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(寄稿文) 39 排水設備衛生管理の重要性 ― 排水管不具合の原因と清掃方法及び設計の留意点 ― 一般社団法人 全国管洗浄協会副理事長 難 波 信 二 1.はじめに 近年、建築物の高層化・大規模化の進 行やディスポ-ザ排水処理システムの普 及により、排水混入物の停滞等が問題視 されている。また、建築的制約から、曲 がり部の多い複雑な排水配管が増加して いるのが現状である。建築物の排水管は 人間に例えると血管の静脈にあたり、閉 塞や漏れが発生すれば生活の危機に陥る ことになる。そこで定期的な衛生管理が 特に重要になってくる。排水設備の衛生 管理の重要性について、以下の5項目に 分けて解説する。 ・排水設備に要求される機能(大見出し 2) ・排水不良・管閉塞・漏水の原因と特性 (大見出し3) ・ディスポーザ排水管内付着物および堆 積状況(大見出し4) ・排水管の清掃方法(大見出し5) ・実用的清掃用掃除口の設置の提案(大 見出し6) 2. 排水設備に要求される機能 1) 排水設備の機能は、 水使用機器で使用 済みの排水を円滑 ・ 速やかに建物・敷地 外へ排除することである。 したがって、 その機能を損なうことの ないように設計され、維持管理すること が要求される。 その機能にかかわる留意 点を列記すると、次の通りになる。 ①機器・配管からの漏水のないこと(漏 水の防止) ②排水中の雑汚物が停滞することなく 流れ去ること(排水不良・管閉塞の 防止) ③排水の逆流による機器内汚染を防止 すること(間接排水) ④排水管内空気の侵入による室内空気 汚染を阻止すること(トラップ封水 の保持) ⑤排水システムに危険物等を流入させ ないこと(危険物等の流入阻止) 排水設備には、 使用済みの湯水に様々 な雑汚物や異物が混入した排水が流入す る。 その混入物を含む排水が管路途中に 停滞することなく流れさるように、排水 負荷に相応した排水管径と適切な排水横 管の勾配を用意するとともに排水の流れ 方向にしたがって排水管径を縮小しない という原則が徹底されている。 なお、 勾 配は管径によって異なるが、 その基準は 排水流速が約 0.6 ~ 1.5m/s の範囲とな るように設定されている。しかしながら、 通常使用、 使用者の不注意による異常使 用にかかわらず、 排水不良 ・ 管閉塞は生 じ得る。 そのような事象が生じると、 水 使用機器の使用が不能になるばかりでな く、 排水の逆流による汚損事故が発生し、 不便 ・ 不衛生 ・ 危険な事態になる。排水 設備からの漏水は、 給水などの水漏れ事 故より多大な汚損事故となり、 その影響 は極めて重大となる。 漏水による被害は、 清掃されても、 悪臭成分が残存するため、 当該部屋の内装までを一新する例がある。 例えば営業用厨房では、調理で多量の油 脂類 ( グリース ・ 油類 ) を使用するため、 多量の油脂類が排水に混入する。油脂類 が排水中で凝固し、 排水管内に付着して 堆積すると、 排水不良 ・ 管閉塞が生じ、 排水機能が損なわれる。 このような排水 機能を阻害する油脂類の排水系統内への 流入を阻止するために、 器具に近い排水 管途中にグリース阻集器が設けられる。 油脂類のほかにも管閉塞の原因となる物 質がある。 阻集器は、 内部に浮遊または 堆積した阻集物質を適時に除去しなけれ ばならない。除去を怠ると、 排水機能が 損なわれるばかりでなく、阻集物の腐敗 などにより、 不衛生な状況になり得る。 したがって、 維持管理においては、 阻集 状態を監視し、 適切に除去 ・ 掃除を実施 しなければならない。 金属管(鋳鉄管、 亜鉛メッキ鋼管、 鉛 管、 鋼管など)は、 腐食により薄とな り、 穴があいて漏水する危険性がある。 なお、 ライニング鋼管でも、 継手の接合 部が腐食して漏水することもある。 写真-1は、流し台下の 50 ㎜排水横 枝管の鋼管のねじ部が腐食により欠損し て漏水事故になった。このような状況下 では、高圧洗浄により1階の桝で回収さ れた排水鋼管内部の除去された錆が多量 に摘出されることがある。維持管理にお いては、 配管も外観を調べるとともに場 合によっては内視鏡などによる内壁面の 点検が必要となる。 3. 排水不良・管閉塞・漏水 の原因と特性 排水不良は、設計時に想定した円滑な 排水がなされない状況、すなわち、排水 の流れが悪い状況をいい、多少とも排水 は流れる。管閉塞は、排水がほとんど流 れない状況、すなわち、詰まりが生じた 状況をいう。通常、排水不良が生じ、そ れが進展して管閉塞となるが、異物など の停滞により即座に管閉塞となる場合も ある。 排水システムにおける排水不良・管閉 塞の原因として、次が挙げられる。 (1)不適当な勾配 (2)油脂類の付着 (3)尿固形物の付着 (4)毛髪の停滞 (5)雑物・異物の停滞 (6)草木の根の侵入 写真-1 流し台下鋼管ねじ部欠損

排水設備衛生管理の重要性...(寄稿文)39 排水設備衛生管理の重要性 ― 排水管不具合の原因と清掃方法及び設計の留意点 ― 一般社団法人

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  • (寄稿文)39

    排水設備衛生管理の重要性― 排水管不具合の原因と清掃方法及び設計の留意点 ―

    一般社団法人 全国管洗浄協会副理事長 難 波 信 二

    1.はじめに

    近年、建築物の高層化・大規模化の進行やディスポ-ザ排水処理システムの普及により、排水混入物の停滞等が問題視されている。また、建築的制約から、曲がり部の多い複雑な排水配管が増加しているのが現状である。建築物の排水管は人間に例えると血管の静脈にあたり、閉塞や漏れが発生すれば生活の危機に陥ることになる。そこで定期的な衛生管理が特に重要になってくる。排水設備の衛生管理の重要性について、以下の5項目に分けて解説する。・排水設備に要求される機能(大見出し2)・排水不良・管閉塞・漏水の原因と特性(大見出し3)・ディスポーザ排水管内付着物および堆積状況(大見出し4)・排水管の清掃方法(大見出し5)・実用的清掃用掃除口の設置の提案(大見出し6)

    2.排水設備に要求される機能1)

    排水設備の機能は、 水使用機器で使用済みの排水を円滑 ・速やかに建物・敷地外へ排除することである。したがって、 その機能を損なうことのないように設計され、維持管理することが要求される。 その機能にかかわる留意点を列記すると、次の通りになる。①機器・配管からの漏水のないこと(漏水の防止)②排水中の雑汚物が停滞することなく流れ去ること(排水不良・管閉塞の防止)③排水の逆流による機器内汚染を防止すること(間接排水)④排水管内空気の侵入による室内空気汚染を阻止すること(トラップ封水の保持)⑤排水システムに危険物等を流入させ

    ないこと(危険物等の流入阻止)排水設備には、 使用済みの湯水に様々な雑汚物や異物が混入した排水が流入する。 その混入物を含む排水が管路途中に停滞することなく流れさるように、排水負荷に相応した排水管径と適切な排水横管の勾配を用意するとともに排水の流れ方向にしたがって排水管径を縮小しないという原則が徹底されている。 なお、 勾配は管径によって異なるが、 その基準は排水流速が約 0.6 ~ 1.5m/s の範囲となるように設定されている。しかしながら、通常使用、 使用者の不注意による異常使用にかかわらず、 排水不良 ・管閉塞は生じ得る。 そのような事象が生じると、 水使用機器の使用が不能になるばかりでなく、 排水の逆流による汚損事故が発生し、不便 ・不衛生 ・危険な事態になる。排水設備からの漏水は、 給水などの水漏れ事故より多大な汚損事故となり、 その影響は極めて重大となる。 漏水による被害は、清掃されても、 悪臭成分が残存するため、当該部屋の内装までを一新する例がある。例えば営業用厨房では、調理で多量の油脂類 (グリース ・油類 )を使用するため、多量の油脂類が排水に混入する。油脂類が排水中で凝固し、 排水管内に付着して堆積すると、 排水不良 ・管閉塞が生じ、排水機能が損なわれる。 このような排水機能を阻害する油脂類の排水系統内への流入を阻止するために、 器具に近い排水管途中にグリース阻集器が設けられる。油脂類のほかにも管閉塞の原因となる物質がある。 阻集器は、 内部に浮遊または堆積した阻集物質を適時に除去しなければならない。除去を怠ると、 排水機能が損なわれるばかりでなく、阻集物の腐敗などにより、 不衛生な状況になり得る。したがって、 維持管理においては、 阻集状態を監視し、 適切に除去 ・掃除を実施しなければならない。金属管(鋳鉄管、 亜鉛メッキ鋼管、 鉛管、 鋼管など)は、 腐食により肉薄とな

    り、 穴があいて漏水する危険性がある。なお、 ライニング鋼管でも、 継手の接合部が腐食して漏水することもある。写真-1は、流し台下の 50㎜排水横枝管の鋼管のねじ部が腐食により欠損して漏水事故になった。このような状況下では、高圧洗浄により1階の桝で回収された排水鋼管内部の除去された錆が多量に摘出されることがある。維持管理においては、 配管も外観を調べるとともに場合によっては内視鏡などによる内壁面の点検が必要となる。

    3.排水不良・管閉塞・漏水の原因と特性

    排水不良は、設計時に想定した円滑な排水がなされない状況、すなわち、排水の流れが悪い状況をいい、多少とも排水は流れる。管閉塞は、排水がほとんど流れない状況、すなわち、詰まりが生じた状況をいう。通常、排水不良が生じ、それが進展して管閉塞となるが、異物などの停滞により即座に管閉塞となる場合もある。排水システムにおける排水不良・管閉塞の原因として、次が挙げられる。(1)不適当な勾配(2)油脂類の付着(3)尿固形物の付着(4)毛髪の停滞(5)雑物・異物の停滞(6)草木の根の侵入

    写真-1 流し台下鋼管ねじ部欠損

  • (寄稿文)40

    (7)腐食(8)凍結8つの排水不良・管閉塞の原因を実際の状況の写真で説明を行う。

    (1)不適当な勾配勾配不良・逆勾配は、排水不良だけでなく、排水混入物の停滞・堆積・付着により、管閉塞に進展する可能性がある。例えば、流速がないなどで毛髪の固まりや異物が曲がり部や接続部直前に停滞した場合、速やかに補修等を提案し、適正な勾配に変更しなければならない。写真-2は、築 28 年のマンションで流し排水枝管が逆勾配になっており、水が停滞している状況で腐食がかなり進行している。写真-3は同じマンションで順勾配の配管との比較である。同年数にもかかわらず、腐食の状態が大きく違うのがわかる。

    (2)油脂類の付着動物脂の凝固温度は約 22~ 45℃であるから、排水が流れていくうちに冷却され、容易に凝固する。また、植物油は洗剤により変質したエマルジョン状物質となり、同様に凝固していく。それらの半凝固・凝固状の油脂類(変質物質を含む)が排水に浮遊しながら、あるいは混ざりながら流下して排水管内壁に付着し、排水のたびに付着量が増加し、排水管内の流下断面積を狭くしていくのである。実際の排水立管を抜管したものが写真-4である。テナントビルの営業用厨房排水系統の排水横枝管(管径 75㎜)における詰まりの実例である。10 年程度の未清掃の結果、白い油脂類が管に層状になって管内壁に付着している。写真-5は、前出の排水立管を切断し抜管の断面を撮影したもので、油脂類で約 70%閉塞状況となっている。

    (3)尿固形物の付着小便器の排水は排尿と洗浄水であるから、尿中の固形物(尿素など)が必ず含まれている。この固形物が小便器排水系統の管内壁に付着してスケールとなり、堆積して排水不良や管閉塞を引き起こす。写真-6は、壁掛小便器をはずし、接続口の尿石の付着状況を撮影したもので、90%ほど尿石で閉塞しているのが判る。写真-7は、セメントほどの硬さになった尿石が配管内で割れて板状になり残っている。

    (4)毛髪の停滞排水に混入した毛髪が排水枝管・横枝管の曲り部などに停滞すると、絡み合い、さらに後続の毛髪と相絡まって毛鞠状になって管内を塞ぐように停滞し、排水不良や管閉塞を生じていく。毛髪が配管に多量に流入すると、横主管を閉塞させるほどの詰まりになる。予防策として、排水口に毛髪を配管内に流さない目皿などを取り付け、1週間以内に定期的に清掃を行うと有効である。

    (5)雑物・異物の停滞雑物の停滞は、汚水系統では汚物・トイレットペーパーなど、雑排水系統であれば厨芥・毛髪・衣類くずなどがある。異物の停滞は、営業用厨房排水系統ではスプーン、フォーク、割り箸など、大便器排水系統では新聞紙、大量のトイレットペーパー、下着、雑巾、携帯電話、筆記具、化粧用具、手帳、財布、おむつ、煙草、生理用品などがあり、敷地排水管では、配管が破損して土砂・砂利などの

    写真-3 順勾配の流し排水鋼管

    写真-9 鋳鉄管150㎜に穴写真-5 抜管鋼管が約70%閉塞

    写真-4 排水立管75㎜鋼管

    写真-6 壁掛小便器接続口の尿石

    写真-7 配管内に板状で尿石堆積

    写真-8 桝内に根が多量に繁茂

    写真-2 逆勾配の流し排水鋼管

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    流入例がある。

    (6)草木の根の侵入樹木の根は、敷地排水管等の配管接続部の隙間より侵入し、汚水の栄養分を吸収し内部で大いに増殖する。写真-8は、排水インバート桝の接続部から多量の根が侵入し排水が詰まり水が桝内に停滞している写真である。処理として桝の周囲を掘り起こし桝内の根を完全に除去する必要があるが、水中ボンドなどで応急処置することもある。桝間に土管やヒューム管などを敷設している場合は、樹木の根が入り込むことがあるので内視鏡で確認する必要があり、常に正常な状態にする必要がある。

    (7)腐食排水用管材に用いられる金属管のうち、採用が多い鋼管と鋳鉄管は、経年により管内面が腐食して錆が発生する。錆瘤が発生すると、排水不良になることがあると同時に、管材自体の劣化で穴があいて

    漏水を生じるケースがある。一般に、汚水系統より雑排水の流し系統の腐食が進みやすく、鋳鉄管に比べて鋼管が錆びやすいといわれている。また、酸性の排水管洗浄剤の使用などにより腐食が促進されることがある。写真-9は、築 29 年のマンションで鋳鉄管 150㎜の汚水管の横主管チーズ部下部に約4㎝×2㎝の穴が開いた写真で、写真- 10は、築 22年のホテルのグリース阻集器から先の配管が地下ピット内に吊られており、外部からの腐食と配管の内部の腐食により配管下部が欠損しており、地下ピット内に排水が漏れ出て不衛生な状況になっていた。

    (8)凍結寒冷地では、冬期に外気温近くまで温度が下降しやすい位置に設置された排水機器や配管類(例えば屋外桝、ルーフドレン管、トラップ封水の水、ピロティ天井等の塩化ビニル製排水横主管、露出配管、埋設深度の浅い敷地排水管)などが凍結する場合がある。排水系統で凍結が生じると、管閉塞、排水不良に直結する。また、氷結による体積膨張により、継手やトラップの破損が起きる場合がある(純水の場合大気圧のもとでは0℃で氷結し約9%の体積膨張が起こる)。一般的な凍結防止対策として、トラップや継手、配管を凍結深度より深く埋設する方法や、氷点下となり得るルーフドレン管に対して凍結防止ヒーターを設ける方法があるが、凍結防止ヒーターの通電不良により凍結が発生する場合もある。

    4.ディスポーザ排水管内付着物および堆積状況

    近年、ディスポーザ排水処理システムを有している集合住宅が都市部を中心に増加している。その特徴として通常配水では流さない食材等固形物を粉砕し、流しより排水するため、流し排水管内には、卵殻や野菜くずなど排水混入物の停滞が一般の流し排水管より多くなる。このため排水システムの搬送性能および排水管洗浄の観点からは、曲がり部が少なく距離の短い排水枝管が望ましいといえる。

    (1)ディスポーザ排水の付着物・停滞物の状況

    図-1は、当協会で以前実験を行い、排水横枝管の長さと卵殻の堆積箇所比率を示したものである。ディスポーザからの粉砕物の流入状況を1m間隔で重量測

    定したが、排水口から2m以内に卵の殻が 83%堆積する結果になった。ディスポーザが作動し、堆積が始まると、同部位に重なるように堆積していく。これは現状の排水システムにおいて、卵殻に対する搬送能力に限界があるため、卵の殻が排水口に比較的近い部分に堆積している。それはディスポーザの排水流速が影響していると思われる。竣工後1年のディスポーザ付マンションで調査を行った。14 階、114 戸規模のマンションの4階の排水横枝管を調査したところ、油脂類の付着が配管全体に見られた。写真- 11 は、その排水横枝管から内視鏡を挿入し排水立管流入口を写したもので居住半年にも関わらず油脂類の付着が著しく、管断面積の 40%が油脂類で閉塞していた。また、14 階より内視鏡を挿入した排水立管では、築後1年にもかかわらず、油脂類が管内全体に付着していた。

    (2)ディスポーザ排水横主管の堆積状況および清掃周期

    流し単独配管のディスポーザ設置の排水システムにおいて卵殻の堆積が最大の懸案事項である。卵の殻が停滞すれば油脂分が相乗的に付着し、加速されて管付着を促進し排水管の詰まりの原因になる。写真- 12 は、多くの排水立管が接続されている地下ピット内の配管風景で、ディスポーザ排水立管が2本の横主管に1対Nの状態で多く接続されているのが分かる。写真- 13 は、排水横主管の洗浄前の内部の写真であるが、写真- 14は、その排水横主管を高圧洗浄機で洗浄した際に摘出された多量の卵殻等である。ディスポーザ排水横主管に多量の卵殻が停滞しているのが分かる。排水管清掃周期に関しては、以前の当協会の調査2) で、一般の排水システムでは1~2年以内の清掃周期が望ましいとされていが、ディスポーザ設置の台所排水管は排水混入物が多く配管内付着物・堆積物を増加させるため、1年以内の清掃が望ましい。特に排水立管および排水横主管の共用管は、卵殻等の堆積による排水の逆流のリスクがあるため6ヶ月に1回以上の点検・清掃が望ましい。

    写真-11 排水立管流入口の油脂類

    写真-10 ピット内の欠損配管

    図-1 卵殻の堆積箇所比率

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    5.排水管の清掃方法

    排水管の洗浄作業に用いられる洗浄方法は、管内の付着・堆積・閉塞物を取り除く手法として、主として物理的に剥離・粉砕する機械的洗浄方法と、化学的に溶解する化学的洗浄方法に大別される。

    (1)高圧洗浄法高圧洗浄機または高圧洗浄車からホースで導水し、ホースの先端に取り付けられたノズルから噴射する高速噴流により管内付着・堆積物等を除去する方法。噴射孔の角度により、前方噴射、後方噴射、横噴射の各タイプおよびそれらの組み合わせが採用されている。後方噴射タイプは、洗浄とともに自走機能がある。注意点としてノズルの外れ防止、ホースの接続確認、歩行者足元注意、ホースの老朽化による高圧水噴射などの事故・トラブルがある。

    (2)ワイヤ式清掃法スクリュー形、ブラシ形等のヘッドが先端に取り付けられたワイヤを排水管内に回転させながら挿入し、押し引きを繰り返しながら、管内停滞・付着物等を除去するものである。ワイヤは、配管の曲がりに対応できるように、フレキシブルな螺旋構造となっている。高圧洗浄に比べると清掃効果は劣るが、異物摘出、詰まり貫通に適している。

    (3)ロッド法ロッド法は 1.0~ 1.8 m程度のロッド

    (長い棒)を繋ぎ合わせて、手動で排水管内に挿入するものである。この方法は敷地排水管や雨水敷地排水管に適用され、排水桝から挿入して作業する。ロッドの最大繋ぎ長さは 30m程度である。

    (4)空圧式清掃法閉塞した排水管内に空気ポンプを用いて圧搾空気を管内に一気に放出し、その衝撃波により閉塞物を破壊・離脱させて除去する。その空気圧力は0.2~0.32MPa程度で使用され、最大空気圧力は 1.0MPa程度である。効果的な清掃方法として洗浄能力からいえば、高圧洗浄機による管洗浄が最適であるが、ワイヤ式清掃法・ロッド法・空圧式清掃法なども詰まり除去として効果的である。以上4工法の概略を述べたが、当協会

    でディスポーザ排水管の効果的清掃方法の実験3) を行い、卵殻の堆積を搬送する能力を検証した。図-2に洗浄ノズルの噴射パターンを示す。先端ノズルは「後方噴射型」が多く使われているが、実験では「回転型」と「前方・後方噴射型」も加えた3種類について搬送能力を比較した。図-3に、各種ノズルごとに圧力を変えた場合の卵殻の搬送排出率を示す。後方噴射型は上流から挿入するため、堆積物を攪拌するのみで搬送能力は劣り、回転噴射型が最も優れた搬送能力を示した。また、回転噴射型は吐出圧力を2倍にすることにより、搬送能力が 16%高まる結果が得られた。回転噴射型ノズルで噴射された横出しの高圧水が回転することにより 360°のスクリ-ンを形成し、管壁の付着物、管底の堆積物を前方へと押し流す状況が見られた。

    6.実用的清掃用掃除口の設置の提案

    最後に排水管清掃における実用的な掃除口等の提案を行う。共有部分において適切な清掃用開口部・点検口が少なく、清掃作業が困難になっている配管がある。また最近では、敷地排水系統に小口径桝、いわゆる塩ビ桝等が増える傾向にあり、排水横主管、排水立管への清掃の際、堆積物等の摘出が困難になっている。例えば前述の写真- 12 のように、各排水立管系統と排水横主管に桝を設けず、地下ピット内で多くの系統を合流させている配管は、多量の残渣物を回収する掃除口が系統ごとに必要になってくる。また、ピット内は作業条件が悪く、掃除口が設置されていない配管が多くある。このようなケースでは、写真- 14 のように配管合流付近に上向きの掃除口を設置することにより、排水管洗浄が可能になる。一方、上流から下流への向きの掃除口の場合、比重の重い堆積物や清掃により剥離した固形物等は上流側清掃口からの押し出し作業では完全に桝まで搬送することが困難になる。また高層集合住宅に見られるような下階がテナント造りとなっているような建物ではより複雑に配管され、排水立管で特殊継ぎ手等の配管がされているため、掃除口の設置が重要である。また排水管の繋ぎのエルボは、ショートエルボよりロングエルボを使用することで堆積物が停滞しにくく洗浄

    図-3 各種ノズル噴射圧力による卵殻

    の搬送排出率

    図-2 各種洗浄ノズルの噴射パターン

    写真-12 地下ピット内での配管

    写真-13 排水横主管の堆積状況

    写真-14 排水横主管から多量の卵殻

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    【参考文献】

    1) ビル管理教育センター:排水管清掃作業監督者講習会テキスト、2010

    2) 難波ほか;排水管の詰まりと清掃に関する調査、建築物環境衛生管理全国大会抄録集、pp.58~59、ビル管理教育センター、2002

    3)齊藤ほか;ディスポーザ排水管における付着・堆積状況及び効果的清掃方法の実験、建築物環境衛生管理全国大会抄録集、pp.18~19、ビル管理教育センター、2005

    ホースの挿入も安易になる。図-4は、ディスポーザ排水システムの概略図であるが、以下に効果的な排水管洗浄を行う上での配管設計の提案を示す。写真- 15 は、屋上の伸頂通気管より高圧洗浄ホースで排水立管の洗管を行い、写真- 16 は、排水立管の途中の掃除口より洗浄を行っている風景である。

    (1)屋内排水横枝管①図-4のⒶ-排水立管近くに床上掃除口を設置する。掃除口より上流への逆噴射ノズルの高圧洗浄をすることにより付着物・堆積物をほぼ完全に除去できる。

    ②図-4のⒷ-ディスポーザの掃除口は45度のエルボで手前側に取り付ける。流し台下はスペースが無いため洗浄困難になりやすい。

    ③図-4のⒸ-排水口より排水立管までのエルボの数は5か所以内とする。90°エルボを連続して接続しない。

    ④図-4のⒹ-排水立管が隠蔽部パイプシャフトの場合は床からの高さ1mの450㎜角の点検口を設置する。

    (2)排水立管①図-4のⒺ-通路側掃除口を1階および3~5階間隔で掃除口を設置する。掃除口はTY継手とし、立管掃除口前にガス管など他の配管などを設置しない。

    写真-15 屋上伸頂通気管より洗浄中

    写真-16 通路側排水立管より洗浄中

    ②図-4のⒻ-住戸内の排水立管は、排水立管伸頂通気を屋上にまっすぐ立ちあげる。高層になるほどエルボなどの曲りがあると高圧洗浄ホースを上げるときに負荷がかかり、曲り個所にも負担がかかり、高圧ホースの破損や引っかかり等の事故が起きやすくなる。

    ③図-4のⒼ-最下階の排水立管脚部に掃除口を設置する。

    (3)排水横主管および敷地排水系統①図-4のⒽ-埋設管では小口径桝ではなく径450㎜以上の堆積物摘出用の桝を30m以内に設置する。

    ②図-4のⒾ-残渣物を短いスパンで回収することにより処理槽への流入を防ぐため地下ピット排水横主管では、同径の上向き掃除口を各横主管の系統ごとに設置する。また、配管下にスペースがある場合は、残渣物回収用の下向き掃除口を設置すると残渣物を回収しやすい。

    図-4 ディスポーザ排水システムの概略図