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1 トンボ由来の新規 紫外線反射物質 産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門 生物共生進化機構研究グループ 主任研究員 二橋 【別紙5平成30920

06 産業技術総合研究所 二橋 亮 - JST3 従来技術とその問題点 •紫外線反射作用を有する物質として、従来は 酸化チタンや酸化亜鉛のような金属酸化物が使

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トンボ由来の新規紫外線反射物質

産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門

生物共生進化機構研究グループ 主任研究員 二橋 亮

【別紙5】

平成30年9月20日

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本日紹介する技術

• 太陽光中の紫外線は、過度に浴びると皮膚に悪影響をもたらすため、抗紫外線作用を有する薬剤が求められている。• 今回、トンボがユニークな紫外線反射ワックスを分泌していることを発見し、その合成物でも同様な効果が再現されたので、新規紫外線反射剤の候補として紹介する。

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従来技術とその問題点

• 紫外線反射作用を有する物質として、従来は酸化チタンや酸化亜鉛のような金属酸化物が使用されていたが、過度の使用によって毒性が観察された例が報告されている。• また、化粧品分野において対象に撥水性を付与することができる薬剤が求められている。

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今回着目したシオカラトンボ

可視光

紫外線反射

オス オスメス メス

未成熟 成熟

日本で最も普通に見られるトンボ。かつて漢方薬に利用されていた。オスは成熟すると体色が白っぽくなり、UVを強く反射するようになる。

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今回着目したシオカラトンボ

N = 4

N = 4

N = 4

N = 4

N = 8

N = 8

N = 10

N = 10

未成熟 成熟

波長 (nm) 波長 (nm)

UV IR UV IR

(%)

(%)

オス

メス

光の反射率

光の反射率

(nm) (nm)

(nm) (nm)

成熟オス背側で強く

UV反射

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成熟するとWaxを分泌する体の色が白くなった部分では、Waxのような構造がみられた

未成熟オス 成熟オス 成熟メス

背側

腹側

30 μm 30 μm 30 μm

30 μm 30 μm 30 μm

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1 µm10 µm

10 µm 1 µm 0.5 µm

0.5 µm

成熟オス表面

成熟メス表面

成熟オスは花びらのような構造に覆われる

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Waxの溶解性・撥水性の比較

エタノール ヘキサン クロロホルム未処理

撥水性

160 ± 1 º 156 ± 4 º 121 ± 8 º 99 ± 4 º

ほとんど溶解しない

部分的に溶解

完全に溶解

Waxは強い撥水性を示す

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U V反射Waxの成分の同定と人工合成

シオカラトンボ♂背側

Wax抽出物

Wax成分2合成品

Wax成分1

Wax成分4 Wax成分6Wax成分2Wax成分3 Wax成分5

Wax成分7

強いUV反射能

合成したWax成分でも、紫外線反射が再現できることが確認された

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合成Waxの再結晶の比較Wax成分2滴下

Wax成分2徐冷

シオカラトンボ成熟オス

10 µm 10 µm 10 µm 10 µm

UV400 500 600 700

UV UV UV400 500 600 700 400 500 600 700 400 500 600 700

100 µm100 µm100 µm100 µm

Wax成分2急冷

光の反射率

表面構造

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合成Waxの再結晶の比較Wax成分2滴下

Wax成分2徐冷

シオカラトンボ成熟オス

UV400 500 600 700

UV UV UV400 500 600 700 400 500 600 700 400 500 600 700

Wax成分2急冷

光の反射率

160 ± 1 º 157 º 126 º 98 º

撥水性

結晶化の手法によって、紫外線反射や撥水性が変化

滴下すると、トンボと類似した構造になった

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新技術の特徴・従来技術との比較

• UV反射ワックスとして、他の生物から従来知られていない組み合わせの物質を発見• ワックス主成分の人工合成物でも、強い紫外線反射と撥水性が再現• 結晶化の方法によって紫外線反射の強度を調節可能• シオカラトンボは、かつては漢方薬として使用されていたことから、その体表ワックスは毒性が無く、安全な紫外線反射剤の候補と考えられる。

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想定される用途

• 紫外線反射や撥水性を向上させる添加物としての利用

• 化粧品分野での利用

• 塗料組成物としての利用

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実用化に向けた課題

• 現在、Waxの人工合成によって、紫外線反射や撥水性が再現できるところまで開発済み。しかし、他の成分と混ぜた場合に、これらの性質が再現できるかを検討する必要がある。

• 化粧品への応用に関しては、動物実験が制限されているため、培養組織などを用いた安全評価システムを確立する必要がある。

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企業への期待

• 塗装技術(太陽電池など)や化粧品分野への応用の可能性に関して、ご相談ください。

本技術に関する知的財産権

• 未公開特許の出願あり

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お問い合わせ先

産業技術総合研究所

イノベーションコーディネーター 新間 陽一

TEL 029-862 - 6032

FAX 029-862 - 6048

e-mail [email protected]