Upload
others
View
1
Download
0
Embed Size (px)
Citation preview
1
細胞がん化の原理に基づいた 真にがん細胞特異的アプローチ法
関西学院大学 理工学部 生命科学科
教授 大谷 清
2
がん細胞特異的アプローチの必要性
・ 外科的切除不能のがんには、放射線や抗がん剤療法などが用いられている。
・ これらの治療法は、増殖している細胞を優先的に傷害
する。
・ 従って、がん細胞だけでなく正常な増殖細胞も傷害し、
副作用を生じうる。
・ 副作用を生じない程度に治療を控える必要があり、根
治治療が困難となることが多い。
・ 副作用を防ぐためには、正常な細胞に影響を及ぼさな
いよう、がん細胞特異的にアプローチする必要がある。
3
従来技術とその問題点
【免疫療法】がん細胞は自己の細胞由来であり、かつ既に免疫監 視機構をかいくぐって生じているため、再度免疫反応を誘導するこ とが難しい。
【分子標的療法】特殊ながんに限られ、普遍的ではない正常細胞 にも多少発現しているものが多い。
【テロメラーゼ発現に基づくhTERTプロモーター】幹細胞にもテロメ ラーゼが発現しているため、幹細胞に影響を及ぼす可能性がある。
【亢進したE2F活性】正常な増殖細胞でもE2Fは活性化されている ため、正常な増殖細胞に影響を及ぼす可能性がある。
【CDK阻害剤】正常な増殖細胞でもCDKは活性化されているため、 正常な増殖細胞に影響を及ぼす可能性がある。
4
新技術の特徴
・ 細胞がん化のメカニズムに基づく。
・ 原理的に、真にがん細胞特異的と考えられる。
・ 原理的に、がんの臓器の由来を問わず、普遍的に機能する
と考えられる。
・ 制御された増殖をする正常な細胞と異常な増殖をするがん
細胞を識別できる。
5
新技術の原理
・ 細胞がん化の抑制には、2大がん抑制経路であるRB経路とp53経路が主要な役割を果たしている。
・ ほぼ全てのがんでRB経路とp53経路が傷害されている。
・ その結果として、がん細胞にはRBの制御を外れた特異E2F
活性がある(増強しているだけではない!)。
・ この特異なE2F活性は、がん細胞で単に亢進しているE2F
活性とは機能が異なる。
・ この特異なE2F活性は、がん化の原理に基づくため、正常
な細胞には存在しない。
・ この特異なE2F活性に基づけば、真にがん細胞特異的にア
プローチできると考えられる。
6
RB経路
・ RB経路は、転写因子E2Fを主な標的としている。
・ E2Fは、細胞増殖に必要な一連の増殖関連遺伝子の発現
を制御している。
・ RBは転写因子E2Fと結合し、E2Fの標的遺伝子発現を
抑を抑制することによってがん化を抑制している(次頁図左)。
・ ほぼ全てのがんでRB経路に異常があり、E2Fの活性が
亢進し細胞増殖が促進されている(次頁図右)。
7
RB経路
サイクリン/CDK
RB
CDKインヒビター
増殖関連遺伝子
転写活性化E2F
増殖関連遺伝子
転写抑制E2F
サイクリン/CDK
CDKインヒビター
RB
増殖抑制
がん化抑制
増殖促進
がん化
正常状態 がん性変化
8
p53経路
・ p53は、細胞にがん性変化が生じた時に、アポトーシス
(細胞死)または細胞老化を誘導することによりがん化を
抑制している。
・ p53ががん性変化を感知する機構は、p53の上流の活性
化因子であるARFをコードしているARF遺伝子ががん性
変化を特異的に感知することによる(次頁図左)。
・ ほぼ全てのがんでp53経路に異常があり、アポトーシス
および細胞老化が起こらなくなっている(次頁図右)。
9
p53経路
がん化抑制
ARF
Mdm2
p53
アポトーシス・細胞老化
がん性変化
正常細胞 がん細胞
がん化
ARF
Mdm2
p53
アポトーシス・細胞老化
がん性変化
10
E2FによるRB経路とp53経路のリンク
RB経路の異常によってE2Fが活性化されると、
ARF遺伝子を活性化することによりp53を活性化する。
RB経路
サイクリン/CDK
pRb
p53経路
ARF
Mdm2
p53
CDKインヒビター
E2F
11
E2FによるARF遺伝子の制御の特殊性
・ 増殖刺激によってRBが生理的に不活性化されることで誘導
された生理的なE2FはARF遺伝子を全く活性化しない。
・ がん性変化に伴うRBの強制的な不活性化によって誘導された
RBの制御を外れたE2Fが特異的にARF遺伝子を活性化する
がん性変化増殖刺激
P P
P P
RB RB RBの機能欠損
E2F
RB
生理的な
増殖関連遺伝子
E2F
RBの制御を外れた
E2F
ARF遺伝子
Komori H, EMBO J, 24, 3724, 2005
12
ARF遺伝子は、RBの制御を外れたE2Fで 特異的に活性化される
10
血清刺激後
0 4 8 12 16 20 24 28 (hr)
ARF
CDC6
GAPDH
G0/G1 90 - - 87 84 49 35 44 (%)S 2 - - 2 8 40 50 17
G2/M 8 - - 11 8 11 15 39
ARF
CDC6
GAPDH
Ad-Con
Ad-E2
F1
Ad-E2
F1
Ad-Con
血清 (-) 血清 (+)
0
30
10
20
Rela
tive
lucifera
seac
tivi
ty
CDC6
血清 (-) 血清 (+)
Contro
l
E2F1
E2F1
Contro
l
x9.8 x1.9
血清(-) 血清(+)
0
10
20
30
40ARF
Contro
l
E2F1
E2F1
Contro
l
x14.2 x16.8
Komori H, EMBO J, 24, 3724, 2005ヒト正常線維芽細胞 WI-38
0 4 8 12 16 20 24 28 (hr)0
2
4
6
8
Fold
activa
tion
ARF
CDC6
血清刺激後
増殖刺激(生理的に活性化されたE2F) E2F1過剰発現(RBの制御を外れたE2F)
RT-PCR
レポーターアッセイ
13
ARFプロモーターのE2F反応性エレメントEREAは、 制御を外れたE2F活性を特異的に感知する
-230 CTGAGCCGCCCGCGCGCGCGCCTCC -206
E2F結合配列: TTT(C/G)(G/C)CGC
LUC
+1 +49-736
LUC
LUC
LUC
LUC
LUC
LUC
LUC
Fold activation
0 10 20 30 増殖刺激E2F1
過剰発現
1.7
1.4
1.5
1.8
4.8
2.0
1.2
6.7
12.3
2.2
0.9
6.5
3.4
1.1
24.1
9.1
血清刺激
E2F1
SV40
-66
EREA
E2F site E2F-like site
Komori H, EMBO J, 24, 3724, 2005ヒト正常繊維芽細胞 WI-38
E2E2 E2 E2
E2E2 E2 E2
EREAEREA EREA
EREAEREA EREA
SV40
SV40
ARFプロモーター
E2: 典型的なE2F標的配列
14
RB経路の異常によって生じたRBの制御を外れたE2Fは p53経路にも異常を伴うことにより許容されている
E2F
RB経路の欠陥
細胞増殖 p53経路の欠陥
アポトーシス細胞老化
増殖関連遺伝子
癌細胞特異的活性
癌化
E2F
p53
生理的な 制御を外れた
15
RBの制御を外れたE2Fは、がん細胞株特異的に存在する
Komori H, EMBO J, 24, 3724, 2005
RB/p53欠損癌細胞株 (5637, C-33A, Saos-2)
正常増殖細胞 (WI-38, HFF)
Rela
tive
lucifera
seac
tivi
ty
EREAx3 ARF(-66)
RB
Con
2
1
5
0CDC6 CDC6
mut
12
4
2
0
EREAx3 ARF(-66)
15
6
3
0CDC6 CDC6
mut
Rela
tive
lucifera
seac
tivi
ty
3
4
6
8
10
2
1
5
0
3
4
9
12
LUC
LUC
-66
mutLUC
+98-570
LUC
E2F sites
EREAEREAx3
ARF(-66)
CDC6mut
CDC6
*
癌細胞株特異的活性
E2F
E2F(+ )E2F
E2F
EREA EREA
*
16
RBの制御を外れたE2Fは、がん細胞株特異的に存在する
TAp73
GAPDH
RBCon
5637 C-33 ASaos-2 HFFs
RB欠損がん細胞株
U-2 OS H1299
RB陽性がん細胞株
正常線維芽細胞
x 0.7
8
x 0.1
3
x 0.2
4
x 1.0
0
x 0.1
6
x 0.3
5
Cdc6
RBCon
RBCon
RBCon
RBCon
RBCon
・ TAp73遺伝子は、RBの制御を外れたE2Fで特異的に活性化される。
・ TAp73遺伝子は、がん細胞株で特異的に活性化されている。
Ozono E, Genes Cells, 17, 660, 2012
17
想定される用途 (1)
1. ARFプロモーターに細胞傷害性遺伝子を接続して、がん
細胞特異的に発現させる。
2. ウイルスの複製に必要な遺伝子のプロモーターをARFプ
ロモーターに置き換えて、RBの制御を外れたE2F依存的
に増殖するがん細胞溶解性組換えウイルスを作成する。
RBの制御を外れたE2Fの転写活性を利用する。
18
想定される用途 (2)
1. がんの診断に応用する。
∵正常な増殖と異常な増殖を識別できる。
2. 治療におけるがん特異的なマーカー (分子標的)として
用いる。
RBの制御を外れたE2Fの実態を明らかにし、 がん細胞特異的なマーカーとして利用する。
19
想定される用途 (3)
RBの制御を外れたE2Fが生成されるメカニズム を明らかにし、その活性を増強させてがん細胞に アポトーシスを誘導することを試みる。
20
実用化に向けた課題
1. RBの制御を外れたE2F活性をより効率良く
利用するための人工プロモーターの改良。
2. RBの制御を外れたE2Fの生化学的な実態の
解明。
3. RBの制御を外れたE2Fが生じるメカニズムの
解明。
21
企業への期待 (1)
1. RBの制御を外れたE2F活性を効率良く利用し、がん細胞特異的に傷害する技術開発の共同 研究を希望。
例)人工プロモーターの改良
細胞傷害性遺伝子の選択遺伝子導入法の開発(ウイルスベクターその他)
etc
2. RBの制御を外れたE2Fの実態解明の共同研究 を希望。
→がん細胞特異的なマーカーとして診断や治療への
応用の可能性を探索する。
22
企業への期待 (2)
3. RBの制御を外れたE2Fが生じるメカニズムの解明の共同研究を希望。
∵メカニズムが明らかとなれば、その活性を増強させて
がん細胞にアポトーシスを誘導する可能性が生じる。
付)メカニズムが分からない段階でも、既存の薬剤の中からRBの制御を外れたE2F活性を増強する薬剤をスクリーニングすることは可能である。
23
産学連携の経歴
2012年-2013年
JST研究成果展開事業
研究成果最適支援プログラムA-STEP
FSステージ探索タイプ
研究課題名;
『がん細胞特異性のより高いがん細胞傷害性
組換えアデノウイルスの開発』
24
お問い合わせ先
関西学院大学
研究推進社会連携機構
TEL : 079-565 - 9052
FAX : 079-565 - 7910
e-mail: ip.renkei@kwansei.ac.jp