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Proceedings
MRI, ART & ITP
International Symposium
Hotel Limani, Ushimado
January 28-29, 2012
本シンポジウムは、岡山大学医学部医学科3年次生の医学研究イン
ターンシップ(MRI)プログラム、および、若手研究者の海外派遣
による国際人育成プログラム (ITP)と合同で開催いたしました。
ART プログラムに関するページのみ抜粋し、掲載しております。
i
PROGRAM
12:00 Opening Address
12:10 SESSION 1 Luncheon Seminar
Yoshifumi Ninomiya (Director, MRI)
Hideki Matsui (Director, ART )
Kohji Takei (Director, ITP)
13:00 Invited Lecture 1
Patricia Gaspar, M.D.,Ph.D.
(Director, Ecole des Neurosciences de Paris-Ile de France)
14:10 SESSION 2 MRI 2011 Report Meeting ………………………… p.1-3
4 oral presentations (Chairperson: Yoshito Nishimura)
15:10 Coffee Break
15:30 SESSION 3 ART 2011 Report Meeting ………………………… p.4-9
5 oral presentations (Chairperson: Atsushi Fujimura)
17:00 Poster Session Odd Posters 17:00-17:25
Even Posters 17:25-17:50
MRI: 14 poster presentations ………………………………… p.10-17
ART: 13 poster presentations ………………………………… p.18-31
ITP: 8 poster presentations ………………………………… p.32-40
18:00 Special Session Brain x Music
Pianist: Naoko Nakashima (Kurashiki Sakuyo University)
19:00 Reception
9:00 Invited Lecture 2
Dennis Bruemmer, M.D.,Ph.D.
(Associate Professor, University of Kentucky)
10:00 SESSION 4 ITP 2011 Report Meeting ………………………… p.41-44
3 oral presentations (Chairperson: Toshio Masumoto)
11:00 Invited Lecture 3
Hideaki Nagase, Ph.D.
(Professor, University of Oxford, The Kennedy Institute of Rheumatology)
12:00 Closing Address
Day 1 (January 28)
Day 2 (January 29)
ii
Poster Session Layout
MRI
7 6 5 4 3 2 1
8 9 10 11 12 13 14 15
ART
7 6 5 4 3 2 1
8 9 10 11 12 13
ITP
2 1
3
4 5
8 7
6
司会 110席
ピアノ
演台
受付
ドリンク&
サンドウィッチ
Lectures, Oral Sessions
ITP
ART MRIPoster Session
iii
Oral # Title Page
MRI-1 福本侑麻 Yuma FUKUMOTO 脊椎動物における外眼筋の形態研究 2
MRI-2 高路真由 Mayu KORO 皮膚感染症における表皮角化細胞の免疫学応答に関する研究 2
MRI-3 赤井弘明 Hiroaki AKAI ビーズを用いたオートファゴソーム膜の単離の試み 3
MRI-4 松岡勇斗 Yuto MATSUOKA 小脳オリゴデンドロサイトのダイナミックムーブメントの観察 3
ART-1 久保飛鳥 Asuka KUBO がん原遺伝子c-Metのシグナル伝達と細胞内輸送 5
ART-2 三澤晶子 Akiko MISAWA エンドソームにおけるカベオリンの輸送制御機構 6
ART-3 神原由依 Yui KANBARA HIV-1タンパクNefによるCD4分解経路の検討 7
ART-4 逸見祐次 Yuji HENMI ダイナミン2は微小管を介してアクチンコメットを制御する 8
ART-5 藤村篤史 Atsushi FUJIMURA CyclinG to the Edge: A Novel Role of Cyclin G2 in GBM Migration 9
ITP-1 斎藤太一 Taichi SAITOAntibodies against syndecan-4 reduce cartilage destruction and the progression after onset in
RA-like disease of hTNF transgenic mice42
ITP-2 長谷井嬢 Jo HASEI Cytotoxic effect of zoledronate on the osteosarcoma and chondrosarcoma cell lines 43
ITP-3 髙橋索真 Sakuma TAKAHASHISuppressed production of pro-inflammatory cytokines from macrophages
after severe sepsis might be related with histone epigenetic changes44
Poster # Title Page
MRI-1 真鍋星 Sei MANABE 経鼻投与型インフルエンザワクチンにおける新規アジュバントの検討 11
MRI-2 吉村翔平 Shohei YOSHIMURA ADAM10 Expression is Regulated by Amyloid-Beta through JNK/AP-1 Pathway 11
MRI-3 赤井弘明 Hiroaki AKAI ビーズを用いたオートファゴソーム膜の単離の試み 12
MRI-4 山上圭 Kei YAMAGAMI Investigate the Role of RORα in Astrocyte-Microglial Crosstalk through the Soluble Factors 12
MRI-5 桑原正樹 Masaki KUWABARA Construction of conditional KO mouse 13
MRI-6 渡辺倫江 Michie WATANABE Clostridium perfringens Spore Germination 13
MRI-7岩井なつき花田沙穂
Natsuki IWAI
Saho HANADASociety and Health 14
MRI-8 畑山一貴 Kazuki HATAKEYAMA Growth and expansion of neurological AVM in mice 14
MRI-9 田岡奈央子 Naoko TAOKA The Regulation of IGFBP3 by Tumor Microenvironment in ESCC 15
MRI-10 三村裕美 Yumi MIMURA 生殖器の組織学 15
MRI-11 藤井香菜江 Kanae FUJII Angiogenesis of Oocyte 16
MRI-12 石田光 Hikaru ISHIDA 緑内障と細胞死 16
MRI-13 羽田野裕 Yutaka HATANO マウス腸管におけるREIC/Dkk3の発現とその意義 17
MRI-14 猿渡和也 Kazuya SARUWATARI 電位依存性イオンチャネルの伸展刺激に対する反応について 17
ART-1 品岡玲 Akira SHINAOKA Subendothelial architecture of small blood vessel elastic fibers 19
ART-2 清水俊彦 Hiroaki SHIMIZU頭蓋外浸潤性髄膜腫の免疫組織学的検討Immunohistochemical analysis of extra cranial invasive meningioma
20
ART-3 瀧内麻里 Mari TAKIUCHI せつ腫症におけるPanton-Valentine型ロイコシジン(PVL)の役割 21
ART-4 升田智也 Tomoya MASUDA 癌患者血液中の癌関連線維芽細胞の検討 22
ART-6 山本治慎 Haruchika YAMAMOTO マウス肺虚血モデルを用いての虚血再灌流障害に関与する因子の検討 24
ART-7 井川卓朗 Takuro IGAWA Cyclin D2 is overexpressed in proliferation centers of CLL/SLL 25
ART-8 菊池達也 Tatsuya KIKUCHI Phosphorylation of cortactin by PKC is a key factor for filopodia formation of growth cone 26
ART-9 松崎光博 Mitsuhiro MATSUZAKIAntidepressant effect of mating behavior and sildenafil through activation of an oxytocin
signaling pathway27
ART-10 三澤晶子 Akiko MISAWA エンドソームにおけるカベオリンの輸送制御機構 28
ART-11 森亜希子 Akiko MORIDevelopment of tumor-targeting liposomal 10B delivery system with in-vivo imaging function for
Boron Neutron Capture Therapy29
ART-12 岡浩介 Kosuke OKA Concanavalin A肝炎におけるCD4+T細胞SOCS1の役割 30
ART-13 佐藤あやの Ayano SATO iPS細胞を利用したがん幹細胞様細胞集団の誘導法の確立 31
ITP-1 斎藤太一 Taichi SAITOAntibodies against syndecan-4 reduce cartilage destruction and the progression after onset in
RA-like disease of hTNF transgenic mice33
ITP-2 長谷井嬢 Jo HASEI Cytotoxic effect of zoledronate on the osteosarcoma and chondrosarcoma cell lines 34
ITP-3 入江浩一郎 Koichiro IRIECombined Effects of Hydrogen Sulphide and Lipopolysaccharide
on Osteoclast Differentiation in Rats35
ITP-4 ADAMTS1 inhibit angiogenesis by inducing apoptosis in endothelial cells 36
ITP-5 井上円加 Madoka INOUE Effect of cyclic tensile strain on ACL cells cultured in three-dimensional scaffolds 37
ITP-6 長岡憲次郎 Kenjiro NAGAOKA Effects of N-glycosylation on human UGT2B7 functions 38
ITP-7 早野暁 Satoshi MIYAMOTO Roles of heparan sulfate modifications in dentinogeneis 39
ITP-8 宮本聡 Satoru HAYANO The role of cholecystokinin in the progression of diabetic nephropathy 40
23Satoshi YAMAGUCHI
Yuriko YAMAMURA
Presenting Author
Presenting Author
Poster Session
Oral Session
ART-5山口哲志山村裕理子
Identification of miRNAs, which are regulated in obesity and insulin resistance
Omer Faruk Hatipoglu
Presentation Index
iv
Invited Lectures
v
Invited Lecture 1 Day 1 (January 28)
Serotonin system: investigating the singularities of a diffuse transmitter
Patricia Gaspar, M.D., Ph.D.
(Director, Ecole des Neurosciences de Paris-Ile de France)
Invited Lecture 2 Day 2 (January 29)
Telomeres are Telomerase in Obesity, Metabolism, and Atherosclerosis
Dennis Bruemmer, M.D., Ph.D.
(Associate Professor, University of Kentucky)
Invited Lecture 3 Day 2 (January 29)
How I started my research career: Encounters with my teachers
Hideaki Nagase, Ph.D.
(Professor, University of Oxford,
The Kennedy Institute of Rheumatology)
4
Day 1 (January 28)
ART 2011 Report Meeting
ART プログラム 2011 報告会
=ORAL SESSION=
5
がん原遺伝子 c-Met のシグナル伝達と細胞内輸送
久保飛鳥
大学院医歯薬学総合研究科・生化学(Pre-ART・医学科 3 年)
がん原遺伝子として知られているc-Met(肝細胞増殖因子受容体)は、リガンドである肝
細胞増殖因子hepatocyte growth factor(HGF)と結合することで活性化し、細胞内にシグ
ナルを伝える。これらのシグナルは細胞の増殖や細胞の移動能の亢進などの作用をもつ一
方で、その異常は細胞のがん化を引き起こす。そのため、c-metからのシグナル伝達の制御
機構を明らかにすることは、がん化の抑制・阻害を目指す上でも重要である。c-Metからの
シグナル伝達は、それ自身の分解によって終息することから、細胞内輸送がシグナル制御
の一端を担っていると考えられる。しかし、c-Metの輸送機構およびそのシグナル制御機構
はほとんどわかっていない。そこで、細胞内輸送を制御する因子としてEHDに着目し、EHD
がc-Metからのシグナル制御に関わっているのかを明らかにすることを研究目的とした。
EHDには細胞内の異なる場所で機能する4つのアイソフォーム、EHD1〜4が存在する。
まず、EHD1〜4のうち、c-Metと共局在するアイソフォームとしてEHD1, 3, 4を同定した。
次に、それらのEHDをノックダウンしたときに、c−Metからのシグナル伝達に影響が出る
のかを検証した。各siRNAをHeLa細胞に導入後、HGFを添加してから0’から240’までのリ
ン酸化c-Met(活性型)を定量した。その結果、Controlと各EHDノックダウン細胞で有為
な差は見られなかった。そこで、より長期間でのc-Metのシグナル伝達への影響を観察する
ため、長期のシグナル伝達との関与が知られている細胞移動への影響を観察した。その結
果、EHD1ノックダウン細胞で細胞移動能の顕著な低下が認められ、同時にc-Metとその下
流のシグナル伝達分子であるSTAT3, ERK1/2のリン酸化(活性化)が減尐していることが
分かった。このことから、EHD1はc-Metからのシグナル伝達制御に関与していること、特
に長期間でのシグナル伝達に影響を与えていることが明らかとなった。本結果は、HGF刺
激による短期・長期のシグナル伝達には異なる制御機構が存在することを示唆している。
6
エンドソームにおけるカベオリンの輸送制御機構
三澤晶子
大学院医歯薬学総合研究科・生化学(Pre-ART・医学科 3 年)
カベオラは細胞膜上に存在する膜ドメインであり、細胞内輸送のキャリアとして細胞膜
とエンドソームの間を行き来すると考えられている。カベオラを介する輸送は、脂質の調
節や病原体の侵入などさまざまな生理作用に関わることが知られているが、その制御機構
は明らかになっていない。最近になって、カベオラの形成にシンダピンと呼ばれるタンパ
ク質が重要な役割を果たしていることが報告された(Hansen et al., J Cell Sci. 2011)。一
方、シンダピンと結合する細胞内輸送の調節分子として EHD(Eps15-homology domain
containing protein)が報告されている(Braun et al., Mol. Biol. Cell. 2005)。EHD は脂
質膜をチューブ状にする機能を持っており、カベオラの細胞内輸送との関係が注目されて
いるが、その関係は全くわかっていない。
そこで本研究では、カベオラの輸送制御因子として EHD に着目し、EHD とカベオラの
局在や、EHD 発現抑制によるカベオラ輸送の変化を検証した。EHD には EHD1~4 のアイ
ソフォームが存在する。まず、GFP-EHD1~4 とカベオラの主要構成成分であるカベオリン
の共局在を観察した。その結果、GFP-EHD2 と GFP-EHD4 で内在性のカベオリンとの共
局在がみられた。EHD2 は細胞膜で、EHD4 はエンドソームでの輸送を制御していると考
えられており、EHD2 と EHD4 が異なる場所でカベオラの輸送を制御している可能性が考
えられた。次に、EHD2 と EHD4 をノックダウンした HeLa 細胞でカベオリンの発現量を
調べたところ、EHD4 をノックダウンした細胞ではカベオリンが減尐していることがわか
った。さらに、蛍光標識カベオリンを用いて Live Imaging で観察すると、EHD4 ノックダ
ウン細胞では後期エンドソーム様の巨大構造物にカベオリンが局在し、活発に移動する様
子がみられた。この結果から、EHD4 ノックダウン細胞ではカベオラが分解経路に誘導さ
れていると考えられ、EHD4 がカベオラのエンドソームから細胞膜へのリサイクルを制御
している可能性が示唆された。
7
HIV-1 タンパク Nef による CD4 分解経路の検討
神原由依
大学院医歯薬学総合研究科・生化学(Pre-ART・医学科 4 年)
ヒト免疫不全ウイルス(HIV-1)は、CD4 陽性 T 細胞に感染し免疫不全を起こすが、そ
れは HIV-1 がコードするタンパク質である Nef が、T 細胞膜表面にある共受容体 CD4 をダ
ウンレギュレーションしているためである。最近の研究により、Nef 発現時では細胞膜か
らエンドサイトーシスされた CD4 は、最終的に後期エンドソームを介してリソソームで分
解されることが報告された。しかし、その分子メカニズムについては未だ明らかになって
いない。
今回、我々は CD4 の分解経路が MVB ではなく他の未知の経路であることを見出した。
Nef を発現させた CD4 陽性の HeLa 細胞(T4)を用いて CD4 の細胞内局在を観察した。
その結果、CD4 は後期エンドソームを辿ることが知られる上皮成長因子とは一致せず、リ
サイクル経路を辿るトランスフェリンと共局在がみられた。さらに、Nef 発現時では CD4
の凝集塊が認められ、その凝集塊はリサイクリングエンドソームのマーカーと一致した。
以上の結果から、Nef によって取り込まれた CD4 はいったんリサイクルエンドゾーム(RE)
に凝集し、そこから何らかの経路で分解されていると考えられた。
次に、後期エンドソームを辿らない膜タンパク質の分解経路として知られるオートファ
ジーの経路を検証した。その結果、Nef 発現下においてオートファゴソームのマーカーで
ある LC3 と CD4 は一部共局在し、さらに、Autophagy の阻害剤を用いたときその割合が
増加した。しかし、Autophagy の阻害は CD4 分解を優位に阻害することはなく、別の分解
経路が存在している可能性が考えられた。
現在我々は、最近報告された新たな分解経路である Rab12 依存性の分解経路について
CD4 輸送との関連を検証している。それらの経路を含め、現在考えられる可能性について
紹介する。
8
ダイナミン 2 は微小管を介してアクチンコメットを制御する
逸見祐次
大学院医歯薬学総合研究科・生化学(L-ART・博士課程 1 年)
ダイナミン2はエンドサイトーシスの小胞切断を担うタンパク質として知られている。
一方、アクチン制御タンパクの一つコルタクチンと相互作用し、アクチン制御を担うこと
が報告された。ダイナミン 2 は細菌感染や脂質リン酸化によって誘導されるアクチンコメ
ットに局在することから、アクチンコメットのアクチン重合を制御していると考えられる
が、その役割は未だにわかっていない。そこで本研究では、内在性ダイナミン 2 とコルタ
クチンのアクチンコメット制御における役割を調べた。siRNA を用いて内在性ダイナミン
2 とコルタクチンそれぞれを発現抑制した HeLa 細胞で、リステリア菌感染により誘導され
るアクチンコメットを観察した。アクチンコメットの形態と動態を観察した結果、コルタ
クチン発現抑制細胞では影響がみられなかったが、ダイナミン 2 発現抑制細胞ではアクチ
ンコメットの長さが短くなり、その速度も優位に減尐していた。これらの結果は、内在性
ダイナミン 2 がコルタクチンを介さずにアクチンコメットを制御する可能性を示唆してい
る。ダイナミン2はコルタクチンを介してアクチンを制御すると考えられている事から、
アクチン重合とは異なる経路でアクチンコメットに関与すると考えられた。
最近の我々の研究で、ダイナミン 2 が微小管の動的不安定性を制御することが明らかに
なった。リステリア菌はアクチンを重合して推進力を得る一方、前方の微小管を脱重合さ
せて自身の進むスペースを確保している。そこで、微小管重合・脱重合阻害剤を用いて、
ダイナミン 2 発現抑制細胞におけるアクチンコメットへの影響を解析した。その結果、ア
クチンコメットの長さ、速度共にコントロールとの有意差が認められなくなった。これら
の結果はダイナミン2発現抑制細胞に見られる異常なアクチンコメットが微小管に依存し
たものであることを示している。以上のことから、ダイナミン 2 は微小管を介してアクチ
ンコメットを制御している可能性が考えられる。
9
CyclinG to the Edge: A Novel Role of Cyclin G2 in GBM Migration
藤村篤史
大学院医歯薬学総合研究科・細胞生理学(ART・博士課程3年)
低酸素状態など、細胞をとりまく微小環境は各種シグナル伝達やタンパク質発現の調節
を介して、細胞の遊走能に大きな影響を与えることが知られている。細胞遊走は発生や組
織構築などの生理学的現象において重要であるのみならず、癌の浸潤や転移などの病理学
的事象においても深く関与する現象である。前述のとおり低酸素状態が癌の浸潤を促進す
ることは先行研究で明らかにされているが、その詳細な分子機構は依然として明確ではな
かった。今回我々は、低酸素状態が誘導する Cyclin G2 タンパク質が細胞骨格の調節を介
して細胞遊走能を促進し、ヒト膠芽腫(GBM)の浸潤に関与することをつきとめた。
Cyclin G2 は PP2A と協働して細胞周期を抑制的に調節する非典型的 Cyclin であるが、
興味深いことに、これまでの研究で微小管と共局在することが知られている。これらの知
見に加えて我々はさらに、低酸素に応答して遊走している Glioma 細胞の先端で Cyclin G2
がアクチン線維と共局在し Ruffling Formation を促進していることを発見した。Cyclin G2
は遊走先端において、Actin-bundling タンパク質である Cortactin とともに複合体を形成
しており、このチロシンリン酸化を促進することで遊走を促進することがわかった。
今回の我々の研究成果は、GBM における腫瘍細胞の拡散において細胞周期関連タンパク
質である Cyclin G2 が直接的に細胞骨格を制御し、細胞浸潤を促進しているという点で非
常に新しいものである。今後の研究展望としては、我々が明らかにした分子メカニズムを
もとに、Cyclin G2 または Cortactin を標的とした薬剤を探索し、腫瘍細胞の浸潤を制御す
ることで GBM の予後改善に寄与したいと考えている。
18
Day 1 (January 28)
ART 2011 Report Meeting
ART プログラム 2011 報告会
=POSTER SESSION=
19
ART-1
Subendothelial architecture of small blood vessel elastic fibers
品岡玲
大学院医歯薬学総合研究科・人体構成学(ART・博士課程 2 年)
Blood vessels, except capillaries, have more or less elastic fibers or laminae, which
produce resillience and flexibility and influence hemodynamics. The current study aims
to reveal the three-dimensional architecture of elastic fibers in various blood vessel
walls and their potential function. We have newly developed specimen preparation
procedure for scanning electron microscopy of formic acid digested specimens after
resin injection into blood vessels, and could successfully demonstrate the
three-dimensional archtecture of elastic fibers in all types of blood vessels even in
arterioles and venules. In such small vessels, the subendothelial elastic fibers laterally
assemble into a sheet of mesh structure, whose long axis was parallel to longitudinal
direction of the vessels regardless of vascular types. But the diameter of elastic fibers
and the mesh density varies depending on the vessel type and the size. Larger vessels
have higher density of the mesh and thicker elastic fibers than smaller ones, and
arterioles have higher density of the mesh than venules. These results indicate that the
three-dimensional architecture of elastic fibers is representing the hemodynamic state
such as blood pressure.
20
ART-2
頭蓋外浸潤性髄膜腫の免疫組織学的検討
Immunohistochemical analysis of extra cranial invasive meningioma
清水俊彦
大学院医歯薬学総合研究科・脳神経外科学(ART・博士課程 2 年)
【はじめに】髄膜腫の多くは良性で脳実質の外側に発育し,浸潤性に増殖することは稀で
あるが、一部には周辺組織に浸潤して再発を繰り返し、臨床的に悪性の経過を示すものが
ある。最近当科で経験した浸潤性格の強い3症例を報告し、浸潤性格の尐ない通常の髄膜腫
4症例と免疫組織学的な比較検討を行ったので報告する。
【症例と結果】症例1:66 歳男性、主訴は動揺感。頭部CTにて右中頭蓋窩硬膜に広範に付着
する頭蓋内髄外腫瘍を認めた。頭部MRIにて、比較的均一な造影を示し、脳表との境界は
不明瞭で、側頭葉内に広範で著明な浮腫を伴っていた。頭蓋外にも蝶形骨洞、右側傍咽頭
から咀嚼筋間隙、中頭蓋窩への腫瘍の進展が見られた。開頭により中頭蓋窩の腫瘍を摘出
したが、肉眼的に、側頭筋、側頭骨への腫瘍浸潤、一部骨融解を認めた。また頭蓋内では、
腫瘍は脳表に強く癒着し、一部は境界不明瞭であった。病理学的には、 transitional
meningioma(WHO:grade1)の像であり、悪性所見は認めなかった。
本症例に加えて、周囲組織への浸潤を示さず臨床的悪性度の低い髄膜腫4症例の手術組
織標本を、浸潤及び血管新生に関連しているとされるCYR61, MMP2, MMP9,SPARK 等で
免疫組織染色し、比較した。
CYR61は浸潤症例でのみ発現を認め、他の非浸潤性例では陰性だった。MMP2は全例で
染色を認めたが、浸潤症例で最も強い発現を認めた。MMP9およびSPARKは全症例で陰性
もしくは弱陽性で、浸潤性の有無と関連性がなかった。
【結語】病理学的に悪性所見が乏しいにも関わらず、頭蓋外へ浸潤性格が強く臨床的悪性
度の高い髄膜腫の3例を経験した。免疫染色にて、CYR61、MMP2の発現が高く、これら
は髄膜腫の浸潤性との関連が示唆され、臨床的悪性度の指標のひとつとなりうると考えら
れた。
21
ART-3
せつ腫症における Panton-Valentine 型ロイコシジン(PVL)の役割
瀧内麻里
大学院医歯薬学総合研究科・皮膚科学(ART・博士課程 1 年)
【背景】 Panton-Valentine 型ロイコジン(PVL)は黄色ブドウ球菌より産生され、白血球
に対してより高い特異性を示す毒素である。PVLは欧米では市中感染型MRSAに高率に陽
性であり、その強毒性マーカーとして注目されている。
この毒素はせつ(おでき)などの深在性皮膚感染症や壊死性肺炎などに高率に検出され、
疾患特異性がある。我々は本邦の皮膚感染症の疫学的検討によりせつ・せつ腫症・癰など
深在性皮膚感染症では PVL が高率に検出され、PVL 遺伝子陽性黄色ブドウ球菌によるせつ
の特徴は基礎疾患のない若年者に多く、発赤が強く、多発しやすいことを明らかにした。
PVL をウサギの皮膚に接種すると、普通のロイコシジンよりも発赤の強いせつ類似の病変
を生じ、組織学的には好中球破壊と周囲の壊死像を認める。この動物実験と我々の臨床的
観察からは実際に病変部でも毒素が発現していることが予想されるが、この毒素の発現機
構は不明である。さらに PVL が好中球以外の炎症細胞、ケラチノサイトや血管内皮細胞に
及ぼす影響も不明である。また PVL 遺伝子はファージ変換が示されていて、感染を繰り返
すことにより水平伝播する特徴がある。つまり、非病原性(PVL 陰性)の株が病原性の株に
変換しうることになる。しかしながら伝播様式については臨床的にも不明なところが多い。
せつ腫症はおできが多発、再発する小児に多い感染症で PVL がその病態形成に深く関与
していることが予想される。
【目的】 PVL の発現機構と病態形成の解明
【研究予定】
1) PVL の発現制御因子を特定する。
2) PVL の単球、マクロファージ、ケラチノサイト、線維化細胞、血管内皮細胞や抗菌
ペプチドに与える影響について検討する。
3) PVL 変換ファージの多様性について疫学的調査により、PVL 非産生株の PVL 獲得
機構について明らかにする。
22
ART-4
癌患者血液中の癌関連線維芽細胞の検討
升田智也
大学院医歯薬学総合研究科・消化器外科学(ART・博士課程 1 年)
論文発表前のため、掲載しておりません。
23
ART-5
Identification of miRNAs, which are regulated in obesity and insulin resistance
山口哲志、山村裕理子
大学院医歯薬学総合研究科・腎・免疫・内分泌代謝内科学(ART・博士課程 1 年)
Even though the biological function of miRNA is yet to be fully understood, it has
been shown that the tissue levels of specific miRNAs correlate well with various
biological and pathological processes. Recently, finding miRNA in the blood has
suggested the potential for miRNA based blood biomarkers and therapeutic targets. To
identify miRNAs that are regulated in obesity and insulin resistance, we performed
miRNA profiling in plasma, liver and adipose tissues in mice with diet-induced obesity.
Serum, liver, and adipose tissue samples were obtained from 20-week old C57BL/6J
mice fed with normal chow and high fat high sucrose chow. Total RNAs were isolated
from serum and tissues by using QIAamp Circulating Nucleic Acid Kit and miRNeasy
Mini kit (Qiagen). Quality of total RNAs was confirmed by measuring the ratio of
28S/18S by Agilent 2100 Bioanalyzer. Then, total RNAs were subjected to Illumina
TruSeq Small RNA Sample Preparation protocol, including 3’- and 5’- adapter ligation,
reverse transcription, PCR amplification, and pooled gel purification to generate a
library product. Sequencing was performed and the obtained data were mapped to
mouse genome sequence and annotated (bowtie-0.12.7). In each group, the read
numbers of known miRNAs were counted and compared.
We have annotated various RNA species, such as miRNA, mRNA, piRNA and others
and identified 15 miRNAs, which are highly up-regulated in adipose tissues. However,
these miRNAs are not up-regulated in serum and liver tissues.
These miRNA may be involved in the process of insulin resistance and inflammation
in obesity and diabetes.
24
ART-6
マウス肺虚血モデルを用いての虚血再灌流障害に関与する因子の検討
山本治慎
大学院医歯薬学総合研究科・呼吸器・乳腺内分泌外科学(ART・博士課程 1 年)
終末期呼吸器疾患において肺移植は有効な手段であるが、問題点として高い周術期死亡率
に関わる primary graft dysfunction(PGD)があげられる。PGD には様々な要因が考えられ
ているが、なかでも虚血再灌流障害は非常に重要な位置を占めると考えられている。
虚血再灌流障害の発生機序,要因は未だ明らかとはなっていないが、血管透過性亢進、白
血球・マクロファージの遊走などを認めることから,その本態は炎症と考えられている。
Jak および Stat は、多くのサイトカイン受容体機構における重要な構成要素で、増殖、生
存、分化及び病原体抵抗性を制御している。この経路において、サイトカインシグナル抑
制タンパク質 (SOCS) ファミリーメンバーは、同種もしくは異種のフィードバック調節を
介して、受容体のシグナル伝達を抑制しているとされている。
今回虚血再灌流障害における SOCS3の肺機能に対する影響について検討する。
方法として、マウス肺温虚血再灌流モデルを用いて行う。Sham 群、IRI 群(Wild/KO)に
分けて肺における虚血再灌流障害の程度を Wild Type マウスと、SOCS3 KO マウス
とで組織標本および血ガス等を比較し、検証する。
ポスター発表では、研究背景、実験手技、今後の展望について発表する。
25
ART-7
Cyclin D2 is overexpressed in proliferation centers of CLL/SLL
井川卓朗
大学院医歯薬学総合研究科・病理学(腫瘍病理/第二病理)(Pre-ART・医学科 5 年)
The D cyclins are important cell cycle regulatory proteins involved in the pathogenesis
of some lymphomas. Cyclin D1 overexpression is a hallmark of mantle cell lymphoma,
whereas cyclins D2 and D3 have not been shown to be closely associated with any
particular subtype of lymphoma. In the present study, we found that cyclin D2 was
specifically overexpressed in the proliferation centers (PC) of all cases of chronic
lymphocytic leukemia ⁄ small lymphocytic lymphoma (CLL ⁄ SLL) examined (19 ⁄ 19). To
examine the molecular mechanisms underlying this overexpression, we
immunohistochemically examined the expression of nuclear factor (NF)-κB, p15, p16,
p18, and p27 in the PC of six patients. Five cases showed upregulation of NF-κB
expression, which is known to directly induce cyclin D2 by binding to the promoter
region of CCND2. All six PC examined demonstrated downregulation of p27 expression.
In contrast, upregulation of p15 expression was detected in five of six PC examined.
This discrepancy suggests that unknown cell cycle regulatory mechanisms involving
NF-κB-related pathways are also involved, because NF-κB upregulates cyclin D2 not
only directly, but also indirectly through c-Myc, which is believed to downregulate both
p27 and p15. In conclusion, cyclin D2 is overexpressed in the PC of CLL ⁄ SLL and this
overexpression is due, in part, to the upregulation of NF-κB-related pathways.
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ART-8
Phosphorylation of cortactin by PKC is a key factor
for filopodia formation of growth cone
菊池達也
大学院医歯薬学総合研究科・生化学(Pre-ART・医学科 5 年)
Cortactin, a F-actin binding protein, localizes at growth cone. However, the function of
cortactin in growth cones is poorly understood. In this study, we demonstrate that
phosphorylation of cortactin by PKC regulates neuronal growth cone filopodia.
Treatment of SH-SY5Y with phorbol myristate acetate (PMA), a PKC activator, rapidly
retracted the growth cone filopodia. Simultaneously, PMA treatment resulted in serine
phosphorylation of cortactin. These effects were strongly inhibited by the pretreatment
with GF109203X, a broad PKC inhibitor, or Go6976, an inhibitor for PKC and
isozyme. By double immunofluorescence, cortactin and PKC were presented as bright
dots arranged along growth cone filopodia, and they colocalized. Consistently, cortactin
and PKC co-immunoprecipitatied in the presence of PMA. Cortactin was directly
phosphorylated by PKC in vitro, and the phosphorylated cortactin showed reduced
actin bundling activity by approximately 90%. The phosphorylation sites, S135, T145,
S172, were determined by MALDI-MASS analysis. The expression of phosphorylation
mimic mutant cortactin, in which all the phosphorylation sites were substituted with
glutamate, resulted in mislocalization of cortactin, and defective formation of growth
cone. These results strongly suggest that PKC phosphorylation of cortactin is crucial in
growth cone formation.
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ART-9
Antidepressant effect of mating behavior and sildenafil
through activation of an oxytocin signaling pathway
松崎光博
大学院医歯薬学総合研究科・細胞生理学(Pre-ART・医学科 5 年)
Oxytocin (OT) is an acknowledged hormone for uterine contraction during labor and
milk ejection during lactation in mammals. OT acts as a neurotransmitter to regulate a
diverse range of central nervous system (CNS) functions, including depression, anxiety
and trust behavior. A recent study found that sexual activity and mating with a female
induced the release of OT in the CNS of male rats. Moreover, a drug for the treatment of
human with sexual dysfunction, sildenafil, induces enhancement of electrically evoked
OT release from the posterior pituitary of mammals. Sildenafil is a selective inhibitor of
the cyclic guanosine monophosphate-specific phosphodiesterase type 5 enzyme. In this
study, we examined whether mating behavior and sildenafil had antidepressant effect
through activation of OT signaling pathway. In the present study, we examined the
effect of mating behavior on depression-related behavior in wild-type (WT) and OT
receptor-deficient (OTR KO) male mice. The depression-related behavior was measured
by forced swim test. The WT mice showed a reduction in depression-related behavior
after mating behavior, but the OTR KO mice did not. Moreover, WT mice reduced
depression-related behavior after dosage administration of sildenafil, but the OTR KO
mice did not. Activation of the MAP kinase cascade and the subsequent increase in the
phosphorylation of cAMP response element-binding protein (CREB) in the hippocampus
has been proposed as common mediators of antidepressant efficacy. Sildenafil increased
the phosphorylation of CREB in the hippocampus. The OTR antagonist inhibited
sildenafil-induced CREB phosphorylation and sildenafil had no effect on CREB
phosphorylation in OTR KO mice. These results suggest mating behavior and sildenafil
to have antidepressant effect through activation of OT signaling pathway.
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ART-10
エンドソームにおけるカベオリンの輸送制御機構
三澤晶子
大学院医歯薬学総合研究科・生化学(Pre-ART・医学科 3 年)
カベオラは細胞膜上に存在する膜ドメインであり、細胞内輸送のキャリアとして細胞膜
とエンドソームの間を行き来すると考えられている。カベオラを介する輸送は、脂質の調
節や病原体の侵入などさまざまな生理作用に関わることが知られているが、その制御機構
は明らかになっていない。最近になって、カベオラの形成にシンダピンと呼ばれるタンパ
ク質が重要な役割を果たしていることが報告された(Hansen et al., J Cell Sci. 2011)。一
方、シンダピンと結合する細胞内輸送の調節分子として EHD(Eps15-homology domain
containing protein)が報告されている(Braun et al., Mol. Biol. Cell. 2005)。EHD は脂
質膜をチューブ状にする機能を持っており、カベオラの細胞内輸送との関係が注目されて
いるが、その関係は全くわかっていない。
そこで本研究では、カベオラの輸送制御因子として EHD に着目し、EHD とカベオラの
局在や、EHD 発現抑制によるカベオラ輸送の変化を検証した。EHD には EHD1~4 のアイ
ソフォームが存在する。まず、GFP-EHD1~4 とカベオラの主要構成成分であるカベオリン
の共局在を観察した。その結果、GFP-EHD2 と GFP-EHD4 で内在性のカベオリンとの共
局在がみられた。EHD2 は細胞膜で、EHD4 はエンドソームでの輸送を制御していると考
えられており、EHD2 と EHD4 が異なる場所でカベオラの輸送を制御している可能性が考
えられた。次に、EHD2 と EHD4 をノックダウンした HeLa 細胞でカベオリンの発現量を
調べたところ、EHD4 をノックダウンした細胞ではカベオリンが減尐していることがわか
った。さらに、蛍光標識カベオリンを用いて Live Imaging で観察すると、EHD4 ノックダ
ウン細胞では後期エンドソーム様の巨大構造物にカベオリンが局在し、活発に移動する様
子がみられた。この結果から、EHD4 ノックダウン細胞ではカベオラが分解経路に誘導さ
れていると考えられ、EHD4 がカベオラのエンドソームから細胞膜へのリサイクルを制御
している可能性が示唆された。
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ART-11
Development of tumor-targeting liposomal 10B delivery system
with in-vivo imaging function for Boron Neutron Capture Therapy
森 亜希子、Bin Feng、道上 宏之、秋田直樹、松井秀樹
大学院医歯薬学総合研究科・細胞生理学(ART ユニット)
【目的】放射線治療が発展した現在でも、悪性脳腫瘍等の浸潤性のがんでは手術等による
全摘出は難しく、腫瘍細胞が残存する。ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)は細胞レベルで治療
が行えるため悪性脳腫瘍への新治療法として期待され、これまでの臨床研究で有効性が示
されている。しかし、治療効果の向上には、がん細胞へ選択的に且つ高効率にホウ素 10B
を送達する必要がある。我々は、10B のキャリヤーとしてリポソームを用い、腫瘍部位に高
発現している抗原やレセプターを認識する抗体をその表面に結合し標的化を行うと同時
に、発光タンパクによりその挙動を観察できるイメージング能を付与した。標的能とイメ
ージング能の 2 つの機能をもつ低毒性のイムノリポソームにより、BNCT で確実な治療効
果を上げる 10B 送達システムの構築を検討した。
【方法】ホウ素化合物 BSH(Na2B12H11SH)を内包したリポソームを調製し、その表面に
プロテイン A 結合モチーフ(ZZ)を有し発光タンパク(luciferase)と融合した融合タンパク質
を介して抗 EGFR 抗体を結合させ、イムノリポソームを作製した。EGFR 高発現株である
ヒト悪性脳腫瘍細胞株 U87deltaEGFR に種々の濃度のイムノリポソームを投与した。24
時間経過後、細胞内の 10B 集積を発光顕微鏡によるイメージング、および ICP-AES により
検証した。
【結果と考察】作製したイムノリポソームは腫瘍選択的に 10B を送達した。培養細胞での
イメージングでは、イムノリポソームの投与量の増加に伴い強い発光シグナルが観察され、
発光量が増加した。一方、ICP による 10B の定量でも、リポソーム投与量の増加に伴い、
腫瘍細胞内へ送達された 10B は増加した。細胞内に取込まれたイムノリポソームの発光量
と 10B 量には相関性(R2=0.94)があった。開発したイムノリポソームの特徴は、標的腫瘍
部位に応じて抗体が選択できる ZZ モジュール構造と、表面の融合タンパク質による発光を
利用して生体内動態・分布をイメージングしながら治療できる点にある。本研究結果より、
腫瘍へのターゲティング、生体内動態のイメージング、BNCT による治療、の 3 つを同時
に行う「セラノスティックス」の可能性が示唆された。
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ART-12
Concanavalin A 肝炎における CD4+T 細胞 SOCS1 の役割
岡浩介、高須賀裕樹、伏見聡一郎、伊藤利洋、松川昭博
大学院医歯薬学総合研究科・病理学(免疫病理)(ART ユニット)
【はじめに】Concanavalin A(ConA)誘導肝炎は、Th1 サイトカイン Interferon-g (IFNg)
依存性に惹起される。サイトカインのシグナル伝達は SOCS(Suppressor of Cytokine
Signaling)で負に制御される。今回、我々は、ConA 肝炎モデルを用いて CD4+T 細胞に発
現する SOCS1 の役割を検討した。
【方法】CD4+T 細胞特異的に SOCS1 が欠損したマウス(SOCS1-cKO マウス)および野
生型 (WT)マウスに ConA (15mg/kg)を静注して肝炎を誘導した。肝炎誘導後マウスを屠殺
し、生化学的および組織学的に肝傷害の程度を比較し、肝臓中の Th1 サイトカイン発現量
を Real-time PCR 法で定量した。
【結果】SOCS1-cKOマウスでは肝逸脱酵素(ALT)の値はWTマウスにくらべて有意に高く、
組織学的にも肝傷害の程度は SOCS1-cKO でより重篤であった。ConA 投与後の肝臓におけ
る IFNg の mRNA 発現レベルは SOCS1-cKO で低く、 IFNg 依存性ケモカイン
CXCL9/CXCL10 は両者間で差がなかった。
【まとめ】CD4+T 細胞 SOCS1 は肝炎防御に働くことが示唆された。SOCS1 は IFNg のシ
グナル伝達因子 STAT1 を制御するため、SOCS1 の欠如は IFNg のシグナルを過剰に伝達
して肝炎増悪に働くと予想したが、肝臓での IFNg 発現量はむしろ減尐していた。
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ART-13
iPS 細胞を利用したがん幹細胞様細胞集団の誘導法の確立
松田修一、佐藤あやの
大学院自然科学研究科・医用生命工学講座(ART ユニット)
がん幹細胞(CSC)は、がん組織中にわずかに存在する小集団で、組織幹細胞のように自己
複製能、多分化能を有している。がんの発生、転移、再発への寄与が示唆されており、が
ん根治に向けて、これを標的とした治療薬の開発が急がれている。しかし、がん組織にお
ける存在割合の低さから確保が難しく、さらに安定な培養が困難であるため、解析が進ん
でいないのが現状である。
我々は、マウス人工多能性幹細胞(miPS)に様々ながん細胞株の培養上清を添加すると、
がん幹細胞様の性質を持った安定培養可能な細胞(miPS-CSC)に変化することを発見した。
特にルイス肺癌細胞(LLC)の培養上清により誘導された細胞(miPS-LLCcm)では、in vivo
で顕著な血管新生が見られた。本研究では、miPS-CSC をがん幹細胞のモデル細胞として
用い、がん幹細胞の機能のうち、特に自己複製の維持機構および近年新たに発見された機
能である血管内皮細胞への分化機構に着目して、解析を行った。
未分化マーカー遺伝子(Oct3/4, Sox2, Klf4, Nanog)の発現パターンは、miPS-CSC と
miPS で異なっていた。血管内皮マーカー遺伝子(VEGFR2, VE-cadherin)の発現は、全て
の miPS-CSC で上昇していた。しかしながら、miPS-LLCcm でのみ、BD マトリゲル TM
上で血管様構造の形成が顕著に見られ、上述の in vivo の結果と一致した。また、この血管
形成能が VEGF に非依存的であったことから、VEGF による VEGFR2 の刺激は、CSC の
血管内皮分化に直接的には作用していない可能性が示唆された。
正常な幹細胞である miPS が、がん細胞由来の遊離の因子により CSC 様の miPS-CSC
に変化していることから、この因子が、CSC の自己複製能の維持に関与している可能性が
高く、現在、その因子を特定しようとしている。
以上より、miPS-CSC は、自己複製能、多分化能、造腫瘍能、血管内皮分化能など過去
に報告された CSC の機能を有する、非常に有用な解析モデルであると言える。
なお、本研究は、自然科学研究科 妹尾昌治教授の研究グループと共同で行われたもので
ある。