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FRM-PIKEPEAK ISSUE

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パイクスピークの記事のみの抽出です。FRM Vol.01、Vol.02から。Photo and text by Makoto Kajimoto

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クルマやバイクで頂上まで登れる世界一高い山。それがアメリカ・コロラド州にあるパイクスピーク。その山の頂上に誰が一番早く上れるか。そんな単純な理由で始まったパイクスピークヒルクライム。このレースに、プライベート参戦ながら優勝候補にも上げられているライダーが、日本から参戦している。彼らにとって2年目となるそのチャレンジの模様を、2回にわたってお届けしよう。

PIKESPEAKHILL CLIMB日本人プライベーターが挑んだパイクス・ピーク◎前編83RD.2005 PIKES PEAK INTERNATIONAL HILL CLIMB JUNE 25,2005photo:Max Kajimoto,real-diart.com/text:Max Kajimoto

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 アメリカ・コロラド州パイクスピークで毎年6月最終週末に行われる「パイクスピークヒルクライム」。標高4300mを誇る山、パイクスピークの麓から頂上へ一気に駆け上がるレースだ。最近はメディアでパイクスピークが取り上げられることが少なくなってしまったため、忘れかけてしっまった人や知らない人も多いだろう。数年前までは、4輪でモンスター田島こと田島伸博氏がツインエンジンのカルタスやエスクードで活躍していたレースと聞けば思い出す人も多いはず。 ここパイクスピークは、クルマで頂上まで上がれる世界最高峰の山としても有名で、麓のゲートで入場料を払えば、誰でもマイカーで4300m の頂上まで登ることが可能。富士山よりも高い山の頂上へ気軽に登れてしまうと言うのがここの魅力だ。そしてこの頂上までのルートを閉鎖して年に1回限りのヒルクライムを行うという、アメリカらしい豪快なレースがこれだ。 スタート地点の標高は2800mでゴールの頂上は標高が4300m。じつに標高差は1500mもあり、キャブセッティングが非常に難しい。スタート地点の標高2800mも日本では十分に特殊な高さだ。しかもそこからさらに1500mも標高が上がるというのはパイクスピーク以外では考えられず、よそであらかじめセッティングを試すということができない。 コース前半は緑に囲まれた舗装路を走り、中盤からは未舗装のフラットなダートとなる。そのためタイヤは舗装路、ダートの両方を生かさなければならない。しかも標高差が激しいために気圧の変化でタイヤの空気圧が大きく変化してしまうのもこのレースの難しいところ。スタート地点ではペコペコの状態でもゴール地点ではパンパンに膨れてしまうのだ。しかも空気圧を高めにしたい舗装路はコース前半の低い部分。逆に路面がダートになると内圧が高くなるというセッティングのしにくいコースだ。もちろんタイヤチョイスも、ダートを優先させるか舗装路を優先させるかという悩みが出てくる。 難しいのはセッティングだけでない。後半から頂上にかけてはコースを外れればそこは断崖絶壁。もちろん普段は一般の登山道であるためコース幅はそれほど広くない。マシンコントロールやライン取りをミスし、コースアウトすれば崖から転落もあるというリスクがいつでも待ち受けている。 パイクスピークを速く走るためにはテクニックのほかに、崖落ちの恐怖と戦う度胸も必要となる。ルーキーは慣れていないというだけでなく、危険を知ることもなかなかできない。そのため初参加者には安全のための徹底したアドバイスをするためにルーキーミーティングも行われている。

標高差1500mを一気に駆け上がる

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 前出のモンスター田島やアメリカのラリー第一人者、ロッド・ミレンが出場していたころのパイクスピークは完全にクルマが主流のレースと言ってよかった。しかし、花形カテゴリーのアンリミテッドクラスは過激になり過ぎたためか、徐々にエントリーが少なくなってしまってきている。 そんな状況下でエントリーが徐々に増え、勢いを増してきているのがモーターサイクルクラスだ。とくにアメリカでのクワッド人気やスーパーモトの盛り上がりによりエントリーも増加。メ

インの座をモーターサイクルが奪いつつあると言っても過言ではない状況になってきている。 これまでも4輪だけでなくモーターサイクルクラスにも参戦していた日本人ライダーたちもいた。そのなかでも、とくに目立った活躍を見せているのが、昨年からクワッドで出場している白井良宗だ。白井が国内で主に活躍しているレースはダートトラックなどのフラットレース。クワッドに乗る前はモトクロスも経験している白井は、モトクロスコースのような柔らかく起伏の激しいコースも経験しているが、白井が求めているものはフラットコース。つねにアクセル全開で走り回ることのできるステージ

を求めてフラットダートのコースに行き着いたのだ。 白井は昨年、初参戦ながらクワッドクラスで予選トップタイムを叩き出し、決勝では途中クラッシュをしながらも4位でフィニッシュ。モーターサイクルクラスすべての初参加ライダー       から選ばれるルーキー・オブ・ザ・イヤーにも輝いたライダーなのだ。 すっかりパイクスピークの魅力に取り憑かれた白井は、もちろん今年もパイクスピークに挑戦することになる。しかも今年は白井だけでなく、同じチームで活躍し、職場の同僚でもある川島孝之もパイクスピークにチャレンジすることになった。

昨年はルーキーながら予選トップを獲った白井

 2年目の今年はパイクスピークが行われる6月最終週に向け万全の準備をするため、白井と川島は5月末にはアメリカに向けて出発した。 レースで使用するマシンはヤマハのトップモデルであるバンシー。日本でも長く使ってきているマシンだが、今回早めにアメリカ入りした理由のひとつにこのバンシーのチューンアップがあった。ロサンゼルス郊外、オレンジカウンティにあるトリニティレーシングはクワッドチューンでは全米でもトップクラスのチューナー。ここのパーツでバン

優勝しかない!1カ月も前に渡米、準備する

今年初参戦の川島孝之。ルーキーながらも白井と同じトリニティレーシングでチューンされたハイパワーなマシンで参戦する

土木の仕事に精を出し、時間と金を作ってたっぷりとした準備の時間を作ってきた白井。今年こそ優勝を……と気合いが入る

後半のダートに合わせ、スタート時にはタイヤの内圧を下げているため、前半の舗装路では低すぎる内圧で走らなければならない

日の出とともにマーシャルカーがサイレンを鳴らして走り出す。標高の高い地でしかも早朝なだけに朝は非常に寒く、しかも風も強い

怖くてもアクセルは戻せない。それがパイクス・ピーク。

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シーを500cc にまでボアアップするチューニングをするのだ。パイクスピークにクワッドで参戦している上位のライダーたちもみなトリニティレーシングのパーツでパワーアップしているので、これをせずに優勝は望めないのだ。 トリニティレーシングにてバンシーをチューニングした白井と川島は、テスト走行後すぐにカリフォルニアを離れコロラドに移動。本番戦であるパイクスピークの前に別のヒルクライムレースに挑戦してニューマシンの感触をつかむことにする。6月5日に行われたCNCAのヒルクライムで白井は予選4位でスタート、決勝で2位入賞を果たす。 このCNCAヒルクライムではレース結果以上に有意義なものを手に入れた。知り合ったライダーの紹介でパイクスピークの近所に住むメカニック、マイクを紹介してもらったのだ。マイクはメカニックを請け負うだけでなく、レース期間中の宿泊場所を提供してくれるなど、多くの面倒を見てくれることになったのだ。これにより今年のパイクスピークではレースに専念でき、より好成績

を残すことが出来そうな体制となった。

 パイクスピークの朝は早い。この場所は本来観光地であり、ヒルクライムの行われる6月はすでにバケーションシーズンに入っている。レース期間中だからといってその間ずっとコースをクローズドにしておくことが出来ない。そのため決勝を除く練習日や予選日のタイムテーブルはすべて午前中のみ。午後からはコースをオープンし観光客を受け入れるのだ。 午前中ですべてのスケジュールを消化するため、動き出すのは朝の4時から。日本の夏なら午前4時はすでに空が明るくなりだしている時間。しかしサマータイムで時間をずらしているため、コロラドの4時はまだ真っ暗だ。しかも標高の高い山なので、夏とはいえ朝の気温は氷点下を下回っている。 朝の凍るような空気の中。しかも高地のため空気は薄く、激しく体を動かせば激しい疲れだけでなく頭痛もして

くる条件下でスケジュールは進んでいく。東のロッキー山脈から日が昇る午前5時に、コースクローズを知らせるコースマーシャルのクルマが山々にサイレンを響かせながら駆け上がってくる。しばらくするとそれまで風の音しかしなかったパイクスピークにエキゾーストノートが響き渡り、練習走行の始まったことがコースの上方にいてもすぐ分かる。 練習走行はスタート地点からゴールまでのフルコースでは行わず、コースを上下2つに分け、クルマとモーターサイクルでそれぞれ行われる。また、クルマのクラスは1台ずつ走行するタイムアタック式のレースだが、モーターサイクルクラスでは3台づつが走るレース方式を採用している。そのためバトルを見ることが出来るというのも、モーターサイクルクラスの人気が高まっている理由かもしれない。 練習走行では間隔を開けずほとんどのマシンが一斉に走り出す。朝焼けのなかを早くも本番さながらのバトルを繰り広げながら頂上を目指すバイクとクワッド。しかしすべてが優勝を狙うラ

イダーではない。もちろんレースに出るからには少しでも上位を狙ってはいるものの、パイクスピークに参戦することが目的で楽しみながら走っているライダーも多い。 一方、AMAナショナルモトクロスでチャンピオンを取った経験もあるミッキー・ダイモンドのようなトップライダーもいる。彼は今年初めての参戦で、もっとも注目されている選手だが彼のようなプロライダーは極めてまれ。エントラントのほとんどは本職が別にあるアマチュアだ。特別な参加資格が必要なわけではないので、誰でもエントリーフィーさえ払えば参加できるのもパイクスピークの魅力でもある。 練習走行最終日の3日目、最後の走行が予選に当てられる。予選もフルコースでは行われず、スタート地点から中間地点までの前半部分のみ。フルコースを走ることが出来るのは決勝の1回のみと、通しでの走行はぶっつけ本番なのだ。そのため経験こそが何よりの強みとなる。長年参戦してデータを蓄積しているチームが、より有利なのだ。

参加者のほとんどはアマチュアしかしなかにはあの選手も

慣れない英語をフル回転させエントリーを済ませる白井と川島。しかし主催者はみんながフレンドリーで優しい

車検後は全員参加のブリーフィングのほかにルーキー向けのミーティングも。安全面には最大限の配慮がなされている

クワッドは排気量などでのクラス分けがないのである意味無差別級。しかもエントリーが最も多いクラスなので厳しい戦いが予想される

いいピット場所を確保するためにゲートがオープンする前、ロサンゼルスでレンタルしたトラックで早朝4時からゲートに並ぶ

ピットに到着したらすぐに2 台のマシンをトラックから降ろし、テントを設営。まだ真っ暗ななか、手探りでの作業となっている

テントを設営する横ではメカニックとして日本からやって来た清水が手際よく工具を並べ始める。チームとしての役割分担も確実

白井たちが今回レース期間中に宿泊したのはメカニックのマイクの弟であるロバートの家。毎日走行後マシンをバラし整備が行われた

予選前日には地元コロラドスプリングスのバイクショップ「エイペックススポーツ」にてモーターサイクルクラス参加ライダーとチームを集めて盛大なパーティが行われた

写真右が白井良宗。左は3 回の優勝経験をもつジョン。パイクスピークのベテランで、勝つかリタイヤかという面白い経歴をもつライダーだ。ニックネームは“クラッシュ”!

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初参戦なだけにややナーバスにも見える川島。しかし走り出せばそんなことは問題なし。走るたびに確実に走りのコツを掴んでいる様子

1本ラインを間違えれば崖から転がり落ちてもおかしくないコースだが、そんな場所でもアクセルは全開。テールを滑らせながら走行

アメリカでフラットなダートと言えばダートトラックマシンが多いかと思えば、モタード人気のせいかモタード仕様のマシンが増えている

AMA スーパークロスで活躍し、ナショナルモトクロスではチャンピオンにも輝いているミッキー・ダイモンド。AMA スーパーモトシリーズに参戦中の彼は今年パイクスピークに初参戦

プロもアマもない。ただ全開でピークを目指すだけだ!

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2001年から参戦し、昨年の250 クラスで優勝したネイサン・コンレイ。AMA のスーパークロスやモトクロスにも出場している

昨年からパイクスピークに参戦している、弱冠16 歳と最年少のショーン・バウアー。ダートトラック仕様のCRF450で出場する

クワッドのエントリーではヤマハのバンシーがその大多数を占めるが、スズキやホンダ、日本ではなじみのないポラリスなども出場

バイクではホンダに次いで参加台数の多いのがKTM。特にオ ー バ ー500cc の750 クラスでは無敵の強さと言っていい活躍ぶりだ

サイドカークラスに参戦しているスウェーデンチーム。GSX-R1100 のエンジンを搭載したマシンはライディングスタイルも独特

トライアンフやXS650などの古いダートトラックレーサーが出場するビンテージクラス。パイクスピークのベテランライダーたちが集う

スッキリと晴れ渡る真っ青な空に遠くデンバーまで見渡せる景色のなかを全開で走り抜けるのはいかにも気持ちよさそう。走りたくなる!

全開ドリフトでほとんどを抜けていく大きなコーナーから切り返しのような小コーナーまでバリエーションは豊富にそろっている

上位はオーバー90 馬力を誇るフルチューンマシンが参戦するため、ノーマルエンジンでは苦しい戦いとなるのがクワッドクラス

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予選1位となったジョンのバンシー。トリニティレーシングのエンジンをベースにさらに独自のチューンによってパワーを上げている

フラットダートの大コーナーなら640cc の大パワーマシンでもその性能を惜しみなく発揮できる。スライドもかっこいい

グループトップで調子よくコーナーを抜けた川島。しかしこのコーナー出口でバランスを崩しコースオフしてしまう。結果予選12 位

まさにアメリカンサイズ。こんな体型のライダーでも参戦しているのがパイクスピークの面白いところ。XS650 がやたら小さく見える

コースがオープンになるまで途中で待たされることも多く、その結果ライダー同士のコミュニケーションが多く取れるのもパイクスピークならでは

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 3 日目、練習走行を4セット走り、5セット目が予選となった。日も高くなり気温もどんどん上昇していく。予選にはもってこいのコンディションのなか、3台ずつのスタートで予選が開始される。 昨年はルーキーながらポールポジションを取った白井には他からのマークもかかり、注目度は高い。初参戦の川

島は前日の練習走行時からややナーバスになっているようにも見えた。 予選が始まるといきなり1組目トップで白井が現れた。ニューエンジンの調子も良く、大きなコーナーをすべてドリフトで抜けていく。初参加の川島は予選2組目。川島もトップでやって来たが、コーナーの出口でバランスを崩してコースオフ。すぐにコースへ復帰するもののタイムロスは大きそうだ。 すべての走行が終わり、発表された

予選結果は白井が3位。川島はコースオフが響き12 位という結果。昨年予選トップタイムを出した白井には物足りない順位かもしれないが、出来上がってから1カ月もたっていなく、十分に走り込んでいないマシンということを考えれば結果は上々 。しかもトップはATVダートトラックチャンピオンで、2位は昨年のパイクスピークでも準優勝のライダーだから悪い結果ではない。 川島もコースオフしているにもかか

昨年はルーキーながらいきなり予選トップとなった白井だけに、今年も予選では力の入り方がハンパじゃない。大きなアールのコーナーではフルカウンターのドリフトで抜けていく

わらず後ろにはまだ10人近くのライダーがいる。もちろん本番は明日。3台ずつしか走らないこのレースでは、予選順位はそれほど本番に響かないというのもチャンスなのだ。決勝での2人の猛烈な走りに期待したい。 

いよいよ緊張の予選開始!2人とも好調な滑り出し

どうなる決勝!?続きは'06/1/5発売の本誌Vol.2にて!!

1年間の苦闘の成果が出るか。いよいよ予選が始まった。

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勝つための準備として1カ月前からアメリカに渡った05年。マシンも体制も完璧とも言える状況のなかでの予選結果は3位。けして満足のできる結果ではない。しかし、それがスターティンググリッドに影響しないパイクスピークにとって、予選結果は単なる数字以外のなにものでもない。フルコースを走れるのは1年でたったの1回だけ。頂上までのわずか12分のために1万2000kmの距離を超えてきたのだ。

日本人プライベーターが挑んだパイクス・ピーク◎後編83RD.2005 PIKES PEAK INTERNATIONAL HILL CLIMB JUNE 25,2005photo:Max Kajimoto/real-dirt(Yanagisawa/Keisuke Sugawara/Yusuke Shimizu) text:Max Kajimoto

ついに決勝の朝が来た。1年に1回だけの挑戦が今、始まる!PIKESPEAK HILL CLIMB

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レースコースを自分のクルマで走っていけるのもある意味、パイクスピークの楽しみと言えるかもしれない。駐車場に着くとそれぞれが大きな荷物を抱えてお気に入りの場所へ移動していく。 しかし、決勝がスタートするのは午前 9時。それまで 5時間もの間、こんなに標高が高く、しかもまわりには雪も残っているほど寒い場所でなにをして暇を潰すのだろう?

ライダー以上に楽しむそれがここの観客だ

 決勝の朝、日の出の 2時間前の午前 4時に一般のゲートがオープンになる。年に 1度だけのヒルクライムを見ようとコロラド州内外から集まる観客。日付が変わる頃にはすでにゲート前に並び始め、2時の時点で数 kmもの車の列を作っている。

 そんな車の列の横をまだ目の覚めきっていない選手達を乗せたトランポが過ぎていく。6月の終わりとはいえ、標高 2800mのスタート地点は日が昇らないうちはまだ寒い。レースを戦う前に眠気や寒さと戦いながらピットを設営し、スタートの準備を始める。 今 回白井たちのチ ーム、「三四十六」はライダーの白井と川島、メカニック及びサポートとし

て参加している菅原、清水、後藤、柳沢の 6人が日本から参加し、デンバーに留学している白井の妹のあぐりもチームに合流。さらにメカニックのマイクに息子のエリック、その友達のザック、ブライアン、ブリディなど総勢 10人以上の大所帯となっている。 午前 4時、麓のゲートがオープンし、続 と々観客のクルマがコースを登っていく。観戦ポイントまでは

つい2 つ前のコーナーまで白井は2 位を走行していたものの、ついに91番のジョンにその座を明け渡してしまった。しかしまだ1位のジムすら射程圏内に捕らえていたのだが……。クラッチトラブルで順位も落とす

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ゴールまであとわずかしかしクラッチが……。

 コース沿道には隙間がないほどに観客が押し寄せ、地元のラジオが実況放送を始めた 1時間後の午前 9時、いよいよスタートの時が来た。スタート1番手はエキシビジョンのプロパンガス車。コブラを改造してプロパンガス仕様にしたマシンだが、これが速い! プロパンガス車と聞けば、日本ではタクシーくらいしか思い浮かばないが、ここでは 2輪トップクラスと同等のタイムを叩き出すほどに速い。しかもコイツがスゲーうるさい……。 4輪が数クラス走り終え、つい

に 2輪クラスがスタート。3台づつ走る2輪クラスでは、予選 3番手の白井は 1組目となるのだから、その緊張感はハンパじゃないはずだ。前日の予選でミスをし、予選12番手となった川島。その結果だけを見れば残念なものだが、実際は予選なんて記録でしかない。3台づつしか走らないレースなのでグリッドが後方で不利になることはなく、他の 2台は川島の実力に比べれば遅い選手なのだ。そのため先頭に立ってしまえば、後は自分のペースで実力を最大限に発揮すればいいだけだ。逆に実力も僅差のトップライダー2人と走らなければならない白井は、バトルによる

無駄なタイムロスを犯す可能性も持っているのだ。事実、昨年の白井は予選 1位でトップ出走にもかかわらず、決勝ではバトルの果てにクラッシュを起こすというミスを犯しているのだ。 4輪ラリー車クラスが終わり、いよいよ 2輪クラスの出走順がまわってきた。まず始めにそして待ちに待った緊張のスタート! フルチューンされた 2ストエンジンのサウンドを響かせながら、3車横一線になって 1コーナーへ向かって走り出す。レース序盤からしばらくの間だ 2位をキープして走る白井。予選トップのジョンを必死に押さえ込んで走るものの、その分

トップのジムからは若干はなされ気味だ。しかしそのジムもまだ射程圏内、トップを狙えない距離ではない。レースも 3分の 2を過ぎた頃、白井はついにジョンにインを刺されて 3位へ順位を下げてしまう。しかもフルチューンのハイパワーエンジンにクラッチが音を上げ始めている。このままではジムに追いつくどころが先頭の 2台との距離は離されていく一方となってしまった。

決勝の順位は昨年と一緒このままじゃ終われない!

 もっともマシンに負担の掛かるラ

ルーキーの川島にとってフルコースを走るのはこれが初めての体験。スタート前は緊張感と笑顔が交差する不思議な雰囲気。でも固くなっている暇はない。走り出したらあとは全開全開、ひたすら全開で走りきる

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やはり若干の固さが残ってしまったのか、スタートは少し出遅れた。しかし、本来はこんな後方からスタートするライダーではないので、すぐにその遅れを取り戻し、他の2 台はあっという間に川島の後方へ下がる

テクニックだけでなく、マシンにも大きなアドバンテージをもつ川島。レース後半は完全にブッちぎりの速さを見せて独走状態に入る。結果はみごと6 位入賞! 初参戦でありながら入賞賞金も手に入れた

決勝レースは3 台ずつ走るので、予選3 位の白井は1組目のスタートとなる。フルチューンの2スト500ccが3 台同時にスタートする光景は迫力満点。今どきこんなスタートシーンは貴重なものだろう

激しいバトルが繰り返される予選1組目。マシンはみなヤマハバンシーで、しかもトリニティレーシングのパーツでチューンしてあるのも一緒。パイクスピークは2 回目の白井に対しライバルのジムとジョンは経験も豊富。あとはテクニックで勝負するしかない

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ストスパートでクラッチが滑るようになってしまった白井のバンシー。1組目 3位でフィニッシュしたが、後から走った選手にもタイムで抜かれてしまったため、4位という結果でパイクスピークを終えた。 一方の川島は 4組目のスタート。予選でのミスがたたりこの組にいるため、決勝レースでもグループ内ではもちろんトップで快走のブッちぎり状態の単独走行。2位には1分近くもの差をつけてゴール。今年初参戦のルーキーとしては優秀

な結果となる 6位でレースを終了。こうしてプライベーター2人のパイクスピークは終わった。 優勝を目指してレース 1カ月以上も前からアメリカへ渡り、マシンもフルチューンするなど、万全の体制で戦ったパイクスピーク。しかしリザルトは初参戦の昨年と同じ 4位となった白井。来年は春からアメリカで他のシリーズ戦にも参加して練習し、本気で優勝を目指すつもりでいる。

問題はわかっている。だから来年も来なければ

昨年クアッド優勝のジョニー・エンジェル。予選を走っていないため最終組からの走行で、白井のタイムを抜き3 位となる。マシンはトリニティレーシングのパーツをさらにチューンした M モーション製だ

誰もが優勝を狙って走るわけではないのがパイクスピーク。トップ以外は意外とのんびりムードで走ってるライダーも多い。ヘルメットにカメラなんて付けてるし……。その映像見たい!

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ポラリスをベースにロングホイールベースでナロートレッドで製作されたオリジナルマシン。練習中にエンジンを壊していたにもかかわらず、川島に次ぐ7 位でフィニッシュしてるのには驚き

250 クラスのディフェンディングチャンピオン、ネイサン・コンレイは2 年連続の優勝を果たしたが、06 年からは2 輪ではなく4 輪にスイッチし、スバルで参戦する予定だという

500クラスでは4 年連続6 回の優勝と敵なしの王者、スーパーデイビーこと、デイビー・デュレーレリー。グランドナショナルダートトラックにも10 年間出場していた実力の持ち主だ

マシンがビンテージならライダーもかなり年季の入ったビンテージ(失礼!)なにしろ最高齢は73歳!こんな年齢でもけっこう速い。こういうレースがたくさんあるってのは素晴らしいな

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500 クラス予選トップで決勝でも驚異の速さを見せたグレッグ・トレイシー。ゴール直前でエンジンブロー。デイビーに今回も勝てず

その独特なライディングスタイルから“モンキーハンガー”と呼ばれるサイドカー。スウェーデンからの参加だ

ルーキーでモーターサイクルディビジョンのコースレコードをあっさり9 秒も塗り替えてしまったミッキー・ダイモンド。アマチュアに混ざって元AMAチャンピオンが大人げない……。でもそういうレースがあるから面白さが増すんだな。もちろんルーキーオブザイヤー受賞してます。ルーキーってイメージじゃないけどね

毎年全国から観客が集まり長いコース沿道は人がとぎれないしかも観戦スタイルは多種多様

さすがAMA元チャンプ! ルーキーながらコースレコードを更新!

走り去るのをスピードガンで計ってます。アメリカのレースではけっこう見かける風景。もちろんキップは切りません

ゲートオープンからスタートまでは5 時間もあるので寝たくなる気持ちはけど、外は雪の残ってる氷点下……

ずーっと向こうの崖っぷちの方でテントを張ってる人はいるわ、でかいBBQ セットをかついで登っていく人も多いわ。みんな楽しみ方を知ってる。マネできないけど

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出場するクルマも観客もそれぞれ独特のスタイル

 ありとあらゆるものでレースをしてしまうアメリカ。しかしパイクスピークほど幅広いジャンルのマシンを集めて行うレースは他にないだろう。モーターサイクルでもモタードマシンからクアッド、ダートトラッカーにサイドカーなどが出場。4輪クラスとなるとさらにその幅が広くなる。 日本でもおなじみのインプレッサやランエボも走るラリー車のクラスや、マスタングなどの走るスーパーストッククラス。パイクスピークの華と呼ばれながらも日本ではなじ

みのないオープンホイール。さらにトラックやSUVのクラスなど様 。々なかでも有名なクラスは、モンスター田島がツインエンジンエスクードで大活躍した何でもありのアンリミテッド。 もっとも異色な存在はトレーラーを引っ張るためのヘッド部分であるトラックのビッグリグ。どう見ても速くないだろ! って思えるその巨体は、なんとモーターサイクル250ccのトップクラスと同じタイムでパイクスピークを走り切るのだから恐ろしい。エコなんて言葉のかけらもない、真っ黒な排気ガスを吹き出しながら、コーナーではカウンターを切って登ってくるその姿は地球上でもっとも極悪なクルマに見える。

 電気自動車やプロパンガスを燃料にする車が走ってるかと思えば、黒煙吐きまくりの巨大ディーゼルトラックあり。まるでダイエットコークを飲みながらドーナツを食いまくるアメリカ人を見てるような矛盾を感じつつ、でもそれがカッコいいんだからしょうがない。と変に納

得してしまう。 観客だってそんな細かいことは気にしないで楽しむ。そこまで上がる必要あるか? なんて思うほど山の上に登り、崖っぷちにテントを張って観戦したりと、観客も出場者もとにかくなんでもありなのがパイクスピークなのだ。

走行後はスタート地点までパレード。ゴール以上に感動を誘う

レース終了後はパレードをしながらコースを下りていく。観客は沿道に詰めかけて選手を祝福のハイタッチで迎える。選手も観客も涙を誘う感動的なシーンだ。しかし選手は延 1々3kmもそれを続けなければならないのでレース以上に疲れるらしい……

アンリミテッドクラスで優勝した堀内さんの息子さんの涼さん。パイクスピークオープンに今年初参戦で2 位。ルーキーオブザイヤーを受賞

プロパンガスを燃料にして走るコブラ。信じられないほどに凄い音でぶっ飛んでいく。エキシビジョンクラスでニューレコードを叩き出した

パイクスピーク14 回目の挑戦となった堀内幸一さん。アンリミテッドで念願の優勝!

コレあり? て思うけどオープンホイールクラスならフォーミュラカーもありらしい

4 輪の入門クラス的な存在のミニスプリント。ドライバーは10 代の子が乗ってたり

3 台エントリーしているビッグリグのなかで飛び抜けて速いマシンに仕上がっている77 番、おそらく世界一大きなドリフトマシン。こんなシャコタンのトラックが峠道でグングンと迫って来たら逃げ出したくなる。つーか逃げられない

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レースに勝てなくたって、楽しんだ者が勝ち!

マシンとトランポがあれば誰でも参加可能。それがパイクス・ピーク。

バイク1台だけならトラックやバンを持ってなくてもこれでOK! 別にパイクスピークだからって、みんなデカいトランポなわけでもないんです。クワッドをこう積んできた人もいました

クアッドクラスの排気量上限は700cc。トップグループは圧倒的にヤマハのバンシーが多く、それを500cc にまでアップしてエンジンフルチューンされている

250 クラスは2 ストロークシングルエンジンのモトクロッサーを使用する。パイクスピークでももっとも小排気量のクラスながらトップは500の2 位より速いタイムで走るので楽なわけではない

500 クラスは2、4 ストロークエンジンのどちらも使用可能で、シリンダー数は2 つまで認められている。現行モデルで2 スト500 のマシンはないので、結果的に4 スト450 がほとんどになる

地元からのエントリーするアマチュアでもっとも多いトランポがピックアップトラック派。さすがにダッジのトラックはアメリカ本国で見てもデカすぎ厳つすぎで迫力満点

750 クラスとは言っても現在ほとんどKTM525 の独壇場となっているクラス。少数ながらXR650R やKTM やハスクバーナの640 なども見かけることがある

スーパーモトクラスは500 クラスと混同しそうになるが、排気量上限が450ccで17インチのロードレース用タイヤを履く。500 の場合は18インチのダートトラックタイヤを履く。このマシンはX Games のスーパーモトにも参戦したダートトラックライダー、ゲイリー・トレイシーのマシン

650 から750ccまでのツインエンジンマシンのビンテージクラス。クラシックタイプのTTレーサーが多く、トライアンフやヤマハXS650をベースにしているものが多い

パイクスピークならではのサービスが出張ダイノジェット。多くが基準にするコース中間地点でセッティングできる。1回46ドルなり

サイドカーのメンテナンス風景。駆動系をメンテナンスする場合はこんな感じでリヤを持ち上げないと整備が出来ないらしい

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レースだけじゃない。

取り巻く環境に魅力があるのだ

決勝前夜祭のバーティをした後に気合

いを入れるため、髪をトレードマークで

もあるモヒカンに刈った白井

 昨年は自分達だけですべてを行った白井達だが、今年は早めにアメリカに渡り、別のレースにも参戦したことでレース以上に大きなものを得ることができた。それは今年メカニックを努めてくれたマイクとの出会いだ。 マイクは地元に住み、なぜかクアッドのレンタルも

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練習や予選日は午前中でレースのスケジュールが終了するので、釣りなどをして気を抜くこともできる。奥がメカニックの清水、手前が後藤

チームの宿として自宅を使わせてくれたマイクの弟ロバート。穏やかで優しい人柄。マイクとロバートには感謝してます

メカニックとしてだけでなく、あらゆる面倒を見てくれたマイク。お世話になりました

ロッキー山脈麓の山

の中にぽつんとある

ロバートの家。パイク

スピークまでは1時

間半。こんな所に住

んでみたい

L.A.を出発前にトリニティレーシングの駐車場でマシンをセットアップ。エンジンはなんと90 馬力までアップされている

L.A.郊外のエルミラージュにてマシンのシェイクダウン。なにもないドライレイクを走るのは最高な気分

パイクスピークの250クラスに参戦をしようと計画中の菅原。メカから雑用までサポート全般をこなす

日本からも参加する価値あり!距離は遠くても参加しやすい

 海外のレースに出場したいと思ったとき、まず心配になるのがその費用。白井達がパイクスピーク参戦に必要とした金額は意外と少ない。安いモーテルを宿としていた04 年はライダーで総額60 万円+αだと言う。クアッドの場合はトランポに大きめのトラックが必要になるため、レンタカー代が大きな負担になるが、バイクならそれも小型で済む。気になるエントリーフィーは締め切りが4 段階あり、もっとも早くエントリーすれば250ドルと格安なのだ。エントリーに関し

上位6 人すべてがここのパーツでパワーアップしたクアッドのスペシャリスト、トリニティレーシング。クアッドで出るならここは外せないhttp://www.trinityracing.com/

毎日整備後にマシンを磨い

たご褒美として白井のマシ

ンに乗せてもらったエリック。

コレがマジで上手い!

初参戦の前年に比べると大所帯になった白井と川島のチーム「三四十六」11番の白井のマシンにまたがっているのがマイクの息子エリック。まだ15 歳だが、来年からパイクスピークに参戦する予定

しているマーケットを営むのが本業だが、メカニックの経験もあり、なによりレース好きなのだ。彼のおかげで落ち着いた宿を提供してもらえ、さらに来年以降の参戦にも役立つ友達も多くできた。そんな出会いをかんたんにできるのもパイクスピークの大きな魅力。レース以上にかけがえのないものなのだ。

てはパイクスピークのオフィシャルHPに方法が掲載してあるので、それを参考に。また、白井達のHPも参考になるだろう。

○パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムhttp://www.ppihc.com/○リアルダート.comhttp://www.real-dirt.com/

■Motorcycles and Quads2501 710 Nathan Conley 13:00.6512 27 Jeff Steinberger 13:16.1723 71 Mark Miller 13:18.1494 68 Jonathon Baird 13:36.7925 6 Kevin Magner 13:57.2775001 58 Davey Durrelle 12:22.4912 100 Greg Chicoine 13:05.1503 66 Mark Woodward 13:32.3934 29 Rick Opperman 13:45.5735 5 Doug Chestnutt 14:14.2857501 43 Micky Dymond 12:12.614 NR2 161 Jeff Grace 12:18.5183 77 Rick Gunby 12:59.9244 121 Joel Tarquin 13:06.5515 261 Jeff Ahner 13:10.100Quads1 91 John Stallworth 12:23.175 NR2 84 Jim Goertz 12:24.7743 860 John Angle 12:24.9904 11 Yoshimune Shirai 12:32.5125 46 Theodore Bernhard 12:55.6746 12 Takayuki Kawashima 13:06.163Sidecar1 44 Anders Nilsson 13:17.157 NR Supermoto1 357 Gary Trachy 12:18.7352 888 Jimmy Roberts 13:12.6923 8 Stuart Sinclair 13:41.422

4 67 Tim Buhler 13:53.6655 105 Brian Scollon 14:20.111Vintage1 49 Mickey Alzola 14:28.1402 111 Michael Pearlman 15:42.5993 107 Dave Gibson 21:27.985■Cars and TrucksUnlimited1 5 Koichi Horiuchi 11:34.5682 23 Andrew Hawkeswood 11:43.097Pikes Peak Open1 456 Brian Moody 12:24.3642 7 Ryo Horiuchi 12:37.889Open Wheel1 2 David Donner 11:15.6852 43 Spencer Steele 11:36.1123 14 Barry Isaac 12:05.897Super Stock Car1 18 Clint Vahsholtz 11:58.4032 7 Layne Schranz 12:14.5733 27 Steve Goeglein 12:42.427Mini Sprint1 4 Todd Cook 11:53.9632 9 Ted Marcovich 12:57.8673 11 Dave Wood 13:05.927Big Rig1 77 Mike Ryan 12:46.815 NR2 4 Darin Berdarhl 17:01.5413 76 Mike Gibbons 17:04.111Exhibition1 17 Randy Schranz 12:16.184NR

Records fall at 83rd running of Falken TirePikes Peak International Hill Climb Official Race Results