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1 細胞がん化の原理に基づいた 真にがん細胞特異的アプローチ法 関西学院大学 理工学部 生命科学科 教授 大谷

JST - 細胞がん化の原理に基づいた 真にがん細胞特 …...Ozono E, Genes Cells, 17, 660, 2012 17 想定される用途 (1) 1. ARFプロモーターに細胞傷害性遺伝子を接続して、がん

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細胞がん化の原理に基づいた 真にがん細胞特異的アプローチ法

関西学院大学 理工学部 生命科学科

教授 大谷 清

Page 2: JST - 細胞がん化の原理に基づいた 真にがん細胞特 …...Ozono E, Genes Cells, 17, 660, 2012 17 想定される用途 (1) 1. ARFプロモーターに細胞傷害性遺伝子を接続して、がん

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がん細胞特異的アプローチの必要性

・ 外科的切除不能のがんには、放射線や抗がん剤療法などが用いられている。

・ これらの治療法は、増殖している細胞を優先的に傷害

する。

・ 従って、がん細胞だけでなく正常な増殖細胞も傷害し、

副作用を生じうる。

・ 副作用を生じない程度に治療を控える必要があり、根

治治療が困難となることが多い。

・ 副作用を防ぐためには、正常な細胞に影響を及ぼさな

いよう、がん細胞特異的にアプローチする必要がある。

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従来技術とその問題点

【免疫療法】がん細胞は自己の細胞由来であり、かつ既に免疫監 視機構をかいくぐって生じているため、再度免疫反応を誘導するこ とが難しい。

【分子標的療法】特殊ながんに限られ、普遍的ではない正常細胞 にも多少発現しているものが多い。

【テロメラーゼ発現に基づくhTERTプロモーター】幹細胞にもテロメ ラーゼが発現しているため、幹細胞に影響を及ぼす可能性がある。

【亢進したE2F活性】正常な増殖細胞でもE2Fは活性化されている ため、正常な増殖細胞に影響を及ぼす可能性がある。

【CDK阻害剤】正常な増殖細胞でもCDKは活性化されているため、 正常な増殖細胞に影響を及ぼす可能性がある。

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新技術の特徴

・ 細胞がん化のメカニズムに基づく。

・ 原理的に、真にがん細胞特異的と考えられる。

・ 原理的に、がんの臓器の由来を問わず、普遍的に機能する

と考えられる。

・ 制御された増殖をする正常な細胞と異常な増殖をするがん

細胞を識別できる。

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新技術の原理

・ 細胞がん化の抑制には、2大がん抑制経路であるRB経路とp53経路が主要な役割を果たしている。

・ ほぼ全てのがんでRB経路とp53経路が傷害されている。

・ その結果として、がん細胞にはRBの制御を外れた特異E2F

活性がある(増強しているだけではない!)。

・ この特異なE2F活性は、がん細胞で単に亢進しているE2F

活性とは機能が異なる。

・ この特異なE2F活性は、がん化の原理に基づくため、正常

な細胞には存在しない。

・ この特異なE2F活性に基づけば、真にがん細胞特異的にア

プローチできると考えられる。

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RB経路

・ RB経路は、転写因子E2Fを主な標的としている。

・ E2Fは、細胞増殖に必要な一連の増殖関連遺伝子の発現

を制御している。

・ RBは転写因子E2Fと結合し、E2Fの標的遺伝子発現を

抑を抑制することによってがん化を抑制している(次頁図左)。

・ ほぼ全てのがんでRB経路に異常があり、E2Fの活性が

亢進し細胞増殖が促進されている(次頁図右)。

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RB経路

サイクリン/CDK

RB

CDKインヒビター

増殖関連遺伝子

転写活性化E2F

増殖関連遺伝子

転写抑制E2F

サイクリン/CDK

CDKインヒビター

RB

増殖抑制

がん化抑制

増殖促進

がん化

正常状態 がん性変化

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p53経路

・ p53は、細胞にがん性変化が生じた時に、アポトーシス

(細胞死)または細胞老化を誘導することによりがん化を

抑制している。

・ p53ががん性変化を感知する機構は、p53の上流の活性

化因子であるARFをコードしているARF遺伝子ががん性

変化を特異的に感知することによる(次頁図左)。

・ ほぼ全てのがんでp53経路に異常があり、アポトーシス

および細胞老化が起こらなくなっている(次頁図右)。

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p53経路

がん化抑制

ARF

Mdm2

p53

アポトーシス・細胞老化

がん性変化

正常細胞 がん細胞

がん化

ARF

Mdm2

p53

アポトーシス・細胞老化

がん性変化

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E2FによるRB経路とp53経路のリンク

RB経路の異常によってE2Fが活性化されると、

ARF遺伝子を活性化することによりp53を活性化する。

RB経路

サイクリン/CDK

pRb

p53経路

ARF

Mdm2

p53

CDKインヒビター

E2F

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E2FによるARF遺伝子の制御の特殊性

・ 増殖刺激によってRBが生理的に不活性化されることで誘導

された生理的なE2FはARF遺伝子を全く活性化しない。

・ がん性変化に伴うRBの強制的な不活性化によって誘導された

RBの制御を外れたE2Fが特異的にARF遺伝子を活性化する

がん性変化増殖刺激

P P

P P

RB RB RBの機能欠損

E2F

RB

生理的な

増殖関連遺伝子

E2F

RBの制御を外れた

E2F

ARF遺伝子

Komori H, EMBO J, 24, 3724, 2005

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ARF遺伝子は、RBの制御を外れたE2Fで 特異的に活性化される

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血清刺激後

0 4 8 12 16 20 24 28 (hr)

ARF

CDC6

GAPDH

G0/G1 90 - - 87 84 49 35 44 (%)S 2 - - 2 8 40 50 17

G2/M 8 - - 11 8 11 15 39

ARF

CDC6

GAPDH

Ad-Con

Ad-E2

F1

Ad-E2

F1

Ad-Con

血清 (-) 血清 (+)

0

30

10

20

Rela

tive

lucifera

seac

tivi

ty

CDC6

血清 (-) 血清 (+)

Contro

l

E2F1

E2F1

Contro

l

x9.8 x1.9

血清(-) 血清(+)

0

10

20

30

40ARF

Contro

l

E2F1

E2F1

Contro

l

x14.2 x16.8

Komori H, EMBO J, 24, 3724, 2005ヒト正常線維芽細胞 WI-38

0 4 8 12 16 20 24 28 (hr)0

2

4

6

8

Fold

activa

tion

ARF

CDC6

血清刺激後

増殖刺激(生理的に活性化されたE2F) E2F1過剰発現(RBの制御を外れたE2F)

RT-PCR

レポーターアッセイ

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ARFプロモーターのE2F反応性エレメントEREAは、 制御を外れたE2F活性を特異的に感知する

-230 CTGAGCCGCCCGCGCGCGCGCCTCC -206

E2F結合配列: TTT(C/G)(G/C)CGC

LUC

+1 +49-736

LUC

LUC

LUC

LUC

LUC

LUC

LUC

Fold activation

0 10 20 30 増殖刺激E2F1

過剰発現

1.7

1.4

1.5

1.8

4.8

2.0

1.2

6.7

12.3

2.2

0.9

6.5

3.4

1.1

24.1

9.1

血清刺激

E2F1

SV40

-66

EREA

E2F site E2F-like site

Komori H, EMBO J, 24, 3724, 2005ヒト正常繊維芽細胞 WI-38

E2E2 E2 E2

E2E2 E2 E2

EREAEREA EREA

EREAEREA EREA

SV40

SV40

ARFプロモーター

E2: 典型的なE2F標的配列

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RB経路の異常によって生じたRBの制御を外れたE2Fは p53経路にも異常を伴うことにより許容されている

E2F

RB経路の欠陥

細胞増殖 p53経路の欠陥

アポトーシス細胞老化

増殖関連遺伝子

癌細胞特異的活性

癌化

E2F

p53

生理的な 制御を外れた

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RBの制御を外れたE2Fは、がん細胞株特異的に存在する

Komori H, EMBO J, 24, 3724, 2005

RB/p53欠損癌細胞株 (5637, C-33A, Saos-2)

正常増殖細胞 (WI-38, HFF)

Rela

tive

lucifera

seac

tivi

ty

EREAx3 ARF(-66)

RB

Con

2

1

5

0CDC6 CDC6

mut

12

4

2

0

EREAx3 ARF(-66)

15

6

3

0CDC6 CDC6

mut

Rela

tive

lucifera

seac

tivi

ty

3

4

6

8

10

2

1

5

0

3

4

9

12

LUC

LUC

-66

mutLUC

+98-570

LUC

E2F sites

EREAEREAx3

ARF(-66)

CDC6mut

CDC6

*

癌細胞株特異的活性

E2F

E2F(+ )E2F

E2F

EREA EREA

*

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RBの制御を外れたE2Fは、がん細胞株特異的に存在する

TAp73

GAPDH

RBCon

5637 C-33 ASaos-2 HFFs

RB欠損がん細胞株

U-2 OS H1299

RB陽性がん細胞株

正常線維芽細胞

x 0.7

8

x 0.1

3

x 0.2

4

x 1.0

0

x 0.1

6

x 0.3

5

Cdc6

RBCon

RBCon

RBCon

RBCon

RBCon

・ TAp73遺伝子は、RBの制御を外れたE2Fで特異的に活性化される。

・ TAp73遺伝子は、がん細胞株で特異的に活性化されている。

Ozono E, Genes Cells, 17, 660, 2012

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想定される用途 (1)

1. ARFプロモーターに細胞傷害性遺伝子を接続して、がん

細胞特異的に発現させる。

2. ウイルスの複製に必要な遺伝子のプロモーターをARFプ

ロモーターに置き換えて、RBの制御を外れたE2F依存的

に増殖するがん細胞溶解性組換えウイルスを作成する。

RBの制御を外れたE2Fの転写活性を利用する。

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想定される用途 (2)

1. がんの診断に応用する。

∵正常な増殖と異常な増殖を識別できる。

2. 治療におけるがん特異的なマーカー (分子標的)として

用いる。

RBの制御を外れたE2Fの実態を明らかにし、 がん細胞特異的なマーカーとして利用する。

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想定される用途 (3)

RBの制御を外れたE2Fが生成されるメカニズム を明らかにし、その活性を増強させてがん細胞に アポトーシスを誘導することを試みる。

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実用化に向けた課題

1. RBの制御を外れたE2F活性をより効率良く

利用するための人工プロモーターの改良。

2. RBの制御を外れたE2Fの生化学的な実態の

解明。

3. RBの制御を外れたE2Fが生じるメカニズムの

解明。

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企業への期待 (1)

1. RBの制御を外れたE2F活性を効率良く利用し、がん細胞特異的に傷害する技術開発の共同 研究を希望。

例)人工プロモーターの改良

細胞傷害性遺伝子の選択遺伝子導入法の開発(ウイルスベクターその他)

etc

2. RBの制御を外れたE2Fの実態解明の共同研究 を希望。

→がん細胞特異的なマーカーとして診断や治療への

応用の可能性を探索する。

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企業への期待 (2)

3. RBの制御を外れたE2Fが生じるメカニズムの解明の共同研究を希望。

∵メカニズムが明らかとなれば、その活性を増強させて

がん細胞にアポトーシスを誘導する可能性が生じる。

付)メカニズムが分からない段階でも、既存の薬剤の中からRBの制御を外れたE2F活性を増強する薬剤をスクリーニングすることは可能である。

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産学連携の経歴

2012年-2013年

JST研究成果展開事業

研究成果最適支援プログラムA-STEP

FSステージ探索タイプ

研究課題名;

『がん細胞特異性のより高いがん細胞傷害性

組換えアデノウイルスの開発』

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お問い合わせ先

関西学院大学

研究推進社会連携機構

TEL : 079-565 - 9052

FAX : 079-565 - 7910

e-mail: ip.renkei@kwansei.ac.jp