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Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/ Title Mineral trioxide aggregate �� : �mRNA Author(s) �, �; �, �; �, Journal �, 105(3): 212-219 URL http://hdl.handle.net/10130/171 Right

Mineral trioxide aggregate における骨芽細胞様細胞の 中山, …ir.tdc.ac.jp/irucaa/bitstream/10130/171/1/105_212.pdfMineral trioxide aggregate における骨芽細胞様細胞の

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Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College,

Available from http://ir.tdc.ac.jp/

Title

Mineral trioxide aggregate における骨芽細胞様細胞の

動態 : 形態学的観察およびⅠ型コラーゲン,骨関連タン

パクのmRNA 発現について

Author(s) 中山, 敦; 松坂, 賢一; 井上, 孝

Journal 歯科学報, 105(3): 212-219

URL http://hdl.handle.net/10130/171

Right

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抄録:本研究の目的は,Mineral trioxide aggregate

(MTA)の培養ラット骨芽細胞様細胞(RBM)に対す

る細胞動態を調べることである。ラット大腿骨から

採取したRBMをMTA上で3日間培養を行った。

走査型電子顕微鏡観察において,MTA上の RBM

はその細胞質を伸展させて微小突起と核の膨化を示

さず静着していた。透過型電子顕微鏡観察では,対

照群と同様に基質に接着していたが,基質との間に

2μm以上のギャップ形成がしばしば見られた。ア

ルカリフォスファターゼ活性は対照群と類似してい

た。Ⅰ型コラーゲンのmRNA発現は有意に低下

し,反対にオステオポンチン(OPN)のmRNA発現

は有意に上昇していた。以上の結果より,MTAは

RBMの増殖を阻害しない毒性の低い材料ではある

が,RBMの分化を抑制すると考えられた。

緒 言

外科的根尖切除術は,切除後根尖部の治癒を促す

逆根管充填材で充填することによって側枝や分岐根

管から根尖周囲組織への漏洩を防ぎ,硬組織による

根尖の封鎖を期待するものである1,2)。

Gartner,Dron らは理想的な逆根管充填材とし

て操作性が良く,X線不透過性で,構造的に安定

で,非吸収性で毒性がなく生体親和性を有する材料

で,根尖切除面にセメント質,歯根膜,歯槽骨の関

係を再生させることで,根尖周囲組織の理想的な治

癒を可能にすると述べている3)。

これまで逆根管充填材としてアマルガム,コンポ

ジットレジン,酸化亜鉛ユージノールセメント,グ

ラスアイオノマーセメント,ポリカルボキシレート

セメント,ガッタパーチャなどが用いられてき

た4)。しかし,いずれも上記を満たす材料は存在し

ない。

MTAは1993年にToravinejad らによって紹介さ

れ,逆根管充填材だけでなく歯根穿孔部位の修復,

直接歯髄覆罩などにも応用されてきた5)。過去の組

織学的研究において歯周組織や人為的骨欠損に対し

て本材を応用した際に,材料に近接してセメント質

や骨の形成を認めたとの報告6~13)や,in vitro の研

究においてヒト骨芽細胞様細胞MG63,Saos-2 が

MTAに対して直接静着できる生体親和性の高い材

料であると報告されている14~18)。根尖切除後の創傷

治癒にはたらく主な細胞の1つとして歯根膜細胞が

あり17),もし仮に歯根膜細胞がマトリックスタンパ

クと共にMTAに接着すると,セメント芽細胞に分

化し,切除面の象牙質とMTA上にセメント質を形

成する可能性がある。この過程は創傷治癒における

重要な要素で,細胞の増殖および分化に影響を及ぼ

キーワード:MTA・骨芽細胞様細胞・mRNA発現日本大学歯学部保存学教室歯内療法学講座1)(主任:伊藤公一教授),東京歯科大学口腔科学研究センター,臨床検査学研究室2)(主任:井上 孝教授)(2005年2月14日受付)(2005年3月30日受理)別刷請求先:〒101‐8310 東京都千代田区神田駿河台1‐8‐13

日本大学歯学部保存学教室歯内療法学講座 中山 敦

本論文は,International Endodontic Journal,38,203~210,2005.に掲載された論文を和文により二次出版したものである。

二次出版

Mineral trioxide aggregate における骨芽細胞様細胞の動態―形態学的観察およびⅠ型コラーゲン,

骨関連タンパクのmRNA発現について―

中山 敦1) 松坂賢一2) 井上 孝2)

212

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す18)。しかし,MTA周囲の細胞動態については未

だ報告が少ない。

本研究の目的は,MTA上の RBMにおける細胞

動態を形態学的,ALP活性およびⅠ型コラーゲン

と骨関連タンパクのmRNA発現を検索することで

ある。

材料および方法

1.MTAの溶出イオン測定

一定の混水比に従ってMTA(Pro RootTM MTA

Root Canal Repair Material, Dentsply Tulsa Den-

tal)を混和し,60mm培養皿(Corning)上の中心に

直径約10mmの円になるように塗布,硬化させた。

混和約24時間経過後,培養皿に pH7.2に調整した

9ml の滅菌蒸留水を入れ,5%CO2,37℃の条件

下にて静置した。1,2および3日後,培養皿から

蒸留水を回収し,その溶液中に溶出したカルシウ

ム,リン,アルミニウム,ケイ素およびビスマスの

イオンを ICP 発光分光分析装置(Vista-MPX,セイ

コーインスツルメント)にて測定した。

2.細胞培養および培養液の pH測定

全ての実験は東京歯科大学動物実験指針に基づい

て行った。RBMはManiatopoulos ら19)の 方 法に

準じて約100gのWistar ST 系雄性ラット(三協

ラボ)大腿骨より採取した。細胞は10% fetal calf se-

rum(Sigma),50mg/ml ascorbic acid(WAKO),10

mM Na β-glycerophosphate(Sigma),10-8 M dex-

amethasone(WAKO),10mg/ml gentamicin(Sigma)

添加 α-minimal essential medium(α-MEM,Gibco)

にて5%CO2,37℃条件下で7日間初代培養した。

MTAおよび IRM(Dentsply Caulk)を各々混和

し,35mm培養皿(Corning)上の中心に直径約10mm

の円になるように塗布,硬化させた。混和約24時間

経過後,エチレンオキサイドガス滅菌を行い,1週

間室温で放置した。その後,それらの培養皿にRBM

(1.0×105個)を播種し,上記の培養液を用いて3日

間培養を行った。なお,便宜的に,これらの細胞を

MTA塗布群または IRM塗布群と呼び,非塗布で

培養した細胞をコントロールとした。

培養1,2および3日後に各々の実験群の培養液

を回収し,twin pH メータ(堀場)を用いて pHを測

定した。

3.培養細胞の形態学的観察

材料周囲のRBMは培養3日間とも位相差顕微鏡

で観察した。また,材料上のRBMは走査型電子顕

微鏡(日本電子,以下 SEM)にて観察するため,2%

グルタールアルデヒドを用いて4℃の条件下で1時

間固定し,エタノールで脱水,テトラメチルシラン

(Merck KGaA)で乾燥させた。その後,sputter-

coater(Bio-rad)にて金および亜鉛蒸着を行い,観察

した。

また,RBMの材料に対する静着状態を透過型電

子顕微鏡(Hitachi,以下TEM)にて観察するため,

RBMを2%グルタールアルデヒドにて固定後2%

オスミウムで約1時間後固定した。その後,エタ

ノールで脱水し,Epon812に包埋した。試料はウル

トラミクロトーム(Leica)に培養皿に対して垂直に

取り付け,ダイヤモンドナイフ(DiATONE)を用い

て超薄切片を作製し,グリッド上に回収し,ウラン

鉛染色を行い,観察した。

4.細胞増殖の測定

培養1,2および3日後,各々のRBMを PBS

(Gibco)で洗浄し,pH7.2に調整した0.1% trypsin

添加 EDTA溶液にて培養皿より剥がし,細胞数を

Coulter Counter(Beckman Coulter)で測定した。

有意差の検定は一元分散分析を行った後に,コン

トロール,IRM塗布群との比較を Scheffe’s test を

用いて行い,有位水準はいずれも p<0.05とした。

5.アルカリフォスファターゼ(ALP)活性の測定

培養1,2および3日後,各々のRBMを剥が

し,10分間超音波処理した後,2400×gで10分間遠

沈させた。96穴プレート(NUNC)に分注した細胞溶

解液100µl に対して,5mM p -nitrophenol phos-

phate(Sigma)100µl を37℃,1時間作用させた後,

0.3M NaOH 100µl で反応を停止させ,その吸光度

を波長405nmにてマイクロプレートリーダー(Bio-

Rad)で測定した。なお,buffer は,alkaline buffer so-

lution(pH10.5,Sigma)を用いた。

総タンパク量の測定はBCA protein assay キット

(Pierce)を用いた。96穴プレートに分注した細胞溶

解液100µl に対して,BCA working regent100µl を

37℃,30分間作用させた後,同様に吸光度を波長595

nmにて測定した。

各々のALP活性の値は下記に示す式にて計算し

歯科学報 Vol.105,No.3(2005) 213

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た。

ALP活性= ALP濃度(µmol|ml)総タンパク量(µg|ml)×

1反応時間(s)

6.定量RT-PCR 法によるmRNA発現の検索

培養1,2および3日後,各々のRBMをTRIZOL

(Invitrogen)を用いて剥がし,クロロホルムを加え

16,000×gで20分間遠沈させた。さらにその上清を

回収し,イソプロピルアルコールを混合させ,-80℃

で一昼夜保存した。その後サンプルを16,000×gで

20分間遠沈し,沈殿したRNAを75%アルコールに

て洗浄し,DEPC水に溶解させ,使用するまで-80℃

で保存した。RNAを紫外可視分光光度計(島津製作

所)にて測定し,cDNAを合成するため,RNAを

調整し,RT-PCR キット(タカラバイオ)を用いて

RT反応をさせた。定量 PCRはⅠ型コラーゲン,

アルカリフォスファターゼ(ALP),オステオポン

チン(OCN),オステオカルシン(OCN)とハウス

キ ー ピ ン グ 遺 伝 子 と し て glyceraldehyde-3-

phosphate dehydrogenase(GAPDH)を対象とし,

各々に対する特異的プライマーを用い,LightCy-

cler�と SYBER Green Ⅰ(Roche Diagnostics)に

よって行った。プライマーの配列と PCRの条件は

Table1に示した。なお,計測は3個の培養皿につ

いて行い,各々の遺伝子発現レベル(gene expres-

sion levels)は GAPDHで補正し,平均値と標準偏

差を算出した。

有位差の検定は一元分散分析を行った後に,コン

トロールとの比較を Scheffe’s test を用いて行い,

有意水準p<0.05とした。

結 果

1.MTAの溶出イオン測定

硬化したMTAから3日間でカルシウムが130

ppm,ケイ素が80ppm,微量のリン(0.1ppm),ア

ルミニウム(0.3ppm),ビスマス(0.3ppm)の溶出が

認められた(Fig.1)。

2.培養液の pH測定

MTA塗布群の培養液の pHは培養3日間を通し

て,約7.5と安定しており,実験前の pH7.2と比較

すると,大きな変化は認められなかった。

3.形態学的観察

1)位相差顕微鏡所見

コントロールでは,線維芽細胞様の紡錘形を呈し

たRBMが認められた。MTA塗布群では,コント

ロールと同様に線維芽細胞様の紡錘形を呈した

RBMが認められた(Fig.2)。一方,IRM塗布群で

は,ほとんどのRBMは球状形態を呈し,培養液中

に浮遊した状態であった。

Table1 PCR Primers used for LightCycler�-assisted PCR analysis

Targer cDNA Primer Sequence(5’to3’) PCR Condition Product size

type Ⅰ collagen Forward:CAA GAC AGT CAT CGA ATA CA 45cycles,95℃10s,66℃10s,72℃10s 252bpReverse:AGT CCA TGT GAA ATT GTC TC

alkaline phosphatase Forward:GGC TCT CTC CAA GAC GTA CAA C 45cycles,95℃10s,66℃10s,72℃10s 230bpReverse:GCG TGG TTC ACC CGA GTG GT

osteopontin Forward:CTC GGA GGA GAA GGC GCA TTA 45cycles,95℃10s,60℃10s,72℃12s 207bpReverse:CCA TCG TCA TCG TCG TCG TCA

osteocalcin Forward:GGT GCA AAG CCC AGC GAC TCT 45cycles,95℃10s,60℃10s,72℃12s 199bpReverse:GGA AGC CAA TGT GGT CCG CTA

GAPDH Forward:TGA ACG GGA AGC TCA CTG G 40cycles,95℃10s,60℃10s,72℃12s 307bpReverse:TCC ACC ACC CTG TTG CTG TA

Fig.1 Measurement of ions released from MTA

硬化したMTAから3日間でカルシウムが約130ppm,ケイ素が約80ppmの溶出が認められた。

中山,他:MTAの培養ラット骨髄細胞における影響214

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2)走査型電子顕微鏡所見

コントロールのRBMは細胞質を伸展させ,多く

の微小突起を四方に伸ばしている像が観察された

(Fig.3)。MTAの表面形状は凹凸で不整形な隆起

状形態を呈しており,MTA上の RBMは細胞質を

伸展させて静着していたが,微小突起や核の膨隆は

認められなかった(Fig.4)。一方,IRM塗布群で

は,材料上に静着したRBMは認められなかった。

3)透過型電子顕微鏡所見

コントロールのRBMは,培養皿に対して focal

contact,focal adhesion および extracellular matrix

(ECM)を介して接着していた(Fig.5)。MTA上の

RBMの細胞質内にはよく発達した小胞体,ミトコ

ンドリアおよびリボゾームが観察された。また

RBMは,粗造な表面形状を呈するMTAでは,そ

の凸の部分において focal adhesion で接着し,凹の

部分では接着していなかった(Fig.6)。

4.細胞数の測定

コントロールにおいて,培養期間中の細胞数は経

日的に増加した。MTA塗布群においても,増加傾

向を示したが,コントロールと比較すると,その増

加率は有位に低かった。一方,IRM塗布群では,

細胞は激減しており,有意な生細胞は認められな

かった(Fig.7)。

5.ALP活性の測定

MTA塗布群におけるALP活性値は,コント

ロールとほぼ同様に経日的に上昇していた。一方,

IRM塗布群では,実験期間を通して全くその活性

は認められなかった(Fig.8)。

6.定量RT-PCR 法によるmRNA発現の検索

MTA塗布群では,Ⅰ型コラーゲンのmRNA発

現は有意に低かった(Fig.9)が,ALPのmRNA発

現はコントロールとほぼ同様であった(Fig.10)。

OPNのmRNA発現は有意に高かった(Fig.11)が,

OCNのmRNA発現は検出感度以下であった。一

方,IRM塗布群では,有意な生細胞が認められな

かったことから,実験に必要なRNA量を採取でき

なかった。Fig.2 Phase contrast micrograph of RBM around MTA(×40)

MTA塗布群の位相差顕微鏡像において,35mm培養皿の底面に紡錘形を呈したRBMが密集して静着し,MTAの辺縁にも付着した細胞が観察された。

Fig.3 SEM observations in the control groups Fig.4 SEM observations in the MTA groups

培養3日目のコントロールの SEM像において,RBMは細胞質を伸展させ静着し,核の膨隆や多くの微小突起を四方に伸ばしているのが観察された。

培養3日目のMTA塗布群の SEM像において,RBMは細胞質を伸展させ静着していたが,核の膨隆や微小突起は認められなかった。

歯科学報 Vol.105,No.3(2005) 215

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Fig.5 TEM observations in the control groups(the barindicates 1µm)

Fig.6 TEM observations in the MTA groups(the bar in-dicates 1µm)

コントロールのTEM像において,培養皿に対して fo-cal contact(�),focal adhesion(�)およびECMを介して接着していた。

MTA塗布群のTEM像において,矢印の部位では fo-cal adhesion で接着していた。

Fig.7 Cell proliferation Fig.8 ALP activity

コントロールにおいて,培養期間中の細胞数は経日的に増加した。MTA塗布群においても,増加傾向を示したが,コントロールと比較すると,その増加率は有意に低かった。一方,IRM塗布群では,細胞は激減しており,有意な生細胞は認められなかった。

MTA塗布群におけるALP活性値は,コントロールとほぼ同様に経日的に上昇していた。一方,IRM塗布群では,実験期間を通して全くその活性は認められなかった。

Fig.9 Expression of type Ⅰ collagen mRNA Fig.10 Expression of ALP mRNA

MTA塗布群の I型コラーゲンのmRNA発現では,コントロールと比較しては有意に低かった。

MTA塗布群のALPのmRNA発現は,コントロールとほぼ同様であった。

中山,他:MTAの培養ラット骨髄細胞における影響216

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考 察

MTAの粉末は,3CaO-SiO2(tricalcium silicate),

3CaO-Al2O3(tricalcium aluminate),Bi2O3(bismuth

oxide),CaSO4-2H2O2(calcium sulfate dehydrate)

などを主に含有する親水性の粒子である。それに加

え,化学的,物理学的目的のため,他の無機酸化物

が少量含まれている20)。

本研究の結果では,硬化したMTAからカルシウ

ムが約130ppm(3.25mM),ケイ素が約80ppm,微

量のリン,アルミニウムおよびビスマスの溶出が認

められた。電子線マイクロアナライザーを用いた

MTAの微量成分の分析実験結果では,粉末状の

MTA成分からカルシウム,ビスマス,ケイ素など

が多く検出されたと報告しており21),混和後硬化さ

せたMTAにおいても同様の成分溶出が起こってい

る可能性があるものと考えられた。

MTAは硬化開始時に pHが約10.2,完全硬化約

3時間後には pH約12.5まで上昇し,さらにそれを

維持するとされている20)。本研究結果において,

MTAに対する培養液の pHは実験期間を通して約

7.2~7.5の範囲で安定し,ほとんど変化を示さな

かったことから,MTAおよび溶出するカルシウム

などの微量成分が培養液の pH変化に影響を与えな

いものと推測された。

織井は,ウサギ脛骨由来の培養骨芽細胞様細胞の

細胞増殖,ALP活性,およびⅠ型コラーゲンの

mRNA発現に対するカルシウム濃度の影響を検討

した結果,カルシウム1.8~2.5mMでは有位な変

化が認められなかったが,カルシウム10~15mM

では細胞増殖は抑制されたと報告している22)。本研

究では,MTA塗布群の培養液中へのカルシウムの

溶出量は3.25mMであったにもかかわらず,細胞

数の経日的な増加はコントロールと比較して顕著に

抑制されていたことから,カルシウム以外の成分が

細胞増殖に影響を与えていると思われた。

MTAから溶出されたアルミニウムおよびケイ素

については,アルミニウムの細胞増殖に関する毒性

は報告されていない23)。非金属であるケイ素は通常

イオン化されないことから,SiO2としてMTAから

溶出されたものと推測され,両成分ともに細胞増殖

に大きな影響を与えるものではないと考えられた。

一方,根管用シーラーの造影成分として一般的に配

合されているビスマスは,培養マウス骨芽細胞様株

細胞MC3TC-E1 や線維芽細胞様株細胞 L929に対し

て細胞毒性を示すと報告されている23)。このことか

ら,MTAから微量に溶出したビスマスの影響によ

りRBMの細胞増殖が抑制されたと考えられた。

SEM所見では,MTAの表面は多孔性で凹凸な

形態をしており,RBMは静着しているものの,そ

の細胞質に微小突起や核の膨隆は認められなかっ

た。対照的に,コントロールのRBMは,紡錘形で

多くの微小突起を有し,明確な核の膨隆が観察され

た。骨表面における活性化した骨芽細胞は,一般的

に立方形で球状の形態を呈するが,未分化な細胞ま

たは休止状態の骨芽細胞は紡錘形で平坦な形態をと

ることが知られている。MTA上に静着したRBM

は,同様に紡錘形を呈したことから,未分化な細胞

または休止状態の骨芽細胞である可能性が示唆され

た。

Brunette は,形態学的に線維芽細胞と基質の接

着の様式には,細胞膜と基質の間隙が10nm以下の

focal contact,30~50nmの focal adhesion および

100nm以上の間隙を有するECMを介する接着様式

の存在を指摘している24)。TEM所見で,MTA塗

布群とコントロールにおいては,これら3つの細胞

接着の存在が認められた。RBMは,粗造な表面形

状を呈するMTAでは,その凸の部分において focal

adhesion で接着し,凹の部分では接着していな

かった。以上の所見から,RBMのMTAに対する

接着は,コントロールに比較して脆弱であると考え

られた。

Fig.11 Expression of OPN mRNA

MTA塗布群のOPNのmRNA発現は,コントロールと比較して有意に高かった。

歯科学報 Vol.105,No.3(2005) 217

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OPNは骨の添加と吸収に関与する細胞外基質の

1つで,近年,宿主防衛や組織傷害への関与が明ら

かとなった25)。Tanabe らは,培養ラットROS骨芽

細胞様株細胞に対する IL-1a 添加の影響を調べ,

OPNの遺伝子発現の増加を報告している26)。Koh

らは,ヒト骨肉腫由来骨芽細胞様株細胞MG-63 を

MTA存在下で培養し,IL-1a,IL-1β,IL-6,M-CSF

などのサイトカインの産生増加を報告している14)。

サイトカインの産生は炎症のメディエーターである

マクロファージによって分泌されたプロスタグラン

ジンによって調節されている。本研究においてOPN

のmRNA発現の有位な増加は,MTAから溶出し

たビスマスの細胞毒性によってRBMがサイトカイ

ンを産生した結果による可能性も考えられるが,む

しろ,Ⅰ型コラーゲンのmRNA発現も抑制されて

いたことから,細胞分化の抑制現象が起きていると

思われた。

OCNは骨芽細胞によって分泌され,石灰化を調

節しているタンパクである27)。Maniatopoulos ら

は,RBMが培養20日目に石灰化物を形成し,同時

にOCNを発現すると報告しているが19),本研究に

おいてはOCNのmRNA発現は検出感度以下で

あったことから,細胞の分化が抑制されていると考

えられた。

本研究の結果より,MTAは IRMと比較すると,

生体親和性の高い材料と考えられるが,RBMを骨

形成細胞に分化させる能力は低いことが示唆され

た。

なお,本論文の要旨は,第278回東京歯科大学学会総会(2004

年10月16日,千葉)において発表した。

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