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-1 - ■出血傾向 なぜ出血傾向がみられるのか 出血傾向は,血小板,血管壁,または凝固線溶系蛋白の異常により,止血が困難であるか (血栓ができづらい),または,いったんできた血栓が脆弱な(溶解しやすい)ために生じ る。原因は,血小板または血管壁の異常と凝固線溶系の異常に二大別される。 病歴聴取,身体所見のポイント まず出血の部位と重症度をみて,緊急輸血が必要かどうか判断する。片側の鼻出血 など局所的な出血だけの場合は,出血傾向ではなく,局所の異常(外傷,炎症,縫合不全) を疑う。身体所見では,皮膚,粘膜の紫斑(purpura)〔点状出血(petechiae:1~2mm以 下)と斑状出血または溢血斑(ecchymosis:それ以上の大きさ)をよく観察する。血小板 または血管壁の異常では点状出血が,凝固系蛋白の異常では深部出血(筋肉・関節内出血) が特徴的である。病歴では,いつから出血傾向がみられるのか(急性出血か慢性出血か), また先天性か後天性か鑑別するために,これまで止血困難なことがなかったか,親族に出 血傾向がみられないか確認する。さらに基礎疾患および合併症の有無,薬剤投与歴につい ても確認する。 どういう検査をどういう手順で行うか─診断のポイント 最初に行うスクリーニング検査は,血小板数と凝固系検査(プロトロンビン時間:PT,活 性化部分トロンボプラスチン時間:APTT)で十分である。これらに異常がない場合は,出 血時間(延長していれば血小板機能異常症が疑われるので血小板凝集能検査を行う)の他 に,XIII 因子,a2-プラスミンインヒビター(α2-PI)活性の測定を行う。DIC が疑われる 場合は,さらにフィブリノゲン,FDP を測定する。一方,PT あるいは APTT が延長している のに出血傾向を認めない場合は,循環抗凝血素(インヒビター)を疑い,後述の混合補正 試験を行う。 治療はどうしたらよいか 血小板数 1×104/μR(以下,万と略)以下,1~3 万でも生命を脅かす重篤な出血(脳出血, 大量の消化管出血,性器出血など)に対しては直ちに血小板輸血を行う。凝固線溶系の異 常が疑われるが,どの因子の異常か特定できない場合には,とりあえず凍結血漿を輸注し, 減少している凝固因子が確定できたら,それぞれの凝固因子製剤を輸注する。 1.血小板,血管壁の障害による出血傾向 血小板数は2~3万以下にならなければ,日常生活で出血傾向を来すことはまずない。また, 血小板数が減少しているのに出血傾向が全くみられない場合は,EDTA 凝集,血小板衛星現 象などの偽性血小板減少症または巨大血小板の存在を疑い,末梢血塗抹標本を観察する。 血小板数が 10 万以上であるのに出血時間が延長している場合は血小板機能異常症を疑い, 血小板凝集能検査を行う。血小板数,凝集能,出血時間,凝固線溶系検査に異常が認めら れないのに出血傾向を示す場合は,一括して血管性紫斑病と診断される。

出血傾向 なぜ出血傾向がみられるのか 出血傾向は, … - (1)特発性血小板減少性紫斑病(ITP) 発症形式から,ウイルス感染1~2週後に急激に出血を来すが,3~6カ月以内に治癒する

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■出血傾向

なぜ出血傾向がみられるのか

出血傾向は,血小板,血管壁,または凝固線溶系蛋白の異常により,止血が困難であるか

(血栓ができづらい),または,いったんできた血栓が脆弱な(溶解しやすい)ために生じ

る。原因は,血小板または血管壁の異常と凝固線溶系の異常に二大別される。

病歴聴取,身体所見のポイント

まず出血の部位と重症度をみて,緊急輸血が必要かどうか判断する。片側の鼻出血

など局所的な出血だけの場合は,出血傾向ではなく,局所の異常(外傷,炎症,縫合不全)

を疑う。身体所見では,皮膚,粘膜の紫斑(purpura)〔点状出血(petechiae:1~2mm 以

下)と斑状出血または溢血斑(ecchymosis:それ以上の大きさ)をよく観察する。血小板

または血管壁の異常では点状出血が,凝固系蛋白の異常では深部出血(筋肉・関節内出血)

が特徴的である。病歴では,いつから出血傾向がみられるのか(急性出血か慢性出血か),

また先天性か後天性か鑑別するために,これまで止血困難なことがなかったか,親族に出

血傾向がみられないか確認する。さらに基礎疾患および合併症の有無,薬剤投与歴につい

ても確認する。

どういう検査をどういう手順で行うか─診断のポイント

最初に行うスクリーニング検査は,血小板数と凝固系検査(プロトロンビン時間:PT,活

性化部分トロンボプラスチン時間:APTT)で十分である。これらに異常がない場合は,出

血時間(延長していれば血小板機能異常症が疑われるので血小板凝集能検査を行う)の他

に,XIII 因子,a2-プラスミンインヒビター(α2-PI)活性の測定を行う。DIC が疑われる

場合は,さらにフィブリノゲン,FDP を測定する。一方,PT あるいは APTT が延長している

のに出血傾向を認めない場合は,循環抗凝血素(インヒビター)を疑い,後述の混合補正

試験を行う。

治療はどうしたらよいか

血小板数 1×104/μR(以下,万と略)以下,1~3万でも生命を脅かす重篤な出血(脳出血,

大量の消化管出血,性器出血など)に対しては直ちに血小板輸血を行う。凝固線溶系の異

常が疑われるが,どの因子の異常か特定できない場合には,とりあえず凍結血漿を輸注し,

減少している凝固因子が確定できたら,それぞれの凝固因子製剤を輸注する。

1.血小板,血管壁の障害による出血傾向

血小板数は 2~3万以下にならなければ,日常生活で出血傾向を来すことはまずない。また,

血小板数が減少しているのに出血傾向が全くみられない場合は,EDTA 凝集,血小板衛星現

象などの偽性血小板減少症または巨大血小板の存在を疑い,末梢血塗抹標本を観察する。

血小板数が 10 万以上であるのに出血時間が延長している場合は血小板機能異常症を疑い,

血小板凝集能検査を行う。血小板数,凝集能,出血時間,凝固線溶系検査に異常が認めら

れないのに出血傾向を示す場合は,一括して血管性紫斑病と診断される。

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図 1 自動血球計算機の見かけ上の血小板減少症

病気がみえる vol.5 血液 MEDIC MEDIA から引用

表 1 血小板減少症

三輪血液病学から引用

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表 2 TTP との鑑別疾患

病気がみえる vol.5 血液 MEDIC MEDIA から引用

表 3 脾機能亢進症

三輪血液病学から引用

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(1)特発性血小板減少性紫斑病(ITP)

発症形式から,ウイルス感染 1~2 週後に急激に出血を来すが,3~6 カ月以内に治癒する

ことの多い急性型と,数カ月~数年の経過をもって発症し,治療により一旦血小板数が増

加しても再発することの多い慢性型に分けられる。前者は小児に,後者は成人女性に多く

みられる。ITP は自己免疫疾患であり,GP I I b-I I Ia(フィブリノゲンレセプター)や

GP I b- I X-V(von Willebrand 因子レセプター)などに対する自己抗体が血小板表面に

結合することにより,血小板がマクロファージに貪食され,主として脾臓で破壊されるた

めに減少する。診断にあたっては,骨髄で巨核球数が正常ないし増加していることを確認

し,他に血小板減少を来す疾患を除外する必要がある。

なお,血小板結合性免疫グロブリン G(PA-IgG)は,血小板サイズが大きくなれば増加し,

ITP に特異的な検査ではないので注意を要する。初期治療としてまずステロイドを投与す

るが,反応に乏しく,少量でも血小板数の維持が困難な場合,副作用が強くて継続できな

い場合には,脾摘を行う(図 7)。ステロイドおよび脾摘に反応しない難治症例に対しては,

シクロホスファミド,アザチオプリンなどの投与を試みる。また,重篤な出血や手術,分

娩時など緊急に血小板を増加させる必要がある場合は,免疫グロブリン製剤の大量投与や

血小板輸血が行われる。長期的にみた出血による死亡率は 1~2%である。

図 2 血小板産生抑制の 2つの機序

病気がみえる vol.5 血液 MEDIC MEDIA から引用

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図 3 ITP 治療フローチャート

厚生労働省 ITP ガイドラインから引用 表 4 ピロリ菌除菌療法

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表 5 ITP の脾摘

血液フロンテイアから引用

図 4 内因性トロンボオイエチンとレボレート(エルトロンボパグ)の作用機序

レボレート インタビューフォームから引用

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図 5 レボレート(エントロンボパグ)の作用機序

レボレート製品概要から引用

図 6 レボレート(エントロンボパグ)の血小板産生促進作用

レボレート製品概要から引用

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図 7 レボレート(エントロンボパグ)の人種差

レボレート製品概要から引用

表 6 ITP に対するピロリ除菌と効果

(2)血栓性血小板減少性紫斑病(TTP),溶血性尿毒症症候群(HUS)

TTP,HUS の両者は互いに似た臨床症状,病態を示すが,TTP は,発熱,微小血管障害性溶

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血性貧血,血小板減少による出血傾向,腎障害,精神神経障害の 5 徴候により特徴づけら

れる症候群であり,HUS はその中で小児に多く,腎障害の程度が強いが,精神神経障害が

軽い症例を指す。女性に多く,誘因がはっきりしないことが多いが,しばしば感染(大腸

菌 O157 感染は HUS を合併する),稀に薬剤投与や放射線照射後,妊婦,自己免疫疾患に合

併する。TTP の発症には,血管内皮障害と巨大 von Willebrand 因子(vWF)重合体による

血小板凝集の亢進が重要な役割を果たしているが,最近,先天的欠損または自己抗体によ

る vWF メタロプロテアーゼ活性の低下が病因として注目されている(vWF が小さな分画に

分解されず巨大な vWF が生じる)。病理学的には小細血管の多発性血栓形成により臓器の虚

血,壊死,出血を来す。検査所見では,奇形(破砕)赤血球の存在が重要であり,凝固系

検査は軽度の FDP 増加以外は正常である。

表 7 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)

病気がみえる vol.5 血液 MEDIC MEDIA から引用

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表 8 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)

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表 9 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)

図 8 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の ADAMTS13 活性

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図 9 ADAMST13

図 10 ADAMST13

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5 徴候が同時にみられることはきわめて稀であるので,血小板減少と微小血管障害性溶血

性貧血があり,DIC などの他の疾患が除外できれば TTP と診断して,治療,すなわち新鮮

凍結血漿の輸注とともに速やかに血漿交換を行い,ステロイドを投与する。この際血小板

輸血は血栓を誘発する危険性があるので,極力避けるべきである。これらの治療が奏効し

ない場合,ビンクリスチン,アザチオプリンの投与,あるいは脾摘を行う.以前は致命率

が高かったが,血漿療法導入により最近は高率に寛解するようになった。しかし症例の約

20%は再発する。

図 11 TTP の血漿交換療法

病気がみえる vol.5 血液 MEDIC MEDIA から引用

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図 12 aHUS は最近ソリリスができて著しく予後が改善された。

製薬会社 ALEXION のソリリス製品情報から引用。

(3)血小板機能異常症

先天性血小板機能異常症には,GPIIb-IIIa の欠損による血小板無力症(Glanzmann’s

thrombasthenia),GPIb-IX-V の欠損による Bernard-Soulier 症候群,storage pool 病(顆

粒に含まれる分泌物質の減少または放出障害),May-Hegglin 異常などがある。これらの鑑

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別には,血小板,顆粒球の形態観察の他に,血小板凝集能検査が必要である。後天性血小

板機能異常症で多くみられるのは,骨髄増殖性疾患(この場合は,出血傾向の他に血栓症

もみられる),尿毒症,感染症,薬剤投与後などである。

図 13 止血機構

病気がみえる vol.5 血液 MEDIC MEDIA から引用

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図 14 血小板の一次止血

病気がみえる vol.5 血液 MEDIC MEDIA から引用

図 15 出血時間(一次止血)

病気がみえる vol.5 血液 MEDIC MEDIA から引用

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表 10 一次止血検査

病気がみえる vol.5 血液 MEDIC MEDIA から引用

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図 16 Von Willebrand 病

病気がみえる vol.5 血液 MEDIC MEDIA から引用

表 11 Von Willebrand 病

病気がみえる vol.5 血液 MEDIC MEDIA から引用

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図 17 Von Willebrand 病のメカニズム

病気がみえる vol.5 血液 MEDIC MEDIA から引用

表 12 血友病 Aと Von Willebrand 病の比較

病気がみえる vol.5 血液 MEDIC MEDIA から引用

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図 18 先天性血小板の異常

病気がみえる vol.5 血液 MEDIC MEDIA から引用

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表 13 先天性血小板の異常

病気がみえる vol.5 血液 MEDIC MEDIA から引用

(4)血管壁の異常─血管性紫斑病

血管壁の異常には,老人性紫斑病,若い女性に多い単純性紫斑病,アレルギー性紫斑病(Sch

嗜 lein-Henoch purpura),ステロイド長期投与後の紫斑などがある。アレルギー性紫斑病

は皮膚粘膜出血,関節症状,腹部症状を主徴とするアレルギー性血管炎を来す免疫複合体

病で,小児および青少年期に多い。出血症状は下肢の対称的な紅斑で始まり,しばしば 4

痒感,発熱,全身倦怠感を伴う。関節症状(足および膝関節痛など),消化器症状(腹痛,

稀に下血),腎症状(顕微鏡的血尿)は,数週で軽快することが多いがしばしば再燃する。

治療は対症療法が原則であり,関節痛が強ければステロイドを,重症例には XIII 因子を投

与する。

表 14 血管壁異常 アレルギー性紫斑病

病気がみえる vol.5 血液 MEDIC MEDIA から引用

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図 19 血管壁異常 アレルギー性紫斑病

病気がみえる vol.5 血液 MEDIC MEDIA から引用

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2.凝固因子の異常による出血傾向

図 20 血液凝固因子

内科学 朝倉書店から引用

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図 21 二次止血

病気がみえる vol.5 血液 MEDIC MEDIA から引用

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図 22 血液凝固検査

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表 15 血液二次止血検査

(1)先天性凝固因子欠損症

頻度が高い疾患は,血友病 A(VIII 因子欠損症),血友病 B(IX 因子欠損症),および von

Willebrand 病(vWD)(vWF 欠損症)である。血友病が伴性劣性遺伝病であるのに対し,vWD

は常染色体遺伝病であるので発症に性差はみられない。血友病では深部出血が特徴的であ

って APTT が延長するが,vWD ではさらに出血時間も延長する。診断の確定および重症度の

判定のために,それぞれ血中の VIII 因子,IX 因子,vWF の活性とその抗原量(蛋白量)を

測定する。治療法として,血友病 Aと vWD に対しては VIII 因子製剤,血友病 Bに対しては

IX 因子製剤を補充するが,軽症の出血にはバソプレシン(DDAVP)が有効である。また補

充療法を継続中にこれらの凝固因子に対する抗体(インヒビター)の出現をみることがあ

り,高抗体価の症例では止血管理が困難である。これに対する治療法として,凝固因子の

大量投与,プロトロンビン複合体や VII 因子製剤の投与(バイパス療法),免疫抑制剤の投

与がある。

PT 正常,APTT 延長を示す他の内因系凝固因子欠損症には,XI,XII 因子,高分子キニノゲ

ン,プレカリクレイン欠損症があるが,XI 因子欠損症以外は出血症状がみられない。一方,

PT 延長,APTT 正常を示す疾患は VII 因子欠損症,PT,APTT の両方とも延長する疾患は V

因子,X因子,プロトロンビン,フィブリノゲンの欠損症である。

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表 16 血友病

病気がみえる vol.5 血液 MEDIC MEDIA から引用

図 23 血友病

病気がみえる vol.5 血液 MEDIC MEDIA から引用

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(2)後天性凝固因子低下症

出血傾向の既往がなく,また凝固因子を低下させる基礎疾患のない患者が,PT または APTT

延長を示す場合,獲得性阻止物質(インヒビター)の存在を疑う必要がある。その本体は

凝固因子活性を抑制する自己抗体であり(IgG が多い),自己免疫疾患,リンパ増殖性疾患,

アミロイドーシスに合併したり,薬剤投与,妊娠,分娩時,また,特定の誘因なく健常人

に発生することもあるが,この場合は高齢者に多い。出血症状を伴うこともあるが,出血

がなく,偶然,凝固学的検査の異常や,ループスアンチコアグラントのように,血栓症状

を契機に発見されることがある。

インヒビターのスクリーニングには,混合補正試験が有用である。混合補正試験とは,正

常血漿とバッファー,正常血漿と患者血漿を 1:1に混合し,37℃で 2時間インキュベーシ

ョンした後,PT または APTT を測定,比較するものであり,PT または APTT の延長が,凝固

因子の低下によるのか,または凝固因子に対する抗体によるのか,鑑別する上で最初に行

うべき検査として重要である。

凝固因子のほとんどが肝臓で合成されるため,重症の肝疾患では凝固因子が低下し,出血

傾向を来す.症状としては消化管出血が多く,肝硬変では,脾腫のため血小板数も減少す

る。またビタミン K 欠乏症は,新生児,乳児でみられる他,成人では,経静脈栄養,抗生

剤投与,胆汁うっ滞に際して稀にみられる。この際,ビタミン K 依存性凝固因子(プロト

ロンビン,VII,IX,X 因子)の産生が低下するため,消化管出血を主体とする出血傾向を

来すことがある。ビタミン K欠乏により,凝固因子のγ-カルボキシル化が障害される結果,

PIVKA-II が上昇する点が特徴的である。

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図 24 後天性血友病

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図 25 凝固阻止系

病気がみえる vol.5 血液 MEDIC MEDIA から引用

図 26 線溶系

病気がみえる vol.5 血液 MEDIC MEDIA から引用

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図 27 血液凝固系と線溶系

内科学 朝倉書店から引用

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図 28 止血異常まとめ

病気がみえる vol.5 血液 MEDIC MEDIA から引用

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表 17 症状別出血症状の違い

内科学 朝倉書店から引用

(3).播種性血管内凝固症候群(DIC)

何らかの原因により,凝固活性物質(主に組織因子)が血液中に大量に流入あるいは接触

したり,血管内皮細胞の抗血栓作用が障害を受ける結果,細小血管内で血栓が形成される。

その結果,血小板,凝固因子が消費されて減少すると同時に,二次的に線溶系も活性化さ

れるために血栓が溶解し,FDP が増加する。したがって出血と血栓に基づく症状がみられ

るが,臨床的には出血傾向が前面に出ることが多い。DIC を来す基礎疾患はいずれも重篤

なものが多く,感染症,悪性腫瘍(急性白血病,特に急性前骨髄球性白血病など),産婦人

科的疾患(常位胎盤早期剥離,羊水塞栓など)がある。診断上,急激な血小板の減少と FDP

の上昇が重要であり,さらに PT,APTT の延長,フィブリノゲンの低下をみて診断する。治

療の大前提は基礎疾患の治療である。次いで血小板輸血,新鮮凍結血漿による凝固因子の

補充が重要であり,さらに止血管理が困難な場合や血栓症による臓器障害が強い場合に,

ヘパリンなどの抗凝固剤の投与を行う。しかし脳出血,大量の消化管出血など生命を脅か

すような出血に際しては,抗凝固剤の投与は禁忌である。

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図 29 DIC の病態

内科学 朝倉書店から引用

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表 18 DIC 診断基準

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表 19 DIC

病気がみえる vol.5 血液 MEDIC MEDIA から引用

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表 20 DIC の頻度の多い基礎疾患

血液フロンテイアから引用

表 21 DIC の多い基礎疾患

血液フロンテイアから引用

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表 22 DIC 診断基準比較

血液フロンテイアから引用

図 30 DIC 病型

血液フロンテイアから引用

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図 31 出血鑑別

病気がみえる vol.5 血液 MEDIC MEDIA から引用

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図 32 抗リン脂質抗体症候群

病気がみえる vol.5 血液 MEDIC MEDIA から引用

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図 33 血栓予防

病気がみえる vol.5 血液 MEDIC MEDIA から引用

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図 34 線溶

病気がみえる vol.5 血液 MEDIC MEDIA から引用

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図 35 線溶

病気がみえる vol.5 血液 MEDIC MEDIA から引用