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存在感増すアジア/中東トレード CARGO JUNE 2008 9 特集 1 07 年荷動き急伸 アジアから中東ガルフ向けの 07 年の荷 動きは、対前年比約 17 %増の 152 万 TEU (同盟ベース、以下同)と大幅に拡大した。 05 年が約 11 %増、06 年が約 2 %増と波は あったものの、右肩上がりの成長を続ける アジア/中東の西航トレードの勢いは、当 面続くとの見方が多い。07 年は日本出し も約 13 %増の 18 万 TEU 前後となり、2 ケ タ増を記録した。 トレード成長の背景にあるのは言うまで もなく、増大する原油収入を基礎とした中 東諸国の購買力向上だ。ただ、その急速 な経済成長は、オイルマネーだけに頼った 自然発生的なものでは決してない。現在、 「アジア発貨物の4 割以上が集中する」(船 社関係者)といわれるドバイは、1960 年代 から石油依存型経済からの脱皮を掲げ、 クリーク(入り江)浚渫 しゅんせつ からフリートレード ゾーン(FTZ)整備まで、長期にわたる戦 略的なインフラ投資を推進してきた。その 結果として今日の中東地域の物流ハブ、ド バイがあり、近年の貨物増勢に結びつい ているといえる。ドバイのほか、豊富な石 油埋蔵量を誇るアブダビをはじめ、カター ル、バーレーンなど各国が石油依存型経 済の多角化を図っている。中東諸国は、 天然資源に依存しない持続可能な経済成 長モデルを確立しつつある。 原油価格は 5 月 16 日現在、ニューヨー ク・マーカンタイル取引所(NYMEX)の先 物相場で 1 バレル= 127・82ドルまで上昇 し、依然最高値を更新する。ドバイをはじ め貿易、金融、観光など多角化に成功し た中東諸国の経済に、増え続けるオイル マネーが還流し、さらに成長が加速する。 この構図は 08 年も続くとみられる。 主戦場は中国、日本も存在感 アジア発貨物を仕出し地別に見ると、 中国が 5 割以上と圧倒的なシェアを有す る。07年の中国出し貨物は、通年で約 21 %増と急伸した。アジア/中東航路の 西航荷動きは、中国貨物の動静次第と言 っても過言ではなく、航路全体で見ると 「主戦場は中国」(船社関係者)だ。それだ けに「中国に比重を置き過ぎると、2 月の 旧正月明けのスラックシーズンの収支が厳 しいため、意識的にアロケーションを分散 させている」とする船社もある。 中国出しの貨物は中東航路に限らず荷 動きの波動が年間を通して大きい。従っ て同貨物が 5 割以上を占める中東航路 は、東南アジア航路などに比べて、ピー ク時とスラック時の運賃格差が激しいの が特徴だ。「運賃が需給に直結しており、 上下する振れ幅が他航路より大きい」 (船社関係者)と言える。 また、日本出し貨物の同航路のシェアは、 中国に次ぐ 2 位で全体の約 12 %を占める。 東西基幹航路などに比べ、日本出し貨物 が比較的高いシェアを保っているのも同航 路の特徴の1つと言えよう。仕出し地別シェ ア3 位は、韓国が約 11 %の小差で続く。 ドバイに集中する貨物 仕向け地別のシェアは、ドバイ2 港(ジュ ベルアリ、ポートラシッド)、イランのバンダ ルアバス、サウジアラビアのダンマンの順。 この 4 港でアジア発貨物全体の 7 割以上 を取り扱っている。中でもドバイ向けのシ ェアは全体の 4 割以上を占めており、アジ アからの貨物が一極集中する構図だ。 ただし、アジアからの貨物で、ジュベル アリ港で荷揚げされ、そのままアラブ首長 国連邦(UAE)内に向かう貨物は一部に とどまる。「その 7 ~ 8 割がほかの中東諸 国やアフリカ、独立国家共同体(CIS)諸 国、欧州などにトランシップ、再輸出され ている」(船社関係者)とみられる。また、 最近では「アジアからドバイを経由して黒 海、ロシアへ向かう貨物が目立っている」 (船社関係者)ほか、香港発のアパレルな ど、ドバイで陸揚げされた後にドバイ国際 空港から欧州に向かうシー・アンド・エア 貨物もある。 つまり、アジア発中東向けの荷動きは、 CARGO JUNE 2008 8 アジア/中東トレードが、北米、欧州航路に次ぐ東西のトランクラインとして急速に存在感を増してい る。原油依存型経済からの脱皮を早くから模索し、新たな経済成長のステージに入りつつある中東諸国。 着々と進む多角化で、より強固となるその経済基盤に、最高値を更新し続ける原油がさらにオイルマネ ーを呼び込む。中東域内の購買力向上という要因に加え、世界を代表する物流ハブに成長したドバイ向 けには、アジアからの貨物が右肩上がりで増加している。特に 2007 年の西航トレードは 06 年比 17 %増 と急伸し、運賃も過去最高水準まで上昇した。これに呼応する形で、07 年末から08 年 5 月現在まで、配 船各社のサービス拡張が相次いでいる。旺盛な荷動きを背景に、かつての東西基幹航路と同様、投入船 の大型化競争となるのか。勢いを増す同トレードの現状を分析し、配船社の動きを追う。 (松下優介) 原油依存から脱皮、ハブ機能で貨物集中 相次ぐサービス拡張、大競争時代到来か 特集 1 存在感増す アジア/中東トレード 存在感増す アジア/中東トレード ジュベルアリ港での荷役風景 “NYK Canopus”○ c NYK Line

P08〜22 特集1 中東* - Daily-Cargo...存在感増すアジア/中東トレード CARGO JUNE 2008 9 特集1 07年荷動き急伸 アジアから中東ガルフ向けの07年の荷

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Page 1: P08〜22 特集1 中東* - Daily-Cargo...存在感増すアジア/中東トレード CARGO JUNE 2008 9 特集1 07年荷動き急伸 アジアから中東ガルフ向けの07年の荷

存在感増すアジア/中東トレード

CARGO JUNE 2008 9

特集 1

07年荷動き急伸

アジアから中東ガルフ向けの07年の荷

動きは、対前年比約17%増の152万TEU

(同盟ベース、以下同)と大幅に拡大した。

05年が約11%増、06年が約2%増と波は

あったものの、右肩上がりの成長を続ける

アジア/中東の西航トレードの勢いは、当

面続くとの見方が多い。07年は日本出し

も約13%増の18万TEU前後となり、2ケ

タ増を記録した。

トレード成長の背景にあるのは言うまで

もなく、増大する原油収入を基礎とした中

東諸国の購買力向上だ。ただ、その急速

な経済成長は、オイルマネーだけに頼った

自然発生的なものでは決してない。現在、

「アジア発貨物の4割以上が集中する」(船

社関係者)といわれるドバイは、1960年代

から石油依存型経済からの脱皮を掲げ、

クリーク(入り江)浚渫しゅんせつ

からフリートレード

ゾーン(FTZ)整備まで、長期にわたる戦

略的なインフラ投資を推進してきた。その

結果として今日の中東地域の物流ハブ、ド

バイがあり、近年の貨物増勢に結びつい

ているといえる。ドバイのほか、豊富な石

油埋蔵量を誇るアブダビをはじめ、カター

ル、バーレーンなど各国が石油依存型経

済の多角化を図っている。中東諸国は、

天然資源に依存しない持続可能な経済成

長モデルを確立しつつある。

原油価格は5月16日現在、ニューヨー

ク・マーカンタイル取引所(NYMEX)の先

物相場で1バレル=127・82ドルまで上昇

し、依然最高値を更新する。ドバイをはじ

め貿易、金融、観光など多角化に成功し

た中東諸国の経済に、増え続けるオイル

マネーが還流し、さらに成長が加速する。

この構図は08年も続くとみられる。

主戦場は中国、日本も存在感

アジア発貨物を仕出し地別に見ると、

中国が5割以上と圧倒的なシェアを有す

る。07年の中国出し貨物は、通年で約

21%増と急伸した。アジア/中東航路の

西航荷動きは、中国貨物の動静次第と言

っても過言ではなく、航路全体で見ると

「主戦場は中国」(船社関係者)だ。それだ

けに「中国に比重を置き過ぎると、2月の

旧正月明けのスラックシーズンの収支が厳

しいため、意識的にアロケーションを分散

させている」とする船社もある。

中国出しの貨物は中東航路に限らず荷

動きの波動が年間を通して大きい。従っ

て同貨物が5割以上を占める中東航路

は、東南アジア航路などに比べて、ピー

ク時とスラック時の運賃格差が激しいの

が特徴だ。「運賃が需給に直結しており、

上下する振れ幅が他航路より大きい」

(船社関係者)と言える。

また、日本出し貨物の同航路のシェアは、

中国に次ぐ2位で全体の約12%を占める。

東西基幹航路などに比べ、日本出し貨物

が比較的高いシェアを保っているのも同航

路の特徴の1つと言えよう。仕出し地別シェ

ア3位は、韓国が約11%の小差で続く。

ドバイに集中する貨物

仕向け地別のシェアは、ドバイ2港(ジュ

ベルアリ、ポートラシッド)、イランのバンダ

ルアバス、サウジアラビアのダンマンの順。

この4港でアジア発貨物全体の7割以上

を取り扱っている。中でもドバイ向けのシ

ェアは全体の4割以上を占めており、アジ

アからの貨物が一極集中する構図だ。

ただし、アジアからの貨物で、ジュベル

アリ港で荷揚げされ、そのままアラブ首長

国連邦(UAE)内に向かう貨物は一部に

とどまる。「その7~8割がほかの中東諸

国やアフリカ、独立国家共同体(CIS)諸

国、欧州などにトランシップ、再輸出され

ている」(船社関係者)とみられる。また、

最近では「アジアからドバイを経由して黒

海、ロシアへ向かう貨物が目立っている」

(船社関係者)ほか、香港発のアパレルな

ど、ドバイで陸揚げされた後にドバイ国際

空港から欧州に向かうシー・アンド・エア

貨物もある。

つまり、アジア発中東向けの荷動きは、

CARGO JUNE 20088

アジア/中東トレードが、北米、欧州航路に次ぐ東西のトランクラインとして急速に存在感を増してい

る。原油依存型経済からの脱皮を早くから模索し、新たな経済成長のステージに入りつつある中東諸国。

着々と進む多角化で、より強固となるその経済基盤に、最高値を更新し続ける原油がさらにオイルマネ

ーを呼び込む。中東域内の購買力向上という要因に加え、世界を代表する物流ハブに成長したドバイ向

けには、アジアからの貨物が右肩上がりで増加している。特に2007年の西航トレードは06年比17%増

と急伸し、運賃も過去最高水準まで上昇した。これに呼応する形で、07年末から08年5月現在まで、配

船各社のサービス拡張が相次いでいる。旺盛な荷動きを背景に、かつての東西基幹航路と同様、投入船

の大型化競争となるのか。勢いを増す同トレードの現状を分析し、配船社の動きを追う。(松下優介)

原油依存から脱皮、ハブ機能で貨物集中相次ぐサービス拡張、大競争時代到来か

特集 1

存在感増すアジア/中東トレード存在感増すアジア/中東トレード

ジュベルアリ港での荷役風景

“NYK Canopus”○c NYK Line

Page 2: P08〜22 特集1 中東* - Daily-Cargo...存在感増すアジア/中東トレード CARGO JUNE 2008 9 特集1 07年荷動き急伸 アジアから中東ガルフ向けの07年の荷

存在感増すアジア/中東トレード

中東諸国の購買力だけに依存するもので

はない。上記のような最終仕向け地の消

費が拡大する限り、また、それらの貨物を

ハブとしてさばく処理能力をドバイが提供

する限り、同航路は荷動きが伸び続ける

ポテンシャルを持っていると言える。

世界第3位のターミナルオペレーター、

ドバイ・ポーツ・ワールド(DPワールド)の

本拠地、ドバイ2港には、アジア発に限ら

ず世界中から貨物が集まる。07年の2港

の取扱量は、06年比20%増の1070万

TEU。内訳はジュベルアリが990万TEU、

ポートラシッドが80万TEUで、特にジュベ

ルアリは25%増と大幅に取扱量を伸ばし

た。同港では増大する貨物に対応して大

規模な拡張工事が2段階で進んでおり、07

年の下期にはフェーズ1が完了し、新ター

ミナルが稼働。フェーズ1のオープンだけ

で処理能力が220万TEU拡大したほか、

水深17mの大水深バースの整備も完了

し、超大型船の受け入れが可能となって

いる。

またDPワールドは、新ターミナルのオー

プンで処理能力が拡大したジュベルアリ

に、ポートラシッドのコンテナ貨物および在

来貨物を移管、集約する動きを進めてい

る。

DPワールドは「08年1月末の時点で、

大部分のコンテナ貨物のハンドリングがポ

ートラシッドからジュベルアリに移ってい

る」としており、3月末から在来・非コンテ

ナ貨物の移管も進めている。船社関係者

の話を総合すると、ポートラシッドは今秋

にもコンテナターミナルを閉鎖し、クルーズ

船やフェリーが寄港する旅客用に特化す

る可能性が高いという。「4月でポートラシ

ッド向けのコンテナ貨物の引き受けを中止

した」とする船社が多く、5月時点でポー

トラシッドに寄港しているのはIRISL1社。

IRISLによると、同社も「7月末にはポー

トラシッドの使用を中止し、ジュベルアリ

に一本化する」もようだ。

物量が多いのはドバイ向けだが、07年

から08年初めにかけてイラン向け貨物の

増勢も目立つ。07年の同貨物は前年比で

40%を超える伸びとなっており、伸び率で

はドバイの約8%を大きく上回る。イランの

人口は約6950万人(06年、イラン中央銀

行)で、消費財需要のポテンシャルは中東

諸国で最大規模。07年の増勢も中国から

の消費財輸入の拡大が寄与したとみられ

る。

ラマダン明けが荷動きピーク

アジア/中東航路の西航では、中国か

ら輸送されるありとあらゆる消費財が過半

を占める。大ざっぱに分類すると、華南

からは建材など重量のある貨物が多く、華

東、華北からはアパレル、おもちゃ、食品

関連貨物など軽い貨物が多い。07年の華

南出しは「ウエート満船が多かった」とす

る船社もある。

イスラム圏である中東諸国には、日の出

から日没まで飲食を絶つ「ラマダン」が年

に約1カ月ある。毎年イスラム暦の9月が

ラマダンに当たるため、西暦では年に11

日ずつ早まることになる。08年は9月1~

30日がラマダンだ。ラマダン明けは祝日が

3日あり祝典が行われるため、欧州、北米

航路におけるクリスマス商戦同様、中東諸

国では購買意欲が高まり消費が促進され

る。アジア発の荷動きも、中国の旧正月の

スラックシーズンからラマダン明けに向け

て増えていき、ラマダン前後がピークシー

ズンとなる。この時期には祝典で使うカー

ペットが中国から出荷されるなど、同航路

ならではの特徴的な貨物も動くという。

関係者の話を総合すると、日本出しは

中古車が全体の35~40%、タイヤが30%、

自動車部品が5~10%。つまり、自動車

関連貨物が全体の70~75%を占めるベ

ースカーゴとなっている。なお、日系自動

CARGO JUNE 2008 11

特集 1

AD商船三井

ジュベルアリ港の上空写真

Page 3: P08〜22 特集1 中東* - Daily-Cargo...存在感増すアジア/中東トレード CARGO JUNE 2008 9 特集1 07年荷動き急伸 アジアから中東ガルフ向けの07年の荷

存在感増すアジア/中東トレード

ナ船に比べて運賃が安い自動車専用船と

競合するため、自動車部品などほかの品

目に比べ運賃水準を低くせざるを得ない

事情がある。このため、「中古車は運賃だ

けでブッキングが決まる、利益率が低い

コモディティ」(船社関係者)と見る向きが

多いのは事実。しかし一方で、「日本発中

東向けの中古車は、運賃だけでブッキング

され、安定輸送できるほどのマーケット

サイズではない。同航路における顧客の

1つの重要なセグメントとして、専門的な

対応が必要」(船社関係者)という指摘もあ

る。

07年は年間を通して自動車専用船の需

給が逼迫していたため、日本発中東向け

中古車の大半がコンテナ船で輸送された

ことが、同トレードの好調に寄与した。な

らば、08年の中古車の荷動きはどうなる

だろうか。船社関係者の話を総合すると、

中古車の荷動きに影響するとみられる外

部要因は①自動車専用船の需給②為替の

動向③輸出相手国の中古車輸入規制(法

改正)④中古車の輸送ルートの変化――

の4点だ。自動車専用船の需給は、「07年

から08年初めまでは非常にタイトだったも

のの、4月ごろから軟化しつつある」(船社

関係者)という。また、「急速に進む円高ド

ル安が、中古車を円で買ってドルで売る

日本のディーラーの利益率を押し下げ、海

外輸出のボリューム自体を絞る可能性が

ある」(船社関係者)と懸念する声もある。

加えて、中古車の主要仕向地である発展

途上国が、国策として自動車産業を基幹

産業に発展させようとする場合、中古車の

輸入に突如として規制をかけるリスクが

ある。さらに最近、ジュベルアリ経由で輸

出されていた東北アフリカ向けの中古車

を、日本から直接輸入する動きが出てい

るという。短期的な荷動きを予測する上で

は今後、この4点の動向に注目する必要

があるだろう。

一方、長期的な荷動きはどうか。中古車

についても前述のとおり、ジュベルアリ経

由で輸送される最終仕向地は多岐にわた

る。最終仕向地のメーンは、アフリカやC

IS諸国などの途上国。ある船社関係者は

「途上国では日本製の高品質な中古車は、

日々の生活を支える重要なコモディティで

あり、需要が非常に高い」との見方を示

す。「日本は海外で需要があるものを販売

して発展してきたし、これからもそれは変

わらない。日本製の中古車は海外で最も

必要とされている品目の1つだ」(船社関

係者)との指摘もあり、日本の中古車のジ

ュベルアリ向け輸出量は、長期的には拡

大していくとの見方が多い。

CARGO JUNE 2008 13

特集 1

車メーカーの工場は現在、中東域内では

イランにしかない。従って、CKDの輸出は

イラン向けのみ。また、自動車部品は大

半がメンテナンス用となっている。

自動車関連以外には、建設機械などの

プロジェクト関連貨物やケミカル、テキスタ

イルなどが動く。電気製品も一部日本から

出荷されているが、冷蔵庫、洗濯機、エア

コンなどの白物家電は、メーカー各社の東

南アジアへの生産拠点シフトに伴って「約

20年前から漸減傾向にある」(船社関係

者)。現在はほぼ全量がタイなど東南アジ

ア出しにシフトしているという。また、同地

域からは食品関連のリーファー貨物も中東

向けに出荷されている。

マーケットの傾向は、揚げ地ごとに異な

る。ジュベルアリは中古車の大規模なオー

クション会場があり、中古車の再輸出拠

点。シャルジャはエンジンなどの中古オー

トパーツのマーケットとなっている。また、

サウジアラビア向けはケミカル関連貨物と

建設機械が多い。イランのバンダルアバス

向けは、ペルシャじゅうたんの原料などの

繊維関係が多いほか、前述のCKDや一部

新品のオートパーツが輸送されていると

いう。

日本出しのカギ握る中古車

日本出しの大宗を占める自動車関連貨

物の中でも、特に中古車の物量が多いの

が、日本/中東トレードの特徴だ。国際自

動車流通協議会(iATA)が貿易統計を基

にまとめた07年の仕向地別中古車輸出台

数によると、UAE向けのシェアはロシア向

けの47万8878台に次ぐ2位で、12万2521

台だった。ただし、これは自動車専用船と

コンテナ船で輸送された総量。コンテナ船

で輸送された台数で比較すると、ロシア向

けが1796台に対して、UAE向けは11万

244台と圧倒的な1位となる。近年の新車

海上荷動きの急拡大による自動車船不足

で、コンテナ船による中古車の輸送比率は

上昇基調。とはいえ、07年の日本におけ

る中古車輸出量全体のコンテナ化率は、

06年比4.5ポイント拡大の30.7%。それに

対してUAE向けのコンテナ化率は90%と、

約3倍だ。UAE向けのコンテナ化率は上

位仕向地では群を抜いて高く、「中古車の

コンテナ積みが定着している」(iATA)航

路である点も特徴と言える。

日本/中東航路の配船社は、中古車を

多く扱う船社と全く扱わない船社に明確

に分かれるが、日本出し貨物の今後の荷

動きを占う時、カギを握るのは中古車輸

出量の動向といえよう。中古車は、コンテ

CARGO JUNE 200812

ドバイのシェイクザイードロード沿いにあるビル群ドバイのジュメイラ・モスク

Page 4: P08〜22 特集1 中東* - Daily-Cargo...存在感増すアジア/中東トレード CARGO JUNE 2008 9 特集1 07年荷動き急伸 アジアから中東ガルフ向けの07年の荷

存在感増すアジア/中東トレード

インバラ率、プラント稼働で改善か

アジア/中東航路の最大の特徴は、典

型的な片荷航路である点だ。船社関係者

によると、インバランス率(東航÷西航)は

「06年、07年ともに14%程度」という。07

年では西航荷動きの約152万TEUに対し

て、東航は21万TEU前後だった計算だ。

中東からの東航で輸送される品目の多

くは石油関連製品。主にレジンなどがダ

ンマンから積み出されるという。このほか

バンダルアバスからピスタチオがアジア向

けに、また仕出地は定かでないものの中

東でボトリングしたイオンウォーターが、一

部日本向けに出荷されているもよう。しか

しいずれも物量が少なく、「東航で同貨物

を積むために発生するトランシップやフィ

ーダーのコストが運賃を上回るケースも多

いため、空バンでの回送が大半」(船社関

係者)という声が多い。

インバランスが大きいことでかさむコン

テナバン回送コストへの対応として、「クウ

ェートやCIS諸国向けなど、空バンの回送

コストが多く発生するペルシャ湾奥地向け

の貨物は、トレードポリシーとしてアジアか

らのブッキングを制限している」、また「片

荷航路で採算を向上させるために、タイ出

しのリーファー貨物など利益率の高い貨

物を選別する」という船社もある。アジ

ア/中東に限らずグローバルに配船する

キャリアは「中東だけでなく北米、欧州な

どを合わせて考えて効率的なセットアップ

を実現している」。だが、各配船社は、基

本的に自社のサービスネットワークに応じ

た極力効率的なポジショニングを行いなが

らも、他航路より多く空コンテナ回送コス

トの負担を強いられているが実情だ。

こうした状況の中、08年は東航貨物の

増大が期待されている。かねてより建設が

進んでいたペルシャ湾岸の複数の石油化

学プラントが08年に立ち上がり、アジア向

け輸出が本格化するとされているためだ。

一例として、住友化学がサウジ・アラムコ

社と提携し、紅海沿岸のラービグで開発

を進めている超大型ケミカルコンプレック

スがある。船社関係者によると「製品出荷

が08年後半から本格化し、軌道に乗れば

年間160万㌧の海上輸送が期待される」と

いう。中東に進出した化学メーカー各社

の輸出が本格化すれば、汎用性のあるポ

リエチレン、ポリプロピレンのアジア向け

輸出が拡大する見通しだ。これらの製品

はコンテナ船で輸送するのが一般的で、

潜在的な輸送需要は数十万TEU規模に

達するとみられる。

導入進む変動型BAF

活発な荷動きとはまた別に、燃料油価

格のかつてない高騰が船社収支を圧迫す

る。この構図は、同航路にも当てはまる。

アジア/中東航路は北米や欧州航路に

比べ、BAF(バンカー・アドジャストメント・

ファクター)の収受率が低いとされてきた。

背景にあるのは、前述した海上運賃の激

しい上下動だ。振れ幅の大きい海上運賃

に対し、BAFの重要性は相対的に低下

し、各船社がBAFの収受徹底に注力して

こなかった経緯があるとみられる。

だが、07年後半から歴史的高水準で推

移する燃料油価格により、運航コストの高

騰は「各船社が未経験の領域」(船社関係

者)に突入している。こうした状況下では、

「高速で運航するコンテナ船は、最も燃料

消費量が多い船種であり、そのコスト増を

無視するのは経営上不可能」(船社関係

者)との声が高まっている。こうした機運に

より、同航路でも燃料油価格の高下に連

動する変動型BAFの導入が08年から浸

透しつつあるという。

特に日本出し貨物については、全体の

70~75%を占める自動車関連貨物のほ

ぼすべてがオールイン運賃で、BAFを収

受できていなかったのが実情とみられる。

その中でも中古車は、典型的なオールイ

ン運賃のマーケットとされる。理由は、ト

ン当たりのシンプルな運賃体系である自

動車専用船と競合する際に、コンテナ当

たりの運賃を提示せざるを得なかったこ

とがあるもよう。

だが07年末から08年初めにかけて、中

古車を含めた日本出し貨物で、海上運賃

とBAFを切り離すことに成功している船

社が複数ある。「08年初めに、ほぼ100%

の顧客から変動型BAFが容認された」と

する船社もある。

CARGO JUNE 2008 15

特集 1

AD日本郵船

ドバイでの鉄道工事用採掘機械の設置風景