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1-2. 組織構造と組織間関係のマネジメンCopyright ©Masahiko Fujimoto 組織構造を決定する要因:「組織は経営に従う」 A.D.チャンドラーJr.の命題: Structure follows strategy”(組織は戦略に従う) デュポン、GM、スタンダード石油ニュージャージー、シアーズ・ローバックの企業歴史分析による実証研究 出所)Chandler, A. D. (1962) Strategy and structure: chapters in the history of the industrial enterprise, M.I.T. Press(三菱経済研究所訳『経営戦略と組織』実業之日本社、1967p.29およびp.312)より作成 市場環境の変化 戦略(全社的な経営資 源の配分計画) 組織(経営資源を結集 する仕組み) 組織構造が戦略に従わないと、結果は非能率となる[中略]数量的拡大、地理的分散、垂直 統合、製品の多角化、またこうした基本戦略にもとづく成長の持続によって、企業家的意思決定 の負担は、ますます重く最高幹部の肩にのしかかっていた。彼らが権限とコミュニケーションの 系統を改革せず、管理に必要な情報制度を整備することに失敗するならば、経営者は全組織 を通じて現業活動の深みにますますはまりこみ、往々にして相矛盾する目的のために働き、互 いに衝突するようになる」

1-2. 組織構造と組織間関係のマネジメントfujimoto/soshiki 1-2.pdf · ※組織の環境の定義(同上, pp.88-92より) タスク環境:「組織が直接に相互作用し、組織の目標を達成する能力にも直接影響を与えるセクター」

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1-2. 組織構造と組織間関係のマネジメント

Copyright ©Masahiko Fujimoto

組織構造を決定する要因:「組織は経営に従う」

A.D.チャンドラーJr.の命題: “Structure follows strategy”(組織は戦略に従う)

デュポン、GM、スタンダード石油ニュージャージー、シアーズ・ローバックの企業歴史分析による実証研究

出所)Chandler, A. D. (1962) Strategy and structure: chapters in the history of the industrial enterprise, M.I.T. Press(三菱経済研究所訳『経営戦略と組織』実業之日本社、1967年p.29およびp.312)より作成

市場環境の変化戦略(全社的な経営資

源の配分計画)組織(経営資源を結集

する仕組み)

「組織構造が戦略に従わないと、結果は非能率となる。[中略]数量的拡大、地理的分散、垂直統合、製品の多角化、またこうした基本戦略にもとづく成長の持続によって、企業家的意思決定の負担は、ますます重く 高幹部の肩にのしかかっていた。彼らが権限とコミュニケーションの系統を改革せず、管理に必要な情報制度を整備することに失敗するならば、経営者は全組織を通じて現業活動の深みにますますはまりこみ、往々にして相矛盾する目的のために働き、互いに衝突するようになる」

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機械的組織VS.有機的組織

バーンズ=ストーカーの「機械的組織」と「有機的組織」

英国スコットランドにおける20社の比較事例研究(1961)

環境特性の条件 具体的な特徴

技術や市場の変化が比較的安定

「機械的組織」のマネジメント

企業全体の問題やタスクが専門分野別に細分化され、個々人のタスク遂行と全体的な活動の結びつきが希薄

各職能の役割に伴う権限や責任は厳密に規定され、上司と部下のタテの相互関係が強く、業務活動は上司の指示や決定によって統制される

マネジメントの役割は、公式的な階層組織に従って情報を上に流し決定事項や命令を下に流す単純なコントロール・システムを操作すること

技術や市場の変化が不安定

「有機的組織」のマネジメント

企業全体の問題やタスクが専門分野別に細分化できず、個々人のタスク遂行と全体的な活動の結びつきが強い

公式的な権限や責任とは別に、参加する他のメンバーとの相互作用によって業務活動が変わり、上司と部下のタテと同様にヨコの相互関係が重視される

企業のトップは、全知全能なる役割を期待されることはない

出所)Lawrence, P. R. and Lorsch, J. W. (1967) Organization and environment: managing differentiation and integration, Harvard university press(吉田博訳『組織の条件適応理論』産業能率大学出版部、1977年、p.227より作成

古典的な組織モデル(機械的組織)は必ずしも普遍的な 適モデルではない古典的な組織モデル(機械的組織)は必ずしも普遍的な 適モデルではない

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コンティンジェンシー理論Ⅰ

ローレンス&ローシュのコンティンジェンシー理論(プラスチック産業6社、容器製造産業2社、食品産業2社の実証研究)

環境領域 情報の明確度

因果関係の不確実性

明確なフィードバックの時間幅

不確実性の総合計点

科学的環境(研究開発) 3.7 5.3 4.9 13.9

市場的環境(マーケティング) 2.4 3.8 2.8 9.0

技術・経済的環境(生産の経済性) 2.2 3.5 2.7 8.4

プラスチック産業の不確実性の状況調査の結果 ※点数が大きいほど不確実性が高い

出所)Lawrence, P. R. and Lorsch, J. W. (1967) Organization and environment: managing differentiation and integration, Harvard university press(吉田博訳『組織の条件適応理論』産業能率大学出版部、1977年、p.34)

販売 製造 応用研究 基礎研究

構造の公式性 やや高い 高い やや低い 低い

対人指向性 人間関係本位 やや人間関係本位 やや仕事本位 仕事本位

時間指向 短期 短期 やや長期 長期

プラスチック産業の基本的な職能部門の分化の特徴

出所)同上, p.43より作成

課業環境の不確実性=f(情報の不明確性,因果関係の不明確性,明確なフィードバック時間の長さ)

分化の程度=f(構造の公式性,対人指向性,時間指向)

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コンティンジェンシー理論Ⅱ

プラスチック産業の分化と統合および業績の関係と分化に伴うコンフリクト解決の効果性を規定する要因

好業績A社D=9.4I=5.7

好業績B社D=8.7I=5.6

中業績B社D=9.0I=5.1

低業績A社D=9.0I=4.9

中業績A社D=7.5I=5.3

低業績B社D=6.3I=4.7

高い 分化 低い

高い

統合

低い

※分化の評価点が高いほど分化の度合いは高く、統合の評価点が高いほど統合がうまくいっている。

出所)同上, p.57より一部加筆修正

統合担当部門の媒介的位置

統合担当者のテクニカルな適性能力にもとづく影響力

統合担当者が全体業績につながる報酬を認知する度合

組織が有する影響力の総量

必要な階層への影響力の集中度

コンフリクト解決の行動様式

分化の程度

統合の程度

組織の業績

好業績A社 高 高 中 高 高 高 高 高 高

好業績B社 中 高 高 高 中 高 高 高 高

中業績A社 中 低 高 高 中 中 低 高 中

中業績B社 中 低 中 高 中 中 高 低 中

低業績A社 低 低 低 低 低 低 高 低 低

低業績B社 中 低 低 低 低 低 低 低 低

出所)同上, p.94

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コンティンジェンシー理論Ⅲ

不確実性 分化の平均得点 統合の平均得点

科学的環境

(研究開発)

市場的環境

(マーケティング)

技術・経済的環境

(生産の経済性)

好業績組織

低業績組織

好業績組織

低業績組織

プラスチック産業

13.9 9.0 8.4 10.7 9.0 5.6 5.1

食品産業 12.1 11.0 7.8 8.0 6.5 5.3 5.0

容器産業 7.4 5.8 7.8 5.7 5.7 5.7 4.8

3つの産業の不確実性と分化および統合の状況調査の結果※点数が大きいほど不確実性が高く、分化と統合の度合いが高い

プラスチック産業 食品組織 容器組織

統合担当部門

3つの管理階層における常設の部門間チーム

管理者の直接的折衝

管理階層

文書制度

統合担当者

臨時的な部門間チーム

管理者の直接的折衝

管理階層

文書制度

管理者の直接的折衝

管理階層

文書制度

3つの産業の好業績組織における統合のための手段の比較

出所)同上, p.162より作成

出所)同上, p.107&p.122より作成

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コンティンジェンシー理論Ⅳ

組織の条件適応理論(コンティンジェンシー理論)の命題

「これらの研究結果が示唆することは、組織というものは有機体としての性質を有することを認める組織の条件適応理論である。[中略]組織の諸変数は相互に、また環境の諸条件との間に、複雑な相互関係にある」「効果的組織における分化の状態は、環境の諸部分の多様さに適合していたと同時に、統合の達成状態も、環境が要求する部門間の相互依存に適合していた[中略]。要するに、環境が多様であれば、それだけ組織の分化は高度になり、それだけ精巧な統合手段が必要になるのである」(同上,186頁)

出所)Daft, R.L. (2001) Essentials of organization theory and design, South-Western College Publishing(高木晴夫訳『組織の経営学』ダイヤモンド社、2002年p.13)

インプット 変換プロセス アウトプット

原材料従業員情報

財務資源

製品サービス

環境

サブシステムバウンダリー・スパンニング

生産、保守管理適応、マネジメント

バウンダリー・スパンニング

※組織の環境の定義(同上, pp.88-92より)

タスク環境:「組織が直接に相互作用し、組織の目標を達成する能力にも直接影響を与えるセクター」(e.g. 業界、原材料、市場、労働市場(人的資源)、国際環境など)

一般環境:「企業の日常の運営に直接影響を及ぼさないものの、間接的な影響を及ぼすセクター」(e.g. 政府、社会文化、経済状態、技術、財務資源など)

Copyright ©Masahiko Fujimoto

一般的な組織設計と人材システムの設計プロセス

経営理念の再確認環境変化の再認識

経営戦略と目標および事業戦略と目標

組織構造とプロセスの再定義

(権限と責任、意思決定プロセス、情報共有の仕組みetc.)

求められる人材の再定義

(機能別・階層別人員数、必要な知識、スキル、態度etc.)

組織の役割定義と目標設定 個人の役割定義と目標設定

組織の方針管理・評価システム 個人の目標管理・評価システム

組織のインセンティブ・システム 個人の処遇システム

組織の現状認識

人材の現状認識

組織変革プログラム•組織構造•組織文化

•情報マネジメント

etc.

ギャップ ギャップ

人材マネジメント

•配置転換•人材育成

•外部調達etc.

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組織デザインの基本的な考え方

組織をデザインする(分業と協業)

材料購入

水平的分業

製品製造 製品販売機能別分業

出所)沼上幹(2004)『組織デザイン』日本経済新聞社、p.43-49より加筆修正および参照して作成

直列型・機能別分業

並列型・機能別分業

パンをこねる 成形する

パンを成形する

パンを焼く 販売する

パンを販売する

エンジン製造

ブレーキ製造

シート製造

自動車組立

実行する(執行)

考える(計画)

垂直的分業

並行分業

材料購入・製造・販売

材料購入・製造・販売

材料購入・製造・販売

※数量の分担

Copyright ©Masahiko Fujimoto

分業による組織のメリットとデメリット

分業のメリット

出所)沼上幹(2004)『組織デザイン』日本経済新聞社、p.75

並行分業 機能別分業

直列 並列 垂直

共通費(工場設備やブランド)の配賦 ○ ○ ○ ○

経済的スタッフィング 熟練者vs.未熟練者 △* ○ ○ ○

知識の専門化 △ ○ ○ △(上位者のみ)

教育訓練の短期化 × ○ ○ △(上位者のみ)

機械の発明促進 × ○ ○ ○

段取り替え時間の節約 × ○ ○ ○

計画のグレシャムの法則への対処 × × △** ○

* 量を分割して体力のない人を雇用する ** 後工程が考える仕事を遂行する可能性

①働く人の意欲低下(タスクの意味、思考の余地、学習の余地)②調整と統合の困難性

分業のデメリット

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Copyright ©Masahiko Fujimoto

分業された組織の調整と統合の仕組み

標準化(事前の統合・調整手段)①プロセス②アウトプット側面③インプット

ヒエラルキー(事後の統合調整手段)①管理の幅の増減②例外処理能力向上・自律的職場集団・管理者開発・スタッフの設置

③グルーピング・戦略的に重要な相互依存関係の優先

・準分解可能システム(事業部制)

基本モデル

情報処理負荷削減

情報処理能力拡充(チャネルを増やす、太くする)

環境マネジメント

スラック資源の創設

情報技術への投資

水平関係の設置

組織設計の選択肢

出所)沼上幹(2004)『組織デザイン』日本経済新聞社、p.220より一部加筆修正

Copyright ©Masahiko Fujimoto

組織形態の分類モデルⅠ:職能別と事業部制

社長

購買部 製造部 販売部 経理・財務部 総務・人事部

職能別組織の形態モデル

事業部制組織の形態モデル社長

購買部 製造部 販売部

経理・財務部 総務・人事部

A事業部

購買部 製造部 販売部

B事業部

社長

経理部 財務部

X事業部 Y事業部

※コングロマリットの形態モデル

無関連事業への多角化

事業部への権限委譲と同時に、事業部に関するROIなどの指標による明確な業績評価が必要不可欠になる。

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組織形態の分類モデルⅡ:マトリックス型

社長

購買部 製造部 販売部 経理・財務部 総務・人事部

マトリックス組織の形態モデル

A事業部

B事業部

C事業部

D事業部

職能別専門化

事業委員会

二重の指揮命令系統と報告システムが要求されるためにコンフリクトの調整機能が必要不可欠となる。また、個々人に対する目標と業績評価を明確化するための目標管理が有効になる。

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プロジェクト型組織(製品開発組織の事例)

■製品開発組織のデザイン

機能重視組織

プロジェクト重視組織

機能別組織

マトリックス組織

プロジェクト組織

機能部門 機能部門 機能部門 機能部門

機能部門長 プロジェクト・マネジャー

出所)延岡健太郎(2006)『MOT[技術経営]入門』日本経済新聞社、p190

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大手製造業の組織図の事例

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マーケット別(フロントエンド/バックエンド)構造

CEO

X製品グループ Y製品グループ Z製品グループ 北米チームBカスタマー

チームAカスタマー

チーム

営業

サービス

マーケティング

配送

バックエンド フロントエンド

スタッフ

製造

購買

エンジニアリング

製品開発

営業

サービス

マーケティング

配送

営業

サービス

マーケティング

配送

製造

購買

エンジニアリング

製品開発

製造

購買

エンジニアリング

製品開発

フロントエンド/バックエンド構造(Front/Back Hybrid Structure)

「単一事業の形態と事業部制のプロフィットセンター・モデルを結合させた特徴をもつ。利益の評価できる部門についてはある程度分権化し、他方、戦略や業務をかなり強く統制する部門が本社に存在する。このモデルの特徴は、顧客や地域別に組織された企業のフロントエンドと、製品や技術に応じて組織されたバックエンドの活動を分離したところにある。」

出所)Galbraith, J. R (1993) Organizing for the future, Jossey-Bass(柴田高訳『21世紀の組織デザイン』産能大学出版部、1996年、p.43)

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フロントエンド・バックエンド構造の事例

「創生21計画」による事業部制の解体(国内家電流通体制の改革)

・・・商品ごとの事業部

テレビ事業部

エアコン事業部

開発 製造

開発 製造

専門店

量販店

消費者

従来の組織

営業

営業

販売会社

松下LEC

松下CE

出荷 広告宣伝

出所)大河原克行(2003)『松下電器 変革への挑戦』宝島社、p.39より一部加筆修正

※LEC:ライフエレクトロニクス,CE:コンシューマーエレクトロニクス

変更後のマーケティング本部( 2001年4月~ )

・・・各グループ会社(旧来の事業部)

PAVC社

松下ホームアプライアンス社

開発 製造 ・・・

開発 製造 ・・・

ナショナル・

パナソニック

マーケティング本部

大手量販店

専門店

地域量販店

消費者

販売会社

松下LEC

松下CE

出荷 情報収集 広告宣伝 発注 商品企画

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階層組織における情報の問題

出所)今井賢一、金子郁容(1988)『ネットワーク組織論』岩波書店を参照して作成

階層組織における情報ループと「情報の非対称性」の問題

ミクロ情報ループプロセス情報

情報特性

結果情報

マクロ情報ループ

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垂直型組織から水平型組織へ

水平方向構造を重視•業務の共有化、権限委譲•ゆるやかな階層構造、少ない規則•水平方向のコミュニケーション•多くのチームやタスクフォース•分散化された意思決定

垂直的方向構造を重視•業務の専門化•厳密な階層構造、多くの規則•垂直方向のコミュニケーションと直属関係•チームやタスクフォースが少ない•中央集権化された意思決定

効率重視の垂直型組織 学習重視の水平型組織

重視される構造

出所)Daft, R.L. (2001) Essentials of organization theory and design, South-Western College Publishing(高木晴夫訳『組織の経営学』ダイヤモンド社、2002年p.57)

「垂直(ピラミッド)型組織」と「水平(ネットワーク)型組織」の相違

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ピラミッド(階層)型組織とネットワーク型組織の相違

ピラミッド(階層)型組織モデル

マネジャー リーダー

ネットワーク型組織モデル

ピラミッド(階層)型組織 ネットワーク型組織

組織構造 明確な権限と責任の配分

上下のタテ関係を尊重

緩慢な権限と責任の配分

ヨコ関係を尊重

プロセス 計画と執行の分離

(事前の計画と厳密な執行を尊重)

厳格なルールと手続き

階層に従った情報伝達

権限や規則に従う意思決定

計画と執行の未分化

(計画に誘導された偶発性を尊重)

緩慢なルールと手続き

ウェブ状の情報共有化

ビジョンに従う個々人の自律的な意思決定

管理スタイル マネジメント(ルールに従う調整)

中央集権的(上意下達)

リーダーシップ(ビジョンによる統合)

エンパワーメント(分権的な権限委譲)

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組織機能の構造的配置(コンフィギュレーション)モデル

戦略尖(頂点)

オペレーティング・コア

ミドル・ライン

出所)Henry Mintzberg(1983), Structure in fives, Prentice-Hall, p.11

基本パーツ 定義と説明 主な職種

オペレーティング・コア

製品やサービスを直接的に産み出す業務フロー活動領域

購買、製造、組立、販売、配送など

戦略的尖(エイペックス:頂点)

組織全体に対する責任と権限を持ち、ビジョンやミッションを示し、環境との関係づけを定義し、組織的な戦略を開発する活動領域

CEOや取締役など

ミドル・ライン トップの抽象的なビジョンや戦略を公式的な権限に基づいて連鎖させる活動領域

執行役員、管理職、現場監督など

テクノストラクチャー

業務フローを分析して標準化し、人材を教育するなどのエンジニアリング的な立場から現場やトップマネジメントを間接的に支援する活動領域

オペレーションズ・リサーチ、生産計画、人材教育、戦略立案など

サポート・スタッフ 業務フロー運営の枠の外から組織を支援する活動領域 法務、宣伝、研究開発、人事など

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組織機能の構造的配置モデル:「企業家的組織」

出所)Mintzberg, H. (1989), Mintzberg on Management, The Free Press(北野利信訳『人間感覚のマネジメント 行き過ぎた合理主義への抗議』ダイヤモンド社、1991年)邦訳 p.180

構造 • 単純、インフォーマル、柔軟、スタッフと中間ラインはほとんど不在

• 諸活動がCEOを中心に回転し、直接監督を通じて個人的に統制される

文脈 • 単純で変動的な環境

• 強力なリーダーシップ、ときにカリスマ的で独裁的

• 始動、危機、そして起死回生

戦略 • しばしばビジョンに基づく過程、大まかな輪郭は計画的だが細部は創発的で柔軟

• リーダーは可塑的な組織を保護されたニッチに位置付ける

※可塑的:固体に外力を加えて変形させ、力を取り去ってももとに戻らない性質

問題 • 反応的、使命感

• ・・・しかし、脆弱、束縛的

• 戦略か作業かのどちらかへ傾くアンバランスの危険

企業家的組織

Ex. ベンチャー企業などの小さい組織、「地方生産者」

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組織機能の構造的配置モデル:「機械的組織」

出所)Mintzberg, H. (1989), Mintzberg on Management, The Free Press(北野利信訳『人間感覚のマネジメント 行き過ぎた合理主義への抗議』ダイヤモンド社、1991年)邦訳 p.204

構造 • 集権化した官僚制。

• フォーマルな手続き、特化した仕事、明確な分業、普通には機能的な単位編成、広大な階層性

• 枢要部分はテクノ構造で、仕事の標準化を担当。ただし、中間ライン(それ自体が高度に発達)から明瞭に分離。また、広大な支援スタッフが不確実性を削減

文脈 • 単純で安定した環境で、一般的には比較的大きく成熟した組織

• 合理化された仕事、合理化の進む(しかしオートメション化されない)技術システム

• 外部的統制→道具の形。でなければ閉鎖システムの形

戦略 • 一見すると計画立案過程、しかし実は戦略的プログラミング

• 戦略的変化に抵抗、したがって再活性化のために革新的コンフィギュレーションを重ね合わせるか、でなければ起死回生のために企業家的コンフィギュレーションへの回帰が必要

• 変化の量子飛躍的なパターン(長期の安定がときおり戦略的革命の勃発によって中断される)

問題 • 能率性、信頼性、精確性、一貫性。

• ・・・しかし、統制への妄念が作業核における人間問題を招き、行政中枢における整合問題を招き、戦略尖の適応問題を招く

機械的組織

Ex. 郵便会社、巨大自動車企業、都市銀行など、量産・量販、政府、制御・保安関連事業などの諸組織に普及

Copyright ©Masahiko Fujimoto

組織機能の構造的配置モデル:「多角的組織」

構造 • 市場を基準にした各事業部が中央の行政本部の下で緩慢に連結される

• 事業部が自律的に(事業部のマネジャーへの限定された分権化)事業を運営し、アウトプットを標準化した業績統制システムの下に置かれる

• 事業部の構造を本部の道具として機械的コンフィギュレーションへ押しやる傾向

文脈 • 市場の多様性、特に製品とサービスの多様性。副製品と関連製品の多角化によって中間的な形が助成され、コングロマリット的多角化が も純粋な形

戦略 • 本部が企業(全社)戦略を各事業のポートフォリオとしてマネジメントするのに対して、事業部は個々の事業戦略をマネージする

問題 • 統合化された機能的(機械的)構造が抱える問題のあるものを解決する(危険を分散し、資本を移動し、事業を追加・削除するなど)

• ・・・しかしコングロマリット的多角化は、ときとして経費がかさみ革新を阻止する。資本市場と取締役の機能を向上させれば、独立した事業のほうが事業部よりも効果的になるかもしれない

• 業績統制システムが組織を社会的に無反応で無責任な行動に駆り立てる危険がある

• 公共領域において用いられる傾向が見られるが、多くの目的が測定不可能なので危険度が大きい

多角的組織

Ex. 大手電機メーカーなど、典型的な大規模に成熟した組織 出所)Mintzberg, H. (1989),

Mintzberg on Management, The Free Press(北野利信訳『人間感覚のマネジメント 行き過ぎた合理主義への抗議』ダイヤモンド社、1991年)邦訳 p.240

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Copyright ©Masahiko Fujimoto

組織機能の構造的配置モデル:「専門職業的組織」

構造 • 官僚制的でありながら分権的。その程度はそこでの作業に従事する多くの専門職業家の技能を標準化するために必要とされる訓練に依存する

• 機能化への鍵は個々の専門職業家が専門的職業統制にしたがって、自律的に仕事をする仕切りのシステムをつくりあげることにある

• 小限のテクノ構造と中間ラインの階層性。これは専門職業的仕事に対する広い統制の幅を意味し、彼らを支援するための機械に似た構造を保つ多人数の支援スタッフ

文脈 • 複雑だが安定的

• 単純な技術システム

戦略 • 多様な戦略、概して断片的、しかし凝集性を促す諸要因が存在する

• 大部分は専門職業的判断と集合的選択(団体性と政治性)によって、一部は行政命令によって

• 総合的戦略は極めて安定的だが、細部は絶えず変化している

問題 • 民主主義と自律性の利点

• ・・・しかし仕切り間の整合、専門職業的裁量の乱用、革新への躊躇

• こうした問題に対する社会的反応は、逆機能的で、組合化はこれらの問題を悪化させる

専門職業的組織

Ex. 大学や病院など、サービスセクターに比較的多い 出所)Mintzberg, H. (1989),

Mintzberg on Management, The Free Press(北野利信訳『人間感覚のマネジメント 行き過ぎた合理主義への抗議』ダイヤモンド社、1991年)邦訳 p.270

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組織機能の構造的配置モデル:「革新的組織」

構造 • 流動的、有機的、選択的に分権化、「アドホクラシー」 cf.「ビューロクラシー」

• スタッフ、作業担当者、マネジャーで編成された学術的チームに配置された機能別エキスパートらが革新的プロジェクトを遂行する

• 相互調節がリエゾン担当者や統合担当マネジャーおよびマトリックス構造によって助成される

文脈 • 複雑で変動的な環境、技術革新と頻繁な製品変化を含む、暫時的な巨大プロジェクト

• 組織年齢を重ねると官僚制化の圧力が加わるので、典型的に若い産業などにみられる

• 契約的プロジェクトに関わる仕事のための「作業アドホクラシー」、もしくは独自のプロジェクトに関わる仕事のための「行政アドホクラシー」(作業核が切除(アウトソーシング)もしくは自動化)

戦略 • 主として学習、または「草の根」過程

• 概して創発的、多様なボトムアップ過程を通じて進化、マネジメントは指揮よりもむしろ形を与える

• 戦略的焦点の収斂と分散の循環が特色

問題 • 高度の民主主義を低度の官僚制と結合、革新に対して効果を発揮

• ・・・しかし、効果性が非能率を代償に達成され、曖昧性を伴う人間問題と別のコンフィギュレーションへの不適切な移行の危険性

革新的組織

Ex. ICT企業、今日の映画製作会社など、典型的には若い産業などにみられる 出所)Mintzberg, H. (1989),

Mintzberg on Management, The Free Press(北野利信訳『人間感覚のマネジメント 行き過ぎた合理主義への抗議』ダイヤモンド社、1991年)邦訳 p.306

Page 14: 1-2. 組織構造と組織間関係のマネジメントfujimoto/soshiki 1-2.pdf · ※組織の環境の定義(同上, pp.88-92より) タスク環境:「組織が直接に相互作用し、組織の目標を達成する能力にも直接影響を与えるセクター」

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組織機能の構造的配置の補足モデル:「伝道的組織」

イデオロギー

• 組織を区別する価値と信念の内容豊かなシステム

• カリスマ的なリーダーシップと関連した使命感に根差し、伝統と伝説を通じて発達し、一体化によって補強される

• 因習的なコンフィギュレーションに重ね合わされることがある(典型的には、企業家的組織の上に、次いで革新的組織、専門職業的組織、その後に機械的組織)が、ときには極めて強力で、独自のコンフィギュレーションを喚起する

特徴 • 明瞭で焦点が定まり、士気を鼓舞する示差的な使命が存在する

• 規範の標準化を通じた整合(「団結」)が、メンバーの選考、同化、教化によって補強される

• 小さな単位(「群落」)が緩慢に組織化され、高度に分権化されているが、強力に規範的統制される

• 改革者、教化者、修道院のような形態

• 一方では孤立化、他方では同化の脅威

伝道的組織

Ex. 京セラなどの1980年代に世界的に注目された組織文化の強い日本企業 出所)Mintzberg, H. (1989),

Mintzberg on Management, The Free Press(北野利信訳『人間感覚のマネジメント 行き過ぎた合理主義への抗議』ダイヤモンド社、1991年)邦訳 p.343

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組織機能の構造的配置の補足モデル:「政治的組織」

政治的組織

Ex. 政党の派閥など

イデオロギー

• 法解釈的には、非正統的な自己利益のために使われることの多い権力の手段がコンフリクトを招き、個人や単位を互いから引き離す

• 様々な政治ゲームの形で現れ、あるものは権力の正統的なシステムと共存し、あるものは対立し、あるものはその代用をする

• 一般的には因習的組織の上に重ね合わされるが、ときには独自のコンフィギュレーションを生み出すほど強力になる

特徴 • 集中化した整合と影響力という因習的観念が不在で、インフォーマルな権力操作が代替する

• コンフリクトの各次元(穏和/激烈、局限/全面、持続/暫時)が結合して、対決、不本意な同盟、政治色化した組織(完全な政治的闘技場の4つの形)をつくり上げる

• 各形の発達をコンフリクトのはずみ、発達、解消というライフサイクルを通じて追跡することができる

• 政治活動と政治的組織は、組織において一連の機能的役割を果たすが、特に必要な変化が正統的な影響力のシステムによって阻止されているときには、その実現に手を貸す

出所)Mintzberg, H. (1989), Mintzberg on Management, The Free Press(北野利信訳『人間感覚のマネジメント 行き過ぎた合理主義への抗議』ダイヤモンド社、1991年)邦訳 p.367

Page 15: 1-2. 組織構造と組織間関係のマネジメントfujimoto/soshiki 1-2.pdf · ※組織の環境の定義(同上, pp.88-92より) タスク環境:「組織が直接に相互作用し、組織の目標を達成する能力にも直接影響を与えるセクター」

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組織機能の構造的配置モデルのライフサイクル

出所)Mintzberg, H. (1989), Mintzberg on Management, The Free Press(北野利信訳『人間感覚のマネジメント行き過ぎた合理主義への抗議』ダイヤモンド社、1991年)邦訳 p.441

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多様な市場と企業組織の関係

企業組織

資本家

従業員

供給業者 顧客

資本 配当など

代価

原材料・設備など

賃金などの報酬

労働力

財・サービス

代価

資本市場

要素市場 製品市場

労働市場

出所)桑田耕太郎「組織均衡とミクロ組織論」二村敏子編(2004)『現代ミクロ組織論』有斐閣、p.21より加筆修正

権威関係

Page 16: 1-2. 組織構造と組織間関係のマネジメントfujimoto/soshiki 1-2.pdf · ※組織の環境の定義(同上, pp.88-92より) タスク環境:「組織が直接に相互作用し、組織の目標を達成する能力にも直接影響を与えるセクター」

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市場における企業組織の存在

R.H.コースの「企業の本質」(1937)

資源配分のメカニズムには「取引費用(コスト)」が発生する

※企業規模の決定要因は、市場での取引コストと企業での組織化コストとの均衡

市場 企業

価格メカニズムによる調整(競争原理) 企業家による調整(組織原理)

多様な契約を成立させるための多大な費用、情報と探索、交渉と意思決定、契約の実施や監視などのあらゆるコストが発生する

「生産要素がある範囲のなかで、ある報酬の対価として(それが固定給であれ変動給であれ)企業家の指示に従うという同意」に基づく一つの契約に集約されて様々な取引コストが節約される

「企業を設立することがなぜ有利かという主要な理由は、価格メカニズムを利用するための費用が存在する」(Coase, R. H. (1988) The firm, the market, and the law, University of Chicago Press(宮沢健一、後藤晃、藤垣芳文訳『企業・市場・法』東洋経済新報社、1992年,p.44)

Cf.市場での取引に課税する売上(消費)税は、企業による組織化を促進する

「市場が機能するには、なんらかの費用が発生する。そして組織を形成し、資源の指示監督を、ある権限をもつ人(「企業家」)に与えることによって、市場利用の費用をなにほどか節約することができる。企業家がその機能を果たすにあたっては、企業家は自らがそれにとって代わった市場での取引よりは低い価格で生産要素を入手できるという点を考慮にいれると、より低い費用でその機能を果たさねばならない。というのは、企業家がこれに失敗するときはいつでも、公開の市場をふたたび利用することができるからである。」(同上, p.45)

Cf.新制度主義経済学の元祖

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市場における組織化(垂直的統合化)の便益と費用

統合化の便益 統合化の費用

取引費用の節約市場での不確実な取引費用(transaction cost)の節約

投下資源の増大固定的な設備投資などの資源投下による投資負担やリスクが生じる

未利用資源の活用(資源の範囲の経済)未利用や余剰となった資源を他社より安く活用することでできる ex.遊休土地利用

規模の経済を使えない無駄部品を調達する際に、内製すると外部の専門メーカーに比べて規模が限定されるので割高になる可能性がある ex.総合電機メーカーの半導体事業部

相互依存・補完性(技術の範囲の経済)技術的に相互関連する活動や隣接した工程の統合による費用の節約 ex.総合電機メーカーの関連技術

情報の硬直性利用可能な情報や知識が限定的になり変化への柔軟性が希薄になる可能性がある

情報の蓄積とコントロール情報を蓄積して学習を促進したり、機密情報をコントロールしたりすることができる

内部管理の問題業務が複雑に絡み合い官僚制的になると管理コストが増大し、組織文化も固定化してものの見方の柔軟性が希薄になり、市場における競争圧力が弱まりインセンティブが希薄となる

独占と参入障壁の構築独占的地位を高めたり、他社の参入障壁を高くすることができる ex.20世紀初めのスタンダードオイル

出所)青木昌彦、伊丹敬之(1985)『企業の経済学』岩波書店、pp.88-97より作成

Page 17: 1-2. 組織構造と組織間関係のマネジメントfujimoto/soshiki 1-2.pdf · ※組織の環境の定義(同上, pp.88-92より) タスク環境:「組織が直接に相互作用し、組織の目標を達成する能力にも直接影響を与えるセクター」

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市場原理と組織原理の関係

組織の論理権限体系による資源配

分のメカニズム:

「社会的交換を中心とする参入・退出の制限された交換システム」

※ただし、市場とは、経済的な交換関係だけでなく、不等価交換に依存する社会的交換関係も含む不完全な市場でもある

市場の論理自由意志に基づく資源配分のメカニズム:「経済的交換を中心とする参入・退出の自由な交換システム」

市場の論理VS.組織の論理

出所)今井賢一、金子郁容(1988)『ネットワーク組織論』岩波書店, pp.160-161)

中間組織市場原理と組織原理を組み合わせた関連会社グループや

系列などの企業間ネットワーク

「ネットワークとは、その場の上で、市場と組織を組み合わせ、経済的動機と社会的動機とを接合させることである。企業ネットワークの観点からより具体的にいえば、市場と組織を組み合わせるとは、内部資源と外部資源の組み合わせを考え、その連結をはかるということである。また、経済的動機と社会的動機を接合させるとは、経済的動機を軸にネットワークを運営しながらも、そこに共感とコミットメントという行為を組み込むことである。経済的行為のなかにこの二つの行為を引き込むことが、次に述べるようにネットワークを動かすうえでのキーポイントなのである。」

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日米の自動車企業の組織間関係の比較

1990年代前半の日米自動車企業の比較

日本(トヨタ、日産) 米国(GM、フォード)

外注比率 70%~75% 40%~45%

サプライヤ数(自動車企業1社当たり)

200~300社 2500~3000社

取引期間 長期的関係(50%以上が20年以上) 短期的関係(90%が10年以下)

品質や効率の悪い部品企業への対応

共同で問題解決 他のサプライヤへ変更

サプライヤの役割 製造だけ(25%)設計と製造(75%)

製造だけ(80%)設計と製造(20%)

選定時期 設計前 設計決定後

常駐エンジニア(自動車企業1社当たり)

500~1500人 50~100人

■1990年代前半の日米自動車企業の比較

出所)延岡健太郎(2006)『MOT[技術経営]入門』日本経済新聞社、p294

Page 18: 1-2. 組織構造と組織間関係のマネジメントfujimoto/soshiki 1-2.pdf · ※組織の環境の定義(同上, pp.88-92より) タスク環境:「組織が直接に相互作用し、組織の目標を達成する能力にも直接影響を与えるセクター」

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自動車部品取引のタイプ(設計外注化の視点から)

当該部品についての作業分担 責任・権限 取引のタイプ

部品製造 詳細設計 基本設計 図面の所有権

品質保証責任

内製 C C C C C 組織

外製 貸与図方式 S C C C C 関係的契約

ブラックボックス方式

委託図方式 S S C C C

承認図方式 S S C S S

市販部品 S S S S S 市場

自動車部品の取引タイプの分類

出所)(2001)」藤本隆宏、葛東昇「アーキテクチャ的特性と取引方式の選択」藤本隆宏、武石彰、青島矢一『ビジネス・アーキテクチャ 製品・組織・プロセスの戦略的設計』有斐閣、p.214

※Cは自動車メーカー、Sはサプライヤーを示す

「日本の一次部品メーカーの国際競争力が比較的高かった」「日本では承認図方式の採用率が比較的高かった」「一次部品メーカーが「機能部品」と呼ばれる機能完結性の高い部品を納入する傾向があった」

日本の自動車メーカーの国際競争力の一つの要因は、「機能的モジュラー性の比較的高い括りで、設計込みの部品調達を行うこと(まとめて任せる)」(同上、p.228)であることが示唆される

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自動車産業の組織間関係「下請け構造」

トヨタ自動車の下請け構造の実態

Page 19: 1-2. 組織構造と組織間関係のマネジメントfujimoto/soshiki 1-2.pdf · ※組織の環境の定義(同上, pp.88-92より) タスク環境:「組織が直接に相互作用し、組織の目標を達成する能力にも直接影響を与えるセクター」

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組織間関係のパースペクティブとフレームワーク

資源依存パースペクティブ(支配的な組織間関係のフレームワーク)

「組織の他組織への依存は、①他組織が保有しコントロールしている資源の重要性と、②他組織からの資源の利用可能性(資源の集中度)の関数である。したがって、組織は他組織にとって希少であり重要である資源を保有していればいるほど、また資源を独占していればいるほど、他組織に対するパワーをもつ。こうして組織の他組織への依存は、組織間関係のパターン(組織間の資源交換過程と組織の資源への依存性)から生じる」(山倉健嗣(1993)『組織間関係』有斐閣、pp.36-37)

資源の相対的な重要性と希少性

基本的前提組織が存続するためには、外部環境から諸資源を獲得・処分するために他組織に依存する組織はできる限り他組織への依存を回避して自律的であろうとする

資源の重要性と希少性が大きい

資源の重要性と希少性が小

さい

組織Aのパワー組織Bのパワー

組織間パワーを高めるための方策他組織に対する自らの資源の価値を高める他の購買先を増やすように他組織以外の選択肢を増やして代替源を拡大する多角化などで他組織との関係の必要性を減らす組織間の共同購買などのように結託して他組織の選択肢を減らす

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組織間構造の発展モデル

段階 1.連合の発生 2.連邦への移行 3.連邦の成熟 4.重要な分岐点

段階ごとの発展のキー・ファクター

環境が、貴重な資源に対する脅威や不確実性をもたらす

組織がイデオロギーや同一の依存を共有する

連合の目的を達成しようとして動機づける

貴重な資源に対する連合への依存を増加させる

連邦の利益を第一のものとする

メンバーがそれ以前の投資からのベネフィットを享受する

集中化の増大や連盟への依存がメンバーをして、階層型への移行を求めさせる。あるいは連盟から離脱させる

段階ごとの課題 連合の目的を規定すること

成員資格基準を発表すること

管理グループを雇用したり形成したりすること

調整やコントロールのためのメカニズムを確立すること

正式の目的を達成すること

メンバーのコミットメントを維持すること

連盟の将来についての決定を管理すること

※連合:組織間調整が当事者間で直接行われる同盟、※連邦:特定の媒介組織(管理組織)によって行われる同盟

出所)山倉健嗣(1993)『組織間関係』有斐閣、p.201

Page 20: 1-2. 組織構造と組織間関係のマネジメントfujimoto/soshiki 1-2.pdf · ※組織の環境の定義(同上, pp.88-92より) タスク環境:「組織が直接に相互作用し、組織の目標を達成する能力にも直接影響を与えるセクター」

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新たな企業間ネットワーク(バーチャル組織)

基本構造とその要件 メリット デメリット

バーチャル組織(ネットワーク組織)

これまで社内で遂行されていた様々な活動を外注することによって成立

カスタマーに価値を生むすべての活動を保有し、コントロールすることが困難な状況

自社のベストな活動領域と他社がベストな領域とを組み合わせて、カスタマーにとって全体として卓越したレベルを維持

自らは大規模にならずに規模の優位性(購買パワーやリソースの共有)を実現できる

特許にもとづく知識を失う

外注に伴い利益と付加価値を他社に提供してしまう

ビジネスの一部についてコントロールを失う

バーチャル組織のメリットとデメリット

外部との関係のタイプとコーディネーションの必要性の程度

出所) Galbraith, J. R. (2002) Designing organizations: an executive guide to strategy, structure, and process, Jossey-Bass(梅津祐良訳『組織設計のマネジメント』生産性出版、2002年 pp.161-165)を参照して作成

関係のタイプ 相対的強度 コーディネーション 相互依存性 価値収穫

所有 強い

弱い

きわめて重要 非常に強い 高い

低い

きわめて重要 高い株式

ソーシングとアライアンス かなり重要 中庸

ときどき重要 低い契約

マーケット 必要ない ゼロ

出所)同上, p.171