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免疫染色における後染色
東京慈恵会医科大学附属柏病院病理部
中島 研
[はじめに]
免疫染色は,組織・細胞中に存在する抗原性を持った物質の局在を検索するために,抗体に酵素,蛍光色素,フェリチン等の物質を標識した標識抗体を使用し,抗原局在を可視化する染色です. 病理組織検査では,酵素抗体法が最も多く用いられ,多くの施設で酵素抗体法は西洋わさびペルオキシダーゼ(horseradish peroxidase;HRP)あるいはアルカリフォスファターゼ(Alkaline phosphatase;ALP)が酵素として使用されています.組織・細胞構造を認識し,抗原の反応部位の局在の識別を容易にするために後染色が行われます.今回は,免疫染色における後染色について核染色を中心に解説します. [後染色の種類]
免疫染色の後染色は一般的にヘマトキシリン,メチル緑,ケルンエヒトロート(Nuclear fast red)などが用いられています1),2).他にギムザ液を使用する場合や,後染色自体を行わない場合もあります.
①ヘマトキシリン 一般病理組織標本を含めもっとも繫用されている後染色です.ヘマトキシリン染色液による核染色は水および有機溶剤ともに溶解しないため,ほとんど全ての発色基質と組み合わせて使用が可能です.通常進行性のヘマトキシリンを使用し,色出し操作後脱水,透徹,封入します.
②メチル緑 通常 1%メチル緑水溶液(PH4.0)を使用しますが,染まりにくい場合は 5%程度に濃度を上げることも可能です.メチル緑は水溶性溶液のため,脱水が出来ない発色基質には使用できません.また水分を含むアルコールでも脱色されるため,脱水操作は手早く行います. メチル紫が混ざっているメチル緑粉末はあらかじめクロロホルムで分別抽出しておくか,または水分を含むアルコールにも溶出するため,脱水操作時に分別することも可能です.
③ケルンエヒトロート(nuclear fast red) 通常特殊染色で使用されているものと同じ 0.1%ケルンエヒトロート水溶液を使用します.メチル緑と同様に水溶性溶液のため,脱水の出来ない発色基質には使用できません.
[後染色の選択要件]
染色色素の選択および染色態度の要件は①反応産物の色調とコントラストが良い.②反応産物を溶解および変質させない.③核染色による背景の非特異的染色や,抗原の局在部位への著しい共染がない.などが挙げられます.
①反応産物の色調に対してコントラストが良い(補色関係にある) 主な発色基質および後染色試薬を表 1に示します.反応産物の色調と補色関係にある後染色試薬を用いることで,コントラストが良く,染色結果を状態良く観察できる標本となります (図1).また,DABで発色した際白黒写真を撮影する場合は,ヘマトキシリンに比べメチル緑での後染色の方が,褐色の反応物質との色のコントラストが良いため適していますが,賦活化や発色基質の条件により使用が制限されます.また写真の撮影をしない場合,あるいはカラー写真での撮影の場合は組織・核内構造がより明瞭に観察できるヘマトキシリンが有用です.
-1-
表 1 発色基質と核染試薬
標識酵素 発色基質 発色 溶解性 推奨核染色試薬 封入剤
DAB (3,3’-Diaminobenzidine) 茶褐色
ヘマトキシリン メチル緑 ケルンエヒトロート
非水溶性HRP (horseradish peroxidase) AEC
(Amino-9-ethylcarbazole) 赤色 アルコールキシレン ヘマトキシリン 水溶性
NF(New fuchsin) 赤色 ヘマトキシリン メチル緑 非水溶性
FR(Fast red) 赤色 アルコールキシレン ヘマトキシリン 水溶性
ヘマトキシリン 水溶性
ALP (Alkaline phosphatase) BCIP/NBT
(5-bromo-4-Chloro-3-Indoxyl phosphate/Nitro blue tetrazolium choride)
青紫色 アルコール ケルンエヒトロート
メチル緑(注) 非水溶性
(注)アルコールは通さず,後染色後水洗したのち十分に風乾し,キシレンで透徹,非水溶性封入剤で封入します.
核染色
試薬
発色基質 (1)ヘマトキシリン (2)ケルンエヒトロート (3)メチル緑
(a) DAB
(b) ニューフク
シンⅡ
(c) Histo
Green
図 1 発色基質と核染試薬の組み合発色基質 :(a)DAB,(b)ニ核染色試薬:(1)ヘマトキシリ反応産物と補色関係にある核染
a-1
わせ(膵臓:Chromogranin AューフクシンⅡ(ニチレイバイ
ン,(2)ケルンエヒトロート,試薬を用いることでよりコント
-2-
a-2
染色) オサイエンス社),(c)Histo Gr(3)メチル緑 ラストの良い標本となります.
a-3
b-1
b-2 b-3c-1
c-2 c-3een
②
レッドの赤色発色でも非水溶性封入剤が使用で
き,メチル緑での後染色も可能になります.
③
が多いため基本的には後染色は必要ありませ
んが,必要な場合はごく“薄く”が鉄則です.
反応産物を溶解および,変質させない 表 1に示したように,発色基質の種類により封入剤の選択が必要となります.AEC,ファーストレッドは反応産物がアルコール,キシレンに易溶性のため水溶性封入剤の選択が必要になり
ますが,この際水溶性染色液であるメチル緑およびケルンエヒトロートは使用できません.ま
た,BCIP/NBTはアルコール溶解性の反応産物であるため基本的には水溶性封入剤を使用します.しかしキシレンには不溶性のため後染色後の水洗をしたのち十分に風乾し,キシレンで透
徹し非水溶性封入剤を使用すればメチル緑,ケルンエヒトロートでの後染色も可能になります
(ただし、乾燥させることにより組織の収縮が少なからずあるため、組織構造が不明瞭になる
ことは否めません).なお,ニチレイバイオサイエンス社から発売されているファーストレッド
Ⅱ基質キットを用いることにより,ファースト
後染色による背景の非特異的染色や,抗原の局在部への著しい共染がない 近年では Estrogen receptor(ER)および Progesteron receptor(PgR),Human epidermal growth factor receptor type2(HER2)に代表される,診断のみならず治療に直結する免疫染色の需要が増え,陽性か陰性かだけではなく陽性部位の定量や染色強度の判定も求められてい
ます.それゆえ,抗原の局在部位への共染により陽性部位が不明瞭になり,判定に苦慮するよ
うな核染色をしてはなりません.一般的には核内抗原にはメチル緑,細胞膜や細胞質に存在す
る抗原はヘマトキシリンが推奨されます.しかし,核内抗原もヘマトキシリンで染色する施設
も多くあります.この場合,ヘマトキシリンによる後染色を“薄め”にすることが判定し易い
標本を作製するコツです(図 2).また,近年多くの施設で多重染色が日常的に行われるようになってきました.同一切片上で,多種の抗原局在を異なった色調の色素を用いて染め分けるの
で,単一染色よりもすでに可視化されている部分
図 2 (a) である PgR は核染色を薄めにすることで,発色が淡い部位でも陽性判定が容易
(b) と,(a)で淡い陽性部位はヘマトキシリンに共染し陽性判定がしづらくなっています.
aa a bb核染色の濃淡による陽性部位の見え方の違い(乳癌:PgR染色,ヘマトキシリン核染色)
核内抗原です. 核染色を濃くする
-3-
[後染色を行う際の注意点とコツ]
前項で述べたように後染色は“薄め”を心がけることが大切ですが,一方,後染色が染まりづ
らい場合もあります.メチル緑は核内抗原の観察に向いていますが,熱処理によりかなりの染色
性が低下します.またヘマトキシリンにおいても同様の傾向があり,その場合は,後染時に賦活
化の種類ごとに切片を分け,それぞれ染色時間の調節を行い,染め上がりが一定になることを心
がけます(図 3).さらに後染色としては一般的ではありませんが,ギムザ液を使用することでリンパ節,骨髄などではヘマトキシリンよりも細胞の構成が分かり易いという利点もあります(図
4).核染色以外の後染色の例としては,しばしばDAB発色の場合はメラニン色素が陽性部位と紛らわしいことがありますが,ギムザ液やメチル緑などの塩基性色素によってメラニン色素とメタク
ロマジー(異調染色)による色調変化により,緑色になるため陽性部位との識別が容易になりま
す3)(図 5).これによりメラニン色素を消化する必要がなくなります.
核染色 賦活化 (1)ヘマトキシリン (2)メチル緑
(a)無処理 (膵臓:Chromogranin A染色)
(b)熱処理 (膵臓:Synaptophysin染色)
図 3 賦活化の違いによる核染色性の比較 賦活化: (a)無処理(膵臓:Chromog
Synaptophysin染色) 核染色: (1)ヘマトキシリン,(2)メチ熱処理をしたものは無処理に比べ核の染色処理による核の染色性低下が顕著です.
ヘマトキシリンによる後染色の場合は,染色などにより改善が可能です.
a-1
ranin A 染色),(b)熱処理(
ル緑 (染色時間はそれぞれ同時性がかなり劣ります.メチル緑にお
時間を長くしたり,染色液の濃度を
-4-
a-2
b-1 b-2膵臓:
間) いては熱
高くする
aa bb
図 4 ギムザ染色とヘマトキシリン染色による後染色の違い(骨髄:CD138染色) (a)ヘマトキシリンによる後染色では核染色のみの情報しか得られません. (b) ギムザ液を後染色に用いることで,核染色とともに好酸球顆粒が赤く染まるなど,
他の情報も得られる場合があります.
bb
図
[お
で
[参
a
a 5 メラニン色素が豊富な組織における後染色(a)メラニン色素が DAB反応の色調に類似(b) ギムザ染色で後染色を行うと,メラニン
に識別出来ます.
わりに]
免疫染色は診断,治療において欠かすことので,見やすく,診断に適した免疫組織標本を作製す
考文献]
1) 日本病理学会編:病理技術マニュアル4 病2) 名倉 宏,長村義之,堤 寛編:改訂四版渡辺3) ニチレイバイオサイエンス免疫染色玉手箱,
-5
の工夫(悪性黒色腫:HMB45染色) し,陽性反応と識別困難です. 色素が緑色に染色され DAB 陽性部位と容易
きない染色になっています.そこで,より正確るために本稿が参考の一助になれば幸いです.
理組織化学とその技術.医歯薬出版社,1986 ・中根 酵素抗体法,学際企画,2002 技術,生体内色素標本の免疫組織学的染色法
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