Upload
yoichi-seino
View
472
Download
0
Embed Size (px)
DESCRIPTION
人文科学とコンピュータシンポジウム「じんもんこん2010」の発表スライドです。
Citation preview
日本古代史における移動コスト分析の一応用例藤原仲麻呂の乱における東山道ルートと田原道ルートの比較実験から
清野陽一(京都大学大学院人間・環境学研究科/Archaeo-GIS Workshop)
金田明大(奈良文化財研究所)
人文科学とコンピュータシンポジウム「じんもんこん2010」2010年12月12日(日) 於:東京工業大学
1
はじめに
• 考古学研究ではGISを活用した研究が盛んである。
• 先史時代に多い
• シミュレーションに価値を見いだしている
• 低調な歴史時代研究への応用
• 人口シミュレーションなどの例はある。
• 空間分析を史料用いつつ定量的に分析
2
日本古代史の特質
• 世界的にも稀なほど多くの史料が残る。
• 定量的な分析を行えるだけの史料も多く存在する。
• 空間分析と併せて検討することで新たな解釈を行うことが出来るのではないか?
3
藤原仲麻呂(恵美押勝)の乱
• 天平宝字8年(764年)9月乙巳(11)日~壬子(18日)
• 太師(太政大臣相当)正一位の藤原仲麻呂(恵美押勝)が起こした反乱
• 『続日本紀』の各所に記述が多数有。
• 勢多唐橋の攻防については『続日本紀』巻第二十五天平宝字八年九月乙巳条および壬子条(藤原仲麻呂略伝)
4
『続日本紀』中の実際の記述
青木和夫他1995『続日本紀』四(新日本古典文学大系15)岩波書店
5
平城宮
仲麻呂ルート(東山道)
官軍ルート(田原道)
勢多(唐)橋 近江国府
© OpenStreetMap contributors, CC-BY-SAhttp://www.openstreetmap.org/http://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.0/OpenCycleMap.org - the OpenStreetMap Cycle Map
6
方法• GISデータハンドリング : GDAL、Proj.4等
• GISエンジン : GRASS-GIS
• GISデータビューワ : QuantumGIS
• 「自由なソフトウェア」• 研究者が自分の研究目的に合わせて自由に改変・拡張可能
• オリジナリティの確保
• 入手・再配布が自由
• コスト面の参入障壁の除去
• ユーザ間での情報の共有
FOSS4Gを用いた。
7
T= [(a)*(ΔS)] + [(b)*(ΔH uphill)] + [(c)*(ΔH moderate downhill)] + [(d)*(ΔH steep downhill)]
GRASS-GISのr.walkモジュール
T : 秒単位の移動時間ΔS : はメートル単位の距離ΔH uphill : 斜面を登る時のメートル単位の高度差ΔH moderate downhill : 緩やかな斜面を下る時のメートル単位の高度差ΔH steep downhill : 急な斜面を下る時のメートル単位の高度差
a : a=1/歩く速度b : 斜面を登るときのパラメータc : 緩やかな斜面を下るときのパラメータd : 急な斜面を下るときのパラメータ
※斜面を下るにあたっては、ある程度の傾斜閾値までは利点があるが、それ以上はむしろ障害となる。初期の傾斜閾値は-0.2125であり、tan(-12)の下り坂となる。一般的には5°より大きく12°未満は緩やかな斜面となり、12°以上は急な斜面となる。
初期値はLangmuir 1984により、a=0.72, b=6.0, c=1.9998, d=-1.9998が与えられており、通常の歩行者とされている(a=0.72は分速約83.3m)。
8
GRASS-GISのr.walkモジュール
K K K x x x K x O xK x x x K K K
GRASS-GISのr.walkモジュールには「knight's move」と呼ばれる、動きをサポートしている。→トラバースの動きも考慮される。
総コストについてはλパラメータを用い、移動時間コストと摩擦コストを組み合わせた線形等式で推計される。
TC = MC + λ * FCTC : Total CostMC : Movement Time CostFC : Friction Cost※摩擦係数が分かっている場合はオプションとして指定すると考慮される。今回は未知数なので設定していない。
Aitken 1977, Fontanari 2001を参照。
9
移動コストの数値の扱い方
• シミュレーション結果の数字はある所与の条件で算出されたもの。
• かなり限定された条件で算出されている。
• 日本古代史における「妥当な」パラメータの算出も一つの目標ではある。
• ただし永遠に分からないかもしれない
• 今回はあくまで同一条件で比較するための数値として利用。
10
これらの地図は、国土地理院作成の基盤地図情報(数値標高モデル10mメッシュ(標高))および国土交通省作成の国土数値情報(河川・湖沼データ)を使用したものである。
平城宮から東山道経由で18時間Tobler 1993 では馬に乗った場合は速度を1.25倍とするとなっている。仮に1.25倍(時間を0.8倍)すると20時間が16時間となり、僅かに田原道ルートが先行できる。
瀬田川沿いルート
11
水平距離は短い
負荷は高い
グラフで見る各ルートの違い
田原道ルート(追討軍)の方が…
定量的に比較することが出来た。
12
論文集の訂正
淡海三船卒伝(延暦四年七月庚戌条)に日下部子麻呂や佐伯伊達等が数百騎を率いて勢多橋を焼断したという記述がある。
→追討軍は騎馬にて移動。
13
まとめ• 実際の移動ルートがどういう違いを持ったルートだったのか
を定量的に示すことが出来た。
• 先に出発し、移動コスト的にも楽なはずの仲麻呂側は結果的に官軍に先回りされる。
• →遅くなる要因(人数が多かった?)
• より具体的な構成
• 官軍は遅れを取り戻すために、多少不利なルートであっても強行した。
• →手段の確保とルートに関する知識?
• 吉備真備が参謀役・淡海三船の機転
14
まとめ
• GISを用いることで定量的に示すことが出来る。
• 他分野との共通言語
• FOSS4Gの利用
• 様々なメリット
15
問題点
• 古地形の復元とそれを考慮したモデルの検討
• 巨椋池の復元
• 水面の扱い
• 移動負荷をどう計算するべきなのか?
16
今後の課題
• GPSを用いて、実際のルートを歩いた。
• 実際の歩行時間
• シミュレーションと(現代人の我々ではあるが)実際の歩行時間との差を考える。
• 他の定量的史料への展開
• 延喜主計式 : 榎英一の研究
17