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RIGHT: URL: CITATION: AUTHOR(S): ISSUE DATE: TITLE: 腹部CTにて発症前より全経過を観 察しえた黄色肉芽腫性腎盂腎炎の 1例 相澤, 卓; 倉田, 眞行; 大久保, 雄平; 小川, 正至; 鉾石, 文彦; 栃本, 真人; 三木, 誠 相澤, 卓 ...[et al]. 腹部CTにて発症前より全経過を観察しえた黄色肉芽 腫性腎盂腎炎の1例. 泌尿器科紀要 1998, 44(10): 729-732 1998-10 http://hdl.handle.net/2433/116271

Title 腹部CTにて発症前より全経過を ... - Kyoto U

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Page 1: Title 腹部CTにて発症前より全経過を ... - Kyoto U

RIGHT:

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CITATION:

AUTHOR(S):

ISSUE DATE:

TITLE:

腹部CTにて発症前より全経過を観察しえた黄色肉芽腫性腎盂腎炎の1例

相澤, 卓; 倉田, 眞行; 大久保, 雄平; 小川, 正至; 鉾石,文彦; 栃本, 真人; 三木, 誠

相澤, 卓 ...[et al]. 腹部CTにて発症前より全経過を観察しえた黄色肉芽腫性腎盂腎炎の1例. 泌尿器科紀要 1998, 44(10): 729-732

1998-10

http://hdl.handle.net/2433/116271

Page 2: Title 腹部CTにて発症前より全経過を ... - Kyoto U

泌尿 紀 要44:729-732,l998 729

腹部CTに て発症前より全経過を観察 しえた

黄色肉芽腫性腎孟腎炎の1例

蒲田総合病院泌尿器科(医 長:相 澤 卓)

相 澤 卓*

蒲田総合病院内科(部 長:木 村紀子)

倉 田 眞 行**

東京医科大学泌尿器科学教室(主 任:三 木 誠教授)

大 久保雄平,小 川 正至,鉾 石 文彦

栃本 真人,三 木 誠

A CASE OF XANTHOGRANULOMATOUS PYELONEPHRITIS

FOLLOWED BY COMPUTED TOMOGRAPHIC SCAN

Taku AIZAWA

From the Department of Urology, Kamata General Hospital

Masayuki KURATA

From the Department of Internal Medicine, Kamata General Hospital

Yuhei OHKUBO, Masashi OGAWA, Humihiko HOKOISHI,

Masato TOCHIMOTO and Makoto MIKI

From the Department of Urology, Tokyo Medical College

Since it is difficult to differentiate xanthoglanulomatous pyelonephritis (XGP) from renal cancer, most cases of XGP are diagnosed after nephrectomy. We report a rare case of XGP followed by abdominal computed tomographic (CT) scan. A 65-year-old woman was admitted with high fever. Drip infusion pyelography showed a right renal stone but did not visualize the right kidney. A swollen right kidney was revealed on abdominal CT scan.

Diabetes mellitus was detected by blood examinations and XGP was suspected. Conservative therapy with antibiotics was performed, the symptoms disappeared within 2 weeks and the right atrophic kidney was revealed on abdominal CT scan 12 months after onset. Histopathological findings on a renal biopsy specimen obtained 1.5 months after treatment were compatible with XGP.

The diagnosis of XGP will become easier by using a combined approach including radiographic findings, physical finding and other data.

(Acta Urol. Jpn. 44: 729-732, 1998) Key words : Xanthogranulomatous pyelonephritis, Abdominal CT scan

緒 言

黄色肉芽腫性腎孟腎炎は比較的稀な疾患であり,本

邦では約250例 の報告がある.そ れ らのほとんどは外

科的切除により,術 後に診断されている.今 回,わ れ

われは臨床症状 と画像により診断でき,保 存的に治療

し,か つ腹部CTに て経過の追えた黄色肉芽腫性腎

孟腎炎の1例 を経験 したので報告する.

*現:東 京医科大学泌尿器科学教室

**現:川 崎協同病院内科

症 例

患者:65歳,女 性

主訴:発 熱

現 病歴:1995年4月 初 旬 よ り嘔 気,嘔 吐 が 出現,38

度 台 の発 熱 も出 現 し た た め,当 院 内 科 で 入 院 と な っ

た.

既 往歴:50歳 時,腸 閉 塞 で手 術.64歳 時,胃 潰瘍 の

ため,内 服 治 療 。

家 族 歴:特 記 すべ きこ とな し.

初 診 時現 症:体 格 は 中等 度,体 温38.5度.脈 拍104/

分.血 圧120/70mmHg.腹 部 は平 坦 で あ るが,全 体

Page 3: Title 腹部CTにて発症前より全経過を ... - Kyoto U

730 泌尿紀要44巻10号1998年

的 に圧 痛 あ り,右 側 腹 部 に腫 瘤 を触 知 した.

入 院 時 検 査 所 見:生 化 学 検 査 に てBUN66.7

mg/dl,CRTN2.6mg/dlと や や 腎 機 能 の 低 下 を 認

め,GLul99mg/dlと 高血 糖 を認 め た.末 梢 血 検 査

にて 白血 球17.3×103/mm3と 上 昇 して お り,赤 血 球

2.93×106/mm3,血 小 板156×103/mm3,ヘ モ グ ロ ビ

ン8.6g/dlと 白血 球 増 多 と貧 血 を認 め た.白 血 球 分

画 で は好 中球84.9%,リ ンパ 球H.6%,単 球3.1%,

好 酸 球O.3%,好 塩 基 球O.1%で や や左 方 移 動 を認 め

た.血 沈 は131mm/hr,139mm/2hrと 充 進 して い

た.

蛋 白 分 画 に て ア ル ブ ミ ン38.5%,α1グ ロ ブ リ ン

6.3%,α2グ ロブ リ ン15.1%,β グ ロ ブ リン12.3%,

γ グロ ブ リ ン27.8%で 軽 度 γ グ ロ ブ リ ンが上 昇 して

い た.免 疫 グ ロブ リ ン はIgG2,920mg/dl,IgA771

mg/dl,IgMl99mg/dlと,IgGとIgAが 上 昇 して

い た,

検尿 に て尿 混 濁 あ り,比 重1.050,pH5.0,ウ ロ ビ

リ ノー ゲ ン(2+),尿 蛋 白(+),糖(±),尿 潜 血

(3+),沈 渣 に てRBC2-4/hpf,WBC多 数/hpfで

あ っ た.尿 培 養 で はEnterococcusfaecalislO6/ml以 上

で あ っ た.

DIP:KUBに て右 腎 内 に6×3mmの 小 結 石 を認

め,左 腎 の造 影 は良好 で あ った が,右 腎 か らの造 影剤

の排 泄 は30分 時 にて も認 め られ な か った.

腹 部CT:右 腎 は著 明 に腫 大 して い た.辺 縁 は比較

的 に整 で あ るが,造 影 にて 内部 が不 均 一 に造 影 され て

い た(Fig.1).

また,他 疾 患(胃 潰 瘍)治 療 中で 発 症前1カ 月 に も

内科 に て 腹 部CTが 施 行 さ れ て い た(Fig.2).両 腎

と も造影 剤 の 排泄 は良好 で あ るが,右 腎 は左 腎 に比 べ

てや や腫 大 して い た.

経過:以 上 の経 過 お よび検査 所 見 に よ り,糖 尿病 と

黄 色 肉 芽 腫 性 腎 孟 腎 炎 と診 断 し た.抗 生 剤IPM

(Tienam⑭)lg/日 に よ り保 存 的 に治 療 を開 始 した.

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Fig.1.AbdominalCTscan(enhanced)atonset:Theswollenrightkidneywithirregulardensitywasrevealed.

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Fig.2.Abdomina1

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CTscanatl

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戴 欝1箋欝 驚 奪鷲 懸1:,;1・"r

Fig.3.Microscopicfindingsofrightrenal

biopsyshowlymphocytein丘ltration.

約2週 で 完全 に解 熱 し,尿 路 感 染 は約3カ 月 で 改 善 し

た.ま た,解 熱 した時 点 で抗 生 剤 をNFLX(Baccidal⑧)

600mg/日 に 変 更 した.そ の 後,腎 生 検 を施 行 し,確

定 診 断 を得 た.

病 理 組 織 学 的所 見:治 療 開始 後,約1カ 月 半 で 腎生

検 を施 行 した.組 織 学 的 に は 腎組 織 内の と こ ろ ど ころ

に小 型 の リ ンパ球 浸 潤 が 著 明 な部 位 が 存 在 し,多 数 の

淡 明 な泡 沫 細 胞 を認 め た(foamcell).Houton型 巨

細 胞 も散 見 され,黄 色 肉芽腫 性 腎孟 腎 炎 と考 えて 良 い

組 織 像 で あ った(Fig.3).

黄 色 肉芽腫 性 腎孟 腎 炎 の 治療 と並 行 して糖 尿 病 の 治

療 も開始 し,食 事 療 法 にて 良好 に コ ン トロ ー ル され ,

1995年7月29日 退 院 した.現 在 外 来 に て経 過 観 察 中で

あ るが,尿 路 感 染 もな く,再 発 もせ ず 経 過 良 好 で あ

る.腎 機 能 につ い て はCRTN2~3mg/dlと や や 高

値 を推 移 して い る が,急 激 な変 化 は な い.

発 症 後1カ 月,5カ 月,12カ 月 に腹 部CTを 施 行 し

経 過 を観 察 した.発 症 後1カ 月 で は まだ 内部 が不 整 に

造 影 されて い る もの の,腫 大 は発 症 時 に比べ か な り縮

小 し(Fig.4),5カ 月 で は ほ ぼ 左 腎 と同 様 の 大 き さ と

な って い た,12カ 月 で は右 腎 内 部 に不 整 な所 見 は見 ら

れ ず,左 腎 に比 べ て か な り萎 縮 して い た(Fig .5).

Page 4: Title 腹部CTにて発症前より全経過を ... - Kyoto U

相澤,ほ か:黄 色肉芽腫性腎孟腎炎 731

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Fig.4.AbdominalCTscan(enhanced)atl

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Fig.5.AbdominalCTscan(enhanced)atI2monthsafteronset:Therightkidneywasatrophic.

考 察

黄色肉芽腫性腎孟腎炎(XGP)は 慢性化膿性炎症

の特殊な一型と考えられている.臨 床症状は発熱や側

腹部痛を主訴とすることが多 く,中 年女性に多く見ら

れる.白 血球の増加,血 沈尤進,膿 尿,高 γグロブ

リン血症を認め,基 礎疾患に糖尿病,尿 路結石や尿管

狭窄をもつ例が多いとされている.画 像診断上,腎 腫

瘍 との鑑別が難 しく外科的に摘出された後に診断され

ている例が多い.

自験例では発症1カ 月前 に偶然,腹 部CTを 施行

していたことや臨床症状から,か な り高率にXGP

が疑われた.ゆ えに保存的に経過をみて定期的に腹部

CTを 施行 していった.発 症直前に腹部CTで 患側

腎の様子が観察できたことは興味深い.患 側腎はやや

腫大してお り,慢 性的な炎症にさらされているだろう

ことが裏づけられる.こ の炎症が何かの原因で急性増

悪 し,著 明な腫大をおこしたものと考えられる.発 症

前はCT上,患 側の腎機能は悪 くないが,発 症時以

降は造影剤の排泄が認められず,急 激に機能が低下 し

て萎縮を起 していることから,相 当に強力な炎症であ

ることが伺われた.

XGPのCT上 の特徴として造影にて辺縁に高吸収

閾が認め られるrimenhancementが 指摘 されてい

る1'2)こ れは炎症による肉芽組織や周囲の腎実質に

相当する部分である.し かし,必 ず しもすべての症例

に見 られるわけではなく,わ れわれの症例では右腎前

方と後方ではよく認められるが,外 側においてははっ

きりしない.ま た,限 局型では正常の腎実質の造影効

果の方が大きくなるため,不 明瞭となることが多いと

されている.こ れに対 して低吸収閾はxanthoglanu-

lomatoustissueや 壊死組織であると考えられている.

この部分は腎血管筋脂肪腫や脂肪肉腫との鑑別にも注

意 しなければならない.実 際,腫 瘍を合併した報告も

わずかながらされている3'4)

また,わ れわれの症例では施行 していないが,血 管

造影 も腫瘍性病変との鑑別に有用との報告 もある5)

膿瘍部は無血管野であり,こ れ自体ではavascularな

腫瘍との鑑別は難しい,し かし,周 囲の被膜動脈や穿

通動脈において新生血管が見 られることがあり,悪 性

腫瘍に見られる新生血管とは異なるとされている.

MRIの 重要性を強調 している報告6'7)もある.腫

瘤内部の貯留物の性状をより詳 しく判断できるとされ

てお り,CTと の併用にて質的診断価値が向上すると

報告されている.

鈴木ら8)は本症を膿腎型,腎 膿瘍型,腎 周囲型と分

類 している.そ のうち膿腎型が大半を占め,自 験例も

膿腎型 と考えられる.わ れわれの本邦報告例の集計で

は高度の炎症所見,尿 路感染症,糖 尿病,尿 路結石や

尿管狭窄の既往などXGPを 疑わせる所見が存在せ

ず,総 合的な画像診断を駆使しても鑑別が難 しいと考

えられたのは,42.2%(詳 細な記載のあった102例 中

43例)で あった.こ れらの半数以上が腎膿瘍型であ

り,腎 膿瘍型はしばしば炎症所見を欠き,診 断が しづ

らく注意が必要である.

われわれの症例では化学療法により症状 も比較的早

く消失 し,発 症1カ 月後の腹部CTで も患側腎の縮

小がみられ,手 術は施行 していない.保 存的治療例の

報告が少なく,患 側腎がどのような経過を辿るかはあ

まり明らかではないが,炎 症が比較的限局している場

合はほとんど正常にまで回復するようである9)抗 生

剤の発達 した今 日では実際には外科的治療の対象にな

る例はもっと少ないと考えられる.抗 生剤不応例や再

発を繰 り返す様な場合は手術を考慮すべきであろう.

発熱などの臨床症状や既往歴に画像診断を加えて判

断すれば,XGPの 臨床診断はかなり高率に可能とな

ると思われた.そ して,XGPが 疑われる場合はまず

抗生剤などの化学療法を開始し,数 カ月後に腹部CT

を再検して経過を見ることで充分に対処できると考え

られた.

Page 5: Title 腹部CTにて発症前より全経過を ... - Kyoto U

732 泌尿紀要44巻10号1998年

文 献

1)GoldmanSM,HartmanDS,FishmanEK,etaL:

CTofxanthogranulomatouspyclonephritis.AmJ

Roentgeno1142:963-969,1984

2)SubramanyanBR,MegibowAJ,RaghavendraBN,

etaL=Diffusexanthogranulomatouspyelone-

phritis:analysiscomputedtomographyand

sonography,UrolRadiol4:5-9,1982

3)ElliotCB,JohnsonHWandBalfourJA:

Xanthogranulomatouspyelonephritisandperirenal

xanthogranuloma.BrJuro140:548-555,1968

4)水 野 隆 元,小 西 平,朴 勺,ほ か:黄 色 肉 芽

腫 性 腎 嚢 胞 壁 に み ら れ た 腎 細 胞 癌 病 巣.泌 尿 紀 要

43:171,1997

5)辻 明,村 井 勝,中 村 宏:黄 色 肉 芽 腫 性 腎

孟 腎 炎 に お け る 血 管 造 影 の 検 討.脈 管 学29:9-

13,1989

6)Hard且eyMD,NicholsDMandSmithFW:Nuclear

magneticresonancetomographyimaginginxan-

thogranulomatouspyelonephritis.JUrol127:

301-303,1982

7)藤 井 明,桑 山 雅 行,富 岡 収,ほ か:黄 色 肉 芽

腫 性 腎 孟 腎 炎 の 臨床 検討.泌 尿 紀 要38:43'46,

1992

8)鈴 木 利 光,高 宮 治生,木 原 達:い わ ゆ る"黄 色

肉 芽 腫 性 腎 孟 腎 炎"の 病 理,新 潟 医 会 誌87:

150-167,1973

9)牧 角 和彦,矢 島通 孝,浜 尾 巧,ほ か:腎 を保 存

し得 た 黄 色 肉芽 腫 性 腎 孟 腎 炎 の1例.西 日泌 尿

52:1449-14,52,1990

10)天 野 正道,山 本 徳則,曽 根 淳,ほ か:術 前 に診

断 し得 た1例 を含 む黄 色 肉 芽 腫 性 腎 孟 腎 炎 の4

例.西 日泌 尿47:831-837,1982

11)中 山文 枝,宮 川 国久,鷹 田 浩,ほ か:黄 色 肉芽

腫 性 腎 孟 腎 炎 の 画 像 診 断 、 画 像 診 断12:955-

960,1992

12)横 尾 彰 文,広 瀬 崇 興,酒 井 茂,ほ か:黄 色 肉 芽

腫 性 腎 孟 腎 炎 の 臨 床 検 討.泌 尿 紀 要34:1151-

ll59,1988

(ReceivedonMarch26,1998AcceptedonJune22,1998)