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2012.8.17 14 筆者 小原康裕 ホテルジャーナリスト。 慶応義塾大学法学部法律学科卒。74年 Munich Re入社。85年築地原健㈱代表 取締役。2001年投資顧問会社原健設立、 代表取締役CEO。JHRCA、日本ホテル レストランコンサルタント協会理事。 ※現在、著者のホームページで「世界のリ ーディングホテル」を連載中。多くの美し い写真と興味深いコメントで、世界中の ホテルとそれら関連都市を紹介。 www.jhrca.com/worldhotel 華麗に生まれ変わった「Thames Foyer」。モナコのエルミタージュにあ る“冬の庭園”を彷彿させる、繊細なガラスの円屋根から淡い陽光が差 し込むエレガントな空間だ 「Thames Foyer」前に置かれたレセプションデスク。手前のラウンジ には「Savoy Tea」と呼ばれる新設されたティーショップがある ザ・サヴォイ The Savoy 世界にはまだまだ日本人が訪れていないホテルがある。このコーナー ではホテリエが知っておくべき「世界のリーディングホテル」を紹介す る。本連載では、著者自身が長年にわたる個人旅行中に自分の目で感 じ取り、コメントを書き込み、自分のカメラで思いのままを撮ってきた 写真を掲載する。今回は前回(7月27日号)に引き続きロンドンのザ・サ ボイを紹介する。前回はこのホテルの歴史を中心に解説したが、今回 は客室やレストランなど施設全般の詳細にフォーカスしたい。 ※本連載は毎月2・4週号掲載 世界のリーディングホテル VOL29 エントランスロビーの奥にひときわ優雅なレセプションルームが用意されている。通常のチェックインカウ ンターとは違い、それぞれのデスクでゲスト一人一人にパーソナルで自然流なサービスが受けられる 銀製のオリジナルの容器に入ったイギ リス伝統の最上級のローストビーフ 正統の英国料理が味わえる「Simpson's-in-the-Strand」の重厚な 雰囲気の店内 ザ・サヴォイを代表するラウンジ「Thames Foyer」に続く、エントランス ロビーからの階段 2012.8.17 15 “慇懃無礼”という言葉があるが、以前のサヴォイに おけるサービスは正に当を得た格言であったと思 う。今回はサヴォイがフェアモントの傘下に入り、大 改修を経てから初めての訪問ということだったが、 そのイメージは見事に覆された。どの場所でもスタ ッフの対応はすこぶる良く、笑顔を絶やさず気配り が為されている。客室は明るく清潔感にあふれ、レ ストランやバーも華やかに生まれ変わっていた。 62のスイートを含む全268室のゲストルームは英 国エドワーディアン様式とアールデコ様式を反映し た造りで、インテリアは世界的に有名なピエール・ イヴ・ロションの手による。ムラーノ製シャンデリア など特注デザインを施したインテリアや家具・備品 が多く、同じデザインの部屋は二つとない。ライテ ィングデスクに用意されている便箋、封筒などの ステーショナリーにはゲストのフルネームが既に印 刷されており、非常に重宝するサービスと言える。 またバスルームは広々とした余裕を持たせ、アール デコの優雅な大理石の床が印象的である。 120年にわたる歴史の中でサヴォイの名を世界 に高く知らしめたのは、社交の場としてのダイニン グとバーの存在であろう。その代表格が「Thames Foyer」で、エントランスロビーから階段を下がって いくと、モナコのエルミタージュにある“冬の庭園” を彷彿させるエレガントなガラスの円屋根を持つ レストランに出会う。以前は暗いイメージがあった が、改修後はトップライトによる採光システムで淡 い陽光が差し込む美しいラウンジに生まれ変わっ た。その先にある「River Restaurant」もかつての 華やかさを取り戻し、コンテンポラリー・フレンチを 優雅なアールデコのデザイン空間とテムズ川の景 色で楽しむことができる。ここでは是非“Pre- Theatre Dinner”を試して頂きたい。文字通り劇場 に行く前の簡素化したメニューで、3コースディナー が程良い量と良心的料金で堪能できる。チャーチ ルなど著名人に親しまれた「Savoy Grill」は、ゴー ドン・ラムジー経営傘下でリニューアルオープンし、 エスコフィエの系譜を継ぐクラシック・グリル料理 が新しいメニューと共に蘇った。また、「American Bar」では毎日クラシックジャズの生演奏が楽しめ、 ハリウッドスターのポートレートが壁を飾っている。 忘れてはならないのはローストビーフの名店 「Simpson's-in-the-Strand」だ。1828年創業のサ ヴォイホテル・グループにある老舗で、ホテルから いったん外へ出るが正統の英国料理を重厚な雰囲 気の店内で楽しめる。また、歴史あるサヴォイ劇 場の上に位置する3階部分にはヘルスクラブの 「Beauty & Fitness at the Savoy」があり、中央ア トリウムの真下にあるクラシカルなプールに自然 光が降り注ぐ優雅な空間だ。 2010年10月、総工費2億2千万ポンドと3年近い 歳月を投じて断行された大改修によって、名門ザ・ サヴォイは不死鳥のごとく華麗にストランドの地に 戻って来た。創立当初の面影と新しいスタイルが 見事にブレンドし、世界に名だたるホテルとして今 後も揺るぎない地位を築いて行くことであろう。 店内では毎日クラシックジャズの生演奏が楽しめる 「American Bar」のエントランス チャーチルなど著名人に愛されたエスコフィエの系 譜を継ぐ「Savoy Grill」。ゴードン・ラムジー経営傘 下でリニューアルオープンした テムズ川に面した「River Restaurant」のエントラン ス。フレンドリーな応対が気持ち良い 新たに加わったゴージャスなアールデコ調のシャン パン・ワインバー「Beaufort Bar」 アメリカンバーの手前にある「Savoy Museum」。サヴォイの激動の歴史を一堂に集めた貴重なミュージアム で、豊富なコレクションやライティング技術、ディスプレイの美しさに驚かされる ヘルスクラブの「Beauty & Fitness at the Savoy」のレセプション 歴史あるサヴォイ劇場の上にあり、アトリウムの真下にあるクラシ カルなプールに自然光が降り注ぐ優雅な空間だ

VOL29 ザ・サヴォイ The Savoyohtapub.co.jp/wlh200/WLH029.pdfには「Savoy Tea」と呼ばれる新設されたティーショップがある ザ・サヴォイ The Savoy 世界にはまだまだ日本人が訪れていないホテルがある。このコーナー

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Page 1: VOL29 ザ・サヴォイ The Savoyohtapub.co.jp/wlh200/WLH029.pdfには「Savoy Tea」と呼ばれる新設されたティーショップがある ザ・サヴォイ The Savoy 世界にはまだまだ日本人が訪れていないホテルがある。このコーナー

― 2012.8.17 ―14

筆者 小原康裕ホテルジャーナリスト。慶応義塾大学法学部法律学科卒。74年Munich Re入社。85年築地原健㈱代表取締役。2001年投資顧問会社原健設立、代表取締役CEO。JHRCA、日本ホテルレストランコンサルタント協会理事。※現在、著者のホームページで「世界のリーディングホテル」を連載中。多くの美しい写真と興味深いコメントで、世界中のホテルとそれら関連都市を紹介。www.jhrca.com/worldhotel

華麗に生まれ変わった「Thames Foyer」。モナコのエルミタージュにある“冬の庭園”を彷彿させる、繊細なガラスの円屋根から淡い陽光が差し込むエレガントな空間だ

「Thames Foyer」前に置かれたレセプションデスク。手前のラウンジには「Savoy Tea」と呼ばれる新設されたティーショップがある

ザ・サヴォイThe Savoy

世界にはまだまだ日本人が訪れていないホテルがある。このコーナーではホテリエが知っておくべき「世界のリーディングホテル」を紹介する。本連載では、著者自身が長年にわたる個人旅行中に自分の目で感じ取り、コメントを書き込み、自分のカメラで思いのままを撮ってきた写真を掲載する。今回は前回(7月27日号)に引き続きロンドンのザ・サボイを紹介する。前回はこのホテルの歴史を中心に解説したが、今回は客室やレストランなど施設全般の詳細にフォーカスしたい。

※本連載は毎月2・4週号掲載

世界のリーディングホテル VOL29

エントランスロビーの奥にひときわ優雅なレセプションルームが用意されている。通常のチェックインカウンターとは違い、それぞれのデスクでゲスト一人一人にパーソナルで自然流なサービスが受けられる

銀製のオリジナルの容器に入ったイギリス伝統の最上級のローストビーフ

正統の英国料理が味わえる「Simpson's-in-the-Strand」の重厚な雰囲気の店内

ザ・サヴォイを代表するラウンジ「Thames Foyer」に続く、エントランスロビーからの階段

― 2012.8.17 ― 15

“慇懃無礼”という言葉があるが、以前のサヴォイにおけるサービスは正に当を得た格言であったと思う。今回はサヴォイがフェアモントの傘下に入り、大改修を経てから初めての訪問ということだったが、そのイメージは見事に覆された。どの場所でもスタッフの対応はすこぶる良く、笑顔を絶やさず気配りが為されている。客室は明るく清潔感にあふれ、レストランやバーも華やかに生まれ変わっていた。62のスイートを含む全268室のゲストルームは英

国エドワーディアン様式とアールデコ様式を反映した造りで、インテリアは世界的に有名なピエール・イヴ・ロションの手による。ムラーノ製シャンデリアなど特注デザインを施したインテリアや家具・備品が多く、同じデザインの部屋は二つとない。ライティングデスクに用意されている便箋、封筒などのステーショナリーにはゲストのフルネームが既に印刷されており、非常に重宝するサービスと言える。またバスルームは広 と々した余裕を持たせ、アールデコの優雅な大理石の床が印象的である。120年にわたる歴史の中でサヴォイの名を世界

に高く知らしめたのは、社交の場としてのダイニングとバーの存在であろう。その代表格が「ThamesFoyer」で、エントランスロビーから階段を下がっていくと、モナコのエルミタージュにある“冬の庭園”を彷彿させるエレガントなガラスの円屋根を持つレストランに出会う。以前は暗いイメージがあったが、改修後はトップライトによる採光システムで淡い陽光が差し込む美しいラウンジに生まれ変わった。その先にある「River Restaurant」もかつての華やかさを取り戻し、コンテンポラリー・フレンチを優雅なアールデコのデザイン空間とテムズ川の景色で楽しむことができる。ここでは是非“Pre-Theatre Dinner”を試して頂きたい。文字通り劇場に行く前の簡素化したメニューで、3コースディナーが程良い量と良心的料金で堪能できる。チャーチルなど著名人に親しまれた「Savoy Grill」は、ゴードン・ラムジー経営傘下でリニューアルオープンし、エスコフィエの系譜を継ぐクラシック・グリル料理が新しいメニューと共に蘇った。また、「AmericanBar」では毎日クラシックジャズの生演奏が楽しめ、ハリウッドスターのポートレートが壁を飾っている。忘れてはならないのはローストビーフの名店

「Simpson's-in-the-Strand」だ。1828年創業のサヴォイホテル・グループにある老舗で、ホテルからいったん外へ出るが正統の英国料理を重厚な雰囲気の店内で楽しめる。また、歴史あるサヴォイ劇場の上に位置する3階部分にはヘルスクラブの「Beauty & Fitness at the Savoy」があり、中央アトリウムの真下にあるクラシカルなプールに自然光が降り注ぐ優雅な空間だ。2010年10月、総工費2億2千万ポンドと3年近い

歳月を投じて断行された大改修によって、名門ザ・サヴォイは不死鳥のごとく華麗にストランドの地に戻って来た。創立当初の面影と新しいスタイルが見事にブレンドし、世界に名だたるホテルとして今後も揺るぎない地位を築いて行くことであろう。

店内では毎日クラシックジャズの生演奏が楽しめる「American Bar」のエントランス

チャーチルなど著名人に愛されたエスコフィエの系譜を継ぐ「Savoy Grill」。ゴードン・ラムジー経営傘下でリニューアルオープンした

テムズ川に面した「River Restaurant」のエントランス。フレンドリーな応対が気持ち良い

新たに加わったゴージャスなアールデコ調のシャンパン・ワインバー「Beaufort Bar」

アメリカンバーの手前にある「Savoy Museum」。サヴォイの激動の歴史を一堂に集めた貴重なミュージアムで、豊富なコレクションやライティング技術、ディスプレイの美しさに驚かされる

ヘルスクラブの「Beauty & Fitnessat the Savoy」のレセプション

歴史あるサヴォイ劇場の上にあり、アトリウムの真下にあるクラシカルなプールに自然光が降り注ぐ優雅な空間だ