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1 環境地理学特論 9 章岩石の風化と土壌の形成 2ME 菅埜諒介 概要 この章では地表に露出する岩石の風化と、それに伴った土壌の形成過程について述べて いる。岩石が太陽や雨の働きで風化、分解される過程を説明している。また、気候の違い から異なった性質や色の土壌が作られる。そうしてできた土壌や堆積物は私達の生活で広 く使われている。 1. 堆積岩 (1) 地球表層の堆積物 大陸表層の 75%以上 、全地球表層の 90%以上 は堆積岩あるいは堆積物でおおわれている。 世界の原油生産量の約 50% が石灰質堆積岩中に胚胎されている。 1 物理的風化作用 岩石が分解され、小さな粒子になる過程を物理的風化という。 (1) 気温の日較差による風化 大陸表面では気温の日較差が大きい。また、鉱物粒子は高温下で膨張し、低温下で収縮 する。結晶方位ごとに熱膨張率は異なる。その結果、鉱物粒子問に問隙が形成され、そ れが拡大し岩石の結合力は次第に弱くなっていく。 (2) 結氷圧力による風化 岩石の割れ目にしみこんだ水は、気温が下がると結氷する。その時体積が 9%増加する ことにより、割れ目には 150 kgf/cm 2 の圧力が加わる。 (3) 植物の根の成長圧力による風化 植物の根の成長圧力は 1015 kgf/cm 2 に達する。このような機械的風化の進行に伴い、 化学反応が起こる岩片の表面積が増大する。 物理的風化と化学的風化は相互に作用しながら風化を促進する。 2 化学的風化 地球表層の岩石と水あるいは大気中の気体成分が反応して化学的風化が進む。そのプロセ スは酸化・加水分解・溶脱 3 つの反応にわけられる。

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環境地理学特論

第 9章岩石の風化と土壌の形成

2ME 菅埜諒介

概要

この章では地表に露出する岩石の風化と、それに伴った土壌の形成過程について述べて

いる。岩石が太陽や雨の働きで風化、分解される過程を説明している。また、気候の違い

から異なった性質や色の土壌が作られる。そうしてできた土壌や堆積物は私達の生活で広

く使われている。

1. 堆積岩

(1) 地球表層の堆積物

大陸表層の 75%以上、全地球表層の 90%以上は堆積岩あるいは堆積物でおおわれている。

世界の原油生産量の約 50%が石灰質堆積岩中に胚胎されている。

1物理的風化作用

岩石が分解され、小さな粒子になる過程を物理的風化という。

(1) 気温の日較差による風化

大陸表面では気温の日較差が大きい。また、鉱物粒子は高温下で膨張し、低温下で収縮

する。結晶方位ごとに熱膨張率は異なる。その結果、鉱物粒子問に問隙が形成され、そ

れが拡大し岩石の結合力は次第に弱くなっていく。

(2) 結氷圧力による風化

岩石の割れ目にしみこんだ水は、気温が下がると結氷する。その時体積が 9%増加する

ことにより、割れ目には 150 kgf/cm2の圧力が加わる。

(3) 植物の根の成長圧力による風化

植物の根の成長圧力は 10~15 kgf/cm2に達する。このような機械的風化の進行に伴い、

化学反応が起こる岩片の表面積が増大する。

物理的風化と化学的風化は相互に作用しながら風化を促進する。

2化学的風化

地球表層の岩石と水あるいは大気中の気体成分が反応して化学的風化が進む。そのプロセ

スは酸化・加水分解・溶脱の 3つの反応にわけられる。

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(1) 酸化・加水分解・溶脱

金属や硫化物などは大気中の酸素によって酸化され、酸化物や水酸化物に変化していく。

鉄の硫化物である黄鉄鉱 FeS2は酸化され、水酸化鉄 Fe(OH)3となる一方、硫黄は酸化

され、硫酸となる。

FeS2 +15O2 +14H2O → 4Fe(OH)3+8H2SO4

雨水には大気中の二酸化炭素が溶け込み水素イオンと重炭酸イオンが形成されている(式 1)

CO2+H2O ⇔ H2CO3 ⇔ H++HCO3- ・・・・(1)

重炭酸イオンはさらに分解して、炭酸イオンを生じている(式 2)、そのため雨水は pHが

5~7の弱酸性である。

HCO3 ⇔ H+ + CO32- ・・・(2)

石灰岩と弱酸性の雨水が接すると、下記の(式 3)のような反応が起こる。もし CO2濃度が

上がると、反応は右に進み石灰岩 CaCO3 が溶けるが、濃度が下がると反応は左に進み

CaCO3 は沈殿する。CaCO3 が溶解した地下水から CO2 が失われてできたのが鍾乳石であ

る。

CaCO3+H2CO3⇔Ca2+ + 2HCO3- ・・・(3)

岩石を構成する鉱物中の原子がイオンとなって、水に溶け出す作用を溶脱という。

Siは pHが高いアルカリ性の水によって溶脱する

NaやMgなどのアルカリおよびアルカリ土類金属は酸性の水によって溶脱される

地殻を構成する主要な元素 7種の溶脱のし易さの度合い。

Na, Ca > Mg, K > Si > A1, Fe

(2) 岩石の化学的分解過程

別紙に記載。

(a) 花崗岩質の大陸地殻の化学的風化

K イオンは重炭酸イオンと結びつき、土壌中に固定される。また珪酸は水分子をもつコロ

イド状珪酸となり河川により運搬され、残りは粘土として残留する。粘土は加水分解され、

難溶性のアルミニウムの水酸化物(ボーキサイト)とコロイド状珪酸となる。

正長石の例

正長石 + 二酸化炭素 + 水 ⇔ Kイオン + 重炭酸イオン + カオリナイト(粘土) + 珪酸

2KAlSi3O8 + 2CO2 + 3H2O ⇔ 2K2+ + 2HCO3- + Al2Si2O5(OH)4 + SiO2

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(b) 海洋地殻の化学的風化

輝石の 2 価の鉄は溶脱(図 4)、酸化され 3価の鉄となり、水和して難溶性の水酸化鉄(褐

鉄鉱かってっこう)(図 5)となる。珪酸はコロイド状珪酸となって水に溶ける。

鉄輝石の例

鉄輝石 + 酸素 + 水 → 水酸化鉄 + 珪酸

4FeSiO3 + O2 + 2H2O → 4FeO(OH) + 4SiO2

輝石や角閃石の化学的風化によって溶脱した鉄の酸化状態は、土壌の色を決める。2価の還

元的な状態だと青っぽい土、3価の酸化的な状態だと赤い土になる。

2. 土壌の形成

水温が上昇しイ才ン化の程度が高くなり、降雨量が多くなるほど化学的風化は促進され

る。熱帯地域は赤色のラテライト、寒帯は灰白色のポドゾル、温帯は褐色森林土で特徴

づけられる。

(a) 熱帯のラテライト

腐植酸が少ない。また降雨によって腐植酸が流されてしまう。A1 や Fe が水酸化物とし

て地表近くに残留し、赤色土が造られる。

弱酸性の雨水は岩石中に浸透し、前記の①が進行してアルカリを溶脱する。降雨が続く

とアルカリ性の地下水は水位が地表まで上昇し、②の作用で Si が溶脱する。その結果、難

溶性の Fe と A1 が濃集し、水酸化鉄あるいは水酸化アルミニウムとなって残留土壌は赤茶

-赤紫色を呈する。

(b) 寒帯のポトゾル

寒帯地域では植物遺体や腐植が厚く堆積している。地表付近の水は強酸性になる。Si だ

けが溶脱できず、微細な非晶質の珪酸や石英が残留し灰白色の土が形成される。

黒い有機物に富む土の下に灰白色の層が形成していることから、ポド(下に)ゾル(灰色)

(c) 温帯の褐色森林土

比較的温暖で湿潤な気候のため動植物の遺体は分解され、すべてのイオンが溶脱される。

腐植土層の下に多量の粘土層と水酸化第二鉄(赤色)が形成され、両者が混じり褐色の土壌が

形成される