17
2016/4/11 1 平成28324日(木) 港区立神明いきいきプラザ 農業生物資源研究所遺伝子組換え研究推進室 田部井豊 市民キャビネット農都地域部会 「遺伝子組換えの現状と未来を考える」シンポジウム 1 そもそも 遺伝子組換えって 何なの? やっぱり気になる のは、安全性!! 遺伝子組換え技 術は、必要なも のなの?? どんな作物に使わ れてる技術なの? 日本では、どのく らいの量が流通し てるの? 作物以外ではど のように利用さ れているの? 1.作物の品種改良を知ろう 1)作物の品種改良と遺伝子組換え技術 2)遺伝子組換え農作物の世界における栽培状況と日本への輸入量 3)遺伝子導入法 2.遺伝子組換え食品は安全or不安? 1)生物多様性影響評価(カルタヘナ議定書とカルタヘナ法) 2)食品としての安全性評価 3.遺伝子組換え技術による問題とされている事柄ついて 4.みなさんで考えよう、遺伝子組換え食品 サイエンスコミュニケーションの実例を紹介 2 本日の話の概要 遺伝子組換え技術の利用例 バイオ製品の国内市場規模は16,762億円 ・医薬品 8,409億円 ・洗剤用酵素 2,250億円 ・遺伝子組換え農作物の市場規模 5,966億円 (日経バイオ年鑑2012・医薬品生産 11,908億円 ・洗剤用酵素 2,350億円 ・遺伝子組換え農作物の市場規模 5,776億円 (日経バイオ年鑑2015

2016/4/11 · 2016/4/11 2 品種改良 多様な農作物 このなかに自然のものはありません? 5 農作物の栽培の歴史 6 500万年前 人類誕生 2万年前 原始農耕の始まり定住生活化

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2016/4/11

1

平成28年3月24日(木)

港区立神明いきいきプラザ

農業生物資源研究所遺伝子組換え研究推進室 田部井豊

市民キャビネット農都地域部会

「遺伝子組換えの現状と未来を考える」シンポジウム

1

そもそも

遺伝子組換えって何なの?

やっぱり気になる

のは、安全性!!

遺伝子組換え技術は、必要なも

のなの??

どんな作物に使われてる技術なの?

日本では、どのくらいの量が流通し

てるの? 作物以外ではどのように利用されているの?

1.作物の品種改良を知ろう

1)作物の品種改良と遺伝子組換え技術

2)遺伝子組換え農作物の世界における栽培状況と日本への輸入量

3)遺伝子導入法 2.遺伝子組換え食品は安全or不安?

1)生物多様性影響評価(カルタヘナ議定書とカルタヘナ法)

2)食品としての安全性評価

3.遺伝子組換え技術による問題とされている事柄ついて

4.みなさんで考えよう、遺伝子組換え食品

サイエンスコミュニケーションの実例を紹介

2

本日の話の概要 遺伝子組換え技術の利用例

バイオ製品の国内市場規模は1兆6,762億円

・医薬品 8,409億円

・洗剤用酵素 2,250億円

・遺伝子組換え農作物の市場規模 5,966億円

(日経バイオ年鑑2012)

・医薬品生産 1兆1,908億円

・洗剤用酵素 2,350億円

・遺伝子組換え農作物の市場規模 5,776億円

(日経バイオ年鑑2015)

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2

品種改良

多様な農作物

5 このなかに自然のものはありません?

農作物の栽培の歴史

6

500万年前 人類誕生

2万年前 定住生活化

栽培種の起源

イネ:1万年前 トウモロコシ:5000年前

コムギ、オオムギ、キビ:9000年前

ワタ:4500年前 サツマイモ:4000年前

初めての植物の人工交配 1700年頃

1865年 メンデル遺伝の法則発見

1898年 初めての稲の人工交配

1900年 メンデル遺伝の法則の再発見

1926年 モーガンの遺伝子説

1953 ワトソンクリックのDNAの二重らせん構造解明

1956年 コシヒカリ作出

1973年 コーエンらの大腸菌による遺伝子組換えに成功実験

1982年 遺伝子組換え植物の作出

1996年 遺伝子組換えダイズやトウモロコシの商業栽培

2014年 遺伝子組換え農作物の普及

( 29カ国、1億8,150万ヘクタール)

計画的な交配育種の時代へ

原始農耕の始まり

品種改良への遺伝子組換え技術の応用開始

トマトの育種と遺伝資源

7

その他は栽培種 原種

品種改良の流れ

8

育種目標の設定

交雑

遺伝資源の探索

変異の拡大(変異の創出) 突然変異育種、胚培養、 細胞融合、 遺伝子組換え 新しい育種技術(NPBT)

選抜・遺伝的固定

新品種育成

育種目的にあった 育種素材がない場合、 作り出す必要がある。

耐病虫性、環境ストレス耐性 品質向上など

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3

品種改良とは?

9 より良い品種を作る

これまでの品種改良

10

いろいろな性質を受け継ぐので なかなか目的のものができない

Bくんのおいしさはそのままで、病気に強くしたいけど…

突然変異育種 <黒斑病抵抗性ナシ「ゴールド二十世紀」などの育成>

11

ガンマーフィールド 照射塔

二十世紀 ゴールド二十世紀

胚培養

12

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4

植物改良の原理(鵜飼、藤巻著、培風館 1984年刊)より引用

細胞融合 ポマトの作出 ポテトとトマトの細胞融合

細胞融合

14

遺伝子組換えによる品種改良

15

より確実な 方法なのね 16

遺伝子組換え技術の長所と短所

長所

1)全生物の遺伝子を利用できる

→これまでの品種改良技術ではできないことを可能にする

2)新しい性質のみを付与できる

→これまでの性質を変えずに新しい特性を持てる

短所

1)遺伝子組換え農作物を作るために(本当に)有用な遺伝子の単離は困難であり、現在使える有用遺伝子は多くない。

→今後多くの遺伝子が使えるようになると思われる

2)詳細な安全性評価が求められており、開発費用及び時間がかかる。

3)遺伝子組換え農作物に対する懸念があり、実用化が難しい

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5

アグロバクテリウム法

プラスミド

病原性遺伝子

アグロ

バクテリウム

プラスミド

有用遺伝子

アグロ

バクテリウム

遺伝子を組み込む方法

18

アグロバクテリウム

植物の細胞

植物の核

① ②

③ ①遺伝子を植物に 運んでもらう

②遺伝子が植物の DNAに追加される

③植物は新しいタンパク質を作る 食品科学広報センター資料より一部改変

パーティクルガン法

19

金の粒子

有用遺伝子

高圧ガス

高圧ガスで

金粒子を打ち込む

植物を再生し

組換え体を選抜 有用遺伝子を

組み込んだ

植物体を育成

遺伝子組換え農作物の 利用の現況

20

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6

1.日持ち性を改良したトマト 2.除草剤耐性ダイズ 3.害虫抵抗性トウモロコシ 4.除草剤耐性ナタネ 5.害虫抵抗性ワタ 6.害虫抵抗性及びウイルス抵抗性ポテト 7.ウイルス抵抗性パパイア 8.除草剤耐性テンサイ、9.除草剤耐性アルファルファ

実用化されている遺伝子組換え農作物

害虫抵抗性ワタ(左)と非組換えワタ(右)

組換えトマト(左)と非組換えトマト(右)

(写真 モンサント社提供)

除草剤耐性セイヨウナタネの栽培風景(カナダ)

除草剤耐性ダイズと 害虫抵抗性トウモロコシの展示ほ場 無除草区 除草剤1回処理+中耕除草1回 右:ラウンドアップ1回使用

無除草区

除草剤1回処理+中耕除草1回 ラウンドアップ使用区

除草剤耐性ダイズの効果

除草剤耐性作物の開発で不耕起栽培が可能→土壌流出の防止

食害痕

組換えトウモロコシ 非組換えトウモロコシ

非遺伝子組換え トウモロコシ 無防除区

非遺伝子組換え トウモロコシ 慣行防除区

遺伝子組換え トウモロコシ 無防除区

23

害虫抵抗性トウモロコシ Btトウモロコシと非組換えトウモロコシ

上:害虫抵抗性トウモロコシ 下:非遺伝子組換えトウモロコシ 栽培期間中、殺虫剤は用いないで栽培

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7

Papaya Ring

Spot virus

実用化されている遺伝子組換え農作物 (ウイルス抵抗性パパイア)

色変わりカーネーションと青いバラ

0

5,000

10,000

15,000

20,000

遺伝子組換え農作物の栽培面積(国別)

万ヘクタール = 1億8,150万ha (2014年)

日本の 国土の 約4.8倍

国際アグリバイオ事業団(ISAAA)“Global Status of Commercialized Biotech/GM Crops: 2014(2015年)より作成

その他(2014年、21カ国)

メキシコ

ホンジュラス

コスタリカ コロンビア

ウルグアイ

チリ

ボリビア

キューバ フィリピン

ミャンマー

パキスタン

オーストラリア

南アフリカ

ブルキナファソ スーダン

ポルトガル

スペイン

チェコ共和国

スロバキア ルーマニア

バングラディシュ

アメリカ

ブラジル

アルゼンチン

カナダ

インド

中国

パラグアイ

世界の遺伝子組換え作物栽培国 (28カ国、2014)

国際アグリバイオ事業団(ISAAA)“Global Status of Commercialized Biotech/GM Crops: 2014(2015年)より作成

#27 コスタリカ 5万ha未満 ワタ、ダイズ

#24 チェコ共和国 5万ha未満 トウモロコシ

#23 キューバ 5万ha未満 トウモロコシ

#26 スロバキア 5万ha未満 トウモロコシ

#25 ルーマニア 5万ha未満 トウモロコシ

#14 ブルキナファソ 50万ha ワタ

#21 チリ 5万ha未満 トウモロコシ、ダイズ、ナタネ

#20 ホンジュラス 5万ha未満 トウモロコシ

#18 コロンビア 10万ha未満 ワタ、 トウモロコシ

#17 スペイン 10万ha トウモロコシ

#5 カナダ 1,160万ha ナタネ、トウモロコシ、ダイズ、テンサイ

#1 アメリカ合衆国 7,3100万ha トウモロコシ、ダイズ、ワタ、ナタネ、テンサイ、アルファルファ、パパイヤ、カボチャ

#16 メキシコ 20万ha ワタ、ダイズ

#11 ボリビア 100万ha ダイズ

#3 アルゼンチン 2,430万ha ダイズ、 トウモロコシ、ワタ

#10 ウルグアイ 160万ha ダイズ、 トウモロコシ

#7 パラグアイ 390万ha ダイズ、トウモロコシ、ワタ

#2 ブラジル 4,220万ha ダイズ、トウモロコシ、ワタ

#9 南アフリカ 270万ha トウモロコシ、ダイズ、ワタ

#6 中国 390万ha ワタ、パパイヤ、ポプラ、トマト、ピーマン

#4 インド 1,1600万ha ワタ

#12 フィリピン 80万ha トウモロコシ

#13 オーストラリア 50万ha ワタ、ナタネ

#15 ミャンマー 30万ha ワタ

#8 パキスタン 290万ha ワタ

#19 スーダン 10万ha ワタ

#22 ポルトガル 5万ha未満 トウモロコシ

#28 バングラディシュ 5万ha未満 ナス

5万ha以上の 遺伝子組換え作物を 栽培する栽培大国(19ヶ国)

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8

日本のトウモロコシの主なの輸入相手先と 国内での利用状況

生産国 輸入量 万トン

シェア %

米国 1,169.0 84.9

ブラジル 95.6 6.9

ウクライナ 86.9 6.3

その他 25.7 1.9

合計 1,377.2 100.0

日本への輸入状況(2014年)

赤字は前年の各生産国でのトウモロコシの全作付面積に対する遺伝子組換えトウモロコシの作付面積比率および遺伝子組換えトウモロコシの推定輸入量。 財務省貿易統計、アメリカ農務省「Acreage」、ISAAA報告書より作成。

(1,052.1)

(77.4)

(1,129.5)

(90%)

(81%)

(82%)

農林水産省 平成25年度食料需給表より作成

日本におけるトウモロコシの 利用状況(2013年)

飼料用

76%

コーンス

ターチ等

その他 1%

28

日本へのダイズの主要な輸入相手先と 国内での利用状況

生産国 輸入量 万トン

シェア %

米国 164.0 63.1

ブラジル 59.0 22.7

カナダ 32.9 12.7

その他 4.0 1.5

合計 259.9 100.0

日本への輸入状況(2014年)

赤字は前年の各生産国でのダイズの全作付面積に対する遺伝子組換えダイズの作付面積比率および遺伝子組換えダイズの推定輸入量。 財務省貿易統計、アメリカ農務省「Acreage」、 ISAAA報告書より作成。

(152.5)

(54.3)

(29.5)

(236.4)

(93%)

(92%)

(90%)

(91%)

日本におけるダイズの 利用状況(2013年)

農林水産省 平成25年度食料需給表より作成

製油用

63%

食品

26%

みそ・ しょうゆ用

5%

飼料・種子用 4%

その他 2%

29

生産国 輸入量 万トン

シェア %

カナダ 199.1

92.3

オーストラリア 16.6 7.7

その他 0.0 0.0

合計 215.7 100.0

日本へのナタネの輸入状況(2014年)

赤字は前年の各生産国でのナタネの全作付面積に対する遺伝子組換えナタネの作付面積比率および遺伝子組換えナタネの推定輸入量。 財務省貿易統計、ISAAA報告書より作成。

日本へのナタネと綿実*の主要な輸入相手先

(191.1)

(1.5)

(192.6)

(96%)

(9%)

(89.3%)

生産国 輸入量 万トン

シェア %

オーストラリア 5.81 57.8

米国 2.58 25.7

ブラジル 1.12 11.1

その他 0.54 5.4

合計 10.05 100.0

日本への綿実の輸入状況(2014年)

赤字は前年の各生産国でのワタの全作付面積に対する遺伝子組換えワタの作付面積比率および遺伝子組換えワタ(綿実)の推定輸入量。 財務省貿易統計、ISAAA報告書より作成。

(5.78)

(2.32)

(0.53)

(8.63)

(99.5%)

(90%)

(47%)

(85.8%)

*綿実とは搾油に供するものであり、繊維製品となる綿は含まれない。

30

遺伝子組換え技術と安全性評価

生物多様性影響評価 (カルタヘナ法)

食品としての安全性 (食品衛生法)

飼料としての安全性 (飼料安全法)

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9

33

遺伝子組換え作物の安全性評価

バイオテクノロジーと社会 (放送大学教材) より

34

遺伝子組換え作物の安全性評価

バイオテクノロジーと社会 (放送大学教材) より

35

遺伝子組換え作物の安全性評価

バイオテクノロジーと社会 (放送大学教材) より

生物多様性影響を考えるうえで

36

○農業生産上、害虫の駆除、病害や雑草の防除は不可欠

○非遺伝子組換え農作物も有機栽培でも環境に何らかの影響を与えている。

○これらの影響と遺伝子組換え農作物を栽培した場合の影響を比較して考える必要がある。

遺伝子組換え農作物固有の問題であるかを考えてください。

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10

厚生労働大臣 食品安全委員会

厚生労働省 内閣府

申請者 官報掲載 国 民

情報提供 意見交換 申請 公表

評価依頼

評価通知 食品健康影響評価

食品としての安全性の確保

食品衛生法

37

遺伝子組換え食品の安全性評価

第4 遺伝子組換え食品(種子植物)の安全性評価の原則と基本的な考え方

遺伝子組換え食品(種子植物)の安全性評価に当たっては、その食品がヒトの健康に及ぼす直接的な有害性の他に、その食品を長期摂取した場合の栄養学的な悪影響も考慮する必要がある。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 遺伝子組換え食品(種子植物)の安全性評価においても、個別の成分の全てに関して、安全性を科学的に評価することは困難である。従って、現時点では、既存の食品との比較において、意図的又は非意図的に新たに加えられ又は失われる形質に関して、安全性評価を行うことが合理的である。

実質的同等性

導入遺伝子の作るタンパク質の安全性評価

39

○既知のタンパク毒性物質や食物アレルゲンと構造相同性がないか?(アミノ酸配列で比較)

○人工胃液・人工腸液や加熱処理で速やかに分解されるか (アミノ酸に分解されれば毒性は示さない)

遺伝子(DNA) → RNA → タンパク質

1)組換え農作物と非組換え農作物の栄養成分、毒素(アレルゲンなど)、抗栄養素を比較

2)導入した遺伝子の産物(タンパク質)の安全性(新た

なアレルゲンとならないかなど)

遺伝子組換え食品の安全性評価

40

非組換えダイズ

組換えダイズ

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11

Okunuki et al.(2002) J. Food Hyg. Soc. Japan 43(2): 68-73より引用、一部修正加筆

導入遺伝子の作るタンパク質の安全性評価 (人工胃液による分解性試験)

反応時間、秒

タンパク質は100℃、5分間煮沸した後、人工胃液とともに37℃

で0~90秒間反応させた。

図中、黒いバンドがタンパク質の存在を示すが、20秒間反応さ

せるとバンドが見えなくなり、 CP4-EPSPSタンパク質が分解され

たことが分かる。

除草剤耐性ダイズで作られる 微生物由来タンパク質(CP4-EPSPS)の分解の様子

安全評価が終了した遺伝子組換え農作物等

・生物多様性影響評価が終了して商業利用が可能な

遺伝子組換え農作物・・・138系統

ダイズ 20系統、トウモロコシ 71系統、ワタ 31系統、

セイヨウナタネ 15系統、アルファルファ 5系統、

テンサイ 1系統、カーネーション 8系統、バラ 2系統、

パパイヤ1系統

・安全性に関する確認を行った

遺伝子組換え食品・・・・・・・304件

遺伝子組換え添加物・・・・・・・19件

・安全性に関する確認を行った

組換えDNA技術応用飼料及び飼料添加物・・・87件

(飼料81件、飼料添加物6件)

(平成28年3月16日現在) 42

遺伝子組換え食品の安全性を考えるうえで

43

○絶対安全な食品はない ○自然は体によいか、自然なものなら良いのか? 答え:

○従来の非遺伝子組換え食品と比べて、遺伝子組換え食品の安全性を評価している。

卵、大豆、蕎麦、小麦、米のアレルギー患者がいる

No 植物は自ら毒素を作ることで身を守っている。

農作物はその毒素を少なくしている

→ 病害虫に弱い

→ 人の手による防除が必要

遺伝子組換え農作物の可能性

・生産性の向上 効率的な除草防除 害虫や病害から植物を守る ・環境保全 不耕起栽培の実現 農薬使用量の削減 環境修復用の作物(カドミニウムの吸収など) ・機能性遺伝子組換え農作物 スギ花粉症緩和米、血圧降下米、栄養価の改変

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12

ビタミンA欠乏の現状

ビタミンA欠乏に

よる公衆衛生の

重要度(1996年)

重度潜伏性

中度潜伏性

軽度潜伏性

制御されている

データ未入手

一人あたりの

摂取カロリーが

2700Kcal以下

欠乏

(FAOのホームページより引用)

ゴールデンライス(ビタミンAの増強)

46

ビタミンA不足の未就学児童は世界で2億5千万人おり、年間約50万人が失明し、免疫不全などで100-200万人が死亡していると報告されている。そこで、コメにビタミンA前駆体のβカロチンを集積

2016年に上市予定?

豪州の大干ばつ

日本向けのコムギ(ASW)は耐病性が低く、栽培しにくい

規格が厳しく、経済的メリットはない

干ばつの被害を最も受けたのは日本向けのコムギ

コムギの品種改良として、遺伝子組換えによる耐乾性の付与が国際的な動向

将来的には、非遺伝子組換えのASWの「讃岐うどん」を食べたいと言っても、豪州の農家は栽培しなくなるかもしれません。

47

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

オーストラリアのコムギ生産量と干ばつ

干ばつ

干ばつ

干ばつ

干ばつ

オーストラリア農業資源経済局「Australian commodity statistics 2009 」、

「Australian crop report no 154」より作成

万トン

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13

不耕起栽培のメリット(土壌流出の防止)

世界で19億haの土壌が影響を受けている

米国:1982年には1ha当たり年間22tの土壌が浸食を受け、

そのうち60%が水食、

アフリカ: 1986年には1ha当たり年間1.8tの土壌が浸食

ヨーロッパ:1年に1haあたり5-10tが流亡

原因:耕起栽培の普及

コムギ、トウモロコシ、

ダイズなど畑作物の利用

49

除草剤耐性作物のメリット

不耕起栽培の普及

安 全 性

高い

低い

普通物

毒物

劇物

300mg

30mg

急性経口毒性(LD50、mg/Kg)

フグ毒 0.0085mg

ニコチン 24mg

カフェイン 172-194mg

食塩 3,000mg

グリホサート 5,000mg~

ビタミンC 12,000mg

ビタミンB2 340mg~

スミチオン(殺虫剤) 1,040mg

アスピリン 400mg

農薬工業界

農薬Q&Aより作図

グルホシネート 2.895mg~

カプサイシン 60-75mg

様々な物質の急性経口毒性

ホスホエノールピルビン酸(PEP) + シキミ酸-3-リン酸

5-エノールピルビルシキミ酸-3-リン酸(EPSP)

芳香族アミノ酸(トリプトファン、フェニルアラニン、チロシン)

5-エノールピルビルシキミ酸-

3-リン酸合成酵素(EPSPS)

グリホサート

× グリホサートに阻害され、芳香族アミノ酸を作れなくなり、作物は枯死

グリホサートの影響を受けないため作物は正常に生育する

植物由来のEPSPS 土壌微生物由来のEPSPS

cp4 epsps mepsps

トウモロコシ由来の

変異型EPSPS

血圧調整米の開発

米の可食部である胚乳に血圧調整ペプチド(ノボキニン)を蓄積させた組換え米を開発した。

先天性高血圧ラットに米を食べさせたところ、血圧を正常値に調整できる機能を有していた。

さらに長期間食べることで、より少ない量で安定的に血圧を調整できた。

毎日の食事

血圧の調整

・ ヒトにおいても炊飯米を毎日1回30g程度を摂取することで、血圧を調整できることが期待できる。

・ 選抜マーカーに配慮し、良食味の系統に導入された血圧調整米の開発が進められている。

-20

-15

-10

-5

0

5

0 2 4 6

通常の米

ノボキニン蓄積米

ノボキニン蓄積米

ノボキニン蓄積米

時間

最高血圧(

mm Hg

1.0 g/kg

0.25 g/kg

0.5 g/kg

1.0 g/kg

(体重あたり

の投与量)

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14

イネの転写因子WRKY45は複合抵抗性を付与する 白葉枯病:細菌病 いもち病:糸状菌(カビ)病

飼料イネの栽培には、複合抵抗性付与による低コスト栽培が期待される

イネは、いもち病や白葉枯病などの病害により収量が低下する

A, B, C・・・・・・・・・

植物活性化剤は、多数の防御遺伝子を発現誘導し、それらの働きの総和により複数の病害に対して抵抗性になる(複合抵抗性)。

O SCH3

S

N

ベンゾチアジアゾール (BTH)

植物活性化剤

(plant activator)

• 植物本来の防御機構の活性化により、複数の病害を防除する

• 30年以上問題なく使われてきた

それらの防御遺伝子を統括的に制御する転写因子WRKY45を同定。 (WRKY45は植物活性化剤の作用のキー因子)

防御遺伝子

WRKY45

防御遺伝子

WRKY45 転写活性化

プロモーター

感染認識

病害抵抗性

サリチル酸

植物本来の防御応答機構

WRKY45

防御遺伝子群

(>273個)

WRKY45高発現イネは、植物活性化剤以上の強い複合抵抗性を示す。

WRKY45

過剰発現イネ

日本晴

(対照)

いもち病抵抗性

WRKY45過剰発現イネ

白葉枯病抵抗性 日本晴

(対照)

緑色蛍光は、オワンクラゲのGFPタンパク質赤色蛍光はサンゴのDsRedタンパク質 ・エサがなくても逃げずに待っている

・野外では自力で生きることができない

・触られても嫌がらない、かまない、 刺さない

・短期間で成長(卵から繭まで約30日で約一万倍に成長)

カイコの特徴と遺伝子組換えカイコの開発

遺伝子組換え技術を用いた応用例

・ 病気などの臨床検査薬に含まれるタンパク質成分

・ 化粧品の素材(ヒト型コラーゲン)

・ 抗体医薬、タンパク質医薬

リソソーム病治療薬など

・シルク素材の医療器具

人工血管、軟骨再生用素材

臨床検査薬の製造などに利用される遺伝子組換えカイコ

は、閉鎖された施設内で飼育。

実用化を目指し開発を進めている例

既に、ヒトの臨床検査薬や化粧品の素材として実用化が始まっているほか、医薬品や

人工血管などの医療用器具に利用するための研究開発も進行中。

カイコは、比較的小さなロットでも飼育できるため、様々な用途に少量多品目なタンパ

ク質を供給可能。

既に実用化が進んでいる例

遺伝子組換え農作物の不安情報

(トリプトファン事件)

ブラジルナッツ

パズタイ

非標的昆虫(オオカバマダラ)がBtトウモロコシの花粉で死んだ

Btタンパク質の安全性

エルマコバ

セラリーニの報告

遺伝子の水平伝搬(微生物→微生物、植物→微生物)

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ブラジルナッツ 2S種子貯蔵タンパク質のアレルゲン性の評価

1.ダイズの栄養分の改変:含硫アミノ酸(メチオニン、システインなど)を上昇させるために、ブラジルナッツ2S種子貯蔵タンパク質(2Sアルブミン)遺伝子を導入

2.少数ながらブラジルナッツにアレルギーを起こすことが報告されている

3.遺伝子供与体にアレルゲン等の問題が知られているときは、その原因を究明することがFDAより求められている

4. ブラジルナッツの2Sアルブミンと組換えダイズで作られる2Sアルブミンのアレルギー患者の抗体への結合能も同程度

→ 2Sアルブミンがアレルゲンと判断され、

組換えダイズの商品化を中止

食品安全性評価が機能した例

エルマコバ

58

ロシア科学アカデミー高次機能・神経行動学研究所所属のイリーナ・エルマコヴァ(Irina

Ermakova)博士は、2005年10月にロシア遺伝子組換えシンポジウムにおいて、『除草

剤耐性遺伝子組換え大豆を食べたラットから生まれたラットの死亡率が高く成長も遅かった』と発表

英国食品基準庁「新規食品と製造工程に関する諮問委員会(ACNFP)」はこの実験について2005年12月に声明を出し、『遺伝子組換え大豆か否か以外にもこのような結果

となった理由は多数想定され、報告の中で多くの重要な情報がない以上、この実験からいかなる結論も引き出すことはできない』

1)普通のラット固形飼料(6匹) 4匹のラットが出産し44匹のラットが生まれ3週間後に3匹死亡。(死亡率6.8%) 2)ラット固形飼料と在来種ダイズの粉末ペースト(3匹) 3匹のラットが出産し33匹のラットが生まれ3週間後に3匹死亡(死亡率9%) 3)ラット固形飼料と遺伝子組換えダイズの粉末ペースト(6匹) 4匹のラットが出産し45匹のラットが生まれ3週間後に25匹死亡(死亡率55.6%)

・遺伝子組換え大豆の細胞遺伝学的研究(東京衛研年報 Ann. Rep. Tokyo Metr.

Res. Lab. P.H., 53, 274-277, 2002)

・経験的な事実と違う結果である場合(組換えダイズでの死亡率が50%ならば、10年間に組換え飼料を食べた家畜の半分が死んで大問題になっているはず)

しかし、オオカバマダラはトウモロコシを食べない

蝶の飛来期とトウモロコシの開花期は異なる

オオカバマダラの幼虫は花粉をさける

Btトウモロコシの栽培が行われて以降、オオカバマダラの数は増えていると、言われている。

オオカバマダラ

トウモロコシで作られているBtタンパク質はチョウ目昆虫の殺虫性を有する

オオカバマダラに無理矢理食べさせれば生育に影響する。

60

市民団体「食のコミュニケーション円卓会議」が主体で作成

共同研究:農業生物資源研究所、筑波大学

1)基本情報の提供

2)ディベート

論点1 流通している遺伝子組換え食品でさえ安全性は十分確かめられていない

論点2 遺伝子組換え農作物の生物多様性影響は、非組換え農作物と同程度であり、問題は生じない

論点3 遺伝子組換え農作物の普及で外資系多国籍企業による種子支配が進む

論点4 現在の遺伝子組換え食品の表示は適切である

みんなさんで考えよう遺伝子組換え農作物

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61 (食品安全モニター課題報告「食品の安全性に関する意識調査等について」(平成24年3月)より作成

11.0

13.7

13.7

7.1

7.7

5.3

3.8

3.0

2.6

38.4

38.4

36.9

27.1

24.7

27.4

23.4

16.8

18.2

36.6

39.4

37.4

45.1

42.0

43.2

46.4

51.4

48.2

12.8

7.2

9.7

19.5

16.5

18.3

23

25.6

26.5

0% 20% 40% 60% 80% 100%

H24

H23

H22

H21

H20

H19

H18

H17

H16

回答率、%

全く不安を感

じない

あまり不安を

感じない

ある程度不安

である

非常に不安で

ある

良く知らない

遺伝子組換え食品に対して 不安を感じる人の経年変化

0

50

100

150

200

250

300

350

キャノーラ油

1350g

非組換え

一番絞りキャノーラ油

1500g

不分別

サラダ油

1.5Kg

不分別

コーンソフト100

マーガリン 450g

非組換え

コーンソフト100

マーガリン 450g

不分別

2003年度実績 2007年度実績

日経バイオ年鑑2009より作成

キャノーラ油

1350g

非組換え

一番搾り

キャノーラ油

1500g

不分別

サラダ

1.5kg

不分別

コーンソフト100

マーガリン

450g

非組換え

コーンソフト100

マーガリン

450g

不分別

不分別表示された食用油の売り上げ

受容度

情報量 少 多

情報量が有効な領域

情報源の信頼性 参加・体験 周囲の影響

欠如モデル

63

<市民参加型展示ほ場>

64

目的:遺伝子組換え農作物の理解促進 除草作業の大変さと、除草剤や遺伝子組換え農作物の必要性を考える 市民参加型の新しいタイプの双方向コミュニケーション

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基本情報の提供とコミュニケーション

• 情報提供のための冊子

• 遺伝子組換え農作物の展示ほ場

(実物を見てもらってから議論する)

• NIASオープンカレッジ (分子生物学に支えられた農業生物資源の利用と将来)

• 見学者の受け入れ

• Twitter

• 遺伝子組換え農作物等の

一般説明会

理解の促進

遺伝子組換え農作物の 双方向コミュニケーション

理解はするけど

やっぱり不安、

食べたくない 共存

一般市民

情報提供

行政、研究機関、

企業 コミュニケーション

自由に論議して疑問・不安を解消し

信頼関係を築く

遺伝子組換え

農作物や食品を

受容

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みんなさんで考えよう遺伝子組換え農作物

遺伝子組換え農作物の可能性は?

環境問題への貢献:土壌流亡の防止や農薬使用料の減少など

機能性作物の開発:スギ花粉症治療イネ、アルツハイマー予防イネ

環境変動への対応:乾燥耐性コムギ、低温耐性作物

遺伝子組換え農作物を利用する上で何が不安?

何を、どうしたら良いでしょうか。

共存 68

ご静聴ありがとうございました。