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酸・塩基の定義 酸・塩基の定義 アレニウスの定義: 「水溶液中で H + を生成するものが酸、 HO を生成するものが塩基」 → 有機化学ではあまり有用でない ブレンステッドの定義: 「H + を供与するものが酸、 H + を受け取るものが塩基」 酸・塩基反応の例 NH 3 + H 2 O NH 4 + + HO 塩基 共役酸 共役塩基 が H + を供与したあとに残る化学種=共役塩基 塩基が H + を受け取ってできる化学種=共役酸 NH3 の共役酸は NH4 + H2O の共役塩基は HO NH3 の共役塩基は? 「NH3 が H + を供与したあとに残るもの」だから NH2 H2O の共役酸は? 「H2O が H + を受け取ってできるもの」だから H3O + 1 2 3

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酸・塩基の定義

酸・塩基の定義

アレニウスの定義:「水溶液中で H+ を生成するものが酸、 HO‒ を生成するものが塩基」

→ 有機化学ではあまり有用でないブレンステッドの定義:「H+ を供与するものが酸、 H+ を受け取るものが塩基」

酸・塩基反応の例

NH3 + H2O NH4+ + HO–

酸塩基 共役酸 共役塩基

酸が H+ を供与したあとに残る化学種=共役塩基塩基が H+ を受け取ってできる化学種=共役酸

NH3 の共役酸は NH4+H2O の共役塩基は HO‒NH3 の共役塩基は?「NH3 が H+ を供与したあとに残るもの」だから NH2‒H2O の共役酸は?「H2O が H+ を受け取ってできるもの」だから H3O+

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酸・塩基は「相手によって」決まる

H2O + CH3COOH H3O+ + CH3COO–

酸塩基 共役酸 共役塩基水は H+ を受け取る=塩基

HBr + CH3COOH Br– + CH3 COH

OH酸 塩基 共役塩基共役酸

酢酸は H+ を受け取る=塩基(!)

※ ある物質が「酸」かどうかは、反応する相手によって決まる。相手に H+ を渡しているなら「酸」。

酸の強さの指標:pKa

酸塩基平衡

A + B C + D

酸・塩基反応は(多くの場合)可逆反応。

可逆反応は2本の「片カギ矢印」で表す

可逆反応は、時間がたつと「平衡状態」に達する

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酸の強さを定量的に示す

H2O + CH3COOH H3O+ + CH3COO–

[H3O+][CH3COO–][H2O][CH3COOH]

= K ����

[H3O+][CH3COO–][CH3COOH]

= K[H2O] = Ka ����

酸解離定数

「酢酸」の酸としての強さを数値で示す可逆反応なので、時間がたつと平衡状態に達する→「化学平衡の法則」が成り立つはず

水溶液中では [H2O] はほぼ定数と見なせるので、

Ka と「酸の強さ」の関係?

CH3COOHKa = 1.7x10–5 (mol/L)

HCOOHKa = 1.8x10–4 (mol/L)

[H3O+][CH3COO–][CH3COOH]

= 1.7x10–5 (mol/L) [H3O+][HCOO–][HCOOH]

= 1.8x10–4 (mol/L)

[H3O+] = 4.2x10–3 x c1/2 [H3O+] = 1.3x10–2 x c1/2

Ka が大きい=H+を放出する方向に平衡が傾く=強い酸

普通は pKa を使う: pKa = –log10 Ka

pKa が小さいほど強い酸

「酸解離定数」のもう一つの見方「酸解離定数」=「酸の電離定数」だが、別の見方がある。

「自由エネルギー」:物質の「反応しやすさ」の指標

酸の自由エネルギーが高い= pKa が小さい=強い酸共役塩基の自由エネルギーが高い= pKa が大きい=弱い酸

この定義は「水溶液中」以外でも適用可能 ⇒ 有機化学では有用

K = exp(– ΔGRT

) � ΔG ������������R �� ��T �����

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拡張された「酸解離定数」の例【例1】HCl と HBrどちらも水中で完全解離する → 電離定数では差がつかない

HCl

HBrH+ + Cl‒

H+ + Br‒

反応の進行度

自由エネルギー

HBr の方が自由エネルギーが大きく下がる⇒ 酸性が強いpKa HCl : ‒7, HBr : ‒9

【例2】CH3CH3(エタン)と CH2=CH2(エチレン)どちらも水に溶けず解離も起こさない → 電離定数は決定不能

CH3CH3

反応の進行度

自由エネルギー

CH2=CH2

H+ + CH2=CH–

H+ + CH3CH2–エタンの方が自由エネルギーが大きく上がる⇒ 酸性が弱いpKa CH3CH3 : 60, CH2=CH2 : 44

有機酸と有機塩基

有機酸・有機塩基

有機酸の例

CH3NH2CH3CH2

NHCH3CH2

NH2

���� ����� ���

有機塩基の例

酢酸 フェノール

CO

OHCH3 OH

pKa = 4.76 pKa = 10.0

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塩基の強さをどのように表すか

B + H2O B+–H + HO–

→ 有機化学では使いにくい(水に溶けにくい塩基が多いため)

塩基の「電離平衡」

B + H3O+ B+–H + H2O

ブレンステッドの定義=「B が H+ を受け取る」

この平衡が右に偏っていれば、強い塩基と言える

(水に溶けにくい有機塩基でも、酸性の水には溶けることが多い。 例:アニリン)

塩基と H3O+ の平衡B + H3O+ B+–H + H2O

[B][H3O+][B+–H][H2O]

K = = 10pKa [H2O]

B+‒H (B の共役酸)の pKa:

共役酸 B+‒H の pKa が大きいほど強い塩基

平衡定数:[B][H3O+]

[B+–H][H2O]K =

[B][H3O+][B+–H]

–log10

[B][H3O+][B+–H]

= 10pKa

アミンの共役酸の pKa

CH3NH2CH3CH2

NHCH3CH2

NH2

pKa = 10.7 pKa = 10.9 pKa = 4.6

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その酸・塩基反応、進むの?

その酸・塩基反応、進むの?

CH3COOH + NH3 CH3COO– + NH4+K ?

pKa = 4.8 pKa = 9.4

K =[CH3COO–][NH4+][CH3COOH][NH3]

[H3O+][CH3COO–][CH3COOH] = 10–4.8

[H3O+][NH3][NH4+]

= 10–9.4,

K =[CH3COO–][NH4+][CH3COOH][NH3]

= 10–4.8

10–9.4= 104.6 = 4.0 x 104

※ 酸塩基反応が「進む」かどうかは、平衡定数で判断できる

酸の強さは何で決まるのか

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酸の強さは何で決まるのか「酸の強さは pKa で決まる」:これでは不十分!

酸の強さ(pKa)は物質の化学的性質→ 物質中の電子の振る舞いによって決まっているはず→ 物質中の電子配置と酸性度の間にはどういう関係があるのか?

【基本的な考え方】1.共役塩基が安定なほど、強い酸である。

H–A + B A– + H–B+ A‒ が安定なほど、平衡は右に偏る。

2.共役塩基は「ローンペア電子のエネルギーが低い」ほど安定。H A A–H+ +

ローンペア

酸の強さを決める要因 (1):電気陰性度

「電気陰性度」:原子が最外殻電子を引きつける力の尺度

電気陰性度が高い= ローンペアを強く引きつける= ローンペアのエネルギーが低い(安定である)

HF>

H2ONH3CH4pKa 3.215.73660 > >

※ 共役塩基の安定性を比較していることに注意。  CH3‒ < NH2‒ < HO‒ < F‒ (右のものほど安定)※ 同じ周期の原子を比較するときのみ適用できる

酸の強さを決める要因 (2):軌道の混成同じ原子上のローンペアで、入っている混成軌道が異なる場合

エネルギー: sp3 混成 >  sp2 混成 > sp 混成安定性: sp3 混成 <  sp2 混成 < sp 混成

CH3CH3 H2C CH2 HC CH

pKa 60 44 25> >sp3 混成 sp2 混成 sp 混成

C は3つの原子に結合し、ローンペアを1つ持つ→ sp3 混成→ ローンペアは sp3 混成軌道に入っている

C

CH3

H H

※ 理由:s 軌道の割合(混成軌道の s 性)が高いほど原子核に電子が近づきやすい

※ 「共役塩基のローンペアが入っている軌道」を考える

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酸の強さを決める要因 (3):原子の大きさ水素原子が異なる周期の原子に結合している場合:

※ 原子核から離れているため、電子間の反発が小さくなるため

ローンペアは大きな軌道に入っているほど安定

HI>

HBr>

HCl>

HFpKa –10–9–73.2

※ 電気陰性度の順序とは逆になっていることに注意

酸・塩基反応を「電子の動き」で理解する

酸・塩基反応における電子の動き:ケクレ式NH3 + H2O NH4+ + HO–

「どの結合が切れて、どの結合が生成するか」を特定する

NH

HH

OH H

NH

H HH

O H+ +

������

����

・「切断される結合」の電子はどこに行くのか?・「生成する結合」の電子はどこから来るのか?

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酸・塩基反応における電子の動き:ルイス式ルイス式で書いてみる

この反応が起きるのはなぜ?(量子力学の原理に立ち戻って考える!)

NH

HH

���������� ����

OHH

O–H��O��� �����H�� �����

極性反応

NH

+HH

OHH

NH

HH

OHH

NH

+HH

OHH

O–H������N–H� ��� ���O–H������� N–H��

電子豊富なローンペアと電子不足なH原子の反応

極性反応を巻き矢印で記述する

NH3 + H2O NH4+ + –OH

電子の動きを巻き矢印で表示する

「N のローンペアが N‒H 結合の電子になる」

「O‒H 結合の電子が O のローンペアになる」

電子の流れを図示する → 「巻き矢印」(教科書では「曲がった矢印」と表記)

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NH3 + H2O NH4+ + –OH

① ケクレ式を書く

② 「N のローンペア電子を使って N‒H 結合ができる」

③ 「O‒H 結合が切れて電子が O のローンペアになる」

NHH

HO

H HN

H

H H

H

O H+ +

ローンペアから H 原子に向かって矢印を書く

電子の動きを巻き矢印を使って表示する

O‒H 結合から O 原子に向かって矢印を書く

巻き矢印

= 一対(2個)の電子の動きを示す巻き矢印

巻き矢印を書く際の注意点(1) 巻き矢印の出発点は「2個の電子」  =「ローンペア」か「結合を表す線」

(2) 巻き矢印の行き先も「2個の電子」  =「ローンペア」か「新しい結合」

H+ + H O H OH

H H

���

H+ + H O H OH

H H

���

NH

H HH

NH

H H + H+

���

NH

H HH

NH

H H + H+

���

(3) 矢印は正しく!○ × × ×

NHH

H+ H

OH N

HH H

H+ O H

「反応に関与するローンペア」だけを書くやり方

反応前後で変化しないローンペアは省略してもよい

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ルイス酸とルイス塩基

ルイスの酸・塩基の定義【ルイスの酸・塩基の定義】酸:「電子対を受け取って共有結合を作るもの」塩基:「電子対を与えて共有結合を作るもの」

(配位結合)

ブレンステッドの酸・塩基の定義の拡張になっている

NHH

H+ H

OH N

HH H

H+ O H

電子対を与えて共有結合を作る 電子対を受け取って

共有結合を作る

ルイス酸・ルイス塩基

ブレンステッド酸ではないが、ルイスの意味では酸であるもの→ 「ルイス酸」と呼ぶ

AlCl

Cl Cl+

CH3O

CH3 AlCl

ClCl

OCH3

CH3(無水)

ルイスの意味での塩基=「ルイス塩基」(実質的にはブレンステッド塩基と同じ)

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求電子剤と求核剤

Al

Cl

Cl Cl

(無水)塩化アルミニウム代表的なルイス酸

最外殻電子が6個しかない→ 電子を2つ受け入れてオクテットになりたい電子を欲しがっている = 

ルイス塩基(ブレンステッド塩基も同じ) = ローンペアがある = 電子不足の原子と結合を作りたい =

求電子剤

求核剤

「求電子剤」と「求核剤」の反応 = 極性反応

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