iPS由来再生心筋細胞移植の安全性評価
福田 恵一
慶應義塾大学循環器内科
健康研究成果の早期実用化に向けて ライフイノベーション実現にむけた先端的取り組み
平成27年1月23日
2
ヒトiPS細胞の大量培養
ヒトiPS細胞樹立
心筋分化誘導
分化細胞の大量培養
心筋細胞の 大量純化精製・増殖
大動物での 安全性・有効性評価
患 者
* Seki et al. Cell Stem Cell 2010, ** Yuasa et al. Nature Biotechnology 2005
*** Tohyama et al. Cell Stem Cell 2013, Hattori et al. Nat Methods 2010, Shimoji et al. Cell Stem Cell 2010
*
**
***
心臓再生医療における課題
1. Feeder-free, Xeno-free条件での iPS細胞の樹立法
2. ベクター改良に伴う安全・効率的なiPS細胞樹立法
3. 大量浮遊培養系における心筋細胞の分化、精製法の確立
4. マーモセットサルの心筋梗塞モデルにおける心筋細胞移植による不整脈解析および心機能評価
5. 新規ヒトiPS細胞由来心筋細胞の純化精製法の確立
iPS細胞を安全に臨床応用するために
(Seki, et al. Cell Stem Cell, 2010, Nature Protocols, 2012)
Feeder cell-free/Xeno-freeでのTiPS細胞樹立法の確立
ヒトES細胞培地 Vitronectin+mTESR1
Laminin511E8+Stem Fit
T細胞増殖コンディション TexMACS GMP メディウム リコンビナント ヒトIL-2 GMP 対応 抗CD3 抗体
細胞株の 選択、増殖
センダイウイルス
C-Myc Klf4
Oct3/4 Sox2
Day 10 Day 0 Day 25-
フィーダーフリー、ゼノフリー条件でTiPS細胞を樹立することに成功した。
Vitronectin+mTESR1 Laminin511E8+Stem Fit
臨床応用可能な iPS細胞樹立が可能
臨床応用には未知の動物由来成分を混入させることは出来ない
(Kishino et al., Plos One, 2014, JoVE, in press)
ベクター改良に伴う効率的なiPS細胞樹立法
ALP染色
従来法 4種のベクターを使用
Oct3, Klf4, Sox2, c-Mycが別のベクターに搭載
改良法1 ベクターの数を減少 Oct3, Klf4, Sox2を 単一ベクターに搭載
改良法2 c-MycをL-Mycに変更 温度感受性を高める
(ウイルスが抜けやすい)
従来法 改良法1 改良法1・2
位相差 顕微鏡
安全で効率的なiP
S
細胞の樹立
0
5
10
15
20
DMEM+血清 mediumA mediumB mediumC
iPS細胞用培地に求められるもの
1.性能 → 再生医療に使用できる高性能培地は皆無!
3.コスト→ 高額過ぎて治療に使えない既存培地
2.安全性→ 既存品の多くは動物由来成分を使用(高リスク)
高額
望ましい価格帯 (2万円/L以下)
性能不十分
一般研究用
現在使用されている培地の価格(1L当たり)
価格(万円)
動物成分有 実用できない価格帯
動物成分無
8
戦略1.ヒトiPS細胞にとって必要な栄養素を科学的に解明する → 代謝解析、必須栄養因子の分析、幹細胞培養技術(慶應義塾大) 戦略2.高コスト因子を味の素社の開発能力を利用し自社生産化(味の素社) 戦略3.高コスト因子の機能を代替する新たな因子の発見・開発(味の素社)
安価かつ高性能の培養液作製に成功!
未分化大量培養用の高機能安価培地の開発の戦略
Seeds: 味の素社のバイオ技術
Needs:慶應大学が要求する高機能:未分化能維持、増殖能、安価
3.安全性:解決 動物由来成分不含 ヒト由来成分をリコンビナント化 原料のトレーサビリティーを担保
2.コスト:既存品の1/3を達成 高コスト成分の自社生産等実現
1.性能:既存品より3倍性能を向上
栄養成分をiPS細胞に最適化
慶應義塾大学と味の素社の産学連携の成果! 日本発の再生医療のイノベーションを推進
再生医療の 培養コストを 1/10に削減
再生医療の実現化を加速
慶應大学&味の素社 共同研究の成果
大量培養に向けた条件設定
バイオリアクターを用いた心筋分化誘導法の開発
d0 d1 d2 d3 d4 d5 d6 d7 d8 d8.5
mTESR1 +BMP4 +Y27632
Stempro34 +ascorbic acid +BMP4 +ActivinA
Stempro34 +ascorbic acid
IWR-1
スピナフラスコ バイオリアクター
Day 4
Day 7
Day 15
効率的な心筋分化誘導
分化誘導後にも残存する未分化幹細胞の除去 分化誘導後の細胞群の中には 少量のiPS細胞が残存する
は未分化細胞マーカー
分化前 分化後
未分化iPS細胞を 除去しないと 奇形腫を形成
ES/iPS細胞と心筋細胞のエネルギー代謝の相違
13C-Glucose
13C-Glucose
ESCs Cardiomyocytes
Gene Chip + Fluxome
iPS細胞と心筋細胞の代謝の差異を利用した純化法
ATP
ATP
グルコース
iPS細胞 高い 増殖能
TCAサイクル
ATP
核 酸
ATP
乳酸
アミノ酸
グルコース
TCAサイクル
ATP
ATP
核 酸
アミノ酸
乳 酸
心筋細胞 乏しい 増殖能
ピルビン酸 ミトコンドリア が発達
ミトコンドリア が未発達
• iPS細胞はグルコースを主栄養源とし、心筋の70倍グルコースを吸収する • iPS細胞はピルビン酸を乳酸に転換し、細胞外に排出する • 心筋は少量のグルコースをTCA回路に廻し、大量のATPを合成する
細胞外に排出
エネルギー代謝の差異を利用した心筋細胞の純化法開発
ATP
ATP
グルコース
iPS細胞 高い 増殖能
TCAサイクル
ATP
核 酸
ATP
乳 酸
アミノ酸
グルコース
TCAサイクル
ATP
ATP
核 酸
アミノ酸
乳 酸 乳 酸 乳 酸
心筋細胞 乏しい 増殖能
ヒトiPS細胞とヒト心筋細胞でアミノ酸代謝 において大きく異なることを新たに発見
さらなる 高純度心筋精製
心筋細胞
ES細胞
(Tohyama S,et al. Cell Stem Cell,2012)
乳酸培地下でのヒトES由来胚様体の経時的変化
ブドウ糖除去乳酸添加培地での培養
• ヒトES/iPS細胞を用いた心臓再生医療を実現化するためには約109細胞の心筋細胞が必要。
• 仮に0.1%の未分化幹細胞が残存した場合、 約10万個の未分化幹細胞が混入することになる。
• ヒトES/iPS細胞はマウスES/iPS細胞に比較して無糖培養条件において死滅するのに時間がかかる。
臨床グレードの移植細胞を得るための 未分化幹細胞除去法の開発
完全に未分化幹細胞を除去するために培地中に
含まれる各種栄養素と細胞エネルギー代謝に着目し未分化幹細胞を最も除去できる条件を探索
心筋細胞に影響を与えずヒトES細胞が効率的に死滅するCondition Aを発見した
様々な培養条件におけるヒトES細胞の生存率
Condition A
Condition A
Condition B
Condition B
Condition C
Condition C
Condition D
Condition D
培養液の中から1因子ずつ栄養素を除外して細胞毎に必須な栄養を同定
ALP染色
Condition A Condition B Condition C Condition D
ヒトE
S
細胞
ヒト心筋細胞
ヒトiPS細胞を心筋分化誘導後に純化精製
Red : a-Actinin Blue : DAPI
純化精製前 無糖乳酸添加培地 (3日間培養後)
500 u
m
Condition A 培地 (3日間培養後)
ヒトES細胞由来の心筋細胞を純化する場合、ブドウ糖除去乳酸添加の条件だけでは細胞純化が完全ではないが、Condition Aでは完全な心筋細胞純化ができる
ヒトiPS由来mixture (Condition A処理後)
※Condition A処理後の細胞を再度高密度で培養皿に播種
AS101培地
iPS細胞を増やす 心筋へ分化 純化精製
心筋純化培地
乳酸法を用いた 大量心筋細胞の純化精製
Lin28を用いることで残存未分化幹細胞を0.001%まで検出可能
臨床グレードの移植細胞を得るための 高感度未分化幹細胞検出法
(Kuroda, et al. PLOS one 2013)
0
20
40
60
80
100
LIN28/18S
純化精製後4日後
vs
hiP
SCs
Condition Aにより純化精製することで臨床グレードのヒトiPS由来 心筋細胞を回収することに成功
サル再生心筋細胞のサル心臓への移植
Red-dye tracer a-actinin Merge
Cyclosporine A: 8 mg/kg・day
移植されたサル再生心筋による心筋球
移植1ヶ月後
マーモセット心筋梗塞モデルに対する同種 ES細胞由来心筋細胞による治療効果の検討
0日 1か月 2か月 3か月
心エコー 心エコー 心エコー 心エコー
心筋梗塞作製
再生心筋移植
サイクロスポリンA投与 (8 mg/Kg/day)
心臓摘出 病理検査
eGFPで標識した ES由来再生心筋細胞
コモン・マーモセット 心筋梗塞モデル
マーモセットES細胞由来精製心筋細胞の マーモセット梗塞心臓における長期生着(4ヶ月)の達成
eGFP蛍光 HE染色 Azan染色
心筋梗塞を作製したマーモセット心臓に 純化精製した再生心筋細胞106個を移植 4ケ月後に組織切片
移植3ヶ月後の移植心筋細胞の病理組織
生着した細胞は心筋細胞であり、腫瘍形成は見られなかった。
Actinin Connexin 43 GFP
(N = 5)
移植心筋へのレシピエント心臓からの血管新生
vWF GFP
心エコーによる移植後の心機能解析
0
5
10
15
20
25
30
35
40
45
Pre-MI Post 1mo.Post 2mo.Post 3mo.0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
20
Control Transplant
% F
raction s
hort
enin
g
心筋梗塞の大きさ Fractional shortening (心機能解析)
NS
P<0.05
(N = 5)
(N = 5)
マーモセットES細胞由来再生心筋細胞をマーモセットサルの心筋梗塞モデル に移植すると1か月の段階では有意に心機能を改善した。
開胸、開腹 送信機の腹腔内留置
電極留置、MI、移植 回復後の動物と受信器(上)
心筋梗塞モデルに対する細胞移植並びに テレメトリー24時間心電図測定方法の開発
移植したヒト再生心筋細胞塊 移植マーカー (EGFP) 生心筋細胞マーカー (TMRM)
ヒトiPS心筋細胞塊のマーモセット心筋梗塞領域における生着
ヒト特異的 ミトコンドリア
Merge
GFP
Na 143 K 2.9 Cl 111
Na 147 K 5.3 Cl 115 Na 148 K 3.7 Cl 109
Na 149 K 4.5 Cl 110
異常T波(天幕状T波) 正常T波
正常T波 異常T波(微弱T)
体液電解質の調整
個体①
個体②
テレメトリーシステムの心電図異常検出力の検討
テレメトリーシステムは、微細な心電図変化も検出可能である。
体液電解質の調整
I5476 2013 12 5 14:30 Post MI/Transplant 2 mo.
I5476 2014 1 9 14:30 Post MI/Transplant 3 mo.
I5476 2013 11 14 14:30 Post MI/Transplant 1 mo.
I5476 2013 10 10 14:30 Pre MI/Transplant
1例目移植 ヒトiPSC-derived cardiomyocytes
総 括
• T細胞とセンダイウイルスベクターを用いてフィーダーフリー、ゼノフリー条件でのiPS細胞を樹立した。
• 発癌遺伝子のc-Mycの代わりにL-Mycをセンダイウイルスで用いることでより造腫瘍性の低いTiPS細胞を樹立することに成功した。
• 大量培養系における心筋細胞分化、精製法を確立した。
• 心筋細胞の純化精製法を改良し、QRT-PCRにて未分化幹細胞の最も鋭敏な指標であるLin28が検出限界以下になるまで純化精製することに成功した。
• ヒト再生心筋細胞をマーモセットサル心臓に移植し、移植後3ヶ月で致死的不整脈を認めなかった。マーモセットES細胞由来心筋細胞の移植により心機能改善を認めた。