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ヒロコバネ N eomicropteryx nipponensis Issiki 卵巣構造(鱗麹目、コバネガ科) 小林拳正 31 YukimasaKOBAYASHI: Ovarianstructure ofthemicropterigidmoth Neomicropteryx n rponensis Issiki(Lepidoptera Micropterigidae) * DepartmentofBiology SaitamaMedicalSchool 981 Kawakado Morayama lruma un Saitama350-04 Japan カイコなどの高等な鱗麹類(コ門類)の卵巣i 土、左右それぞれ 4 本の交互栄養室型の卵巣小管から構成される O 各卵巣小管には発達段階の異なる卵室が数珠;伏に速なっており、各卵三菱では H 毘の卵母線抱に 71 援の鴻脊織胞 が付随している。一方、下等な鱗麹類では、卵巣小管の数が分類群ごとにやや異なることが知られているが(片 側で長高45 本)、卵巣小管のタイプおよび様育綴胞の数などは確認されていなし、。そこで演者は鱗趨沼の卵巣の 基本構造 groundplan を採る目的で、この日で最も原始的とみなされているコパネガ科のヒロコパネの成虫の卵 巣を主に光学顕微鏡により観察し、カイコなど高等なグループのそれと比較した。 結果 ヒロコパネの左右の卵巣はそれぞれ 5 本の卵巣小寺まから構成されていた。この数は向ヒ科の Micropterix calthella の状態とも一致するので (Petersen 1900) 、この科に共通の特徴と考えられる。したがって、鱗麹日 全体としては、卵巣小管の数は他の昆虫類のものよりもかなり少ない 4 ないし 5 本の状態がまま本形とみなせる であろう O 羽化直後の個体の卵巣小管の形成巣には、発達段階の異なる 511 聞の卵室が認められ (Fig.lA) 、これらを便 宜上 5 ステージに分けた。なお、左右の機事会卵管i こは全部で約301 簡の成熟卵が詰っていた。 ステージ 1 は前卵賞形成期に相当するものだが、各シストサイトの核のクロマチンが不規則に凝縮して、退 行的変化治宝認められた。 ステージ 2 から 4 は卵黄形成郊で、卵母織胞に卵黄粒が急激に増加するが、本穫では股妨性の卵黄粒の増加 が著しいο 崎育細胞は 71 ,国あり、そのうち後方の 3 個がringcanal で卵母細胞と連絡しているのが確認された。 しかし、 E 織育綿胞どうしを給ぶ ringca aU ま、総総表言語にある書票数の微小な突起の存在が罪事害になり、確認でき なかった。 後方の 31 閣の目前育細胞は前方の 4 個のものよりかなり大きく、またその核には約30 個もの大型の核 小体が形成されるので、これらの細胞で ribosomalRNA の合成が表しいことが推測された。卵母細胞の卵核胞 には 2 個の大型の核小体様の構造と様々な大きさの微粒子が認められた (Fig.1B)。核小体様の構造は常に極 めて接近して存在し、一方はエオシンに濃く一様に染り、他方は染色性が悪〈、内部に中空のスポンジ状の構 造が認められる o 第にまばらになる。 ステ}ジ 5I ま卵族形成惑で、卵母紛胞の表面に卵黄桜と卵殺が形成されて、卵が完成する。コパネガ類の事者 膜の守ち、特に卵殻は薄く、厚ち 0.1μm 以下であることが知られている。このステージの初めにH 南青細胞と卵 母細胞を結ぶ ringcanal は切れて、 JJW iW極がj 慮胞細胞で察がれる O これに伴い、輸育細胞は退化し消滅する。卵 核胞では、卵黄形成惑に存在した 2 俸の核小体様の構迭はこのステージで完全に消滅し、かわりに減数分裂直 前の染色体が認められるようになる。完成した卵では、卵黄粒が豊富で‘、表層細胞質は極端に少ない。 上記のように、ヒロコパネの卵巣小管は 71 留の補育綿胞を伴う交互栄養室滋である点で、 f 患の鱗趨類で知ら れているものとまま本的に同じであることがわかった。しかし、渡胞細胞の数、暗脊細胞および卯核胞の状態な どでは、他の種とはやや異なる次のようないくつかの特徴が認められた。(1) I1量胞細胞はカイコなどの場合の ように丈の高い円柱綴抱i こは発途せず (Kingand Aggarwal 1965; Yamauchi and Yoshitake 1984) 、その数も ←一一一一一一一一一一一一一一一一 Abstraetof paper readtthe29thAnnualMeeting of ArthropodanEmbryologicalSociety of Japan June 4-5 1993(Rokko Kobe). Proc. Arthrapod.EmbryoL. Soc Jpn. (2 9) (1 994)

ヒロコバネ Neomicropteryx nipponensis Issiki の 卵巣構造(鱗麹目 …aesj.co-site.jp/num29/1994_Vol.29_31.pdf · ヒロコパネの左右の卵巣はそれぞれ5本の卵巣小寺まから構成されていた。この数は向ヒ科のMicropterix

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ヒロコバネNeomicropteryx nipponensis Issikiの卵巣構造(鱗麹目、コバネガ科)

小林拳正

31

Yukimasa KOBAYASHI: Ovarian structure of the micropterigid moth, Neomicropteryx n伊rponensisIssiki (Lepidoptera, Micropterigidae) *

Department of Biology, Saitama Medical School, 981 Kawakado, Morayama, lrumaずun,Saitama 350-04,

Japan

カイコなどの高等な鱗麹類(コ門類)の卵巣i土、左右それぞれ4本の交互栄養室型の卵巣小管から構成される O

各卵巣小管には発達段階の異なる卵室が数珠;伏に速なっており、各卵三菱では H毘の卵母線抱に 71援の鴻脊織胞

が付随している。一方、下等な鱗麹類では、卵巣小管の数が分類群ごとにやや異なることが知られているが(片

側で長高45本)、卵巣小管のタイプおよび様育綴胞の数などは確認されていなし、。そこで演者は鱗趨沼の卵巣の

基本構造groundplanを採る目的で、この日で最も原始的とみなされているコパネガ科のヒロコパネの成虫の卵

巣を主に光学顕微鏡により観察し、カイコなど高等なグループのそれと比較した。

結果

ヒロコパネの左右の卵巣はそれぞれ 5本の卵巣小寺まから構成されていた。この数は向ヒ科のMicropterix

calthellaの状態とも一致するので (Petersen,1900)、この科に共通の特徴と考えられる。したがって、鱗麹日

全体としては、卵巣小管の数は他の昆虫類のものよりもかなり少ない 4ないし 5本の状態がまま本形とみなせる

であろう O

羽化直後の個体の卵巣小管の形成巣には、発達段階の異なる 511聞の卵室が認められ (Fig.lA)、これらを便

宜上5ステージに分けた。なお、左右の機事会卵管iこは全部で約301簡の成熟卵が詰っていた。

ステージ 1は前卵賞形成期に相当するものだが、各シストサイトの核のクロマチンが不規則に凝縮して、退

行的変化治宝認められた。

ステージ 2から 4は卵黄形成郊で、卵母織胞に卵黄粒が急激に増加するが、本穫では股妨性の卵黄粒の増加

が著しいο崎育細胞は 71,国あり、そのうち後方の 3個がringcanalで卵母細胞と連絡しているのが確認された。

しかし、 E織育綿胞どうしを給ぶringca設aUま、総総表言語にある書票数の微小な突起の存在が罪事害になり、確認でき

なかった。 後方の 31閣の目前育細胞は前方の 4個のものよりかなり大きく、またその核には約30個もの大型の核

小体が形成されるので、これらの細胞でribosomalRNAの合成が表しいことが推測された。卵母細胞の卵核胞

には 2個の大型の核小体様の構造と様々な大きさの微粒子が認められた (Fig.1B)。核小体様の構造は常に極

めて接近して存在し、一方はエオシンに濃く一様に染り、他方は染色性が悪〈、内部に中空のスポンジ状の構

造が認められるo JJß~をとり屈む湾、総綴胞の数は卵母綴胞の成長に比例しては増加しないため、その分布は次

第にまばらになる。

ステ}ジ 5Iま卵族形成惑で、卵母紛胞の表面に卵黄桜と卵殺が形成されて、卵が完成する。コパネガ類の事者

膜の守ち、特に卵殻は薄く、厚ち0.1μm以下であることが知られている。このステージの初めにH南青細胞と卵

母細胞を結ぶringcanalは切れて、 JJWiW極がj慮胞細胞で察がれる O これに伴い、輸育細胞は退化し消滅する。卵

核胞では、卵黄形成惑に存在した 2俸の核小体様の構迭はこのステージで完全に消滅し、かわりに減数分裂直

前の染色体が認められるようになる。完成した卵では、卵黄粒が豊富で‘、表層細胞質は極端に少ない。

上記のように、ヒロコパネの卵巣小管は 71留の補育綿胞を伴う交互栄養室滋である点で、 f患の鱗趨類で知ら

れているものとまま本的に同じであることがわかった。しかし、渡胞細胞の数、暗脊細胞および卯核胞の状態な

どでは、他の種とはやや異なる次のようないくつかの特徴が認められた。(1)I1量胞細胞はカイコなどの場合の

ように丈の高い円柱綴抱iこは発途せず (Kingand Aggarwal, 1965; Yamauchi and Yoshitake, 1984)、その数も

←一一一一一一一一一一一一一一一一権 Abstraetof paper read品tthe 29th Annual Meeting of Arthropodan Embryological Society of Japan, June 4-5, 1993 (Rokko, Kobe).

Proc. Arthrapod. EmbryoL. Soc‘Jpn. (29) (1994)

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Fig. 1 Longitudinal sections of ovarioles of Neomicropteryx nipponensis, lower (A) and higher

(B) magnifications, stained with haematoxylin and eosin. Scales A, 100μm; B, 50μm.

fc: follic¥e cell, gr: germarium, gv: germinal vesic¥e, nc: nurse cell, nl: nuc¥eolus, nl.b: nuc-

leolus-like body, oc: oocyte, st1-5: follic¥es of stage 1 to 5.

かなり少ない。これは本種の卵膜が極めて薄いことに対応していると恩われる。(2)崎育細胞の核はカイコな

どの場合のように細かく分岐せず、ほぼ球形である。晴育細胞は後方のものが前方のものよりかなり大きし

したがって、卵母細胞が受け取る栄養分は後方のものに大きく依存していると思われる。 (3)卵黄形成期の卵

核胞には 2個の大きな核小体様の構造が形成される。その本体と機能は不明で、他の鱗麹類からは未知である。

ただし、これと類似の構造はショウジョウバエゃある種の甲虫の卵核胞から karyosphereあるいはendobodyと

して知られている。

引用文献

King, R. C. and S. K. Aggarwal (1965) Growth, 29, 17-83.

Petersen, w. (1900) Mem. Acad. Sci. St. Petersb., Ser.8, 9,1-144

Yamauchi, H. and N. Yoshitake (1984) J. Morphol., 179,21-31