Title ベリニ管癌の1例

Author(s) 杉本, 賢治; 辻, 秀憲; 禰宜田, 正志; 永井, 信夫; 能勢, 和宏;栗田, 孝

Citation 泌尿器科紀要 (1998), 44(8): 587-589

Issue Date 1998-08

URL http://hdl.handle.net/2433/116233

Right

Type Departmental Bulletin Paper

Textversion publisher

Kyoto University

泌 尿 紀 要44:587-589,lgg8 587

ベ リ ニ 管 癌 の1例

耳原総合病院泌尿器科(部 長:永 井信夫)

杉本 賢治*,辻 秀 憲,禰 宜 田正志,永 井 信夫

近畿大学医学部泌尿器科学教室(主 任;栗 田 孝教授)

能勢 和 宏,栗 田 孝

BELLINI DUCT CARCINOMA OF THE KIDNEY : A CASE REPORT

Kenji SUGIMOTO, Hidenori TSUJI, Masashi NEGITA and Nobuo NAGAI

From the Department of Urology, Mimihara General Hospital

Kazuhiro NOSE and Takashi KURITA

From the Department of Urology, Kinki University School of Medicine

A case of Bellini duct carcinoma is reported. A 71-year-old woman visited our hospital with a chief complaint of lower abdominal pain. Computerized tomography, ultrasonography showed a

mass lesion measuring about 5 cm in the right kidney. Angiography showed an avascular mass lesion in the right kidney. Right radical nephrectomy was performed under the diagnosis of renal cell carcinoma. Histological examinations showed Bellini duct carcinoma of the papillary type. We

performed M-VAC (methotrexate, vinblastine, doxorubicin, icisplatin) therapy as is used for transitional cell carcinoma. She is alive with no evidence of disease 5 months after her surgical treatment. To our knowledge, only 32 cases of Bellini duct carcinoma have been reported in the

Japanese literature. (Acta Urol. Jpn. 44: 587-589, 1998)

Key words : Bellini duct carcinoma, Renal cancer

緒 言

腎腫 瘍 の 多 くは近 位尿 細 管 をそ の発 生 母 地 とす る腎

細胞 癌 が 大 半 を占め て い るが,集 合管 を発 生母 地 とす

る腎癌(ベ リニ 管 癌)は 腎 細胞 癌 のO.41)～1.8%2)と

稀 で あ る.1979年 にCromie3)ら がatypicalcarcino-

maofkidneyと して 初 め て 報 告 して以 来,ベ リニ 管

癌 の報 告 は本 邦 で も報告 はあ る もの の われ わ れが 調べ

え た か ぎ りに お い て現 在 まで に32例 に過 ぎな い.今

回,当 科 に お いて ベ リニ管 癌 を1例 経 験 した ので 文献

的考 察 を加 え報 告 す る.

症 例

症例:71歳,女 性

主訴:前 腹部 痛

既 往 歴:1982年 に 甲状 腺癌 で 甲状 腺摘 除術.

家 族 歴:特 記 す る こ とは な い.

現 病 歴:1997年5月 前 腹 部 痛 の ため 当 院 内科 を受診

した.腹 部 エ コー に お い て右 腎上 極 に直 径 約4cmの

異 常 陰影 を認 め 精 査 目的 で当 科 を紹 介 され5月ll日 当

科 を受 診 した.

*現:大 阪逓信病院泌尿器科

現 症:栄 養 状 態 良好,右 腹 部 に痙 痛 お よ び弾性 硬 の

腫 瘤 を触 れ る.表 在 リ ンパ 節 腫 大 な ど は認 め ら れ な

か っ た.

入 院 時 検 査 所 見:赤 血 球367万/mm3,ヘ モ グ ロ ビ

ン10,2g/dl,ヘ マ トク リ ッ ト31.1%と 軽 度 貧 血 を認

め た.血 漿 蛋 白5.5と 低 値 を示 した.尿 検 査 に は異 常

を認 めな か っ た.

レ ン トゲ ン検査 所 見:IVP上 は右 上 腎 杯 は著 明 に

上 方 へ 圧 排 され て お り,腎 孟 の 描 出 は 乏 しい.腹 部

CTで は右 腎 上 極 に 直径 約5CInの 腫瘍 を認 め る.腫

瘍 中心 部 は壊 死 所 見 を示 した(Fig.1).選 択 的右 腎動

脈 撮 影 で は乏 血 管 性 腫 瘤 像 で 動 静 脈 痩 やPoolingな

どの所 見 は 認 め なか った(Fig.2).以 上 の画 像 診 断 よ

り無 血 管性 右 腎 細胞 癌 と診 断 し1997年7月2日 に腎腫

瘍 に対 し根 治 的右 腎摘 除術 を施行 した。 摘 出腎 は上極

に 直 径 約5cm,中 央 部 に3cmの 腫 瘍 を認 め た.腫

瘍 中心 部 は ム チ ン状 で あ った.

病 理 学 的所 見:H-E染 色 で は好 酸 性 の胞 体 を有 す

る立 方 状 の腫 瘍 細 胞 が乳 頭 状 に増生 し,そ の 間 に尿 細

管 を模 倣 した管 状 構 造 の部 分 が 介在 してお りベ リニ管

癌 が 強 く 示 唆 さ れ た.特 殊 染 色 を 行 っ た と こ ろ

epithelialmembraneantigen(EMA)染 色 お よ び

cytokeratin(CK)染 色 で も腫 瘍 細 胞 が 染 色 さ れ た

588 泌尿紀要44巻8号1998年

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報.

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Fig.1.Abdominalcomputcrizedtomographyshowedamasslesionintheupperpoleoftherightkidney(A:plain,B:en-hance).

Fig.2.Renalarteriograp .hyshowedahypo-

vascularareaintheupPerpoleofthe

rightkidney.

(Fig.3).以 上 よ り最 終 的 病 理 学 的診 断 は ベ リニ 管.

癌,組 織 型 は乳 頭 状 腺 癌 型,異 型 度 はG2,浸 潤 形 式

はINFα,尿 管 断 端 に は浸 潤 は な く,pTNM分 類 は

pT2,pNOで あ っ た.

B

Fig,3.Microsoopic丘nding(A:H-E×400,

B:EMA×400).

考 察

ベ リニ 管癌 とは 中胚 葉系 後 腎 の後 腎 憩 室(尿 管芽)

か ら発 生 した もの と され て お り集 合 管,腎 杯,腎 孟,

尿 管 な ど と起 源 を 同 じ くして い る,一 方,ネ フロ ンは

同 じ く中胚 葉 系 の 造 後 腎芽 体 由来 で あ る.こ の発 生 の

違 いが ベ リニ 管癌 に お け るCT,血 管 造 影 な どの画 像

診 断 に お い て腫 瘍 部 分 がhypovascularityやavascu-

larityと して と ら え られ た り4・5),肉 眼 的 所 見 ,お よ

び 病 理 学 的所 見 に差 を も た ら して い る よ う に 思 わ れ

る.特 に,病 理 学 的所 見 で は遠 位 尿 細 管 系 マ ー カ ー で

あ るpeanutagglutinin(PNA),vimentin(VM),

CK,EMAな ど に 特 異 性 を 示 す と考 え ら れ て い

る6・7)

本 邦 にお け るベ リニ 管癌 の報 告 は 自験 例 が33例 目 に

当 た る.発 症 年 齢 は31・-76歳,平 均55.4歳 ,男 性23人

女 性10人 と男 性 に多 く,左 右 差 は認 め られ な い.半 数

以上 が 肉 眼 的血 尿 を主 訴 と し,つ い で側 腹 部 痛 を訴 え

て い る.33例 中26例 が 根 治 的 腎摘 除術 を含 む腎 摘 除術

を施 行 して お り,多 くの 症 例 に お い て術 前 診 断 は強 く

腎癌 を疑 って い た こ とを思 わせ る.病 理 学 的 に松 崎 ら

はベ リニ 管癌 を乳 頭 状 の配 列 を示 す乳 頭 状 腺 癌 型 お よ

び,腎 細 胞癌 成 分 と移 行 上 皮癌 成分 が混 在 す る混 合 型

の2型 に大 別 して い る.乳 頭状 腺癌 は被 膜 形 成 が 認 め

杉 本,ほ か:ベ リニ管 癌 腎癌 589

られ腎細胞癌G2と ほぼ同一の予後を示 し,5年 生存

率および10年生存率 ともに33.8%で あるのに対 し混合

型は被膜形成が乏 しく浸潤増殖傾向が強 くsarcoma-

toidtype腎 細胞癌 に近 く5年 生存率0%で ある.リ

ンパ節転移は前者で29.4%,後 者で42.9%と リンパ節

転移の頻度 も高い8)一 般に予後不良の疾患 とされて

おり追加治療は必要不可欠 と思われる,ま た追加治

療,予 後については混合型には腎孟腫瘍に準じた化学

療法 を,乳 頭状腺癌には腎腫瘍に準 じたinterferon

を施行するとの考えがあるが,実 際は追加治療の奏効

した症例は少ない.本 症例は乳頭状腺癌であるが移行

上皮癌のM-VACに 対する有効性 と,発 生母地から

考えて腎細胞癌 よりは移行上皮癌 に準 じたM-VAC

を施行 した.

ベリニ管癌は腎癌取 り扱い規約9)で特殊な腎癌 とし

て分類されてお り治療,予 後,お よび外来での経過観

察の方法など現在のところ明確にされたものはない.

ベリニ管癌の進展様式は肺や骨への血行性転移および

リンパ節転移で,膀 胱や尿管再発の報告はない.ま た

現在のところ尿細胞診,血 中TPA測 定などの有効性

を示 した文献はなく,ま たわれわれの症例においても

有意な値は示さなかったが,尿 細胞診上に移行上皮癌

を認めた報告 もあ り10)今後の外来経過観察は比較的

侵襲性が低 く容易に施行できる移行上皮癌に準じた尿

細胞診,血 中TPA測 定と,胸 部写真撮影などの画像

診断も併用 して腎孟腫瘍,腎 腫瘍,双 方の検査が必要

と考えている.

安永ら1Dの 症例のように腎部分切除で も再発な く

生存している例 もあるが,ベ リニ管癌と事前に診断で

きたならば腎尿管全摘除術 を行い厳重に経過観察 を

行ってい く必要があると思われる.

結 語

71歳,女 性のベリニ管癌を1例 経験 したので治療等

につき若干の文献的考察を加えて報告 した.

本論文の要 旨は,

おいて発表 した.

第161回 日本泌尿 器科学 会関西地 方会 に

文 献

1)FlemingsandLewiHJE:collcctingduct

carcinomaofthekidney.Histopathology10:

1131-1141,1986

2)RumpeltHJ,storkels,MollR,ataL:Belliniduct

carcinoma:furtherevidencef()rthisrarevariantof

renalcellcarcinoma.Histopathology18:ll5-

122,1991

3)cromiewJ,DaviscJandDetureFA:Atypical

carcinomaofkidney,possiblyoriginatingfrom

collectingductepithelium.Urology13:315-317,

1979

4)Mancilla-JimenezR,StanleyRJandBlathRA:

papillaryrenalcellcarcinoma.Cancer30:2469-

2480,1976

5)WillisJS,SantosRMandAshleyPF:Renal

papillaryadenocarcinonia.ClinRadiol30=53-

57,1979

6)AizawaS,KikuchiY,SuzukiM,etal.:Renalcell

carcinomaoflowernephronorigin.ActaPathol

Jpn37=567-574,1987

7)菊 池 泰,藍 沢 茂 雄,三 階 堂 孝,ほ か:腎 細 胞 癌

発 生 母 地 組 織 化 学 的 診 断.臨 泌41:951-955,

1987

8)松 崎 理,長 尾 孝 一:遠 位 尿 細 管 系 腫 瘍,と く に

ベ リ ニ 管 癌 の 臨 床 病 理 学 的 研 究.病 理 と 臨8:

740-746,1990

9)日 本 泌 尿 器 科 学 会 。 日 本 病 理 学 会 日 本 医 学 放 射

線 学 会 編 腎 癌 取 扱 い 規 約 第2版.pp.84,金 原

出 版,東 京,1992

10)FukuyaT,HondaH,GotoK,etaL:Computed

tomographicfindingsofBclliniductcarcinomaof

thekidney,JComputAssistTomogr20:399-

403,1996

11)安 永 豊,西 村 健 作,高 寺 博 史,ほ か 二腎 部 分 切

除 術 を 施 行 し たBellini管 癌 の1例.泌 尿 紀 要

40:llO3-llO7,1994

(ReceivedonJanuary30,1998AcceptedonMay25,1998)