35

28.8.19 急性腹症患者の画像診断戦略

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 28.8.19 急性腹症患者の画像診断戦略
Page 2: 28.8.19 急性腹症患者の画像診断戦略

背景•急性腹症は救急受診の 5 ~ 10 %を占める•緊急疾患の迅速かつ正確な診断は、患者の管理や効率的な処理に不可欠である•臨床所見や臨床検査だけでは、不必要な治療をしたり治療が遅れる可能性がある•画像検査は急性腹症の診断の正確性を増す事が示されている

Page 3: 28.8.19 急性腹症患者の画像診断戦略

背景•画像検査は病院のコストを増加させ、 CT による成人患者の被曝も増えている• The American College of Radiology (米国放射線医学会)は、腹痛患者の画像検査のガイドラインを作っている•腹痛の診断に、このガイドラインだけでは十分でないかもしれない•腹痛患者に対し、臨床評価後の単純 X線、 US、 CTの付加価値を評価した

Page 4: 28.8.19 急性腹症患者の画像診断戦略

方法•多施設、前向き研究対象• 2 時間以上 5 日間未満の非外傷性腹痛を呈する成人(≧ 18 歳)•開業医の紹介または紹介なし•最近退院した、腹痛以外で入院したが腹痛が増悪した患者除外•消化管出血、大動脈瘤破裂、妊娠中の出血性ショック•治療した医師の正当な理由で画像検査を行わなかった患者

Page 5: 28.8.19 急性腹症患者の画像診断戦略

方法• 2 つの大学病院と 4 つの大規模教育病院の 6 病院が参加プロトコル( Fig1 )•病歴、身体所見、臨床検査 →診断を記録 →胸部・臥位腹部単純 X 線、 US 、 CT →新たな診断を記録 →少なくとも 6 ヶ月は患者をフォロー →専門委員会が最終診断

Page 6: 28.8.19 急性腹症患者の画像診断戦略

方法•単純 X 線は救急の医師が評価• US ・ CT の読影時は、他の検査結果は見られなかった(臨床情報は与えられた)•読影者は救急医が利用した同じ診断リストから画像診断を記録• CT は横隔膜~鼠径部まで撮影•時間外の CT は翌日に放射線科医が読影

Page 7: 28.8.19 急性腹症患者の画像診断戦略

方法•開業医に患者の転帰について確認•専門委員会は熟練した消化器外科医と腹部放射線科医で構成され、最終診断をした•委員会メンバーは患者の評価や管理には関与せず•全ての最終診断は緊急か非緊急に分類•緊急の定義: 24 時間以内に治療が必要

Page 8: 28.8.19 急性腹症患者の画像診断戦略

方法•比較した戦略単独 ( 1 )臨床評価後の診断 ( 2 )臨床診断+単純 X 線 ( 3 )全員に US ( 4 )全員に CT条件付き ( 5 )全員に US → 陰性または不確定なら CT ( 6 )全員に US → 不確定なら CT

Page 9: 28.8.19 急性腹症患者の画像診断戦略

方法患者の特性 ( 7 ) 45 歳未満なら US → 陰性か不確定なら CT   45 歳以上なら CT ( 8 ) BMI30 未満なら US → 陰性か不確定なら CT    BMI30 以上は CT ( 9 ) BMI30 未満または 45 歳未満なら US → 陰性か不確定なら CT   その他の患者は CT

Page 10: 28.8.19 急性腹症患者の画像診断戦略

方法腹痛の場所 ( 10 )右上腹部の圧痛なら US    右下腹部、左上腹部、左下腹部、びまん性の圧痛なら CT    その他は CT ( 11 )右上下腹部の圧痛なら US    左上下腹部、びまん性の圧痛なら CT    その他は CT

Page 11: 28.8.19 急性腹症患者の画像診断戦略

方法データ解析•最終診断と画像戦略の結果を比較し、 11種類それぞれの感度と特異度を計算•見逃しの割合( 1 ー感度)と偽陽性の割合(偽陽性 /陽性)も計算•放射線科医間、指導下 or 非指導下の研修医間、参加施設間の精度の結果を比較し、 US の成績の安定性を調べた

Page 12: 28.8.19 急性腹症患者の画像診断戦略

方法• ROC空間内に全ての戦略の正確性をプロット •診断精度の計算のため、不確定な結果は陰性として扱った•画像検査をしなかった、画像で異常が除外出来なかった場合は不確定とした

Page 13: 28.8.19 急性腹症患者の画像診断戦略

方法•単独画像戦略の感度と特異性の比較にはマクネマー検定を用いた•臨床診断および最も正確な単独戦略と、複数の戦略を比較•正と負の尤度比を直接比較し、最も正確だった単独画像検査を 2 つ組み合わせて精度上昇を評価•各戦略で、 US をした患者の割合と、 CT による被曝をした患者の割合を計算

Page 14: 28.8.19 急性腹症患者の画像診断戦略

結果• 2005年 3 月から 21 ヶ月間で、 1101 人が該当•うち 80 人はデータ収集できず•年齢、性別、時間などで、これら 80 人と参加者に有意差はなかった

Page 15: 28.8.19 急性腹症患者の画像診断戦略

結果• 1021 人の平均年齢は 47 歳( 19 ~ 94 歳)• 55 %( N=565 )が女性•ほとんど( 75 % ; N =766 )は開業医の紹介• 17 %( N=169 )は紹介なし• 7 %( N=73 )は他の医療専門家の紹介• 1 %( N=13 )は救急搬送

Page 16: 28.8.19 急性腹症患者の画像診断戦略

結果•外科研修医が 74 %( N=757 )を評価•救急研修医が 26 %( N=264 )を評価•研修医の平均臨床経験は 25 ヶ月( 2 ヶ月~ 8.7年)• US は 57 %( N=582 )は放射線科研修医、 43 %( N=439 )は放射線科医が施行•研修医の US は、 52 %( 300/582 )が放射線科医の指導下で施行、 48 %( 282/582 )は非指導下で時間外に施行

Page 17: 28.8.19 急性腹症患者の画像診断戦略

結果• CT の 29 %( N=299 )は放射線科医の指導下で研修医が、

71 %( N=722 )は放射線科医が評価•腎不全患者 14 人、造影剤アレルギー患者 2 人は単純 CT 施行• 1 人は軽度の造影剤アレルギーを発症• US と CT の読影は、 1年目研修医~ 30年目以上の放射線科医が行った

Page 18: 28.8.19 急性腹症患者の画像診断戦略

結果• 671 人( 66 %)が入院•帰宅した 350 人のうち 19 人は再評価後すぐ入院•計 483 人が手術を受けた•うち 450 人が組織の病理検査をした• 14 人( 1.4 %)が追跡期間中に死亡• 10 人が開業医の紹介、 3 人が他の医療専門家の紹介、 1 人が救急搬送

Page 19: 28.8.19 急性腹症患者の画像診断戦略

結果•専門委員会は 661 人( 65 %)を緊急と最終診断•急性虫垂炎が最多、次点が急性憩室炎緊急症例の割合•開業医( 518/766 人、 68 %)が最多( P=0.009 )•紹介なし( 97/169 人、 57 %)•他の医療専門家の紹介( 39/73 人、 53 %)•救急搬送( 7/13 人、 54 %)

Page 20: 28.8.19 急性腹症患者の画像診断戦略

結果•臨床診断単独では、感度は高かった( 88 %)が特異度は低かった( 41 %)• US は偽陽性率を減少させたが、見逃しは 30 %だった•感度は US ( 70 %)よりも CT ( 89 %)が有意に高かった( P<0.001 )• US と CT 単独の感度は臨床評価と有意差なし、特異度は大幅に上昇

Page 21: 28.8.19 急性腹症患者の画像診断戦略

結果• US の成績は、参加施設間で変わらなかった•研修医が非指導下で行った US の感度( 65 %、 95 %信頼区間: 58 %~ 72 %)は、放射線科医による US の感度( 74 %、 69 %~ 74 %)より有意に低かった( P=0.03 )•指導下で行った US の感度は 69 %( 82 %~ 91 %)で、放射線科医による US と有意差はなかった( P=0.20 )•特異度は、放射線科医と指導下・非指導下の研修医とで有意差はなかった( P=0.70 )

Page 22: 28.8.19 急性腹症患者の画像診断戦略

結果• US で陰性か不確定だった時に CT をする場合(戦略 5 )は、画像検査なしより感度は高かった( 94 %対 88 %( P<0.001 ))•戦略 5 は CT のみと比較して、感度は高い( 94 %対 89 %、

P<0.001 )が特異度は低く( 68 %対 77 %、 P<0.001 )、見逃しは有意に減った( 6 %対 11 %)• US で不確定だった時のみ CT をする場合(戦略 6 )は、戦略 5 より CT の使用を減らした (49 %→ 27%) が、見逃しが増えた( 6 %→ 15 %)

Page 23: 28.8.19 急性腹症患者の画像診断戦略

結果• 512 人( 50 %)が 45 歳以上、 157 人( 15 %)が BMI30 以上•年齢に基づく場合(戦略 7 )、年齢と BMI両方に基づく場合(戦略 9 )は 10 %見逃し、 BMI に基づく場合(戦略

8 )は 9 %見逃した• American College of Radiology のガイドラインを反映した戦略(戦略 10 )の診断精度は、 CT のみと同等だった•右上下腹部圧痛での US の使用(戦略 11 )では、 16 %見逃した

Page 24: 28.8.19 急性腹症患者の画像診断戦略

結果•被曝した割合( CT使用率)は、患者の特性で決める戦略では 56 %~ 81 %、痛みの場所で決める戦略では 65 %~

95 %だった•戦略 5 では CT の使用が 2番目に少なく( 49 %) 、感度も最も高かった( 94 %)

Page 25: 28.8.19 急性腹症患者の画像診断戦略

考察•臨床診断単独では偽陽性率が高く、 US 単独では許容できないほど見逃しが多かった• CT 単独では精度が高かった• US で陰性または不確定な場合の CT (戦略 5 )は、最も感度が高く、被曝も最低となった•患者の特性や痛みの場所による戦略は、戦略 5 より精度が低かった

Page 26: 28.8.19 急性腹症患者の画像診断戦略

考察潜在的な制限•無作為化試験ではなかった•患者の管理や転帰への影響は直接評価出来なかった•診断プロトコル完了後の管理は、全検査結果に基づいていた•画像検査前の患者の selection があった•ほとんどが開業医からの紹介で•画像検査せずに帰宅した患者は含めなかった•国ごとに救急受診や画像検査の閾値が異なる

Page 27: 28.8.19 急性腹症患者の画像診断戦略

考察•緊急症例の検出感度の高さは臨床的に重要だが、偽陽性は過剰治療につながる可能性あり• US や CT の使用に制限がある場合は見逃し率は高くなり、それによる特異度の低下は非緊急患者の過剰治療につながる• CT 単独と比べた条件付き CT 戦略の診断精度の上昇は、感度上昇と特異度低下のトレードオフを示す•緊急症例が正しく診断された利点が、誤診による過剰治療の有害性より大きいか評価することは、本研究の範囲を超えている

Page 28: 28.8.19 急性腹症患者の画像診断戦略

考察•臨床現場では、医師は意識的または無意識的に、急性腹症患者の緊急性を区別する•画像検査をしなかった臨床的疑いの低い患者以外は、研究に参加するよう促された•結果として、臨床評価後の診断がはっきりしていた患者も含まれた•他の患者は臨床評価後の診断が不確実で、臨床評価後の画像検査の付加価値が最も大きい場合、この患者のカテゴリはおそらく参加者の大部分を占める

Page 29: 28.8.19 急性腹症患者の画像診断戦略

考察•臨床診断は外科と救急の研修医が行った•経験年数が診断精度に影響した可能性はあるが、それを評価した研究はない•今回の解析では、診断精度に経験年数は影響がないことがわかった

Page 30: 28.8.19 急性腹症患者の画像診断戦略

考察• US は観察者の経験年数に依存することがわかった•非指導下の研修医の US の方が、緊急症例の見逃しが多かった• US で陰性か不確定の時に CT をする戦略では、放射線科医による US より、非指導下の研修医による US の方が CT の使用が多くなるだろう

Page 31: 28.8.19 急性腹症患者の画像診断戦略

考察• CT の精度は経験年数にあまり依存しないことが知られている•急性憩室炎の診断で、 20年目の放射線科医、 2年目の研修医、消化器科医で有意差はなかった• CT は放射線科医か放射線科医の指導下で読影したため、研修医と放射線科医との精度の比較は出来なかった

Page 32: 28.8.19 急性腹症患者の画像診断戦略

考察•画像検査は、最も common な急性腹症の原因である、急性虫垂炎と憩室炎のために広く検討されている•憩室炎疑いでの画像検査は 、治療するかどうか決めるため、憩室炎 の合併症を見つけるのに有用•虫垂炎疑いでの CT は、不必要な入院および手術を防ぎ、虫垂切除率や病院のコストを減らすことが示されている•画像が虫垂炎の確実な診断に必要かどうか、理想的な診断戦略は論争中

Page 33: 28.8.19 急性腹症患者の画像診断戦略

考察•急性腹症の正確な診断法として、診断的腹腔鏡検査もある•しかし、画像検査は偽陽性を減らし、侵襲的な検査を防止することもできる•腹腔鏡の侵襲性とコストを考慮すると、腹腔鏡は画像で異常が見られなかったり治療指標を決める時までとっておくべき

Page 34: 28.8.19 急性腹症患者の画像診断戦略

考察•放射線に関連した致死的癌の生涯リスクは、年齢に依存する• 25 歳の腹部 CT での癌誘発リスクは約 1/900 、致死的癌の誘発リスクは約 1/1800• 50 歳の場合は 1/1500 と 1/2500•一般に、 CT で得られた情報は放射線関連リスクを上回り、癌の誘発リスクは癌の生涯リスクを踏まえて見るべき、という総意がある•将来、急性腹症の診断に MRI が役立つかもしれない

Page 35: 28.8.19 急性腹症患者の画像診断戦略

結論•画像検査は急性腹症の患者に広く行われているが、画像戦略の精度が大規模前向き研究で比較されたことはなかった•本研究では、 CT は臨床評価後の精度を最も高めたが、 USで陰性か不確定の場合に CT をするという条件付き戦略では、わずか6%しか見落とさず、総合的な被曝も最低となった•従って、急性腹症の患者には初期検査として US をし、 USで陰性または不確定の場合に CT をすることを勧める