東洋大学 産業組織論 A産業組織分析の基礎 II :
(3/15)
原泰史
今日のポイント• 数学 ( 特に微分 ) をおさらいしましょう• ミクロ経済学をおさらいしましょう+• 練習問題を解いてみましょう
講義スケジュール ( 前期 , 前半 )
• 1 . 4 / 8 : オリエンテーション ( 産業組織論ってなんだろう? )2 . 4 / 15 : 経済学で使う数学を振り返る & 産業組織分析の基礎 I • ( 泉田・柳川 pp. 22 - 28、長岡・平尾 pp. 1-16 )
• 3. 4 / 22 : 経済学で使う数学を振り返る & 産業組織分析の基礎 II • ( 泉田・柳川 pp. 28 - 44、長岡・平尾 pp. 1-16 )
• 4 . 4 / 29 : 独占企業の価格設定 I • ( 泉田・柳川 pp. 45 - 54、長岡・平尾 pp. 43-68 )
• 5 . 5 / 13 : 独占企業の価格決定 II• ( 泉田・柳川 pp. 54 - 68、長岡・平尾 pp. 43-68 )
• 6 . 5 / 20 : 自然独占と規制 I • ( 泉田・柳川 pp. 69 - 76、長岡・平尾 pp. 247-272 )
• 7 . 5 / 27 : 自然独占と規制 II • ( 泉田・柳川 pp. 77 - 87、長岡・平尾 pp. 247-272 )
• 8 . 6 / 3 : 中間テスト
講義スケジュール ( 前期 , 後半 )
• 9. 6 / 10 : 参入の経済効果 I ( 泉田・柳川 pp. 87 - 96 )10 . 6 / 17 : 参入の経済効果 II ( 泉田・柳川 pp. 96 - 106 )11 . 6 / 24 : ゲーム理論 I ( 泉田・柳川 pp. 107 - 116 )12 . 7 / 1 : ゲーム理論 II ( 泉田・柳川 pp. 117 - 121 )13 . 7 / 8 : 技術進歩と研究開発競争 I ( 長岡・平尾 pp. 187 - 198 )14 . 7 / 15 : 技術進歩と研究開発競争 II ( 長岡・平尾 pp. 199 - 206 )15 . 7 / 22 : 期末試験• 公式な試験日は 7/29 ですが、国際学会 @ ドイツ に出席する必要があ
るため講義内に期末試験を行います .
教科書• 泉田・柳川 ( 2010 )
『プラクティカル産業組織論』有斐閣アルマ
• 長岡・平尾 ( 2013 )『産業組織の経済学 第二版』日本評論社
受講者内訳• 火 1 • 火 7
学年 経済 合計2年生 2 23年生 6 64年生 6 6総計 14 14
学年 経済国際経済
総合政策 総計
3年生 48 1 494年生 49 2 51総計 97 1 2 100
今日の内容• 前半 : 長岡・平尾 pp.8-16• 偏微分• 制約条件付き最大化
• 中盤 : 泉田・柳川 pp.37-44• 市場均衡と経済厚生
• 後半 : 長岡・平尾 pp.8-16• 余剰と厚生• 効率性と競争• 企業規模の効率性と競争• 市場構造と市場の成果
前半 : 数学のおさらい
偏微分• y を 2 変数 x1, x2 の関数 y=f(x1,x2) とする . このとき , x2 を一
定のままにして y を x1 について微分することを偏微分と呼ぶ . • f(x1,x2) を x1 について偏微分する場合 ,
• f(x1,x2) を x2 について偏微分する場合 ,
で与えられる .
𝜕 𝑓 (𝑥1 ,𝑥2)𝜕 𝑥1
≡ 𝑓 1≡ lim∆ 𝑥1→ 0
𝑓 (𝑥1+∆𝑥1 ,𝑥2 )− 𝑓 (𝑥1 , 𝑥2)∆𝑥1
𝜕 𝑓 (𝑥1 ,𝑥2)𝜕 𝑥2
≡ 𝑓 2≡ lim∆ 𝑥1→0
𝑓 (𝑥1 ,𝑥2+∆𝑥2 )− 𝑓 (𝑥1 ,𝑥2)∆𝑥2
二階偏微分• を について微分すると ,• が与えられる .
• Young の定理
• f(x1,x2) を x1 について偏微分し x2 について偏微分した値と、 f(x1,x2) を x2 について偏微分し続いて x1 について偏微分した値は等しい
制約条件付き最大化• 消費者が効用を最大にするよ
う各財の購入量を選ぶとき、予算制約があるため無制限に財を購入することはできない。• 効用を最大化させつつ、予算
制約の範囲内で最適な財を選択する
-> 制約条件付き最大化x2
x1
x2
x1
U(x1,x2)
p1x1+p2x2=D
制約条件付き最大化• 解法 : ラグランジュ乗数法
g(x1,x2)=k という制約条件に基づき , 目的関数 f(x1,x2) を最大化する問題を考える . このとき , 以下の関数を考える .
• λ はラグランジュ乗数• 右辺を λ について偏微分すると ,
になる .• =0 となるとき , L(x1,x2,λ)=f(x1,x2)
となる . ラグランジュ関数の最大化は元の目的関数の最大化となる .
x2
x1
x2
x1
U(x1,x2)
p1x1+p2x2=D
𝑀𝑎𝑥𝐿 (𝑥1 ,𝑥2 , 𝜆)= 𝑓 (𝑥1 ,𝑥2 )−𝜆 {𝑔 (𝑥1 , 𝑥2 )− 𝜅 }
制約条件付き最大化• 条件付き最大化の必要条件は、
ラグランジュ関数を x1,x2, λについて偏微分した値が 0 となること .• FOC ( 一階の条件 ) を求めるこ
とで , 最適な x1*, x2*, λ* が与えられる .
x2
x1
x2
x1
U(x1,x2)
p1x1+p2x2=D
𝜕𝐿𝜕𝑥1
= 𝑓 1− 𝜆𝑔1=0
𝜕𝐿𝜕𝑥2
= 𝑓 2−𝜆𝑔2=0
𝜕𝐿𝜕𝜆
=𝜅−𝑔(𝑥1 ,𝑥2)=0
制約条件付き最大化• ラグランジュ乗数 λ の意味
• k が dk だけ変化した場合 , 最適解は変化する . 目的変数の変化をdf とあらわすとき .
となる . ここで g(x*)=k なので , dg=dk となり , df(x*)=λdk となる .
• ラグランジュ乗数 λ* の値は、制約式の制約値 k が変化した時の最適値の変化率を表す
x2
x1
x2
x1
U(x1,x2)
p1x1+p2x2=D
制約条件つき最大化• 問い
• 効用関数 u(x1,x2)=x1x2• 所得が M=100• 価格が p1=8, p2=10 で与え
られるとする .• このとき , 最適な x1, x2 を
求めよ .
• 解法• 予算制約式 8x1+10x2 <=100• ラグランジュ関数を設定すると , L(x1,x2)=u(x1,x2)+λ(100-8x1-10x2) =x1x2-λ(100-8x1-10x2) となる .・ FOC ( 一階の条件 ) を求めるため , x1 と x2 、 λ それぞれについて微分すると…・
-10x2=0より ,
これを予算制約式に代入すると ,
よって、 これより , 最適な数量は (x1,x2)=(25/4,5) となる .
5
25/4
x2
x1
U(x1,x2)=x1x2
8x1+10x2=100
Intermission
• 期末試験• 定期試験時にヨーロッパ出張がはいりそうなので、やはり 15回目で実施しようとおもいます。
• 講義資料のアップロード先• Facebook Page
• https://www.facebook.com/toyo.io.2014• SlideShare
• http://www.slideshare.net/yasushihara/presentations• Toyonet-Ace
• 講義人数が固まりつつあるので、利用を開始します
中盤 : 市場均衡と経済厚生
市場均衡•短期の市場均衡• 市場価格 P*, 生産数量 Q*
• 長期の市場均衡• 同一の技術を使い、サンクコス
トを無視できる場合• 供給曲線は P* で与えられる
• このとき AC=P* なので利潤 0P
Q
P
QQ*
P*
D
D
S
S
D
D
P*
Q*
経済厚生と余剰• 経済厚生 :
• 経済活動の成果の望ましさを図るもの
• 効率 :• 富の大きさの問題• 利用可能な資源と技術が無駄
なく用いられているか否か• 公平 :
• 富の配分の問題• 社会厚生員の間の扱いが平等
であるか否か
• 効率性• 総余剰 = 消費者余剰 + 生産者余剰
+政府の財政収支• 消費者余剰
• ある財の市場で消費者が取引をすることによりどれだけ便益を高めたか
• 生産者余剰• 市場である財の生産活動をしたこと
により、どれだけ企業の便益を高めたかを示す指標• 長期 : 収入 – 総費用• 短期 : 収入 – 可変費用 (=利潤 +固定費
用 )
経済厚生と余剰• 消費者余剰 • 生産者余剰
P
Q
P
Q
P’
Q’
E’
A
P’
Q’
E’
完全競争市場の効率性
• 完全競争市場均衡における総余剰• △ AE’B が総余剰 = 消費者余剰 + 生産
者余剰P
Q
P’
Q’
E’
A
B
S
D
P
Q
P’
Q’
E’
A
B
S
D
F
G
• 非効率な市場における総余剰• 価格が P から P’ に変化した場合 ( た
とえば政府の介入 )• 消費者余剰 AP’F• 生産者余剰 P’FBG• 死荷重 FE’G
• 価格が限界費用を上回り、社会的には生産されることが望ましいのに生産される場合発生する
市場の失敗• 市場の失敗が起きる条件• 外部性 : あるひとの行動が他のひとに市場取引を介さずに影響を与え
ること• よい影響 : 正の外部性• わるい影響 : 負の外部性• 水質汚濁をして近隣住民に健康被害をもたらすような場合、負の外部性が発生し
ている (政府によるコントロールが必要 )• 市場支配力
• 独占企業や自然独占企業の場合、価格を自由に自社で設定することができる• 政府の規制の手法もさまざま
後半 : 余剰と経済厚生
消費者余剰、生産者余剰と経済厚生• 効率的な状態では、消費者全体の便益 U(Q) と産業の総コスト
C(Q) の差である経済厚生 W=U-C が最大となる必要がある• 産業のパフォーマンスを図るには経済厚生について注視する . • ただし、ストック値を図ることは困難なのでフロー値 ( 変化量 ) を観察する
• 経済厚生 = 消費者余剰 + 産業の利潤の和• 消費者余剰 CS は、消費者の効用と Q を入手するために消費者
が実際に支払う額 PxQ の差で与えられる• CS=U(Q)-PQ
消費者余剰、生産者余剰と経済厚生• 産業の利潤は収入とコストの差で
与えられる . • コストを変動費用 VC と固定費用
FC に分割する : C=VC+FC
• ここで、 PS=PQ-VC は生産者余剰となる
• W=U-C なので、W=U-VC-FC=CS+PQ-VC-FC=CS+(PQ-C)=CS+PS-FC となる .
• よって、経済厚生は消費者余剰と生産者余剰の合計から限界費用を差し引いたものとなる
• 変動費用 VC• 生産量の増減に応じて変動す
る費用• 原材料費・光熱費・短期的雇用者
の賃金費用• 固定費用 FC
• 生産をせずとも必要とされる費用
• 固定設備の投資に要した減価償却・利子費用や、長期的雇用者の賃金費用
生産水準の効率性と競争• 技術が所与の場合、経済厚生を最大にするに
は• 1. Q の水準が最適である• 2. Q に対して、総費用 C(Q) が最小である必要
がある• 各企業で利用できる技術が同一であるとすると、
企業が規模の経済を実現できる水準の企業数を成立させる必要がある
• 競争市場の場合• 企業の限界費用 MC が生産の増加による消費者
の限界便益 MB=dU/dQ を下回っていれば、生産を増加させることで消費者の効用を高め同時に企業の利潤を高めることが可能となる (MC<MB)
• 逆に , MC > MB の場合減産させることで経済厚生を高めることができる。
• よって、 MB=MC となるまで供給量 Q を調整する必要がある
限界費用曲線
需要曲線
P
Q
P(Q*)
MC(Q*)
Q*
dQ
生産水準の効率性と競争• 消費者に市場支配力や消費の外部性がな
ければ、各消費者は限界便益が P と等しくなるまで消費する、よって P=MC となる。
• 企業がプライステイカーの場合、市場価格 P が限界費用を上回れば企業は増産によって利益を高められ、市場価格 P が限界費用を下回る場合は減産によって利益を高められる . このとき、企業収益の変化は以下の式で与えられる
• P>MC の場合は企業は増産し、価格は低下する• P<MC の場合は企業は減産し、価格は上昇する• そのため、完全競争均衡では P=MC が成り立つ。
限界費用曲線
需要曲線
P
Q
P(Q*)
MC(Q*)
Q*
dQ
𝑑Π=(𝑃−𝑀𝐶 )𝑑𝑞
生産水準の効率性と競争• 価格と限界費用とのギャップがある状態
(P(Q*)>MC(Q*)) から供給が小さな量 (dQ) だけ増加する場合、経済厚生の変化は以下の式で与えられる .
• このとき、消費者の効用増大は PdQ• 産業の費用増大は MCdQ で与えられる
• 企業が価格支配力を有さない場合には、利潤を高めるための企業行動は経済厚生を高める
限界費用曲線
需要曲線
P
Q
P(Q*)
MC(Q*)
Q*
dQ
𝑑𝑊=(𝑃−𝑀𝐶 )𝑑𝑄
企業規模の効率性と競争• 産業の総費用 C(Q) を最小とするには、平均費用が最小になる
生産水準で各企業が生産するように企業数を決定させればよい• 企業の参入退出が自由の場合、市場価格が平均費用を上回る場
合には企業は参入し、平均費用が市場価格を上回る場合には企業は退出する。よって市場均衡は で与えられる . は参入・退出が自由な市場における均衡の企業供給量となる。また、 P=MC より が成立する。• 企業数は、需要曲線より , • 生産の規模の経済性が強く働く場合、 が大きくなり
市場構造、企業行動と市場の成果• 市場構造• 供給企業の数• 供給能力の集中度• 生産と販売の垂直統合の割合• 新規企業の参入コストの高さ
• 企業行動• 価格設定• 研究開発• ブランド力形成• 買収・合併• カルテル
• 市場成果• 価格とコストのギャップの小さ
さ• コストの長期的な低下• 製品の品質改善や新製品開発
“産業組織の経済学の核心は、市場成果を高めるための市場構造、企業行動そして政策のあり方を探ること”
需要と供給の基礎的条件• 需要
• 需要規模と成長率• 需要の価格弾力性• 需要の均一性
• 供給• 技術革新の機会• 規模の経済と範囲の経済• 資本コストとリスク資本の利用可能性• 労働コストと労働技能水準
市場構造• 供給企業数• 市場集中度• 参入コスト• 垂直統合
政策と制度• 参入・退出規制 ・通商法• 価格・投資規制 ・会社法・破産法• 独禁政策• 知財保護• 製造物責任制度
企業行動• 価格設定 ・買収・合併• 垂直的制限 ・カルテル• 投資 ・技術標準の形成• 研究開発• ライセンシング• ブランド力や企業信用
市場の成果• 価格とコストのギャップ
• コスト低下の早さ• 品質とサービスの改善
• 製品メニュー拡大
経済厚生
(営利)企業モデルと National Innovation System
国 A
Private Sector(企業)
国 B
Public Sector(政府、大学 )
Monetary Sector(金融)
Private Sector
Public Sector
Monetary Sector市場企業
情報
入力される「モノ」
出力される「モノ」ヒ
トヒト
Blackbox
カネ新技
術
経営理念
市場構造、企業行動と市場の成果•伝統的な産業組織理論
• 構造が行動を決め、行動が成果を決める ( リニアモデル )• Ex.) 産業構造が企業の行動指針を定め、企業の組織や戦略によるアウトプットが生み
出される• リニアモデルが成り立たない場合
• Ex1.) 研究開発投資が重要な産業では、市場構造が内生的に決定する。そのため、市場構造、企業行動、市場パフォーマンスは同時に決定される• 研究開発投資によって生産コストが減らせる場合、企業は多額の R&D 投資を行い産業の集中度は高くなり、収益度は高くなる
• 価格と限界費用のギャップは大きくなるが、それは生産コストの低下や新製品の開発頻度が高いため
• Ex2.) 市場構造が企業行動の決定や市場成果にも無関係な場合• コンテスタブル市場の場合、参入コストがサンクコストではないため潜在的な参入からの
競争によって強く規律されている。よって、企業は平均費用 = 価格となるまで生産を続ける。
市場構造、企業行動と市場の成果•政府の政策• 市場構造を目的としたもの
• 電気、ガス事業では地域需要を一社で独占的に供給することが効率的であるとする
• 生産コストに基づき、新規参入や退出を規制する• 過度な独占を規制する
• 企業行動を目的としたもの• カルテル規制を行い、競争的な企業行動を奨励する
今日のまとめ• ラグランジュ乗数法• 経済厚生• 効率性と競争
連絡方法• 東洋大には 9:00-10:30 と , 19:50-21:20 しかいません
•非常勤のためオフィスアワーを設定できませんので、以下の手段でご連絡ください。 • ツイッター @harayasushi• フェイスブック : https://www.facebook.com/toyo.io.2014• LINE : @harayasushi (LINE は東洋大内では遮断されているようです )
次回予告• 独占企業の価格設定• 泉田・柳川 pp.45-54• 長岡・平尾 pp.43-68
を読んできて、練習問題を解くこと
練習問題問 1. について , f1, f2 をもとめ , f12=f21 になることを示せ .問 2. Max z=f(x1,x2)=x1x2 ただし , x1+2x2-12=0 という条件付き最大化問題をラグランジュ乗数法で解き , 解 (x1*, x2*, λ*) を求めよ .問 3. 次の大野耐一氏によるトヨタ生産方式の考え方の説明を機会費用を使って解説せよ .“設備の生産能力に余裕があれば、原価の検討をするまでもなく、ある製品を内製すべきかどうか、あるいは生産ロットを小さくすべきかどうかの損得がはっきりしている。大切なことは、余力を日頃からはっきりさせておくことである。余力があるかどうかが明確でないと、結局、選択を謝って原価を高めてしまう。” ( 大野 1978)
※. 問 1. および問 2. は計算過程を必ず示すこと
練習問題の提出方法•提出期間• 2014-04-21 20:35~ 2014-04-29 20:35
• ToyoNet-ACE を通じて、解法したものを PDF または Word にしてアップロードし提出すること
Thanks.