皆さんこんにちは。ご紹介頂きました JATA の越智です。まず昨年の台風の被害にあわれた方々に哀悼の意を表したいと思います。 また、2011 年の東日本大震災において、たくさんの支援を頂いたことを改めてお礼申し上げます。 本日は災害や大事件にあたり旅行会社が果たすべき役割について、日本の取り組みを紹介したいと思います。

私は日本のNO2旅行会社の本社でちょうど 2001 年の NYC同時多発テロの年から海外旅行のリスク管理をしてきました。　昨年から JATA の理事・事務局長として業界としてのリスク管理を推進しており、また外務省の海外邦人安全協会の理事もしています。

まず JATA について紹介します。（日本には 1万社の旅行会社があります。）　JATA は大規模～中規模の 1108 社が加盟し、加盟会社の従業員数は 7万名。　売り上げは 6兆円に及びます。　JATA では海外旅行、国内旅行、訪日旅行の全てをカバーしています。　特に海外旅行の分野ではほぼ 100％のシェアーを持っています。

UNWTO International Conference on Tourism and Climate Change

JATA の主要な事業は４つです。①政策提言や制度改革などのロビー活動、②需要喚起のためのキャンペーン、イベントの実施、③国家試験や情報サービス人材育成などの経営支援業務、④17 億円の弁済制度の運営やコールセンターなどの消費者保護です。　海外ではUNWTOやPATAと提携しています。

需要喚起の最も大きな事業はツーリズム EXPOジャパンの開催です。 これまで旅博として海外の皆様にも親しまれてきましたが、今年から日本観光振興協会の旅フェアと合体し、観光庁のインバウンド商談会も併設し、生まれ変わりました。　展示会、商談会、国際観光フォーラム、前夜祭を BtoB, BtoC で実施し、20 万人を動員する世界最大級のイベントとして 9月 24 日から 9月 28 日まで東京ビッグサイトで開催します。UNWTOのリファイ事務局長には国際観光フォーラムで基調講演をしていただきます。是非、会場の皆さんもご参加ください。

ＪＡＴＡが強力な組織であることはご理解いただけたと思います。 「旅の力」を通じて世界を元気にする、そして地域の発展に貢献する。これが JATA の一貫したミッションです。

それでは観光危機管理の話に入ります。皆さんの国と同じように、2001 年以降 NYC 同時多発テロやSARS, スマトラ沖地震と津波など大事件によって、日本の海外旅行も大きな影響を受けました。

災害の影響の尺度であるデスティネーション・コンディネーション・スケールで言えば、ほぼ世界と共通ですが、D3の地震・津波がD2の中国韓国との政治的問題の影響、D5のバス事故に対する関心が高い点が日本の特殊事情と言えます。

大手の旅行会社ではご覧のようなリスクマップをもとに、テロや感染症のリスクを下げるために自社の危機管理能力を高め、業界内の連携を強め、外務省や観光庁や外部機関と連携を進めてきました。　その成果によってリスクが低減されてきました。現在はバス事故や登山ツアーなど頻度の高い事故を防ぐためのガイドラインつくりに取り組んでいます。

2012 年の日本人が海外で死亡した原因を見ると、７割がシニアトラベラーの病気が原因です。 テロや災害でなくなるケースは極めて稀になっています。 かつては 1997 年ルクソールでテロにより 10 名もの被害を出したり、2005 年のバリ島テロではハネムーンのカップルが被害にあっています。

日本はGLOBAL PEACE INDEX によれば世界で第３位の平和な国です。 日本に海外からお越しになった方は、電車の中で居眠りする人が多いのに驚きます。　逆に言えば、安全に関して極めて厳しい消費者です。

日本では自動車販売においても、自動衝突回避装置をつけることがブームになっています。20 万円高くとも自動衝突回避装置の性能がいいほうが売れるという市場です。

観光地の危機管理と旅行会社の役割を整理します。 観光地側では、災害発生すると、まず、旅行者を素早く安全に避難誘導、救援する。 次に適切な情報発信、そして持続性のある復興計画を作成し、観光プロモーションをしてできるだけ早く回復させるというプロセスを踏みます。

一方、私達旅行会社は国内、 海外の観光地のパートナーとして、初期においては安否確認をし、帰宅支援を行い、次に安全調査を行って、ツアーを再開し、 さらに送客キャンペーンを行い、継続的な支援をするというプロセスを一貫して実践してきました。

次に日本の旅行会社の危機管理の 3つの特徴を紹介します。

そのような安全に対してきびしい消費者を相手に私たちは旅行のサービスを提供してきました。

第 1の特徴は「チームジャパンでの取り組み」です。一つは業界内部のチームワークともう一つは官民連携です。　いずれも 2003 年の SARS、イラク戦争の危機管理を通じて作り上げました。　私もその当事者です。当時、大手 10 社で海外旅行安心安全部会を JATA に設け、いざ事件が発生した時に、事件の情報と安否確認情報を共有化することにしました。　その情報は外務省と観光庁に直ちに報告しています。　先日のソチ五輪はテロが心配されたので、約 1600 人の日本人観戦者の名簿、滞在ホテルなどの情報を集約し、外務省の現地緊急支援本部と共有していました。

このスライドは 2003 年 SARS のときに安心安全部会で作成したweb サイトです。 　医学会と協力してセミナーも開催しました。 大事件の際は、このように情報発信します。

その際に要請があったので、最新式の警備車輛をバリ島警察に寄贈しました。 今も JATA のマークをつけて活躍しています。 スマトラ沖の津波後の アジアビーチ、トルコやエジプトのテロなど大事件の後は必ず調査団を送り、ツアーの再開に結びつけてきました。昨年はエジプトに調査団を送り、ルクソール地区の警備レベルを確認して、 外務省の危険情報を下げてもらい、ツアーを再開しました。

これは 2005 年のバリ島テロの一週間後に調査団を派遣した時の様子です。 コントロール・リスクス・グル―プ社のコンサルタントを同行させ、調査だけでなく警備のアドバイスも行いました。　このときは外務省の調査チームも合流しています。

これはスマトラ沖地震津波の後、アジアビーチがなかなか復活しない時に、大手 4社で 2億円の共同キャンペーンを行った時の記者会見の様子です。 大事件発生時には安否確認や再開時の調査だけでなくリカバリーキャンペーンにおいても共同で FAMトリップの実施、セミナーの実施、共同広告などで需要喚起をすることが定着しています。

以上が第一の特徴である「チームジャパンの取り組み」です。

二つ目の特徴は「JATA 旅行安全マネージメント」です。海外のバス事故に関しては 4年前に、安全基準を満たしたバス会社との契約や、ツアー日程作成時に走行距離や運転手の運転時間等を定めたガイドラインをJATAで作成しました。

それに基づき、国内版のバス運行ガイドラインを定め、また、ツアー登山のガイドラインを作成しました。 大手のベストプラクティスを業界全体で共有する試みです。 今年に入り、これを一歩進め、JATA 旅行安全マネージメントという各社の危機管理体制のミニマムスタンダードになるガイドラインを作成しました。

一昨年、国内の高速道路でバス事故が起きました。　また、北京の万里の長城で気候が激変し、暴風雪で登山ツアーで 4名が遭難し、うち3名が死亡しました。この二つの事故がきっかけとなって JATA 安全マネージメントが作られました。

安全管理責任者の任命、組織つくりに始まり、オペレーターとの契約のチェックリスト、企画のためのチェックリストなどのＰＤＣＡサイクルを作成しました。 海外旅行、国内旅行、訪日旅行の全てをカバーするものです。 ３年間でＪＡＴＡ加盟の会社の 7割に普及させる目標です。 指標として、 ①安全管理責任者の任命 ②自主点検リストの導入 ③7月 1日の模擬訓練への参加の 3つを掲げています。

3番目の特徴は「持続的な復興支援」です。2011 年 3月 11 日に東北地方で発生した東日本大震災では約 2万名の方がなくなりました。 　海岸から 2キロも離れた仙台空港のターミナルビルも 1階部分は水没しました。

なお、訪日旅行においてはこれに加え、ツアーオペレータ品質認証制度をスタートしました。 観光庁にサポートして頂き、外部審査員により、審査を行っています。個人情報保護（Ｐマーク）の取得も義務付けた厳しい基準で、　現在 38 社が取得しています。　日本ではオペレーターを規制する法律がない　ので、皆さんはこの品質認証取得会社を選んでいただければ、安心してお任せいただけます。

以上が二つ目の特徴である「JATA 旅行安全マネージメント」です。

津波が引いた後の道路にはご覧のように大きな船が横たわる有様でした。スライドの右側でご覧いただけるように市街地はかなり復旧しましたが。　海岸沿いは引き続き復旧工事中です。

ＪＡＴＡが需要回復にどう取り組んだか紹介します。震災直後は安否確認、避難誘導に全力で当たりました。　そして、震災後 1か月の 4月 12 日に「復興宣言」の全面広告を新聞掲載しました。

旅を通じて日本を元気にしよう！　ということで、国内旅行を通じて復興地への送客、海外旅行を通じて感謝と日本が元気だというアピール、節電に応じた長期海外旅行の提案をしました。

被災地へのボランティアの実施、被災地の子供たち 1000 名をＴＤＲに招待、観光庁が開催した復興イベント東北博覧会への送客などを実施しました。　

そして、最大のイベントは各社の経営幹部とツアープランなー合計 1000 名をチャーター列車を利用して、東北各地に派遣し、復旧の状態を確認し、ツアー企画販売につなげたことです。

震災後の日本の旅行動向を紹介します。 震災後、1か月間はＴＶコマーシャルも放映されず国全体が喪に服している状態でした。　1か月を過ぎて、行き過ぎた自粛は国の衰退を招くということで、積極的な経済復活策がとられました。　東北地方に対しても、東北の産品を購入し、ボランティアやツアーで東北にでかけることで支援しようという動きがでてきました。

国内旅行は震災４か月後の夏休みには前年比 100 を越え、1年間ではほぼ前年並みに戻しました。　

また、海外旅行も 9月には 100％を越え、1年間でみれば前年を 4％上回りました。日本の力強い復活の様子が見ていただけます。

継続的な支援を通じて新しい地域の魅力つくりをするプロジェクト。　それが「ＪＡＴＡの道　しおかぜトレイル」です。　津波の被害にあった東北の海岸線で約 700 キロの歩く道を環境庁が７年間かけて作り上げます。　それが「潮風トレイル」です。　私たちはこのプロジェクトに参加し、道標を作り、雨水を利用したエコシステムを備えた展望台を作り、ツアーを送りこむ予定です。このプロジェクトの完成は 2020 年のオリンピックイヤーです。このトレイルに聖火ランナーを走らせたいと願っています。　以上が３つ目の特徴である「継続的な被災地支援」です。

これは東北地方への滞在者の推移を表したグラフです。 ご覧のとおり、急速に回復した様子が伺えます。 もちろん初期は復旧工事関係者やボランティアの数が相当入っています。 また、東北支援のために大小のコンベンションを誘致したこともあります。　ＷＴＴＣも東京だけでなく仙台で開催して頂きました。　修学旅行でも、災害時の体験を聞く防災ツアーも実施しています。　 ３年たってそろそろ復旧特需も終了します。純粋な観光需要だけで見ると、 9 割程度の回復のようです。 これを 100％以上にすることが私たちの使命です。

以上ＪＡＴＡはチームジャパンの一員として、JATA 旅行安全マネージメントで旅行者の安全を確保し、継続的な被災地支援で地域の発展に貢献します。旅の力で被災地での国内及び海外との人的交流を活性化し、地域の発展に貢献します。

最後に私の好きな言葉は　「正常化」でなく「より良い回復」です。

ご清聴ありがとうございました。