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不機嫌:not doing well2) MaCarthy PL,et al:Observation scales to identify serious illness in febrile children.Pediatrics 70:802-809,1982. (児玉和彦) Ⅱ 夜にどうする?

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●notdoingwellにもいろいろある(表1)。よく耳を傾けること!●「弱い泣き」と「視線が合わない」は特に要注意!●バイタルサインを大事にする!

①尿路感染症②細菌性髄膜炎③腸重積④頭蓋内出血,骨折⑤心不全,呼吸不全⑥ターニケット症候群⑦血液疾患,代謝疾患

①非特異的な不機嫌(原因不明)②乳児臍仙痛(infantilecolic)③注意を引くための泣き④急性ウイルス性疾患⑤中耳炎⑥便秘症⑦皮膚炎などの痒みを生じるもの

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Ⅱ夜にどうする?

1 不機嫌:not doing well●notdoingwell:発熱や嘔吐などそのほかの症状を認めないのに「何となく元気がない」という症候は小児科において重要である。小児は症状を正確に訴えることができず,病気の進行が急であるからである。しかも,鑑別診断は膨大で,小児を診察する医師にとっては非常にストレスフルである。しかし,こどもの言葉にならない声に「どういうふうに」元気がないのか? と耳を傾けると少し見えてくる。

●筆者は4つに分類して考えている(表1)。カテゴリー1「強い泣き系」:泣きやまない。大きな泣き。 力強く泣けているということで一見元気そうにも見える。痛

みによる泣きであれば徹底的な検索が必要であるが,colicや単なる「ぐずり」などまったく緊急でないものも含まれており,鑑別が二分される。

カテゴリー2「弱い泣き系」:泣き方がおかしい,弱々しい,甲高い。 強く泣けない状況である。頭蓋内圧亢進や腹膜刺激症状があ

り,圧をかけると痛みが悪化する場合,呼吸器系に問題があり,換気量が十分でない場合を考える。たいてい重症疾患である。

カテゴリー3 「食欲・意欲低下系」:食欲がない。経口摂取が少ない。顔色が悪い。

「何となく元気がない」というのがぴったりの最も難しい状態である。最も重症であるショック状態から,呼吸不全,軽い吐き気まで非常に鑑別症状が多い。「食事を摂らない」という訴えがある場合は,続けて2食以上食べなければ原因検索を必ず行う。

カテゴリー4 「意識障害系」:ぐったりしている。視線が合わない。歩けない。 意識状態の悪化を疑わせる症状である。はっきりした意識障

害はないが,「明らかにいつもと違う」状態である。この状態は『カテゴリー3』の重症化と考えることもできるが,神経疾患の初期症状の場合もあり,重症疾患が多い。

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カテゴリー分類は完璧なものではなく,例外もあるので,常に頭からつま先までの病歴と身体所見を怠ってはならない。特に,被虐待児は泣きの表現がうまくできないこと(silent baby)もあり,診断に注意が必要である。

表1┃not doing wellの分類

カテゴリー 家族の訴えの例,問診事項 鑑別疾患(例外あり)

1.強い泣き系 「ずっと泣いている」「泣き声が大きい」「痛そうに泣いている」「動いたり抱っこしたりすると, すごく泣く」

「突然泣き始めて泣きやまない」

• 痛み,痒みを生じる疾患:角膜潰瘍,中耳炎,便秘症,腸重積,骨折, 肘内障, 精巣捻転, ターニケット症候群, 皮膚炎, 肛門周囲膿瘍

• 生理的・心理的なもの:かまってほしい,空腹,infantile colic

2.弱い泣き系 「泣き声が小さい」「声が弱々しい」「甲高い声で泣くが,弱い」「声の大きさは変わらないが,続けて泣けなくて苦しそう」

• 「膜」の疾患: 腹膜炎, 髄膜炎,頭蓋内圧亢進

• 呼吸の異常: 急性細気管支炎,気道異物,肺炎,心不全

3.食欲・意欲低下系 「食べない, 飲まない」「顔色が悪い」「遊ばない」「ごろごろしている」「笑顔が少ない」

• ショック状態:敗血症(尿路感染症にも注意),腸重積,出血,心不全(心筋炎,不整脈)

• 呼吸の異常:カテゴリー2参照• 全身劵怠感をきたす疾患: 急性ウイルス性疾患

• 吐き気がある疾患:胃腸炎, 便秘症, 低血糖, ケトン血性嘔吐症,虫垂炎,内ヘルニア

• その他:口内炎,ムラ食いなど

4.意識障害系 「ぐったりしている」「呼びかけても反応がいつもと違う」「視線が合わない」「歩けない」

• 神経疾患:細菌性髄膜炎,脳炎・脳症,頭蓋内出血

• ショック状態:カテゴリー3参照

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トリアージ

バイタルサイン,TICLS(Tone,Interactive,Consolability,Look/Gaze,Speech/Cry),PALS(Play,Activity,Look,Speech/Smile)で異常を認める場合は速やかに診断と治療をスタートさせる。YaleObservationScaleも有用である(後述)。 Ⅰ-4 トリアージ

現病歴

まず,「どんなふうに元気がないのですか?」「いつもとどのように違いますか?」「どのようなことが心配で来られましたか?」という質問から始める。そして,reviewofsystemsをするつもりで,頭からつま先まで詳細に病歴(随伴症状など)を取る。特に「突然発症」「徐々に増悪」などの発症様式に注意する。

既往歴

慢性疾患を持っていないか,免疫不全状態でないか(発熱やほかの症状が出にくい状態でないか)。

身体所見

頭からおむつの中,つま先まで詳細に身体所見を取る。病歴と身体所見で鑑別に挙げられないものは検査をしても診断がつかない(Evidence Noteを参照)。詳細は昼の症候学「notdoingwell」を参照。 Ⅰ-5 not doing well

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◉ Evidence Note

カナダの3次こども病院を「啼泣」や「不機嫌」で受診した発熱がない乳児238人をレトロスペクティブに検討した結果 1)によると,重症疾患と診断されたのは12例(5.1%)で,最も多かったのは尿路感染症の3例であった。ほかには骨折,肘内障,腸重積,胆囊炎,白血病などがみられた。病歴と身体所見で診断がついたものは66.4%,診断がつかず検査で判明したのは2例(0.8%:尿路感染症と菌血症)にすぎなかった。全体でみても,検査が有用であったのは8例(3.4%)のみであった。not doing wellの診断は,頭からつま先までの詳細な病歴と身体所見が検査よりも大事である。

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toxic appearanceを見逃すな!

toxicappearanceを評価するスケールの一例として,YaleObservationScaleを示す(表2)。点数が高いほど状態が悪いことを示す。点数ごとの重症感染症のリスクは10点以下では2.7%にすぎないが,11〜15点では26.2%,16点以上では92.3%にも及ぶ。しかし,このスケールで最も重要な点は,詳

表2┃Yale Observation Scale

観察項目 正常(1点) 中等度の異常(3点) 重度の異常(5点)

泣き方 正常に強く泣く または満足していて泣かない

すすり泣き または泣きじゃくる

弱々しい またはうめくような または甲高い または(元気がなく)ほとんど泣かない

保護者への反応 短く泣く または満足していて泣かない

泣いたり泣きやんだり

反応が少なく,ずっと泣いている

意識状態 ずっと覚醒 または(寝ている時)刺激ですぐに覚醒

傾眠傾向刺激を続けると覚醒

覚醒しない

皮膚の色 ピンク 四肢蒼白 または四肢末端のチアノーゼ

蒼白 または全身チアノーゼ またはまだら または土色

脱水症状 皮膚色良好,眼球陥凹なし,粘膜は湿潤

口腔内乾燥 皮膚の乾燥, ツルゴール低下 または/かつ眼球陥凹

あやしたときの反応

笑う またはキョロキョロ見回す

少し笑う または短い間キョロキョロ見回す

笑わない または不穏 または無欲状態

(文献2を元に作成。牟田広実,訳)

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細を記憶することではなく,スケールの観察項目をすべてチェックし,引っかかる項目が1つでもあれば躊躇なく検査を行うべきということである。

Evidence& Experience それぞれのMRO疾患については他項を参照のこと。ここでは他項で述べられていないものについて記載する。

ターニケット(tourniquet)症候群

身体の先端部に髪の毛や糸くずが巻き付くことによって起こる循環不全症候群である。足趾,外陰部,手指の順に多いとされる。症状は,末端の浮腫と発赤である。好発年齢:足・手指は2歳くらいまでで,母親の産後脱毛症が起こる乳児期に注意が必要である。外陰部(ペニスやクリトリスなど)は小学生ぐらいまでありうるが,乳児にも起こる。治療:巻き付いた髪の毛を切ることである。「おむつの中,つま先まで疑って診ないと診断できない」。

infantile colic

生後3週間以降4カ月未満の乳児において,毎日ほぼ決まった時間(昼と夜)に長時間続けて泣くが,それ以外はまったく異常を認めない状態。原因はよくわかっていない。除外診断である。4カ月以上でcolicと診断するときは十分注意が必要である。

1) Freedman SB,et al:The crying infant:diagnostic testing and frequency of serious

underlying disease.Pediatrics 123:841-848,2009.

*乳児の泣きとその原因についての文献。必読である。

2) MaCarthy PL,et al:Observation scales to identify serious illness in febrile

children.Pediatrics 70:802-809,1982.

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●熱の高さにこだわらず,全身状態の良し悪しに神経を集中すべし。●咳,鼻汁などの軽い上気道炎症状があるからといって,安易に「風邪」の診断で帰宅させるべからず。

●フォーカスがわからない場合でも,「とりあえず抗菌薬」は厳禁! 医療従事者も「発熱恐怖症(feverphobia)」になってはならない。

①生後3カ月以下における発熱②細菌性髄膜炎③扁桃周囲膿瘍,咽後膿瘍,急性喉頭蓋炎 Ⅳ-6 口,咽頭

④菌血症(潜在性occultbacteremiaを含む)⑤尿路感染症⑥重症肺炎,膿胸⑦急性心筋炎 Ⅳ-9 心臓

⑧腹膜炎 Ⅱ-5 腹痛

⑨化膿性股関節炎/骨髄炎 Ⅳ-13 四肢(骨,筋,関節,脊椎)

①溶連菌感染症②急性中耳炎③肺炎,気管支炎④川崎病 Ⅲ-1 発熱

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Ⅱ夜にどうする?

2 発 熱来院時に発熱がない場合,本当に発熱かどうかを確認するため,まずは普

段の体温の測定方法を尋ねる。保護者の訴える体熱感は必ずしも当てにならない(Evidence Noteを参照)。しかし,特に3カ月以下の場合には,たとえ院内での体温は正常でも発熱児として取り扱うほうがよい。

【現病歴】全身をくまなく診察するのは当然だが,病歴から的を絞り,ある程度あたりをつけてから所見を探していくと見逃しが少なくなる! Ⅲ-1 発熱

【既往歴】無脾症,鎌状赤血球貧血,頭部外傷,VPシャント(脳室︲腹腔短絡術),人工内耳などは,菌血症や細菌性髄膜炎のリスクとして重要である。【身体所見】全身状態の評価は,意固地

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に!

い意識状態  こ呼吸状態  じ循環状態

加えて,保護者の「何となくいつもと違う」を無視するなかれ! Ⅲ-1 発熱

¥Evidence & Experience(表1,2)

生後3カ月以下の発熱

直腸温測定(例外は好中球減少症がある場合)を行う。新生児期以降においてwellappearanceの場合,Rochestercriteriaなど

(表1)で低リスクと評価されれば外来経過観察も検討可能である(全例絶対入院ではない)。ただし,リスクがゼロではないことを十分に説明し,慎重に経過観察していく必要がある。

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◉ Evidence Note

母親が体熱感ありと感じた児のうち,腋窩温で37.8℃以上の発熱があったのは(PPV*1)39%にすぎないことが報告されている1)。一方,体熱感なしと感じた場合はその95%(NPV*2)が37.8℃未満であり,この信頼性は高い(感度94%)ようだ。*1:陽性反応適中度  *2:陰性反応適中度