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第7第 第第第第第第第第第 2015/10/31( 第 ) Financial Education & Design 1

20151031 第7回組織の経済学勉強会

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第 7回組織の経済学勉強会2015/10/31(土 )

Financial Education & Design

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目次• 第Ⅰ部経済組織

– 第 1章組織は重要か– 第 2章経済組織と効率性

• 第Ⅱ部コーディネーション:市場と組織– 第 3章コーディネーションと動機付けにおける価格の役割– 第 4章計画と行動コーディネーション

• 第Ⅲ部モチベーション:契約、情報とインセンティブ– 第 5章限定合理性と私的情報– 第 6章モラル・ハザードと業績インセンティブ

• 第Ⅳ部効率的なインセンティブの提供:契約と所有– 第 7章リスク・シェアリングとインセンティブ契約– 第 8章レントと効率性– 第 9章所有と財産権

• 第Ⅴ部雇用:契約、報酬、キャリア– 第10章雇用政策と人的資源のマネジメント– 第11章内部労働市場、職務配置、昇進– 第12章報酬と動機づけ– 第13章経営者および管理者の報酬

• 第Ⅵ部資金調達:投資、資本構成、コーポレート・コントロール– 第14章投資とファイナンスの古典的理論– 第15章金融構造、所有、コーポレートコントロール

• 第Ⅶ部組織のデザインとダイナミクス– 第16章企業の境界と構造– 第17章経営・経済システムの進化

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第Ⅵ部資金調達:投資、資本構成、コーポレート・コントロール• 第14章投資とファイナンスの古典的理論

• 投資決定の古典的な経済理論• 資金調達構造決定の古典的分析• 資本リスクと資本コスト• 情報と金融資産価格

• 第1 5章金融構造、所有、コーポレートコントロール• コーポレートコントロールの変化:パターンと論争• 金融構造とインセンティブ• シグナリングと資金調達方法の決定• コーポレート・コントロール• 公開企業に代わる形態

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企業と市場• 財市場  :企業と財・サービス• 労働市場 :企業と従業員• 資本市場 :企業と資本の提供者

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CEO,COO,CFO

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CEO・ミッション、ビジョン、バリュー・最終的な決断・リーダーシップ

COO・事業オペレーション全体を統轄

  CFO・企業経営全般に財務の視点から目配り。a. 事業投資の意思決定(経営資源の配分)b. 資金調達・資本構成の意思決定。c. ペイアウトの意思決定。d. 投資家とコミュニケーション。

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14.1 投資決定の古典的な経済理論企業:生産計画の集合。生産計画の中から最も利潤の高い計画が選択される。

• どの投資に着手すべきか?• 投資に必要な資金をどのようにして調達すべきか?• 株価やその他の証券価格は投資家の行動を通じてどのように決まるのか? 

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14.1.1 フィッシャーの分離定理• 個人が100%個人資金によって投資資金を調達する場合→投資計画は消費計画に対する個人の選好に依存する。• 完全資本市場が存在する場合(借入金利と貸出金利が同じ仮定)→投資計画は個人的な選好に基づいた意思決定問題ではなく、プロジェクトの所得と金利だけに基づいた客観的なビジネスとしての意思決定になる。

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フィッシャーの分離定理 (Fisher Separation Theorem)

資本市場が完全ならば、オーナーによる意思決定は、投資からの予想収益と利子率のみに依存する。個人消費とそのタイミングに関するオーナーの選好には依存しない。

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14.1.2 純現在価値年 (t)

キャッシュフローFuture Value

割引率Discount rate

(10%)現在価値

Present Value

純現在価値Net Present

Value0 0 1.00 0 1 99 1.10 90 92 121 1.21 100 213 100 1.33 75 25

  320  265 55

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• 現在価値への還元によって、すベてのキャッシュフローが開始時点の貨幣という共通単位で表されるようになる。• 一般に平行して実施は出来ない、いくつかのプロジェクトの中から1つを選び出す場合、最善のプロジェクトは最高の NPVをもたらすプロジェクトと考えられる。• 投資家がそれぞれの投資から求める収益は、その投資をファイナンスする際に負ったリスクにも依存している。従って、企業の進める投資の望ましさを評価するにしても、その企業の平均資本コストを使うのが正しい方法とは必ずしも言えない。

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Framework for DCF-Based ValuationEXHIBIT 6.1

Model Measure Discount factor Assessment

Enterprise discounted cash flow Free cash flow Weighted average

cost of capitalWorks best for projects, business units, and companies that manage their capital structure to a target level.

Discounted economic profit Economic profit Weighted average

cost of capitalExplicity highlights when a company creates value.

Adjusted present value Free cash flow Unlevered cost of equity

Highlights changing capital structure more easily than WACC-based models.

Capital cash flow Capital cash flow Unlevered cost of equity

Compresses free cash flow correctly because capital structure is embedded within the cash flow.Best used when valuing financial institutions.

Equity cash flow Cash flow to equity

Levered cost of equity

Difficult to implement correctly because capital structure is embedded within the cash flow. Best used when valuing financial institutions.

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「近視眼的」経営者と資本コスト資本コスト 6%で 100を投資⇒10年後は 179.08資本コスト 10%100を投資⇒10年後 259.37 その差は 45%

• 1970年代から 80年代にかけて、北米の製造業部門の業績は相対的に悪かったがその理由の1つに経営者の「近視眼性」があげられる。• 企業所属のアナリストは、投資が生み出す数量化可能なキャッシュ・フローの推定値を使って、 NPVを計算しているが、数量化が難しい便益は無視されがちになる、ところが、新技術への投資から生ずる多くの便益はこの種の便益である。• 多くの米国企業が適切な新技術に投資できなかった主な理由は、経営者が技術面に精通せず、「客観的」ではあるが不完全な財務分析にあまりにも依存しすぎたからであると一部では信じられている。

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14.1.3 デザイン決定投資としての投資戦略• 投資カテゴリーの中には投資が生み出す重要な便益の数量化が困難なために、投資の決定が単純に行えないような種類のカテゴリーが存在する

– 戦略的投資:組織内の複数部門(投資の実行に直接関わりがない部門も含む)に便益をもたらすような種類の投資。戦略的投資の抱える問題は、担当部門の業績を基に報酬が与えられる中間管理職に委ねると、便益の大半が他部門にもたらされるようなプロジェクトへの投資が過小となってしまう点。  ⇒経済学で言うところの正の外部性。フリーライダー問題。– デザイン属性:企業による新技術への投資に関する意思決定が、企業戦略の他の側面と密接に関連しているとき、デザイン属性を伴う決定になる。

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14.2 資金調達構造の古典的分析• 企業内で投資決定をどのように行うか。• 投資に必要なお金をどのように調達するのか。

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Asset

Debt

Equity

資金調達資金の投資・運用

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14.2.1 モジリアーニ =ミラーの定理株式会社の債務と資金調達方法

debt

Equity

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企業の一定の支払い義務が生じ、義務を果たさないと企業が破産に追い込まれる可能性がある。買掛金、サプライヤーの請求に対する未払い分、抵当ローン、無担保の債務証書、優先社債、劣後債返済義務がなく、負債よりも支払いの優先度が低い。優先株の保有者は普通株主よりも優先的に配当支払いを受けるが、議決権がない。転換優先株は一定の率で普通株に転換できる。

Debt  &  Equity

転換社債:社債と同じ保証を与えながら、会社の業績が期待以上であった場合には利益分配にもあずかれるオプションを与える。

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14.2.1 モジリアーニ =ミラーの定理第 1及び第 2モジリアーニ =ミラーの定理

第1モジリアーニ =ミラーの定理

第2モジリアーニ=ミラーの定理

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企業を通じて分配される総収益額 Xは、企業にファイナンスに関する意思決定によっては影響を受けないものとする。さらに投資家は企業の株式を担保に企業と同じ条件で借入を行えるとする。その場合、企業による資金調達構造に関する決定は、企業価値に影響を及ぼさない。

企業を通じて分配される総収益 Xはファイナンスに関する決定によっては影響を受けず、また、投資家は企業と同じ条件で証券の売買が出来る物とする。その場合、企業の配当政策は企業価値に影響を及ぼさない。

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 (参考) Growth and ROIC:Drives of Value

Return on investment capital

Revenue growth

Cash flow

Cost of of Capital

Value

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14.2.2 市場による投資資本の配分• もし企業による投資の検討が金融面の分析と切り離せるならば、一体どのようにして資本市場の資本は振り分けられるのだろうか ?

• 資本市場の古典的理論において、投資資金が経済全体として効率的に配分されるのは、すべての利潤極大化企業がすべての投資プロジェクトについて、全く同じ資本コストに直面するからである、というのが正しい解釈。• 理論に従えば、上記の理由により、価値あるプロジェクトは投資家が誰であろうと着手され、価値のないプロジェクトは放棄される。古典的理論では、最も投資を活発に行う企業は、資本コストが最も低い企業ではなく、有望な( NPVが正)投資を最も多く抱えた企業となる。

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14.3 投資リスクと資本コスト• 古典的なファイナンスモデルでは、検討対象となる投資の収益が十分高いと言えるのは、「市場」、すなわち、証券市場で各種金融資産を売買する投資家にとって、十分に魅力的な場合だけである。⇒借入コストが低いからといった理由で投資は行われないはず!

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14.3.1 リスクと収益• 多くの投資機会の存在:株式、債券、不動産、ミューチュアルファンド(追加型株式投資信託)、多種多様な銀行預金口座、美術品等。

      「どの投資が最も魅力的だろうか?」

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平均・分散分析• 「どの投資が最も魅力的だろうか」というように、質問を設定するならば、始めから間違いと言える。投資家が各種の投資を適切に組み合わせると、単一資産と同じ水準の期待収益をもたらしながら、収益の変動パターンが小さくなるようなポーロフォリオを作り出すことが出来る。 • 平均・分散モデルの仮定

– 投資家はリスクを嫌い、高水準の期待収益を好む。– 安全な収益率 rをもたらすリスクのない債券が存在する。– 市場は完全である(投資家が希望する分量の証券売買がいつでも可能で、その売買自体は証券価格に影響を与えず、売買に要する費用は無視できる程度しかない。)。

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ワンファンド・ポートフォリオ定理• ワンファンド・ポーロフォリオ定理

– 収益の平均と分散(もしくは標準偏差)にのみ選好が依存する投資家にとって、最適なポートフォリオは、M点に対応する期待収益と標準偏差のもたらす危険資産のポートフォリオと、安全な債券との組み合わせによって構成される。

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価格決定式

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• 金融証券投資によって得られる期待収益は、リスクがない場合の収益率と超過収益の二つに分解することが出来る。• 超過収益は、投資に付随するリスクに対する報酬だと解釈できる。

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14.3.2 CAPMモデル• 価格決定式は、新しいプロジェクトの来たい収益率 Rを rと Rによって表している。これこそが新しい投資の現在価値を計算する時に用いるべき資本コスト。いわゆるベータ。• ベータの値が大きくなれば、ポートフォリオにリスクが加わり、証券保有の魅力を保つためには、収益が rを上回らなければならない。そのため、直線の傾きが右上がりとなる。直線の実際の傾きは、投資家全体の総リスク許容度と市場収益全体の分散によって決まる。• CAPMモデルに従えば、唯一通常な指標はベータ。

– システマティックリスク:マーケット全体の収益変動– 個別(アンシステマティック)リスク:マーケット全体の収益変動とは無相関の個別のリスク。 CAPMモデルによれば、この部分は、投資評価に用いる利子率の決定とは無関係となる。

220 1 ベータ (β)

r

期待収益

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14.4 情報と金融資産価格• CAPMモデルや他の資産価格決定理論の大半は、「期待収益」という数学的概念に大きく依存しているが、モデルを応用する際、誰の期待を利用すべきなのかという問題に直面する。• 理論を実証可能とするため、研究者はマーケットを唯一の投資家と見立てる。マーケットの期待が企業の将来収益に関する妥当、かつ、正確な推計になっているかどうかを調べることによって、理論が実証的にテストできる。• 株価が企業価値の正確な指標ならば、株価の変動は役員の業績評価や報酬決定のための有効な基準になり得る。他方、マーケットの価格に反映される期待に十分な根拠がなければ、最善の経営をしている会社でさえも、企業買収の対象になるかもしれない。  ⇒株価がどの程度企業のファンダメンタルズな価値を映し出すかの判断が非常に重要になる。

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Understanding expectaitons

• We have reverse engineered hundreds of companies’ share prices over the years using discounted cash flows.

• With the exception of the Internet bubble era, at least 80% of the companies have had performance expectations built into their share prices that are in line with industry expectations and returns on capital.

• The other 20% should brace themselves for a significantly faster or slower ride on the treadmill.

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14.4 情報と金融資産価格• 企業価値を決める上で、マーケットはどんな情報を利用しているのか?• マーケットはどれだけ正確にその情報を反映しているのか。

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14.4.1 いくつかの効率的市場仮説

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ウィーク型の効率的市場仮説

セミストロング型の効率的市場仮説

セミストロング型の効率的市場仮説

用いられる期待は少なくとも過去及び現在の株価情報に基づいていると考える。換言すると、色々な企業の過去の株価変動パターンしか知らない投資家には、その情報だけからは価格決定式の予想よりも平均的に高い超過収益をもたらす銘柄を見つけられないと考える。もしウィーク型の効率的市場仮説が正しければ、テクニカル分析を提唱する人は単なるペテン師であってその予測を信じるべきではない。市場の期待は、過去の価格だけでなく一連の公開情報にも基づいている。この仮説によると、過去の株価と収益報告などの公開情報のみを利用して銘柄を選択する投資家にとって、平均で見る価格決定式による予測以上の実績をあげるようなポートフォリオ形成は不可能である。

市場価格は、企業内部の役員や管理職だけが入手できるような未公表の内部情報さえ反映している。このようなことが起こるのは、例えば情報を得たインサイダーが情報に乗じて取引をしたり、あるいは内部情報が証券アナリストやインサイダーの友人・家族に漏れたりする場合である。

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14.4.2 効率的市場仮説の実証• ウィーク型効率仮説:今日の株価変動は昨日の株価変動とは無相関のはず(ランダムウォーク)。• イベント・スタディー

– 情報公表のような出来事が起こった期間を絵欄絵、まず、 CAPMモデルその他の資産価格モデルによって、その新しい情報がなければ株価がどのように動くかを推定する。• 2013年ノーベル経済学賞受賞者

– ユージンファーマ: 3ファクターモデル– ロバート・シラー:過去の株価と配当の長期的な関係を調べると、株価の変動性があまりに高いため、効率的市場仮説は妥当ではないと指摘– ラース・ハンセン:  GMMモデルという計量経済学手法の開発。

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14.4.3 近視眼的市場と近視眼的経営• 市場価格は当然ながら、投資家による評価が困難な新技術への投資等よりも、四半期毎の売上や利潤のような、市場が観察できる情報ソースに対して敏感に反応する。• 長期の利益を引き上げるような追加的な努力から生じる限界的な価値の増分は、現在の利益を引き上げる場合の限界的な価値の増分より大きくなる。もし、経営トップに市場価値を無視させることが出来て、その経営努力の一部を短期指向の活動から将来指向の活動へと振り向けられるならば、ファンダメンタルズな価値は増大するだろう。• 投資家がモデルのとおりに新しい情報を利用するならば、長期の業績指標よりも短期の指標によりウェイトを置くことになる。モデルによれば、経営者がファンダメンタルズな価値最大化に必要な程度以上に短期的な業績を重視し、長期的な業績を軽視してしまうことになる。

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14.4 新しい組織理論が意味するもの• 一度だけ利益低落が報告されてもすぐに売却したりしない長期投資家によって主に株式が保有されているような経済システムは、よりよい成果を上げるのだろうか。

– ⇒戦後の日本の経済システムはメインバンク、株式持ち合いを中心としたが、長期的に本当に企業は高いパフォーマンスを出すことが出来たのか?• 1980年代の米国では、株式会社が非公開化の傾向を強め、資金の大部分を借入で賄い、所有権を経営者と少数の部外者に集中させていった。

– このような傾向は、短期的な株式市場のプレッシャーに悩まされて長期の収益を無視するという誘惑から経営者を解放する効果がある?

• 新しい理論は、株式時価総額の最大化を目指して、企業は経営されるべきだとすると伝統的な経済学の考え方にも挑戦している。より基本的なファンダメンタルズな価値の最大化を目指すほうが、効率性のためにはもっと役に立つであろう。29

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第Ⅵ部資金調達:投資、資本構成、コーポレート・コントロール• 第14章投資とファイナンスの古典的理論

• 投資決定の古典的な経済理論• 資金調達構造決定の古典的分析• 資本リスクと資本コスト• 情報と金融資産価格

• 第1 5章金融構造、所有、コーポレートコントロール• コーポレートコントロールの変化:パターンと論争• 金融構造とインセンティブ• シグナリングと資金調達方法の決定• コーポレート・コントロール• 公開企業に代わる形態

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第1 5章金融構造、所有、コーポレートコントロール• 14章での古典的理論を誤解を招く程に単純にしている要因 3つ。

1. 実際には、ファイナンスの形態やパターンは、様々な当事者のインセンティブと行動、ならびに破産コストの発生確率への影響を通じて、企業の収益に影響を与えられる。2. 企業の経営者は、企業の先行きの見通しについて、投資家よりもよく知っているので、経営者によるファイナンスの決定を、業績予測の指標として注視する投資家もいる。3. 金融証券は、収益の流列に対する請求権だけではなく、所有者の意思決定とコントロールにかかわる権利をももたらす。

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15.1 コーポレート・コントロールの変化:パターンと論争15.1.1  1980年代に生じたコーポレート・コントロールの変化

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合併・買収

敵対的買収

MBOマネジメントバイアウト

逆コングロマリット

1980年代に生じた買収の規模は未曾有であり、多くの有名企業が関係した。合併・買収活動が最盛期を迎えた1986年には、米国での会社の資産ないし自己資本の所有権が少なくとも 10%は移転した。1980年代は敵対的買収の時代でもあった。経営陣や取締役会が反対した株式購入オファーの多くは、企業乗っ取り屋によるものだった。

乗っ取り屋に対する恐怖から企業の経営者が支援者とともに自社株を取得して株式の公開取引をやめてしまうマネジメントバイアウトを企てる企業も増えてきた。MBOの別の動機として、株式が過小に評価されているため、バイアウトによって株主に真の価値を知らせようとするものもあった。多くの 1980年代のこうした合併・買収、乗っ取り、バイアウト等の後には、企業の事業部が他社に売却されるという「バストアップ」や社内の部門を独立会社として分離し、株主には持ち株数に応じて新会社の株式を配分するスピンオフが行われた。

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15.1.2. 負債の増加• 米国における合併・買収を通じた支配関係の変化の多くは、関係した企業の金融構造にも大きな変化をもたらした。

–  ジャンクボンド、レバレッジドバイアウト (LBO)、借入による資本再構成(レバレッジド・リキャピタリゼーション)– 1984年と 1985年だけで、米国の発行済株式のうち時価にして 10%近くが回収された。

• 1990年には米国では企業の負債増加傾向は、少なくとも一時的には止まってる。– 貯蓄貸付組合が購入したジャンク・ボンドを売却するように政府が圧力をかけたことや、マイケル・ミルケンに対する証券法違反による有罪判決とドレクセル・バーナム・ランバード証券の倒産の影響で、ジャンク・ボンドの新規発行市場が消滅同然になったため。– バイアウトにより空前の高水準となった負債を抱える企業の多くは、資産の売却や新株発行によって負債を減らし始めた。

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Black Stone -King of Capital-

• プライベートエクイティの傘下に入ることが雇用に与える影響に関する最も網羅的な調査として、 1980年から 2005年までの 4500以上の投資案件を調べた物がある。

• そこでは、プライベートエクイティ傘下の企業では、買収直後の 2年間は一般企業と比べて雇用の削減率がやや高くなる傾向があるが、長期的には削減した分を上回る雇用を生み出すことが明らかになった。( P412)

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デビット・キャリー &ジョン・ E ・モリス( 2011)『ブラックストーン』東洋経済新報社

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15.1.4 ファイナンスと所有の国際的なパターン• フランス:

– 1980年には会社の外部調達資金の 71%は銀行借入であり、残りはほぼ 3対 1の比率で株式と社債であった。• 日本:

– 80年代初頭には、主要株式公開企業の平均的な負債と自己資本比率の比率は 2.75対 1で、外部調達資金の 64%は銀行ローンだった。また株式持ち合いも多かった。• ドイツ:

– 銀行ローンが企業の外部資金調達資金の 90%以上を占めている。 1970年から 1990年の間に自己資本のウェイトがやや高まったものの、この比率はほとんど変化はない。⇒1980年代に英語圏諸国で顕著であった敵対的買収は、フランスでは稀であったし、日本とドイツは基本的には存在しなかった。

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15.2 金融構造とインセンティブ• 以下のルートを通じて、資本構造が価値にどれほどの影響を与えられるのかを考える。– 経営者のインセンティブを変更すること– 株主と債権者の間に生じる利害対立に影響を与えること– 破産にともなうコストが発生する確率に影響を与えること– 経営者を監視しその行き過ぎを制御するインセンティブを株主と貸手に与えること

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15.2.1 利害の対立:経営者対所有者• 経営陣の株式所有比率が低い時に引き起こされる問題点

– 経営者は株主よりも会社の成長と存続により大きな関心を抱く。成長する会社には、昇進機会が多くなるし、大会社のトップがより高い給料を得る傾向がある。– 経営陣は、コストのごく一部を負担するだけで役得の恩恵を受けられるので、自分自身の部下やその他従業員のためにも、役得に課題な支出を費やす誘惑にかられる。– 経営陣は外部からの干渉を許さないため、独立性を好む。

• 自分の資産が1つの企業に投じられている場合。リスク回避的な経営者は、リスクが最適にシェアされている場合なら着手が望まれるはずの投資案件であっても、自分の全財産がかかっている場合には慎重すぎる行動をとる。37

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15.2.2 利害の対立:現在の貸手と他の出資者• 企業の負債が自己資本に比べて多すぎる場合、所有者側リスクの大きい投資に容易に手を出すようになる。• 借入先の数が多く、分散している場合、債務再交渉の可能性がなくなり、債務超過の恐れは負債水準を制限する方向に働く。逆に、負債が少数の手に集中しており、債務再交渉の公算が高い場合には、経営者が不正行為に走るインセンティブが生まれる。• 負債がもたらす負の効果を埋め合わせるのが、フリーキャッシュフローを経営者に無駄遣いさせないという正の効果。

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15.2.3 所有者の監視インセンティブ• 企業の重要な決定において、株主の利益、そしておそらくは他のステークホルダーの利益が、代表されるように保証するのが取締役会の役割だと想定されている。• 大手の機関投資家(年金基金、ミューチュアルファンド、保険会社等)がどこまで積極的に監視の役割を務めようとしたのか、また務められたかが1つの重要な問題。• LBO association

– 企業のエクイティが大きく、所有権の単一主体への集中が困難な場合、1つの明白な解決策はエクイティの大半を借入に変えたうえでフリーライダー問題を回避するために債権者を組織化して、経営者を密着して監視するという方法。

• ベンチャーキャピタル– ベンチャー投資では、客観的な尺度を利用できないため、新しい企業への資金提供者は、内部にいないとわからないような、細かな主観的な情報をすら逃さないように、企業に密着しなければならない。

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15.2.4. 貸手の監視インセンティブ • 銀行

– 借入を行うたいていの企業は、銀行を利用する。銀行は企業の財務状況を審査し、返済が可能と判断した場合にのみ資金を貸し出す。収入の予定を見込んだ運転資金の短期貸付は、商業銀行の主要な業務。– 各企業はメインバンクと継続的な関係を保っている。メインバンクは企業の取締役会に代表を送る場合が多いし、経営陣と密接、かつ、継続的な接触を保っている。– 銀行は企業の体力と貸付の安全性を十分に監視できる立場にある。

• 債券保有者– 債券市場から企業の社債を購入しただけの貸手には、情報を入手したり、意見を意思決定に反映させたりする直接の機会は少ない。– 企業の行動を制限する条項(コベナンツ)を社債約款に盛り込むよう貸手が求めることがありうる。– 格付会社による格付を参考にする。

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15.2.5 債務不履行と破産コスト• 債務不履行に企業が陥った場合、企業を破産させるべきか、それとも、営業を継続させるべきか?• 破産によるコスト

– 知識豊富な経営者と従業員のチーム、商標とブランド・ネーム、事業運営システム、確立されたサプライヤーや顧客との関係、法的・管理上のコスト、企業の資源に対する請求者のインフルエンスコスト。• 第11条破産

– チャプターイレブンの宣言によって、企業は債権者から保護される。– 債権者には請求額の一部しか支払わないが、チャプターイレブン後に生じた負債には優先権を与えるという計画が作成される。– 再建案が裁判所によって承認されるためには、債権者が計画に同意しなければならない。

• 非公式な「債務変更」– チャプターイレブンには弁護士関連コストが莫大にかかるため、裁判所を介在させずに私的整理を行う。

• 戦略的な資産破壊– 財務的に苦境に陥った企業の株主と経営者は、債権者に対する交渉上の立場を強めるために、企業の資産価値を破壊するインセンティブを有するかもしれない。

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15.2.6 金融構造、インセンティブ、価値• 金融構造をめぐるインセンティブと権利の側面は、ファイナンスに関する決定が価値に影響をしないというMM定理の結論を覆すに足る十分は理由となる。

– 企業の資本構造は、破産コスとの発生確率はもとより、経営者、貸手、株主のインセンティブと行動に影響を及ぼす。• 企業の最適な金融構造に関する理論の第一歩は、様々なファイナンスに関する意思決定がもたらす、複雑でかつ相互に作用し合うインセンティブの効果と、そのトレードオフ関係を認識すること。• そのうえで、企業の価値最大にするようにトレードオフ関係のバランスがとれた構造が選ばれる。

– 他の条件を一定とすると、成長の可能性がほとんどない産業で高収益をあげている企業は、負債を増やし自己資本を減らして、フリーキャッシュフローによるインセンティブ問題に対処すべきである。42

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15.3 シグナリングと資金調達の決定• 投資家が投資先をどれだけ真剣に監視したとしても、経営者のほうが外部の投資家よりも企業の見通しについて、ずっとすぐれた情報を持っている。• 情報の非対称性が存在すると、相対的に情報を欠く側に、情報を持つ側の行動から情報内容を推論しようとするインセンティブが生まれる。• 情報を持つ側にも、自分の行動がシグナルの役割を果たすことに気付けば、都合のよいメッセージを伝えるよう、シグナルの操作する可能性が生じる。  ⇒ファイナンスの決定はまさにこの種のシグナルとしての役割を果たす。

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15.3.1負債と自己資本• 市場は収益が高水準の値に分布しているならば、その事実を評価するが、分布を間接出来るのは経営者だけと仮定する。

⇒高い収益分布を観察する経営者がより高い負債水準を採択する。⇒高い負債水準は市場に対する収益が高い値に分布しているというシグナルになり、市場はその企業の価値をより高く評価する。• 銀行やベンチャーキャピタルはどうるのか?

– 銀行やベンチャーキャピタルは、企業の将来性や事業上の必要事項に関する情報を資金を投じて入手する。– こういった情報によって、経営陣のシグナルにあまり頼ることなく、独自の判断が出来料になる。

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15.3.2 配当、モニタリング、シグナリング• 多くの国では、キャピタルゲインに対する課税は、配当収入に対するそれよりずっと軽い。⇒企業は借入金の返済や自社株の買い戻し等、配当とは別の形で収益を投資家に返すほうが、価値を出来るはず。⇒しかし、現に企業は配当を払っており、市場の増配に対しては好意的に反応する。なぜか?• 配当支払い行為に対する合理的な説明は、配当が将来のキャッシュフローに関して経営者が持つ私的情報のシグナルであると見なす、各種のシグナリングモデルによって与えられる。• またインセンティブの観点においても、配当支払いは企業の資金を減らし、フリーキャッシュフローに関連した問題の一部を克服するうえで役立つ。

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15.4 コーポレートコントロール• 金融証券は単なる収益の流列に対する請求権ではない。決定・コントロール権ももたらす。• コーポレートコントロールの市場は、合併、買収、テイクオーバー、

LBO、等によって、 1980年代に特に活発になった。⇒この時期、経営者と取締役会は、無責任な乗っ取り屋から会社を、また市場の規律から自らを守るための新手法を多数創出。⇒現任者の防衛能力の拡大と、コントロール市場が担っていた規律付けの機能低下が重なる。⇒多くの機関投資家は、経営者に対する監視と規律付けの昨日を強化する新しい方法を探るようになる。

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15.4.1 コントロールの力学• 満足感の得られなかった株主の二つの選択肢

– 退出(持ち株の売却)と意志表示(現取締役会に対する反対投票)– 上記はともに不完全な対応。より積極的に行動するにはテンダーオファーと委任状獲得競争が必要となる。

• テンダーオファー(株式買付オファー)– オファーの対象は企業株式の一部の場合もあれば、全部の場合もある。– テンダーオファーは友好的であれ敵対的であれ、外部のものがテイクオーバーによるコーポレートコントロールを狙って用いる。

• 委任状獲得競争– 経営側は、年次総会の通知に経営者宛の委任状提出を募る書式を同封し、通常は大量の委任状を獲得する。別のグループが現経営陣と取締役会に反対票を投じるために株主から委任状を集めようとするのが、委任状獲得競争である。– 再編成による利益は、フリーライダー問題が存在する。

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15.4.2 1980年代のテイクオーバーとリストラクチャリング• 80年代初期には、取引の多くに石油会社が関連し、相互間の買収、多角化の一貫としての他社の取得、他企業による敵対的な攻撃への屈服が見られた。• 80年代の後半には小規模な単一製品生産企業のバイアウトもあったが、巨大な多角化企業の取引が特徴的だった。このような傾向は、ペースは緩やかになったが 1990年代にも継続していた。• 支配者後退の場合、平均的株主の受取額は以前の取引価格よりも

30-50%高くなり、ときには買収プレミアムが 100%を超えることもあった。

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15.4.3 可能性の利益の発生源

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過大な価格

市場価格の誤り

移転と背任行為

価値の創造

買い手側が自分の価値を付加する能力を過大評価した慢心。またそれ以上に買い手側企業の経営陣が私的な帝国の建設、多角化、その他の株主の利益を考えない戦略を追求した結果

プレミアムは株式市場による評価が極めて不正確であるという事実の証。

プレミアムの一部は、総価値の増加ではなく、企業のキャッシュフローに対する請求権を持つ他社に移転分である。

無能な、あるいは自己利益追求的な経営者が更迭された。LBOがもたらすようなインセンティブ強度の増大。株主へのフリーキャッシュフローの返却にすぎない。

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世界の経営学者はいま何を考えているのか

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なぜ経営学者は買収額を払いすぎてしまうのか(買収プレミアム )

1) 経営者の思い上がり2) 自社をどうしても成長させたいというあせり3) 国家を代表している言うプライド

入山章栄 (2012)『世界の経営学者はいま何を考えているのか』英治出版

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15.4.4 テイクオーバーの防止

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差別投票権

リストラクチャリング

ゴールデンパラシュート

グリーンメイル

長期保有されている株式に追加投票権を与えて、最近株式を購入したものには、投票シェアは半分以下になる。

買収する側が負債返済のために合併後の売却を目論む有力事業部をスピンオフさせる。合併後の債務返済に用立てられる現金残高を減らす。自社株の買い戻し。水増し価格で他社を購入する。ゴールデンパラシュート擁護論。キャリア経営者は長年にわたる熱心かつ有能な仕事によって現在の報酬を獲得したというもの。実質的な乗っ取りを断念させるために、株主の資金を使って、経営者が乗っ取り屋にわたす賄賂。

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15.5 公開企業に代わる形態

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パートナーシップ

無限責任

自発的な寄付の役割

政府による資金拠出

知的専門サービスを提供する産業で支配的な組織の様式はパートナーシップ。パートナーシップでは2人以上が共同して事業を行い、損得を分け合う。パートナー個人が互いの仕事に対して、法的な責任を負うため、強力な相互監視インセンティブが与えられる。無限責任の潜在的な長所は個々人の私有財産を組織の負債に担保にできるという保証金の預託としての機能を果たす点。

非営利の団体として組織化すれば、寄付者に一定の保証が与えられる。非営利団体がもつ重要な特質は、いかなる個人も残余収益に対する法的請求権を持たないことである。

政府が拠出する活動を、政府組織ではなく、非営利組織を通じて提供するものが多い。