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理-4-1
「海藻サラダ」を材料とした光合成色素の分離による系統分類の実験教材の開発
千葉県立○○高等学校 河野 安勝(生物)
1 はじめに
生物Ⅱ「生物の系統と分類」の単元は,現生の生物だけでなく絶滅した生物も扱うため,全ての
生物について実験や観察をとおして学ばせることが難しい。例えば,光合成を行う生物は海で生ま
れ,紅藻類,褐藻類,緑藻類,そして,陸上に進出し緑色植物へと進化したと考えられている。進
化した証拠にそれぞれがもつクロロフィルの種類をみると,紅藻類はクロロフィルaのみ,褐藻類
はクロロフィルaとクロロフィルc,緑藻類はクロロフィルaとクロロフィルb,そして,陸上の
緑色植物もクロロフィルaとクロロフィルbである。そのため,生徒にとってはそれぞれの生物の
もっているクロロフィルの種類を羅列的に記憶するだけの授業になりがちである。そこで,探究的
な思考と理解の定着を図るため,身近な材料で生徒の興味関心を引き出す実験を考えた。
実験をする際,材料となる緑色植物は身の回りにあり簡単に入手できる。しかし,生の海藻は採
取にかかる時間と労力,そして採取可能な時期が限られることなど負担やリスクが大きい。また,
乾燥海苔を使うことは,海藻であることを生徒たちに感じさせにくいなどの課題がある。
そこで,スーパー等で比較的簡単に購入でき,いつでも実験に使用できる「海藻サラダ」に着目
した。「海藻サラダ」のなかには紅藻類,褐藻類,緑藻類が含まれ,かつ,海藻のイメージを損なわ
ないので実験材料として扱えるのではないかと考えた。
「海藻サラダ」を用いて薄層クロマトグラフィーによる光合成色素の分離を行い,光合成を行う
生物の系統分類を理解させる実験教材の開発を本研究の主題とした。
2 研究方法
(1)「海藻サラダ」を材料に,薄層クロマトグラフィーによって光合成色素を分離する方法を確立す
る。
(2)「海藻サラダ」を材料とした光合成色素の分離による系統分類の実験を授業で実施する。
(3)生徒にアンケートを実施し,光合成を行う生物,藻類や緑色植物のもっている光合成色素によ
る系統分類について,実験実施による定着度を検証する。
3 研究内容
(1)「海藻サラダ」の光合成色素を分離する方法の確立
ア 先行研究の調査結果
先行する研究を調べてみると,光合成色素の分離は,ペーパークロマトグラフィー,薄層ク
ロマトグラフィーやカラムクロマトグラフィーなどの実験方法で行われている。カラムクロマ
トグラフィーは多くのガラス器具を使用する点や,シリカゲルを多く必要とするなど経済的に
問題がある。また,ゲルの充填に熟練が必要で技術の習得に時間が掛かる。ペーパークロマト
グラフィーは,安価で操作も簡単であるが,色素展開に時間が掛かり,展開結果が不明瞭であ
るなどの問題がある。そこで,10分程度で色素を展開分離することができ,実験器具も多くを
理-4-2
必要とせず,操作も簡単な薄層クロマトグラフィーを使うことにした。
次に,光合成色素を抽出する材料について調べた。緑色植物の例としてシロツメグサ,ホウ
レンソウ,ヤブガシラ等がよく使われている。また,紅藻類では,海から採取した生のマクサ
(てんぐさ)や食用乾燥海苔(スサビノリ)が使われている。褐藻類では,海から採取した生
のマツモ,コンブ,ヒジキや乾燥ワカメが使われている。緑藻類では,生のアナアオサや乾燥
青海苔が使われている。
陸上の緑色植物を材料にして光合成色素の分離を薄層クロマトグラフィーで行うときには,
抽出溶媒にジエチルエーテル,展開溶媒に石油エーテルとアセトンの体積比7:3の混液を用
い,脱水のために硫酸ナトリウムを用いることが多い。また,生の藻類を材料にして実験する
場合には,抽出溶媒にジエチルエーテル,展開溶媒に石油エーテルとアセトンの体積比7:3
の混液を用い,藻体の磨砕と脱水のために乾燥用シリカゲル粉末を用いることが多い。また,
緑色植物と藻類を同時に展開分離する場合に抽出溶媒にジエチルエーテル,展開溶媒に石油エ
ーテルとアセトンの体積比8:2~6:4を用いる例もあった。(表1)
表1 薄層クロマトグラフィーによる光合成色素の分離実験例
紅藻類 褐藻類 緑藻類 緑色植物
材 料
マクサ(てんぐ
さ),食用乾燥海苔
(スサビノリ)
マツモ,コンブ,
ヒジキ,乾燥ワカ
メ
アナアオサ,乾燥
青海苔(ヒトエグ
サ)
シロツメグサ,ホ
ウレンソウ,ヤブ
ガシラ
抽出溶媒 ジエチルエーテル
展開溶媒 石油エーテル:アセトン=8:2~6:4
脱水剤 硫酸ナトリウム または 乾燥用シリカゲル粉末
イ 先行の実験方法による光合成色素の分離
スーパーで「海藻サラダ」を多種類購入し,海藻を分類した。すると,購入した「海藻サラ
ダ」によって量や割合に違いがあるが,多くの製品に含まれている海藻は次の種類であった。
紅藻類 スギノリ,ツノマタ,トサカノリ,フクロフノリ,ホソバノトサカモドキ
褐藻類 ワカメ,コンブ
緑藻類 ミル,ヒトエグサ
実際に,色々な「海藻サラダ」の海藻の光合成色素を薄層クロマトグラフィーを用いて分離
してみると,次のようなことが分かった。
(ア)「海藻サラダ」は生のものと乾燥しているものがある。生のものは色素がミセル化している
ため,ジエチルエーテルなどの有機溶媒で抽出することが非常に難しい。脱水するために乾
燥用シリカゲル粉末を加えても水を多く含んでおり抽出することができなかった。生のもの
に比較して,乾燥した「海藻サラダ」は色素を抽出することが簡単であった。そこで,乾燥
した「海藻サラダ」を使用することにした。
(イ)褐藻類のワカメなどは,磨砕や脱水のために乾燥用シリカゲル粉末を入れなくとも簡単に
粉末状に磨り潰すことができ,色素を十分に濃く抽出することができた。しかし,紅藻類の
スギノリ,トサカノリは磨砕することが難しく,乾燥用シリカゲル粉末を加えても乳鉢で磨
理-4-3
り潰すことができなかった。そこで,乾燥した紅藻類を始めにハサミで細かく切り,乾燥用
シリカゲル粉末を加え磨り潰すと抽出できた。しかし,褐藻類に比べると抽出できる色素は
薄く,TLCプラスティックシートに何回も抽出液を重ねてスポットする必要があった。
(ウ)表1のように展開溶媒の石油エーテルとアセトンの混合比が材料によって異なっている。
そこで,乾燥した「海藻サラダ」の色素展開に最適な展開溶媒の混合比を実験によって求め
る必要があった。そこで,ワカメを材料に石油エーテルとアセトンの混合比を8:2,7:
3,6:4の3つの場合を展開分離して比較してみた。
図1 混合比別の展開結果
図1のように石油エーテルとアセトンの混合比は8:2では全く展開分離しなかった。ま
た,7:3では展開したが十分に分離しなかった。6:4でははっきりと展開したがシート
の上方で展開しており分離が不十分であった。そこで,3つの先行する研究の例に加えて5:
5で展開分離した。すると,シートに十分広がり中央付近で分離している。よって,海藻サ
ラダを展開分離するときには,展開溶媒の石油エーテルとアセトンの混合比は5:5が最適
であると判断した。
(エ)抽出溶媒にジエチルエーテル,展開溶媒に石油エーテルとアセトンを5:5の混合液,脱
水剤に乾燥用シリカゲル粉末を用いて「海藻サラダ」の光合成色素を展開した結果は図2の
とおりであった。各番号は次の色素を示す。
1 クロロフィルa 4 カロテン 7 フェオフィチン
2 クロロフィルb 5 ルテイン 8 ビオラキサンチン
3 クロロフィルc 6 フコキサンチン 9 ネオキサンチン
クロロフィルa
フォキサンチン
クロロフィルc
フェオフィチン
8:2 7:3 6:4 5:5
理-4-4
図2 石油エーテルとアセトンを5:5の展開結果
ツノマタ フクロフノ
ワカメ ヒトエグサ
ホソバノトサカモドスギノリ トサカノリ
コンブ ミル
1
7
1
4
2
8
9
5 6
3
5
5
7 1
7 1
7
7 1
6
3
7
1 1
4
4
理-4-5
(オ)「海藻サラダ」の光合成色素を展開した結果をまとめると表2のようになった。
表2 光合成色素の分離結果(気温24℃)
実験結果と比較するために,生物種ともっている光合成色素をまとめた表3を参考資料と
して以下に示す。
表3 光合成色素の種類(フォトサイエンス生物図録 数研出版 より引用)
○はその植物がその光合成色素をもつことを示す
(◎はその中でも主要で特徴となる色素)
色素 化学的性質 同化色素 色
光
合
成
細
菌
ラ
ン
藻
類
紅
藻
類
ケ
イ
藻
類
褐
藻
類
緑
藻
類
種
子
植
物
コ
ケ
・
シ
ダ
クロロフィルa 青緑 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎
クロロフィルb 黄緑 ◎ ◎
クロロフィルc ○ ○
クロロ
フィル
Mgを中心金属とする
ポルフィリン環に鎖状
のフィトールが結合し
た脂溶性物質
バクテリオクロロフィル ◎
カロテン βカロテン 橙黄 ○ ○ ○ ○ ◎ ◎
ルテイン 黄 ○ ◎ ◎ カロテ
ノイド
鎖状の長い不飽和炭化
水素で脂溶性 キサント
フィル フコキサンチン 褐 ◎ ◎
フィコシアニン 青 ◎ ○ フィコ
ビリン
ポルフィリン環が開い
た形で,中心金属をも
たない。水溶性 フィコエリントン 紅 ○ ◎
紅藻類 褐藻類 緑藻類 材料
光合成色素 色 Rf値
(平均)
スギノリ
ツノマタ
トサカノリ
フクロフノリ
ホソバノトサカモドキ
コンブ
ワカメ
ミル
ヒトエグサ
クロロフィルa 青緑 0.77 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
クロロフィルb 緑 0.68 ○ クロロ
フィル
クロロフィルc 黄緑 0.14 ○ ○
カロテン 橙黄 0.97 ○ ○ ○
ルテイン 黄 0.65 ○ ○ ○
フコキサンチン 褐 0.57 ○ ○
カロテ
ノイド
ビオラキサンチン 黄 0.48 ○
フェオフィチン 黒 0.83 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
ネオキサンチン 黄 0.40 ○
理-4-6
(カ)ホソバノトサカモドキは「赤姫のり」「青姫のり」,トサカノリは「赤トサカ」「青トサカ」
という商品名で梱包されている。ホソバノトサカモドキやトサカノリは,紅藻類であるので
赤色(紅色)が本来の色である。青色(緑色)のものは,「アルカリ処理等を行い赤い色素を
落として青色の色素のみを残している。」と販売会社のホームページに記載されている。しか
し,「青姫のり」の色素を展開分離してみると,図2のように黄色い色素のみが分離され,ク
ロロフィルaを確認することができなかった。つまり,赤色の色素だけでなくクロロフィル
aも除去されていると考えられる。
(キ)緑藻類のミルの光合成色素を分離したところ,図2のように同様に黄色い色素のみ展開し
た。クロロフィルaやクロロフィルbを分離することはできなかった。本来,ミルは緑藻類
であるが赤い色素を多く含んでおり,明るい緑色ではなく深緑色である。そのため,サラダ
として食卓に載せるのは難しい色であるため色素を抜かれていると考えられる。
(ク)表2から,ホソバノトサカモドキとミルを除く全ての海藻がクロロフィルaをもつことが
分かる。そして,褐藻類はクロロフィルc,緑藻類はクロロフィルbをもつことが分かる。
これは表3のデータを裏付ける結果であった。
(ケ)表3のフィコビリン系の色素は,今回の薄層クロマトグラフィーでは分離できなかった。
しかし,クロロフィル系とカロテノイド系の色素の中で,表3中の「◎」の色素「その中で
主要で特徴となる色素」はすべて分離することができた。今回の実験では,表3のデータを
裏付ける結果が得られた。
したがって,生の海藻や乾燥海苔を使わなくても「海藻サラダ」で光合成色素を分離する
実験が成り立つことが明らかになった。
(2)「海藻サラダ」を材料とした光合成色素の分離による系統分類の実験授業
ア 実験名
『光合成色素の分離による系統分類の実験』
イ 目的
藻類と緑色植物の光合成色素を薄層クロマトグラフィーを用いて分離し,クロロフィルの種
類を比較し,光合成を行う生物の系統分類を理解する。
ウ 使用する材料と器具・薬品
海藻サラダ1パック,シロツメグサ,ハサミ,ピンセット,薬さじ,薬包紙,乳鉢,乳棒,
エッペンドルフチューブ(1.5mL),TLCプラスティックシート(10cm×1~2cmの短冊
に切断した物),マイクロピペット用チップ(1~200μL用),スクリュー瓶,ジエチルエーテ
ル,石油エーテル,アセトン(混合液はそのつど必要量作成する)
エ 方法
(ア)「海藻サラダ」を開封し,中の乾燥した海藻を同じ
種類ごとに分ける。
(イ)分類した海藻の一部をそれぞれ水に入れて乾燥を戻
す。
(ウ)別紙の図9を参考に戻した海藻の種を同定する。
(エ)乾燥したままの紅藻・褐藻・緑藻を1種ずつ選びハ
サミで細かく切り,それぞれ乾燥用シリカゲル粉末を
加えて乳鉢で粉々になるまで磨り潰す。シロツメグサ 図3
理-4-7
も同様に乾燥用シリカゲル粉末を加えて磨り潰す。
(図3,4)
(オ)磨り潰した海藻とシロツメグサを薬さじで乳鉢から
薬包紙に取り,それぞれエッペンドルフチューブに入
れ,ジエチルエーテルを加え色素を抽出する。
(図5)
(カ)それぞれの抽出液をマイクロピペット用チップでT
LCプラスティックシートにスポットする。事前にT 図4
LCプラスティックシートの下から2cmと8cmの
ところに鉛筆で線を引いておき,下から2cmのとこ
ろにスポットする。(図6)スポットの回数は,抽出の
濃度によるが,ワカメなどは10回,紅藻類は30回く
らいを目安にする。
図5
図6 TLCプラスティックシート
(キ)石油エーテル:アセトンを5:5に混合した展開液 図7
をスクリュー瓶の底に0.5cmの深さ入れる。
(ク)展開液を入れたスクリュー瓶にスポットしたTLC
プラスティックシートを入れる。スポットした抽出液
が展開液に入らないように注意する。(図7)
(ケ)展開液がTLCプラスティックシートを上昇して行
く。鉛筆で引いた8cmの線に展開液の前線が到達し
たところで,ピンセットでTLCプラスティックシー
トを取り出す。(図8)
(コ)海藻とシロツメグサの展開分離した色素を観察し,
それぞれの色と,下の線からの距離を測る。 図8
オ 結果
授業では,材料とした海藻と緑色植物の種名を記入し,それぞれの色素が出現すれば○を,
そして,Rf値の平均を求め,次の表4を完成させた。
理-4-8
図9 海藻サラダの同定のための写真
表4 光合成色素の分離結果 紅藻類 褐藻類 緑藻類 緑色植物
材料
光合成色素 色 Rf値
クロロフィルa 青緑
クロロフィルb 緑
クロロフィル クロロフィルc 黄緑
カロテン 橙黄
ルテイン 黄
フコキサンチン 褐
カロチノイド
ビオラキサンチン 黄
フェオフィチン 黒
ネオキサンチン 黄
カ 別紙資料
実験を行うにあたり図9を生徒に配布し,資料として活用した。
スギノリ(紅藻) ツノマタ(紅藻) トサカノリ(紅藻)
フクロフノリ(紅藻) ホソバノトサカモドキ(紅藻) コンブ(褐藻)
ワカメ(褐藻) ヒトエグサ(緑藻) ミル(緑藻)
理-4-9
キ 考察
生徒に次の(ア)~(エ)について考察させた。
(ア)水に戻したワカメは褐藻類に分類されるのに緑色なのはなぜか。
(イ)光合成を行う生物は,もっているクロロフィルの種類からどのように進化したと考えられ
るか。
(ウ)紅藻類は比較的深い場所に,緑藻類は浅い場所に生息している。光の性質ともっている光
合成色素から説明しなさい。
(エ)藻類が海の深いところから浅いところへと進出することができた要因はなにか。
(3)実験のアンケート
「海藻サラダ」を材料とした光合成色素の分離による系統分類の実験を行った生徒にアンケー
トを実施し,光合成を行う生物,藻類や緑色植物のもっている光合成色素による系統分類につい
ての定着度を検証した。
次のアンケートを実験の実施前後で行い,実験後には感想を聞いた。
ア アンケート名
『藻類のもつ光合成色素と進化の過程』
イ 内容
(ア)光合成を行う生物の系統進化に興味や関心がありますか。
(イ)紅藻類・褐藻類・緑藻類の例をあげることができますか。
(ウ)紅藻類・褐藻類・緑藻類がそれぞれもっているクロロフィルの種類を知っていますか。 (エ)紅藻類・褐藻類・緑藻類はどのような順序に進化したと考えられているか知っていますか。
(オ)藻類の進化の証拠を説明できますか。 (カ)紅藻類・褐藻類・緑藻類のうち深い海に生息している藻類はどれか知っていますか。
(キ)その藻類が深い海に生息することができる理由を説明できますか。 (ク)紅藻類・褐藻類・緑藻類のうち浅い海に生息している藻類はどれか知っていますか。
(ケ)その藻類が浅い海に進出することができた理由を説明できますか。 (コ)陸上に生息する緑色植物は,紅藻類・褐藻類・緑藻類のうちどの藻類から進化したと考えら
れているか知っていますか。 (サ)ワカメは褐藻類に属するのに,お味噌汁のワカメが緑色なのはなぜか理由を説明できます。
(シ)熱を加えることで生物の色が変化する例をあげることができますか。
(はい・いいえ)
(はい・いいえ)
(はい・いいえ)
(はい・いいえ)
(はい・いいえ)
(はい・いいえ)
(はい・いいえ)
(はい・いいえ)
(はい・いいえ)
(はい・いいえ)
(はい・いいえ)
(はい・いいえ)
理-4-10
4 結果
(1)アンケートの結果
3年生生物Ⅱ選択者39人にアンケートを実施したところグラフ1のような結果が得られた。
グラフ1 『藻類のもつ光合成色素の進化の過程』アンケート結果
(2)実験後の生徒の感想
ア ワカメやヒトエグサは光合成色素がきちんと分離してきれいだった。ツノマタは薄くて色が
はっきりしなかった。
イ 紅藻類を細かく磨り潰すのが難しかった。でも,紅藻類がクロロフィルa,褐藻類がaとc,
緑藻類がaとbが分離することができた。
ウ 陸上に生えている植物に比べ,海の中の海藻がカラフルな理由が分かり面白かった。
エ エビがお鍋の中で赤くなる理由が分かっておもしろかった。自分の身近な現象が,生物で勉
強した知識で説明できることがわかっておもしろかった。
(3)実験中の生徒の様子(図10)
ア 乾燥した「海藻サラダ」を水に戻したとき,次第に色鮮
やかに変化する様子に感動する生徒がいた。
イ 乾燥した「海藻サラダ」を「試食しても大丈夫ですか。」
と問う生徒がいた。「普通にスーパーで売っている海藻サラ
ダだから,何時も食べているだろう。」と言われて納得して
いた。実験に使う「海藻」と食べられる「海藻サラダ」に
大きなイメージの相違があると考えられる。 図10 実験中の生徒
2
3
14
16
7
20
17
24
26
28
2
5
10
30
38
39
36
39
37
39
39
39
37
35
0 10 20 30 40
(ア)
(イ)
(ウ)
(エ)
(オ)
(カ)
(キ)
(ク)
(ケ)
(コ)
(サ)
(シ)
人数
実験前 実験後
理-4-11
ウ 褐藻類に比べて,紅藻類を乳鉢で磨り潰すのが上手くいかず,苦労していた。
エ ジエチルエーテルの臭いに不快感を示す生徒がいた。
オ TLCプラスティックシート上にスポットした抽出液が展開液に吸収され,次第にきれいに
展開する様子を見て,感動する生徒がいた。
カ 展開した色素が尾を引いてしまい,きれいに分離しないグループがあった。
キ Rf値をそれぞれの海藻から求め,その平均値を求めさせたが,各班で大差ない結果が得ら
れた。
5 考察
(1)アンケート結果から
本実験が,光合成を行う生物,藻類や緑色植物の光合成色素の種類やその系統進化を理解する
こと,光合成を行う生物の進化に地球規模の大気の変動が関係していたことを理解することに役
立つことが分かった。また,身近な材料で生徒の興味関心を引き出すことができることが分かっ
た。更に,実験を行うことで色素とタンパク質の性質について理解を深め,探究的な思考と理解
の定着を図ることができると考える。特に,色素タンパク質の熱変性による色の変化に対して生
徒はとても興味を示した。
(2)発展的な研究
コケ植物とシダ植物を材料として光合成色素を展開分離し,結果を比較した。(図11)
図11 コケ植物とシダ植物の展開結果との比較
1
7
4
2
8 9
5
1
7
4
2
5
2
1
4
5
8
9
2
1
4
5
8
?
? ?
?
ゼニゴケ シダ シロツメグサ ヒトエグサ
理-4-12
図11の展開結果のようにシロツメグサにはない青緑色と黄緑色の色素が,コケ植物とシダ植物
の下のほうに分離していた。緑藻類のヒトエグサの展開結果と比較しても,コケ植物とシダ植物
の2つの色素は見られない。クロロフィルaとクロロフィルbの分解物であるとの知見もあるが,
今後はこの2つの色素について調べて行きたい。
(3)授業実践について
実験を行う上での問題点と,今後改良すべき点を列記する。
ア 紅藻類から光合成色素が抽出し難い。今後は抽出液の入ったエッペンドルフチューブを卓上
の遠心分離機にかけ色素を更に抽出する方法などを試してみたい。
イ 色素を抜かれている「海藻サラダ」が多い。そのような海藻が少ない商品を選ぶ必要がある。
ウ 緑藻類が梱包されていない「海藻サラダ」が多い。この場合は,緑色植物を緑藻類は同じ光
合成色素をもっているので,緑色植物で代替する。そして,紅藻類,褐藻類,緑色植物の光合
成色素を比較する。
エ 展開した色素が尾を引いてしまい,きれいに分離しないグループがあった。抽出液をスポッ
トする回数が多いと尾を引いてしまうとの知見もあるが,TLCプラスティックシートを展開
液にゆっくりと垂直に入れることができればきれいに分離できた。
6 おわりに
「授業で実験観察を多く実施したいが,材料となる生物を入手するのが困難な場合が多くなかなか
実施することができない。」というのは生物の教員にとって共通の課題である。本研究は,市販されて
いる「海藻サラダ」を使うことで,簡単にいつでもそして安価に生物材料を手に入れることができる
生物の実験であり,負担を軽減することができる。 本校は,進学指導重点校・進学型単位制等の事業を導入している。そのため,受験対策中心の授業
になりがちであり,授業中に実験観察を多く取り入れることは難しい。そこで,授業中にできなかっ
た実験観察を長期休業中に集中的に実施する「実験観察課外授業」を行っている。時間に縛られるこ
となく実験観察をすることができるので,生徒たちの様々な工夫や発見が次々と飛び出し,我々も非
常に勉強になる。本研究も「実験観察課外授業」で実施すれば,また新たな工夫や発見が生まれるこ
とが期待できる。 最後に,本研究を進めるにあたり御指導,御助言をいただいた教育庁教育振興部指導課の○○○○
先生,○○○○先生,○○○○先生,○○○○先生,前指導課の○○○○先生,○○○○先生及び教
科指導員の○○○○先生,○○○○先生並びに教科研究員の諸先生方に心より御礼申し上げます。
<参考文献>
加賀友子1998:シリカゲルを利用した同化色素分離実験のいろいろ.遺伝,別冊10号113-116
吉里勝利他2004:緑葉に含まれる色素の分離.スクエア最新図説生物,112
鈴木孝仁他2004:光合成色素の分離.フォトサイエンス生物図録,163
片野静康・平田 徹・倉島 彰・太斎彰浩・横浜康継1994:藻類の光合成色素の簡単な定性分析法.
藻類Jpn.J.Phycol,42:71・77
横浜康継・野田三千代:海藻おしばカラフルな色彩の謎
<参考URL>
カネリョウ食品ホームページhttp://www.kaneryo.co.jp/
愛知県教育委員会ホームページhttp://www.aichi-c.ed.jp/