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23 川崎市の臨海部には大きな工場が並んでいます。高い塔や大きなタンクが沢山あっ て,太いパイプがその間をくねくねとはい回っています。煙突からは白い煙がもく もく出ていて,夜でも明 あかあか 々と照明がついています。そこでは,いったい何が行われ ているのでしょうか?  現代社会に欠かせない 石油化学製品をつくる 石油化学コンビナート

石油化学コンビナート 現代社会に欠かせない 石油化学製品をつ … · 川崎製造所が生産したエチレンがすぐ隣にある 別の会社の工場に,直接パイプで送られてい

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Page 1: 石油化学コンビナート 現代社会に欠かせない 石油化学製品をつ … · 川崎製造所が生産したエチレンがすぐ隣にある 別の会社の工場に,直接パイプで送られてい

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川崎市の臨海部には大きな工場が並んでいます。高い塔や大きなタンクが沢山あっ

て,太いパイプがその間をくねくねとはい回っています。煙突からは白い煙がもく

もく出ていて,夜でも明あかあか

々と照明がついています。そこでは,いったい何が行われ

ているのでしょうか? 

現代社会に欠かせない石油化学製品をつくる

石油化学コンビナート

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輸入された石油を加工する工場の集まり

原油を蒸留する製油所の蒸留塔

 私たちの住む川崎市は,海に面した地域のほとんどを工場が占めています。川崎市だけでなく,千葉県の木更津市から東京,横浜市にかけての臨海エリアには,大きな工場や火力発電所が数多く並んでいます。 川崎区の臨海部には,複数の企業の工場が隣接した石油化学コンビナートと呼ばれる施設があります。そこでは,輸入した石油を加工して,私たちの生活に必要なプラスチックなどのもとになる原料を製造しています。

原油から必要な物質を取り出す蒸留塔

川崎市の臨海部,数多くの工場が並んでいる。

原油加熱炉

蒸留塔

ガソリンナフサ

LPガス

灯 油

軽 油

重 油

30~180℃

170~250℃

240~350℃

350℃以上

 中東などの産油国からタンカーで運ばれてきた石油(原油)は,専用の港を持つ製油所に運ばれます。一言で石油と呼んでいますが,地中から採掘した石油の中には性質が異なる非常に多くの種類の物質が混ざっています。 製油所では,原油を蒸留して必要な物質を取り分けます。物質にはそれぞれ固有の沸点があって,気体から液体に,液体から気体になる温度が異なります。製油所では,石油を加熱して蒸留塔と呼ぶ高い塔の内部に送り込みます。塔は上の方になるほど温度が低くなるようにつくられていて,その内部にはたくさんのトレイ(受け皿)が設けられています。沸点が高い物質は下のトレイにたまり,沸点が低い(気体になりやすい)物質は上のトレイにたまるわけです。

燃やすだけではない石油の用途 製油所では,原油を重油やアスファルト,軽油,灯油,ガソリンやナフサ,そして LP ガスに分けています。重油は,漁船の燃料や火力発電所などのボイラーの燃料になります。LP ガスはプロパンガスとして家庭でも使われていますが,火力発電にも用いられます。ガソリンや軽油は自動車やトラックの燃料,灯油は飛行機や暖房などの燃料となります。 2011年度に日本では,原油のうち 41.5%が自動車や飛行機などの動力として燃やされ,37.3%が暖房や工場に使われる熱として燃やされ,そして,20.5%がさまざまな製品に加工されました。

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いろいろな製品の原料のもとをつくる石油化学工場 製油所で分けられた物質の中にナフサという耳慣れないものがありました。ナフサはガソリンに近い沸点を持つ物質で,石油化学工場へ送られてプラスチックなど私たちの生活に欠かせない物質をつくる原料になります。 石油化学工場では,熱分解炉と呼ばれる装置でナフサに熱を加えて,その分子をばらばらにします。熱によって分解されたいろいろな物質は,原油と同様に蒸留することで,さらに細かく分離します。 ナフサを分解して得られる物質にはエチレン,プロピレン,ブタジエン,ベンゼン,トルエン,キシレンなどがあります。これらの物質を蒸留したり,反応炉と呼ばれる装置で別の物質と化合させることで,いろいろな石油化学製品をつくることができます。 石油化学工場では,このような作業がすべて流れ作業的に行われています。分解炉や蒸留塔から出た物質はパイプを通って別の蒸留塔や化学反応炉などへと自動で送られます。学校で行う理科の実験では,蒸留やろ過をした液体は,いったん試験管やビーカーにためてから次の実験に移ります。けれども,石油化学工場では処理を止めることなく生産が続けられるように,いくつもの装置をパイプで直接つないでいるのです。

プラスチックの材料のもとになる石油化学製品 石油化学工場では,ナフサから分けられた石油化学製品をもとに,私たちの役に立ついろいろな物質をつくっています。たとえば,エチレン同士で結合させるとポリエチレン(PE)という物質になります。身近なところではスーパーマーケッ

日本で石油の使われ方(2011年度)

JX日鉱日石エネルギー-2

動力として41.5%

原料として20.5%

その他 0.7%

熱として37.3%

航空機の燃料用1.8%

船舶の燃料用1.6%

鉱工業の原料・燃料用

38.1%

13.6%8.9%

11.9%

化学製品の原料用 20.5%

農林・水産用

電力用

家庭・商店・事務所用

自動車の燃料用

2.1%

都市ガス用 0.8%

量日本の石油使用 2億3,952万 kL(100%)※LPガス・原油を含む

出典:「調べてみよう石油の活躍」(石油連盟)

Let’s Researchナフサからいろいろな石油化学製品をとりだすしくみを調べてみよう。

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トのレジ袋の材料として知られています。エチレンに塩素を加えるとクロロエチレンになり,クロロエチレン同士を結合させると,配水管などに使われる塩ビパイプでおなじみのポリ塩化ビニルになります。 プラモデルの素材や家電製品の外側,自動車の内装,家具など,あらゆるところで使われているプラスチックですが,実際には数多くの種類があります。その特徴も,固いもの,柔らかいもの,熱に強いもの,化学薬品に強いものなどさまざまです。 プラスチックだけではありません。衣類で使われているナイロン,ポリエステル,アクリルなどの合成

自動車,船舶,鉄道家電,電子製品住宅,建設包装,容器

日用品,雑貨

医療インテリア産業資材その他

自動車,自転車各種工業,

日用品

自動車,鉄道,船舶建築,建造物,電機,その他機械

家庭用工業用

プラスチック

合成繊維材料

合成ゴム

その他

洗剤原料

塗料原料,溶剤

エチレン製造装置

ナフサ

エ チ レ ンプ ロ ピ レンブタ ジ エ ンベ ン ゼ ント ル エ ンキ シ レ ン

エ チ レ ンプ ロ ピ レンブタ ジ エ ンベ ン ゼ ント ル エ ンキ シ レ ン

ナフサからつくられる石油化学製品

いくつもの塔やタンクがパイプでつながっている JX日鉱日石エネルギー川崎製造所のエチレン製造装置。

繊維や,フィルムやウレタン,合成ゴムなども石油化学製品です。さらには,アルコールもつくられて,医薬品や洗剤,インクなどにも石油化学製品が使われています。

ナフサを加工するJX日鉱日石エネルギー川崎製造所 川崎区の臨海部にある JX 日鉱日石エネルギー川崎製造所は,製油所でつくられたナフサを使って,いろいろな石油化学製品を製造しています。産油国から輸入された原油は,横浜市にある同社の根岸製油所などで精製され,ナフサをはじめとする原料が再びタンカーに詰められて川崎製造所に輸送されます。 川崎製造所では,それらの物質を分解したり,蒸留したり,合成したりして,エチレンをはじめとした何十種類にもおよぶ石油化学製品をつくっています。消毒液やペンキの溶剤であるアルコール,トルエンといったそのままの形で目にする石油化学製品もありますが,その多くはさまざまに加工されてプラスチック製

品のような形で私たちが利用することになります。特に使用量の多いポリエチレン製品では,川崎製造所が生産したエチレンがすぐ隣にある別の会社の工場に,直接パイプで送られています。 川崎製造所は1年間に,44 万 8000 トンのエチレンをはじめとして,各種石油化学製品を合計で約 200 万トン生産しています。エチレンの生産量では日本の約 6% になります。

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いくつもの工場が一体となって効率化を目指す

JX日鉱日石エネルギー川崎製造所

パイプライン

隣接工場

関連工場

隣接工場

川崎製造所と隣接工場 このように,隣接する複数の工場が一体となって石油化学製品を生産している場所を,石油化学コンビナートと呼びます。ある工場が生産した石油化学製品をいちいちタンク車などに積み込んで運ぶよりも,工場の敷地を越えて直接パイプでつないで運んだ方が効率がよくなります。 また,大量の熱を必要とする蒸留塔や分解炉は,いったん停止させると再び動かす際に多くのエネルギーと時間を必要とします。そのため,コンビナートは基本的に 24 時間動き続けていて,点検や整備なども運転を続けながら行えるように工夫されています。夜でも明々と照明がついているのは,それぞれの装置やパイプなどに異常がないか,点検するためです。

大都市ならではの環境への配慮 日本には,北海道から沖縄まで全国に製油所が約 30 か所あって,それぞれの場所で石油製品を製造しています。川崎製造所では特に大都市圏のなかに存在するため,環境問題にも配慮しています。 燃料として使用する石油の成分の中には炭化水素だけでなく硫

い黄おう

が含まれており,空中に放散すると重大な大気汚染の原因となります。したがって,ガスバーナーを光化学スモッグなど大気汚染の原因となる窒

ちっ素そ

酸化物をあまりださないものに切り替え,さらにその燃焼ガスから窒素酸化物を取り除く装置を取りつけています。コンビナートの煙突からは,白い煙のようなものが吐き出されていますが,あれは煙ではありません。有害な物質を取り除いたあとの水蒸気なのです。 石油から出てくる物質の中には,石油化学製品になりにくい物質も残ってしま

排煙脱硫装置や排煙脱硝装置などを備え , 排煙・排水処理や騒音・悪臭の対策などを行っている。

Let’s Research教室にある石油化学製品にはどのようなものがあるか調べてみよう。

いますが,これらの物質は固めて道路の舗装材料などとして再資源化するなど,廃棄物をなるべく出さない工場となっています。

排煙脱硝設備 吸着式の炭化水素排出抑制設備

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場所:〒 210-8545 川崎市川崎区夜光 2-3-1http://www.noe.jx-group.co.jp/問い合わせ先: 044-276-3511

JX日鉱日石エネルギー株式会社 川崎製造所

Keywords次のキーワードを組み合わせて,インターネットの検索エンジンで調べてみよう。化石燃料/石油精製/エチレンプラント/プラスチック/ポリエチレン/ポリプロピレン/塩化ビニール/沸点/炭化水素/有機化合物

インタビュー 日本のトップクラスの工場を目指して

JX 日鉱日石エネルギー川崎製造所

計画グループマネージャー一ノ瀬 尚さん

 これからも刻々と変化する世の中に対応するため,

いかなる事態にも耐えうる強い製造所としていく必要

があります。川崎製造所では,日本のトップクラスの工

場をめざし,さらに生産効率を高め,価値の高い製品

をつくっていくことで,製造所の競争力を強化してゆく

努力をしています。自分たちの考えたものがさまざまな

かたちで製造所の未来を築いていくことに貢献してい

るという醍だい

醐ご

味み

を感じながら日々仕事をしています。

 計画グループという部署は,主に製造所の中の装置・

機械の技術面を担当しています。いろいろな石油化学

製品の製造工程を化学的・機械技術的な面でサポート

して,省エネルギーのために装置や機械の効率を高め

たり,蒸留塔や反応塔など,新しい装置を設計したり

する仕事です。新製品の開発や既き

存そん

製品の改良検討に

も関与し,あらゆる部署と関連するので,人と人のつ

ながりは大切にしています。

 学校では工業化学という分野を勉強していて,新エ

ネルギー関係に関わったらおもしろそうだと思いこの

会社に入りました。当初は営業部署で化学製品をセー

ルスする仕事でした。その後,海外の石油化学プラント

(生産設備)の立ち上げに携たずさ

わったりする海外事業の仕

事を経て,現在の業務を担当しています。