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―― 研究論集委員会 受付日 20199 20承認日 20191028―― 商学研究論集 522020. 2 サービス・ブランディング・モデルの比較と ブランド研究への課題 A Comparison of Service Branding Models and Current Issues in Brand Research 博士前期課程 商学専攻 2019年度入学 WANG Xiaoyi 【論文要旨】 市場のコモディティ化が進む,現在,ブランドが益々重要となっている。企業にとって,強力な ブランドを構築することは重要である。サービス業の発展とともに,サービス・ブランディングは 新たな課題として注目を集めている。本研究では,Berry の研究,Grace and O'Cass の研究, Krystallis and Chrysochou の研究をレビューし,提示された概念とモデルを検討する。そして, 本研究は,3 つの研究を通して,サービス・ブランディング・モデルについての考察を加えて,残 された問題と限界を見つけて,今後の研究の方向を示す。 【キーワード】 サービス・ブランディング・モデル,SBV モデル,SBL モデル,ブランド,サー ビス企業 【目次】 はじめに 1 Berry2000)研究の記述的方法 2 Grace and O'Cass2005)研究の実証的方法としての SBV モデル 3 Krystallis and Chrysochou2014)研究の実証的方法としての SBL モデル 4 記述モデル,SBV モデル,SBL モデルの意義と発展性 1. Berry2000)の研究の意義 2. Grace and O'Cass2005)の研究の意義

サービス・ブランディング・モデルの比較と ブラン …...― ― 研究論集委員会 受付日 2019年9 月20日 承認日 2019年10月28日 商学研究論集

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研究論集委員会 受付日 2019年 9 月20日 承認日 2019年10月28日

――

商学研究論集

第52号 2020. 2

サービス・ブランディング・モデルの比較と

ブランド研究への課題

A Comparison of Service Branding Models

and Current Issues in Brand Research

博士前期課程 商学専攻 2019年度入学

王   暁 芸

WANG Xiaoyi

【論文要旨】

市場のコモディティ化が進む,現在,ブランドが益々重要となっている。企業にとって,強力な

ブランドを構築することは重要である。サービス業の発展とともに,サービス・ブランディングは

新たな課題として注目を集めている。本研究では,Berry の研究,Grace and O'Cass の研究,

Krystallis and Chrysochou の研究をレビューし,提示された概念とモデルを検討する。そして,

本研究は,3 つの研究を通して,サービス・ブランディング・モデルについての考察を加えて,残

された問題と限界を見つけて,今後の研究の方向を示す。

【キーワード】 サービス・ブランディング・モデル,SBV モデル,SBL モデル,ブランド,サー

ビス企業

【目次】

はじめに

第 1 章 Berry(2000)研究の記述的方法

第 2 章 Grace and O'Cass(2005)研究の実証的方法としての SBV モデル

第 3 章 Krystallis and Chrysochou(2014)研究の実証的方法としての SBL モデル

第 4 章 記述モデル,SBV モデル,SBL モデルの意義と発展性

1. Berry(2000)の研究の意義

2. Grace and O'Cass(2005)の研究の意義

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3. Krystallis and Chrysochou(2014)の研究の意義

今後の研究課題

参考文献

はじめに

市場のコモディティが進む,現在,ブランドが益々重要となっている。サービス業の発展ととも

に,サービス企業にとって,「どうやって自社のブランドを作るのか」,また,「どうやって競合

に打ち勝っていくのか」ということが問題となっている。今日に至るまで,ブランディングは

サービス業の中で課題として注目を集めて続けている。

従来のブランド研究は,有形財に焦点を合わせ,サービスへの注意は限られていた。そのため,

サービスと有形財の違いを考察することが新たな課題となっていた。この課題に答えるため,Ber-

ry はサービス業を重点に置いて研究を行い,サービスに関するモデルを提示し始めた。Berry は

サービス業における優秀な14社に対する一次調査を行って,サービス・ブランディングの将来に

おける重要性を示し,有形財において製品が主要なブランドであるように,サービス業において企

業が主要なブランドであるということを指摘した。サービス企業にとって,ブランディングは重要

な役割を果たしている。その理由は,強力なブランドは,目に見えないサービス購買で信頼を増や

すことができるということである。それだけではなく,強力なブランドは消費者に無形財を視覚化

させて,理解させることができる。また,サービスを購入する前には,評価することは困難である

が,強力なブランドは消費者が認識したサービスを購入する際の金銭的,安全上のリスクを減少さ

せるという作用がある。

また,サービス業において,顧客価値創造は重要である。Berry と Parasuraman(1991)は,

サービスが顧客価値の決定においてより大きな役割を果たすので,ブランドの影響は商品から企業

へ変化しているということを指摘した。消費者はブランディングと一緒に考た上で,商品を購入す

る傾向がよくあるので,Berry はサービス業においてはブランドの開発が不可欠なことを指摘し

た。そして,Berry はブランド形成において顧客のサービス経験が重要な役割を果たすことを強調

するというサービス・ブランディング・モデルとブランド育成戦略を提示した。

Grace and O'Cass(2005)の研究は,サービス業におけるブランド・ディメンションを調査し,

顧客反応変数(ブランド態度,満足度,将来の行動意図)との関係を究明しようと試みた。そして,

彼らは既存モデルに基づいて,サービス・ブランド・ヴァーディクト・モデル(SBV モデル)を

提示した。

顧客が,ブランドをどのように評価し行動するかを説明するために,いくつかの理論モデルが提

示された。現在では,競合他社の増加につれて,企業にとって,「顧客満足」がますます重要にな

っている。多くの企業は顧客満足と顧客維持に焦点を当て,戦略を展開している。また,ロイヤル

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ティは,企業が成功を収め,高い利益を得る決定要因であると見なされる場合が多いため,ブラン

ド・ディメンションの要素が顧客の反応に影響を与えるという点に言及する際に,ロイヤルティと

いう概念が,特にサービス業界では広く注目されている(Caruana et al., 2000; Juhl et al., 2002)。

Krystallis and Chrysochou(2014)の研究は,先行研究の欠点を考慮したうえで,SBV モデル

の改訂版 SBL モデルを提示し,検証した。このモデルは,サービス・ブランド・ディメンション

は顧客のブランド・ロイヤルティに影響を与えることを明らかにした。

本研究の目的は,これら 3 つの研究を概観して,サービス・ブランディング・モデルのブラン

ド研究上の意義を明らかにすることである。

第章 Berry()研究の記述的方法

サービスを購入する前には触ったり,試したりすることができないので,強力なブランドがあれ

ば,ブランドが実際のサービスの代替品として認識され,消費者がブランドを購入するため,商品

を購入する可能性が高くなる。したがって,サービス企業にとって,ブランディングは重要な役割

を果たしている。

サービス業において,顧客価値創造は重要である。Berry と Parasuraman(1991)は,サービ

スが顧客価値の決定においてより大きな役割を果たすので,ブランドの影響は商品から企業へ変化

しているということを指摘した。ここで,彼らはスターバックスの例を挙げた。他社に比べスター

バックスを好む顧客は,商品そのものよりも企業のブランドの方を重視している。さらに,顧客の

サービス経験は「スターバックス」というブランドに対する認識において際立っていると述べてい

る。

また,Berry はブランディングは,現在のサービス・マーケティングの基礎であることを提示し

た。消費者はブランディングと一緒に考た上で,商品を購入する傾向がよくある。企業が広告を出

す場合,商品をブランドと関連付けて消費者に見せる。特有な記号,人,ステートメントなどと繋

がっている場合が多い。Berry は Nike の広告の中は必ず「JUST DO IT」というステートメント

が出てくることを例として挙げた。Berry はサービス業においてはブランドの開発が不可欠なこと

を指摘した。

. 企業のブランディング

()サービス・ブランディング・モデル

消費者にとって,強力なサービス・ブランドは商品の品質と満足感に対する保証と思われてい

る。この中には,企業が提示するブランドと,顧客のブランドに対する考え方,両方が含まれてい

る。そのため Berry は,ブランド形成において顧客のサービス経験が重要な役割を果たすことを

強調するというサービス・ブランディング・モデル(図 1)を提出した。

サービス・ブランディング・モデルは,サービス・ブランドの主要な各構成要素の関係を描いた

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図 サービス・ブランディング・モデル

(出所) Leonard L. Berry(2000)p.130

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ものである。図の中の太線は一次影響を指しており,点線は二次影響を指している。Berry によれ

ば,まず,各要素を明確にする必要がある。

企業が提示したブランドとは,広告およびサービス設備とサービス提供者の外観を通じた,アイ

デンティティと目的に関する,企業に管理されているコミュニケーションである。すなわち,企業

がブランドを概念化して宣伝するブランド・メッセージということである。企業の名前,ロゴ,視

覚的表現,広告のテーマラインと記号連合は,企業が提示したブランドの核心要素として含まれて

いる。企業が提示したブランドは,ブランド認知に対して一次影響を与えて,ブランド・ミーニン

グに対する二次影響を与えるということがこの図 1 を通じて分かる。このブランド認知とは,顧

客がブランドに関する手掛かりを提供されるとき,このブランドを思い出すということである。一

方,ブランド・ミーニングは,顧客のブランドに対する主要な認識または知覚ということを指して

いる。ブランド認知との根本的な相違点は,ブランド・ミーニングの源泉は顧客のサービスに対す

る体験である。すなわち,顧客経験はブランド・ミーニングを形成させるということである。図 1

から見ると,顧客経験はブランド・ミーニングに対して直接的に影響している。つまり,一次影響

を与えているのである。

外部的なブランド・コミュニケーションは,顧客は企業と提供されるサービスに関する情報を理

解するということを指している。ここで注意すべき点は,企業がコントロールできないということ

であり,口コミや広報などが も一般的な形式である。企業が提示したブランドと比べて,外部的

なブランド・コミュニケーションはブランド認知とブランド・ミーニングの二つに対して二次影響

を与えている。

企業が提示したブランドと外部的なブランド・コミュニケーションは,サービスを体験していな

い新規顧客に対する影響力が大きく,ブランドに対する印象を形成させるが,購入決定は顧客の経

験に強く左右されている。ブランドの資産価値はブランド・エクイティと呼ばれている。

Keller(1993)によれば,ブランド・エクイティはブランド認知とブランド・ミーニングの差別

効果とブランド・マーケティングにおける反応との組み合わせであると定義されている。つまり,

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ブランド認知とブランド・ミーニング,二つともブランド・エクイティに影響しているが,程度は

全く違っている。Berry は,顧客経験はブランド・ミーニングを形成させ,ブランド・ミーニング

はブランド・エクイティに対して強い影響を及ぼすことを明らかにした。

()ポジティブ・ブランド・エクイティとネガティブ・ブランド・エクイティ

ブランド・エクイティは,Berry によってポジティブとネガティブの二種類に分けられている。

ポジティブ・ブランド・エクイティは,ブランドが無名の競合他社を超えるというマーケティン

グ優位性を指している。一方,ネガティブ・ブランド・エクイティは,特定なブランドに関連する

マーケティングにおける不利益の程度を指している。バリュージェット航空会社が航空事故に遭っ

た後に,社名をエアトラン航空に変更したことは,ネガティブ・ブランド・エクイティの概念を用

いて理解することができる。

()無形財におけるサービスの重要性

前述したサービス・ブランディング・モデルと有形財に関するパッケージグッズ・モデルとの主

な違いは,サービス・パフォーマンスの顕著作用である。その理由は,顧客が有形財を購入する際

に,ブランド・ミーニングとブランド・エクイティの形成は,サービス経験だけでなく,商品を使

用する経験に大きく左右されていることである。しかしながら,ホテルのような労働集約型サービ

ス産業において,人的パフォーマンスは機械的パフォーマンスより重要な役割を果たしている。ま

た,サービス業において,企業全体はサービス経験の提供者と見なされている。製品の無形性と顧

客価値創造におけるサービスの重要な役割は,顧客に企業全体に注意を集中させていることである。

. 「ブランドの育成戦略」

サービス企業は,◯独自性とメッセージの一貫性を構築する◯サービスをうまく提供する◯顧客

の感情を満足させる◯自社のブランドと信頼を関連付けるという 4 つの方面を通じて,強力なブ

ランドを構築することができる。企業に強力なブランドを構築させるために,Berry は 4 つのアプ

ローチを提示した。一般的に,非常に強いブランドを持っているサービス企業は,この 4 つのア

プローチをすべて使用している。以下に具体的な説明を行う。

()あえて差別化する

Berry は強力なブランドを持っているサービス企業は,差別化をするために,意識的に努力し

て,独特なブランドの個性を作りあげていることを指摘した。他社と異なるブランドを提示するこ

とを通じて,自社のサービス経験を強化することは,ブランディング戦略の目的である。強力なブ

ランドがある企業は自社のブランドを構築する際に,従来のことにチャレンジし,新たな方法で顧

客のニーズを満足させ,顧客を喜ばせる。Peters(1997)によれば,コモディティ化は避けられ

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ないことではないのである。そのような考え方に基づいて,一般的に強力なブランドがある企業

は,模倣より革新の方が重要だという考え方を持っている。

()自社の名声を決める

強力なブランドがある企業は,顧客にとって重要なことを顧客に表している。すなわち,自社ブ

ランドを競合他社のブランドと差別することだけではなく,価値がある市場提案を行っている。ま

た,サービス企業はブランド・エクイティを強化するために,十分なサービスを受けていない市場

のニーズに対し,それを提供する。例えば,レンタカー会社は地元の人が一時的に自分の車を利用

できない場合に対するレンタカー・サービスを提供している。それだけではなく,強力なブランド

がある企業は非常に効果的にサービスを提供する。言い換えれば,顧客のニーズを満たすと同時

に,サービスをうまく提供することである。

つまり,サービス企業はブランド・エクイティを強化するために,◯顧客が本当に必要とする

サービスを提供する,◯競合他社より良いサービスを提供する,◯ブランドに対する認知を創造

し,消費を刺激して,顧客経験を強化するために,コミュニケーションによってブランドに関する

物語を作る,といった 3 つのことをしなければならない。企業が有名になるためには,顧客経験

と口コミは自社がコントロールするメッセージと同じように,重要な役割を果たしている。

()情緒的な繋がりを築く

強力なブランドがある企業は,顧客と情緒的な関係を作る。このような企業では,経済的なレベ

ルを超えて,親密さ,愛情,信頼などを呼び起こして,顧客の情緒が決定に影響している。すなわ

ち,強力なブランドは製品の特徴と便益を超えて,人の感情に浸透することができる(Webber

1997)。Berry は,顧客の感情に繋がっているブランドは顧客核心価値を反映できて,顧客のサー

ビス経験によって,企業の真の価値も現れることができるということを指摘した。

また,強力なブランドがある企業の広告において,価格メッセージをあまり重要視しないという

ことが現在注目されている。なぜならば,広告の中で価格を提示するのは,顧客との感情的な関係

を構築する機会を失う可能性があるからである。このような広告は,経済的な価値とは繋がってい

るが,人的な価値と関係を構築できないことを明らかにした。

()ブランドを内面化する

企業がブランド・ミーニングとブランド・エクイティを構築する際,サービスの提供者は強力な

仲介者として働いている。実際に,ブランド内部のコミュニケーションは,外部のコミュニケーシ

ョンと同じように重要である。Berry と Parasuraman(1991)によれば,ブランドの育成におい

て,ブランドを内面化することは従業員を含んでいる。つまり,もし従業員が自社のブランドを理

解せず信頼もしなければ,自分がブランドの一部分を感じたり行動を起こしたりできず,良いサー

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ビスを提供することができないということを明確にした。だからこそ,企業が顧客にブランドをよ

り理解させるために,マーケティングの担当者は,まず,従業員に対してブランドを言語化して視

覚化することを重視しなければならない。

ポジティブ・ブランド・エクイティはブランド認知とブランド・ミーニングのシナジー効果によ

って企業にもたらす市場の優位性である。また,強力なブランドは顧客のサービスに対する信頼度

を高めて,消費者がサービスを理解することができる。そのため,サービス企業にとってはブラン

ドの育成は極めて重要なことである。

Berry の研究は,記述的なものであり,実証的な検証については,言及していない。そこで,次

に,実証的にサービス・ブランディングを検討した研究を概観する。

第章 Grace and O'Cass()研究の実証的方法としての SBV モデル

マーケティングの研究者と経営者にとっては,サービス・ブランディングは重要な課題になって

いる。Berry(2000)と Keller(1998)は,サービス・ブランディングに関するモデルを提示した

が,実証的な検証が欠けていたため,サービス・ブランディングの実証的調査の必要があった。彼

らはサービス・ブランディングのモデルに関する発展とテスティングに重点を置いて,小売店と銀

行などサービス・ブランドに対する調査によって,ブランド・エビデンス,または広告と宣伝が顧

客満足度及び態度に対して,強力な影響を与えることを指摘した。

現在の市場の中で,ブランドは企業が他社と差別化することの源であり,マーケティング戦略の

中で重要な役割を果たしている。一方,顧客にとって,ブランドは製品の源と思われる。その源は

メーカーの法的責任と製品に対する保証を含んでいる。また,顧客にとって,ブランドはリサーチ

・コストとリスクを減少させ,製品の品質を提示させることができる。有形財の市場におけるだけ

ではなく,サービス市場においても強力なブランドがもたらすメリットは現在注目されている。

顧客の考え方とブランドに対する反応を理解するために,いくつかの理論的なフレームワークが

作られた。しかしながら,これらのフレームワークは有形財のブランドを概念化するものが多く,

サービス業におけるブランディングを強調するものは少ないのである。サービス・ブランディング

・モデル(Berry 2000)は成熟したブランドに対する分析に基づいて提出されたが,データは顧

客の立場から検証されていないのである。サービス・ブランドが普及しているにも関わらずサービ

ス・ブランドへの研究上の関心が低いことから,Grace らは,サービス業におけるブランド・ディ

メンションを調査し,顧客反応変数(ブランド態度,満足度,将来の行動意図)との関係を究明し

ようと試みた。そのため,Grace らは既存モデルに基づいて,サービス・ブランド・ヴァーディク

ト・モデル(図 2)を提出した。

. サービス・ブランド・ヴァーディクト・モデル

サービス・ブランド・ヴァーディクト・モデル(SBV モデル)は,サービス・ブランディング

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図 サービス・ブランド・ヴァーディクト・モデル(SBV モデル)

(出所) Debra Grace, Aron O'Cass(2005)p.126

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への適用性を考慮して,理論的フレームワークとして提案されているモデルである。このモデルは

5 つの主要な構成要素で構成される。それはブランド・ヴァーディクト,ブランド態度,満足度,

ブランド・エビデンスとブランド風評である。

図 2 を見ると,まず,ブランド・エビデンスとブランド・風評と満足度,この 3 つの要素はブ

ランド態度に影響を与える。そして,ブランド態度はブランド・ヴァーディクトに影響を及ぼす。

また,このモデルの中で,5 つの要素の直接な関係が描かれていた。いくつかの要素の間の関係が

既に先行研究で証明されていたが,この研究は,先行研究では検討されなかった問題をまとめて,

サービス・ブランディングに関するより完全な全体像を提供することを目指している。5 つの要素

について,以下に具体的な説明を行う。

まず,ブランド・ヴァーディクトとは,顧客のブランド刺激に対する 終決定と実施可能な反応

である。言い換えれば,ブランド・ヴァーディクトは,ブランドに対するすべての肯定的なまたは

否定的な態度(ブランド態度)によって導かれる,将来のサービス利用に関する決定である。ブラ

ンドに関する評価が肯定的な場合は,将来,このブランドのサービスを利用する傾向がある。

そして,ブランド態度とは,顧客が自らの経験を通じて得たブランドに対する知覚と満足度から

生じる,ブランドに対するすべての肯定的または否定的な姿勢である。様々な先行研究に基づいて,

Grace らは SBV モデルにおいて,ブランド・ディメンション(ブランド名,コア・サービス,フ

ィーリング,価格など)がブランド態度に直接的な影響を与えると主張した。また,ブランド態度

は将来の行動意図の強力な予測要素である(Keller, 1998)。

満足度とは,顧客がサービスを受けた後の評価と,サービスを受ける前の期待が一致するかどう

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かを判断して生まれて,ブランドに対する肯定的または否定的な反応である。ここで注意しなけれ

ばならないのは,ブランド態度との違いである。ブランド態度は,すべてのブランド刺激による顧

客の全体的な評価である。それに対して,満足度はブランドのパフォーマンスに対する即時的な反

応に過ぎない。しかしながら,Cronin Jr. and Taylor(1992)の研究によれば,顧客満足度は肯定

的なブランド態度をもたらすことができるという。

前述したブランド・ディメンションと呼ばれるものは,SBV モデルでは,ブランド・エビデン

スとして分類され,満足度と強力な繋がりが存在すると定義されている。ブランド・エビデンスと

は,購入前及び購入している段階で,顧客が直接経験するブランド連想の組み合わせである。ブラ

ンド・エビデンスにはいくつか要素がある。それはブランド名,価格,サービス・スペース,コア

・サービス,従業員サービス,自分の予想との一致と使用中のフィーリングである。購入する前の

段階で,顧客は,ブランド名,価格またはサービス・スペースという有形的なエビデンスを通じ

て,ブランドに対する評価を行うことができる。サービスが提供されている段階で,コア・サービ

スはブランドの評価に対する影響がある(Danaher and Mattsson, 1998)。また,この段階で,従

業員が提供しているサービスは,顧客満足度,サービス品質知覚(Crosby et al., 1990)と将来の

購買行動(Chandon et al., 1997)に影響を与えると指摘されている。Babin and Babin(1999)は,

フィーリングが顧客の意思決定において重要な役割を果たしていることが研究者に認識されてお

り,購買経験と顧客の反応に大きな影響を与えると主張した。Sirgy ら(1997)によれば,顧客が

ブランドのユーザーイメージと自分自身の予想が一致していると認識した場合,ブランド態度は向

上する可能性がある。以上のように,すべてのブランド・エビデンスは,顧客のブランドに対する

評価を影響していると思われている。

ブランド風評は,サービス・ブランドに関して,顧客の間接的体験から形成されるすべてのコミ

ュニケーションを指している。その中で,コントロールできるコミュニケーションとして広告と宣

伝がある。それに対して,コントロールできないコミュニケーションとして口コミと広報がある。

広告は先行研究において,注目されており,態度,意図と知覚に影響を与えている(Kempf and

Smith, 1998)。口コミと広報というコントロールできないコミュニケーションは,ブランド態度と

購買意欲に対して,広告よりも強い影響を与えている。その理由は,口コミと広報が広告より信頼

できると思われているためである(Mangold et al. 1999)。また,ブランド風評は,ブランド・エ

ビデンスが顧客のに伝達される方法を指している。ブランド風評は顧客のブランド・エビデンスに

対する知覚に影響しているということが Grace らによって指摘された。

前述した SBV モデルに関して,Grace と O'Cass は 7 つの仮説を提示した。

◯ ブランド・エビデンスは満足度と正の相関関係がある

◯ ブランド・エビデンスはブランド態度と正の相関関係がある

◯ ブランド風評は満足度と正の相関関係がある

◯ ブランド風評はブランド態度と正の相関関係がある

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◯ ブランド風評はブランド・エビデンスと正の相関関係がある

◯ 満足度はブランド態度と正の相関関係がある

◯ ブランド態度はブランド・ヴァーディクトと正の相関関係がある

. 調査方法と調査結果

調査に先立って,まず,SBV モデルに描かれたブランド・ディメンション(ブランド・エビデ

ンス)が,実際に,顧客に対して意義があるということを実証するために,6 つの非構造化インタ

ビューと 6 つの構造化インタビューが顧客に対して実施される。インタビューには,ブランド風

評の要素も含められている。また,この研究は 4 つの有名な国立銀行ブランドと 6 つの有名な小

売店ブランドを選択し,顧客を調査対象として,ブランド・ディメンションとブランド風評の各要

素,顧客満足度とブランド態度についてブランドに関する質問を行う。そして,質問の選択肢につ

いて,7 段階のリッカート尺度(全く同意できない(1)から非常に同意できる(7)まで)を用い

て,選択肢を設け,アンケート調査を作成した。

その結果,527部の調査結果を獲得したが,合計510部がデータ分析に使用できる。調査結果の

中で,小売店に関する調査部数は256部であり,銀行に関する調査部数は254部である。

収集したデーターを分析し,内部モデル結果から見ると,SBV モデルにおけるすべての仮説が

採択された。

Grace と O'Cass は,ブランド・ディメンションと顧客反応変数との関係を描いた SBV モデル

を提示し,アンケート調査を通して,仮説を検証した。このモデルは,消費者がサービス・ブラン

ドを評価し,どのような反応をするが,その方法を説明した。さらに,彼らの研究は,ブランド・

ディメンションは顧客のブランド評価に関連していることを明示しただけではなく,ブランド・デ

ィメンションの顧客反応に対する影響も明らかになった。近年,ロイヤルティという概念が,特に

サービス業界で広く注目されているので,次章では,ブランド・ディメンションのブランド・ロイ

ヤルティに対する影響を究明する。

第章 Krystallis and Chrysochou()研究の実証的方法としての SBL モデル

現在では,競合他社の増加につれて,企業にとって,顧客満足はますます重要になっている。多

くの企業は顧客満足と顧客維持に焦点を当て,戦略を展開している。ブランディングは,企業が顧

客との有益で長期的な関係を作ることを可能にする重要な手段である。サービス企業にとって,ブ

ランディングは,顧客を維持し,企業が優れた顧客価値を作ることができ(Aaker, 1991; de Cher-

natony and McDonald, 1992),重要な成功要因であり,21世紀におけるサービス・マーケティン

グの礎石と思われている。顧客が,ブランドをどのように評価し行動するかを説明するために,い

くつかの理論モデルが提示された。これまでは,実証研究が欠けていたため,サービスに関する既

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存のブランディング・モデルはしばしば重大な弱点を示した。これらの問題点に対処するために,

Grace と O'Cass が提示したサービス・ブランド・ヴァーディクト・モデル(SBV モデル)では,

消費者がサービス・ブランドを評価し,どのような反応をするが,その方法を説明した。Caruana

ら(2000)の研究と Juhl ら(2002)の研究によれば,ブランド・ディメンションの要素は顧客の

反応に対する影響であるという点に言及する際に,ロイヤルティという概念が,特にサービス業界

では広く注目されている。その理由は,ロイヤルティは,企業が成功を収め,高い利益を得る決定

要因であると見なされる場合が多いからである。

先行研究の欠点を考慮したうえで,Krystallis and Chrysochou(2014)の研究は SBV モデルの

改訂版を提示し,検証した。このモデルでは,サービス・ブランド・ディメンションは顧客のブラ

ンド・ロイヤルティに対する影響があることが明らかにされた。

. サービス・ブランディング

サービス・ブランドは,信頼できる顧客関係を構築する基盤であるため,消費者に情報を伝える

手段であると見なされることが多く,将来のサービス体験の保証であると思われている(Berry,

2000; Davis et al., 2000)。サービス・ブランディングと有形財のブランディングとの根本的な違い

の 1 つは,サービスにおいて,企業名がブランド名になるということである。また,サービス業

界で,顧客と従業員の相互作用は異なるサービス経験を引き起こす可能性があるので,サービス・

マーケティングの担当者にとって,主要な課題になっている(de Chernatony and Segal-Horn,

2003)。そのため,サービス提供者が競合他社と自社との差別化を図る重要な要素であると考えら

れている。

ブランドは,単なる名前ではなく,さまざまな製品及び非製品の属性に関連する顧客が持つすべ

てのものを含む。Davis(2000)の研究によって,サービス・ブランド・イメージとは,顧客がサー

ビス経験に対する知覚であることが明らかになった。このサービス経験は,サービス・ブランドと

関連しているサービス要素から生まれる。したがって,企業にとって,顧客がブランド連想をより

良く理解することが重要になっている。

Chernatony ら(1999)の研究は,ブランドは,機能的および感情的な属性の組み合わせと見な

され,将来の顧客満足度の保証として,ブランド・イメージの構築に役立つものであるということ

を指摘したが,顧客の視点を欠いた。ブランドは,本質的に,顧客との強力な繋がりがある。した

がって,顧客情報に基づいて,サービス・ユーザーにとって重要なブランド・ディメンション要素

を明らかにすることが必要となる。

ブランディングの重要なポイントは,ブランドに関連する各要素の重要性と,それが顧客の態度

と行動に影響を与える程度を理解することである。これまで,この点に関する多くのフレームワー

クが提示されたが,批判も受けた。さらに,大部分のブランディングに関するフレームワークは実

証研究を欠いて,ブランド要素の定義がはっきりしていないなどの問題点がある。

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図 サービス・ブランド・ロイヤルティ・モデル(SBL モデル)

(出所) Krystallis and Chrysochou(2014)p.141

――

. モデルの概念化と仮説

Krystallis と Chrysochou は SBV モデル(Grace and O'Cass, 2005)に基づいて,改訂版(SBL

モデル)を提示した。

サービス・ブランドに対する顧客の評価と行動を究明するために,Krystallis らは SBV モデル

の改訂版である SBL モデルを用いて,研究を行った。SBL モデルでは,ブランド・ロイヤルティ

は,顧客の様々なサービス・ブランド・ディメンション(エビデンス)とコミュニケーション(ブ

ランド風評)対する評価の結果であると見なされている。

主要な要素及び各要素の間の関係について,以下で検討を加えていくことにする。

()ブランド・ロイヤルティ

ロイヤルティは,行動と態度という 2 つ要素で構成されると考えられる場合が多い(Dick and

Basu, 1994)。また,ロイヤルティは,顧客がブランドを切り替える行動を起こす要因であると考

えられる(Oliver, 1999)。Caruana(2002)の研究によって,ブランド・ロイヤルティは,ポジ

ティブ口コミと同じように,反復購買という結果をもたらすことができ,企業の将来の収益につな

がると期待されている。先行研究によって,ブランド・ロイヤルティはブランド・エクイティに強

い影響を与えていることが分かった。また,ロイヤルティは優れたパフォーマンスの結果をもたら

す可能性があるということも示された(Yoo et al., 2000)。したがって,ブランド・ロイヤルティ

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は,顧客のブランドに対する 終評価の結果であると考えられる(Chaudhuri and Holbrook, 2001;

Dick and Basu, 1994)。また,ブランドに対する顧客の感情的な反応がブランド・ロイヤルティに

影響を及ぼすことが Chaudhuri and Holbrook(2001)の研究で示された。

()ブランド・エビデンス

ブランド・エビデンスは,顧客がサービス・ブランドを評価する際に,顧客によって形成される

すべてのブランド連想を含む高次構造として認識されている(Grace and O'Cass, 2005)。ブラン

ドに対する連想は,各ブランド・ディメンションに対する顧客体験によって形成されるものであ

る。購入する前の段階では,顧客は,ブランド名,価格またはサービス・スペースという有形的な

エビデンスを通じて,ブランドに対する評価を行うことができる。サービスが提供されている段階

では,顧客の評価は体験により構成されるサービス・ブランド態度を通じて行われる。全体として

は,ブランド・エビデンスは,すべてのディメンションを表しているので,顧客のブランド評価に

影響している。

()ブランド風評

ブランド風評は,購入前の段階における,顧客が受けたサービス・ブランドに関するコミュニ

ケーションを指している。具体的には,コントロールできるコミュニケーション(広告,宣伝)と

コントロールできないコミュニケーション(口コミ,広報)の 2 種類がある。先行研究では,ブ

ランド風評は顧客満足度とブランド態度に直接に影響を与える。また,ブランド・エビデンスに影

響を及ぼすと仮定されている。SBL モデル(図 3)では,ブランド風評の要素として口コミと広

報が分けられて研究が行われている。

()ブランド満足度

満足度とは,サービスを受ける前の期待と体験とが一致するかどうかを判断して生まれ,ブラン

ドのパフォーマンスに対する即時的な反応である(Spreng et al., 1996)。いくつかのブランド・エ

ビデンス要素(ディメンション)は,満足度と強力な繋がりがあると証明された。Krystallis らは,

満足度をブランド・エビデンスとブランド風評の反応として SBL モデルに入れ,研究を行ってい

る。

()ブランド態度

ブランド態度は,ブランドに対する肯定的または否定的なすべての姿勢と定義されている。ま

た,これはブランド・ロイヤルティに肯定的な影響を与えると思われている(Keller, 1998)。サー

ビスが提供されている段階において,従業員サービスまたはフィーリングというブランド・エビデ

ンスの要素は,顧客満足を通じて,ブランド態度に影響を与えることができるとされている。SBL

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モデルの中では,ブランド態度は,顧客が体験したすべてのブランド刺激から影響を受けると考え

られている。

上記の議論に基づいて,Krystallis と Chrysochou は以下の仮説を提示した。

H1ブランド・エビデンスは満足度に肯定的な影響を与える

H2ブランド・エビデンスはブランド態度に肯定的な影響を与える

H3ブランド風評は満足度に肯定的な影響を与える

H4ブランド風評はブランド態度に肯定的な影響を与える

H5ブランド風評はブランド・エビデンスに肯定的な影響を与える

H6満足度はブランド態度に肯定的な影響を与える

H7ブランド態度はブランド・ロイヤルティに肯定的な影響を与える

. 研究方法と調査結果

仮説を実証するために,Krystallis and Chrysochou の研究では,2 つの異なる国とサービス業界

を選んで,調査を行った。

()第一調査

第一調査は,航空業界で行った調査である。この調査の目的は,提示された SBL モデルを検証

することである。この調査では,デンマークのある大学の在籍学生を調査対象とし,SBL モデル

と関連がある質問を設けた。質問の選択肢については,7 段階のリッカート尺度(全く同意できな

い(1)から非常に同意できる(7)まで)を用いて,選択肢を設け質問表を作り,アンケート調

査を行った。その結果,223部の調査結果を得て,サンプルは62.3の女性回答者で構成され,平

均年齢は24.8歳であった。一次結果により,回答者は航空会社が提供するサービスに熟知してお

り,頻繁に利用していることが確認された。結果を基に,収集したデータを分析し,部分的 小二

乗回帰(PLS)という方法を使用して,SBL モデルを推定した。

研究結果から見ると,H3 以外の仮定された仮説はすべて採択された。この研究は,ブランド・

ロイヤルティはブランド態度に強く影響されることを示した。満足度とブランド・エビデンス及び

ブランド風評はブランド態度に対する影響を与えている。また,この研究で,ブランド・エビデン

スと満足度及びブランド態度は強力な繋がりが存在することが強調された。ブランド風評は,ブラ

ンド態度に直接の影響を与えるが,顧客満足度には大きく影響しないといえる。

したがって,この結果をさらに実証し,理論的および実用的な一般化を考え出すために,第二の

研究が行われた。

()第二調査

第二調査は,Grace and O'Cass の研究と同じように,銀行業界を選び,調査を行った。第二調

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査の目的は,第一調査と異なる業界と国で調査を行い,調査結果をさらに検証することである。第

一の調査と同様の質問票を使って,アンケート調査を行った。調査はノルウェーで実施し,対象者

は,銀行口座を所持し,少なくとも週単位で銀行サービスを使用する20代の人である。この調査

は,第一調査と異なる国で行われた。その結果,172部の調査結果(平均年齢は26.5歳,女性回答

者の比率は56.4)を得た。その結果は,第一調査結果と同じように,H3 以外のすべての仮説が

採択された。

第章 記述モデル,SBV モデル,SBL モデルの意義と発展性

この章では,まとめとして,概観した3つの研究の意義を検討する。

. Berry()の研究の意義

Berry が提出したサービス・ブランディング・モデルを通じて,企業が提示したブランドは,ブ

ランド認知に対して一次影響を与えて,ブランド・ミーニングに対する二次影響を与えるというこ

とが分かる。企業が提示したブランドと比べて,外部的なブランド・コミュニケーションはブラン

ド認知とブランド・ミーニングの二つに対して二次影響を与えている。また,顧客経験はブランド

・ミーニングに対して直接的に影響している。つまり,一次影響を与えているのである。

ブランド認知とブランド・ミーニング,二つともブランド・エクイティに影響しているが,程度

は全く違っている。Berry は,顧客経験はブランド・ミーニングを形成させ,ブランド・ミーニン

グはブランド・エクイティに対して強い影響を及ぼすことを明らかにした。

サービス企業にとってはブランドの育成は極めて重要なことであり,ポジティブ・ブランド・エ

クイティはブランド認知とブランド・ミーニングのシナジー効果によって企業にもたらす市場の優

位性であるので,Berry は,「あえて差別化する」「自社の名声を決める」「情緒的な繋がりを築く」

「ブランドを内面化する」という 4 つの育成戦略を提示した。

以上のように,Berry の研究は,新しい研究領域であるサービス・ブランド研究の基礎もしくは

基盤を提供した点に意義があると思われる。

. Grace and O'Cass()の研究の意義

分析結果によって,SBV モデルの中で,コア・サービス,従業員サービスとサービス・スペー

スの因子負荷量(係数)が高い。つまり,購入しているとき,この 3 つの要素がブランド・エビ

デンスの中で重要な役割を果たしているといえる。また,サービス・スペースは,購入する前の段

階で,顧客にサービス・ブランドに関する物理的な証拠として提供される。そのため,使用前及び

使用中,顧客はサービスを評価することができる。サービス・スペースは重要なブランド連想と考

えられる。サービスにおいて,生産と消費が同時に発生する場合が多いため,フィーリングも重要

である。調査結果によって,価格/価値もブランド・エビデンスの中で重要な役割を果たしてい

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る。また,小売サービス以外では,金銭的価値が顧客の反応に与える影響は異なっていると考えら

れる。ブランド・エビデンスの中で,有名なブランド名は価値がある。すなわち,消費者にブラン

ド・エビデンスを提供するとき,確立したブランド名と関連するサービスの品質と一貫性の意味合

いが非常に役に立つのように思われる。そのため,ブランド名が強調される必要がある。広告はブ

ランド風評の中で重要な役割を果たしている。その理由は,広告は顧客の知覚リスクを低減させる

ことができるので,顧客がサービス・ブランドに対する知覚を高めることができるためである。そ

れに対して,口コミと広報というコントロールできないコミュニケーションは,ブランド風評の中

で重要な役割を果たしていない。その理由は,調査を受けたすべての回答者はこのブランドを経験

したことがあるので,他人からの口コミ効果を否定する可能性が高いのである。

SBV モデルの 5 つの重要な構成要素の間における関係性は,すべて実証された。ブランド・エ

ビデンスと満足度の間の強力な関係によって,ブランドに対する満足度のブランド属性への即時反

応も証明された。結果によって,ブランド風評はブランド・エビデンスとの強力な関係が存在して

いることが明らかになった。これと比べて,ブランド風評と,満足度及びブランド態度とのつなが

りはやや弱い。また,ブランド風評の中で,広告と宣伝はブランド・エビデンスに大きな影響を与

えることを示し,顧客のブランドに対する態度に直接に大きな影響を与えることができる。だが,

ブランド態度はブランド・エビデンスとブランド風評に影響されているが,満足度により強く影響

を受けている。

Grace and O'Cass(2005)の研究の意義は経験的に検証可能な SBV モデルを提示したことであ

る。SBV モデルは既存のサービス・ブランディング理論に大きな貢献して,既存のモデルの限界

を指摘した。また,サービス・ブランディングを理解するために,SBV モデルは,意思決定にお

いて顧客にとって重要なブランド・ディメンションを理解するのに役立っている。それだけでな

く,ブランド・ディメンションは,ブランドが顧客の反応に影響を受ける過程を理解する助けとな

っている。

. Krystallis and Chrysochou()の研究の意義

第一調査の分析結果によって,サービス・ブランドに対する顧客評価にとって,ブランド名以外

のすべてのブランド・ディメンションは重要なことであることが明らかになった。また,サービス

は不可分性という特性があるので,顧客とサービス提供者の相互作用は,サービス提供の重要な構

成部分になっている。顧客にとって,従業員サービスはブランド・エビデンスの中の重要な一部分

と思われている。サービス企業の物理的な施設も顧客の満足度にとって,重要なブランド・ディメ

ンションであるように思われる。研究結果は,サービス・スペースも,顧客が企業のサービス品質

を簡単に評価できるようにするために,提供されるサービスを具体化する重要な手段であることを

示した。この研究は,コントロールできるコミュニケーションは,ブランド風評に影響する非常に

重要な情報源であることを示唆した。それに対して,口コミと広報は,ブランド風評を構成するの

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に貢献することは示されなかった。全体として,結果は,ある程度までは,Grace らの研究の結果

に従っているが,ブランド風評は満足度に直接的な影響を与えなかったという結果が出た。この結

果は,顧客はまずブランドを体験して,その後,ブランドを評価することを示唆した。また,

Krystallis らはブランド風評には効果があるかもしれないが,このような効果はブランド・エビデ

ンスに影響されていると指摘した。

第二調査の分析結果によって,第二調査は,第一調査と同様な結果を得て,第一調査の結果をさ

らに確認することに成功した。ブランド名は企業にとって重要な要素であるかもしれないが,顧客

の経験と大幅に一致していないとしても,顧客にとってそれほど重要ではないのである。また,第

一調査と同じように,ブランド風評は満足度に直接的な影響を与えなかったという結果が出た。こ

の 2 つの発見は,Grace and O'Cass の研究の主張と矛盾している。

この研究の意義は,Grace と O'Cass(2005)が提出した SBV モデルの改訂版を提示し,実証し

た点にあるといえる。このモデルの目的は 3 つある。1 つ目は,顧客のブランドに対する考えと評

価を探求することである。2 つ目は,ブランド評価はどうやって顧客の 終行動に影響するのかを

究明することである。3 つ目は,以前の調査結果に基づいて,サービス・ブランドに対する顧客の

評価と反応をまとめることである。結果によって,SBL モデルは,異なるサービス業界及び国で

も適応できることを示した。

以上の 3 つの研究結果を比較してみると,顧客購買行動において,顧客経験が重要な役割を果

たしていることがわかる。また,Grace and O'Cass の研究と Krystallis and Chrysochou の研究に

よって,顧客の意思決定において,ブランド・ディメンションとブランド風評が顧客のブランド評

価と顧客の反応に影響を与えていることが明らかになった。ブランド風評にはブランド・エビデン

スとの強力な関係が存在していることも分かった。さらに,顧客の満足度とブランド態度及び顧客

の 終評価に強いつながりがあることもはっきりした。

今後の研究課題

Grace と O'Cass は SBV モデルについて,顧客を調査対象として実証的調査を行って,モデル

を検証したが,企業ブランドの調査対象としては小売店ブランドと銀行ブランドを選んだので,こ

の調査結果が他のサービスタイプでは適用されない場合があるかもしれない。したがって,彼らに

よれば,今後の研究は様々なタイプのサービス・ブランドを調査して,異なるタイプのブランドの

間で比較する必要がある。また,グローバルな視点から,国際ブランドを調査することも重要であ

る。

そして,Krystallis らは,ブランド・ロイヤルティは,ブランド・ヴァーディクトの代わりに,

顧客のブランドに対する 終の評価結果として,SBV モデルの改訂版 SBL モデル(サービス・ブ

ランド・ロイヤルティ・モデル)を提示した。だが,この研究は,異なる国で調査を行ったが,選

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択された 2 つ国は全部北ヨーロッパの国であるから,文化的差異は大きくないかもしれない。ま

た,従来のサービスに関する研究は,欧米研究者の者が多く,調査はほとんど欧米で行われた。

今後の研究は,グローバルな視点を持って,調査範囲をさらに拡大する必要がある。つまり,大

きな文化的差異が存在する異なる国で実証の比較研究を実施することが重要である。また,従来の

研究調査は欧米諸国で実施した場合が多いので,将来の研究は,モデルの適応性をさらに証明する

ため,日本や中国などアジアの国で調査を行う必要もある。

また,Krystallis and Chrysochou の研究と Grace and O'Cass の研究は,ブランド風評と満足度

の関係において,異なる結果が出た。今後の研究は,この点についてさらなる検証をする必要があ

る。

Krystallis and Chrysochou の研究は,将来の研究の方向を定める研究として見ることができる

かもしれない。彼らは,将来の研究にとって,特定のサービス・ブランド業界で潜在的なサービス

・ディメンションとコミュニケーションの 大幅を測定することが必要であると指摘した。したが

って,今後の研究にとって,サービス・ディメンションとコミュニケーションの範囲を拡大して,

測定することは重要である。

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