自らJTの経営陣の立場に成り代わって検討

させること

なお、新貝副社長によれば、対象企業の選定の段階では、その会社を経営できるかと

いう観点からの定性情報が、実のところは決め手になっており、地理的補完性、ポートフォ

リオ補完性等は三者一長一短で、実は決め手になっていないことなどのご紹介があった

点についても補足しておく。

【受講者の議論】

B 社: たばこは規制業種。地域は広範囲にあったほうがいい。また、将来人口が増加す

る可能性のある地域のシェアを獲得している会社が良い

B 社: B 社はこれまで過少投資だったため、将来的に伸び代がある。地域的に見ると、A

社も魅力だが、B社が多くの地域でトップシェアを獲得している。B社買収だと、業界トップ

企業が B 社を買収する可能性が低いので(EU で高いシェアを保有しているので)、買収

価格が釣り上がりにくいのではとの期待がある

B 社: エリアの補完性、トップシェアを獲得している地域を考慮すると B 社が魅力的。

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また、シナジー効果の視点では、A 社は過去既に投資を行っているが、B 社は将来の伸

び代がある。C 社を買収しても、A 社と B 社が合併してしまうと、越されてしまう可能性があ

る。 等

<Execution> 【キー・クエスチョン】 『DDの結果、ERPシステムについて、Gallaherが以前買収した会社との統合を進めていな

いことがわかりました。

あなたが買収担当者であれば、クロージングに向けて、さらに何を実施しますか?』

【狙い】 実際に買収してみて後で驚くという事態はどうしても避けられず、特にDDの中

での発見事項は、①買い手としてバリュエーション(買収価格)に反映するのか、

②買収契約等の中で売り手(または対象会社)にクロージングまでに対処させるの

か、③買収後の統合作業の中で買い手が対象会社と共に対処するのか、最悪の場合

は④致命的な問題として解決できずディールブレイクの可能性を含めて判断をする

必要があることを、受講者に意識させる設題。

なお、実際の Gallaher買収時には、(DDの最中ではなく)クロージング後に ERP

統合が未了であることが判明したとのことであり、統合作業の負荷を高めることに

なったが、買収するか否かの判断には影響を与えなかったとのことである。結果と

して、JTは4社バラバラであったERPをJTIのERPに統一したが、まとめ

て一度に統合作業を実行すると、作業終了後に辞めてもらう従業員が一挙に出てく

ることを考慮し、2段階に分けて実施したとのことである。

【受講者の議論】

買収価格を減額する。経営管理体制を確認する(内部統制の体制など)

システム投資を Valuation に織り込む。PMI の統合作業内容にも織り込む

買収後、システムを統合するのか/しないのかを確認し、方針を決める。必要あれば買収

価格に織り込む 等

<ポストM&A> 【キー・クエスチョン】 『JT は Gallaher 買収に伴い、旧 JTI、旧 Gallaher 社の社員に、足元の事業、業務をおろそ

かにすることなく、統合に邁進してもらえるよう、社内コミュニケーションを行う方針です。

あなたが JT の新貝氏だったら、買収後の社員の心理状態を考慮し、どの要素(コンテンツ)

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をどのタイミングで、どのような手段を用いてコミュニケーションしますか?また、その為に、

どのような注意を払いますか。』

【狙い】 クロージング後に役立つことを、クロージング前に可能な限り前倒しで準備しておくべき

であり、具体的には、①責任権限、②マネジメントの決定、③決裁プロセスの決定、④社内

の情報共有等であることを、自身の過去の M&A の実体験などと併せて、考えさせる設題。

なお、JTI の例では、役員が世界中に出張しており会議体で決裁を行うことは難しいの

で電子決裁となっているが、決裁書の書き方など含め、クロージング前に決定していたと

のことである。また、④の情報共有について、人は不安になると平常の業務がおざなりにな

るので、何が起きているのかを共有できるイントラネットを立上げ、買収発表後、JTI、

Gallaher の全社員が見られるようにしており、買収の目的、統合十原則等を掲載してFAQ

は随時更新しているとのことである。

また、本設題に関連する後日談という位置づけで、ポストM&Aにおいて、買収前の従

業員は、①買収直後に辞めてもらう人、②統合作業が終わるまでは留まるが統合作業が

終わったら辞めてもらう人、③買収後も留まってもらう人、の3分類に分かれ、それぞれ分

類に属する社員に対してどのように対応するかをクロージングまでに考えておくことが重要

であることや、Gallaher の役員あるいは役員候補人材 50 名にインタビューして、どのように

して人材の職掌を決めていったかのお話を頂くよう特別ゲストにお願いする流れとした。

【受講者の議論】

両社トップの友好的な姿を社員に見せる。 今後の目標・ガバナンスを伝える。決定したこ

とは、迅速に・正直に伝える。 伝えるときは、個別に伝えるのではなく、オープンな形で

伝える。

統合公表時に、目的・ビジョン・戦略(成長性)を伝える。 キーパーソンのリテンション、新

人事体制を検討する。 人員効率化・削減は、(公表後)100 日後くらいに持ち出す。

社長が全社に対して、ビジョン・戦略をポジティブに説明をする。 被買収会社のキーパ

ーソンを確保する。 統合後の戦略・体制を公表時から約 1 ヶ月で作成する。 人員削減

については慌てず、1~2 年のスパンで実行する。

社員に、統合目的、ビジョン、スケジュールを明確に伝える。 face to face の説明会を開

催する。

プレスリリースの前に、社員に統合の通達をする。 プレス発表時には、両社が友好的な

ところを従業員に見せる。 また、速やかに従業員向けに、体制・スケジュール・今後の計

画などを伝える。 その際、なるべくトップから伝えるようにする。 等

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5. 特別ゲストからの体験談及び受講者へのメッセージ Gallaherの買収はTOBではなく、スキーム・オブ・アレンジメントによる買収で、株主総会で

株主の承認を取る必要があった。

公表前までに行ったこと

公表日に、どのステークホルダー(社員、プレス、投資家、ロンドン証券取引所)に、どこま

で話をすることができるかが大事である。

役員が社員に説明をするときには、部下がわかるよう/伝えることができるように、適切に

説明することが大事である。そのため、JTI は、役員が部長に、部長が現場の人に説明す

るためのハンドブックを作成した。

交渉の段階では、人員の取り扱いが論点となるが、これを、①クロージング時に去る人、

②統合作業終了時に去る人、③そのまま継続する人、の 3 つに区分し、クロージング前ま

でにインタビューを実行し、人員を①~③に分類した。

公表時(サイン時)に行ったこと

株主総会の開催、統合目的・スケジュール、定性的なシナジー効果(売上向上・効率など)

を公表した。

定量的なシナジー効果は、統合計画を作成しないと正確には分からない(株主に対して

コミットできる段階にない)ので、定性情報のみを公表した。

公表後~クロージング(買収完了)までに行ったこと

新経営陣を決定するために、当時のJTI CEO Pierre 氏と新貝氏は、Gallaher の執行取

締役・ヴァイスプレジデント(部長クラス)約 50 人にそれぞれ面談を行った。

(この面談について)Pierre 氏からは、通常、欧米企業はそこまでやらないと言われたが、

欧米がやらないことをやれば、口コミでフェアなプロセス(JT が Gallaher社員を公正に取り

扱うこと)であることを社員自身が伝えてくれると Pierre を説得し、実行した。実際に、この

フェアなプロセスについて多くの人が、自分の部下に語ってくれた。

(独占禁止法のクリアランスを取得するため、疑義を持たれるようなことはできないので、限

られた情報交換しかできなかったが)、2007 年 3 月中旬までには新役員を決定していた。

また、HR ハンドブックに基づき、ヴァイスプレジデント(部長クラス)の面談も行い、クロージ

ングまでに、部長クラス以上の決定をし、レポートラインを明確にした。

また、統合後の意思決定ラインを把握していないと、Day1 から事業が停滞してしまう可能

性があるので、クロージング前から、電子決裁・ガバナンスのための責任権限規定の使い

方などの勉強会を行った。

社員の不安を払拭するため、クロージングと同時に統合に関する情報を共有できるように、

専用のイントラを開発した。

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クロージング(買収完了)~統合計画公表までに行ったこと

クロージング直後は、ロンドン(旧 Gallaher 本社)、ウィーン、ロシア、北アイルランド

(Gallaher 発祥の地)に赴き、Gallaher の経営陣と一緒に、今後どういう会社にしていきた

いかなど、社員向けに Q&A セッションを行った。

また、統合委員会を発足し、委員メンバーには、社員へ情報伝達がきちんと伝達できるよ

うに、インターナルコミュニケーションの担当者を置き、常に同席してもらうようにした。

統合計画策定のグローバル・キックオフ・ミーティングを行った。この目的は、統合計画の

目的・策定責任を明確にすること、face to face で顔合わせをし、コミュニケーションの場を

提供することだった。統合計画の他、50 のタスク・フォースの目的・責任を明確にし、推進

できる体制を整えた。①~③(①クロージング時に去る人、②統合作業終了時に去る人、

③そのまま継続する人)の人も、自分の責務を果たしてくれた。

統合計画公表時には、各タスク・フォースでの検討結果を反映した、定量的なシナジーを

公表した。

受講者から、新貝様に対する質疑応答

M&Aを実行していたディールチーム(約20名)から統合業務をどのように引き継いだか?

➔ 新貝様回答(以下、同じ):統合事務局のメンバーの中に、統合計画を策定す

るメンバーだけでなく、買収作業を行っていたジュネーブサイドの BD(Business Development)メンバーを加えた。

➔ 買収作業を行っていたメンバー(BD)には、早い段階から(買収作業だけで

なく)統合が完了するまで責任があり、それを前提に買収作業をやる旨を伝

え、現実的な Valuation、統合後の経営を見据えた DD を実行する、という責

務を課していた。 ➔ 約 50 のタスク・フォースについても、BD チームが事前に検討したことをタ

スク・フォースチームに受け継ぎ、クロージング前に BD メンバーが検討し

ていたシナジーを、クロージング後に得た情報を元に、当初と実際の差を埋

めていくという作業を行った。

クロージング前はどのくらい前から、Gallaher のマネジメントにコミットしてもらっていたのか

(インタビューなど)?

➔ クロージングの半年くらい前からコミットしてもらっていた。公表前は、買

収価格、DD の終了時期、クロージング条件の 3 つが重要だが、人員の取り扱

いも大事だった。Gallaher 側には公表前に、人員の取り扱いパターンについ

て 3 パターン(①クロージング時に去る人、②統合作業終了時に去る人、③

そのまま継続する人)になる旨を伝え、人員の取り扱いを明確にした。

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統合作業終了時に辞めてもらう人(②分類)へのモチベーション維持に、どのような施策を

取ったのか?

➔ 退職金とは別に、コンプリーション・ボーナスを別途用意した (職責を全うすれば、ボーナスを支払うというもの)

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IV. M&A疑似体験研修プログラムの結果総括

1. 受講者アンケート 以下においては、本研修プログラムを実際に履修した受講者に対し、受講直後に記

入頂いたアンケートの集計結果、すなわち、プログラム評価結果を以下にお示しする。 なお、配布したアンケート項目の詳細については「M&A疑似体験研修プログラム

実施後アンケート項目」をご参照頂きたい。

プログラム満足度(図表Ⅳ-1)

研修プログラムの各セクションとしてのⅠ部、Ⅱ部、Ⅲ部と、特別ゲストフィードバック(JT

新貝副社長)、そして全体としての評価を質問した。

総じて「満足」以上の評価が得られ、総合評価としても 50%が「大変満足」との評価を得た。

特に、特別ゲストフィードバックを含む、第Ⅲ部ポストM&Aの点で、高評価が得られた。

フリーコメントについても、特にポストM&Aの部分にしっかりとフォーカスが当たっていた

こと、また、全体がつながっていることが良かったとの意見があった。

一方で、もう少しプレM&Aの部分の議論を深められると一層良いというような声も散見さ

れた。

図表Ⅳ-1:

内容理解度(図表Ⅳ-2)

内容の理解度については、JT の事例が大変奥深く、特別ゲストの体験談等も極めて含蓄

の深い内容であったため、「完全に理解できた」との回答は3割程度に留まったが、「大体

理解できた」と併せて9割超の内容理解度が確認でき、本事業における高い受講者レベ

ルに対して、過度に難解あるいは容易であるなどの懸念は見当たらなかった。

その他、フリーコメント等も見ると、プロセスの部分については、4時間という制約の中で、

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ポストM&Aはしっかり検討できたが、プレM&Aの部分では若干の消化不良感が出たと

いうような意見も散見された。

図表Ⅳ-2:

趣旨合致度(図表Ⅳ-3)

本研修プログラムの評価項目として最も重要なポイントと考えられる、本事業趣旨への合

致度という意味においては、大きく「①戦略から統合(PMI)までの一連のプロセスを疑似

体験できた(か?)」と「②経営者の視点から M&A を俯瞰・捉え直す切り口を得られた

(か?)」の2つの観点を設定して質問した。

結果として、「①戦略から統合(PMI)までの一連のプロセスを疑似体験できた(か?)」とい

う観点については「非常に合致」と「概ね合致」を併せて8割超、「②経営者の視点から

M&A を俯瞰・捉え直す切り口を得られた(か?)」については同9割超となり、特に後者に

ついては半数以上の方が「非常に合致」というように、本事業への極めて高い合致性を有

しているとの評価が得られたものと考える。

図表Ⅳ-3:

推奨可能性(図表Ⅳ-4)

本事業における試行実施は、現時点において、1回限りの実施としているが、仮に、同様

の研修プログラムが開催された場合に、今回の受講者から見て、第三者に受講の推奨が

できるかという質問をさせて頂いた。

特に「限られた対象となるが推奨できる」という回答については、本事業の企画趣旨が、万

人に向けて設計されたものではなく、「M&A担当者等」、すなわち「現在又は今後、

買手側企業でM&Aの検討作業、買収作業、統合作業といった業務プロセスでの意

思決定を担当する可能性のある者」を主な対象として作成したものであるところ、

受講者の率直な考えを、特にフリーコメントでの記入を求めている。

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結果として、マネジメント系として、経営の意思決定に参画できる、あるいは経営判断、シ

ニアマネジメント以上といった狙いどおりの回答が得られた。

また、職能としては、やはり経理、あるいは経営企画、PMI担当、あとBD(事業開発、ビジ

ネス・ディベロップメント)担当の方に向いているとの意見があり、これもある程度M&Aに

絡んでいるけれども、それをさらにブラッシュアップされたいという層に向けて、推奨頂ける

との、本事業の狙いに沿った結果が得られたと考える。

その他は、Transaction を数件経験されている方、あるいはある程度知識がある方に有意

義なのではないかという部分と、一方で、深い知識は必須ではないけれども、真剣にM&

Aに触れる必要のある方というのであれば、こういった議論は非常に重要なのではないか

というような意見も得られた。

図表Ⅳ-4:

総合コメント

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2. 受託者として得られた示唆(実施後の個別企業ヒアリング等も踏まえて)

以下においては、本事業の受託者として、今回試行実施した研修プログラムをさら

に発展させていけるとしたら、どのような方向性が考えられるかという観点から、一

部受講者の所属企業にご協力を頂き、研修実施後に実施した個別企業ヒアリング等も

踏まえて、受託者として得られた示唆をとりまとめた。 大きくは、本事業における、今回4時間という制約をベースに、これを開放したと

きにどんなあり方があるかというと、やはり同一企業・事例等を題材としつつ、2回、

3回といったモジュールに分割することで、より突っ込んだ議論ができるのではない

かというような可能性が感じられ、また受講企業からも実際にコメントを頂いた。 また、題材事例として、JTの事例は非常に注目度も高くよかったが、一方で、ど

うしてこれはこのM&Aでなければいけなかったのかというような部分は、既に話が

クリアになっている部分があったので、自分たちの悩んでいるM&Aとその手前のと

ころでもう少し議論ができるようなのがあると良いというような声も聞かれた。 また、平成25年度 高度金融人材産学協議会での議論でも、先進国と新興国のM&

Aでは留意点が違うのでは、という指摘もあったが、M&A の対象企業(事業)がどう

かというのもさることながら、売り手がファンドなのか、上場企業なのか、オーナー

企業なのか等、どの程度、M&A の売り手としてソフィスティケートされているのか否

かというところでも大きく違ってくるのではないのかという視点や、より良い買い手

になるためには売り手視点を学ぶという意味でも、セラーサイドの事例のようなもの

がもし学べると良いのではないかというような声も聞かれた。

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また、今回の試行実施のように、題材となる事例、特に日本企業の In-Out 型 M&A

の成功事例として希有な、JT 新貝副社長のような当時の意思決定と実際の買収及び統

合を現場で指揮した経営陣にご協力頂けたことが学習効果、納得感を極めて高めると

いうことを改めて再確認した次第であるが、一方で、そのような陣頭指揮を執られた

経営陣が難しい場合でも、ポストM&A局面からの参画などでも、何らかの形で、そ

の事例に関わった企業の方にご協力を頂けると非常に臨場感が高まって良いのではな

いかというような意見もある。 最後に、研修そのものの内容や、講師、特別ゲストからの学びというよりも、一緒

に研修に参加されたグループの皆さんの過去の経験から、さらに学びが得られたとい

うようなことであったり、同じ疑似体験を通じて得られた受講者同士の縁を、研修1

回きりで終わらせるのではなくて、いわゆる人的ネットワーキングとして継続してい

けると良い、またそのように期待する、という受講者の意見も得られたことが、受託

者としても大変興味深いものであると考える。

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V. 今後の In-Out 型M&Aのあり方に係る示唆

最後に、本研究を通じての検討を踏まえ、今後の日本企業による In-Out 型M&A

のあり方について、 (1) M&A の主体となる事業会社の観点 (2) 外部アドバイザーや金融機関等の外部専門家の観点 (3) M&A 能力開発コンテンツ等を提供する教育・研修事業者の観点

から、それぞれ受託者としての見解および提言を以下にまとめる。

(1) M&A の主体となる事業会社の観点 本報告書の冒頭部分でも述べたように、一般にM&Aは、巨額の取引であるがゆえ

に案件機会は相対的に少なく、投資の意思決定に関わる取締役等が個人として多くの

案件を経験し、ノウハウを組織的に蓄積することが難しいとの問題意識から、本事業

では、M&A担当者等、すなわち買手側企業でM&Aの検討作業、買収作業、統合作

業といった業務プロセスでの意思決定を担当する可能性のある者をフォーカス対象と

して、In-Out 型M&Aの一連の業務プロセス・意思決定プロセスを擬似的に体験でき

るようなプログラムを作成・実施することとなった。 無論、本事業の成果として作成された試行プログラムが事業会社において活用され、

より多くの(疑似体験を含む)経験を積んだM&A担当者等が、日本企業の現在およ

び次世代の経営を担っていくことは極めて重要であり、そのような人材を核として、

当該企業によるM&Aプロセスが質的に向上し、また日本企業の海外M&Aにおける

PMIに係る課題認識で挙げられた①自社のM&A戦略、②対象企業のガバナンス(コ

ミュニケーション、経営者人材の不足を含む。)の向上に繋がることが期待される。

一方で、M&Aは「時間を買う」ことのできる取引であるが故に、自社の側から見

てグローバル人材が不足する事態や、対象企業の側から見ても自らに求められている

ことを理解し得ないという事態を生じやすい。このため、③ノウハウの蓄積・承継(形

式知化等)の問題や、従業員の暗黙知に依拠したボトムアップやコンセンサスを重視

するような日本企業に特有の組織、意思決定のあり方の問題が、海外M&A・PMI

の場面において②ガバナンスの課題として顕在化しているという見方ができる。 この点に関して、M&Aの業務プロセスの質を向上するには、過去の失敗事例に学

ぶしかないという声も聞かれるが、他方で、失敗原因の調査が担当者の責任を追及す

ることにもつながることから、真の失敗原因は表面化しにくく、失敗事例を含めた過

去のM&Aから得られた教訓を、自社のM&A戦略や、新たなM&Aにおける対象企

業のガバナンスに、改めてフィードバックするサイクルが強く働いているとは言い難

い。 加えて、日本企業が世界と伍していくためには、高度な人材育成プログラムの開発・

適用のみならず、欧米企業に比べて日本企業が不得手あるいは避けてきた領域ともい

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える、(i)当事者意識の鼓舞、(ii)迅速な意思決定を支える権限委譲と責任所在(ルール

とルート)の明確化、(iii)買収先の人材を動機付けるためのグローバル人材マーケット

を意識した報酬水準のあり方など、についても、再考する必要があるものと思料する。 このような観点からも、本事業において題材としたJTのケースは、示唆に富んで

いる。 今後、日本企業が大型のM&Aに取り組むうえでの自社の組織、意思決定のあり方

の問題、すなわち抜本的な変革や意識的・組織的に矯正すべき点(落とし穴とその対

処法)を浮かび上がらせるという観点からも、「ノウハウの蓄積・承継(形式知化等)」

を積極的に実施することを推奨したい。

(2) 外部アドバイザーや金融機関等の外部専門家の観点 本研究において、企業サイドからの声として、投資銀行の多くは、その提案に係る

対象企業の事業を必ずしも事業会社と同じ水準では理解していないことを大前提とす

べきところ、M&A案件についての投資銀行等のFA(Financial Adviser)からの情

報を鵜呑みにしてしまうことが、落とし穴の一因となるとの意見が挙げられた。当然

ながら、一般論として、買手の事業会社に対して、自社の経営戦略・M&A戦略に立

ち戻った観点からの検討、また、立ち返ることが可能なレベルでの具体化・深堀りを

促すことが、外部専門家の立場からも質の高いM&A実現に向けて必要不可欠である。

一方で、本研究でも触れたように、海外M&Aにおいて日本企業が抱く苦労・失敗

やその原因として、経験浅い層では挙がるものの、経験豊かな層では挙がらない傾向

のものとして、国外の制度や環境への対応が挙げられ、日本企業が進出を企図する国・

地域の選択肢が、近年、特にアジア新興国を中心に新たに拡がっていることを踏まえ

ると、案件機会の発掘と日本企業への紹介を含め、外部アドバイザーや金融機関等が

果たすべき役割は大きいものと思料する。

(3) M&A 能力開発コンテンツ等を提供する教育・研修事業者の観点 本研究においては、買手側企業でM&Aの検討作業、買収作業、統合作業といった

業務プロセスでの意思決定を担当する可能性のある者を特に対象としてフォーカスし、

疑似体験プログラムを作成・試行実施したが、M&Aを通じた経営のグローバル化/

業界変革は、日本企業にとっての経営アジェンダそのものとなりつつあり、これに伴

い、M&Aは特定の経営者・役員・M&A専門家にとっての関心事項ではなく、多く

のビジネスパーソンにとって、必要な共通知識・常識・前提となりつつある。

一方で、我が国においては、M&Aの初期的知識から専門的ノウハウ・技術までを、

一貫して提供できる場と組織が未整備であるという現状があり、本事業で作成された

M&A疑似体験研修プログラム等を含めた、総合的な教育体系の構築と恒常的な場の

提供が、教育・研修事業者サイドに対して求められる。

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また、本研究を通じて、日本企業でプレ段階でのM&A情報を扱う部門、特に経営

企画部等の従事者については、企業横断的なつながりを持つ機会が、財務・経理部門

のそれと比べて少ないとの声が聞かれた。そうした観点から、教育・研修の提供だけ

でなく、企業横断的な議論喚起や、研修参加者などの輪を通じたコミュニティの形成

等の役割も、教育・研修事業者サイドが果たしうる役割ではないかと思料する。

以上

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海外M&A疑似体験研修プログラム

~成功するM&Aのために~

株式会社マーバルパートナーズ 代表取締役社長 岡 俊子

2013年12月12日(木)

【別紙1】

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1

オリエンテーション

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2

M&Aの段階ごとの課題 Post-M&A

①M&A戦略の策定 投資銀行からの情報を鵜呑みにす

る 海外拠点から検討 常時M&A案件のリスト

統合後の事業のイメージに具体性が

ない 対象会社の事業から見たシ

ナジーを明確化 対象会社に期待する事項を

明確化

②デューデリジェンス(DD) DDが不十分で、ポストM&Aの段階で

問題に気付く シナジーを考えてDDを行う DDの際に対象会社の経営層を

そのままアサインできるかを確認 ビジネスDDをアドバイザリー任

せにせず、自社で行う 統合計画をクロージング直後に

スタートできる程度に準備 ③バリュエーション 高値掴みのリスク

④経営戦略の浸透 対象会社も不安

クロージング直後に現地に赴いて拠点を回り、対象会社に期待する事項を伝える

対象会社とともに事業計画を策定

⑤ガバナンス体制の確立 「押付け」でも「放任」でもない第三の道

とは?

⑥経営者人材の投入 対象会社をマネジメントできる経営者人

材が不足 海外子会社のグローバル人材を対

象会社の経営者に当てる エース級の人材を投入 対象会社に派遣する経営者候補を

プレM&Aの段階から関与させる

⑦モニタリングの徹底 シナジーの定量化が困難 業績悪化時に原因究明が困難

⑧事業の再編

経営理念が浸透してから事業再編を行う

M&A(execution) Pre-M&A

出所:海外M&A(PMI等)研究中間報告 平成25年2月18日

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3

本日のカリキュラム

戦略から統合(その後の経営を含む)までのM&A案件全体を俯瞰的にとらえ

る4時間のコース。

オリエンテーション

Q&A・ラップアップ

14:00

18:00

【M&Aのプロセスと プレイヤー】

【落とし穴に 落ちないために】

プレM&A

休憩(10分)

座学

ケース&三択& ディスカッション

M&Aのプロセス、外部プレイヤー(FA、DDA等)の賢い起用方

法、起用目的、依頼にあたっての留意点を解説 FA(Financial advisor), DDA(DD Advisor)

オープニング、アイスブレーク、自己紹介 等

「何の目的でM&Aするのか?」を明確にすることの重要性がテー

マ(ケース&ディスカッション)

DD、バリュエーションが焦点。DDではスコーピング、バリュ

エーションでは価値の解釈がテーマ (三択&ディスカッション)

対象会社とのコミュニケーション、買い手の理念や戦略の浸透、対

象会社の経営陣に対するモニタリングがテーマ (ケース&ディスカッション) JT新貝氏による経験談

JTのビジネス・ケース については事前配布

execution

ポストM&A

全体に関するQ&A、クロージング 等

【M&A力診断結果】 事前に回答頂いたアンケート調査結果の共有(社名なし)

CA BC

A B

特別ゲスト経験談

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4

M&Aのプロセスとプレイヤー

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5

M&Aのプロセスとアドバイザー

• DD(法務・財務・

事業)

戦略検討 アプローチ 条件交渉 クロー

ジング

買い手 • 意向打診 • ターゲット特定

• 意向表明 • 検討資料受領 • プレDD

• 受け渡し • 開示公表 (対内/対外)

• 事務手続き

• M&A戦略立案 • 買収先候補検討

トップミーティング 基本条件交渉 実務者ミーティング 最終条件

交渉

検討資料取交 基本条件交渉 (合意書締結) 買収監査 最終契約

ミーティング等

社外 専門家 戦略コンサルタント

フィナンシャルアドバイザー(証券会社、独立系ファーム等)

第三者評価機関

社外専門家を雇うことは必須ではないが、本音やこれまで蓋をしてきた膿が表面

化しやすいM&Aでは、第三者の介在が潤滑油になることもある。

DDアドバイザー

法務アドバイザー(弁護士)

アドバイザーの 賢明な活用

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6

FAの役割

FAに頼り切るのは禁物。主体性が重要。「どの業務・機能をFAに依頼すべ

きか?」「どのように活用すべきか?」は社内にノウハウを蓄積すべき。 役割 タスクの概要

– ディール全体の状況整理 – スケジュールマネジメント – 必要に応じた社内関係者内での共有 – 専門家選定のアドバイス/専門家同士のコニュニケーション

ディール全体 マネジメント

– 基本合意書、最終契約書にかかわる交渉戦略の策定 – 交渉ミーティングの作戦策定、価格交渉の実施 – 各種契約書のレビュー

買収提案、交渉サポート 契約/価格交渉サポート

– 各デューデリジェンスにおける精査ポイントのアドバイス – デューデリジェンスのスケジュールマネジメント – 調査結果の精査、ディールへの影響度の判断

デューデリジェンス マネジメント

– 買収時の事業譲渡、会社分割、株式譲渡等の最適実現手段の検討 – 連結後の会計インパクトの示唆

買収スキーム・ (会計・税務面)手続き

等のアドバイス

– ノンネームによる買収候補先へのアプローチ – 買収提案書等の交渉時に必要となる資料の作成、変更 – 買収提案の実施および交渉サポート

アドバイザーの 賢明な活用

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7

落とし穴に落ちないために:

プレM&A

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8

グループ・ワーク

課題:10分 グループワーク

「××事業を強化できるまたとない案件」と言い、社長があるM&A案件をもってきました。

周囲には、M&Aの目的が不明確で、シナジー効果が期待できない案件にみえます。

「買収目的が曖昧なM&A」は、失敗し易い

と言われていますが、具体的になぜ失敗すると考えますか?

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明確な買収目的であることが必要

曖昧な表現となっている場合は、「5つの問い」に答えられるまで深堀が必要。

危険な表現集 「基盤構築」

「××の更なる融合」

「××の可能性」

「××事業と××事業の

シナジー効果」

「××の融合」

「××の展開可能性」

「~が期待できる」

「有効活用」

「一体経営」 明確な戦略のビジョン

「この買収の重要な目的の一つは、RJRIの有能な経営陣の

獲得であった」 (ケース(A) P8から)

「世界第3位のグローバルたばこメーカーとしての地位を

強化」 (ケース(B) P2から)

引用部分:日本たばこ産業株式会社:巨大国内企業のグローバル化(A)(B)

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経営資源の浪費に終わるだけ

買収目的が曖昧

戦略仮説が不明確になる DDにおいて検証すべき

論点が定まらない 買収是非が判断できない

買う事が前提になる

買収価格を正当化するシナジーを積む

実現可能性の低い計画が遂行される

ヒト・モノ・カネ・時間

の浪費に終わる

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11

現領域

土地勘のある事業領域におけるM&Aが安全

土地勘があるM&Aだと、自信を持ってM&Aを進めやすい。

事業展開の検討フレームワーク

“リソース活用の軸”

新商品・ サービス 提供

現地域 新規地域

事業領域 既存リソース

(技術やブランド等) が活かせる分野

事業領域 新規リソース

(技術やブランド等)が必要な分野

新市場開拓

真の 多角化

① 既存サービス の横展開

“潜在ニーズの軸”

② 顧客ニーズの 掘りおこし

③ 既存事業の 強化・拡大

明確な戦略のビジョン

「私は経営には自信があると言いました。なぜなら、

たばこ事業は我々の本業だからです。私自身、たばこ

の畑の草を取ったことも、たばこを作ったことも、 注文取りもやったことがあります」 (ケース(A) P7から)

引用部分:日本たばこ産業株式会社:巨大国内企業のグローバル化(A)(B)

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受動的アプローチと能動的アプローチ

受動的に持ち込まれる案件の検討精度を高めると共に、能動的アプローチ

が必要。

受動型 案件

能動型 案件

概要 案件取得活動例

投資銀行等から打診

される“持ち込み案

件”

買い手が自ら投資先

候補を発掘する“仕

掛け型案件”

ただ待つだけでなく、案件持ち込み先(銀行、投資銀行、

証券会社、知人等)に対し、自社の戦略や案件のクライテ

リアなどを明確に示すことで、持ち込み案件の質を高める

ニーズに合致しない案件の持ち込みが続くエージェントは、

対応の優先度を下げるなどの対策をとる

クロスボーダーでは、本社レベルでのM&A意思決定者と

のリレーションを構築する

情報集積地で積極的にネットワークを張る

(国によっては)政府関係者とのコネクション作りを意識

的に行う

外部のコンサルタントを活用し、案件情報の収集を行うな

ど、投資候補先の発掘を行う

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買収候補先の優先順位づけ

魅力度と実現性の2軸でターゲット企業の優先順位をつける。 カテゴリーAに分類される企業を優先して提携・買収提案を行う。

M&Aの「実現性」

買い手にとっての「魅力度」

実現性

が高い A C

B

魅力度が高い 魅力度が低い

D 実現性

が低い

優先度が低いが、変化の兆候を見

落とさないようにリスト上に残す

安易に手を出さない

価額が魅力的でリスクが最小化

できれば活かし方を検討

カテゴリーB

カテゴリーC

カテゴリーA

カテゴリーD

タイミングを見極める

‒ 定期的な観察

実現性を高めるための手段を練る

‒ 中長期的な関係構築

迅速に買収提案を仕掛ける

‒ 買収・提携提案の実施

ターゲット企業の4分類 カテゴリ別のアプローチ方針

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JTのケースレビュー:比較

RJRI買収はプラットフォーム獲得、Gallaher買収は海外の既存ビジネス強化、

と異なる戦略的意図があった。

類型 Ⅲ 人的交流型

類型 Ⅳ

独立経営型

類型 Ⅰ

完全融合型

類型 Ⅱ

機能確立型

プラットフォーム獲得型 既存ビジネス強化型

ソフト系

(ヒト・

ノウハウ)

ハード系

(アルゴリズム

設備)

シナジー

の源泉

M&Aの戦略的意図

RJRI買収: 1999年、9,400億円

Gallaher買収: 2007年、2兆2,000億円

ディール タイプ

シナジー 効果

特徴

市場の反応

プラットフォーム獲得型 既存ビジネス強化型

中長期的に粘り強く実現 短中期で迅速に実現

高値づかみ、株価下落 好意的

ゼロからのスタート

本社と子会社のガバナンスが重要

既存のビジネスを強化

統合が重要

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JTのケースレビュー:ディールタイプ

被買収企業のガバナンス体制は、買収子会社の買収目的による。

日本本社

A国 事業

海外子会社等

B国 事業

C国 事業

ガバナンス

バリューチェーン 戦略

管理

グローバル戦略

グローバル人事/ 研究開発/ 調達

開発 生産 販売 サー ビス

グローバル・プラットフォーム

日本本社

A国 事業

海外子会社等

B国 事業

C国 事業

経営

本社から現地に対する ガバナンスが必須

バリューチェーン 戦略

管理

グローバル戦略

グローバル人事/ 研究開発/ 調達

開発 (日)

生産 (現地)

販売 (日)

サー ビス

(日)

グローバル・プラットフォーム

バリューチェーン上のオペレーションが ガバナンスを代替する余地あり

被買収会社への権限委譲と コントロールのバランス

類型 Ⅲ 人的交流型

類型 Ⅳ

独立経営型

類型 Ⅰ

完全融合型

類型 Ⅱ

機能確立型

プラットフォーム獲得型 既存ビジネス強化型

ソフト系

(ヒト・

ノウハウ)

ハード系

(アルゴリズム

設備)

シナジー

の源泉

M&Aの戦略的意図

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JTのケースレビュー:アプローチ

2回の買収とも社内で十分な期間をかけて準備されたものであった。

1999年5月 RJRI

買収契約締結 ▼

2007年4月 Gallaher

クロージング ▼ ↑

1997年 RJRIの買収

プロジェクトチーム結成

「当時本田は、RJRナビスコは必

ずRJRIを売却すると読んでおり、

その時に備えて準備を始めた」 (ケース(A) P6から)

「過去に行われた日本企業による

国を超えた買収に関していろいろ

と調べてみました」 (ケース(A) P9から)

1999年1月26日 一次入札

3月8日 最終入札

「JTにとってはこれは逃してはならない

千載一遇のチャンスだったことから、 ニューヨークへ出発する前に、取締役会

からかなり踏み込んだ入札ができるよう

な権限を与えられていた」 (ケース(A) P7から)

2003年 次の買収の

ターゲット探し開始

「2003年に買収のターゲットを探し始めてからギャラハー買収の発表に至るまで、JTの経営陣は準備に3年の歳月をかけていた」 「JTIとJTの両社のビジネスディベロップメントチーム(BDチーム)は共同でギャラハーを含む潜在的なターゲット企業の研究を始めていた」 「ギャラハーにアプローチする準備が整うまでに、JTはギャ

ラハーのビジネスについて非常に詳細な情報とそれを評価するバリュエーションモデルを構築していた」 (ケース(B) P4から)

十分な準備、統合を考慮した買収と素早い統合

経営トップの強いリーダーシップとコミットメント

引用部分:日本たばこ産業株式会社:巨大国内企業のグローバル化(A)(B)

オークション 能動的 アプローチ

1988年 RJRI買収 の検討

見送った

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JTのケースレビュー: IR

RJRI買収 Gallaher買収

マーケットコミュニケーションにおける最強のコンテンツは、“M&A”(ポス

トM&Aを含む)を成功させた事実。

マーケットおよび社内への 十分なコミュニケーション

9,400億円 2兆2,000億円 買収価格

「JTがRJRIのようなグローバル企業をきちん

とマネージできるか疑問の声がすぐに上がった。発表前には78億米ドルよりもはるかに低い価格が妥当であるとの観測がでていた」 (ケース(A) P7から) 「JTがRJRIの買収において高値掴みをしたという見方と相まって、JTの株価は大幅に下落した」 (ケース(A) P12から)

マーケットの 反応

「この買収に対する資本市場からの反応は非常に好意的だった。アナリストは概して、買収価格は適正であり、両社の統合によるシナジー効果も大きいと高く評価した」 (ケース(B P2から)

0

1,000

2,000

3,000

4,000

1994/10 1997/10 2000/10 2003/10 2006/10 2009/10 2012/10

RJRI買収 ↓

Gallaher 買収 ↓

引用部分:日本たばこ産業株式会社:巨大国内企業のグローバル化(A)(B)

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18

グループ・ワーク:課題

課題:10分

あなたがJTの経営陣だったら、ABC社のうち、どの会社をRJRIの次の買収候補としますか。

決め手は、何ですか?

CA BC

A B

A社

B社

C社

Y社

X社

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19

グループ・ワーク:買収候補の比較表(1/3)

A社 B社 C社

£ 3.1 bn. 売上

EBITDA

Mkt.cap

FY05時点

£ 2.6 bn. €4.1bn. ≒£ 2.8 bn.

£ 1.4 bn. £ 0.7 bn. €1.2bn. ≒£ 0.8 bn.

£ 12.1 bn. £ 5.9 bn. €10.2bn. ≒£ 6.9 bn.

フランスとスペインの旧専

売公社が合併し、Co-CEO体制で統合途上。

C社自体が統合途上。JTが買収すると、C社内および

RJRIの統合が必要となる。

これまで合理化ができてい

なかったが、合理化余地が

あるともいえる。

1996年に独立してから

M&Aを活発に行ってきた。

経営合理化を強く進める

CEOで、その結果として、

M&Aに対しての市場から

の評価が高い。

利益の半分は、コスト削減

効果による。

1997年に米国のコングロマ

リット企業から切り離され

た会社。

資本市場からの圧力により、

配当や自社株買いを行い、

過少投資に陥っていた。

概要

出所:関係者インタビュー及びメリルリンチアナリストレポートからmavalにて編集

1€≒0.68£換算

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20

グループ・ワーク:買収候補の比較表(2/3) 2005年実績

シガレットのみ

出所:メリルリンチ アナリストレポートからmavalにて編集

ドイツ

英国

イタリア

フランス

スペイン

ロシア

スイス

ポーランド

カザフスタン

オーストリア

アイルランド

スウェーデン

ウクライナ

6,468

5,608

4,455

3,409

2,802

2,544

1,577

1,213

560

702

509

590

484

X社 37%

A社 52%

X社 50%

X社 42%

X社 36%

X社 27%

X社 43%

X社 37%

X社 57%

B社 43%

B社 50%

B社 39%

X社 33%

Y社 25%

B社 39%

Y社 30%

C社 27%

C社 34%

Y社 18%

Y社 41%

A社 16%

B社 37%

X社 36%

A社 25%

Others 30%

Y社 16%

A社 20%

Y社 6%

JTI 6%

Y社 16%

JTI 10%

JTI/B社 各17%

JTI 12%

Y社 15%

Others 6%

C社 9%

Others 25%

X社 28%

A社 19%

Net Sales (US$ million) 1位 2位 3位

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21

オーストラリアのみ

問題になりそう。

グループ・ワーク:買収候補の比較表(3/3)

X社

A社

C社

B社

A社

C社 B社

Y社 JT X社 Y社 JT

X社 Y社 JT

時価総額、買収資金調達力、独禁法の観点からの買収可能性分析によると、A社は買収する側、

される側の両方の可能性があり、B社・C社は買収される側(ターゲット)とみられていた。

X社はEUで40%のシェア

もっているためB社全部の

買収は困難。

地域のカブリが少ない CISが魅力的であろう

C社のシガレット部門のEBITDAの70%をフランス、スペインであげる

が、X社はすでにこの地域で高い

シェアがある。

英国市場は問題なさそうだ

が、X社はドイツで高い

シェアがあるためEU全体で

は問題になる可能性あり

買う側にはならない、 マネジメントから買収ターゲットとなりうる旨の発言あり 複数社によるC社買収ありうる

買う側にはならない、 買収ターゲットとなりうる

買う側になりうる 買収ターゲットにもなりうる

A社の時価総額は大きいが

JTは低金利の資金調達力

がある。 JTは中長期的視点から経

営陣に独立性をもたせるた

め、合理的な組み合わせ。

地理的カブリは問題ない。 ビッドに勝つに必要な資金

調達力があるかが問題。

A社、B社とも英国市場で

高いシェアがあるため、他

社(X社, Y社, JT)と共同

で買収することは可能。

出所:メリルリンチ アナリストレポートからmavalにて編集

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後日談:Gallaherを選んだ理由

1. 補完性の高さ(市場、ブランド等のポートフォリオ)

2. 友好的に買収できるか

3. 迅速に統合できるか

4. 財務的に手に負えるか

(規模が大きすぎず、自社格付けが大きく下がらないこと)

買収目的については3社とも満たしていたため、買収目的以外で対象が決

まった。選んだのは、B社(Gallaher)。

キーポイントは、「その企業を経営できるか?」にあった。

必要条件

十分 条件

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M&A案件の評価の観点

M&A案件は、買い手の事業戦略との整合性、ビジネスチャンスの大きさ、

実現可能性の観点から検討できる。

実現可能性 関係者にとって 良い話か

買い手にとっての ビジネスチャンス

ビジネス面での メリットがあるか

経営面での メリットがあるか

買い手の戦略 との整合性

事業戦略の コンセプト・方向性と

矛盾はないか

高利益率市場への参入と規模の経済によってJTの利益率を

向上する

2つの事業の組み合わせから売上高成長と業務効率化を実

現し、シナジー効果を向上させる

レバレッジを高め、JTの資本構成の効率性を改善する

買収から4年後に通期で加重平均資本コストを上回る投下

資本利益率(ROC)を達成する

買収後の初年度の通期の一株当たり利益(のれん償却前)

を高める

G社はマーケティングおよびブランドへの過少投資に陥っ

ている状況に手を打たなければいけなかった。

G社は利益をあげ、株価を上げよという投資家のプレッシ

ャーに曝されていた。

M&A案件評価の視点 JTによるGallaher社買収のケース注

地理的な補完関係がある

ブランド・ポートフォリオを拡大し、より多様

な顧客や消費者に応えることが可能になる

注:日本たばこ産業株式会社:巨大国内企業のグローバル化(B)P2-P3から

買収会社と被買収会社の両社の優れた点および 企業カルチャーの統合

詳細後出

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(参考)JTの地理別シェア

旧JTI市場シェア(2006年)

出典: AC Nielsen, JT

新JTI主要市場シェア(2006年)

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 55

Benelux

Turkey

Canada

Greece

France

Italy

Malaysia

Spain

Romania

Ukraine

Russia

Taiwan

Sweden

UK

Canary Islands

Austria

Kazakhstan

Ireland

f-JTIf-Gallaher

49.7 #1

41.8 #2 39.3 #1

39.1 #2 37.6 #1

33.9 #1 29.7 #2

37.5 #1

18.2 #2

39.2 #1

18.5

26.3 #2

15.3 12.9

12.1 11.2 10.9

12.3

(%) (%)

36.9

9.7

11.2

12.1

8.2

10.1

11.5

18.2

13.6

22.7

14.4

18.5

1.8

7.9

2.2

4

0.6

0.3

0 5 10 15 20 25 30 35 40

Benelux

Turkey

Canada

Greece

France

Italy

Malaysia

Spain

Romania

Ukraine

Russia

Taiwan

Sweden

UK

Canary Islands

Austria

Kazakhstan

Ireland

f-JTI

出所:「JT海外たばこ事業のグローバルM&Aと統合」、2012年12月4日講演資料から

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(参考)ブランドポートフォリオ Engine Stronghold Future Potential

f-GLHブランド

f-JTIブランド

• 強力でバランスのとれたブランドポートフォリオ • トップライン成長の機会

出所:「JT海外たばこ事業のグローバルM&Aと統合」、2012年12月4日講演資料から

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落とし穴に落ちないために:

execution

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バリュエーションとDD

DDは事業の経営実態の精査、Valuationは会社の価値算定

デューデリジェンスとバリュエーションの位置づけ

機密保持に基づき、売り手は買い手に事業計画や財務諸表、その他の資料を開示

財務

事業

デューデリジェンス バリュエーション

修正 事業計画

実態BS

企業価値

機密保持契約書 締結 ▼

事業計画

財務諸表

ビジネスDD リーガルDD ピープルDD 財務DD 不動産DD :

DCF法 市場株価法 マルチプル 時価純資産法 :

デューデリジェンスのアウトプットを基礎情報として価値を算定。最終契約書に反映。

M&Aのプロセス

DDによって、事業計画が修正され、

事業計画の出発点となる財務諸表

(特にBS)が実態に修正される。

M&Aのプロセス

バリュエー ション

買収・提携 目的の 明確化

交渉

契約 デューデリジェン

選択肢の 絞込み コンタクト クロージング

▲ 基本合意書

(機密保持契約) 締結

▲ 最終契約書

締結

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進化するDD

DDの目的は、「リスク」の発見と「チャンス」の創出。網羅性よりも論点重視。

リスク発見型DD シナジー創造型DD

財務諸表のチェック 売り手の事業計画の

実現性の評価 リスク項目の洗い出し

事業計画に盛り込む施策、

オペレーション改善項目、

組織運営方法の改善点の

抽出 組織の潜在力の顕在化

実施 内容

「リスク」の発見 「チャンス」の創出

概要

手法

過去実績を分析 ヒアリングベースで事実

(ファクト)を収集

買収企業および買収対象

会社の将来を担う人材を

チームアップし、セッ

ションを通して進行

“ディールブレーク要因 がないか”

“どうやって バリューアップするか”

ポストM&A検証DD

経営陣の組成案作成 KPIの設計 本社側の支援体制構築

マネジメントインタ

ビュー インセンティブ制度や

体系のレビュー

“どうやって 経営するか”

「ガバナンス」の検証

+ +

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グループ・ワーク

課題: 10分 グループワーク

DDの結果、ERPシステムについて、Gallaherが以前買収した会社との統合を進めていないことがわかりました。

あなたが買収担当者であれば、 クロージングに向けて、さらに何を実施しますか?

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30

後日談:ERP

ERPは、統合作業の負荷を高めることになったが、買収するか否かの判断

には影響を与えなかった。

買収価格へ反映 (定量化できるもの)

最終契約書へ反映 (定量化できないもの)

ディールブレイク (定量化できない、 かつ致命的なもの)

DD結果の反映

統合コストを見積もる

統合のアプローチ、スケジュールをざっくりと想定する

なぜ統合できなかったのか探る

本件、実際には、クロージング後にERP統合が未了であることが判明した。

統合作業をまとめて一度に実行すると、作業終了後に辞めてもらう従業員が一挙に

出てくることを考慮し、2段階に分けて実施した。

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DDの目的

DDを実施する際は、ディールの初期段階でM&Aの目的を確認し、 目的に応じた調査項目、スケジュールや体制を構築する。

リスクの洗い出し DDの目的

時価B/S(純資

産)の算定

ディールを有利に

進める為の情報収

集・分析

ディールストラク

チャー検討に 使用する情報

バリュエーション

に使用する情報

PMI計画策定に 使用する情報

買収価格へ反映 (定量化できるもの)

最終契約書へ反映 (定量化できないもの)

ディールブレイク (定量化できない、 かつ致命的なもの)

DD結果の反映

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買収価格はスタンドアロンバリュー以上

売り手の 価格の下限

セラーズ バリュー

DDによる 発見事項

アップサイド シナジー

ダウンサイド シナジー

防衛 価値

バイヤーズバリュー

スタンド アロン バリュー

通常案件

売り手優位のビット案件 (クロスボーダーM&A)

売り手窮地ケース

売り手と 買い手の関係

買い手の 価格の上限

売り手が圧倒的に 交渉優位にある

クロスボーダーM&Aでは、過大なセラーズバリューからスタートし、買収価格も

その近辺に落ち着くことが多い。

このレンジで決まる

適正な買収価格 (払い過ぎないこと)

Change of Control

独禁法 等

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想定するシナジー効果は、短期的かつ実現性の高いモノのみ

実現可能性が高く、短期的(長くとも5年以内)に効果の現れやすいシナ

ジー項目のみ考慮する。 クロスボーダーM&Aでは、Quick Hitsを効果的に活用すべき。

生産工場 の集約

材料費の ボリューム ディスカウント

クロスセル による

売上向上

研究開発 費用の 相互負担

1年 X年 5年 実現の時間軸

シナジー実現可能性

営業 拠点集約 人材の

流出

技術融合/ ブランド 共有

重複 人員削減

顧客の 外部流出

物流効率 の向上

*円の大きさは NPVを表す

シナジー

ディスシナジー

➔グローバルM&Aでは、早期にQuick Hits創出

を実現させ、社内で大きく宣伝すること

➔Quick Hits のテーマは、DDの段階から準備

しておくこと。

教育

Quick Hits

システム 統合

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後日談:Gallaher買収のシナジー効果

早期に確実に効果が出たのは、コストシナジーだった。

アップサイド シナジー

ダウンサイド シナジー

バイヤーズバリュー

スタンド アロン バリュー

10:1

組織の統廃合による 人員削減効果

(本社、営業拠点、 生産拠点)

重複コスト削減効果 (研究開発費用、物流、 マーケティング費用)

6:4

コストシナジーは2年以内に成果

研究開発やマーケティング費用は、 前株主の方針で当初から削られていたため、

効果は小さかった。

ERPの統合は、2段階に分けて、JTIのシス

テムにギャラハーを組み込んだた。最初の

統合は、JTIのプレゼンスが高い地域(2年

で完了)、2段階目はギャラハーのプレゼ

ンスが高い地域(3年で完了)。一度にリ

ストラ対象となる人員を大量に出さないた

め。

工場の統廃合は2年以内に完了。

「人員削減」と「営業拠点集約」は、1年

以内に終了

材料費のボリュームディスカウントによる

シナジー効果は小さかった(PPTフィルム

など市場によってスペックが異なるため)

2008年3月期第一四半期公表資料

コストダウンシナジーは、2010年3億US

ドルを超える

トップラインシナジーは、2010年に少なく

とも1億USドルを創出、将来的にはコス

トダウンシナジーを凌駕する規模を目指す

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4種類の事業計画

アップ サイドの

シナジー効果

ダウン サイドの

シナジー効果

バイヤーズバリュー

スタンドアロン

バリュー

スタンド アロン計画

買い手作成

? ? ?

セラーズ バリュー

DDによる 発見事項

事業計画

対象会社(売り手)作成

入札での上限値 売り手の 売却希望価格

掛け値なしの 実力値

シナジー込み の計画

買い手作成

経営陣が コミットする計画

買い手・ 対象会社作成

① ② ③ ④

▲ 契約

▲ クロージング

対象会社の経営陣にコミットしてもらう事業計画を策定することが必要。

シナジー効果込みの子会社が合意、コミットする事業計画であること

評価指標に組み込むことで実行の蓋然性を高める

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DAからDay1の期間が重要

対象会社に関する情報量が圧倒的に増える“DA以降Day1まで”の過ごし

方がM&Aの成否を分ける。

買収後

事業精査フェーズ 買収検討フェーズ PMIフェーズ 買収興味フェーズ

情報量

時間

DDが始まると、一定の内

部情報が手に入るため、情報量が増える

買収後は、全ての内部情報が 手に入るため、DD時よりも情

報量が格段に増える

買収前

▲ Day1

▲ DA

セカンドDDの実施: 想定したシナジー効果とその実現に向けた行動計画の作り直し 事業計画の見直し 買い手と子会社経営陣との間での目標設定 経営ガバナンス構造の設計と導入 徹底した意識改革

この期間、 買い手と対象会社の経営陣は、 朝から晩まで休日も一緒に 過ごすこと!

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JTの事業計画策定

RJRI買収時の統合計画 Gallaher買収時の統合計画

策定時期

「従業員に悪影響を及ぼすこととなった」「従業員の士気は低下していました。計画を策定するためにあまりに多くの時間をかけすぎたのです」(ケース(A) P12から)

具体的 アクション

統合運営委員会の組成 各事業分野と地域の統合事務局

(TMO)の連絡窓口を通してサ

ポート

契約締結後8か月後 (ケース(A) P8から)

100日後 (2007.4.18クロージング、8.10 統合計画発表)

統合の10原則(十戒)公表

主要な経営陣のインタビューと任命

100日プラン

統合委員会(ISC)組成、47のタスク

フォース

従業員集会(ロードショー)

「買収後の統合スピードが、M&Aの成否に大きく影

響することを熟知していた」「統合を迅速に進めるために、ギャラハーとの統合計画の実行の責任を現場にいるJTIに託した」(ケース(B) P8から)

RJRI買収時の反省点がGallaher買収時にいかされた。

マーケットおよび社内への 十分なコミュニケーション 十分な準備、統合を考慮

した買収と素早い統合

引用部分:日本たばこ産業株式会社:巨大国内企業のグローバル化(A)(B)

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落とし穴に落ちないために:

ポストM&A

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シラケ

不安・悲しみ

怒り

M&A取引の交渉中、対象会社の企業価値は揺れ動く。

対象会社社員の心理状態

対象 会社

M&A前

企業 価値

クロージング ポストM&A

通常ディールの最中に、対象会社の従業員にディールの存在について知らせることはない。インサイダー情報の問題が絡むことがある。

しかしながら情報は洩れる。情報管理が大きな課題。

ディールについて知っている(知ってしまった)対象会社の社員のケアも課題

シナジー効果

ポストM&A

頑張ろう!(躁状態) (鬱状態)

対象会社にとってもオーナー交代は 変革のきっかけになる

買収後の統合シナジーの 徹底的追求

「JTの経営陣は、買収完了後の統合スピードが、M&Aの成否に大きく影響することを熟知していた」 (ケース(B) P8から)

引用部分:日本たばこ産業株式会社:巨大国内企業のグローバル化(A)(B)

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グループ・ワーク:課題

グループワーク

JTはGallaher買収に伴い、旧JTI、旧Gallaher社の社員に、足元の事業、業務をおろそかにすることなく、統合に邁進してもらえるよう、社内コミュニケーションを行う方針です。

あなたがJTの新貝氏だったら、買収後の社員の心理状態を考慮し、どの要素(コンテンツ)をどのタイミングで、どのような手段を用いてコミュニケーションしますか?また、その為に、どのような注意を払いますか。

課題: 20分

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後日談:辞めてもらう人たち

ポストM&Aでは、COO(JT), CFO(JTI), HR(JTI), M&A担当(JTI), Internal Communication担当(JTI)の5名がキーパーソン。特にInternal Communication担当が重要

スキルがあり、パフォーマンスを上げられ、統合に不可欠な人材だが、JTと肌が合わない人

②のグループの人材とは、統合作業が終了したら円満に辞めてもらうよう、事前に約束していた

クロージング ▼

DD

統合 ▼

③ パフォーマンスを上げられ、

JTの価値を大切にしてくれる人

「統合を実行する段階が最もリスクも高いものだ。もし統合に失敗したら、いくら計画上ではバラ色の買収であっても、それが悪夢に化してしまう可能性もあるのだ」(ケース(B) P7から)

「迅速に統合を進めなければ、変な噂が広がり、従業員の士気が損なわれ、事業全体に悪影響を及ぼす可能性があった」「さらに恐いのは有能な人材が会社を辞めてしまうことだった (ケース(B) P8から)

被買収会社の経営陣と 人材の活用

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後日談:経営陣の顔ぶれ

新生JTIの経営陣は、結果的に多くがRJRI時代からの経営陣となった。

出所:JTホームページ等

RJRI買収後 (1999年6月) Gallaher買収後 (2007年4月) 2年後(2009年6月)

新メンバー

メンバー 役職 出身

Pierre de Labouchere 社長兼 CEO RJR

Jean-Francois Leroux

シニア・バイス・プレジデント CFO 及び財務 RJR

Thomas A. McCoy エグゼクティブ・プレジデント

CIS/バルト海/中東/アフリカ/免税市場

RJR

Rene den Admirant エグゼクティブ・プレジデント ヨーロッパ RJR

Povl van Deurs Jensen

エグゼクティブ・プレジデント アメリカ RJR

Nick Masson シニア・バイス・プレジデント マーケティング/販売/経営戦略

RJR

Jacj Koach シニア・バイス・プレジデント

最高法務責任者及びコーポレート・アフェアーズ

RJR

Axel Hesslenberg シニア・バイス・プレジデント ビジネス・サポート/イノベーション

RJR

Martin G. Bourbonnais

シニア・バイス・プレジデント 人事/コーポレート・セキュリティ RJR

John Mattern シニア・バイス・プレジデント グローバル・サプライ・チェーン RJR

木村 宏 エグゼクティブ・プレジデント

ビジネス・ディブロップメント・及び 副 CEO

JT

江並 健一 エグゼクティブ・プレジデント アジア・パシフィック JT

伊藤 映仁 シニア・バイス・プレジデント 特命/統合

JT

早道 信治 バイス・プレジデント CFO 補佐 JT

櫛山 両蔵 シニア・バイス・プレジデント 製品開発/品質管理 JT

メンバー 役職 出身

Pierre de Labouchere 社長兼 CEO RJR

Jean-Francois Leroux

シニア・バイス・プレジデント 財務/情報技術/CFO RJR

Thomas A.McCoy COO RJR

Martin Braddock

Regional President CIS/バルト海/アドリア海/トルコ/ルーマニア/

免税市場 RJR

Hans-Gerd Hesse Regional President アジア・パシフィック RJR

Fadoul Pekhazis Regional President 中近東/アフリカ RJR

Paul R. Bourassa シニア・バイス・プレジデント 最高法務責任者及びコーポレート・アフェアーズ

RJR

David J.Aitken シニア・バイス・プレジデント コンシューマー&トレード マーケティング RJR

Jorg Schappei シニア・バイス・プレジデント 人事 RJR

Bill Schulz シニア・バイス・プレジデント グローバルサプライチェーン

RJR

Frits Vranken シニア・バイス・プレジデント ビジネス ディベロップメント RJR

新貝 康司 エグゼクティブ・バイス・プレジデント 副 CEO JT

Roberto Zanni Regional President ヨーロッパ JT

阿部 雅春 シニア・バイス・プレジデント リサーチ&ディベロップメント JT

Michel Poirier Regional President アメリカ JT

Stefan Fitz Regional President 中央ヨーロッパ/ 北欧 Gallaher

Eddy Pirard Regional President 英国/アイルランド/ OTP Gallaher

メンバー 役職 出身

Pierre de Labouchere 社長兼 CEO RJR

Thomas A.McCoy COO RJR

Martin Braddock Regional President CIS/アドリア海/ルーマニア RJR

Hans-Gerd Hesse Regional President アジア・パシフィック RJR

Fadoul Pekhazis Regional President 中近東/アフリカ/Turkey and WWDF RJR

Paul R. Bourassa シニア・バイス・プレジデント 最高法務責任者及びコーポレート・アフェアーズ RJR

David J.Aitken シニア・バイス・プレジデント コンシューマー&トレードマーケティング RJR

Jorg Schappei シニア・バイス・プレジデント 人事

RJR

Bill Schulz シニア・バイス・プレジデント グローバルサプライチェーン RJR

Frits Vranken シニア・バイス・プレジデント ビジネス ディベロップメント/経営戦略 RJR

新貝 康司 エグゼクティブ・バイス・プレジデント 副 CEO/CFO

JT

Roberto Zanni Regional President 西・南ヨーロッパ/バルト海 JT

柴山 武久 シニア・バイス・プレジデント リサーチ&ディベロップメント JT

Michel Poirier Regional President アメリカ JT

Stefan Fitz Regional President 中央ヨーロッパ/北欧 Gallaher

Eddy Pirard Regional President 英国/アイルランド Gallaher

JTI S.A エグゼクティブ・コミッテイー・メンバー

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受講者へのメッセージ

通常業務・お客様から目を離さない

人材を出自に係わらずに公正にフェアに処遇する

ポストM&Aにおける、当事者意識の鼓舞

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(参考)統合委員会

統合委員会および統合事務局からなる統合管理体制をジュネーブに組織 タイムリーで明確な方針の打ち出しに、統合委員会が多大に寄与

Integration Steering Committee (ISC)

Integration Management Office (IMO)

統合委員会

統合事務局

業務執行役員

Excom Members

Taskforces

統合委員会の役割

• 統合方針の決定

• 統合の骨格となる主要事項の意思決定(委員会は週一回開催)

統合事務局の役割

• 統合作業ガイダンスの作成

• 円滑な統合作業の促進とサポート

• ベスト・プラクティスの共有

• Taskforces進捗状況および統合シナジーのモニタリング

出所:「JT海外たばこ事業のグローバルM&Aと統合」、2012年12月4日講演資料から

マーケットおよび社内への 十分なコミュニケーション

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(参考)統合の十原則「十戒」

1. 一つの会社に、一つのマネジメント

2. 出身に係わらず、全従業員に対する公平で公正な扱い

3. 迅速な意思決定-“80/20ルール”

4. できるたけ簡潔に

5. 事業計画の達成を最優先

6. 通常業務の混乱を最小化

7. 体系的にシナジーを捕促

8. 独立した統合管理体制。一方、その結果責任はすべて経営委員会メンバーが負う

9. 外部アドバイザーに頼らず、社内で統合完遂

10.100日間での統合計画の策定

出所:日本企業のクロスボーダーM&A 伊藤友則 一橋ビジネスレビュー 2012SUM

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JTの事例に見る10の成功要因

1. 明確な戦略のビジョン

2. 経営トップの強いリーダーシップとコミットメント

3. 適正な買収価格(払い過ぎないこと)

4. 被買収会社の経営陣と人材の活用

5. 被買収会社への権限委譲とコントロールのバランス

6. 買収会社と被買収会社の両社の優れた点および企業カルチャーの統合

7. 十分な準備、統合を考慮した買収と素早い統合

8. マーケットおよび社内への十分なコミュニケーション

9. 買収後の統合シナジーの徹底的追求

10.アドバイザーの賢明な活用

出所:日本企業のクロスボーダーM&A 伊藤友則 一橋ビジネスレビュー 2012SUM

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対象会社からみたJT

良い買い手として日本企業の良さをもっと海外にアピールできるのではな

いか?

「RJRIを買収した際に、JTは自分たちのやり方や

価値観を尊重してくれ、その結果、買収はうまく

いきました。」

「高飛車でなく、傲慢でない心構え。」

「私がJTから学んだことは、謙虚さが強みとなる

ことでした。それはアメリカの大学では学べない

ことです」 (ケース(B) P7から)

「JTが買い手になってくれて従業員は非常に満足

していた」

「JTは、ジュネーブに多くの人員を送り込むこと

もできたでしょう。またJTIのすべての拠点に人を

送ることもできたでしょう。しかし、彼らはそれ

をしませんでした。私から見ると、それが成功要

因でした。JTは自らを自制したのです・・・」 (ケース(A) P10から)

引用部分:日本たばこ産業株式会社:巨大国内企業のグローバル化(A)(B)

当時のJTI CEO( Pierre de Laboucher 氏)のコメント

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Q&A,ラップアップ

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© 2013 maval partners Inc. 49

M&Aは成功させられる!

M&Aを成功に導くKFS(Key Factor for Success)は、以下の3つ。

経済合理性 (どのように買うべきか)

シナジー実現性 (買収後にどう効果を出すか)

戦略整合性 (なにを目的として買うのか)

勝ちパターン(突破口)を構築するために、M&Aでどのような機能

を充足する必要があるのか?

貴社が最低限求める企業としての体は何か? (顧客基盤、真似できない技術、人材の質、等)

戦略を機能させるために、どのような経営体制が必要か?

買収後に、貴社グループ企業として、どのようなサービス体制に

なるかが想定できているか?

サービスを実現するための、組み方(出資スキーム)は?

買収価格のフォールバックポイントは?

当該企業とのシナジー効果(定性・定量面)はどの程度か?

見えないコストは無いか? (メーカー子会社であれば、管理費用、出向者の人件費等)

自前で構築するよりも安く実現できるのか?

M&Aを実施する前に明確に答えられるべき“問い”

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本日のカリキュラム

戦略から統合(その後の経営を含む)までのM&A案件全体を俯瞰的にとらえ

る4時間のコースでした。

オリエンテーション

Q&A・ラップアップ

14:00

14:30

18:00

【M&Aのプロセスと プレイヤー】

【落とし穴に 落ちないために】

プレM&A

休憩(10分)

座学

ケース&三択& ディスカッション

M&Aのプロセス、外部プレイヤー(FA、DDA等)の賢い起用方

法、起用目的、依頼にあたっての留意点を解説 FA(Financial advisor), DDA(DD Advisor)

オープニング、アイスブレーク、自己紹介 等

「何の目的でM&Aするのか?」を明確にすることの重要性がテー

マ(ケース&ディスカッション)

DD、バリュエーションが焦点。DDではスコーピング、バリュ

エーションでは価値の解釈がテーマ (三択&ディスカッション)

対象会社とのコミュニケーション、買い手の理念や戦略の浸透、対

象会社の経営陣に対するモニタリングがテーマ (ケース&ディスカッション) JT新貝氏による経験談

execution

ポストM&A

全体に関するQ&A、クロージング 等

【M&A力診断結果】 事前に回答頂いたアンケート調査結果の共有(社名なし)

CA BC

A B

特別ゲスト経験談

16:20

17:30

再掲

JTのビジネス・ケース については事前配布

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M&A 疑似体験研修プログラム 開催日:平成 25 年 12 月 12 日

~ 受講者アンケート ~

本研修プログラムにご参加頂き誠にありがとうございました。お手数ですが、以下の設問にご回答をお願いします。

お名前: 会社名:

1: 本プログラム内容の満足度をご教示ください(当てはまるものに○を付けて下さい)

大変満足 満足 普通 やや不満 不満足

第Ⅰ部 プレ M&A 5 4 3 2 1

第Ⅱ部 Execution 5 4 3 2 1

第Ⅲ部 ポスト M&A 5 4 3 2 1

特別ゲストからのフィードバック(含む質疑応答) 5 4 3 2 1

研修プログラムの内容全体(総合) 5 4 3 2 1

※ 上記点数の理由等につき、コメントをご記載願います

2: 本プログラム内容は、理解しやすいものとなっておりましたか?(当てはまるものに○を付けて下さい)

a) 完全に理解できた b) 大体理解できた c) あまり理解できなかった d) 非常に理解がしにくかった

※ 解りにくかったところ、理由などについてご記載願います

3: 本日の内容は本プログラム企画趣旨(下記)に合致しているでしょうか?(当てはまるものに○を付けて下さい)

非常に 概ね 部分的に あまり 全く

合致 合致 合致 合致せず合致せず

1. 戦略から統合(PMI)までの M&A の一連のプロセスに 5 4 3 2 1

関する検討を疑似的に体験する機会となること

2. (個別実務の担当者視点ではなく)経営者の視点から 5 4 3 2 1

M&A を俯瞰的に捉え、対象企業をどのように経営したい

のかを自身の問題として捉え直す切り口を得ること

※ 上記点数の理由等につき、コメントをご記載願います

4: 本日のプログラムの開催形態等につき、ご教示ください(当てはまるものに○を付けて下さい)

研修参加者(全体)の人数 a) 丁度良い / b) 多すぎる / c) 少なすぎる

研修参加者(チーム)の人数 a) 丁度良い / b) 多すぎる / c) 少なすぎる

研修当日の時間枠設定 a) 丁度良い / b) 長すぎる / c) 短すぎる

研修事前の事前準備期間 a) 丁度良い / b) 長すぎる / c) 短すぎる

(ケース資料の読込み、当日課題の事前通知等)

※ 上記選択の理由や、その他開催形態等につき、お気づきの点があればコメントをご記載願います

(裏面につづく)

【別紙2】

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M&A 疑似体験研修プログラム 開催日:平成 25 年 12 月 12 日 5: 本プログラムと同等内容の研修プログラムが今後提供された場合、貴社のご同僚・部下や知人に、

本プログラムへの参加を、ご推奨頂ける内容でしょうか?

(当てはまるものに○を付けて下さい。複数回答可)

a) 幅広い方に推奨できる b) 限られた対象となるが推奨できる(具体的に: )

c) あまり推奨できない(推奨に値しない)

d) (今回のように)無料の機会であれば推奨できる e) 推奨したいが参加する(させる)時間を割くのが困難

f) 推奨する対象が思いあたらない g)その他(具体的に: )

※ 上記選択の理由やボトルネックとなる点等につき、コメントをご記載願います

6: 最後に、本プログラム全体について、ご意見や改善点のご指摘がございましたらお聞かせください。

~ 研修でお疲れのところ、ご協力ありがとうございました ~ なお、本研修プログラムは、経済産業省経済産業政策局産業資金課による平成 25 年度調査委託事業(受託事業者:株式会社マー

バルパートナーズ)の一環として企画・実施されておりますため、本研修プログラムの今後の改善・発展を目的として、後日、本アンケ

ートのご回答内容について、事務局(産業資金課、または受託事業者)担当者より、必要に応じて個別に詳細についてお伺いをさせ

て頂く場合がございますこと、お含みおきください。お手数ですが、その際はご協力のほどお願い申し上げます。

以上