泌 尿紀 要38=933-935,1992 933
腎 細 胞 癌 の 両 側 副 腎 転 移
東京慈恵会医科大学第三病院泌尿器科(主 任:増 田富士男教授)
増 田富士 男,鈴 木 英 訓,鈴 木 正泰
BILATERAL ADRENAL METASTASIS FROM
RENAL CELL CARCINOMA
Fujio Masuda, Hidenori Suzuki and Masayasu Suzuki
From the Department of Urology, Daisan Hospital, the Jikei
University School of Medicine
A case of renal cell carcinoma with synchronous bilateral
adrenal metastasis occurring in a 76-year-old woman is reported. In
our case, preoperative computed tomographic evaluation revea-led
the presence of bilateral adrenal metastasis, and simultaneous
right radical nephrectomy and contralateral adrenalectomy were
performed. Pathological examination revealed renal cell carcino-ma
of right kidney metastasizing to both adrenal glands. Bilateral
adrenal metastasis from renal cell carcinoma is rare. Our case
seems to be the fourth case in the Japanese literature.
(Acta Urol. Jpn. 38: 933-935, 1992)
Key words: Renal cell carcinoma, Bilateral adrenal
metastasis
緒 言
最近は,早 期 の小 さい腎細胞癌が偶然に発見 され る
ことが多 くなってい る1)が,腎 細胞癌は転移を生 じ易
いので,初 診時なお約30%に 遠隔転移がみ られる とい
う2・3).同側の副腎転移 は しば しば み られ るが,対 側
の副腎転移の報告は少ない.と くに両側の副腎転移は
はなはだ稀であ る.わ れわれは右腎細 胞癌 の両側副腎
転移を,術 前にCTス キ ャンで診断 し,根 治 的腎 摘
除術 と同時に,対 側 の副腎摘除術を行った1例 を報告
す る,
症 例
K.N.,76歳,女 性.右 大腿 部痛 を主 訴 として近医
受診,転 移性骨腫瘍 の診断で,原 発巣精査 のため紹介
され,入 院 した.血 尿,腎 部疹痛,腎 部腫瘤は認め ら
れず,尿 路外症状 もなか った.入 院時検査 では,血 沈
が1時 間値65mmと 尤進 し,貧 血 および α2グ ロブ
リンの上 昇がみ られたが,腎 機能,血 清電解質,肝 機
能は正常で,内 分泌学 的検査 も異常 な く,高 血圧 は認
め られ なか った.
静脈性腎孟造影で左腎は正常であるが,右 腎は中腎
杯の充満欠損 と上下腎杯の圧排変位がみ られ て,腎 中
部の腫瘤性病変が考 え られ,超 音波検査では,同 部 の
充実性腫瘤が認 め られた。CTス キ ャンでは右腎 の腫
瘍 とともに,両 側 副腎 の充 実性腫大 がみ られ(Fig,
1),右 腎細胞癌の両側副腎転移 と診断された.腎 動脈
造影 では,右 腎お よび右 副腎 にhypervascularな 腫
瘍が認 められたが,左 副 腎の病 変は明 らかで なか っ
た.全 身骨 シソチ グラフt一 では右大腿骨,第ll胸 椎
の転移が診断 され たが,胸 部撮影 で肺転移は認 め られ
なか った.
右大腿骨転移に対 して髄 内固定術お よび放射線照射
45Gyを 行 い,症 状の覧解がえ られたので,1986年1
月17日,肋 骨弓下横切開にて,経 腹的に右根治的腎摘
除術 と左副腎摘除術 を同時に行った.摘 出右腎 の重量
は240gで,中 部に5.5×4.5cmの 腫瘍 が認め られ,
病理組織学的 には腎細胞癌,胞 巣型,淡 明細胞亜型,
grade2,INFβpT3aNOで あった.右 副腎は14g
で2・5x2・Ocmの 腫瘍が。左副腎は7gで,2.OxL5
cmの 腫瘍が認め られ(Fig2).病 理組織学的にはい
ずれ も腎細 胞癌 の転移 と診断された.術 後ステ ロイ ド
の補充療法 とともに,5-FUに よる化学療法 を行い,
順調に経過 していたが,74日 目に急性心不全のため死
亡 した.
考 察
腎細胞癌の同側 副腎転移は7～23%4・s)と,比 較 的
しば しばみ られる.こ れに対 して,対 側副腎転移 は少
な く,本 邦では】988年に水 田6)が14例を集めてい るが
934 泌尿紀要38巻8号1992年
ある.い ずれにぜ よ,対 側 副腎転移が,初 診時 に存在
しうることを認識 し,術 前 に診 断 し,正 しい治療方針
をきめ ることが大切である.副 腎転移 の診断 は,自 験
例 のよ うにCTが 有 用であ るが,今 後はMRIも 用
いられ るであろ う.
結 語
腎細胞癌の両側副腎転移 の1例 を報告 した,本 例は
術前にCTで 両側副腎 転移 が診断 でき,腫 瘍 腎 と と
もに手術的に摘出 した.
Fig.LCTscanshowsbilateraladrcnaItUmOrS(arrQws)
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Fig.2.GrossappearanceofbilateraladrenaI
tumors
その後の症例を含めても現在 までに18例 の報告がある
のみである.両 側副腎転移 の臨床例 はさ らに稀で7一艮o).
本邦 ではわずかに3例 の報告11-13)がみ られ る のみ で
あ り,自 験例は第4例 目と思われ る.こ れ までの3例
は,い ずれ も両側副腎転移 のみで,他 臓器への転移は
み られていないのに対 し,自 験例は骨転移 もみ られた
が,治 療に よ り骨痛の寛解が えられたので,原 発巣お
よび両側副腎 の摘除を行 った.
自験 例の転帰は不良であ ったが,峰 山12),は 手術15
月後再 発な く健在な例を報告 してお り,岩 松 の例13)も
術後8月,再 発な く健在であ り,根 治性 が期待 され る
例では,積 極的な手術が行われ るべ きである,ま た 自
験例の ように,手 術に よ り根 治性の可能性 がな くて も
局所病 巣に よる病状を寛解 し,adjuvantchemothe。
rapyの 効果を増すために,両 側副 腎摘 出を含む手術
が考 慮 され る,根 治的腎摘除術 と対側副腎摘除は同一
の到達法で手術が可能であ り,手 術操作 に よる侵襲の
増加が少ない ことも,積 極的な治療 が望 まれ る…因で
文 献
1)増 田 富 士 男,鈴 木 博 雄,近 藤 泉,ほ か=偶 然 発
見 さ れ た 腎 細 胞 癌 の 臨 床 ・病 理 学 的 検 討.泌 尿 紀
要37!12三3-1227,1991
2)本 間 之 夫,杉 本 雅 幸,蓑 和 田 滋,ほ か=腎 細 胞 癌
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移 性 腫 瘍 を 伴 っ た 腎 癌 例.臨 泌34:1105-1109,
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12)峰 山 浩 忠,小 松 原 秀 一,阿 部 礼 男=両 側 副 腎 転 移
を 示 し た 腎 細 胞 癌 の1手 術 例.西 日泌 尿43:997
-1001,1981
13)岩 松 克 彦,岡 聖 次,武 本 征 人,ほ か=両 側 副 腎
