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離島における循環器救急疾患の マネジメントについて 第2回 沖縄・奄美ブロック合同研修医勉強会 2008/11/15 at中部徳洲会 札幌徳洲会病院 救急総合診療部 後期研修医 徳之島離島研修中 松田知倫 背景:徳之島万華鏡 http://www.nakamurasika.com/ より 喜念浜

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離島における循環器救急疾患の マネジメントについて

第2回 沖縄・奄美ブロック合同研修医勉強会 2008/11/15 at中部徳洲会

札幌東徳洲会病院 救急総合診療部 後期研修医

徳之島離島研修中 松田知倫

背景:徳之島万華鏡 http://www.nakamurasika.com/ より 喜念浜

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症例1 63歳男性

• 2日前からの心窩部痛を主訴に受診

• 心不全を伴うMax CPK 3470の心筋梗塞

• 本人や家族は島外での治療を希望

• 保存的療法を選択し、心不全の治療を継続

• 今搬送するメリットがないこと、危険性を説明

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症例1 63歳男性

• Day 17にCAG施行 #6:100% #14:90%

• PCIの適応はなし

• その夜、心不全が急性増悪し、数分間心停止、胸骨圧迫を行い、心拍再開、気管挿管

• たまたまいた循環器科医、心臓血管外科医がIABP挿入し、重症心不全治療開始

• 装備が重すぎて転院させられない

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症例1 63歳男性

• 心不全は徐々に改善

• Day 24にIABP抜去、Day 26に抜管

• 心機能が悪いながらも、カテコラミンテーパリングもうまくいっていた

• Day 32に急変し心停止

• 蘇生に反応せず死亡

• 家族にも、主治医にも、ここでなければ、という悔いが残った

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症例1を通じての問題点

• 循環器科医が不在の病院で、虚血性心疾患を診ていいのか

• ICUのない病院でIABPをしていいのか

• そもそもCAG、PCIなどをしていいのか

• それとも全例、診断次第転送するべきなのか

• PCPSがあり心臓外科医がいるべきではないか

• 本人や家族の希望はどこまで尊重するのか

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症例2 84歳男性

• 10時間前からの冷汗、胸痛を主訴に来院

• EKG:V1-4でST上昇

• 心エコー:IVSから心尖部にかけてhypokinesis EF 59%

• CPK 1203 GOT 114 LDH 354 WBC 7350 H-FABP(+) Troponin T(+)

• 心筋梗塞と診断

• 家族の強い希望あり、自衛隊ヘリで名瀬へ転送

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症例2 84歳男性

• 到着時には胸痛はかなり軽快

• 経過中のCPK-Maxは1269(名瀬到着時)

• 保存的治療を選択

• 経過は良好

• Day 10にCAG、LAD1枝病変に対してPCI施行

• 現在徳之島で外来フォロー中

• ヘリ搬送する必要があったのか?

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症例3 68歳男性

• 11時間前から左肩こり、胸部圧迫感あり

• 1時間前に症状増強、冷汗あり受診

• EKG:V1-4でST上昇

• 心エコー:anteriorがsevere hypokinesis

• すぐにCAGを行い、#6:total

• PCI施行 血栓吸引、ステント留置

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症例3 68歳男性

• CPK-Max 3067(来院10時間後)

• 経過良好で退院

• 来院時はCPK正常、H-FABP(-) TroponinT(-)

• もしも循環器科医が島にいなかったら、転送していたのか?

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心筋梗塞の3例

• 症例1 63歳男性 島外での治療の希望に反して、そのまま島で保存的療法を行い、結果的に死亡

• 症例2 84歳男性 家族の強い希望でヘリ搬送したが、搬送先で保存的に加療され、軽快

• 症例3 68歳男性 循環器科医が島にいる時に来院し、すぐにCAGを行い診断、PCIを行い、軽快

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考察

• 島外搬送の基準はどこにあるのか

• 徳之島における島外搬送の現状

• 奄美群島の中での搬送環境の違い

• 命だけは平等なのか?

• 理想の離島医療とは

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島外搬送の基準

• 明確な搬送基準は存在しない

• 専門医と電話などで連絡を取りながら、 「総合的に」判断する

• 専門外だから

• 設備がないから(例えばCTがないから)

• 手術が必要だから

• 不測の事態になるといけないから(妊婦など)

• 本人、家族の強い希望で

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島から出ずに診る場合

• 患者の負担が少ない

• 付き添い家族の経済的、身体的な負担が少ない

• これは最善の医療ではないと考えてしまう

• 専門医が診ることができない

• スタッフを含めた環境が劣る

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搬送する場合

• 搬送することが患者へ与えるストレス

• 搬送中に起きた変化に対応できない

• 搬送する医師、看護師などのスタッフの負担

• 救急隊、自衛隊への負担、コスト

• 搬送の危険性 ヘリの事故

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虚血性心疾患における搬送

• 搬送に数時間かかるため、よほど発症早期で、よほど手際よく搬送されない限り、再潅流のGolden Timeの6時間は過ぎてしまう

• 早期再潅流を行っても、30日の生命予後に有意な差はない

• 搬送中に不整脈、心破裂が起きても、診断すらできない

• 電源供給、電池が持つのか、という次元で命が左右される

• 急性期に64列CTがCAGの代わりにはならない

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徳之島徳洲会病院の島外搬送状況

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徳之島徳洲会病院の島外搬送状況

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徳之島における循環器緊急疾患

• 平成19年7月から20年11月を集計

• 心筋梗塞 14例のうち、搬送は1例のみ

• 搬送された 8例の内訳 心筋梗塞1 大動脈解離3 腹部大動脈瘤1 重症心不全1 心室頻拍1 左房内血栓1

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徳之島における循環器緊急疾患

• 大動脈解離(Stanford A)、大動脈瘤切迫破裂などで、緊急手術の適応と考えられる症例は、搬送自体にリスクはあるが、搬送を選択している

• 虚血性心疾患では、搬送することのメリット、デメリットが様々であり、個々のケースごとに、タイミングを含めて判断しているが、結果としてほとんどが搬送されていない

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奄美群島における状況の違い

• 奄美大島では、加計呂麻などの例外はあるにせよ、陸続きで県立大島病院にたどり着くという選択肢がある

• 沖永良部島、与論島は、浦添総合病院のドクターヘリの範囲内である

• 徳之島、喜界島は、自衛隊のヘリしか緊急の手段がない

• 自衛隊ヘリは、要請から到着まで4時間程度かかる

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波照間 5

多良間 20

与那国

1 西 表

石 垣

200 宮 古 420

本島 3

外 地 4

阿 嘉 119

慶留間 座間味

渡嘉敷 351

久 米 2574

渡名喜 207

伊是名 589

粟 国 水納島

1 470

伊江島 25

伊平屋 431

沖永良部

421

徳之島 207

宝 島

喜 界 132

奄 美 26

北大東 250

南大東 651

与 論 313

久 高 11

陸上自衛隊 第10 1飛行隊 急患空輸状況

区 分

沖 縄

合 計

鹿児島

件 数

1087件

6229件

7316件

患 者 数

1104名

6562名

7666名

7 218 H18.3.31 現在

1 中ノ島

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受ける病院側への質問

• 搬送の判断は適切でしょうか?

• 送りすぎ?

• 送らなさすぎ?

• 搬送のコスト(人的にも、費用的にも)と、搬送後の治療のバランスについて、フィードバック、客観的な検討が必要

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命だけは平等だ?

• 都市部の病院と、離島の病院を比べたときに、同じ医療を提供できているとは到底言えない

• 色々な条件がある中で、その島での最善の医療を探ることが必要

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徳之島に専門医がいる割合

• 循環器科 36%

• 小児科 77%

• 脳神経外科 22% (平成20年8月から11月までの4ヶ月間を、泊数で計算)

• 循環器科医がいない64%の命をどうする?

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理想の離島医療

• 全ての設備が整って、全ての専門家がいて、患者搬送など不要、というのが理想だが

• 現在数時間かかっている、要請からヘリ到着までの時間を、システム面で改善することによって、発症から短時間での治療を開始することができるようにする

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理想の離島医療

• しかし、患者が動かないのが最も望ましい

• 多くのケースには対応できる医師が常勤していて、少ないが致命的な病気(SAH,AMIなど)に対して、専門医がヘリなどで島に駆けつけ、そこで治療してしまう体制を作る

• 離島にこそ「親病院」が必要

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結語

• 専門家がいない離島での診療では総合的な判断が必要だが、難しい

• 離島における搬送の体制は不十分である

• 未だ命だけは平等ではない

• 医師・患者が速く移動できる方法はもちろん沖縄、奄美地区に基幹病院の整備が必要