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0203 556 中学校社会科における 思考力・判断力・表現力等の育成をめざして -言語活動を充実させるための単元・単位時間の構造化- 近年の学力調査から,本市の生徒は「基礎的・基本的な知識や技能 を活用して課題解決するために必要な思考力・判断力・表現力等」 に課題があると指摘されている。今回の学習指導要領の改訂では, この思考力・判断力・表現力等を育むための言語活動の充実が求め られており,これは中学校社会科においても例外ではない。 そこで,本研究では地理的分野を取り上げて各単元及び単位時間に ついて構造化を行い,指導・学習の内容と過程を明確にしながら, 学習指導要領に示された解釈,説明,論述という言語活動をその中 に位置付けて充実を図った。同時に課題解決学習において,資料の 読み取りや考えをまとめる支援となるアシストカードを開発し,生 徒の学習の自立をうながした。更に思考を広げ,深めるための学び 合い学習を取り入れることで,「覚える社会科」から「考える社会科」 への転換をめざした。 その結果,「課題設定→仮説立案と検証→交流と再構築→一般化と 発展」という課題解決の流れをつかみ,自らの考えをまとめようと する姿が,多くの生徒に見られるようになった。また生徒たちは, 学び合い学習において,他の生徒の意見に耳を傾け積極的にコミュ ニケーションを図る中で多様な考え方に気付き,思考を深めた。

中学校社会科における 思考力・判断力・表現力等 …...G0203 報告556 中学校社会科における 思考力・判断力・表現力等の育成をめざして

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G 0 2 0 3

報 告 5 5 6

中学校社会科における

思考力・判断力・表現力等の育成をめざして

-言語活動を充実させるための単元・単位時間の構造化-

近年の学力調査から,本市の生徒は「基礎的・基本的な知識や技能

を活用して課題解決するために必要な思考力・判断力・表現力等」

に課題があると指摘されている。今回の学習指導要領の改訂では,

この思考力・判断力・表現力等を育むための言語活動の充実が求め

られており,これは中学校社会科においても例外ではない。

そこで,本研究では地理的分野を取り上げて各単元及び単位時間に

ついて構造化を行い,指導・学習の内容と過程を明確にしながら,

学習指導要領に示された解釈,説明,論述という言語活動をその中

に位置付けて充実を図った。同時に課題解決学習において,資料の

読み取りや考えをまとめる支援となるアシストカードを開発し,生

徒の学習の自立をうながした。更に思考を広げ,深めるための学び

合い学習を取り入れることで,「覚える社会科」から「考える社会科」

への転換をめざした。

その結果,「課題設定→仮説立案と検証→交流と再構築→一般化と

発展」という課題解決の流れをつかみ,自らの考えをまとめようと

する姿が,多くの生徒に見られるようになった。また生徒たちは,

学び合い学習において,他の生徒の意見に耳を傾け積極的にコミュ

ニケーションを図る中で多様な考え方に気付き,思考を深めた。

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目 次

はじめに ···························· 1

第1章 思考力・判断力・表現力等を育む

社会科

第1節 中学校社会科教育の現状 ·········· 1

第2節 思考力・判断力・表現力等を育む

学習活動 ························ 3

第3節 中学校社会科における言語活動

(1)解釈,説明,論述の充実 ············ 5

(2)言語活動を充実させる指導の鍵 ······ 6

第2章 「みえる社会科」

第1節 単元・単位時間の構造化

(1)単元・単位時間の構造化とは ········ 7

(2)指導の流れがみえる構造図 ·········· 8

第2節 アシストカードの活用

(1)学習の流れがみえるアシストカード ·· 10

(2)課題解決の方法がみえるアシスト

カード ··························· 11

(3)思考の過程がみえるアシストカード ·· 12

第3節 学び合い学習の推進

(1)多様な考え方がみえる学び合い学習 ··· 13

(2)学び合い学習を効果的に進めるために ·· 14

第3章 地理的分野の実践授業から

第1節 「ヨーロッパ州」の実践授業

(1)構造化の視点から ················· 16

(2)学び合い学習の実際 ··············· 19

第2節 「世界のさまざまな地域の調査」の

実践授業

(1)構造化の視点から ················· 21

(2)学び合い学習の実際 ··············· 25

第4章 主体的に学習に取り組む生徒の育

成をめざして

第1節 研究の成果と課題

(1)課題解決に導く構造化 ············· 27

(2)学習の自立をうながすアシストカード ·· 28

(3)思考を広げ深める学び合い学習 ····· 29

第2節 「覚える社会科」から「考える社会

科」へ

(1)「考える社会科」への転換 ·········· 30

(2)自ら課題を解決できる生徒の育成 ··· 31

おわりに ···························· 32

<研 究 担 当> 中島 一郎 (京都市総合教育センター研究課研究員)

<研究協力校> 京都市立高野中学校

京都市立嵯峨中学校

<研究協力員> 森 茂昭 (京都市立高野中学校教諭)

山﨑 直人 (京都市立嵯峨中学校教諭)

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中学校 社会科教育 1

はじめに

「学校は,グライダー人間の訓練所である」(1)

と,外山はその著書『思考の整理学』の中で述べ

ている。ここでいうグライダー人間とは,先生と

教科書にひっぱられて受動的に学習する生徒のこ

とである。これに対して自分でものごとを発明・

発見する生徒を飛行機人間と呼び,社会ではこの

自力飛行の力こそが求められている(2)のだとい

う。この为張は,いま我々の直面する教育的課題

を如実に表している。

社会科は暗記科目であるといわれ,学習内容が

多いという理由で地名や年号や人物名を覚えると

いった知識注入型の授業を行い,結果として,本

来必要とされる社会的な見方や考え方を身に付け

ていないグライダー人間を育てることになってし

まう傾向にあった。

社会科の究極の目標は,「国際社会に生きる平和

で民为的な国家・社会の形成者として必要な公民

的資質の基礎を養う」(3)ことである。すなわち社

会的事象を多面的・多角的にとらえ,公正に判断

し,为体的に社会の形成に参画してその発展に寄

与する人を育てることといえる。そのために今必

要なことは,生徒たちに自力飛行の力をつけるこ

とであると考える。つまり,自ら課題を見つけ,

自ら考えて判断し,解決していくための思考力・

判断力・表現力等を育むことにほかならない。

また,今回の学習指導要領の改訂において,「子

どもたちの思考力・判断力・表現力等を確実には

ぐくむために,まず,各教科の指導の中で,基礎

的・基本的な知識・技能の習得とともに,(中略)

それぞれの教科の知識・技能を活用する学習活動

を充実させること」(4)が求められている。こうし

た学習活動の基盤となるのが言語能力であり,社

会科においては解釈,説明,論述などの言語活動

の充実が必要となる。

では,生徒たちの現状はどうであろう。基礎的・

基本的な知識・技能の習得の段階で課題がある生

徒,自分なりの考えや判断を導き出す手順がわか

らない生徒,考えを文章にまとめたり,それを発

表したりすることが苦手な生徒など,その状況は

多岐にわたっている。このような生徒たちが,同

じ学習環境の中で思考力・判断力・表現力等を高

めていくためには,互いに学び合うための協同的

な取組も必要となる。

本研究は,小学校との系統性も意識して進める

ために,1年生の地理的分野において行うことと

する。生徒たちの思考力・判断力・表現力等を育

むために,どのように言語活動を充実させ,協同

的な取組を工夫すればよいのかを,実践を通して

具体的に示していきたい。

(1) 外山滋比古『思考の整理学』筑摩書房 1986.4 p.11

(2) 前掲(1) pp..13~15

(3) 文部科学省『中学校学習指導要領』 2011.3 p.31

(4) 中央教育審議会『幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特

別支援学校の学習指導要領等の改善について(答申)』

2008.1 p.24

第1章 思考力・判断力・表現力等を育む社

会科

第1節 中学校社会科教育の現状

中学校では,平成24年度より,平成20年に改訂

された学習指導要領が全面実施されている。改訂

にあたって,中央教育審議会は「幼稚園,小学校,

中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要

領等の改善について(答申)」(以下,答申)で,

基本的な考え方として次の6点を示した。

そして改訂のポイントとして特に②を基盤と

した③,⑤及び⑥が重要であると述べている(6)。

平成10年の学習指導要領の改訂でも,「思考

力・判断力・表現力等の育成」については,改善

の基本的視点として次のように示されていた。

この視点が出されたのは,昭和56~58年と平成

5~7年に実施された教育課程実施状況調査から,

「学習が受け身で,覚えることは得意だが,自ら

調べ判断し,自分なりの考えを持ちそれを表現す

る力が不十分」(8)という子どもたちの現状が明ら

かになったからである。この状況を踏まえ,「知

識・技能は重要であるが,単なる知識の量のみで

はなく,学ぶ意欲,思考力,判断力,表現力まで

①「生きる力」という理念の共有

②基礎的・基本的な知識・技能の習得

③思考力・判断力・表現力等の育成

④確かな学力を確立するために必要な授業時数の確保

⑤学習意欲の向上や学習習慣の確立

⑥豊かな心や健やかな体の育成のための指導の充実

(5)

多くの知識を教え込む教育を転換し,子どもたちが

自ら学び自ら考える力の育成 (7)

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中学校 社会科教育 2

含めて学力ととらえる必要がある」(9)という学力

観に立った視点となっている。更に平成10年改訂

の学習指導要領には,「各教科等の指導に当たって

は,体験的な学習や問題解決的な学習を重視する

とともに,生徒の興味・関心を生かし,自为的,

自発的な学習が促されるよう工夫すること」(10)

という具体的な方策も示されている。にもかかわ

らず平成20年の改訂においても同様の内容がポイ

ントとして挙げられるということは,相変わらず

知識を教え込む指導が続き,十分に授業改善が行

われてこなかったということであろう。

このことは,近年の様々な調査からも見取るこ

とができる。例えば,2009年(平成21年)にOECD

(経済協力開発機構)が行ったPISA(生徒の学習

到達度調査)の結果を国立教育政策研究所が分析

し,「読解力は,必要な情報を見つけ出し取り出す

ことは得意だが,それらの関係性を理解して解釈

したり,自らの知識や経験と結びつけたりするこ

とがやや苦手である」(11)という課題を挙げてい

る。ここでいう「関係性を理解して解釈したり,

自らの知識や経験と結びつけたりすること」が,

思考力の働く場面である。また,「無答率は(中略)

自由記述形式の問題では高くなる傾向がある」

(12)ことも指摘されている。

平成19年に文部科学省が行った特定の課題に

関する調査からも,同様の結果がうかがえる。こ

れは,教育課程実施状況調査などでは把握が難し

い内容の調査を行うものである。中学校社会科に

おいては,3年生を対象として基礎・基本となる

知識・概念と問題解決的な学習に焦点を当てた調

査が実施された。国立教育政策研究所は,その結

果を分析し,問題解決的な学習において,「地理的

分野では,地形図や資料を読み取り,比較しなが

ら,分かったことをまとめる力が十分についてい

ない」(13)と指摘している。ここでは「比較しな

がら,分かったことをまとめる力」が思考力や表

現力であると理解できる。

更に本市の中学生の学力実態の傾向を把握す

るために,平成23年度に実施された学習確認プロ

グラムを分析する。学習確認プログラムは,生徒

が中学3年間の学習内容を計画的に総復習し,その

達成状況を定期的に確認することを通して,学習

の改善及び学力の向上を図ることを目的として,

京都市立中学校校長会が運営を担当し行ってい

る。1年生で年1回(Basic Stage,以下Basic),

2年生で年3回(Pre-Stage1~3,以下Pre1~3),

3年生で年3回(1st Stage,2nd Stage,3rd Stage,

以下1st,2nd,3rd)行い,得点は各教科100点,5

教科で合計500点となる。

表1-1は,平成23年度に実施された社会科7回分

の問題を,社会的な思考・判断(以下,思考・判

断),資料活用の技能・表現(以下,技能・表現),

社会的事象についての知識・理解(以下,知識・

理解)に分類して,正答率をまとめたものである。

表1-1 学習確認プログラム観点別正答率(%)

知識・理解の平均正答率と比べると,思考・判

断は5.8ポイント,技能・表現は4.8ポイント低い

ことがわかる。思考・判断と技能・表現の問題を

いくつか取り上げて,更に細かく分析した結果が,

次のとおりである。

まず,地理的分野における思考・判断の例とし

て,時差を求める問題を取り上げる。時差の問題

は,7回の学習確認プログラム中の5回で出題され

ており,思考・判断の問題の典型的なものの一つ

と考えるからである。図1-1は,1年生で1回,2

年生で3回,3年生で1回出題された時差の問題に

ついて,それぞれの正答率をその回の平均正答率

と比較したものである。

図1-1 時差に関する問題の正答率(%)

全ての回で平均正答率を下回っているが,2年

生のPre2では正答率が11.1%,Pre3では正答率が

14.9%となり,他の回と比べても特に低いことが

わかる。この2回については,「時差から標準時子

午線を求める問題」や「時差から飛行機の到着時

刻を求める問題」という応用的な問題内容となっ

46.1

31.6

11.114.9

31.7

55.0 45.9

53.7 59.2

48.9

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.0

70.0

Basic Pre1 Pre2 Pre3 1st

時差に関する正答率 その回の平均正答率

思考・判断 技能・表現 知識・理解

Basic 53.0 48.8 62.2

Pre1 40.6 45.7 50.1

Pre2 53.3 51.3 56.4

Pre3 52.9 62.5 58.7

1st 49.6 45.2 51.3

2nd 51.6 55.5 61.7

3rd 57.0 55.8 58.1

平均 51.1 52.1 56.9

思考・判断 技能・表現 知識・理解

Basic 53.0 48.8 62.2

Pre1 40.6 45.7 50.1

Pre2 53.3 51.3 56.4

Pre3 52.9 62.5 58.7

1st 49.6 45.2 51.3

2nd 51.6 55.5 61.7

3rd 57.0 55.8 58.1

平均 51.1 52.1 56.9

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中学校 社会科教育 3

ており,時差に関する理解が十分でないことがう

かがえる。

技能・表現に関わっては,Pre2で出題された北

京の気候の特色を雨温図から読み取る問題が,一

つの例として挙げられる。この問題の正答率は

24.9%であった。この回の平均正答率が53.7%で

あったことから考えると,これもかなり低い正答

率といえる。

思考・判断と技能・表現の問題として,毎回出

題されるものに,論述の問題がある。これは,資

料から読み取ることができる情報や自分の考え

を,15~30文字という短い文章でまとめるもので

ある。図1-2は,7回分の平均点と平均無解答率を,

論述問題のそれと比較したものである。

図1-2 全体と論述問題の平均の比較(%)

図1-2を見ると,論述問題の平均正答率は

38.0%で全体より15.8ポイント下回っている。ま

た,特に注目すべきは無解答率の平均が27.9%と

いう点である。7回を通しての無解答率の平均であ

る6.9%よりも21.0ポイントも上回っており,約4

倍となっている。

これまでの学習確認プログラムの分析を通し

て,二つのグラフからわかることは,次のとおり

である。

○知識・理解を問う問題に比べると,思考・判

断や技能・表現を問う問題の正答率が低く,

課題がある。

○思考・判断や技能・表現を問う問題の中でも,

特に資料から読み取った情報や自分の考えを

15~30文字という短い文章でまとめる論述の

問題での無解答率が高く,課題がある。

論述問題の課題については,正解がわからな

い,苦手意識が強くあきらめてしまうなどの様々

な理由が考えられるが,自由記述で書くことがで

きないという点は,前述のPISAの結果からも指摘

された部分である。

以上のことから,本市の中学生についても今後

育てたい力が「基礎的・基本的な知識・技能を基

盤とした,思考力・判断力・表現力等」であり,

この部分について今回の学習指導要領に示された

ものと一致していることが明らかになった。

第2節 思考力・判断力・表現力等を育む学習活動

中学校社会科においては,各種データから思考

力・判断力・表現力等に課題があることがわかっ

た。このことは,今後もこれまでのような知識注

入型の学習活動を続けていくだけでは,これらの

力を十分に高めていくことができないということ

を示している。更に,思考力・判断力・表現力等

がどのような能力であるかということが,明確に

示されないままに,学習活動が進められている現

状さえ見受けられる。思考力・判断力・表現力等

を育むためには,まず社会科におけるこれらの能

力をどのようにとらえるかということを,明らか

にしなければならないと考える。

文部科学省は,「小学校,中学校,高等学校及

び特別支援学校等における児童生徒の学習評価及

び指導要録の改善等について(通知)」で,思考力・

判断力・表現力を,次のような観点で見取るよう

に示している。

ここからは,「社会的事象から課題を見いだし,

社会的事象の意義や特色,相互の関連を多面的・

多角的に考察」の部分が思考力であり,「社会の変

化を踏まえ公正に判断」が判断力,「その過程や結

果を適切に表現」が表現力であると読み取ること

ができる。

山森は暫定的な定義としながら,「思考力・判

断力・表現力」について,文部科学省の示した評

価の観点を踏まえて,次のように述べている。

この中で山森は,下線部の「考え方を広げたり

増やしたりする思考」の部分を思考力,「考え方を

社会的事象から課題を見いだし,社会的事象の意義

や特色,相互の関連を多面的・多角的に考察し,社会

の変化を踏まえ公正に判断して,その過程や結果を適

切に表現している。 (14)

「思考・判断・表現」の観点とは,問題に直面する

も解決のための明確な道筋が示されていない状況にお

いて,直面した問題状況を解決された状況に転化させ

る過程において,考え方を広げたり増やしたりする思

考と,考え方を一つに絞り込んでいく思考とをしなや

かに働かせる問題解決的思考ができるかを,問題解決

の過程や結果を表現させることで評価する観点であ

る。(下線は筆者によるもの) (15)

53.8

6.9

38.0

27.9

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.0

正答率 無解答率

7回の平均

論述の平均

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中学校 社会科教育 4

一つに絞り込んでいく思考」を判断力,「問題解決

の過程や結果を表現」を表現力としている。

以上のことから,これらの記述を踏まえ,筆者

は「社会科における思考力・判断力・表現力等」

について,次のように定義することとする。

なお,「思考力・判断力・表現力等」の「等」

に当たる力は,課題解決に必要な思考力・判断力・

表現力以外の能力をさすものと考える。例えば,

他者と協力して課題を解決するためのコミュニ

ケーション能力や,見通しをもって課題を解決す

るための将来設計能力などである。

では,思考力・判断力・表現力等を育む学習活

動とは,どのようなものか。筆者は,先ほどの定

義で,これらの力を課題解決のために働く力とし

てとらえた。このことから,思考力・判断力・表

現力等は,課題解決型の学習活動を通じて育まれ

るものと考える。

課題解決型の学習活動は,実際の授業では,「課

題設定→仮説立案→検証」の流れで行われること

が多い。そこで,この過程に,思考力・判断力・

表現力等を育むための場面を設定していくことが

重要となる。ここでは,「日本の農業が抱える問題

として食糧自給率を扱う授業」を例として取り上

げ,具体的に考えていく。

まず,思考力を育むためには,社会における出

来事について,その特徴や他の出来事との関係な

ど,様々な視点から考えていく場面が必要である。

例えば,「食料自給率は,なぜ低いのか」「どうす

れば解決できるのか」ということを考える場面で,

耕地面積,価格,輸入農産物との関係,高齢化な

どの多様な視点で仮説を立てて追究していくこと

がこれに該当する。

次に,判断力を育むためには,多様な視点で考

えついた様々な案を,社会の状況を踏まえて自分

なりの考えにまとめる場面が必要である。例えば,

輸入農産物との関係が食料自給率低下の最も大き

な原因だとすれば,様々な解決策の中から品質や

安全性の向上という方法を導き出すような場面が

これに当たる。

最後に,表現力を育むためには,自分なりの考

えをまとめるまでにどのような道筋を通り,何を

根拠にして結論を導き出したのかを,他者に伝え

る場面が必要である。例えば,中国からの輸入農

産物の価格を例に挙げ,品質や安全性の向上が解

決策になると導き出した過程と結果を書きまと

め,グループや学級全体の前で発表するような場

面がこれに当たる。この場面では,自分の意見を

より正確に伝えるために,図や写真などを使って

説明するような工夫も大切である。

以上の例からもわかるように,課題解決型の学

習活動の過程においては,これらの場面を「仮説

立案→検証」の部分で設定することが適切である。

更に述べれば,「仮説立案→検証」の流れは一方通

行ではない。生徒は仮説を検証して正しくないと

判断すれば,再び違う仮説を立てて検証する。こ

れが繰り返されることで,より多様な側面や角度

から課題に迫れるようになり,思考が広がり,深

まっていくのである。

思考力・判断力・表現力等を育む課題解決型の

学習の流れを考える上で,岩田の説が参考になる。

岩田は思考力を育む学習活動について,帰納的探

究過程と演繹的探究過程を計画的に配置すること

の重要性を述べている(16)。図1-3は,筆者がこの

二つの過程を,一つの学習活動の流れとしてまと

めたものである。

図1-3 課題解決型の学習活動の流れ

基本的には,a・b両方の過程を,1単位時間

で扱うものと考えている。従来の課題解決型の学

習は,図中のaの過程だけで終わってしまうこと

○思考力:社会的事象から見出した課題を解決するた

めに,社会的事象の意義や特色,相互の関

連を多様な視点から考える力

○判断力:課題解決のために,多様な考えを,そのと

きの社会の状況に応じた公正な規準で判断

し,自分なりの考えとしてまとめていく力

○表現力:課題解決の過程や結果を,言語などで他者

に正確に伝わるように表現する力

課題設定

仮説立案

検証

〈 一つの社会的事象に当てはまる知識〉

他の多くの社会的事象で確認

〈概念化された知識〉

帰納的探究過程

演繹的探究過程

検証結果から仮説立案

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中学校 社会科教育 5

が多かった。これでは,検証の結果として形成さ

れた知識は,「一つの社会的事象に当てはまる知

識」にしかならない。ここまでに習得した知識は,

ほかの多くの社会的事象にも当てはまることを確

認するbの過程を経ることによって,転移性のあ

るものになる。例えば,「日本の食料自給率の低下

の为な原因は,外国から安い農産物が輸入される

ことにあり,日本が農産物の質や安全性を高める

ことで解決できる」という知識が,aの過程で獲

得できたとする。これがbの過程において他の地

域でも確認できれば,「他国から安い農産物が輸入

される国では,食料自給率が低下する可能性があ

るが,農産物の質や安全性が高ければ防ぐことが

できる」という転移性のある知識になる。この過

程は知識の概念化と呼ばれるもので,これによっ

て知識は様々な状況に応じて活用できるものとな

り,本当の意味で理解が深まったことになる。

以上のことから,思考力・判断力・表現力等を

育む学習活動においては,次の二点が重要である

と考える。

○「仮説立案→検証」の過程に社会的事象の意

義や特色,相互の関連を,多様な視点から考

えて自分なりの考えに絞り込み,表現する場

面を設けること

○知識を概念化する過程を課題解決型の学習

活動に組み入れ,「課題設定→仮説立案→検

証→概念化」の流れとすること

これらを踏まえ,「知識注入型の授業」から「自

ら考え,为体的に学ぶ授業」へと転換することが,

いま,求められている。

第3節 中学校社会科における言語活動

(1)解釈,説明,論述の充実

課題解決型の学習活動では,自分の考えを文章

にまとめたり,他者に伝えたりすることが必要で

ある。これらの活動は言語活動であり,学習指導

要領解説社会編には,「思考力・判断力・表現力等

を確実にはぐくむため言語活動の充実」(17)を図

ることの必要性が示されている。このことから,

思考力・判断力・表現力等を育むためには,課題

解決型の学習活動においてどのような言語活動を

どのように取り入れるかが重要であると考える。

では,中学校社会科における言語活動とは,ど

のようなものだろうか。前述の答申(1ページ)の

改善の基本方針には,社会科における言語活動と

して「地図や統計など各種の資料から必要な情報

を集めて読み取ること(読み取り)」「社会的事象

の意味,意義を解釈すること(解釈)」「事象の特

色や事象間の関連を説明すること(説明)」「自分

の考えを論述すること(論述)」の四つが示されて

いる(18)。「気候の特色から,その地域の農業の特

色を考える学習活動」を例に,この四つの言語活

動を整理すると,次のようになる。

「読み取り」とは,課題解決という目的をもっ

て,資料から必要な情報を的確に引き出すことで

ある。そのためには単純に資料から情報を引き出

すだけでは不十分で,「どう読み取るか」というこ

とが重要となる。例えば,雨温図から情報を引き

出す場合,単純に数字を挙げるのではなく,「気候

の特色をとらえる」という目的をもって,気温や

降水量の変化の特徴を読み取る必要がある。

「解釈」とは,課題解決の視点から,読み取っ

た情報の意義や特色,相互の関連について,根拠

を明らかにしながら自分の考えをまとめることで

ある。例えば,雨温図から読み取った気温や降水

量の変化の特徴から,その地域が何気候であり,

どのような農業が行われているのかを考えていく

過程が,これに当たる。この「解釈」のために必

要な情報を意図的に探し出す活動が「読み取り」

であることから,筆者は,読み取りは解釈の過程

の一部であり,解釈という言語活動に含まれると

考える。

「説明」とは,解釈した内容を他者に論理的に

伝えることである。例えば,気候の特色や,その

地域で行われる農業について伝える場合,雨温図

から読み取った情報を根拠として示し,図やグラ

フや写真を用いながら音声や文章で伝えることな

どが考えられる。

「論述」とは,解釈した内容を自分の考えとと

もに文章に書くことである。例えば,「この地域で

行われている農業は,米作が中心であると考える。

理由は,この地域が1年間を通じて温暖で,降水量

が多いからである。」というように,根拠を示しな

がら自分の考えを文章にまとめることが,これに

当たる。

以上のように,「説明」と「論述」は,解釈し

た内容を表現する活動である。このことから,こ

れら二つの活動は,解釈の結果としての活動であ

るととらえることができる。つまり,社会科にお

ける言語活動は,「解釈」を基盤とした活動である

といえる。

「解釈」は,「自分の考えをまとめる」という

点から,生徒が社会的思考力と判断力を働かせる

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中学校 社会科教育 6

活動であるととらえることができる。思考力・判

断力を育むためには,この「解釈」という言語活

動に注目し,学習活動を工夫する必要がある。だ

が,解釈という言語活動について,直接工夫を加

えることはできない。なぜなら解釈した内容は,

そのままでは自分にも他者にも確認することがで

きないからである。解釈した内容は,言葉や文章

になって初めて確認され,整理される。解釈した

内容を他者に的確に説明することで,思考の整理

が更に進んでいく。「解釈」と「説明」「論述」は,

このように連動している。以上のことから,「解釈」

という言語活動には,「説明」「論述」という活動

を通じて工夫を加えることが適切であると考え

る。思考力・判断力・表現力等を育む学習活動は,

「自分の考えをどのように説明し,どのように論

述するか」という視点で進めることが重要となる。

(2)言語活動を充実させる指導の鍵

社会科において,生徒一人一人が,思考力・判

断力・表現力等を高めるための「解釈」「説明」「論

述」という言語活動を充実させるためには,どの

ような場面で,どのような工夫をすればよいのだ

ろうか。ここでは前項に挙げたように,「説明」と

「論述」を工夫することで「解釈」を充実させる

という視点で,そのポイントを三つの鍵として示

していく。

①第一の鍵:言語活動の位置付け

第一の鍵は,「解釈」「説明」「論述」という言語

活動を,課題解決型の1単位時間の学習活動の中で

計画的に配置していくことである。言語活動を充

実させるためには,それぞれの言語活動の役割と

内容を考えた配置が必要である。

言語活動の順序としては,「解釈」の後に「論

述」や「説明」を配置すれば,自分の思考の過程

や結果を自分自身で把握することができ,思考

力・判断力・表現力等を育む上で効果的であると

考える。実際の授業では,指導者が言語活動の位

置付けを理解しておくことで,意図的に生徒に取

り組ませることができる。同時に,生徒は課題解

決の道筋を確認し,計画的に取り組むことができ

ると考える。

②第二の鍵:つまずきの予想

第二の鍵は,生徒が資料を読み取り,仮説を立

てて検証し,説明や論述をしていく過程でのつま

ずきの予想をしておくことである。生徒のつまず

きとしては,次のようなものが考えられる。

まず,課題解決型の学習活動のねらいや流れが

把握できていないというつまずきである。次に,

資料の読み取りに関わるつまずきである。例えば,

地図や写真・グラフなどの資料をどのように読み

取ればよいかわからなかったり,また読み取った

情報をどのように解釈すればよいかわからなかっ

たり,あるいは解釈したことをどのように文章に

まとめればよいかわからなかったりというつまず

きである。指導者は,生徒のつまずきを予想し,

その際に必要とする支援をあらかじめ考えて,具

体的・視覚的に示す必要がある。このことにより,

言語活動が为体的に行われていくと考える。

③第三の鍵:グループでの学習活動の設定

第三の鍵は,グループでの学習活動の設定であ

る。本研究でいうグループでの学習活動とは,グ

ループで話し合い,意見交流することをさす。

中学校学習指導要領解説国語編では,中学校第

1学年の「話すこと・聞くこと」の指導事項とし

て「話合いの話題や方向をとらえて的確に話した

り,相手の発言を注意して聞いたりして,自分の

考えをまとめること」(19)と示されている。これ

は,社会科におけるグループでの話合いについて

考える際にも,踏まえておかなければならない指

導事項である。この内容からは,他者の意見を理

解して話合いの内容を一つにつないでいくこと

と,他者の意見を自分の考えに生かしていくこと

が重要であることがわかる。他者の意見を理解し

内容をつなぐためには思考力・判断力・表現力を

働かせる必要がある。また他者の意見を注意深く

聞くことは,コミュニケーション能力を育む上で

も大切なことである。

以上のことからグループでの学習活動を効果

的に進めるためには,「他人の意見を,どのように

聞き取ればよいか」「自分の意見を正確に伝え,納

得してもらうためには,どのように説明すればよ

いか」「意見を一つに絞り込む際に重要なことは何

か」などを,あらかじめ生徒が理解しておく必要

があると考える。

第1章では,中学校社会科教育の現状を踏まえ

た授業改善の視点について述べてきた。ここで忘

れてはならないのは,言語活動を充実させるため

の取組が,思考力・判断力・表現力等を育てると

いう目的を達成するための手段だということであ

る。常にこの目的を意識して取組を進めていくこ

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中学校 社会科教育 7

とが重要であると考える。

第2章では,言語活動を充実させるポイントと

して示した三つの指導の鍵を具体化するための方

策について述べる。

(5) 前掲(4) p.22

(6) 前掲(4) p.22

(7) 文部科学省「新しい学習指導要領の为なポイント(平成14年

度から実施)」

http://www.mext.go.jp/a_menu/syotou/cs/1320944.htm

2013.2.20

(8) 文部科学省「新しい学習指導要領のねらいの実現に向けて」

http://www.mext.go.jp/a_menu/syotou/cs/1321018.htm

2013.2.20

(9) 前掲(8)

(10)文部省『中学校学習指導要領』大蔵省印刷局 2002.12 p.4

(11)文部科学省『文部科学時報』ぎょうせい 2011.2.10 p.37

(12)国立教育政策研究所「OECD生徒の学習到達度調査~2009年調

査国際結果の要約~」

http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/deta

il/__icsFiles/afieldfile/2010/12/07/1284443_01.pdf#se

arch=`OECD生徒の学習到達度調査 2013.2.20

(13)国立教育政策研究所「特定の課題に関する調査(社会)結果

のポイント」http://www.nier.go.jp/tokutei_syakai/06002

020000007001.pdf 2013.2.20

(14)文部科学省「小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校等

における児童生徒の学習評価及び指導要録の改善等につい

て(通知)」 2010.5 別紙5 p.3

(15)山森光陽「思考力・判断力・表現力とは何か-「評価の観点

の趣旨」と思考研究の知見とを絡めながら-」『指導と評価

vol.58』 日本図書文化協会 2012.4 p.35

(16)岩田一彦『社会科固有の授業理論・30の提言―総合的学習と

の関係を明確にする視点―』 明治図書 2001.10 pp..54~57

(17)文部科学省『中学校学習指導要領解説 社会編』 日本文教

出版 2008.9.25 p.3

(18)前掲(4) p.79

(19)文部科学省『中学校学習指導要領解説 国語編』 東洋館出

版社 2008.9.25 p.28

第2章 「みえる社会科」

第1節 単元・単位時間の構造化

(1)単元・単位時間の構造化とは

単元とは「学習させるべき内容のひとまとまり」

のことである。しかし,中学校学習指導要領では

単元という用語は使用されていない。また中学校

学習指導要領解説社会編では,この単元に当たる

ものを項目と呼び,最も大きなまとまりを大項目,

大項目をいくつかのまとまりに分けて中項目,更

に中項目をいくつかのまとまりに分けたものを小

項目と呼んでいる。本研究では,この大項目に当

たるものを大単元,中項目に当たるものを中単元,

小項目に当たるものを小単元と呼ぶこととする。

図2-1は,大単元がどのような構成になっているか

のみを表したものである。

図2-1 大単元の構成

本研究ではこの中の単元と単位時間のもつ役

割や相互の関係を明らかにして,それぞれを位置

付けていく。これが「単元の構造化」である。構

造化を行うことには,次のような利点がある。

第一に,全体を構成する各部分の役割と関係が

理解でき,全体像を把握しやすくなるということ

である。単元の全体像が把握できれば,そこでは

どのような学習活動が必要とされているのかが理

解できる。そうすれば指導計画を作成するに当

たって,学習内容を精選することも可能になる。

第二に,どのような課題をどのような手順で解

決すれば目標を達成できるのかが理解できるとい

うことである。学習活動において出発点と到達点,

その間の過程がみえていれば,見通しをもって指

導を進めることができる。

国立教育政策研究所は,「単元の構造図」を「評

価方法等の工夫改善のための参考資料」の中で,

次ページの図2-2(20)のように示している。この構

造図では,小単元で習得すべき知識を「考えて身

に付ける知識(概念的知識)」「調べて身に付ける

知識」「用語など(覚える知識)」の三つのカテゴ

リーに分類して,その相互の関係を整理している。

この構造図は,小学校教育課程社会科の一単元

を構造化したものである。ここでは「願いを実現

する政治」という6年生の単元を9時間で扱ってい

る。この構造図には各単元において習得すべき知

識が階層的に示されており,学習内容を全体的に

把握しながら知識習得の過程もとらえることがで

きる。指導者は構造図に示された知識を基に学習

大単元 中単元 1

中単元 2

小単元(1)

小単元(2)

単位時間①

単位時間②

単位時間②

単位時間①

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中学校 社会科教育 8

課題を設定し,それ

を反映させた指導計

画を作成することが

できる。実際の指導

計画は,第1・2時で

学習課題を設定し,

第3・4時で調べ,第

5・6時で考えまとめ

る構成となってい

る。また,第7・8時

でも違う学習課題に

ついて調べ,第9時で

考えまとめている。

澤井はこのような

構造図を作成するこ

とについて,「知識の習得と活用,児童の为体的な

問題解決の道筋などを構想する教師の授業準備と

して大切である」(21)と述べている。また北は,

知識を構造化する意義について「単元(小単元)

ごとに取り上げられる知識を抽出し,階層的に整

理することによって,教師は子どもたちに何を指

導するのかを明確にすることができる」(22)と述

べている。ここからも,単元を構造化することが,

単元の全体像を把握し,課題解決の過程を明確に

して指導を行う上で重要であることがわかる。

中学校の社会科においては,同じような単元の

構成は困難であると考える。それは単位時間当た

りで扱う指導内容が小学校に比べて多いからであ

る。それに伴って身に付ける知識も多くなり,知

識で構造化を図っていては内容が煩雑になり全体

の構造をとらえにくくなる可能性がある。そこで

筆者は,知識ではなく各単位時間のねらいで単元

を構造化してはどうかと考えた。各単位時間のね

らいは一つであり,知識で構造化するよりも単元

の構造をわかりやすく表すことができると考えた

からである。またねらいで構造化を図ることで,

各小単元や各単位時間のねらいを達成すれば,各

中単元のねらいが達成され,各中単元のねらいを

達成すれば大単元のねらいが達成されるという構

造を,明確に読み取ることができるようになると

考えるからである。

単位時間については,本研究では課題解決型の

学習過程に沿って構造化を行う。ねらいで構造化

するよりも,1単位時間の流れを把握する上で適切

だと考えるからである。そしてこの学習活動の流

れの中に,「解釈」「説明」「論述」という言語活動

と,習得すべき知識を同時に位置付ける。そうす

ることで,言語活動を充実させる第一の鍵の具体

化を図ることができる。また実際の授業のイメー

ジがもちやすくなり,構造図に表された言語活動

や知識を授業に取り入れやすくなると考える。

(2)指導の流れがみえる構造図

①単元の構造図

大単元を例にして,単元の構造化について述べ

る。次の図2-3は,筆者が考える「大単元構造図」

の基本形である。

図2-3 大単元構造図(基本形)

大単元を構造化する際に示さなければならな

い内容は,以下の三つと考える。一つめは,大単

元の課題と,その課題を解決した生徒の具体的な

姿である。これは,この大単元が単元を貫く課題

(単元を貫く課題)

単元の課題

(課題を解決した具体的な姿)

単元の到達目標

知識・技能の習得

(中単元のねらい)

①(中単元名)

(中単元のねらい)

②(中単元名)

知識・技能の活用

(中単元のねらい)

③(中単元名)

【(大単元名)構造図】

小単元「願いを実現する政治」の知識を整理した図 ○番号は指導計画の第○時を表す

政治の働きは,私たちの身近なところでかかわっている。高齢化社会の問題にも深いかかわりがある。 ①

市役所では高齢者の願いを実現するために高齢者福祉の取組を年月をかけて計画,実現している。 ②

市の高齢者福祉の取組には医療や介護などがあり,そこにかかる予算は市議会で話し合って決めている。 ③④

高齢者福祉は,社会保障制度の一つであり,それは地方公共団体や国の政治の働きによるものである。 ⑤

国会は国権の最高機関であり,内閣は国会で決まった予算や法律に基づき国の政治を行う。裁判所は法律に基づいて裁判を行っている。これらの三権は相互に関連し合っている。 ⑦

選挙は私たちの代表者として国会や議会の議員を選ぶ私たちの大切な権利である。 ⑧

・税金 ・高齢化社会

・市役所 ・高齢者福祉

・医療,介護 ・議会政治 ・議員 ・予算

・社会保障制 度 ・地方公共団 体 ・国の補助金 ・法律

・国会,内閣,裁判所 ・二院制(衆議院と参議院)

・日本国憲法 ・三権分立 ・裁判員制度

・選挙 ・投票 ・投票率 ・参政権

考えて身に

付ける知識

調べて身に

付ける知識

用語など

国民生活には地方公共団体や国の政治の働きが反映しており,政治は国民生活の安定と向上を図る大切な働きをしている。 ⑥

国会,内閣,裁判所の3つの機関がそれぞれ大切な役割をもち,相互に関連し合って国の政治を進めている。 ⑨

図2-2 知識の構造図

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中学校 社会科教育 9

を解決することを軸として展開されるという構造

を明らかにするためである。二つめは,中単元の

指導の順序である。これは,どの順序で指導を行

うことが大単元の課題を解決するための手順とし

て最も適切であるかということを,明らかにする

ためである。三つめは,各中単元のねらいと相互

の関係である。筆者はこの関係を,基礎的・基本

的な知識と資料活用の技能の習得(以下「知識・

技能の習得」)を重視する単元と,その単元で習得

した基礎的・基本的な知識と資料活用の技能の活

用(以下「知識・技能の活用」)を重視する単元で

あるととらえた。これは学習活動が,知識・技能

を習得し,それらを活用するという流れで進めら

れるため,大単元の構造も同様であると考えたか

らである。

中単元については大単元と同様の構造である

と考え,大単元の構造化に準ずるものとして扱う。

構造図については,大単元を中単元に,中単元を

小単元あるいは単位時間に置き換えて作成するも

のとする。

②単位時間の構造図

前項で示したように,単位時間の構造化は課題

解決型の学習活動の過程を明確にした上で,言語

活動を位置付け,習得すべき知識を示す。

筆者は前章で,課題解決型の学習の過程を「課

題設定」「仮説立案」「検証」「知識の概念化」であ

ると述べた。この流れの中に後述するグループで

の学び合い学習を取り入れ,個人での学習と集団

での学習という視点から,学習活動を「課題設定」

「仮説立案と検証」「交流と再構築」「一般化と発

展」という四つのプロセスに分けて構造化を図っ

た。それを構造図としてまとめたものが,右の図

2-4である。

プロセス1では,「解釈」という言語活動におい

て生徒は資料を読み取り,そこから得た情報や考

えたことをキーワードとして記述し,学級全体で

出し合って,課題を設定する。

プロセス2では,生徒は「解釈」という言語活

動において,課題に対して自らの経験と知識に基

づいて仮説を立て,検証するために適切な資料を

選んで情報を読み取り,その情報に基づいて自分

の考えを「論述」する。

プロセス3では,グループでそれぞれの考えを

「説明」し合って検討し,他者の意見を「解釈」

して自分の意見を見直し「論述」する。筆者はこ

れを「知識の再構築」と呼ぶ。その後グループの

図2-4 単位時間構造図(基本形)

意見を全体の場で「説明」し,再び知識の再構築

を行う。

プロセス4では,生徒は「解釈」という言語活

動において各グループから出された意見を整理

し,その他の社会的事象に当てはめて「説明」し

確認することで,知識の概念化を図る。ここでは

この知識の概念化を「一般化」と呼ぶこととする。

また,生徒は一連の学習活動の中で気付いた事象

について「解釈」し発見した様々な課題について,

「論述」して以後の学習へとつなげていく。

各プロセスでは,習得すべき知識として重要用

語をキーワードで示す。このキーワードは,課題

解決のために「解釈」「説明」「論述」という言語

活動において用いることで,8ページ図2-2にある

「調べて身に付ける知識」となっていく。活用の

方法や留意点などは,ワンポイントアドバイスの

欄を設けて示すこととする。キーワードが示され

ていることで,指導者は指導内容の精選もできる

と考える。

更に,単位時間構造図の一番下には,その時間

の評価規準として「生徒がめざす姿」を示す。こ

本時の目標:(単元構造図に示した単位時間の目標)

プロセス2:仮説立案と検証

〈学習活動〉 〈言語活動〉 〈キーワード,参考資料,アドバイス〉

(仮説立案)

(検証)

解釈

論述

☞キーワード:(重要用語)

☞資料:(参考資料)

☝ワンポイントアドバイス ◇(授業のヒント)

プロセス3:交流と再構築

〈学習活動〉 〈言語活動〉 〈キーワード,参考資料,アドバイス〉

(交流)

(再構築)

説明

解釈

論述

☞キーワード:(重要用語)

☞資料:(参考資料)

☝ワンポイントアドバイス ◇(授業のヒント)

プロセス4:一般化と発展

〈学習活動〉 〈言語活動〉 〈キーワード,参考資料,アドバイス〉

(一般化)

(発展課題) 発問

解釈

論述

説明

☞キーワード:(重要用語)

☞資料:(参考資料)

☝ワンポイントアドバイス ◇(授業のヒント)

プロセス1:課題設定

〈学習活動〉 〈言語活動〉 〈キーワード,参考資料,アドバイス〉

(情報収集)

(中心課題) 発問

解釈 ☞キーワード:(重要用語)

☞資料:(参考資料)

☝ワンポイントアドバイス ◇(授業のヒント)

評価規準

〈関心・意欲・態度〉 〈思考・判断・表現〉 〈資料活用の技能〉 〈知識・理解〉

解釈

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中学校 社会科教育 10

れによって,指導者は生徒に付けたい力を把握し,

その視点から学習活動を工夫し,生徒の変容を見

取ることができるからである。

以上のように,単元や単位時間の構造を図とし

て示すことで,指導者は指導の流れや言語活動の

位置付け,生徒が習得しなければならない知識な

どを明確に把握した上で,計画的に指導を進める

ことができると考える。

第2節 アシストカードの活用

(1)学習の流れがみえるアシストカード

前章で示した言語活動を充実させる第二の鍵

「つまずきの予想」に対応する方策として,学習

を支援するためのツール「アシストカード」を提

示する。

課題解決型の学習活動を進めるに当たって生

徒が把握しておくべきことは,「学習のねらい」「学

習の進め方」「めざす姿」である。これらを把握せ

ずに取り組めば,学習が受動的なものとなり,自

ら課題を解決する力には結び付かない。これが学

習活動を進める上でのつまずきである。

そこで,前ページ図2-4で示した単位時間の構

造図を基に,生徒用の構造図である図2-5「学習の

流れがみえるアシストカード」を作成した。この

アシストカードでは,「学習のねらい」「学習の進

め方」「めざす姿」を,生徒の視点に立って理解し

やすい言葉で説明している。

このカードは単元を通して活用するため,「学

習のねらい」については,単位時間の目標ではな

く,課題解決型の学習を通して生徒に付けたい力

を示す。そのため「自分の力で課題解決をめざす」

ことに重点を置く。生徒にとっては,何のために

課題解決型の学習に取り組むのかを理解するため

に重要な部分である。

「学習の進め方」では,「課題設定」「仮説立案

と検証」「交流と知識の再構築」「一般化と発展」

という学習の過程と,それぞれのプロセスで行う

学習活動の内容及び留意事項が理解できるように

明確に示す。ここでは各プロセスに位置付けられ

た言語活動を意識させることが重要である。生徒

が小学校の学習活動で出会うことのない「仮説」

「検証」などの用語については,「予想する」「確

かめる」などの平易な言葉で説明する。

「めざす姿」については,評価の四観点から見

た生徒の具体的な姿を示す。生徒にとっては学習

図2-5 学習の流れがみえるアシストカード

活動を通して自分がめざす具体的な目標であり,

学習を始めるに当たって理解しておくことで意欲

が高まり,为体的な学びに結び付いていくと考え

られる。

「社会的な関心・意欲・態度」については,複

数の情報を読み取ることで意欲や関心をもって取

り組んでいると判断する。「社会的な思考・判断・

表現」については,自分の考えを表現する際に正

しく根拠を示せることで論理的な思考が働き判断

していると考える。「資料活用の技能」については,

課題解決のために適切な情報を選択する力を重要

であるととらえる。「社会的な知識・理解」につい

ては,知識を自分の言葉として正しく活用できる

ことが理解している状態であるとする。これら四

つの姿は,地理的分野における課題解決型の学習

活動を通してめざすものである。各単位時間にお

いては重点となる項目を生徒に示す必要がある。

生徒はこのアシストカードに示された学習活

動全体の構造を常に意識することで,「今行ってい

る学習活動のねらいは何か」「次に行う学習活動は

何か」「自分が付けるべき力はどのようなものか」

ということを理解して,学習を進めることができ

ると考える。

社会で起こった出来事について,自分で考えて適切に判断できる力を身に付ける。

基本的な学習の進め方を知ろう(課題解決学習)

学習のねらい

学習の進め方

めざす姿

◎2つ以上の情報

を資料から読み取り,ノートに書いている。

◎自分の意見を,

根拠を示しながら具体的に説明している。

◎地図やグラフな

ど適切な資料を選び,必要な情報を読み取っている。

◎必要な知識を身

に付け,説明や論述などのときに正しく使っている。

<関心・意欲・態度> <思考・判断・表現> <資料活用の技能> <知識・理解>

◎課題(解決していかなければならない問題)は何かを把握する。 ☞課題は先生が示す場合もあれば,自分で見つけなければならない場合もありま

す。

<課題をつかもう(課題の設定)>

◎手に入れた知識を,他の場面に当てはめる(これを「一般化」とよぶ)。

◎いろいろな情報から,次の課題を予想する。

☞「気付きメモ」に書いた情報が,ヒントになります。

<発展させよう(一般化,発展)>

◎課題の答えを予想して(これを「仮説を立てる」という),それが正しいかどう

か,いろいろな資料を使って確かめる(これを「検証する」という)。 ☞仮説が正しくないと思われる場合は,資料を見ながら修正していきます。

<答えを予想して確かめよう(仮説,検証)>

◎他の人の意見を聞いて,いろいろなものの見方や考え方(これを「多面的・多角

的な見方や考え方」という)があることを知る。 ◎他の人の意見を参考にして,自分の考えを見直し,ものの見方や考え方を広げた

り深めたりする。 ☞資料や他の人の意見から気付いたいろいろな事柄については,メモしておきま

しょう。自分の意見が変わったら,理由を付けて書いておきましょう。

<交流して深めよう(考えの再構築)>

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中学校 社会科教育 11

(2)課題解決の方法がみえるアシストカード

社会科における課題解決型の学習活動では,課

題設定・仮説立案・検証の各プロセスで,資料を

読み取る必要がある。生徒は,資料から読み取っ

た情報を基に自分の考えをまとめ論述する。この

過程において予想されるつまずきと支援のポイン

トについて述べる。

まず資料を読み取る際に考えられるのは,「資料

のどこを見ればよいのかがわからない」というつ

まずきである。これに対しては,資料を見るとき

のポイントを的確に示す必要がある。そこで,写

真,グラフ,地図という3種類の資料から,示すべ

きポイントを挙げる。

次の図2-6は,写真における読み取りのポイント

を示したものである。丸囲みで示す地形や植物な

どの自然,衣服・食事や住居などの生活様式,時

間や場所などの点に注目して情報を収集するよう

アドバイスを加えることで,読み取りのポイント

を把握できると考える。

図2-6 写真における読み取りのポイント

次の図2-7は,グラフにおける読み取りのポイ

ントを示したものである。

図2-7 グラフにおける読み取りのポイント

グラフは種類によって注目すべきポイントが

異なる。例えば図中の帯グラフでは,丸囲みで示

した二つのポイントを比較することで必要な情報

を読み取ることができる。そこで「比較してみよ

う」というヒントとポイントの見つけ方を示すこ

とで,グラフからどのような情報を読み取るべき

かが理解できると考える。

次の図2-8は,地図における読み取りのポイント

を示したものである。

図2-8 地図における読み取りのポイント

ここで取り上げたのは,ドットマップや等値線

図などの为題図である。为題図とは,特定のテー

マについて地図上で詳しく示したもので,種類に

よって注目すべきポイントが異なる。例えば図中

のドットマップの場合,数値の大きいところが重

要であるため,「点が集まっている場所に注目しよ

う」というヒントを付けておけば,読み取る際の

手助けとなる。

実践では,図2-6,2-7,2-8を一枚にまとめたも

のを「資料読み取りのアシストカード」として提

示する。生徒は学習活動において,資料を読み取

る際のヒントとしてこのカードを活用する。ただ

し,個別の支援を必要としている生徒にとっては,

このカードを渡すだけでは十分な支援にはならな

い。授業に導入する段階で,このカードを使って

指導者が生徒と一緒に資料の読み取りを行うこと

その2:グラフ

円グラフ 帯グラフ 棒グラフ 折れ線グラフ

<ポイントの見つけ方>

①数字を正確に読み取ろう。特に,単位(~%,~千円,~万人など)

に気を付けよう。

②大きな数字や変化の大きなところに注目しよう。

③2つ以上で比べてみよう。(例:年ごと,国ごと,都道府県ごとなど)

④「棒グラフ」「折れ線グラフ」については,次のことを確認しよう。

・基本要件→タイトル,出典,年度,縦軸,横軸

・形→右上がり,右下がり,平坦,山型,谷型

雨温図(棒+折れ線)

単位は何?

21.9

25.4

30.1

47.4

27.2

25.7

20.5

12.1

9.1

8.9

6.7

6.0

29.2

26.9

29.9

15.2

0.0

0.0

1.5

3.0

12.6

13.1

11.3

16.3

2006年

2000年

1980年

1960年

1.9兆円

10.3兆円

9.1兆円

8.3兆円

日本の農業生産額の構成と変化(平成18年,%)

米 野菜・いも類 果実 畜産 養蚕 その他

0

1000

2000

3000

4000

5000

6000

7000

8000

日本の農業就労人口の変化(千人)

0

20

40

60

80

100

120

日本の食糧自給率の推移(%)

小麦

大豆

牛肉

魚介類

中国, 18.1

インド, 12.3

アメリカ合衆国,

8.8

ロシア, 8.1フランス, 6.5パキスタン, 3.9

ドイツ, 3.5カナダ, 3.4

その他, 36.4

小麦の生産(2007年,%)

比較してみよう!

右下がりグラフ

変化に注目!

山型グラフ

その3:主題図

<ポイントの見つけ方>

点の集まっているところに注目

しよう。

<ポイントの見つけ方>

数値の高い線が囲むところに注

目しよう。

<ポイントの見つけ方>

大きな図形があるところに注目

しよう。

<ポイントの見つけ方>

濃い色でぬられているところに

注目しよう。

点で示した地図(ドットマップ)

線で示した地図(等値線図)

図で示した地図(図形表現図)

地域ごとの色で示した地図(階

級区分図))

<東南アジアの米の分布>

米の分布

(1点5万t)

ミャンマー ラオス タイ

カンボジア

ベトナム マレーシア

インドネシア

フィリピン

米の生産量(万t)

…6000

…200

1624

238

5716

3594

673

3210

271

315

<国別の米の生産量>

降水量 未満 50 100 200 300 400以上 (mm)

<東南アジアの7月の降水量>

400

300

200

1人あたりの小麦の消費量

40kg以上

20kg未満

20~40kg

<1人あたりの小麦の消費量>

その2:グラフ

円グラフ 帯グラフ 棒グラフ 折れ線グラフ

<ポイントの見つけ方>

①数字を正確に読み取ろう。特に,単位(~%,~千円,~万人など)

に気を付けよう。

②大きな数字や変化の大きなところに注目しよう。

③2つ以上で比べてみよう。(例:年ごと,国ごと,都道府県ごとなど)

④「棒グラフ」「折れ線グラフ」については,次のことを確認しよう。

・基本要件→タイトル,出典,年度,縦軸,横軸

・形→右上がり,右下がり,平坦,山型,谷型

雨温図(棒+折れ線)

単位は何?

21.9

25.4

30.1

47.4

27.2

25.7

20.5

12.1

9.1

8.9

6.7

6.0

29.2

26.9

29.9

15.2

0.0

0.0

1.5

3.0

12.6

13.1

11.3

16.3

2006年

2000年

1980年

1960年

1.9兆円

10.3兆円

9.1兆円

8.3兆円

日本の農業生産額の構成と変化(平成18年,%)

米 野菜・いも類 果実 畜産 養蚕 その他

0

1000

2000

3000

4000

5000

6000

7000

8000

日本の農業就労人口の変化(千人)

0

20

40

60

80

100

120

日本の食糧自給率の推移(%)

小麦

大豆

牛肉

魚介類

中国, 18.1

インド, 12.3

アメリカ合衆国,

8.8

ロシア, 8.1フランス, 6.5パキスタン, 3.9

ドイツ, 3.5カナダ, 3.4

その他, 36.4

小麦の生産(2007年,%)

比較してみよう!

右下がりグラフ

変化に注目!

山型グラフ

その3:主題図

<ポイントの見つけ方>

点の集まっているところに注目

しよう。

<ポイントの見つけ方>

数値の高い線が囲むところに注

目しよう。

<ポイントの見つけ方>

大きな図形があるところに注目

しよう。

<ポイントの見つけ方>

濃い色でぬられているところに

注目しよう。

点で示した地図(ドットマップ)

線で示した地図(等値線図)

図で示した地図(図形表現図)

地域ごとの色で示した地図(階

級区分図))

降水量 未満 50 100 200 300 400以上 (mm)

<東南アジアの7月の降水量>

400

300

200

ミャンマー ラオス タイ

カンボジア

ベトナム マレーシア

インドネシア

フィリピン

米の生産量(万t)

…6000

…200

1624

238

5716

3594

673

3210

271

315

<国別の米の生産量>

1人あたりの小麦の消費量

40kg以上

20kg未満

20~40kg

<1人あたりの小麦の消費量>

米の分布

(1点5万t)

<東南アジアの米の分布>

その1:写真

<ポイントの見つけ方>

①自然(植物,動物,地形など)に注目

②衣服,食事,住居に注目

③時間,場所に注目

→まず,気付いたこと,思ったことを,

できるだけたくさんあげてみよう。

Page 14: 中学校社会科における 思考力・判断力・表現力等 …...G0203 報告556 中学校社会科における 思考力・判断力・表現力等の育成をめざして

中学校 社会科教育 12

で支援として生かされるものと考える。

次に,考えをまとめて論述する際に予想される

つまずきは,「資料から読み取った情報が何を意味

しているのかがわからない」ということである。

例えば「気候の特色を考えよう」という課題に基

づいて,前ページ図2-6から「家の床が高い」とい

う情報を読み取ったが,それが何を示すのかがわ

からないというような場合,どのような支援が必

要なのだろうか。

生徒は,小学校6年生の社会科で「高床倉庫」

について学習している。「高床倉庫」とは,収穫し

た作物を湿気から守るために,床下の空間を大き

く空けた倉庫のことである。この知識が「建物の

床が高く作られている地域は,雨や湿気が多い」

というように一般化されていれば,写真の場所で

は降水量が多いのではないかという推理ができ

る。このことを踏まえ,既得の知識と情報をどの

ように結び付ければ,読み取った情報の意味を推

理できるのかをアドバイスすればよいと考える。

また,「自分の考えはもっているが,どのように

文章化すればよいかわからない」というつまずき

も考えられる。この場合文章化する必要がある内

容は,「どのような仮説を立てたか」と「その根拠

は何か」である。この仮説と根拠を示す文章とし

ては,小学校の話型の指導で学んでいるように「自

分は~(仮説)だと考えます。理由は~(根拠)

だからです。」という形が適切である。このように,

はじめに自分の考えを示すことで,考えをより明

確に表すことができるからである。

例えば「家の床が高い」という情報から,「この

地域は雨や湿気が多い」という推理をした場合,

読み取った情報が「根拠」になり,推理が「仮説」

になる。これを文章としてまとめると,「この地域

は,降水量が多いと考えます。理由は,写真のよ

うに家の床を高くすることで,雨や湿気に備えて

いると考えられるからです。」となる。この過程を

示すことで,文章化する際のポイントが理解でき

ると考える。以上のような「考えのまとめ方」の

視点から作成したアシストカードが,右の図2-9

である。

「資料読み取りのアシストカード」と「考えを

まとめるアシストカード」の二枚を活用すること

で,「課題を見つける(課題設定)」「課題解決のた

めの情報を資料から読み取る(情報収集)」「読み

取った情報を分析して推理する(仮説立案)」「資

料を用いて仮説を検証する(検証)」「自分の考え

を文章にまとめる(論述)」という課題解決の過程

図2-9 考えをまとめるアシストカード

における具体的な活動が,生徒にとって明らかに

なると考える。

(3)思考の過程がみえるアシストカード

課題解決型の学習活動を通して思考力・判断

力・表現力等を育み,自ら課題を解決する力を付

ける上で重要なことは,学習活動の記録を残すこ

とである。これは,単純に板書を写し取るという

意味ではない。学習活動を進めていく過程で,自

分が「何に注目したのか」「どのような情報を得た

のか」「どのように考えたのか」や「他者の意見は

どうなのか」ということを,学習活動の流れに沿っ

て記述するのである。つまり,課題解決に至るま

での思考の過程を,目に見えるように残すという

ことである。しかしそれらの内容を,各々の生徒

がそれぞれの工夫で整理し記述していくことは,

限られた授業時間においては困難であると考えら

れる。ここでも授業時間内に必要なことを書き切

ることができなかったり,思考の過程を確認でき

ないようなノートになったりといった生徒のつま

ずきが予想できる。そこで基本の形は同じで,各

自の考えを自由に記述することができ,思考の過

程を明確に見取ることができるノートの形式を示

す必要がある。そうすれば,自分の思考の過程を

考えよう!まとめよう!

<気付いたこと,思ったこと>

①家の床が高い。

②よく晴れている。

③家に壁がない。

④薄着で笠をかぶっている。

⑤ヤシの木がある。

⑥屋根の傾斜が急。

⑦水が濁っている。

課題が「気候の特色を考えよう」だ

とすると…

<関係の深そうなもの>

①家の床が高い。

③家に壁がない。

④薄着で笠をかぶっている。

⑤ヤシの木がある。

⑥屋根の傾斜が急。

その1:取り出す(情報収集)→資料から気付いたこと,思ったことをあげてみよう。

その3:推理する→絞り込んだ情報は何を示しているのか考えてみよう。

A衣服・住居

①家の床が高い。

③家に壁がない。

④薄着で笠をかぶっている。

「家の床が高い」→湿気が多い,雨が多い

「家に壁がない」→風通しが良い

「薄着で笠をかぶっている」→気温が高い

☞1 年中気温が高くて雨が多いのでは?

情報 推理

その4:仮説を立てる→自分の考えたことを,文章にまとめてみよう!

<ポイント>

◎「読み取った情報」が「根拠(理由)」になり,「推理」が「自分の考え」になる。

◎文型としては「~(推理)だと考える。理由は~(根拠)だから,」となる。

例)「この地域は 1 年を通して気温が高く,雨がよく降ると考える。」☜これが「自分の考え」

「理由は,写真の家は床の位置が高く,家に壁がなく,薄着で笠をかぶっているから。」☜これが「根拠」

その2:絞り込む→課題に関係の深そうなものを,まとめてみよう。

<あまり関係のなさそうなもの>

②よく晴れている。

⑦水が濁っている。

その5:検証する→自分の仮説が正しいかどうか,確かめよう。

写真の場所は,バンコ

クである。

右の雨温図

はバンコクの

ものである。

雨温図から,バンコクは 1

年中高温で,雨がよく降る時

期と,あまり降らない時期が

あることが確認できた。

Page 15: 中学校社会科における 思考力・判断力・表現力等 …...G0203 報告556 中学校社会科における 思考力・判断力・表現力等の育成をめざして

中学校 社会科教育 13

見直し,よりよい過程や解決策を発見できるよう

になると考えるからである。

思考の過程がみえるノートにするためには,ま

ず単位時間構造図に配置された言語活動に合わせ

て,読み取った情報や自分の考え,仮説や検証の

根拠となる資料や他者の意見などが書けるような

工夫がされていることが必要である。また,他者

の意見を聞いて,自分の考えがどのように変わっ

たかを書くことも重要である。次の図2-10は,そ

れらを踏まえて作成した「思考の過程がみえるア

シストカード」である。

図2-10 思考の過程がみえるアシストカード

このアシストカードでは,ノート作りのポイン

トを箇条書きに,実際のノートの形式と書く内容

や留意点を図にした。ノート作りのポイントとし

ては,まず「課題設定」と「仮説立案と検証」の

プロセスにおいて,資料を読み取って得た情報や

気付いたこと,考えたことをできるだけ多く書き

挙げておくようにする。また,書き挙げる内容は

キーワードやキーセンテンスといった単語や短文

にするよう指示する。これは内容を把握しやすく

するためと,時間短縮を図るためである。そして

それらの様々な情報を書き留めておくことができ

るように,ノートの右下に「気付きメモ」の欄を

設ける。例えば課題を検証するために資料から情

報を読み取る際に,「そのときには課題や仮説との

関係に気付けなかった情報」や「何となく気にな

る情報」「何気ない思い付き」などの一見重要と思

われないようなことは,どこにも書き留められず

に忘れられてしまう可能性がある。何でも書き留

めることができる「気付きメモ」を設けることで,

これらを書き落とすことを防ぐことができると考

える。その結果として,これらの情報が仮説を変

更して検証し直す際に役立ったり,新しい考えを

生むきっかけになったり,発展のプロセスで次の

課題に結び付いたりすることも考えられる。この

欄に書き挙げた情報を用いて自分の考えをまとめ

ることができれば,その情報は活用できる知識と

なる。筆者はこの「気付きメモ」を情報の蓄積場

所とし,更には「情報の発信基地」としての役割

を担わせたいと考える。

次のポイントとして,「仮説立案と検証」のプロ

セスにおいて「自分の考え」と「根拠となる資料

とそこから読み取った情報」を,一つのセットと

して書くように示した。これによって,思考の過

程を確認する際に自分が何を根拠にしてどのよう

に考えたのかが明確になるからである。また他者

に説明する際や知識を再構築する際にも役立つと

考える。

そして「交流と再構築」のプロセスにおいて,

元の自分の意見は残したままで「他者の意見」と

「変更した自分の意見とその理由」を書くように

示した。これによって,自分の考えがどのような

考えを参考にしてどのように変わったかが明確に

なり,思考の過程を把握しやすくなると考えたか

らである。

「思考の過程がみえるアシストカード」は,ノー

トに貼付して活用する。このカードを用いてノー

ト作りを行うことで,自分の思考の過程が明らか

になり,それを確認しながら学習の振り返りを行

うことができる。その際に自分の言葉を用いて学

習の振り返りをまとめることで,更に理解が深ま

ると考える。

第3節 学び合い学習の推進

(1)多様な考え方がみえる学び合い学習

前章で示した言語活動を充実させる第三の鍵

「グループでの学習活動の設定」を具体化するた

めには,学習活動の意義や適切な形式,効果的な

進め方などを明確にすることが必要である。

既に述べたように,本研究ではグループでの学

習活動を,グループで話し合い,意見を交流する

◎課題解決学習を行う授業のときには,下のような形でノートを作りましょう。

<ノート作りのポイント> その1)教科書の本文や,地図・グラフ・写真・表などから気付いたこと,読み取った

ことは,キーワード(単語)やキーセンテンス(短い文)で,できるだけたく さん「気付きメモ」に書き込みましょう。

その2)最初から推理できない場合は,先にいろいろな資料を見て「気付きメモ」を作 り,その情報から推理してみましょう。

その3)「自分の意見」と「根拠」は,必ず書きましょう。他の人の意見を聞いて自分の 意見を変更する場合は,元の意見を残したままで変更した意見を書きましょう。

その4)黒板を写すだけでなく,他の人の意見から気付いたことは「班内の意見から」 や「各班の意見から」に書き留めておきましょう。

第 3章 世界の諸地域 第 2節 ヨーロッパ州

【ヨーロッパの自然】

本時の目標 ◎資料を用いてヨーロッパの地形や気候の

特色を理解し,説明する。

〈写真から気付いたこと〉

○雪が多い

(他の人の意見)

・片方は夏で片方は冬

課題1

ニースは札幌より北にあるのに,なぜ札幌より暖かい

のだろう?

〈自分の推理〉

〈根拠〉[根拠となる資料]

○地図帳 p~ → ~ (資料から読み取った情報)

~ (資料から読み取った情報)

《自分の意見》

○ ~ だと考える。理由は ~ だから。

〈班内の意見から〉

《自分の意見》(変更後)

《班としての意見》

○ ~ だと考える。理由は ~ だから。

〈各班の意見から〉

《学習のまとめ》

課題2

ヨーロッパの自然の特色は,人々の生活にどのような

影響を与えているのだろう?

〈予想〉

・ ~が ~に ~のような影響を与えていると思う。

タイトルと本時の目標を書く

自分の意見を書く

自分と違う意見を書く

課題を書く

これが「仮説」

自分と違う意見を書く

気付いたことや質問した

いことを書く

一般化された

知識を書く

ノートの形式について

変更した意見を書く

できれば理由も書く

気付きメモ

資料を調べて気付いたことや

思い付いたことをメモする

今日の学習で学んだこ

とを,自分の言葉で書く

授業で得た知識を書く

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中学校 社会科教育 14

こととしている。生徒は他者と意見を交流するこ

とで,お互いに様々なことを学び合う。これを「話

すこと」の面と「聞くこと」の面から考える。

①「話すこと」から学ぶこと

生徒は「話すこと」を通して,自分の考えを論

理的に伝えるためにはどうすればよいのかを学

ぶ。自分の「解釈」を支える確かな根拠とはどの

ようなものか,「説明」においてその根拠はどのよ

うに示せばよいか,筋道の通った話し方とはどの

ようなものかなどである。このようにして生徒は,

自分の考えを他者に正確に理解してもらった上

で,他者に納得してもらうことをめざすのである。

一方で「話す」という行為は,兼松が「自分の意

見を述べるとき,我々は他者から異なった意見や

批判を受けることをあらかじめ予想し,期待もし

ている」(23)と示すように,それを聞いた他者か

ら共感的な意見が出ることを期待しながらも,異

なる意見や批判的な意見が出ることを前提として

行われる。生徒はそれらの意見を受け止め,更に

他者を納得させるためにはどのように話せばよい

かを考える。このように試行錯誤を繰り返す中で,

生徒は論理的な思考力や判断力・表現力を高めて

いくと考えられる。

②「聞くこと」から学ぶこと

文部科学省は言語活動の充実に関する指導事

例集において「考えを伝え合うことは,自分の考

えになかったものを受け入れて自らの考えに生か

したり,相手の立場や考えを考慮し,尊重するこ

とで自らの考えや集団の考えを発展させることに

つながる」(24)と示している。このように生徒は,

他者の話を「聞くこと」で,自分とは異なる考え

が存在することに気付く。他者の考えと自分の考

えを比較し,批判的に見たり共感的に評価したり

する。そして自分と違う視点に気付き,様々な角

度から物事を考える重要性を認識する。例えば,

他者の考えにふれることで新たな発想が生まれ,

自分の「解釈」を見直してよりよい課題解決の方

法の発見に結び付くことがある。これにより,生

徒の社会的な判断力は向上し,より公正な判断が

できるようになる。あるいは力を合わせることで,

課題が解決できることもある。このような過程で

生徒は集団としての学習力を自覚し,対立を乗り

越えて課題を解決する力を身に付け,多様な視点

をもつことの重要性を認識するのである。同時に

課題を解決することの楽しさを実感し,为体的に

学ぶ姿勢を育むことができると考える。また,自

分と異なる考えを認めることで他者理解が進み,

互いの立場や考えを尊重し合う関係が育まれてい

く。これによって,他者とコミュニケーションを

図ろうとする意欲が高まり,コミュニケーション

能力の育成につながっていくと考える。

以上のように生徒は「話すこと」「聞くこと」を

通して様々なことを学び合うが,社会科において

はその中でも「多様な考え方がみえる」ことが最

も重要であると考える。このことが,社会的事象

を多面的・多角的にとらえる力を身に付けること

や,自分の考えを見直してより公正な判断ができ

るようになること,他者を納得させるような表現

方法を身に付けることなどの全ての基盤となるも

のだと考えるからである。

筆者は学び合いの重要性を上記のようにとら

え,グループでの話合い活動を「学び合い学習」

と呼ぶこととする。この「学び合い学習」は,学

習活動の過程において生徒が個人で仮説を立てて

検証した後に置くことが適切である。そこで単位

時間構造図の中では集団での意見の交流として,

「交流と再構築」のプロセスの中に位置付ける。

(2)学び合い学習を効果的に進めるために

学び合い学習を効果的なものにするために,指

導者が指導において意識すべきことと,生徒が事

前に理解しておく必要がある話合いのポイントを

次に示す。

①学び合い学習における留意点

学び合い学習を進めるに当たっては,留意して

おきたい点が三つある。

一つめは,「聞く力」を育む指導を重視すると

いうことである。話合い活動を行う際には,生徒

の発言に注目し「話す力」について指導する場合

が多い。しかし多様な考え方を吸収し,思考を広

げ深めるという点から考えれば,他者の発言をど

のように受け止め,自分の考えを再構築するため

にどのように生かすのかが重要である。つまり,

他者の発言を聞く力が必要であるといえる。

聞く力の指導において難しいのは,生徒が他者

の発言をどのように受け止め,どのように考えを

変容させたのかを把握することである。把握する

ためには,生徒の受け止めた内容やその変容を文

章として残すことが重要である。13ページ図2-10

の「思考のプロセスがみえるアシストカード」の

Page 17: 中学校社会科における 思考力・判断力・表現力等 …...G0203 報告556 中学校社会科における 思考力・判断力・表現力等の育成をめざして

中学校 社会科教育 15

中で,ノートの形式として他者の意見から気付い

たことや変更後の自分の意見,変更した理由を書

く欄を設ける。この部分を確認することで,指導

者は生徒の受け止めや変容を把握することが可能

となり,把握した内容に基づいた指導を行うこと

ができる。生徒は書くことを意識することで,自

分の考えとの相違点や参考となる部分を意図的に

探しながら聞くようになり,多様な考え方の認識

に結び付くと考える。

留意しておきたい二つめの点は,全ての生徒が

話合いの場に参加するということである。生徒た

ちの現状は様々で,自分の考えをまとめることが

なかなかできず,発言をためらうような場合も考

えられる。このようなときも話合いの場に参加し

て「聞くこと」から始めることにより,自分の考

えを構築し,表現できるようになることが期待で

きる。

三つめの留意点は,グループでの話合い活動の

後に,学級全体での話合いを入れることである。

グループでの話合いは尐人数であるため,考えを

まとめるのは比較的容易であるが,考え方に偏り

が生じることがあり,多様な考え方に触れること

ができない場合も考えられる。グループで練った

意見を学級全体の場で出し合うことで,より多様

な考え方を吸収し,自分の考えを広げたり深めた

りすることができると考える。

②学び合い学習の約束

学び合い学習を進める場合,話合いの進め方,

発表の仕方,発表の聞き方についての基本的な

ルールを生徒に示しておく必要がある。生徒は小

学校の社会科においても話合い活動に取り組んだ

経験をもち,そのルールについても学んでいる。

しかし,生徒によって理解の度合いが違ったり,

小学校によってルールに違いがあったりすること

も考えられる。各グループが同じレベルで話合い

を進めるために,基本的なルールを文章化し,最

初に確認しておくことが大切である。図2-11は,

それらのルールをまとめたものである。

「進め方」では,グループの形式と司会者の役

割についてふれている。グループは,基本的に4

名で構成する。この人数であれば短時間での意見

交換が可能であり,司会者にとっても意見をまと

めやすいと考えたからである。司会者の役割とし

ては,論理的なやり取りができるように,「仮説の

内容とその仮説を立てた理由」「検証の根拠となる

資料と検証結果」「他者の意見に対する自分の考え」

図2-11 学び合い学習における約束事項

を中心に交流するよう示す。

「発表の仕方」では,「自分の考えの根拠を示

すこと」「わかりやすく伝える工夫をすること」「他

者と自分の立場を明確にすること」を中心に示す。

特に賛成,反対,付け足しなど他者と自分の立場

を明確にすることは,話し合う内容を一つにつな

いでいくという意味で重要である。

「発表の聞き方」では,「自分の意見と比較する

こと」「相違点や重要な点を記録すること」「意見

の変容とその理由を文章化すること」を中心に示

す。これは前項で述べた「聞く力の指導の重視」

と関わる部分であり,文章化することが重要とな

る。そのためノート作りと連動させて,指導して

いきたい。

以上,本章では言語活動を充実させる三つの鍵

を具体化するための取組として,「単元・単位時間

の構造化」「アシストカード」「学び合い学習」に

ついて述べた。授業の中で言語活動が習慣化し定

着していけば,アシストカードは利用する必要が

なくなり,学び合い学習の約束事項についてはよ

りレベルの高い内容へと進化する。アシストカー

ドに頼らず,よりレベルの高い,自分たちにとっ

学び合い学習の約束

ねらい

◎いろいろな意見を聞いて,自分の考えを広げたり深めたりする。

進め方

その1)グループになりましょう。(基本は4人)

その2)司会者を決めましょう。司会者は順番に回します。

その3)全員の意見を聞きましょう。同じ意見でも,自分の言葉で発表してもらいましょう。

その4)交流する内容は,主に次のとおりです。

①どのような仮説をたてましたか。それはなぜですか。

②検証するのに適切な資料は何(どれ)ですか。どのような結果になりましたか。

③他の人の意見を聞いて,どのように考えましたか。

→自分の意見の変化や質問でもかまいません。

その5)意見が出なくなったときは,違う見方をしたり,話題を変えたりしてみましょう。

その6)話のポイントがずれたときは,修正しましょう。

その7)他の人の意見を否定してはいけません。対立意見はかまいません。

発表の仕方

その1)聞いている人の顔を見て,聞いている人に聞こえるように発表しましょう。

その2)どのような意見でも,自分の言葉で発表しましょう。

その3)できるだけいろいろな角度から考えて,たくさん意見を出してみましょう。

その4)自分の考えを発表する時は,必ず根拠(なぜそう思ったのかという理由)を示しまし

ょう。

その5)資料のどの部分から考えたのか,他の人にわかるように示しましょう。

その6)他の人の意見に対して自分の意見を発表するときは,自分の立場をはっきりさせまし

ょう。(賛成,反対,付け足し,違う意見など)

発表の聞き方

その1)発表している人の顔を見て聞きましょう。

その2)自分の考えと比べながら聞きましょう。

その3)発表された意見のポイントや,自分の考えと違うと思った内容を書き留めておきまし

ょう。してみたい質問があれば,それも書いておきましょう。

その4)他の人の意見をもとに,自分の考えを見直してみましょう。考えが変わったり発展し

たりした部分は,理由をあげて書いておきましょう。

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中学校 社会科教育 16

てよりよい学び方を工夫していこうとする姿勢

が,为体的に自らの課題を解決しようとする生徒

の育成につながっていくと考える。

第3章では単元・単位時間の構造化を行った実

践授業において,アシストカードを活用したり,

学び合い学習を取り入れたりすることで,生徒が

どのように変容したのか,具体的に示す。

(20)国立教育政策研究所「評価規準の作成,評価方法等の工夫改

善のための参考資料(小学校社会科)」

http://www.nier.go.jp/kaihatus/houkoku/sssyakai.pdf

2013.2.20 p.67

(21)澤井陽介「授業づくりのポイント」『内外教育第6160号』

時事通信社 2012.4.24 p.4

(22)北俊夫『社会科学力をつくる“知識の構造図”―“何が本質

か”が見えてくる教材研究のヒント―』 明治図書 2011.7

p.74

(23)兼松儀郎「思考力・判断力・表現力等の育成と生きる力―高

等学校公民科「倫理」の指導を中心に―」『中等教育資料№

890』 ぎょうせい 2010.7 p.27

(24)文部科学省「言語活動の充実に関する指導事例集~思考力,

判断力,表現力等の育成に向けて~【中学校版】」 http://

www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detai

l/__icsFiles/afieldfile/2011/05/30/1306108.pdf#search

2013.2.20

第3章 地理的分野の実践授業から

第1節 「ヨーロッパ州」の実践授業

(1)構造化の視点から

本項では,次のような視点から,単元と単位時

間を構造化することが生徒にどのような変容を

もたらしたのかを,授業の様子やノートの記述を

通して明らかにする。アシストカードについて

も,構造化された学習活動においてどのように活

用されたかを,同様の視点から見ることが適切と

考え,この項で扱う。

「ヨーロッパ州」は,中単元「第3章 世界の

諸地域(全26時間)」を構成する六つの小単元の一

つである。この単元は,ここまでの地理の学習で

身に付けた知識や技能を活用しながら,世界の各

州の地域的特色を設定した为題に沿って理解し,

探究していく内容となっている。また本単元にお

いて生徒は,次の中単元「第4章 世界のさまざ

まな地域の調査」(全4時間)で行う探究活動に向

けて課題解決の道筋を理解し,その方法を習得す

る必要がある。そこで本単元に取り組むに当たっ

て,大単元における中単元の位置付けを明らかに

するため,8ページの大単元構造図(基本形)に基

づいて図3-1の大単元構造図を作成した。この図で

は第1章で地球儀や地図を活用して,世界の地理

的認識を深める上で座標軸のような役割を果たす

地域構成を大観し,第2章で世界の人々の生活や

環境の多様性を学び,第3章で世界の各州の地域

的特色を理解して,第4章でそれまでに習得した

知識と技能を活用して探究活動を行い調査の視点

や方法を身に付けるという流れを表した。

図3-1 大単元構造図

更に中単元「世界の諸地域」における各単位時

間の位置付けを明らかにするために,次ページ図

3-2の中単元構造図を作成した。この図では最初の

3時間でヨーロッパ州の地域的特色についての基

礎的・基本的な知識と,それらを活用するための

技能を習得し,第4時にその知識と技能を活用して

EUの現在の課題について追究するという流れを

表した。ロシアについてはヨーロッパとアジアを

つなぐ国ということで,日本との関係を中心に見

○各単元や単位時間の位置付けの明確化

○課題解決の四つのプロセスの理解と定着

○言語活動の位置付けと充実

○知識・技能の習得と活用

地理的分野第 1部「世界のさまざまな地域」における各単元の位置付け

第3章 世界の諸地域(26時間)

<地域的特色を理解する>

世界の各州に暮らす人々の生活の様子を的確に把握できる地理的事象を取り

上げ,それを基に为題を設けて,それぞれの州の地域的特色を理解する。

第4章 世界のさまざまな地域の調査(4時間)

<探究の視点や方法を身に付ける>

世界の諸地域に暮らす人々の生活の様子を的確に把握できる地理的事象を取

り上げ,様々な地域又は国の地域的特色をとらえる適切な为題を設けて追究し,

世界の地理的認識を深めるとともに,世界の様々な地域又は国の調査を行う際の

視点や方法を身に付ける。

第 1章 世界の姿(7時間)

<世界の地域構成をとらえる>

地球儀や地図を活用し,緯度と経度,大陸と海洋の分布,为な国々の名称と位

置,地域区分などを取り上げ,世界の地域構成を大観する。

第2章 世界各地の人々の生活と環境(11時間)

<生活や環境の多様性を理解する>

世界各地における人々の生活とその変容について,自然及び社会的条件と関連

付けて考察し,世界の人々の生活や環境の多様性を理解する。

・ヨーロッパ(5時間) ・アフリカ(3 時間) ・北アメリカ(5 時間)

・南アメリカ(4時間) ・オセアニア(3 時間) ・アジア(6 時間)

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中学校 社会科教育 17

図3-2 「世界の諸地域」中単元構造図

ていくものとし,この流れとは別に第5時で扱う。

この中単元の学習を始めるに当たり,この構造

図を用いて学習活動の流れを生徒に説明し,理解

を図った。また課題解決の四つのプロセスについ

ては10ページ図2-5に示した「学習の流れがみえる

アシストカード」を用いて,ノートの形式につい

ては13ページ図2-10に示した「思考の過程が見え

るアシストカード」を用いて説明した。11ページ

図2-6~図2-8で示した「資料読み取りのアシスト

カード」と12ページ図2-9で示した「考えをまとめ

るアシストカード」も同時に配布した。

以下では第1時と第4時を取り上げ,生徒の変容

を見ていく。これは,第1時が実践の最初の授業で

あり,第4時がそれまでの授業で習得した知識と技

能を活用する授業であるため,変容をとらえる上

で適していると考えるからである。

〈第1/5時 ヨーロッパの自然〉

図3-3は,本時の学習活動の構造図である。本

時の目標から「思考・判断・表現」と「資料活用

の技能」の観点に重点を置いて評価することとし

た。生徒には授業の最初に「めざす姿」としてこ

れを掲示し,意識して学習活動に取り組めるよう

にした。また以後の学習活動においても,重点を

置く評価については図中で着色して示し,授業の

最初に掲示する。

プロセス1では課題を設定するために資料から

情報を読み取り,その情報が何を意味するのかを

解釈した。生徒は教科書p.59に掲載されたニース

図3-3 「ヨーロッパの自然」の単位時間構造図

と札幌の写真を資料として比較し,「資料読み取り

のアシストカード」を活用して,2枚の写真から読

み取った情報を基に課題を設定した。ニースの

人々が屋外で日光を浴びてくつろいでいる姿と,

札幌で大量の積雪がある様子を比べた生徒は「な

ぜ,同じ2月でこれほど気温が違うのか」という疑

問をもった。更に地図帳でニースの方が高緯度で

あることを発見し,驚くとともに「ニースは札幌

より北にあるのに,なぜ札幌より暖かいのだろう」

という課題を設定することができた。

プロセス2では,設定した課題に対して各自で

仮説を立て,検証のために資料から必要な情報を

読み取って解釈し,自分の考えを文章で論述した。

多くの生徒が緯度以外に気候に影響を与えるもの

として,教科書本文の記述から「北大西洋海流(暖

流)」と「偏西風」を見つけ,この二つの影響であ

ると考えて地図帳で確認した。中にはアルプス山

脈の存在に注目して「偏西風がアルプス山脈で止

められて暖かい空気が溜まるから気温が高くな

る。」と考えたり,火山の存在に注目して「マグマ

の影響で暖かくなる。」と考えたりする生徒もい

た。ここでは仮説を立てる場面で「考えをまとめ

るアシストカード」を活用した。生徒はカードを

第1部 世界のさまざまな地域 第3章 世界の諸地域 第2節 ヨーロッパ州(5 時間)

【単元構造図】

ヨーロッパ州の地域的な特色を理解し,最近の社会の変化や日本との関係について説明する。

単元の到達目標

知識・技能の習得

地図や雨温図を用いて

ヨーロッパの地形や気候

の特色を理解し,説明す

る。

①ヨーロッパの自然

写真や地図からキリス

ト教をはじめとするヨー

ロッパの文化の特色を読

み取っている。

②ヨーロッパの文化と歩み

気候や歴史的背景を基

に,ヨーロッパの農業や

工業の特色を理解し,説

明する。

③ヨーロッパの産業

適切な資料を活用して設定された为題に沿って地域的特色を読み取り,最近の変化や日本との関係を考察しよう。

単元の課題

知識・技能の習得

ロシアの国土と歴史につい

て概観し,日本との貿易関係

について理解する。

⑤ヨーロッパとアジアにまたがる国ロシア

知識・技能の活用

EUの現状を理解し,適切な

資料を用いて現在の課題につい

て追究する。

④追究~国境を自由にこえられる暮らし~

第3章 世界の諸地域 第 2 節 ヨーロッパ州(5時間)

1 ヨーロッパの自然(1/5)

本時の目標:資料を用いて,ヨーロッパの地形や気候の特色を理解し,説明する。

プロセス1:課題設定

提示された写真から情報を読み取る(情報収集)

ニースは札幌より北にあるのに,なぜ札幌よ

り暖かいのだろう? 発問

☞キーワード:気温,時期,場所 解釈

プロセス2:仮説立案と検証

各自の仮説について,資料で確認する(検証)

各自の持つ情報から,仮説を立てる(仮説立案) 解釈

論述

☞キーワード:暖流,偏西風

☞資料:地図帳p.45~p.46

☝ワンポイントアドバイス ◇教科書p.59の写真を活用 ◇情報を「気付きメモ」に記入 ◇重要用語の確認

☝ワンポイントアドバイス ◇アシストカードを活用 ◇自分の意見を必ず文章化

☝ワンポイント・アドバイス ◇他人が納得できる説明(根拠が大事) ◇しっかりメモを取る

プロセス4:一般化と発展

ヨーロッパの自然の特色は,人々の生活にど

のような影響を与えているだろう? 発問

論述

☞キーワード:農業,服装など 解釈

☝ワンポイントアドバイス ◇次につながる具体的なイメージ →気候に適した農作物など

プロセス3:交流と再構築

グループで話し合い,全体の場で発表する(交流)

自分の意見を見直す(知識の再構築)

他の地域で確認する(一般化)

説明

論述

解釈 ☞キーワード:地中海性気候

解釈

☝ワンポイントアドバイス ◇他者が納得できる説明(根拠が大事) ◇他者の意見をしっかりメモ

説明

<関心・意欲・態度>

○複数の情報を資料

から読み取り,ノー

トに書き留めてい

る。

<思考・判断・表現>

○自分の意見を,根拠

を示しながら具体

的に説明している。

<資料活用の技能>

○地図やグラフなど

適切な資料を選び,

必要な情報を読み

取っている。

<知識・理解>

○必要な知識を身に

付け,説明のときな

どに正しく使って

いる。

生徒がめざす姿(評価規準)

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中学校 社会科教育 18

参考にして,自分の

意見を「自分は~だ

と考える。理由は~

だから。」という話型

で表現するように

なった。しかし検証

する場面では,「資料

読み取りのアシスト

カード」はあまり活

用しなかった。これ

は,教科書の本文の

記述を見つけた段階

で検証が終わった

り,資料の読み取り

がアシストカードを

必要とするほど難し

くはなかったりした

からだと考える。

プロセス3では,個人で考えた仮説と検証結果

を説明し,集団で検討して見直す解釈(知識の再

構築)と,変更した自分の意見を文章にする論述

とを行った。このプロセスは学び合い学習として,

次の項で詳しく見ていくこととする。

プロセス4では,プロセス3で確認された知識

を全体の場で他の社会的事象に当てはめ解釈して

一般化し,発展課題について自分の考えを文章で

論述した。生徒はニースが地中海性気候であるこ

とから,他の同様の地域も「暖流」と「偏西風」

の影響を受けているかどうかを地図帳で確認し

た。そして「暖流と偏西風の影響を受ける地域は,

同緯度の地域よりも温暖である」という一般化さ

れた知識を獲得した。更に発展的な学習として,

本時の学習を通して気付いた他の自然の特色を挙

げ,それらがヨーロッパの人々の生活にどのよう

な影響を与えているかを予想することで,今後の

学習課題へとつなげた。例えば「ヨーロッパは偏

西風の影響で暖かいため,暖かい地方でしか育た

ないものでも育て

ることができる」

「川の流れがゆる

やかで,運河とし

て利用している」

などである。これ

らの記述は,次の

「ヨーロッパの産

業」につながる予

想といえる。

図3-4のノートの記述からは,課題解決の四つの

プロセスを意識して,思考の過程を記録している

様子を読み取ることができる。また図3-5に示した

他の生徒のノートからは,気付きメモに挙げた情

報を基に,自分の考えをまとめようとしているこ

とがわかる。

〈第4/5時 追究~国境を自由にこえられる暮らし~〉

次ページ図3-6は,本時の学習活動を構造化した

ものである。本時では,第3時までに習得した知識

と技能が活用できるまでに高められているかどう

かが問われる。

本時は,50分間という授業時間の中で生徒が各

自で考えた課題をグループで一つに絞り,その課

題について追究していく。時間短縮のため生徒に

はあらかじめ課題を考えてくることと,範囲が広

がりすぎないように,「ユーロ」「労働者」「産業」

の三つの中から一つの視点を選ぶことを伝えた。

また教科書・地図帳以外に資料が必要な場合は事

前に準備しておくことも指示した。この時間は,

グループごとに異なる課題を設定することから,

「一般化」の過程を省くこととした。

プロセス1では,各自が考えてきたEUについ

ての「なぜ~」という疑問をグループで説明し,

お互いの意見を共感的あるいは批判的に解釈して

一つの課題を設定した。このプロセスについては

学び合い学習として次の項で詳しく述べる。

プロセス2では,グループで設定した課題に対

して各自で仮説を立て,適切な資料を探して検証

図3-4 四つのプロセスを意識したノート

図3-5 気付きメモから仮説立案

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中学校 社会科教育 19

する解釈と,自分の考えを文章にまとめる論述を

行った。生徒は今までの授業で学んだように,ま

ず仮説を立てた。例えば「EUに所属しているの

に,ユーロを使わない国があるのはなぜか。」とい

う課題を設定したグループは,「自国の通貨が安定

しているためではないか。」と考え,教科書の本文

や資料,地図帳などを丹念に調べて検証していっ

た。ここでは図3-7のように,「考えをまとめるア

シストカード」を活

用する生徒の姿も見

られた。最初に仮説

を立てることができ

なかった生徒も資料

を調べながら答えを

予想し,更に詳しく

検証するための資料

を探した。

プロセス3では,自分の仮説と検証結果を説明

し,集団で検討して見直す解釈(知識の再構築)

と,変更した自分の意見を文章にする論述を行っ

た。このプロセスについては学び合い学習として

次の項で詳しく述べる。

プロセス4では,自分たちが設定した課題につ

いて調べた結果,新たに気付いたEUの現在の課

題を挙げ,その課題を解決するために自分ならど

うするかという,社会的な判断を伴った自分の考

えを文章に論述した。ある生徒は「EUの経済的

な域内格差をなくし,失業者を減らすこと」を現

在の課題として挙げ,その解決法として「技術力

のある国がない国に技術を提供し,工業を発展さ

せて働く場所を増やせばよい。」と記述した。

本時は第1時に比べ,指導者も生徒も次の活動を

意識して取り組むことができるようになり,学習

活動が滞りなく進むようになった。これまでの3

時間の授業を通して,構造化で明確になった課題

解決の四つのプロセスが,尐しずつ定着してきた

からであると考える。また根拠を示しながら自分

の意見を述べることができる生徒が増えた。「資料

読み取りのアシストカード」と「考えをまとめる

アシストカード」の成果であると考える。しかし

アシストカードを活用する頻度は,第1時に比べる

と尐なくなった。これは資料の読み取り方や考え

のまとめ方が,徐々に生徒に定着してきているた

めであると考える。

(2)学び合い学習の実際

この項では,「学び合い学習」の効果について,

学習の様子やノートの記述を基に,生徒の思考の

広がりや深まりという視点で分析する。更に「学

び合い学習」が,生徒の学習意欲を高めることに

どのようにつながったかを明らかにする。

〈第1/5時 ヨーロッパの自然〉

本時では,为にプロセス3で学び合い学習を行っ

た。学級には自由に意見を出し合える雰囲気があ

り,普段の学習形態とは異なることもあって,積

極的に発言する姿が見られた。

グループは4名を基本として,1名を司会,1名を

全体の場での発表者とした。司会者は「学び合い

学習の約束」を手元に置きながら,活動を進めた。

まず全員が自分の考えを述べた。各グループでは,

他の生徒に納得してもらうために言葉を選び,図

3-8のように地図を

根拠となる資料とし

て指し示しながら説

明する姿が見られ

た。また同じ意見で

あっても自分なりの

言葉で説明しようと

する姿も見られた。

図3-7 アシストカードを活用

する生徒

図3-8 根拠を示す生徒

第3章 世界の諸地域 第 2 節 ヨーロッパ州(5時間)

4 追究~国境を自由にこえられる暮らし~ (4/5)

本時の目標:EUの現状を理解し,現在の課題について追究する。

プロセス4:発展

EUが現在抱える課題について,あなたはど

うすればよいと思いますか? 発問

論述

プロセス1:課題設定

各自の考えた課題から,グループの課題を設定する

グループで考えた「EUのなぜ?」について

調べよう。またそこから見えてくる「現在の

EUの課題」は何か,考えよう。

発問

☞キーワード:ユーロ,労働者,

産業 解釈

プロセス2:仮説立案と検証

各自の仮説について,資料で確認する(検証)

各自の持つ情報から,仮説を立てる(仮説立案) 解釈

論述

☞キーワード:域内格差

プロセス3:交流と再構築

グループで話し合い,全体の場で発表する(交流)

自分の意見を見直す(知識の再構築)

説明

論述

☞資料:教科書p.64~p.66

地図帳p.45~p.49

説明

☝ワンポイントアドバイス ◇事前に課題を考える(大きなテーマ

は決めておく) ◇班で一つの課題を設定 ◇情報を「気付きメモ」に記入

☝ワンポイントアドバイス ◇「気付きメモ」を活用 ◇各国の経済格差に注目 ◇自分の意見を必ず文章化

☝ワンポイントアドバイス ◇他者が納得できる説明(根拠が大事) ◇他者の意見をしっかりメモ

☝ワンポイントアドバイス ◇社会的な判断力を問う →自分なりの意見を書く

解釈

解釈

<関心・意欲・態度>

○複数の情報を資料

から読み取り,ノー

トに書き留めてい

る。

<思考・判断・表現>

○自分の意見を,根拠

を示しながら具体

的に説明している。

<資料活用の技能>

○地図やグラフなど

適切な資料を選び,

必要な情報を読み

取っている。

<知識・理解>

○必要な知識を身に

付け,説明のときな

どに正しく使って

いる。

生徒がめざす姿(評価規準)

図3-6 「追究~国境を自由にこえられる暮らし~」の単位時間

構造図

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中学校 社会科教育 20

グループ内の生徒の意欲的な姿勢が,他の生徒の

意欲を引き出したと考えられる。

各自の意見に大きな違いは見られなかったが,

中には17ページに前述したように山脈や火山に注

目する生徒もおり,「なぜ,そう考えたのですか。」

「理由を説明してください。」というような質問も

あった。学び合い学習において,このようなやり

とりは重要である。なぜならこのような過程を経

て,生徒の思考は広がったり深まったりするから

である。例えば最初に「ニースには火山があるか

ら」と記述していた生徒は,学び合い学習の中で

偏西風の影響についての説明を受け,その方が説

得力があると考えて「偏西風があたっているから」

と自分の考えを変更した。

本時の課題については,早い段階で「暖流」と

「偏西風」の影響であることに気付く生徒が多

かった。そのため多様な考えを出し合い討議する

までには至らなかったが,生徒は学び合い学習の

中で「暖流」と「偏西風」の影響を共通認識し,

重要な知識であると意識することができた。この

ことから学び合い学習は,習得すべき知識を理解

する上でも有効であったと考える。図3-9は,全体

の場で出し合った各グループの意見を板書したも

のである。「暖流」と「偏西風」という用語が,複

数のグループから出されている様子から,そのこ

とが見て取れる。

図3-9 各グループの意見をまとめた板書

本時の取組では,生徒は自分の考えを伝えるこ

とや,他の生徒から学ぶことに充実感を得て,学

び合い学習に積極的に取り組もうとする意欲を高

めることができた。また,自分の考えを根拠とな

る資料を示しながら説明しようとする姿勢も生ま

れた。

〈第4/5時 追究~国境を自由にこえられる暮らし~〉

本時では,プロセス1とプロセス3で学び合い学

習を行った。ここでは,生徒が「気付きメモ」を

生かしてより的確に自分の意見をまとめ,他の生

徒に正確に伝えることができるように,次のよう

な学び合い学習の留意点を伝えた。

プロセス1では,まず全体で「加盟国」や「ユー

ロ」などEUの基本情報を確認した。これはクラ

ス全員のもつ情報をある程度揃えることで,学び

合い学習を円滑に進めることができると考えたた

めである。その後生徒はお互いに課題を出し合い,

他の生徒の意見をメモしていった。生徒からは「E

Uでは,なぜユーロを使っているのか。」「パスポー

ト無しで国境を越えられるメリットは何か。」など

の意見が出された。全員が課題を出し終えると,

メモを活用して一つの課題を選んだり,二つの課

題をまとめて一つにしようとしたりする姿が見ら

れた。検証することまで考慮して,「その課題につ

いて,調べられる資料はありますか。」と質問する

生徒もいた。この場面では他の生徒たちの出した

様々な課題を注意深く聞いてメモを取ることで,

多様な考えに気付くことができたと考える。

プロセス3では,具体的な根拠となる資料を示し

ながら自分の考えを述べることに重点を置いた。

「なぜ労働者がフランスに集まるのか。」という課

題を設定したグループでは,第3時「ヨーロッパの

産業」でフランスでは古くから工業が盛んである

と学んだことから,「フランスには工場(働く場所)

が多くあるのではないか。」という意見が出て,検

証のための資料を探した。その結果このグループ

は,図3-10のノートに見られるように,ヨーロッ

パ各国の工業生産額を表した地図をはじめとして

複数の資料を根拠として提示した。

図3-10 根拠となる資料を示したノート

ここからは,具体的に根拠となる資料を示して

説明しようとする姿勢を見取ることができる。ま

た「なぜEUでは,ユーロという共通通貨を使っ

ているのか。」という課題を設定したグループで

は,「争いの時代に戻りたくないから。」や「両替

の手間を省くため。」など,時間内でまとめきるこ

とができないほどの様々な意見が出た。グループ

内で熱心なやりとりが行われたことがうかがえ

○「気付きメモ」に書く情報は,できるだけ短いキーワード

やキーセンテンスにし,それを基に自分の意見をつくる。

○短くてもよいので,自分の考えを必ず文章にする。

○具体的な根拠を挙げる。

○他の生徒の意見をしっかり聞いてメモする。

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中学校 社会科教育 21

る。このような学び合い学習により,コミュニケー

ション能力が高まっていくことが期待できる。

本時の取組ではグループごとに異なる課題に取

り組んだ結果,生徒は今までの授業以上に様々な

意見に触れる機会を得て,より多様な考えに気付

くことができた。更に自分たちで設定した課題に

取り組むことで,他の生徒の意見を聞き,協力し

て一つの課題を解決しようとする様子が今まで以

上に見られた。

第2節 「世界のさまざまな地域の調査」の実践

授業

(1)構造化の視点から

本項においても,前節第1項と同様に構造化の視点

から授業の分析を行う。「ヨーロッパ州」の学習以

後も,生徒は「アフリカ州(3時間)」「北アメリ

カ州(5時間)」「南アメリカ州(4時間)」「オセ

アニア州(3時間)」「アジア州(6時間)」の単元

において,課題解決の四つのプロセスで構造化し

た授業に取り組んできた。本単元は,生徒がそれ

ぞれの単元で身に付けた知識や技能を活用しなが

ら,自らが選択した国を設定した課題に沿って探

究していく内容となっている。図3-11は,本単元

を構造化したものである。この構造図からわかる

図3-11 「世界のさまざまな地域の調査」中単元構造図

ように,今までの学習活動では1単位時間で行って

きた四つのプロセスの中のプロセス1からプロセ

ス3に当たる過程を,本単元では4時間をかけて扱

う。そのため各単位時間については,これまでど

おりのプロセスの内容で構成することが困難とな

る。そこで,今までの学習活動の流れを大切にす

るため各単位時間については四つのプロセスで構

造化し,各プロセスの内容についてのみ次のよう

に変更した。

本単元は,「課題を設定する」「資料を集めて分

析する」「レポートを作成する」「発表する」とい

う流れで進める。今回特に,第2時に当たる「資料

を集めて分析する」活動が重要であると考えた。

なぜなら課題解決のための適切な資料を選び,そ

こから正確に情報を読み取ってキーワードやキー

センテンスとしてまとめる「解釈」の部分を基盤

としてレポート作成や発表を行うため,この活動

が以後の学習活動を左右する最も重要なポイント

だといえるからである。

そこで本単元の学習を始めるに当たって,調査

のための十分な資料を準備することを目的に,校

区の小学校及び公立図書館の協力を得た。小学校

と図書館からは,この単元に関わる書籍を30~40

冊借り,図3-12のように事前に教室や階段の踊り

場に設置すること

で,常に生徒が活

用できるようにし

た。生徒は,朝読

書の時間や休憩時

間,放課後の時間

を利用して事前に書籍を読み,調べる国や課題に

ついて考えていた。時間を有効に使い,学習意欲

を高めるという点で効果的であったと考える。

〈第1/4時 調べる国や地域とテーマを決める〉

次ページ図3-13は,本時の学習活動を構造化し

たものである。プロセス1では,中単元構造図を用

いて単元全体の流れとねらいをおさえるととも

に,第3時に作成するレポートの完成形を教科書で

確認し,学習の出口を把握した。これによって,

生徒は4時間の学習活動について明確なイメージ

をもって取り組むことができた。

プロセス1:各単位時間におけるねらいや基本情報などの

重要事項の確認

プロセス2:各単位時間の中心課題の取組

プロセス3:グループ及び全体での交流

プロセス4:次の学習につながる課題

図3-12 踊り場に設置した書籍

第1部 世界のさまざまな地域 第4章 世界のさまざまな地域の調査1~4節(4時間)

【単元構造図】

世界のさまざまな地域の地域的特色を,設定した为題に沿って追究する中で,地理的認識を深め,調査の視点や方法を身に付ける。

単元の到達目標

世界のさまざまな地域の地域的特色をとらえる为題を設定し,適切な資料を

用いて追究する中で,地理的認識を深め,調査の視点や方法を身に付けよう。

単元の課題

知識・技能の習得と活用

これまでの地理の学習を通して学ん

だことをもとに,調べる国と視点を決

め,適切な課題を設定して,調査の方

法を考える。

①調べる国や地域とテーマを決める

書籍やインターネットなどから適切

な資料を選び,必要な情報を収集して

分析する。

②資料を収集し,分析しよう

調査の結果を,ICTなどを活用し

て根拠を示して説明し,互いに評価す

る。

④調べたことをまとめて意見交換しよう 2

収集・分析した情報を活用して,調

査の結果をわかりやすくレポートにま

とめる。

③調べたことをまとめて意見交換しよう 1

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中学校 社会科教育 22

プロセス2では,調べたい国の基本情報を収集

し,キーワードやキーセンテンスとしてまとめる

解釈と,そこから課題を考え設定して文章にする

論述を行った。課題を設定する際の留意事項とし

て,次のような点を生徒に提示した。

これによって,生徒はどのような事実に基づい

て,どのような形で課題を設定すればよいのかと

いう具体的なイメージをもつことができた。更に

指導者は,次のような順番と表現で板書を行った。

これは課題設定から必要な資料の条件を考える

までの流れを具体化するためであり,思考の過程

を表すものでもある。これを記述することで,必

要な資料を選択する手助けともなり,レポートの

「動機と目的」及び「調査の方法」を書く下準備

にもなった。ただし,「国」と「視点」はこの順番

に考える必要はない。なぜなら,「サッカーが好き

だからブラジルを調べる」という場合もあるから

である。生徒は教科書や教室に準備された書籍を

用いたり,普段から興味をもっていることに基づ

いたりして調べる国を決め,図3-14のように基本

情報を「気付きメモ」としてノートに書き出し,

課題を考えた。この生徒は,テレビのニュースで

ブータンの国王夫妻が来日している様子を見て興

味をもち,「世界一幸せな国ブータンの人々の生活

は,どのようなものか」という課題を設定した。

図3-14 「気付きメモ」に書かれた基本情報

プロセス3では,設定した課題と準備する資料

についてグループで説明し,お互いに意見交換し

て自分の考えを見直す解釈(知識の再構築)と,

変更した自分の意見を文章にする論述を行った。

このプロセスについては,学び合い学習として次

の項で詳しく述べる。

プロセス4では第2時に向けて準備するため,教

科書を参考に調査方法を具体的に考えて書き挙げ

る解釈と論述を行った。学校図書館の利用とイン

ターネットによる検索を挙げる生徒が多かった。

本時では,前述のブータンについて課題を設定

した生徒のように,「気付きメモを基に,自分の考

えを文章にまとめる」という技能が,身に付いて

きていることがわかった。

〈第2/4時 資料を収集し,分析しよう〉

次ページ図3-15は,本時の学習活動を構造化し

<課題設定の条件>

○その課題を追究すると,ねらいが達成できること

○具体的な事実に基づいて設定すること

○自分なりの予想を立てることができること

○検証が可能であること

○やる気をもって取り組めるものであること

<課題の形>

○「なぜ~なのか」(理由)

○「どのように~なのか」(特色)

○「どうすれば~になるのか」(判断)など

<課題づくりの例>

○100円ショップの商品はほとんど外国製である。(事実)

なぜ日本では外国の製品が増加したのだろう。(課題)

<注意事項>

○一問一答で答えられるような課題は避けること

「どの国を調べますか」(国)

「その国のどんなことに興味がありますか」(視点)

「そのことについてどんな疑問をもっていますか」(課題)

「どのようなことを調べれば,その疑問は解決しますか」

(調べる内容)

「調査にはどのような資料が必要ですか」(必要な資料)

第4章 世界のさまざまな地域の調査(4時間)

第1節 調べる国や地域とテーマを決める(1/4)

本時の目標:これまでの地理の学習を通して学んだことをもとに,調べる国と視点を決め,適切

な課題を設定して,調査の方法を考える。

プロセス1

単元の流れとねらいを確認する

今までの学習をもとに,調べたい国と視点を

決めて,課題を設定しよう。 発問

☞キーワード:課題設定,資料収集, 資料分析,レポート 作成,発表など

プロセス2

設定した課題について,調べる内容と必要な資料を考える

教科書などから情報を読み取り,国,視点,課題を考える

解釈

論述

☞キーワード:工業生産量,農業生産量, 人口分布など

☞資料:教科書,地図帳

☝ワンポイントアドバイス ◇調査の手順とレポートの完成形を

確認 →全体の流れと学習の出口を把握

☝ワンポイントアドバイス ◇情報を「気付きメモ」に記入 ◇自分の疑問をもとに課題設定 ◇調査内容は複数考える ◇自分の意見は必ず文章化 ◇資料に必要な条件を書き挙げる

☝ワンポイント・アドバイス ◇他人が納得できる説明(根拠が大事) ◇しっかりメモを取る

プロセス4

課題解決のための調査方法を考えよう。 発問

☞キーワード:学校図書館,地域の 図書館,インターネ

ットなど

☝ワンポイントアドバイス ◇具体的に書き挙げる

プロセス3

課題と資料について,グループで話し合う

自分の課題と資料について見直す

説明

論述

解釈

☝ワンポイントアドバイス ◇設定の理由を簡潔に発表 ◇他者が納得できる説明(根拠が大事) ◇他者の意見をしっかりメモ

解釈

論述

<関心・意欲・態度>

○今までの学習や自らの興味に基づいて,国,为題,課題を設定している。

<思考・判断・表現>

○自分の意見を,根拠を示しながら具体的に説明している。

<資料活用の技能>

○地図やグラフなどから,必要な情報を読み取っている。

<知識・理解>

○課題設定の仕方を身に付け,説明や論述のときに使っている。

生徒がめざす姿(評価規準)

グループ討議で気付いたことや変更点を,全体で出し合う

図3-13 「調べる国や地域とテーマを決める」の単位時間

構造図

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中学校 社会科教育 23

たものである。この授業は「資料の収集と分析」

が中心課題であることから,学校図書館で行うこ

ととした。小学校及び公立図書館から借りた全て

の書籍は,学校図書館に集めておいた。

図3-15 「資料を収集し,分析しよう」の単位時間構造図

プロセス1では,調べる国についての基本情報

を確認した。仮説を立てるためにはある程度の基

礎となる情報が必要であり,これによって具体的

な予想が可能となった。

プロセス2では,基本情報を基に設定した課題

に対して仮説を立て,それを検証する資料を探し

て必要な情報を読み取る解釈と,自分の考えを文

章にする論述を行った。生徒は図3-16のようにあ

らかじめ決めていた書籍

を手に取り,情報を読み

取ってノートに書き写し

た。インターネットによ

る資料を準備している生

徒もいた。資料を読み取

るうちに,課題に修正を

加えたり,新たな資料を

求めて他の書籍を探したりする生徒も現れた。こ

のように,様々な情報を素早く手に入れることが

できるということから,学校図書館で行う学習活

動は有効であると考える。また重要な情報に下線

を引く生徒もいた。こうすることで情報をキー

ワードやキーセンテンスとして抜き出し,自分の

意見としてまとめる際に活用できる。図3-17と図

3-18は,「スウェーデンは,なぜ税金が高いのか。

そして,その税金を何に使っているのか。」という

課題を設定した生徒が,書籍から抜き出した情報

と資料の一部である。

図3-17 抜き出した情報のメモ

これまでの学習

活動で習得した資

料読み取りの技能

が生かされている

と考える。またイ

ンターネットで得

た情報について,

「ピンポイントで

検索できるが,情報に広がりがなくて面白くない」

と指摘する生徒もいた。一つの情報だけに頼るこ

とで知識が偏ることに気付き,多様な見方や考え

方を身に付け始めたことがうかがえる。

プロセス3では,選択した資料と検証の結果を説

明し,それが課題に適したものになっているかど

うかお互いに意見交換して自分の考えを見直す解

釈(知識の再構築)と,変更した自分の意見を文

章にする論述を行った。各自が選択した国と設定

した課題については,カードに書いて提出した。

このプロセスについては,学び合い学習として次

項で詳しく述べる。

プロセス4では,レポートのまとめ方を教科書で

確認し,用いる資料や配置,文章の内容を考える

解釈を行った。

本時では,「重要な情報を資料から読み取り,

キーワードやキーセンテンスとして書き出す」と

いう技能や,「検証に必要な資料を探し出す」技能

が,生徒に定着してきている様子が見取れた。

〈第3/4時 調べたことをまとめて意見交換しよう1〉

次ページ図3-19は,本時の学習活動を構造化した

ものである。この授業についても,自分の調査で

不十分な点が判明したり,検証結果を修正する必

要が生じたりすることを考え,前時と同様に学校

第4章 世界のさまざまな地域の調査(4時間)

第2節 資料を収集し,分析しよう(2/4)

本時の目標:書物やインターネットなどから適切な資料を選び,必要な情報を収集して分析する。

プロセス1

準備した資料から基本情報を確認する

準備した資料から,必要な情報を集めて分析

しよう。 発問

☞キーワード:比較,変化,関わり など

プロセス2

各自の仮説について,資料で検証する

仮説を立てて,根拠となる資料を探す 解釈

論述

☞キーワード:社会の変化,日本との関 係,現在の課題など

☞資料:教科書,地図帳

☝ワンポイントアドバイス ◇情報を「気付きメモ」に記入 ◇前時に考えた必要な条件に基づいて

情報を確認 ◇キーワードを意識して分析

☝ワンポイントアドバイス ◇複数の資料に基づき根拠を明確化 ◇アシストカードを活用 ◇自分の意見を必ず文章化

☝ワンポイント・アドバイス ◇他人が納得できる説明(根拠が大事) ◇しっかりメモを取る

プロセス4

レポートのまとめ方を確認しよう。 発問

☞キーワード:タイトル,設定理由,調 査方法,結果,まとめ (考察),参考資料など

☝ワンポイントアドバイス ◇使用する資料を確認

プロセス3

資料と検証結果が適切かを,グループで話し合う

自分の意見を見直す

説明

論述

解釈

☝ワンポイントアドバイス ◇各自の意見を簡潔に発表 ◇他者が納得できる説明(根拠が大事) ◇他者の意見をしっかりメモ

解釈

<関心・意欲・態度>

○複数の情報を資料から読み取り,ノートに書いている。

<思考・判断・表現>

○自分の意見を,根拠を示しながら具体的に説明している。

<資料活用の技能>

○地図やグラフなどから,必要な情報を読み取っている。

<知識・理解>

○適切な資料の選び方を身に付け,必要な情報を収集し,分析している。

生徒がめざす姿(評価規準)

グループ討議で気付いたことや変更点を,全体で出し合う

図3-16 資料から書き写す生徒

図3-18 抜き出した資料(一部)

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中学校 社会科教育 24

図書館で行うことにした。

プロセス1では,前時のプロセス4で考えたレ

ポートの形式や用いる資料,文章の内容を確認し

た。その際,完成したレポートの具体的なイメー

ジをもつことができるように,次に示す内容項目

で作成した下書き用レポート用紙を配布した。

プロセス2では,レポートにまとめる内容を「結

果や考察が,課題に沿った内容か」「資料は適切か」

「自分の考えと根拠が明確か」「表現は適切でわか

りやすいか」という視点で見直す解釈を行った。そ

してその解釈に基づいて,文章などに修正を加え

てレポートにまとめる論述を行った。生徒は,自

分のノートの記述を基にレポートの下書きを進め

た。次に示すのは,23ページに前述したスウェー

デンについて調べた生徒の記述の一部である。

書籍から抜き出した情報が生かされ,自分なり

の表現でまとめられているのがわかる。

プロセス3では,グループで下書きを見せながら

説明し,それを前述の視点から考えて意見交換し

て自分の考えを見直す解釈(知識の再構築)と,

レポートに修正を加え清書する論述を行った。こ

のプロセスについては,学び合い学習として次の

項で詳しく述べる。

プロセス4では,レポートの内容をわかりやすく

伝えるための説明の工夫を考え,発表用の要点メ

モをまとめる解釈と論述を行った。発表に際して

はレポートを読み上げるのではなく,要点をまと

めて伝えるよう助言した。

本時では,「資料から得た情報に基づいて,自分

の考えを自分なりの表現で文章化する」という論

述の技能が定着してきている様子が見て取れた。

〈第4/4時 調べたことをまとめて意見交換しよう2〉

図3-20は,本時の学習活動を構造化したもので

ある。

プロセス1では,「内容が正確に伝わるか」「資

料は適切か」「課題に適した考察か」「わかりやす

く伝える工夫はあるか」という発表の評価の視点

で,発表の内容や説明の工夫を確認した。本時の

スウェーデンの消費税は25%と,とても高いです。その

理由を調べたところ,世界最高水準の福祉運動に使われて

いるため,高いことがわかりました。

○タイトル(課題) ○調査の動機と目的

○調査の方法 ○調査した結果

○資料 ○まとめ(考察,感想)

○参考にしたもの(出典)

第4章 世界のさまざまな地域の調査(4時間)

第3節 調べたことをまとめて意見交換しよう1(3/4)

本時の目標:収集・分析した情報を活用して,調査の結果をわかりやすくレポートにまとめる。

プロセス1

調べたことをわかりやすくレポートにまと

めよう。 発問

☞キーワード:タイトル,設定理由,調 査方法,結果,まとめ (考察),参考資料など

プロセス2

自分のレポートを見直す

グループで下書きを見せ合い,内容と資料について話し合う

解釈

論述

☞キーワード:資料,考察など

☞資料:教科書

☝ワンポイントアドバイス ◇キーワードを意識して作成 ◇A4の用紙1枚に収める ◇写真やグラフの活用

☝ワンポイントアドバイス ◇見やすさ,資料の活用,根拠の明確

さなどの視点で工夫・確認

☝ワンポイントアドバイス ◇他人が納得できる説明(根拠が大事) ◇他者の意見をしっかりメモ

プロセス4

レポートの内容が正確に伝わるような発表の

仕方を工夫しよう。 発問

☞キーワード:実物投影機の活用, 補足説明など

☝ワンポイントアドバイス ◇発表の要点を箇条書きする

プロセス3

グループ討議で気付いたことや変更点を,全体で出し合う

レポートを清書する

説明

論述

解釈

発表用メモを作る

解釈

論述

<関心・意欲・態度>

○自分なりに工夫して,レポートをまとめている。

<思考・判断・表現>

○自分の意見を,根拠を示しながら具体的にレポートにまとめている。

<資料活用の技能>

○地図やグラフなどの資料から必要な情報を読み取り,レポートにまとめている。

<知識・理解>

○レポート作成の仕方を身に付け,レポート作成に生かしている。

生徒がめざす姿(評価規準)

レポートの形式や用いる資料,文章を確認する

レポートの下書きをする

第4章 世界のさまざまな地域の調査(4時間)

第3節 調べたことをまとめて意見交換しよう2(4/4)

本時の目標:調査の結果を,ICTなどを活用して根拠を示して説明し,互いに評価する。

プロセス1

レポートの内容が正確に伝わるように工夫し

て発表し,お互いに評価しよう。 発問

☞キーワード:実物投影機,補助説 明など

プロセス2

発表の仕方を見直す

グループ内で発表し,評価し合う 説明

解釈

論述

☞キーワード:課題設定の理由,根拠の明 確さ,考察の内容など

☞資料:評価表

☝ワンポイントアドバイス ◇説明内容を文章化 ◇視覚的な工夫 ◇評価の観点を示す(評価表の作成)

☝ワンポイントアドバイス ◇レポートを読むのではなく,ポイン

トをまとめて説明

☝ワンポイント・アドバイス ◇他人が納得できる説明(根拠が大事) ◇しっかりメモを取る

プロセス4

学習の成果と課題をまとめよう。 発問

☞キーワード:資料の選択,情報の 収集・分析,まとめ 方,発表の工夫など

☝ワンポイントアドバイス ◇次の学習に生かせる自己評価

プロセス3

グループの代表者を決め,全体の場で発表する

気付いた点について交流する

説明

論述

解釈

☝ワンポイントアドバイス ◇グループでの評価を生かして発表 ◇他人が納得できる説明(根拠が大事) ◇他人の意見をしっかりメモ

解釈

論述

<関心・意欲・態度>

○自分なりに工夫し,

発表している。

<思考・判断・表現>

○自分の意見を,根拠

を示しながら具体

的に説明している。

<資料活用の技能>

○地図やグラフなど

の資料を活用し,説

明している。

<知識・理解>

○説明の仕方を身に

付け,発表に生かし

ている。

生徒がめざす姿(評価規準)

評価の視点で発表内容と方法を確認する

図3-19 「調べたことをまとめて意見交換しよう1」の

単位時間構造図

図3-20 「調べたことをまとめて意見交換しよう2」の

単位時間構造図

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中学校 社会科教育 25

学習活動ではグループ全員と各グループの代表者

全員について評価するため,時間短縮を考え図

3-21のワークシートを準備し配布した。

プロセス2とプロセス3では,レポートの内容を

説明し,他の生徒の発表を評価するとともに自分

のレポートを見直す解釈と,修正を加えて仕上げ

る論述を行った。この二つのプロセスについては,

学び合い学習として次の項で詳しく述べる。

図3-21 評価用ワークシート(一部)

プロセス4では,この単元を通じて「できるよ

うになったこと」と「これからできるようになり

たいこと」を挙げて,学習の振り返りを行った。

以下は生徒の記述の一部である。

これらからは,「正確に資料を読み取ること」「明

確な根拠に基づいて自分の考えを文章にまとめる

こと」「他者の意見を参考にして,自分の考えを広

げたり深めたりすること」の重要性を感じ取った

生徒の姿が見られた。また,今後も意欲的に学習

に取り組もうとする様子も明らかになった。

(2)学び合い学習の実際

本項においても,前節第2項と同様に「学び合

い学習」の視点から授業の分析を行う。

〈第1/4時 調べる国や地域とテーマを決める〉

本時では,为にプロセス3で学び合い学習を行っ

た。ここでは「設定した課題は適切か」「準備する

資料は適切か」という二点について意見交流した。

生徒は地理的分野の学習の中で,初めて自ら調

べる国を決め課題を設定した。課題の設定の仕方

については示したものの,「本当にこの課題や資料

でいいのだろうか」という不安をもっていると考

えられる。そこでその不安を解消し,自信をもっ

て第2時の学習活動に取り組むことができるよう

に,学び合い学習を位置付けた。

意見交流の中で,生徒はお互いの課題と資料に

ついて考えを述べ合った。自分の課題や資料に不

安をもつ生徒は,他の生徒の課題や資料に対して

意見を述べにくかった。しかし,他の生徒の課題

の設定の仕方や資料の選び方を参考にすることは

できた。また説明をする過程でより適切な課題に

気付き,自ら修正する場面も見られた。例えばサ

ウジアラビアを選び「石油を使った工業には,ど

のようなものがあるか」という課題を設定してい

た生徒は,よく考えた末に「石油で儲かったお金

は,経済にどのような影響を及ぼしているか」と

いう課題に変更した。より学習を深めることがで

きる課題になったと考える。資料についても,2

枚の写真を提示してどちらの写真が適切か相談し

たり,「そこはグラフより写真の方が説得力がある

と思う。」と助言したりする場面が見られた。

〈第2/4時 資料を収集し,分析しよう〉

本時でも,为にプロセス3で学び合い学習を行っ

た。本時を始めるに当たって,前時に提出した国

と課題を書いたカードを図3-22のようにあらかじ

め図書館に掲示してお

いた。これは,より多

くの課題を参考にして

多様な考えに気付き,

自分の考えを見直す機

会をもつためである。

授業開始前に図書館に

来た生徒は,興味をも

って他の生徒の設定し

た課題を見ていた。

本時の交流のポイン

《できるようになったこと》

○自分の疑問を課題にすること

○自分で適切な資料を探して調べること

○自分の考えをまとめること

○調べたことを根拠として自分の意見を言うこと

《これからできるようになりたいこと》

◇もっと納得してもらえるように伝えること

◇もっと早く調べられるようになること

◇発表をしっかり聞きとって,そのことについて自分も考

えること

◇もっと適切な資料を選ぶこと

図3-22 掲示されたカード

【調べたことをまとめて意見交換しよう2】

◎次の観点で,4段階の評価をつけましょう。「良かった点」と「こうすればもっと良くなった点」

の両面から,コメントも書きましょう。

<観点1>内容が正確に伝わってきたか。

(4:正確に伝わってきた,3:だいたい伝わってきた,2:あまり伝わってこなかった,1:伝わってこなかった)

<観点2>資料は適切か。

(4:適切だった,3:だいたい適切だった,2:あまり適切ではなかった,1:適切でなかった)

<観点3>課題に適した考察になっていたか。

(4:課題に適していた,3:だいたい適していた,2:あまり適していなかった,1:適していなかった)

<観点4>わかりやすくするための工夫が見られたか。

(4:様々な工夫が見られた,3:いくつか見られた,2:ほとんど見られなかった,1:見られなかった)

課題:レポートの内容が正確に伝わるように工夫して発表し,お互いに評価しましょう。

名前 観点 1 観点 2 観点 3 観点 4 コ メ ン ト

◎グループの学び合いで気付いたこと

◎変更した点と理由

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中学校 社会科教育 26

トは,「検証結果が課題に適したものであるか」と

「資料は適切か」である。「文章が長すぎて,要点

がわからない。」などの指摘を受けた生徒は,修正

に取り掛かった。また説明しているうちに資料が

適切でないことに気付いた生徒は,改めて書籍を

開き新たな資料を探した。検証する資料が見つか

らず,課題から修正する生徒も見られた。

本時の取組で,学び合い学習が自らの考えを見

直す上で有効であることがわかった。また,学習

を深めようとする意欲にもつながったと考える。

〈第3/4時 調べたことをまとめて意見交換しよう1〉

本時では,为にプロセス3で学び合い学習を行っ

た。交流のポイントは,24ページに前述した「レ

ポートを見直す視点」である。生徒は各グループ

で各自のレポートを見せながら,要点を簡潔に説

明していった。「レポートの文章からは,要点がつ

かみにくい。」という指摘を受けた生徒が,修正を

加えるような場面も見られた。この学び合い学習

を通してレポートの下書きを完成させた生徒は,

自信をもって清書に取り組んだ。図3-23は,完成

したレポートの一例である。

資料に用いたグラフや調査の結果と考察は,課

題に沿った適切なものとなっている。これと同様

に,「学び合い学習」の結果,深まりの差はみられ

たものの,多くの生徒が適切な資料を用いて課題

に沿った考察をまとめていた。このことから,生

徒たちは今までの学習を通して,他の生徒の意見

を参考にして自分の考えを見直すことで,より適

切に自分の考えを文章にまとめることができるよ

うになってきたのではないかと考える。

〈第4/4時 調べたことをまとめて意見交換しよう2〉

本時では,プロセス2とプロセス3で学び合い学

習を行った。生徒はまずグループの中で,自分の

調べた内容について,2分以内で発表した。他の生

徒は25ページ図3-21のワークシートを用いて,そ

れぞれの発表について評価した。評価は前述の「発

表の評価の視点」に沿って4段階で行い,「よかっ

た点」と「こうすればもっとよくなった点」につ

いて必ず短いコメントを入れることにした。こう

することで,他の生徒の発表を,より集中して聞

くことができた。各自の発表が終わると,評価の

コメントに基づいて交流した。コメントを書くこ

とで具体的な意見を交流することができ,発表者

は多様な考えに気付いて自分のレポートを見直す

ことにつながった。

グループでの発表の後,各グループの代表者が

全体の場で発表し,他の生徒はグループでの発表

と同様にそれぞれを評価した。発表生徒は図3-24

のように教材提示装置を使い,資料を示しながら

発表した。

図3-24 教材提示装置を用いて発表する生徒

図3-25 発表の評価の一例

図3-23 完成したレポートの一例

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中学校 社会科教育 27

前ページ図3-25は,評価の一例である。「資料

の図をもっと活用したらよい。」「タイトルと考察

がずれている。」などのコメントから,評価の観点

を踏まえて聞き取っていることがわかる。このこ

とが生徒の振り返りにもつながり,より考えを広

げたり深めたりすることができたと考える。

本時の取組は,生徒の「他の生徒が納得できる

よう,明確な根拠を示しながら話そう」「他の生徒

の意見をしっかり聞いて,自分の考えに生かそう」

とする様子から,「話す力」と「聞く力」の両面を

育成する上で有効であり,コミュニケーション能

力を高める上でも重要であると考える。

以上,本章では「ヨーロッパ州」と「世界のさ

まざまな地域の調査」の単元における言語活動の

充実を図った実践授業を通じて,生徒がどのよう

に変容したかを述べた。第4章では,「単元・単位

時間の構造化」「アシストカード」「学び合い学習」

の成果と課題について明らかにする。そしてそれ

らを踏まえ,これからの中学校社会科の学習活動

において工夫したい点について述べる。

第4章 主体的に学習に取り組む生徒の育

成をめざして

第1節 研究の成果と課題

実践授業の最後に,生徒は「ヨーロッパ州」か

ら始まった取組を通して,自分にどのような力が

ついたのかという振り返りを行った。その記述を

参考にしながら,授業での生徒の様子やノートの

記述の変容から見取ることができた本研究の成果

と課題について述べる。

(1)課題解決に導く構造化

次に挙げるのは「世界のさまざまな地域の調査」

の振り返りにおける生徒の記述である。

ほかにも「自分から課題を決めて,解決できる

ようになった。」「自分だけで調べ学習ができるよ

うになった。」などの記述が見られた。これらの記

述から,構造化した授業を継続したことで課題解

決の四つのプロセスの流れを理解して取り組むこ

とができるようになり,「自分の力で課題が解決で

きる」と実感したのではないかと考える。課題解

決のプロセスが定着してきていることは,次のよ

うな授業での様子からも見取ることができる。

まず「次は何をするんですか。」という生徒から

の質問が,ほとんどなくなった。指導者が簡単な

指示を出すだけで,次の活動へと進んでいけるよ

うになった。これは授業の流れを理解して取り組

んでいるからだと考える。それに伴って,指導者

が指示と説明に費やす時間が短くなった。実践授

業を始めたころに比べると,「世界のさまざまな地

域の調査」の単元に入るころには,およそ半分程

度になった。これは生徒の活動時間が増えたこと

を意味する。生徒はゆっくりと時間をかけて,課

題に取り組むことができるようになった。このこ

とは,「解釈」「説明」「論述」という言語活動を充

実させる上で,大変重要である。ここにも「構造

化」の効果を見取ることができる。

また,各プロセスの重要性を意識した記述も多

く見られた。例えば「しっかりと課題を設定する

ことが大切だと知った。」「最初の課題設定が大事

なんだと思いました。」などである。これらの振り

返りを記述した生徒は,適切な課題設定ができな

かったために,当初必要な情報を手に入れること

ができなかった。最初に「中国の経済」という課

題を設定した生徒は,どのような資料を探せばよ

いのか考えることができず,後に他の生徒の助言

を受けて「自動車産業から見る中国経済の成長」

と課題を修正することで学習活動を進めることが

できた。このように課題を修正したり変更したり

することで課題解決にたどり着くことができた経

験から,生徒は「学習活動全体を見通して,最初

に適切な課題を設定する」ことの大切さに気付い

たのである。このことは,生徒が将来自らの課題

を解決する際に,その課題を的確に把握する上で

役立つであろう。ここにも「構造化」の効果を見

取ることができる。

更に,それぞれのプロセスで行う言語活動を意

識した記述も多く見られた。例えば「文章をよく

読み取れるようになった。」「適切な資料を選べる

ようになった。」「調べたことを自分なりにまとめ

ることができるようになった。」「考察が書けるよ

うになった。」など,「解釈」と「論述」を意識し

た記述である。「解釈」や「論述」における生徒の

変容は,「世界のさまざまな地域の調査」の単元に

至るまでのノートの記述から見取ることができ

自分でそれぞれ課題を設定して調べ学習をするのは,難

しかったです。テーマや課題に沿った資料を見つけるのに

手こずり,とても時間がかかりました。でも,テーマに沿っ

た資料が見つけられたので良かったです。今回のような学

習ができたのは,今までの地理の授業の積み重ねがあった

からだと思います。

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中学校 社会科教育 28

る。次に挙げるのは,前述の「調べたことを自分

なりにまとめることができるようになった。」と記

述した生徒の,実践の5時間目と12時間目の記述を

比較したものである。

12時間目の記述では,アメリカで大規模な農業

が行われている事実と資料集の「近年は,地下水

のくみ上げすぎが問題になっている。」という文章

を参考にして,これまでより深く考え,自分なり

の文章にまとめることができるようになってきて

いるのがわかる。更に5時間目に比べて文章の内容

が充実し,記述量が増えていることから,文章化

に対する苦手意識が薄れ,学習活動への意欲が向

上していることも見取ることができる。このよう

に深く考え,記述量が増えた例は,他の生徒のノー

トでも確認することができた。

以上のことから,「構造化」により課題解決の四

つのプロセスを明確にし,言語活動を位置付けた

授業を継続して行うことが,言語活動を充実させ,

生徒が課題解決の道筋を理解し,思考を深め,意

欲をもって取り組むことにつながることが明らか

になった。一方で,各プロセスの適切な時間配分

をどのように考えるかという課題もみえてきた。

思考力を育むためには,生徒が個人で考える時間

が必要である。しかし思考を広げ深めるためには,

「学び合い学習」にも時間をかけなければならな

い。本研究では個人で活動する時間を重視し,「学

び合い学習」よりも多く配分している。今後は各

単位時間のねらいや学級の状態などに応じて,そ

れぞれのプロセスに軽重を付けて時間配分を考え

たり,単位時間によっては一部のプロセスを省く

ことで,他のプロセスに配分する時間を確保した

りというような,柔軟な考え方で授業を展開し,

検証を重ねていく必要があると考える。

(2)学習の自立をうながすアシストカード

ここでは,3種類のアシストカードを活用するこ

とで,生徒の学習活動がどのように変容したかに

ついて述べる。

「学習の流れがみえるアシストカード」は,実

践授業を始めるに当たって,四つのプロセスとそ

れぞれに位置付けた言語活動について説明した

後,ノートに貼付し,いつでも見ることができる

ようにした。生徒は必要に応じて,次のプロセス

の活動内容の確認をしていた。前項で四つのプロ

セスが定着してきたことについて述べたが,常に

携帯しておくことにより,各プロセスで行う活動

のねらいや内容を点検し,理解して取り組むため

に有効であったと考える。

「課題解決の方法がみえるアシストカード」は,

ラミネートシートを用いて「資料読み取りのアシ

ストカード」と「考えをまとめるアシストカード」

を裏表で1枚にして作成し,授業において常に携帯

するようにした。次に挙げるのは,ある生徒の気

付きメモである。

最初の授業に比べて,読み取る情報量が大幅に

増えていることがわかる。また前項でも述べたが,

資料の読み取りや考えの文章化ができるように

なったと実感している生徒は多い。「~だと考え

る。理由は~だから。」という話型が定着したこと

も,自分の考えを文章化しやすくなった理由の一

つである。これらは「課題解決の方法がみえるア

シストカード」の効果であると考える。

このカードについては,前章で実践授業が進む

につれて活用の頻度が減尐したことから,資料を

読み取ったり自分の考えを文章にまとめたりする

技能が生徒に定着してきたからではないかと述べ

た。このように技能が定着し,カードによる支援

の必要がなくなれば,手放していくことが望まし

いと考える。そうすることが,为体的な学びにつ

《1時間目》

○暖流と偏西風

《3時間目》

○アルプス山脈より南…地中海農業

○北…混合農業(ヨーロッパのほとんど)

○さらに北…酪農

《5時間目》

○国土の大半が亜寒帯 ○旧ソ連

○ロシアの政治の中心=モスクワ ○多民族

○面積は日本の45倍 ○資源が豊富

○東西で9時間の時差

○ロシア→日本への輸入は40%が原油

《5時間目》

◇課題

「ロシアはなぜ秋田など諸都市と交流が盛んなのか」

◆自分の考え

「日本海側に接しているから。」

《12時間目》

◇課題

「アメリカと日本の農業を比較して,アメリカの農業が現

在抱えている課題を考える」

◆自分の考え

「地下水のくみ上げすぎが,アメリカの課題だと考える。

なぜなら,アメリカは日本より農地面積が広いため,その

分一つの農地に使う水の量が多いから。」

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中学校 社会科教育 29

ながっていくと考えるからである。

「思考の過程がみえるアシストカード」は,実

践授業を始めるに当たってノート作成について説

明した後,ノートに貼付しておいた。これにより,

授業において常に携帯し,必要に応じて確認でき

るようになったことで,徐々にノートの書き方が

定着していった。それと同時に,記述する内容も

充実し,自分なりの工夫を加える生徒も現れた。

図4-1は,その一例である。

図4-1 工夫されたノート

このノートからは,次のような工夫を見取るこ

とができる。

プロセスを意識し,このカードを用いてノート

を作成することで,思考の過程を明確にすること

ができた。これは課題解決の道筋を理解する上で

有効であることがわかる。また,その授業で習得

したい知識をキーワードとして挙げることで説明

や論述に活用することができ,知識・理解の上で

も効果があると考える。

以上のことから,3種類のアシストカードが,生

徒が自らの力で学習活動に取り組む際に必要な支

援となり,効果があることが明らかとなった。

一方でアシストカードに関する課題も明らかに

なった。「世界のさまざまな地域の調査」の第2時

において,生徒は必要な情報の条件を考えて資料

を選ぶ作業に,予想していたより手間取っていた。

振り返りにも「適切な資料を選ぶのが難しかっ

た。」という記述が見られた。このことから,アシ

ストカードに「どのような課題に対してどのよう

な条件の資料が必要か」ということを具体的に示

すと同時に,カードをどのように活用するかとい

う指導を行う時間の設定についても必要であると

考える。単元の学習内容からアシストカードの内

容を見直し,指導の時間を設定することで,より

適切な支援ができるようなものにしたい。

(3)思考を広げ深める学び合い学習

「学び合い学習」を継続して行う中で,生徒の

様子から三つの大きな変容を見取ることができ

た。一つめは「自分の考えを,より正確に相手が

理解できるように説明したい。」と考えるように

なったことである。「世界のさまざまな地域の調

査」の振り返りには,「自分の考えを,よりわかり

やすく説明したい。」という記述が多く見られた。

また「自分で調べたことを,いろいろな人に知っ

てもらうのはうれしいと思いました。」という記述

もあった。これらの記述からは,自分の考えを他

者に伝えることの難しさに気付くとともに,伝え

られたことに喜びを感じて意欲的に取り組もうと

する生徒の姿が見える。このような学びを体験す

ることにより,生徒は今よりもっと適切な資料を

選ぼうとして深く考える。もっとわかりやすい説

明をしようと考えて工夫を凝らすようになる。こ

のような相手に正確に伝えたいという思いは,生

徒の思考力や表現力を育むことにつながるのであ

る。また,気付きメモに挙げたキーワードやキー

センテンスを活用して説明しようとすれば,それ

らの意味を正確に解釈した上で論述しなければな

らないため,生徒は自ら調べ,必要な知識を身に

付けていく。このことから「学び合い学習」は,

知識・理解の定着を図る上でも効果があると考え

る。そして説明することを前提に考えを文章化す

ることで,生徒の考えはより確かなものになって

いくのである。

二つめは,他者の意見を,これまで以上に相手

意識をもって聞き取ろうとする姿が定着したこと

である。次ページ図4-2は,「世界のさまざまな地

域の調査」の第4時でグループ内の「学び合い学習」

を行っている場面である。発表者の話に全員が真

○「気付きメモ」を最初に置いて,使いやすくしている。

○「気付きメモ」に書く内容を明示して,意識して読み

取ることができるようにしている。

○特に重要な用語は,「Keyword」としてまとめている。

○各プロセスの間に線を引いて,思考の過程をより明確

にしている。

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中学校 社会科教育 30

剣に耳を傾け,

発表が終わると

すぐに評価用紙

にコメントを書

いて,発表者に

評価を伝えてい

た。このように

視点を定めて他の生徒の意見の要点を聞き取り,

気付いたことを正確に相手に伝えようとする姿勢

が,生徒の多様な考えに気付く力を高めていく。

また相手意識をもって聞くからこそ,発表者は正

確に説明しようという意欲を高め,より適切な根

拠に基づいて筋道の通った説明をしようとする。

このように,「学び合い学習」により表現力が育ま

れていくと考える。

三つめは「学び合い学習」後の考えの広がりや

深まりが,生徒の記述に表れていることである。

「学び合い学習」を通して生徒の考えがどのよう

に変容したかを見取ることができる一例を挙げ

る。これは「追究~身近なものからみたアジア~」

の授業において,グループで設定した「もしもア

ジアの国々との貿易を打ち切られたとき,日本が

大きな損害を出さないためにはどうすればよい

か。」という課題に対する自分の考えを記述したも

のである。

「学び合い学習」の前は,「日本が損をしない」

という視点のみで述べられているが,「学び合い学

習」の後は,貿易相手国の経済成長にまで視野が

広がっている。更に「貿易が打ち切られたときど

うするか」も大事だが,「貿易を打ち切られないた

めにどうすればよいか」の方がもっと大事である

という考えの深まりも見られる。この課題は生徒

の判断力を問うものであるが,「学び合い学習」で

多様な考えに気付くことによって,「国際協力」と

いう視点を取り入れた,現代社会について考える

上でより適切な判断へと高まったことがわかる。

以上のことから,「学び合い学習」がコミュニ

ケーション能力を向上し,考えを広げたり深めた

りする上で効果があることが明らかになった。

一方で,同じように交流していても,グループ

によって考えの広がりや深まりに差が生じるとい

う課題も見えてきた。各グループでの学び合い学

習後に行う全体での学び合い学習で交流し学んだ

ことを,各グループにフィードバックしていくこ

とにより,交流の方法や内容について見直してい

く必要があると考える。

第2節 「覚える社会科」から「考える社会科」へ

(1)「考える社会科」への転換

本研究では,「単元・単位時間の構造化」「アシ

ストカードの活用」「学び合い学習の推進」という

三つの実践を行い,「解釈」「論述」「説明」という

言語活動の充実を図ることで,生徒の思考力・判

断力・表現力等の育成をめざした。その成果と課

題は,前節で述べたとおりである。それらを踏ま

え,「覚える社会科」から「考える社会科」に転換

していくために,本研究で取り組んだ「構造化」

の視点から,授業改善に向けて工夫したい点につ

いて述べる。

①「課題設定」の場面で基本情報の確認を

課題解決学習のプロセス1において,生徒が教科

書で重要であると考える単語を書き挙げた上で,

全体の場でその単語を確認することを試みた。課

題設定のためには,対象となる社会的事象につい

ての基本情報が必要である。この基本情報を確認

することにより,生徒は同じ情報を手に入れた状

態となり,スタートラインをそろえて授業を始め

ることができた。また,生徒は自ら教科書を読み

単語を確認したことで,自分の考えをまとめる際

に,その単語をキーワードとして活用できるよう

になった。更に,基本情報を最初から共有してい

ることによって,「学び合い学習」がより円滑に行

われて交流が深まった。

中学校社会科の指導者の多くは,課題解決学習

に取り組むことで,習得すべき知識が生徒に十分

図4-2 グループで学び合い学習を行う生徒

《「学び合い学習」前》

「アジアを中心に貿易するのではなく,その国が生産する

ものをいろいろな国から輸入すればいいと思います。こう

することによって,アジアの国々に貿易を打ち切られたと

しても,アジア以外の国と貿易ができ,日本の店で品薄に

ならないからです。」

《「学び合い学習」後》

「アジアを中心に大きな国としか貿易していないので,経

済成長が遅れている国々と貿易を盛んにすればいいと思

います。なぜなら,小さい国と貿易することによって,そ

の国の特産品を多く得ることができ,相手国にとっても経

済発展につながるからです。アジアの国々に打ち切られた

場合,輸出入合わせて約53.7兆円という金額です。表を見

る限り,両国が平等に貿易できているとは思いません。ど

ちらかの国が不利なときに,打ち切られる可能性が高いの

で,平等に貿易することが大切だと思います。」

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中学校 社会科教育 31

に理解されないままで終わるかもしれないという

不安を感じているように思われる。そのため,知

識注入型の授業に終始してしまうことが多いので

はないだろうか。知識は活用することで,本当の

意味での理解に結び付いていく。重要な単語を

キーワードとして書き挙げ,活用のための準備を

整えるという意味においても,基本情報の確認は

有効であると考える。

②「仮説立案と検証」を充実させるために学校図

書館や公立図書館の活用を

「世界のさまざまな地域の調査」では,学校図

書館を学習の場として活用し,より多くの資料を

準備するために校区の小学校や公立図書館から書

籍を借りた。あらかじめ教室や階段の踊り場に書

籍を設置して,自由に利用できる環境を整えたこ

とで,多くの生徒が休憩時間や放課後の時間にお

いて为体的に資料を収集することができた。授業

では,各自の課題解決に適した資料を選択したり,

多様な資料を用いることで,課題に対して多面

的・多角的な考察を加えたりすることができた。

また,休憩時間に書籍を手に取り,楽しそうに話

し合う生徒の姿を見た研究協力校の他教科の指導

者の方から「自分の教科でも,調べ学習を取り入

れたい。」という声を聞くことができた。社会科で

も,学校図書館との連携により,辞典や統計資料

などの様々な書籍を用いた学習活動を工夫し設定

することができる。今後も図書館の積極的な活用

を視野に入れた取組が重要であると考える。

③「交流と再構築」のためにキーワードをつなぎ

合わせる論述を

社会科において自分の考えを文章化することの

効果は,前節で述べた。本研究では思考の過程が

みえるノート作りを継続して行い,アシストカー

ドで話型を示し,「社会科において自分の考えを文

章で論述する」ことの定着を試みた。このほかに

も,次のような工夫が考えられる。

それは「キーワードをつなぎ合わせて,自分の

考えを文章化すること」である。初めは箇条書き

のような短い文でもよい。「学び合い学習」を通じ

て思考が深まっていけば,その短い文を使って,

徐々に長い文章で論述することが可能になる。

そのためには継続して行うことが大切である。

生徒が「社会科で自分の考えを文章で論述するこ

とは,日常的に行われることである」と認識し習

慣化していくことで論述する力が付き,苦手意識

が払拭されていくと考える。また,教科間の連携

も重要である。国語科の「書くこと」の分野にお

いて,生徒は自分の考えや気持ちを,根拠を明確

にして文章に表すことに取り組んでいる。国語科

で養われた力を基盤とし,他教科においても考え

を文章化することを習慣化することで,文章で論

述する力を伸ばすことができると考える。

④「一般化と発展」を図るために小学校での学習

内容・指導内容の把握を

中学校社会科の指導者が,小学校社会科の教科

書に目を通したり,小学校の授業を参観したりす

ることは重要である。なぜなら自分が担当する生

徒が,小学校でどのような学習を行っているのか

を知っておくことは,学習内容や活動内容に系統

性をもたせるために必要だからである。既得の知

識がどのようなものであるかを知っておくこと

で,それらを活用して知識の一般化を図ったり,

新たな課題に結び付けて学習活動を探究的なもの

に発展させたりすることができると考える。また,

課題解決学習の進め方は小学校5年生の社会科の

教科書に掲載されており,生徒は既に学習済みで

ある。この学習方法を生かすことで,より滑らか

な小中連携が実現し,中学校での課題解決学習が

定着していくものと考える。

今後,本研究で取り組んだ実践やここで示した

四つの工夫を生かしていくためには,実際の学級

の状況に合わせて,生徒の活動や反応,留意事項

などを具体的に考え,明確なイメージをもって授

業に臨むことが重要であると考える。

(2)自ら課題を解決できる生徒の育成

「世界のさまざまな地域の調査」の振り返りの

中に,次のような記述があった。

この生徒が意識しているかどうかはわからない

が,筆者にとっては「生きる力」を育む学習活動

の在り方について,改めて考えるきっかけとなる

意見であった。

1ページの答申は,「生きる力」を「変化が激し

く,新しい未来の課題に試行錯誤しながらも対応

することが求められる複雑で難しい時代を担う子

どもたちにとって,将来の職業や生活を見通して,

社会において自立的に生きるために必要とされる

今回は自分で課題を設定して,その課題にあった考察を

考える授業で,とても難しかったです。けれど,この授業

を生かして,社会に出てがんばりたいです。

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中学校 社会科教育 32

力」(25)としている。そしてそれを支えるものが

「確かな学力」「豊かな心」「健やかな体」であり,

本研究で育成をめざした思考力・判断力・表現力

等は,この「確かな学力」を構成する重要な要素

の一つである。つまり社会科において思考力・判

断力・表現力等を育むことは,「生きる力」を育む

ことにほかならないと考える。一つの教科のみに

とらわれて,この大きなねらいを忘れてしまうこ

とがないように気を付けなければならない。

我々の普段の生活は,課題解決の連続である。

課題には大きなものから小さなものまでいろいろ

あるが,社会に出ればその課題を自分一人で解決

しなければならない場面も多い。そのときに必要

な力とは,どのようなものか。

まず,自らの課題を正確に設定する力が必要で

ある。課題を正しく把握できなければ,解決の方

法を考えることができない。次に,課題解決のた

めの方法を多面的・多角的に考えて検証し,最善

の方法がどのようなものであるかを,自分を取り

巻く社会の状況を考慮しながら論理的に判断する

力である。そのためには,多様な情報の中から適

切なものを選び,活用する力が必要になる。その

ほかにも,自分一人で解決できないような課題に

直面すれば,他者と協力して解決に当たるための

コミュニケーション能力が必要になる。

本研究の取組は,全て「生きる力の育成」につ

ながっている。「構造化」した学習活動で課題解決

の四つのプロセスを理解した生徒は,課題を把握

し,解決に向かう方法を学んだ。また,授業にお

いて課題を解決できたという自信は,自らの課題

を解決しようとする意欲につながっていった。「学

び合い学習」を通して他者と多様な考えを交流し,

協力して課題を解決する喜びを実感した生徒は,

この学習で高めた判断力で正しい選択をし,コ

ミュニケーション能力を発揮して,今後も課題解

決に取り組もうとするに違いない。

しかし一方で,本研究で高めた力だけで,様々

な課題に立ち向かうのは困難であると筆者は考え

る。例えば,課題解決のためにインターネットか

ら正しい情報を手に入れる力を,生徒は本当に身

に付けることができているのだろうか。情報の真

偽を見極めるためには,複数の情報を比較して批

判的に検討する力が必要となる。そのような力を

身に付けるためには,社会科という教科の枠を越

えて,他教科等と連携して取り組むことが大切で

ある。学校生活の様々な場面で自らの課題を見つ

け,自らの力で解決していくという経験を積んで

いくことが,本当の意味での「生きる力」を育む

こととなり,社会で生きる自立した生徒を育成す

ることにつながると考える。

(25) 前掲(4) p.22

おわりに

本研究では,「単元・単位時間の構造化」「アシ

ストカードの活用」「学び合い学習の推進」という

三つの取組を通じて,生徒の思考力・判断力・表

現力等の育成をめざした実践を行った。研究協力

員の先生方とは,授業の前後に長時間にわたって

打合せを行い,実践に臨んだ。

ある日の打合せで,研究協力員の方から次のよ

うなお話があった。「生徒は,この取組を通じて,

確実に変わっています。そのことが実感できます。

多くの先生方が,このような授業を行いたいと

思っています。その第一歩を踏み出すためにも,

この取組がスタンダードになるといいですね。」授

業改善を図るための新しい試みを,ともに進めて

いる方からの思いがけない言葉に,胸が熱くなる

思いであった。

その後も生徒たちは,目に見えて変わっていっ

た。特に「学び合い学習」の中では,相手の話を

集中して聞き,自分の意見を根拠となる資料を示

しながら説明できる生徒が増えていった。後半の

実践授業を参観された管理職の方からの,「学び合

い学習を,社会科だけで終わらせるのはもったい

ない。課題解決能力を育むことは,本校のめざす

ところでもある。他の教科でも取り入れていきた

い。」という言葉かけがあり,全教職員の方々にも

実践について紹介していただいた。本研究を評価

していただいたことは,大きな励みとなった。

実践授業では,校区の小学校や公立図書館にも

協力していただいたおかげで,充実した課題解決

学習ができた。このような形の小中連携や地域連

携が,今後の取組の参考になればと考える。

最後に,本研究の为旨を理解し,実践授業に協

力していただいた,京都市立高野中学校と京都市

立嵯峨中学校の研究協力員の先生方と,いつも温

かく迎えていただいた教職員の皆様に,この場を

借りて感謝の意を表したい。

また,実践授業を通して協力してくれた両校の

生徒たちが,本研究で培った力を今後の学校生活

においても思う存分発揮し,将来に向けて大きく

飛躍していくことを願っている。